2019/11/23

コハルスミレトと同じ設定


そもそも、私にも兄弟ともいえる二人にも実の親は別にいる。先生が親代わりになってくれているのは偶々のことだ。偶々、先生が私達を見つけてくれたから私達は彼女(もしくは彼)の元で暮らしているが、そうでなかったら全く違う場所で兄弟ともいえる二人とも関わらずに生きていたに違いない。下手をすればそこで命さえ落としかねなかったのだ、と先生の元に来て理解した。最初、それを理解した瞬間は怖くて堪らなかったのを思い出す。いつあの親が迎えに来るのか、来てしまえば私は。そうして怯える私に対し、先生や兄弟達はいつも私に付き添ってくれたのである。それはカカシさんも何一つ変わらなかった。恐らくは私達が知らないだけで多くの大人がそうだったのかもしれない。かいぐりかいぐりと私の頭を撫でたカカシ先生にそう思ってみる。立場上この里で私達の後見人となっている彼は私から私に問い詰めてきた男性に目を向けた。
「ヤマト、喋りたくないことだってあるでしょ」
そう人を叱った彼に、私に詰め寄ってきていた彼は動きを止めた。そこで彼は私が怯えていることに気づいたらしい。大きな目をこれでもと見開いて「ごめんね」と謝ってみせた。頭の中で兄弟の一人が、ごめんで済んだら警務部はいらん、だなんて言葉を吐いたがそれは黙っておいた。
「いえ……びっくりしましたけど、悪い人じゃないって知ってますし」
「知ってる?」
「先生が貴方の若い頃の写真かざってたので」
そう苦笑いしながら答えれば、彼は動きを止めた。思うにここと向こうでは時間の差がある。先生もマゴイチさんも七代目達と同い年のはずなのに、どうみても先生やマゴイチさん達は七代目達よりも若く見える。そんなことを考える私に対しヤマトと呼ばれた彼は見るからに動揺してみせた。しかしそれも一瞬で目を伏せた彼は緩やかに笑ってみせた。歓喜と悲哀、正反対のものを宿しながら。
「……そう、かぁ」
「あと何か思い違いをされてると思いますが、先生は独身ですよ、今のところ。私は先生が本当の親だったらいいな、とは思いますが、本当の親では……」
「そうだったの!?」
私の発言にカカシさんは目を見開いて私をみた。
「えーと、七代目さまからきいてませんか?」
「ナマエの家族って聞いてたし、同じことするからてっきり親子なのかなって……」
「同じこと?まさか、その子も男に変化して……!」
「あ、先生それしますよね。私は無理です」
キッパリと断れば、彼はなら……とカカシ先生をみる。
「そ、ナマエと一緒の氷遁使いなのよ、この子」
……?先生は他も色々できるはずである。しかし、認識が氷遁使いとは?と思っていれば、ヤマトさんが「あの呪われた」と溢したあたり何かあるらしい。カカシ先生はナマエより制御が下手だけど、と言ったけれどあれは先生がおかしいだけだとマゴイチさんもお隣さんも言っていた。
「って、先代!そんな子に何薄着させてるんですか!」
「えー?だって暑いもんねー?」
「ナマエでも一回部屋凍らせて『やっちゃった★』とか言ってたんですよ!?というか、自分であたり一面を凍らせて全身凍傷とかなってたんですよ!その子が凍傷になったらどうするんですか!」
「え、ナマエ何やってるの?」
「しりませんよ!ナマエが囮にされたから助けに行ったら一面氷の世界だった俺の気持ちがわかります!?術使った本人も一部凍ってたんですよ!?そこで初めて人間が凍る温度知りましたよ!この子が凍っちゃいますよ!」
「あ、多分大丈夫です。私、先生ほど広範囲凍らせたり、温度下げたりできないので、一面氷の世界は無理です。触ってるものを凍らせるくらいしか……」
「しっかり凍るんじゃないか!ナマエから何も言われてないの!?長袖きなさい、とか、手袋つけなさい、とか!」
「特には何も……何かあると先生が治してくれるので……」
私の言葉に男性ーーヤマトさんというらしいーーは私の肩を掴んだ。ずいっと顔を近づけた彼は「ここには、ナマエは、いないんだよ」と怖い顔で告げる。私はひぇっと声を上げてカカシさんの後ろに隠れた。
「でも、カカシさんだって凄いって……」
「ヒムロ、ナマエが大概おかしいから比べちゃダメ。医療忍術は俺は使えないよ」
「忍者がみんなナマエと一緒だと思っちゃダメだよ」
なん、だと……。先生がカカシさんは私より凄い忍者っていうからてっきり先生と同じことができるんだとおもった……。ヤマトさんの迫真の顔に私は頷く。
「な、長袖きます……でも、手袋はまだ扱いが下手だから手袋が凍っちゃうので……」
「うーん、じゃあ、ちょっとずつ練習しよっか。夏だし大丈夫でしょ」
「先代、この子使って涼もうだなんて思ってないですよね?」
「……やだなぁ」
ははは、と笑ったカカシさんにヤマトさんはため息をついて私に合わせて屈んでくれる。思ったよりいい人っぽいな。
「ヤマトっていうんだ。君の先生の……先輩かなぁ」
「えっと、ヒムロです。今ははたけヒムロって名乗ってます」
「……先代?」
そうヤマトさんはカカシさんをみる。カカシさんはやれやれと首を左右に振った。
「ナルトとシカマルの提案だからね、俺は関係ないよ」

