2020/02/03
白い魔女がいる本丸
・現代→王国心→能力引き継いだまま審神者してる主
・魔法が得意
・8番目の弟子、かもしれないけど恐らくはux始まる前に息を引き取っている
・まぁ馬車馬ちゃんのマイナーチェンジ版
・キャラ把握のための試し書き
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恐らく私の異質さは周りの異質さとは合間れないものなのだろう。それは鍵の剣を操るあの世界でも、この世界も恐らくは変わらない。あの世界で私は他と交わらない価値観という異質さを持ちーーそして、この世界では周りと違う力という異質さを持っている。あの世界の師はあっけらかんと、それは良いことなのだと私に告げたのであるがこの世界の師にあたる人達は遠巻きに見るばかりだ。この世界にはあの世界で共にいた兄弟子たちも、師もいない。真白の髪を褒めるものなどおらず、赤い瞳を恐れるものばかりだ。両親となったものであっても私の髪を染め、瞳の色を隠すように告げるのである。なぜ自分を偽らなければならないのかわからない。でも、それがーーこの小さな島国の常識であったのである。だから、私は秩序を乱さないように髪を染め目の色を隠し周りに溶け込む努力をした。でも、そんなものも呆気なく見破られてしまったのだけど。
この御簾の先にいる十数もの存在は人ではないらしい。きちんと正座をして私を見ているその姿に私はなんとも言えない複雑な気持ちになる。彼らもまた複雑なのだろう。恐れや恐怖を抱いている者もいれば、こちらに嫌悪を抱いている者もいる。でも多くが恐らくは政府の役人がつれてきたのが年馬の行かない小娘であったことに驚いているようだった。この方がこちらの新しい主になります。そんな言葉とーー詳しいことは彼らに聞くようにという文言を残し、役人はすたこらとその場をさっていった。じっとこちらに視線が向く。私はそっと息を吐いて立ち上がると、御簾に手をかけた。力任せに下に引っ張れば御簾は音を立てて下に落ちた。驚いている彼らが私をみる。私もまた彼らをみた。
「うん、やっぱりちゃんと顔が見えた方がいいね。こんなもの越しだとお互い得体の知れない存在になってしまうし」
でも落ちていることも気になるのでもう一度付け直しておく。御簾の外側で私はまた彼らの方を向いた。
「私はナマエと申します。いきなりのことで驚かれたでしょうが、どうか貴方達のそばに立つことをお許しください」
私の言葉に中にいた一人が眉間にシワを寄せて口を開く。
「お前、俺たちに名を名乗ること、顔を見せることの重大さをわかってないのか?」
「人としての礼儀を弁えただけです。初対面の人に顔を見せるのも名を名乗るのも最低限の礼儀でしょう。例えそれが相手が人でなくても」
「……新しい主は礼儀正しいときた」
「いえ、そんなものも建前かもしれません」
「建前?」
「ただ、私がやりにくかったんです」
困ったように笑ってしまったのは仕方なかった。
「たった数日前まで私はただの子供だったわけですから」
そう、ただの子供だった。一応は、という言葉がつくけれど。
「だから、いきなり主になれと言われてもよくわからないんです。どういう立ち振る舞いが主として相応しいのか。どうこの戦いに参加すればいいのか。どうやってここを運営していくのか。そして、どう貴方達と接していけばいいのか」
そう言葉を紡ぐ。彼らは幸いなことに耳を傾けてくれている。
「そんな状態では貴方達に的確な指示を出すことも愚か、貴方達の望む主になることもできません。だから、私は顔を見せ名を名乗りました。貴方達と共に歩むために」
まっすぐと、ただまっすぐと彼らをみる。だから、どうか。
「だからどうか、貴方達の名も教えてください。貴方達が何が好きで何が嫌なのか教えてください。私に何ができるのか教えてください。そして、貴方達と共に歩む許可をください」
