2019/11/23
↓続き
ほとんど相打ちである。しかしながら、若干メルのラティアスの方が倒れるのが早かったようで勝敗はダンデについた。メルはラティアスをボールにとりあえず入れると、ふぅと息を吐いた。メガシンカまで使って負けたのだから仕方ない。何よりもダイマックスには驚いた。ダンデもまたリザードンをボールに入れる。観客から盛大な歓声や拍手が聞こえた。とりあえずリーグ関係者にポケモンを預けると、ダンデと握手をした。目をキラキラとさせたダンデは太陽のような笑みを浮かべる。
「すごい楽しかったぜ!メル!もう一戦……って言いたいけど、メルはあんまりバトルが好きじゃないんだよな」
そう手を離したダンデに、偶にならいいですよ、とメルは返した。
「でも、こういう場所でなくて、ひっそりとなら助かります」
メルが周りを見ながらそう告げる。カメラが寄ってきて、メルは苦笑いを浮かべて口を開いた。
何はともあれ、これでカルネと約束していた仕事は終わりだ。ポケモンを受け取り、研究所にまっすぐ帰ることにする。ローズとはまたの機会に食事を、という話をまとめた。メルが研究所に戻ればコーヒーをいれたプラターヌが出迎えた。
「おかえり、メルちゃん。残念だったね」
「ダンデさんが強かったので」
「でもあんなのギリギリって感じじゃん!あそこまでいくの、珍しいよ!本当に!」
ソニアの言葉に、ポケモン達が頑張ってくれたから、とメルは答える。メルの腕の中にいるピカチュウが嬉しそうに鳴いた。
「これでようやくカルネさんから頼まれたこともこなせたので、ゆっくりできます」
メルはそう言って息を吐いた。背後の扉が開き、ダンデとホップがやってきた。
「メル、先に行くなら一言言ってくれてもよかっただろう!」
「ダンテさん、マスコミに囲まれてたから……」
メルはプラターヌからコーヒーを受け取る。甘めのカフェオレはメルの好きなものだ。ホップはメルに近づくとキラキラした目でメルをみた。
「メルの姉ちゃん、バトル強いんだな!」
「うーん、でも、苦手なことには変わりないよ」
「あれだけ強いのに苦手なの?」
「苦手には、強いとかはあんまり関係ないとおもうなぁ」
ソニアの言葉にメルはそう答えた。そもそもメルはポケモンが傷つくのをあまりよしとしない節がある。恐らくバトル自体好んでいないのだ。プラターヌはそう思いながらメルをみた。
「メルちゃん、せっかくだし、ダンデくんやソニアちゃんに地方を案内してもらったら?僕もヴィセンテにうまく言っとくよ」
「と、いうことは研究はひと段落ついたんですか?」
「うん。マグノリア博士と話していたら新たな切り口をみつけてね!」
「観光はいいんです?」
「あー……」
「プラターヌ博士なら私が観光地案内したよ。メルがきてない時に」
「博士の裏切りものー!」
ソニアの言葉にメルはポカポカとプラターヌを叩く。
「ごめんごめん」
「ごめんですんだら、ジュンサーさんもハンサムさんもいらないんですよ!」
「うんうん、そうだねぇ」
プラターヌはどうどうとメルを宥めるように告げた。
「でも、メルちゃんだって偶には同い年ぐらいの子と旅したり、ポケモン達と一人でゆっくり旅をしたいだろう?」
プラターヌの言葉にメルは確かに口を噤む。カロス地方の旅は成り行きとはいえ父親と、ホウエン地方の旅はフラダリがいたし、幼い頃旅をしたランセはマゴイチという男性がいた。メルが一人で旅をしたのも、アーシア島に着くまでの間ぐらいではないだろうか。不意に触れてもいないモンスターボールからポケモンが出る。現れたラティアスはメルに向かって鳴いた。プラターヌ達は驚いて見せたが、メルはそれをみて苦笑いした。
「アスはアルトマーレに帰らなきゃ行けないでしょ」
その言葉にラティアスはムッとした。その様子にダンデが口を開く。
「ラティアスはメルと旅したいみたいだぞ」
「だめ。アスには役目があるでしょ。ラティがいないんだから、アスがあの街にいなきゃ」
その言葉に、ラティアスは光に包まれるとーー人の姿に変わる。ベレー帽を被ったメルと同い年にみえるその少女は怒っているのが目に見えた。
「人になった!?」
「カノンさんの姿になってもだめ」
「ラティアスはメルと旅がしたいんだよな?」
