2018/01/30
↓学園怪奇譚 二
さてさて、三人の晩酌という名の文学議論に付き合うことになった。だから、連絡を入れられても出れないぞ。ちらり、と携帯を気にすれば、尾崎先生が気づいたらしい。携帯が鳴っておるぞ、と告げた彼に断りを入れて携帯を取り出す。携帯の発信者は按司である。父親がちらりとこちらを見る。
「電話か?」
「はい、按司の御曹司から」
「按司と言えばあの政治家か」
森先生の言葉が誰をさすかは知らないが、おそらくは同じ人だろう。もう1度断りを入れて立とうとするけど、聞かれてはいけない内容か?と茶化されたのでやめる。もしもし、と話しかければ、向こうから声が聞こえた。
「お前今何処にいるんだ」
「料亭」
「はぁ?七志の装置が信号受信んしてんだよ」
そう悪態をついた按司に、三人で頑張れといおうとしてやめる。按司に話しかければ料亭!?料亭ってあの!?という七志くんの言葉が聞こえるのと私が窓の外を見るのは同時だった。三人がそれを見るのも。
「タチの悪い怪綺譚はご遠慮したいんだけどなぁ」
どろり、とした形のないモノが窓から現れる。それは徐々に形を作り上げ――酒を追加しにきた女中が悲鳴をあげるのと、私が飾りのついた簪をそれに向かって投げるのは同時だった。奇声を発したソレに露伴先生がこちらをみた。
「ごめんなさい、お父様。でも、とりあえずアレから逃げましょう。アレは良くないものです」
そう声をかける。
「アレは?」
「化け物」
「それはみたらわかる」
「――具体的には、私の両親を襲ったものです」
そういえば露伴先生がハッとしたようにこちらをみた。奇声をあげたそれは周りを溶かすようにドロリと動く。そこには空白しかない。
「アレに飲まれると消えてしまうんです。骨も残さず、失踪したかのように。とんだ化け物譚でしょう?私が時間を稼ぎますから、そこにいる女中さんと一緒に」
そう言って息を吐く。按司に早く来るように言って通話をきる。
「時間を稼ぐたってどうやって」
「なんとかします。前もなんとかしました。あの時のような失敗はしません。私は貴方達を守ります」
「生憎だが、女子供に守られる趣味はない」
そう私をヒョイと抱えた露伴先生は二人を見た。
「逃げるぞ」
「よくわからないが、化け物なのは違いないな」
「……逃げるなら早く逃げた方が良さそうだ」
小さく呟いた森先生に私は露伴先生越しにそちらを見る。ゆっくりと動き出したそれは、刺さった簪を消し去ると触手を伸ばした。とっさに避けた三人はさすがというか。しかし、それは女中に伸びる。
「戦かな、我も出で立つ、花にけり」
そう叫んで銃を撃つ。それはまた悲鳴をあげて標的を私に変えた。それに気づいた三人が駆ける。
「ナマエ、それは何処から取り出した?」
「それに、今の句は」
森先生がこちらを見る。あぁ、やっぱ関わりがあったのか、と思う。
「いや、娘、お前にはアレに抗う術があるのだな」
「ええ」
「俺たちに扱えないものか」
そう告げた露伴先生に、いつかは試さないといけないことだしな、と思う。彼と彼が混ざるのか否かはわからないが。
「森先生、手を」
そう言って森先生に手を伸ばす。彼は手を重ねた。
「されど我が脳裏に一点の彼を憎む心今日までも残れりけり」
その瞬間、桜が舞ってその手にはあの槍にも似た刃が握られる。彼はそれで伸ばされた触手を叩き切った。そして、それはベチャリとインク溜まりになる。化け物は蠢く。
「なるほど」
不意に露伴先生と尾崎先生の足がとまる。そちらを見れば同じような存在である。
「昼顔の秣にましる二三輪」
その言葉と共にまたピアノの音がする。
「ナマエ、そこにいてくれ」
その声の主は矢を放ったらしい。目の前にいた化け物は悲鳴をあげてインクを撒き散らして消える。露伴先生が私を庇ったのでインクはかからなかったが。棋院がもう一度弓矢を構える。微かになるピアノの音。放たれた矢は私達をすり抜けて、化け物に当たった。化け物は呻き声を上げて、しゅわしゅわとなにか蒸発するような音を立てる。棋院が弓から手を離せばピアノの音がこぼれ落ち――弓は消えた。私もそれに習って銃から手を離すといつものように花びらが散って消えた。森先生も静かに手を離す。それは桜の花びらになって消えた。
「ほう、汝らは化け物退治屋でも開業するのか」
尾崎先生がからかうように告げる。棋院が似たようなものですかね、と苦笑いをして私をみた。
「てっきり按司が来るかと思ったんだけど」
「俺の居場所の方がナマエに近かったから、二手に別れたんだよ」
「二手に?」
「あぁ、別のが出たんだ、帝国学園っていう学校に」
そういえば、ピタリと三人が動きを止めた。私も動きを止める。佐藤さん達居残って課題云々と言っていた気がする。
「帝国学園にあの化け物が?」
「ええ」
「大学の方か、高等部の方か」
「高等部とは聞きましたが」
そう言った棋院に少し安心する。森先生が「高等部といえば最近七不思議が騒がれてるな」と告げる。露伴先生が尾崎先生をみる。
「そんなものができたのか」
「やれ肝試しだ、やれ度胸試しだ、と高等部の生徒が騒いでいたが」
「……巻き込まれてないかな」
そう小さくぼやけば、三人が私をみた。
「私がお世話になった三人、巻き込まれてないかな」
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