2020/01/08
年末年始没ネタ祭1 忍者が審神者
「おめでとうございます」
あぁ、死ぬのだ。そう意識がぷつんと、途切れる前である。聞こえてきた声の方を見れば奇妙な狐が一匹鎮座していた。
「貴方は審神者に選ばれたのです」
目の前にいる様々な年頃の五人は場所はどうであれ同じような道筋を辿って、また、死んだはずの人間なのだという。人ではない刀剣達を引き連れている彼らは審神者と呼ばれる存在に選ばれたらしい。そんな彼らを眺める私もまた審神者とやらに選ばれたのであるが、どうも他人をおろしてまで戦うより私が戦った方が圧倒的に早い気がするため刀は下ろしていない。同じようなことが起きた人間とは聞いたが決して彼らは戦えるわけではないのだろう。
というかそもそも、私は顔を隠しているが他の五人は隠していない。年上の男性、同い年ぐらいの女性、と、三人の少年少女というのが五人の内訳である。一切私が喋らないが上、常に影丸ルックでいるために仮面をつけた謎の青年という立ち位置である。名を名乗るタイミングを逃していれば、面から狛犬殿という渾名が付いていた。今日も今日とて三人の少年少女と打刀以下の刀剣によるあの手この手の画面外し大会から逃れつつ朝餉をいただく。たまに作りにいけば驚かれるのだが、まぁ、そりゃあこんな風ななりをしていればそうなるのだろう。
「こまいぬ!きょうこそはそのかおを!わー!!」
降ってきた今剣をキャッチして庭にリリースする。くるんとまわって着地した彼は、楽しかったのかもう一度!とかけてきたのでまたキャッチアンドリリースしておいた。うむ、平和である。出陣時以外は。
流石にその時代に合わせた服装に着替えて出陣して帰ってこれば、へべれけが酒を飲む手をとめた。なんだ?と首を傾げれば、男性が「いやいやいや」と頭を振った。
「狛犬、なんでゲートから帰ってきてんだお前」
その言葉に首を傾げてゲートをみる。そうして何か不具合でもあるのだろうか、と首を傾げて見た。とりあえずとってきた刀を一緒に飲んでいたらしい陸奥守と日本号達に渡す。ひらりと手を振って、こんのすけがつけてくれた自室の風呂場に向かう。まぁ、部屋に誰か潜んでいたので仮面に手をかけーー外すと見せかけて外さずにお風呂に入ったけどな。そのまま部屋から短刀組を追い出し、寝る。律儀に寝るときは狙ってこないあたりいい子である。
まぁ、問題は次の日だ。
「狛犬!!」
そう呼び止められたが上に振り返る。がしり、と私を掴んだ男性ーー白樺は私を上から下までみた。そっちの毛があるのか、と思っていれば、少年に「おっさんそーいう趣味なの?」と言われて離れたけど。
「違う!狛犬、お前、なんで任務達成してんだ、刀剣男士どこにいるんだとか思ったたんだが、お前、自分で出陣してるのか!?たまにいなくなるし!」
苦笑いである。まぁまぁ落ち着けよとジェスチャーすれば、そんな問題じゃない!と怒られた。笑うしかない。
「つーか、なんでポンポン難易度高い場所が開封されてると思えば……お前か!」
ビシッと指差してきた白樺さんに私は腕を組んで首をかしげる。いや、それは、うん、こんのすけが私の行動に次から次と難易度高い場所あけてくるのだ。
「白樺様、狛犬様におかれましては特例の特例、自らの出陣を許された存在でございますが故。私めもよくわかりませぬが……高難易度に関しましてはあまりにも狛犬様が素知らぬ顔で帰ってきますが故に、つい、あけてしまいまして」
「お前が犯人か!」
こんのすけをグリグリしている白樺さんに私はクスクス笑っておく。じゃあ朝餉があるし、という風に手を振れば彼は「まだ話は終わってないぞ!」と追いかけてくる。
「怪我はないのか?」
「ありませんよう」
「というか大丈夫なのかそれで」
その問いかけには彼の頭をぽんぽんと撫でて笑っておく。大丈夫である。しかしながら、心配させておいてこれはないか、と耳元に口を寄せて「心配ありがとう、僕は大丈夫です」と言えば距離を取られた。なんだ。耳を押さえて真っ赤な顔で私をみてくる彼である。とりあえずほっとくか、とひらりと手を振って朝餉に向かう。追ってきたこんのすけが「狛犬様は罪な男でございますねぇ」と謎の発言をしたのだが、なんだ。