==

七代目に呼び出されたのでカカシさんに火影亭に連れて行ってもらうと、そこには兄弟とも言える二人がいた。目をパチパチと瞬いた私に対し、片方は苦笑いをし、もう一人はひらりと手を振った。事態を理解して、ムッと表情をしかめる。
「先生が迎えにきてくれると思ったのに!」
「これだからヒムロは……俺たちは迎えにきたんじゃない」
「えっ」
「忍になりにきた」
そうピンと指を立てた一人ーーツキヒトに、私は動きをとめる。私はツキヒトの言葉をうまく咀嚼できずに、カゲロウをみる。カゲロウは私をみると、ヒムロが無事でよかったよ、と告げる。
「先生がとても心配してたんだ」
「カゲロウ、どういうこと?」
ずいっと顔を近づけてそうつげる。カゲロウは苦笑いしかしない。ツキヒトは「そのままの意味だ」と告げてみせた。カゲロウが眉尻を下げて口を開く。
「忍になれば、先生を手伝えるだろう?だから僕らは忍になりにきたんだ」
「どうやってこっちにきたの!」
「しらん。気付いたらこの里近くにいて、保護された」
そう言ったツキヒトにイライラする。なんで、どうして、そういう感情が膨らめばツキヒトにも伝わったんだろう。
「ヒムロ、先生からも言われただろ、気持ちは言葉にしろ」
「ツキヒトが先生ヅラするな!」
「あのな、俺は先生じゃないんだぞ。お前の癇癪に付き合ってられん。いい歳なんだ感情を自制ぐらいしろ」
「ヒムロ、落ち着いて。ツキヒトも煽るな」
「はいはい、俺が悪うございました」
「私は帰る!先生のとこ、帰る!」
視界がぼやける。ポロポロと涙を流せばカゲロウとツキヒトがため息を吐いた。
「お前にまで忍になれっていってるんじゃない。そのうち先生はどちらにしろくる」
「今は向こうが忙しいから一緒に来れなかっただけなんだ」
「そう、先生は今忙しいんです」
不意に足元から聞こえた声に私は動きをとめる。カゲロウとツキヒトもまた固まった。というか、カカシさん達も周りを見渡した。私はツキヒトの影を見る。しゅるり、とツキヒトの影が先生の姿を作り上げてそれは色を灯す。
「どこかの悪ガキ二人が勝手に家出したので、先生は忙しいんです」
にっこりと笑いながら現れた先生に二人は顔を背けた。私が先生?と首を傾げれば先生は私を見た。
「よかった、ヒムロ、無事で」
「先生ー!」
そう抱きつこうとすれば、スカッと擦り抜けて七代目の足に激突する。痛い。
「ナマエ……?」
「お久しぶりです。皆さん私より年を重ねたようで若干の寂しさがありますね」
そうあたりを見渡した先生は七代目をみた。
「ナルトくん、すいません、無茶言って」
「ナマエのたのみだかんな!いいってばよ!それより、どうなってんだ?」
七代目はそう言って先生に触れようとする。スカッと手が擦り抜ける。
「こちらの術です。影を媒体にするので、実態がないんですよ。この子の影だから出来ることなんですけどね」
「いやいやいや、何普通に会話してんだ……」
「言ったろ?夢であったんだってばよ!」
そうニカリと笑った七代目に先生は「だってばよ」と繰り返す。
「カカシ先生がいるってことは、ヒムロはカカシ先生のところでお世話に?」
「まぁ、ねぇ」
私とカカシさんを見比べた先生は「あげませんよ!」と私に抱きつく素振りをした。
「いくら髪色が似てるからって養子にはあげませんよ!」
「なんだ、残念。ヒムロ優秀で優しい子だからあわよくば思ってたのに……という冗談は置いておいて。ナマエ、今どこにいる?」
