2019/12/05
あの子ガラルの続き⒉
「この地方の人は本当にポケモンで空を飛ばないんだ……」
メルはそう言ってやってきたタクシーをみた。大きなアーマーガアと数人乗りの籠。アーマーガアには騎手のように男性がのっていた。キバナがメルをみた。
「逆にカロスは各自ポケモンで空飛んでんのかよ」
「飛べる人はね。ホウエン地方も結構そんな感じだったよ」
「さっきのやつで飛ぶのか?」
「普段、ラティは私のそばにいないから、フライゴンが多いかなぁ」
「フライゴン持ってんのか!」
「うん。昔から一緒にいるの」
そんな会話をしながら籠に乗り込む。大きく羽ばたいたアーマーガアにメル達が乗る籠が宙に浮いた。森の木々の間をぬけ、夕闇に包まれた空に出る。アオガラス達の群れがオレンジ色の太陽に向かっていく。しかし、その奥に何かが見え、メルはジッとそちらをみた。
「メル?どうした?」
「あそこ、何かがあるから、何かなって」
メルの言葉にダンデが同じ方向をみる。そして、「確かに何かあるな」と小さく告げた。
「えっ?どれ?」
「どこだ?」
そうソニアとキバナもメルの後ろからそちらをみる。騎手も何かに気づいた。
「あれはアーマーガアのタクシーだね。同じ場所で止まってはいるけど」
「でも様子がおかしい。同じ場所で止まってる」
「確かにおかしいな……近づいてみるか」
騎手はアーマーガアに指示をだし、そちらに向かう。そうして徐々に近づいてなんとなく全景が見えた。籠から人が落ちかけているのだ。何がどうなったのかはわからないが、恐らくはそういうことだ。
「ありゃあ大変だ!」
そう叫んだ騎手にダンデはメルをみた。メルは頷いて一つボールを取り出すと宙に投げる。現れたフライゴンにメルは飛び乗るとフライゴンはそのまま一直線に籠に向かう。落ちそうになっていたのは少女である。親が必死に腕を掴んで落とさまいとしているのが見えた。そのまま子供の近くに近づけば、ひこうタイプのポケモンがメルに突っ込んでくるのがわかる。ひらりとフライゴンはその攻撃をよけたが、このままでは戦うのは難しいだろう。しかし、親の方がもたなかったらしい。離された手に、子供は落下していく。それをみたメルはボールからラティアスをとりだす。ラティアスは不機嫌そうにメルをみたが、何かを理解したらしい。ひらりひらりと攻撃を交わしたフライゴンの代わりに子供の下に潜り込むと、そのまま背中で子供をキャッチした。ひこうタイプのポケモンはまだ子供にご執心らしい。ラティアスを集中的に狙っている。
「リザードン、蹴散らせ!」
「フライゴンもだ!」
そんな声にリザードンの炎とフライゴンの攻撃が野生ポケモンを襲った。リザードンは野生ポケモンを蹴散らすように炎を撒き散らす。散り散りに逃げたポケモン達にホッとメルは息を吐いてからフライゴンとリザードンをみた。その後ろにはダンデとキバナがいる。
「ありがとう、助かりました」
「お前意外と度胸あるというか、やんちゃだよな」
「でも、メルが飛んでいってくれて助かった」
そうホッとしたようなダンデの声に、メルは首を傾げた。もしかして、アイコンタクトを別の意味として捉えられたのだろうか。実はそうで、ダンデはメルのアイコンタクトを「なんとかして」という意味で捉えた。だというのに、メルがフライゴンに乗って飛んでいくものだから本当に焦ったのだ。それをメルに言うわけではないが。
ラティアスが子供を乗せて遊ぶように空を飛んでいる。メルが「ラティ」と呼べば、ラティアスはフライゴンと同じ高さまで高度を落とした。泣きそうだった顔から一転、ニコニコと笑っている子供は大丈夫そうである。メル達が乗っていたタクシーの騎手が子供を乗せていたタクシーの騎手に着陸することを促せば、緩やかにタクシーは高度を落としていく。それに従ってメル達も高度を落とした。
平謝りする両親と騎手に、メル達は気にすることはないと首を左右に振った。子供を乗せたラティアスは遊ぶようにふらふらと揺れている。
「でもなんであんなことに?」
ソニアがそう両親に尋ねれば、両親は困った顔をした。どうやらアーマーガアのタクシーに乗る前までは一緒に戯れていたらしい。
「それがタクシーに乗った途端ああなって……」
「あの付近のポケモン達はまだ温厚なはずだけどな」
ダンデはそう言って首を傾げる。キバナも頭をかいた。
「悪戯したわけでもなさそうだしな」
「あの子が連れさらわれるとおもっちゃったのかな」
メルは子供とラティアスをみた。あぁ、と納得したダンデとキバナにソニアは驚いたように口に手を当てる。
「えっ、あの子がこの人達にってこと?」
「それだけ仲が良くなってたってことだろ」