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カカシ先生の気持ちがわかる気がする。少年少女は脇差と短刀を巻き込んで私の素顔を見ようと画作中である。ちなみに今まで加わったりしていた白樺さんは静観モードだ。顔が不細工だったら夢が壊れる、そうだ。あと、もう一人、同い年ぐらいの女の子ーー小雨ちゃんは気になっているようだが表立ってはとりにこない。気になってはいるようであるが。この前面の下に面をつけていたらあからさまにがっかりされた。
「うー、狛犬さんが仕事できる人で助かった」
そうため息をついた小雨ちゃんに私は首を左右に振っておく。白樺さんが「謙遜だよな」とクマを作らせて告げた。私の分はとっくの昔に終わっているので私は少年少女の戦いの記録をみながら彼らの初期刀と一緒に彼らの報告書を作っている。少年少女は夜も遅いので寝させた。ふむ、ここは喋った方が吉か。
「少年少女はともかく、白樺さんも小雨ちゃんもその日に定期分を終わらせればこんな事にはならないかと思いますが」
「うぇっ!?狛犬さんが喋った!!」
バッとこちらをみた彼らに、「今は喋る必要があるので」と告げておく。普段は必要がないから喋らないのかい?と首を傾げた歌仙に、「無口がいつのまにか定着したので」と返しておいた。
「狛犬ってさ、面はどうしてつけてるの?」
「醜いから、と言えばどうします?」
そう口元に笑みを浮かべて首を傾げる。やめろ夢が壊れる、とは白樺さんの言葉だ。
「まぁ冗談です。政府につけるように推奨されたので。逆に僕はみなさん晒されていたので驚きました」
出来上がったものを整える。ふーむ、今回はこれで仕方がないが、次からは考えた方が良さそうである。これでは初期刀と私の報告書である。日記みたいなものをつけさせるか。少年少女の初期刀に向き直り、口を開く。
「今回はいいとしても、このままだと僕と君たちの報告書になってしまうから日記でもつけさせて見たらどうだろう」
「日記?」
「今日自分の部隊はどこに出陣したか、どういう戦績で何を手に入れたのか。それを報告書にできないものだろうか」
そう考えを述べれば、蜂須賀が考える。
「そうだね、それが報告書になるのならこういうことはしなくてもよくなるわけだ」
「まぁ、月の統計は必要だろうけどね。まぁ、簡単な手習いついでさ。審神者だから勉強丸投げ、というわけにもいかないだろう?」
「まぁ、そうだわな。俺もあいつらが遊びっぱなしってのはよくねぇと思うし、どうするか考えてた。それなりに読み書きそろばんとかができねぇと独立した時に困る」
ガシガシと頭をかいた白樺さんに、小雨ちゃんが「まともだ、まともな大人だ」と呟いていた。
「子供が勉強を受けさせるのはある意味大人の義務だかんな。ちゃんとうけるかどうかは別として。教材適当に漁るか……」
「先に日記を習慣づけた方がいい。そっちが優先だ。なんなら夕食前の三十分とか時間をきめて机に向かわせる練習をさせた方がいいと僕は思うよ。やりにくいなら短刀にも日記の真似事を頼めばいいんじゃないかな」
「周りがやったらあいつらも流石にやるか」
「でも、一つ問題があって」
「問題?」
「僕らは今彼彼女らが文字をかける前提で言っているけれど、そこは大丈夫かい?」
そう首を傾げる。いやまさかな、と白樺さんと小雨ちゃんは笑っていたが、そう笑っていられないのが現実である。
白樺さんが疲れた顔をしている。どうかしたのか、と笛を吹くのをやめて見下ろせば、「お前の言葉通りだよ、全く」と息を吐いた。三人のうち一人はなんなくひらがなカタカナ漢字を交えた日記をこなし、もう一人はつたないひらがなとカタカナで文字を書いた。しかし、もう一人が一向に書こうとしないため尋ねれば書けないと判明したらしい。どの子だい?と聞けば癇癪を起こしやすい子供と答えられた。あぁ、やっぱりあの子だったか、とぼんやり考えていれば白樺さんは私が座っている木の幹に寄り掛かった。
「お前わかってたろ」
「所作が違ったからね。恐らくあんまりいい環境にいなかったんだろう。子供は与えられた環境でしか知らないから。根気よく付き合うしかない」