「……あの時にこことは違う時空間に飛ばされたとしか言えませんね。マゴイチもいますよ。もう少しでそちらに行く手立てができそうですが、マゴイチも私も今いるところで色々片付けてからじゃないとこちらに戻れそうもないです。なので」
そう言った先生はカカシ先生をみた。
「私が来るまで三人預かっといてください。ナルトくんには伝えましたが、本人達が忍者になりたいというなら私はその意思を尊重します。再三いいますが、私もマゴイチも向こうでコトが落ち着き次第戻ってきます」
「いつ頃来れそうなんだ?」
「半年はかかりそうですね。……まぁ、みんなに比べたら明らかに年を重ねてないように見えるのでちょっとアレですけど。どうやらここと向こうで時間の進みが違うようで」
やれやれと息を吐いた先生はツキヒトとカゲロウをみた。
「途中で辞めたくなったら辞めていいんだからね?」
「辞めないから大丈夫だ、先生」
「はい、きっと立派な忍になってみせます」
「先生は君たちに才能がなかったらよかったのに、と今頃思うよ……」
そういいつつ先生は足元から紙をとりだした。それを七代目に渡す。
「二人ともというか、ヒムロを含め三人とも特殊体質なので一応報告までに」
「あぁ、受け取るってばよ」
「あと、カゲロウはできればヤマトさんに合わせてください。できればでいいので」
首を傾げたカカシさんや七代目、シカマルさんがチラッと紙を見る。そして何かを理解したらしい。カカシさんが「わかった、また言っとくよ」とつげた。先生はありがとうございます、とお礼を告げて手を見た。黒くなりつつあるのを見ると時間切れだろうか。
「では、そろそろ……今更だけど、ナルトくん、火影任命おめでとう」
そう笑った先生は影に溶けるように消えた。私はツキヒトをみる。
「ツキヒト!もう一回、先生!」
「阿呆、先生ができる影技全て俺ができると思うな!アレは無理だ」
キッパリと言ったツキヒトに私は肩を落とす。シカマルさんとカカシ先生が会話をきいて、別の紙をみる。
「氷遁使いに木遁使い、最後に影使いときたか……」
そこまできいて、あぁなるほど、とカカシ先生の言動の意味を考える。そうして行き着いた回答に息を吐いた。
「別にカゲロウがヤマトさんと先生の子供ってわけじゃないですよ!」
私の発言にカゲロウとツキヒトだけでなく、七代目とシカマルさんも首をかしげる。
「ん……?え、は?」
「えっ……えーーー!!」
七代目とシカマルさんの叫びに私は首をかしげる。カカシ先生が口を開いた。
「……あのね、ヒムロ、今更なんだけど、その二人が付き合ってたこと俺ぐらいしかしらないからね?」
俺でさえ知ったのナマエ達がいなくなった随分後だし。
カカシさんの言葉に目を瞬く。マジか。

==

「なんか増えてないですか」
「うん、増えたんだけど、全員ナマエのところの家の子。ナマエがこっちに戻ってくるまで預かってんの」
そう言ったカカシさんにヤマトさんは動きをとめる。そうして言葉を咀嚼し終えた彼はハッとしたように「え?」とカカシさんをみた。
「だから、ナマエとマゴイチがこっちに戻る手段はあるけど別の方もややこしいことになってるみたいでそれまで預かってるの」
「えっ、……えっ!?は!?ナマエが戻ってくるんですか!」
「うん、みたいだよ」
「いつ!?」
「向こうが落ち着き次第」
どうどうとカカシさんはヤマトさんを落ち着かせる。カゲロウとツキヒトが庭から顔を出した。うわ、なんかカゲマルにそっくりなのが二人いる、と告げた彼にカカシさんが二人をみた。
「そういやそっくりだけど、息子ってわけじゃないらしいよ」