返答はない。それどころか喋る狐が駆けてきて、主様!と私を叱った。
「いけません!主様!何をされているのですか!」
「挨拶を少し」
「顔を出してはいけないと役人から聞いていないのですか!?まさか、名乗ってしまってないでしょうね!」
「名乗ったよ」
私が緩く笑いながら言えば狐は顔色を悪くした。
「でも、彼らは何もしないよ」
「何を……主さまは彼らの前の主がどんな人物だったか知らないから言えるのです!あぁ、どんなことをされるのやら!私は知りませんからね!!」
「彼らは何もしないよ。どうして狐さんはそんなことをいうの?」
「狐さん!?私は管狐でこんのすけという名が……!」
「あぁごめんね、こんのすけ。私はナマエって言います」
「主様!」
「大丈夫、彼らは何もしないよ。もちろん、君もね」
「だから何を根拠に」
「だって私は彼らを信じているもの。彼らは悪さはしないよ」
私がそう首を左右に振ると、こんのすけはペシペシと前足で畳を叩いた。ぷはっと誰かが吹き出す声が聞こえる。そちらを見れば大きな男性が笑っていた。
「新しい大将はこりゃまた変わった奴だな。なぜそう言い切れる?俺たちは前の主に悪さをしたんだぞ」
「そうなんですか?でも、貴方達からは悪いーー嫌な感覚がしません。それどころか光を感じます」
「光?」
「感覚の問題なのでなんとも言えませんが、周りーー建物や敷地の中は嫌な感覚がしたのに貴方達がいるここにきたらその感覚が消えました。貴方達の光が強かったからでしょう」
そう言って庭に繋がる障子をあける。どんよりと曇っている空、感じる嫌な感覚を祓ってしまうか、と庭に足を踏み出した。
「主様、いけません!穢れてしまいます!」
「大丈夫大丈夫。こういう場所にはなれてるから」
手を宙に伸ばす。私の呼びかけに答えるように光の渦ができて、キーブレードが現れる。私はそれを宙に掲げた。
「光よ」
その言葉に呼応する様に光の柱ができる。そうしてそれは空の曇天を突き刺すとーー花火のように飛び散って曇天をかき消した。光が空からさす。花々が空を見上げ、水が澄む。どんよりとした霧に覆われていた庭は美しい様を見せた。キーブレードから手を離せば、それはまた光の粒になって消えた。振り返ればこんのすけだけでなく他も唖然としているのが見える。
「ね、大丈夫でしょう?」
そう笑ってみせれば、こんのすけがぱくぱくと忙しなく口を動かしていた。彼らは顔を見合わせる。しばしの沈黙ののち、はぁっと誰かがため息をついた。
「まったく、雅なのかそうなのかわからない子だね!折角の真白の足袋が汚れてしまっているよ!」
紫色の髪の男性の声に足元をみる。どうやら水たまりだったらしい。真っ白の足袋が汚れていた。やってしまった。金色の鎧を身につけた男性が手招く。
「こっちにまわっておいで、洗い場があるから」
「あぁ、そうだね。先に清めた方がいい」
「そのあとは早速ですが仕事を覚えていただきたい。この長谷部、主が一人前となれるよう全力でサポート致します」
名乗った彼に私は「頑張ります」と笑みを浮かべた。思えば私の異質はその時点で受け入れられていたのだろう。彼らは私の髪色が元の真白に戻っても驚きはしたが色を染めるようになんて言わなかったし、そちらの方が美しいとさえ言ってのけたのだから。そうして、私の審神者としての一生は幕を開けたのである。
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「手入れ、ですか」
「まぁ大将にとっては傷の手当てだと思った方がいい」
そう告げた少年は薬研藤四郎というらしい。トーシロー君、と呼ぼうとすれば兄弟のほとんどがトーシローだから薬研でいいと言われてしまった。長谷部さんが口を開く。