「とは言うけどなぁ」
ガシガシと頭をかいた彼は元は教育者だったのだろうか。やけに短刀相手でも面倒見がいい。
「あー!!狛犬ー!!今日こそは顔見せてもらうかんなーー!」
そう私を見つけて叫んだ子供に私は笑っておく。これぐらい勉強をがんばってくれりゃあな、とぼやいた彼に「構ってもらえて嬉しいんだよ」と答えておいたけども。
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溺れかけた子供を引っ張り上げる。落ち着かせるように抱き上げて後ろからぽんぽんと撫でてやれば安心したのかわんわんと泣いた。そのまま子供を助けるために飛び込んだらしい刀剣の手を引っ張り水の上を歩いて岸に戻る。慌てたように駆け寄ってきた他の刀剣達からタオルを受け取り被せておく。しばらくすれば落ち着くだろう。
「なにがあったんだい?」
「……てれびで人が水の上を歩いていたのをみて、真似をしようとしたらしい」
「あぁ、僕が原因でなくてよかったよ」
早朝とか誰もいないタイミングで崖登ったり水の上歩いたりショートカットしてるから、見られたのかと思ったが違ったらしい。
「な、な、なんで歩けてるんだ!」
そう少年がピッと私に指をさす。君たちにはまだ早い、と頭をぽんぽんと撫でた。
「まだ早いってことは、できるようになるのか!?」
「あまり体裁がよくないからできるようにならない方がいい」
「ていさい?」
「周りの人の評価」
まだぐずっている子供の背中を相変わらずあやすようにぽんぽんと優しく叩く。先にお風呂に入っておいで、と助けに入った初期刀に渡そうとすれば嫌々と首を振られてしまった。
「なら僕とお風呂に入るかい?」
冗談のつもりでいったのに肯定されてしまった。まぁ、いいけど。普段入らない大きなお風呂は気持ちよかったとだけ。あと山姥切にガン見されたけど、なんだったんだ。
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何故か他所の本丸の刀や審神者に懐かれた気がする。白樺さん達に付き添って演練に行けば私の姿を知る人が「あっ」と声を上げた。ちらほらと面で顔を隠している人はいるが、動物の面は少ないようだ。ちらりと私の被る面をみて知らない他人が何やらコソコソと喋るのを聞けば恐らくはあまり良い物ではないのだろう。それでも鬼の面を被った他人よりは良いのだろうが。こまいぬどの、と平仮名が混じったようなゆったりとした言葉を吐いてかけよっては他の本丸にいてこちらの本丸にはいない刀剣である。
「これはこれは、小豆殿。奇遇ですね」
「めずらしい、あなたはあまりこういうばしょにこないのかと」
「ええ、本日は同本丸の審神者達の付き添いで」
そう口元に笑みを浮かべる。貴方は演習で?と尋ねれば笑顔で頷かれた。白樺さんが隣に並んで首を傾げた。
「狛犬の知り合いか?」
「まぁね。買い物をしていたらよく会う」
「あっ、狛犬と柊さんとこの小豆さんじゃんー、また新しい魚入ったからみに来るといいよー!」
すれ違いざまに手を振った魚屋の刀剣に「ありがとうございます」と告げておく。それをみて「あぁ、買い物仲間ね」と白樺さんは納得したようだった。まぁ、回り回ってそうなったんだからいいだろう。
「あ、小豆、面付きと知り合いなん?」
恐る恐るという風に尋ねた小雨ちゃんと変わらないくらいの審神者に、小豆さんは頷いた。真っ青な顔だ。その近くの刀剣達には警戒されているが。
「あるじ、このまえはなしただろう?狛犬殿にはたすけてもらったんだ。ほかのひととはすこしちがうよ」
そう紹介した彼に、審神者さんと刀剣は目を白黒させている。ふむ、やはり面付きは何かの証らしい。白樺さんが「面付きって何かあんのか」と堂々ときいた。
「罪人の証かな?」
冗談半分でそう告げる。審神者の近くにいた短刀が口を開く。
「噂じゃそれもいるって話だけど、もっぱら戦闘系の審神者が面をつけてるって言われてるぜ」
「戦闘系?」
「無謀な自分で出陣するやつだよ。有名なのはあの奥にいる酉の面を被った奴」