ダンデの促しにラティアスは大きく頷いた。メルはラティアスを眺めーー息を吐く。この姉とも言えるポケモンは恐らくは折れないだろう。心配してだとは理解できる。元々、ラティアスとラティオスはメルを兄妹だと思っている節があった。手のかかる末っ子。それはメルが年を重ねても、アルトマーレから出ても、ラティアスだけになっても変わらないのだ。
「カノンさんとボンゴレさんの許可もらって来れたらいいよ」
メルの言葉にラティアスは笑顔を浮かべる。そのまま建物から消えーー空にすごい勢いで消えた。メルはボールから登録が消えたことを確認すると空のボールをまた定位置につけた。
「え、ちょ、いいの!?逃げちゃってない!?」
「ラティアスは私のポケモンじゃなくて、力を貸してくれるポケモンなんです。それにあの子、私がカロスに住む前に住んでた街の守神みたいな子だから」
メルの言葉にソニアが「それって伝説のポケモンってことじゃない!」と口を開いた。それをきいたホップがまた目をキラキラさせた。
「メルの姉ちゃん、ゲットしないのか!?」
「しないつもりではいるよ」
「でも、アイツ、メルと一緒にいたそうだったぜ!」
ダンデの言葉にメルは言葉を詰めた。それはメルだって理解している。でも、あの子は。だから、メルは目を伏せて困ったように笑った。
「うん、知ってるよ。でも、ダメなの」
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あの親子はどうしてカロス地方に引っ越してきたのか。プラターヌはヴィセンテに尋ねたことがあった。何故ならヴィセンテはアルトマーレを気に入っていたことが手紙から伺えたからである。恐らくはこの親友はあの街にいるままカロスには帰ってこないだろう、と思っていた。だから、率直に聞いたのだ。その時の答えはどうだったろうか。プラターヌは困ったように笑ったメルをみてぼんやりと思う。確かーー意見が合わなくなったから、あの街と決別したと言っていた。カロス地方に来た時、この子は何も理解していなかったし、父親の仕事の都合だと思っているようだった。
「ーーあの子が昔から君がいうアスちゃんだろう?アルトマーレにいる」
プラターヌの促しにメルは素直に頷いた。
「はい、私が小さい頃から一緒に遊んでいたポケモンでーー兄妹みたいなポケモンのうちの一匹です」
「そのうちの一匹ってことはもう一匹いたの?」
「フライゴンと、ピカチュウもそうなんですがーーラティアスにはラティオスというお兄さんがいました。だから、その二匹は私のお兄ちゃんとお姉ちゃんの代わりだったんです」
それはプラターヌも知っている。ヴィセンテの手紙に娘であるメルが伝説のポケモンと遊んでいるかもしれないという旨が書かれていたからだ。でも、なら、何故メルが助けを求めた時、ラティアスしか現れないのか。フラダリを止める時、暴走するゼルネアスとイベルタルを沈める時、メルの笛の音にやってきたのはあのラティアスとルギアだ。ラティオスは現れなかった。
「ラティオスは街にいるのかしら」
マグノリア博士の言葉に、メルはそっと首を左右に振った。
「ラティーーラティオスは消えてしまいました」
「え、なんでーー」
「悪い人に悪用されてしまってーー街を守るために消えちゃいました」
「なんだって?」
プラターヌはそれは初耳だった。
「あの街にはラティアスとラティオスが守るという言い伝えがありましたし、そのために古代の人が残した装置だってありました。それが悪用されなければーー心の滴が汚れてしまわなければーーううん、その装置を使わなければ、ラティオスはきっとあの街にいたし、私もあの街にいた」
メルはそう言ってネックレスを触る。小さな滴のようなカケラである。
「昔はわかりませんでした。父親が何日もあの街の偉い人に会いに行って、何かに怒ってあの街を出た。仕事の関係だって聞いていたけど、多分違う。ラティアスとラティオスがあんなことになる装置を古代のものだからと修復しようとした街の人に怒ってた」
プラターヌはメルの言葉がストンと腑に落ちた。だから、あの親友はフラダリを止めるのに、装置に組み込まれた伝説のポケモンを助けるために自棄になっていたのだ。
ーーもう二度と、あんなことを起こさせるか!