==話が飛んでナマエが来た後


待ってたんだ。そう告げた彼に私はなんとも言えなくなる。縁側で困ったように彼は記憶より歳を重ねている。
「待たないでおこうとも思ったんだけどね、キミ、いつか、ふらっと帰ってきそうだったから」
私のお墓もある。マゴイチの名がついたお墓もある。時間がたって、いくら待っても帰ってこないから私の後輩の暗部が作ったのだと彼は言った。
ーーだってキミはそこにいない。亡骸があるわけじゃない。だからキミは死んでないと思った。
そういう彼は知っているはずである。下手をすれば何百の忍がそういうものだ。死骸もない状態で墓だけがある。墓があればいい方で、慰霊碑に名を刻むだけの人もいる。死んだという証拠はない。でも、生きているという証拠もない。それなのに、彼は私を待っていた。でも、おそらくは逆ならそうであるし、彼が連れ去られたと聞いた瞬間、私の頭の中がぐちゃぐちゃになったのも覚えている。
ーーすなわち、私と彼はその時点からあっていない。捕まってしまっても彼は生きていると思った。生き抜くだろうと思った。だから、異世界に飛び込む時にナルトくんに伝言を頼んでしまった。さようならも言えないままお別れだなんて嫌だったから。でも結果として私はきっと彼を苦しめたのだろう。私は何も言えずに足元を見た。
「ヤマトさんは優しすぎますよ」
「ボクが?」
「そうです、昔から」
子供のように足をプラプラとさせる。
「他に言い寄ってきた人もいるでしょうに」
「まぁね」
彼は肯定した。ならば、その人と一緒にならなかったのか。どうして。私が尋ねる前に彼は平然と「でも、キミが帰る場所がいるだろう?」と告げた。
「君が転がるように住み着いたあの日から、僕はここに帰らなければいけないと思うようになった。キミがボクの帰る場所だった。だから、ボクもそうであろうと思っただけだよ」
いわゆるボクのエゴってやつさ。彼はそう言うものだから、私は彼を見上げる。彼は眉尻を下げて私を見下ろした。
「ま、蓋を開けてみればどういうわけか君はあんまり歳を取ってないしーーボクとはひと回りくらいは歳が開いてしまったんだけど。今と昔となんら変わらない、なんて言ってしまえば……それこそ君にとっては迷惑だろう?」
なんてことを言うのだこの人は。変なところで自信がないのだから。答えない私に彼は言葉を続ける。
「だからーー」
グイッと彼を引き寄せて顔を近づける。そのまま口付けをして彼の言葉を飲み込む。顔を離して至近距離で見つめれば、彼は顔を真っ赤にして目を逸らして見せた。ふむ、歳を重ねて表情が出やすくなったらしい。私は眉間にシワを寄せて口を開く。
「次にそんなことを言ったら襲いますよ」
「馬鹿なこと言わないでくれ……」
そうぼやいた彼に私はそのまま押し倒す。うわっ、と声を上げた彼の頬に手をやって真っ直ぐに彼を見つめる。
「馬鹿なことかどうか、試してみます?」
そっと心臓あたりに手を置く。彼は大きくため息をついて天井を仰いだ。そのまま腕で顔を隠す。
「……わかった、君の気持ちが変わらないのはわかったよ。……でも、本当にボクなんかでいいのかい?」
「ヤマトさんだからいいんです。それに、忘れてませんか」
「……何を?」
「私だって、貴方のそばにいたかったんですよ」
そう彼から離れて笑みを浮かべる。彼はそれに目を見開いて、息を吐いた。やれやれと言いながら起き上がった彼は頬杖をつく。
「本当にいいんだね」
「くどいです。逆に何を心配してるんですか」
「ーー老いらくの恋は激しいっていうだろ」
それは、きっと、脅しではない。




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