そう言った彼の視線を私達もたどる。見たことあるというか、知り合いだ。背格好からして十中八九は。お互い行方不明説が流れやすいし、命の瀬戸際にいるのだから同じようにきたのかもしれない。
「あれは烏だよ。しかも足がないからわからないけど八咫の使いだ。仲良くしておいたらいいと思うよ」
「はぁ?」
そう訝し気にこちらをみたのは白樺さんである。他の刀剣も首を傾げた。審神者さんも顔を真っ青にして首を左右に振る。
「は?無理無理無理!!アイツ噂じゃ単独で厚樫山行った奴とか言われてんねんで!おにいさんみたいな優男ちゃうで!」
「……もしかして、こまいぬどののしりああいかい?」
そう尋ねた小豆さんに、多分ね、という。声をかけてみようか、と言いつつ、「おーい、八咫」と手を大きく振れば、振り返った彼は私を見つけて動きを止めた。えっえっ、とパニックになる審神者さん達をよそに、白樺さん達は首をかしげる。こちらにゆっくりと歩いてきた彼を避けるように審神者や刀剣が動く。ちょっと足を早く進めーー最後には走り出した彼はホップ、ステップ、と踏み出すとドロップキックを繰り出したのでそのまま審神者さんや短刀を掴んで避けた。ズサっと床を滑った彼はそのままこちらに攻撃してくるためひらひらよける。渾身のパンチを手で受け止めればいい音がした。
「久しぶりだね、八咫と呼べばいいかな」
「……それはそれでちょっと烏滸がましいんだよな」
「じゃあ烏かい?僕のことは狛犬とでも呼んでくれ」
「お前もお前でなんか烏滸がましい名前なのってんな」
「それは名付け親に言ってほしいね」
そう離れた手に私も手を離す。久しぶりだな、と声をかけた彼に久しぶりだね、と笑みを浮かべた。なんか白樺さんと小雨ちゃんが口元を押さえている。なんだ。完璧に巻き込まれている審神者さんは私と彼を見合わせる。
「まぁ、お前は来るだろうとは思ったけどよ」
「僕も君も使い勝手がいいんだろう」
「まーそりゃあそうだな。関西弁の坊主、悪いな巻き込んじまって」
そうチラッと審神者さんをみた八咫ーー孫市に、彼はブンブンと首を左右に振った。不意に人混みをかき分けて、師匠ー!と子供の声がする。やってきた少年はぽこぽこと怒ったように孫市を叩く。
「師匠!人に迷惑をかけちゃダメじゃないですか!急にキックするなんて!」
「かけてねぇよ。昔馴染みに挨拶してんだ」
「昔馴染み?」
「安心していいよ、お兄さんは彼と昔からの知り合いだから。八咫が世話になってるね」
そう彼の目線に合わせて告げる。子供はキョトンとしたようにこちらをみた。
「馬鹿野郎、俺が世話してんだ」
「そうかい?きみ、昔も弟子によく世話になってたろ」
立ち上がりながらそう告げる。覚えてねぇなと言っているが、私はしっかり覚えてるんだぞ。
「そろそろ行くぞ、坊。演練は終わったんだろ」
「でも、師匠、いいの?」
「コイツとは腐れ縁だかんな、また会える。次は酒でも呑もうぜ」
「あぁ、またね」
ニコリと笑って手を振る。ぺこりと頭を下げた子供をつれて孫市はそのまま進む。その際耳元で「鬼の面の奴らには気を付けろよ」とだけ忠告された。ふーむ、こんのすけにまた聞いておこう。
「ひええ、あんなキャラやったんか、あの人」
「とっつきやすいだろう?」
「お兄さんの方がとっつきやすいわ」
「でも僕より彼の方が常識人じゃないかな?」
そう首を傾げれば、ひえっ、と審神者さんは体を跳ねさせた。
「冗談だよ」
半分くらいは、という言葉を飲み込んで手をひらひらさせておいた。ちなみにその後審神者さんとその刀剣は丁寧に演練のやり方を教えてくれた。刀剣同士なら私いらない気がするぞ。
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ふむ。どうやら戦闘系=仮面という定義は間違っていないらしい。ただ、それには種類があり、干支の面、鬼の面、その他で変わるらしい。ふむ。孫市と私は酉と狗なのだから干支に属することになる。
「干支の面を被るものは政府に選ばれた人間です。狛犬様はそのうちの狗にあたります。狛犬様が八咫と呼ぶあの方は酉、それ以外にあと十人おられます」
「同じ時代かい?」
「いいえ、さまざまな時代の秀でた人物、しかしながら被らぬようになっているとお聞きしました。恐らく、あの方と狛犬様は少し時期がズレていると思われます」