「先程お目通りした刀剣は十五」
「実際はここには二十七の刀剣がいる」
「では後の十二は?」
「手入れを受けられていないため、身動きを取れません」
「貴方達よりも酷いということですか」
そう尋ねれば彼らも、私達の周りいた刀も固まってみせた。私の返答に対し眼帯をつけた男性ーー光忠さんが首を傾げた。
「……わかるのかい?」
「どこかしらかばった歩き方をされるな、と思っただけです。薬研くんも怪我をされてますし」
普通の人間の怪我ならばケアルで治るだろう。でも、彼らは普通の人間ではないのだから恐らくは変わらないのかもしれない。通された別の広間には沢山の刀と人が伏せているのが見えた。それも放置していいような状態ではない。人間なら恐らくは。部屋の中にいる誰かが、小さく兄ちゃんと誰かを呼んだ。その言葉に弾かれたように金色の鎧を着たーー蜂須賀さんが中に駆け込む。
「兄ちゃん、新しい主はきたの?」
「あぁ、きたよ。今すぐに治してあげるからね」
その会話に私は長谷部さんと薬研を見る。彼らは静かに首を左右に振った。
「資源が足りません。今治せるのは一振りが二振りです」
「それ、は、」
「大将、大丈夫だ。俺たちは折れない限り生きていける」
「いいかい、ナマエちゃん。ここにいるのはみんな誰かの家族なんだ。だからこそ、重傷の刀から優先してほしい」
真っ直ぐに言い切った光忠さんに私は言葉を止める。ああなんて悲しいことだ。酷いことだ。はらはらと溢れた涙は止められそうもない。ついて歩いてきていたこんのすけが私を見上げる。
「主様、何故泣くのです。彼らは物でございます。物はいずれ壊れるもの。刀など戦で使うものです。戦場で傷つき、折れる。それが道理というものではございませんか」
「どうしてそんなことをいうの」
はらはらと落ちる涙を拭う。
「彼らには体も心もあるのに、君はどうしてそんなことをいうの?刀だとかそういうのは関係ない」
「主様、優しいのはいいことです。慈悲深いのもね。しかしここは戦です。この敷地から一歩他の時代に踏み出せば、戦場なのでございます。一振り、二振り刀が折れる、その度に貴方が涙を流そうと事態は好転いたしませんよ」
そんなこと、私は知っている。だから、私は「知っています」と言葉を紡ぐ。
「そんなこと、理解はしています。でも、悲しいんです。心が痛いんです」
そう言って蜂須賀さんのそばに歩み寄る。目に包帯を巻かれた少年の手を私はそっと握った。
「きっと全員治してみせます。貴方も」
「新しい主さん?……俺は大丈夫。もっと酷い刀がいるだろうからそっちを治してやってよ」
「えぇ。でも、貴方も必ず」
ケアルを使えば気休めにはなるだろうか。そっと彼の手を両手で包んで目を伏せる。
「貴方の未来に光あれ」
ケアル、と小さく呟く。魔法が発動したのがわかった。そっと目を開き、手を離す。また目を見開いて固まる周り。少年は小さく「今の何」と口を開く。そうして自分の身に起こったことを理解した。それは恐らく、薬研くんもだ。乱雑に包帯を解いた薬研くんに、目の前の少年は私を見てーーまわりをみた。
「……傷がない!長谷部の旦那!刀身を確認してくれ」
弾かれたように長谷部さんが近くにおいてある刀を鞘から抜いた。蜂須賀さんは少年に抱きつく。
「刀身は傷ついたままだ……」
「服は治ってない……人体にだけ作用した?どういうことだ?俺たちは何を見ている?」
「手入れをすると、体だけでなく刀身も戻るのですか?」
「……あぁ、そうだよ。普通は刀身を手入れすることで僕らの体が治るんだ。僕らの本体は刀だからね。『入れ物』だけ治るなんてありえない」
「でも実際に起こっている」
私は涙を袖で乱雑に拭う。体が元気になるのなら、多少の無理も仕方がない。
「先に同じ方法であればある程度治せます。治してしまっても構いませんか?」