そう足掻いたヴィセンテは恐らくその事件を引きずっている。そしてそれはメルもだろう。年を重ねることで、その事件がどういうものであったか理解してきたのだ。
「じゃあ、ラティアスを余計に連れてこなきゃじゃないのか!?また悪いことに利用されたら、メル姉ちゃんのきょうだいが消えちまうんだろ!」
「ーーあの街の人は悪用しないって私は信じてるから。それにね、ホップくん。これはそんな簡単なお話じゃないの。あの街はラティアスとラティオス達が護ってる。それがいなくなってしまったらーー誰もあの街を護れなくなってしまう。その方が大問題でしょう?」
言い聞かせるような言葉だ。それは恐らく、ホップにだけじゃない。自分にも言い聞かせるような言葉だ。ホップは俯いて口を開く。
「でも、ラティアスはメル姉ちゃんが大好きだってすぐ分かったぞ。一緒にいた方が絶対いいに決まってる」
「うん、だから、私も頑張るの。また一緒に暮らせるように。それに案外、一緒に旅してきてもいいよって言われるかもしれないし。そうしたら、ちょっとの間でも一緒に旅ができるから」
メルはそう言ってホップの頭を撫でた。ホップは顔を上げてニカリと笑みを浮かべた。
「……うん、そうだな!きっと、一緒に旅ができるぞ!そうだ、メル姉ちゃんにオススメな場所をリストアップしておくぞ!」
そう言って、一旦帰ってしおり作ってくる!と駆け出したホップをメルは見送った。ソニアがやれやれというふうに「子供なんだから」と告げる。メルは背中を見送って口を開く。
「でも、ホップくんにはあのままでいてほしいかな」
「あのままでいたのがダンデだけどね」
ソニアはそう言ってダンデをみる。メルも同じくダンデをみた。こけるなよー、と声をかけているダンデはその視線に気づきメルをみた。
「じゃあ、メル、たびだつのはラティアスがもどってきてからでいいんだな?」
「もどってくるかはわからないけどね」
「もどってくるだろ」
ダンデはそう断言した。メルはその言葉に、そうだといいな、と空を見る。プラターヌはそれを眺めつつ冷めたエスプレッソに口をつけた。
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「じゃあね、メルちゃん。ヴィセンテ達にはいっておくから。メルちゃんは強いからなんとかなるとは思うけど、怪しい人にはついていっちゃダメだからね」
「もー、プラターヌ博士までそんなこという……」
メルはそう言って不満そうな顔をした。プラターヌは「ホウエン地方の二の舞にならないようにね」だなんて告げた。空港まで見送ろうとしたメルにプラターヌは駅まででいいと断ったのである。
「僕の手伝いについては気にしなくていいよ……いや、ちょっとは気にしてほしいけど」
プラターヌの言葉にメルは苦笑いをした。メルちゃんがいないからって!と少し怒る研究員が想像できたからである。
「でも、ゆっくり旅しておいで」
「はい」
メルの返事を聞いてプラターヌは満足そうに笑う。その瞬間、鳴り響いたベルに慌ててプラターヌは電車に飛び乗った。相変わらず何処かしまらない人である。ピカチュウと手を振って見送れば、空から何かが降ってきたものだからメルとピカチュウは目を瞬いた。メルのリュックサックの上から駆け下りたピカチュウはその何かに近づくとそれをくんくんと嗅いだ。悪いものじゃないと理解したのかピカチュウはその石をメルに見せた。メルはその石を手に取って眺めた。
「流れ星かなぁ」
「おや、お嬢さんは他の地方からきたのかい?」
一部始終をみていたらしい駅員が帽子のつばをあげながらメルに声をかけた。
「それはね、願い星といって、ダイマックスに必要な石なんだ。マグノリア博士の研究所に持っていってごらん」