「姿は知る姿なんだけどなぁ」
「全盛期の姿になります故」
その台詞になるほどあの孫市は年上らしい、と納得する。話を近くで聞いていた小雨ちゃんが首を傾げた。
「全盛期の姿って、なんだか八咫さんも狛犬さんも死んでるみたい」
「似たようなものだよ」
ははは、と笑いながら言えば小雨ちゃんと近くにいた五虎退が「えっ」と固まった。
「小雨様達と狛犬様は違う順序で招かれた故、皆様からすれば狛犬様は過去の人物になり得るでしょう」
「そ、それって大丈夫なんですか?」
「どうあがいても歴史改変されない時代からお越しですので」
さらりと告げられたのは結構重大な事実な気がするが、気にしないことにする。
「じゃあ、一人の本丸と複数人の本丸の差は?」
「アァー、狛犬さん、それは霊力の差だよ。霊力が乏しいと数人で集まるしかないんだ」
……それは嘘のような気がするな。チラッとこんのすけをみれば素知らぬ顔だ。とりあえず、そうなんだ、と答えて話を区切る。孫市に聞くのが早いかと「そろそろ出かけてくるよ」とひらりと手を振った。
商店街に出るといたその人の肩を後ろから叩く。咄嗟に身構えた孫市に片手をあげれば変な顔されたが。
「そうだよな……お前くらいだよな……こんな芸当ができるのは」
「随分と懐かしんでいるね。君はそんなに先から来たのかい?」
そう首を傾げれば孫市は目を見開いた。とりあえず茶屋の前であるため、近くにいたお姉さんに茶団子とお茶を頼んで席についた。
「……聞いたのか」
「こんのすけから少しだけね。腑に落ちないことが少しあって聞きに来たんだ」
「はぁ、よくもまぁ俺の居場所が分かったもので」
呆れたように告げた言葉に私は「勘だよ」と返す。
「君の本丸の子は霊力が低いかい?」
「……あぁ、その問題か。逆だ。一人一人の霊力の大きさには差があるが、それでも一般的な審神者よりはあるし質がいい」
その発言に、なるほど、と考える。と、いうことは。
「死者だから顔を隠しているのかと思ったけれど、逆かな?」
「というと?」
「顔を隠していない子たちは何かと人間の混血児。まぁ、泥沼の戦況を見てると刀剣と人間の混血児が多いんだろうけど」
「そうだ。アイツらは混血児だ。人間と人間でないもののな。で、その多くは刀剣だ。存在自体が不安定だからまとめときたいんだろ」
「年齢の差は?」
「普通の場所に逃されてそこまで育った」
「おや、刀剣との間の子は基本的に没収かい?ひどいな」
「ひどいが仕方ない面もある。力が強すぎる。依集めて俺たちみたいなのに面倒をみさせるのは力の制御を教えるためでもあり、外部からの敵から守るためでもある」
お前の好きな先生業務ってわけだ。
そうこちらをみた彼に肩をすくめた。子供は可愛いけれど、六人は育てたぞ。
「僕はいきなりいなくなるからね、子育てには向かないと気づいたよ。まぁ六人が大人になってからでこうなってよかったと僕は思う」
「そうだな、そこだけは褒めてやる」
「君に褒められてもな」
「……ぶっちゃけ、勝てる見込みはあったのか」
そう尋ねた彼に私は頬杖をついた。最後の仕事は彼にどう伝わっているのだろうか。
「さぁ、どうだろうね。戦争なんてそんなものだって君がよく知るだろう?」
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刀をおろせと言われてもなぁ。私が好んで使う刀は数振り影の中にあるのだが、どうやらきっちりと刀帳に記載されてしまっているらしい。刀を集めたいちびっ子、戦力を増強したい白樺さんと小雨ちゃんにどうしたものかと思う。
「そもそもなんで狛犬はおろしてないんだ?」
「独り身のほうが身軽だし、誰かの主人になる性分ではないからね」
「しょうぶん?」
「主には向いてないってことさ」
子供にそう言いつつ腕を組む。小雨ちゃんが首を傾げた。
「というか、狛犬さんどこに刀しまってあるんですか?普段は見ないような……」
その返答に対しては影の中、という答えになる。まぁ、恐らくは口寄せと同じ要領で出せるだろうが。そっと口元に人差し指を立てる。
「秘密」