その言葉に、両親は納得したようだった。ということは何か納得するようなことがあるんだろう。ダンデは子供を見ながら口を開く。
「将来が楽しみだな!」
「おいおい、お前に挑めるとは限らないぜ。オレさまでジムチャレンジ諦めてるかもしれないしな」
「またそんなこと言って……何処かに行くつもりだったんですよね?」
「えぇ、ハロンタウンへ引っ越すんです」
ソニアの言葉に母親がそう告げる。ハロンタウン!と声を上げたダンデとソニアに、両親は目を瞬いた。
「見たところホップと同い年ぐらいじゃない?」
「あぁ、オレもハロンタウン出身なんです!」
ダンデの言葉にキバナとソニアが「そんなことこの地方じゃ有名でしょ」と告げる。そこで初めて両親とアーマーガアの騎手はダンデがチャンピオンのダンデであることに気づいたらしい。トレードマークのマントもユニフォームも身につけていないからだろう。えっ、チャンピオン!?と声を上げた。
「マサル、チャンピオンだよ!」
父親がそう呼びかける。マサルと呼ばれた子供とラティアスは首を傾げた。がっくし、と肩を落とした父親に母親や周りはクスクスと笑った。チャンピオンより目の前のポケモンだ。母親が父親の肩をたたき、そろそろ新居に向かいましょう、と告げる。それを聞いてメルはラティアスをみた。
「ラティ、そろそろその子をお家に帰してあげないと」
メルが促せば、ラティアスは素直に両親のそばにいくとその子が降りられる高さーー地面のスレスレまで高度を落とした。子供はラティアスの背から降りる。バイバイ、と手を振った子供に、ラティアスもまたこたえるように鳴いた。もう大丈夫だろうとアーマーガアの騎手もまたアーマーガアに乗り、また三人も籠に乗る。アーマーガアが大きく羽ばたいてーー空に舞い上がった。
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ぱから、ぱかぱから。少し違うリズムで駆けるポニータが楽しそうにメルの後ろをついていく。ぱから、ぱかぱから、ぱから、ぱかぱから。その音を聞いて、ダンデ達とジョーイはポニータの足を見た。
「そのポニータ、やっぱり足を引きずってるな」
ダンデはそう言ってメルをみる。ジョーイもまた頷いて見せた。
「しかし、外傷がないのをみるとおそらくは生まれつきでしょう」
「生活には支障はありませんか?」
「はい。しかし、バトルにはあまり向かないかと」
「そこは特に気にしていないのでいいです」
メルはそう首を左右に振って屈むとポニータを撫でた。
「この子がオーロンゲ達の群れにいたのはそういう理由かもしれませんね」
「ギャロップと一緒ではなかったんですか」
「はい」
「では、もしかすると癖のようなものかもしれません」
ジョーイはそうにっこりと笑った。癖?と首を傾げた四人に、ジョーイは頷いた。
「はい、周りに同じ種族のポケモンがいなければそのポケモンの動きが稀に変わることがあると書籍で読んだことがあります」
「なら、ポニータもう一匹捕まえるか?」
ジョーイの言葉にキバナがそうメルに尋ねる。メルは悩むように「うーん」と声を上げた。
「ギャロップが面倒見てはくれると思うんだけど……ここじゃ離せないからなぁ」
「明日はワイルドエリアに行くのはどうだ?」
ダンデがそう言いながらメルを見下ろした。
「ワイルドエリア……ガラル地方の真ん中に広がってる場所だよね」
「あぁ、あそこなら広いし、ギャロップが走っても大丈夫だと思うぞ」
「まぁ、野生のポケモンがたんまり出るけどな。天候によって現れるポケモンが違うし……お、明日の予報は晴れだ」
「素敵な場所だね。ずっといたくなっちゃいそう」
「メル、道端のポケモンみたいな感じじゃなくて、強いポケモンも結構現れるんだよ?」
「ポニータとベロバーが大丈夫かな……」
そっちの心配かぁ。ソニアはそう肩を落とした。
「自分の心配はしなくていいの?キテルグマとかがうろちょろしてるんだよ?」
キテルグマ?そう首を傾げたメルにキテルグマがどんなものなのかをソニアが図鑑を見せながら説明する。可愛いけど凶暴なパターンかぁ、とメルは呟いた。
「でも今までもなんとかなったから私は大丈夫。結構お父さんとの調査で変な遺跡にいったり、プラターヌ博士と森に入ったりしたから」
「そうだった、メルもチャンピオンだった」
そう頭を抱えたソニアに「元がつくけどね」とメルは苦笑いする。話に飽きたポニータが構えとメルの靴をカリカリと蹄で引っ掻いた。
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