駅員の促しにメルは頷いて、ありがとうございます、と返答をする。それにしてもどこから来たのだろうか、と空を見上げれば青い空に白線が見えた。それはメルに向かって急降下してくる。まさか、もう一つの願い星!?と声を上げた駅員に、メルは首を左右に振った。それは徐々にスピードを落としてメルの前で止まる。
「カノンさん達の許可は取れたの?」
そう尋ねればラティアスは自信満々に頷いた。何か手紙のようなものをメルに渡して空いているボールを鼻で突く。そうしてラティアスを吸い込んだボールは左右に揺れて、カチリと音を立てた。メルは苦笑いしてそれを持った。駅員はそれをみて少し考える。そうして、何か結論に至ったらしい。
「もしかして、ダンデさんとバトルしてたーー」
「メルー、さっき、こっちに何かがすごい勢いで来たってリザードンが」
ひょこりと顔を覗かせたダンデに、駅員は固まる。メルは駅員にお礼を告げてダンデに並んだ。
「ラティアスが許可を取れたみたい」
「お、じゃあガラルをやっと案内できるな!」
ニカリと笑ったダンデに、ソニアが「アンタだけじゃ迷子になるでしょ!」と息を吐いた。
「でも、メル、それどうしたの?」
「お、もしかして願い星か?」
そう覗き込んだ二人にメルは石を見せる。駅員さんはそうだっていってた、と答えれば「やっぱメルにも降ってきたから」とダンテは笑った。
「よし、ダイマックスを使ってもう一回バトル……」
「それはまた今度……」
「メルはあんまりバトルが好きじゃないって聞いたでしょ!」
「でもこっそりならしてくれるっていってたぜ!」
「ダイマックスに私とポケモンが慣れてからね」
「ピカピ」
ピカチュウはそういって頷いて見せた。
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ウールーが可愛い。メェメェと言いながらついてくる様は非常に可愛い。触ればもふもふとしており、ピカチュウは埋もれたまま出てこないあたり、ふわふわ具合が気に入ったらしい。
「俺も行きたい!」
「まだダメ。まだ10歳にもなってないだろ」
聞こえてきた声にメルはそちらをみた。駄々をこねるホップを宥めるダンデの図である。
「俺もにいちゃんとメル姉ちゃんと行きたい!メル姉ちゃん、いいだろ!」
メルとしては別に構わない(なにしろ、ユリーカに頼まれてカロス地方を縦断したことがある)が、ダンデにとってそうではないのだろう。ダメ、と再度言い聞かせたダンデにメルは口を開く。
「じゃあ、ホップくんが大きくなったらカロス地方を案内するね」
「大きくなったらって、いつ」
これは完璧に拗ねている。メルは「そうだなぁ」と口を開いた。
「バッチを8つ取ったらね」
「おいおい、メル、この地方でそりゃ酷だぜ」
「でもそれだけ強くなったらダンデくんだって、心配じゃないでしょ」
「それもそうだ!」
ニカリと笑ったダンデにメルもニコリと笑っておく。ホップもそれで納得したらしい。じゃあ、ジムチャレンジ頑張る!とリザードんポーズを決めと見せた。ダンデがそれを聞いてメルを見下ろす。
「俺もカロス地方に行ってみたい」
「……ダンデくんはチャンピオン降りてからね。チャンピオンは特に忙しいでしょう?」
「なら当分先かもしれないなぁ……」
ムッとしたダンデにメルは苦笑いした。さすが無敗の男である。
「足元すくわれるよ。どんな人が挑んでくるかわからないし、同じ人でも強くなるかもしれないでしょう?」
「それもそうだな!」
「俺が兄ちゃんを超えるぞ!」
「楽しみにしてるぜ!」
仲がいい兄弟である。メルはそう思いながら二人をみた。ダンデとホップの母親が夕飯の準備ができたと呼ぶ声がする。夕食を一緒にどうかと誘われたのである。ソニアは研究の手伝いがあるから、と研究所に残ったようであるが連絡先は交換できた。いつでも連絡して!とはソニアの言葉である。ダンテ達にならって下の階に降りれば、バーベキューのいい匂いが漂っていた。
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