「ひぇっ」
「こぉらぁ、狛犬、お前そういうムーブまじやめろ。というか、秘密って……秘密って……」
両手で口元を覆った小雨ちゃんと天を仰いだ白樺さんに苦笑いする。子供達は納得してないらしいが。小雨ちゃんのそばにいた加州が首を傾げた。
「主には向いてないって、でも具体的にどういうこと?」
「僕は君たちの時代でいうに家柄的にも最下層あたりにいた人間だからね、刀達はみんな立派な人に仕えていたわけだろう?僕に仕えるのは少し違う気がしてね」
「今の時代家柄も何もないだろ」
白樺さんのツッコミに「そうかい?」と首をかしげる。まぁ、彼の時代はそうなんだろう。
「でも、まぁ、君たちの意向もわからないわけではないんだ。少し考えるよ」
「少しってどれくらい!」
「2、3時間というところかな」
「三十分でがんばれ!」
「おい」
「仕方ない、巻きで頑張ろう」
ひらりと手を振ってそのままゲートに向かう。え、え、と声を上げたのは周りである。
「ちょっと待て、少し考えるってお前まさか出陣ーー」
「じゃあ、三十分で帰るよ」
ニコリと笑ってゲートの方に消える。さっさと終わらせるか。
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さくっと終わらせたところで刀を見つめる。チャクラこめたり術を使ったりして特殊な使い方をしていたのは私である。あと分身に持たせたりもした。この刀が私の性質を受け継いでびっくりドッキリな刀になっている可能性は少なくない。そういう面でも気にかかる。あと十五分あるのだから、孫市におろしているか聞きに行くか、とゲートを潜った。
「ということで聞きに来たわけだけど」
「返り血バリバリの状態で来るんじゃねぇよ」
そうタオルを投げた孫市に、遡行軍のやつだからそのうち消えるよ、という。まぁしばらくすれば綺麗に消えた。
「君って刀おろしてるの?」
「刀は2、3だけな。基本的に銃のやつをおろしてる」
「驚いた。銃もあるんだ」
「宿るやつは稀だけどな。そういうのは政府から俺にくる。お前はおろしてないのか。別にあるだろ、お前の直刀」
「あぁ、あるね」
「ならおろせばいいだろ。傭兵風情がおろしてんだからお前がおろしても……おまえまさか刀媒体に術使ってんのか」
「うん」
素直に頷けば、あー、じゃあ刀自体に特殊なのが宿ってる可能性はあるか……と孫市は呟く。
「君はしないのか」
「覚えてねぇよ、うなもん」
「ははぁ、君は思ったよりジジイだな?」
「お前よりはな。年上なんだから敬えよ」
「君を敬うのは少し違う気がするからやめとくよ。じゃあね八咫。次は年上の威厳をみせて饅頭を奢ってくれ」
「はぁ!?」
そんなことを言いつつ本丸に帰る。ゲートから顔を出せばみんながオロオロしていた。
「何かあった?」
「何かあった?じゃないよ、狛犬ー!」
そう詰め寄った刀達はどうやら心配したらしい。そういや昼間に出陣はあまりしないもんな、と納得する。というか宣言して出陣はなかった。
「きっかり三十分だ……えっ、なに、狛犬さんなにものなの……」
「まぁ、それはおいておいて。とりあえず下ろすことにするよ」
「ほんとか!」
「うん。まぁ僕の性質がうつってるから変なことするかもしれないけど気にしないでね」
性質とは?と首を傾げた周りに影から刀を取りだそうとしてーーやめる。口寄せにしておこう。鞄から影の中の刀と一応連結させている巻物を取り出せば、子供や短刀がまじまじと巻物をみた。
「なにそれ」
「これに刀をしまってあるんだ」
「巻物にか?」
「正式には違うんだけど、難しいからその解釈でいいよ」
巻物を広げてから親指に傷を作る。そのまま巻物に付着させて口寄せをすればポンっという音と共に刀が六振り現れた。
「大倶利伽羅、へし切り長谷部、物吉貞宗、にっかり青江、不動行光、日向正宗だと思う」
「結構持ってたんだな」
「まぁこれでも絞った方だよ。太刀や粟田口なんかは君たちに渡してるだろ」
そう言いつつ刀を一振り手に取る。果たして私がおろしていいものだろうか。
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