「!あぁ、だが大将は平気なのか?」
「私は大丈夫です」
薬研くんの言葉にそう頷く。
「ただ、何か不具合がおきても怖いので、刀身がなおるまでは安静にしてもらった方がいいかもしれませんが……」
「あぁ、そうだな」
「特に酷い刀は手入れをしましょう。ただ、優先度がわかりませんので」
「そこは我々にお任せください」
そう一礼した長谷部さんによろしくお願いします、と頭を下げる。そうして私はもう一度大きく息を吸ってーーけが人と向き合うための気合いを入れた。
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あの世界ではケアルは当たり前のように使っていた。なにせ、はじめて覚えたのがホーリーとケアルの二つである。よく喧嘩をする兄弟子達の手当てを、または自分の手当て、街の子供達の手当てなんかよくしていたのを思い出す。しかしながら、怪我は治せても病気は治せないし命を失ったものを生き返らせることもできないのだ。それはこの世界においても同じだった。私の髪色を美しいと言ってくれた人。怪我を治すことはできても、命を取り戻すことはできなかった。しかしながら怪我を治す私をみて、父母の目は得体の知らない物を見る目になった。では、彼らはどうなのだろうか。
そっと最後の人の傷を治す。随分と楽になった呼吸をみて私は息を吐いた。
「貴方は何者なんだ」
そう誰かが呟くように尋ねる。私は苦笑いを浮かべるだけだ。
「私は私です」
昔からの返答である。一部の人は私を魔女と呼ぶ。魔法が使えるのだから間違いはない。
「まぁ、貴方が何者であれ僕らには関係ありませんがね」
そう薄ピンクの髪を靡かせた彼は告げる。周りの視線が彼に向く。
「なんだって今更でしょう」
彼は小さく告げる。薬研くんが私を見上げた。
「大将、手入れの前に休憩するか。体さえ治っちまえば事はせかねぇしな」
そう促した薬研くんに私は素直に頷く。流石に何度もケアル系統の魔法を使うのは疲れる。こっちだ、と手招いた彼に私は続いてその広間を後にした。
「ありがとうな、大将」
日の当たる縁側で彼はそう告げた。温かな陽射しに私がうとうとと眠りの狭間を行き来している時である。私は緩やかに目を開くと彼をみた。
「私にとって当たり前のことをしただけだよ」
私はそう言って庭をみた。いつのまにか綺麗な花が咲いている。少し冷たい風に揺られて花弁が舞う。
「お礼をいうのは私の方かもしれない」
「そりゃどういうことだ?」
彼の発言に私は目を伏せた。
あの世界でマスターは私に告げた。私は異端だから世界に馴染めないのだと。兄弟子の一人はいった。ならば、一緒にきてしまえばいいと。それが寿命を縮めることだと知りながら私は頷いたのだ。
「異端の私を受け入れようとしてくれてありがとう」
そう緩やかに微笑む。彼はただ目を瞬いただけだったけれど。
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手入れの次は内番を。内番の次は遠征を。そうして溜まった資源で少しずつ刀を手入れする。それを繰り返していれば刀達のほとんどが体も刀身も治っていた。あとは心かもしれないが、それに近道などはない。風に乗って海の香りがする。本丸は主様の記憶に基づいて形成されます。こんのすけがそう告げたのはいつのことだっただろう。ならばこの変わりつつある景色は私のいつの記憶に基かれているのだろうか。
「主は海の近くに住んでたの?」
そう私をみた浦島くんは私をみる。私は素直に「ううん」と首を振った。
「街のど真ん中。でも、海に面した街に住んでいた記憶はあるの」
「へぇ、どんな街?」
「朝霧に覆われた街でね、大きな時計塔があるんだ。私はその大きな時計塔の中に住んでるの」
「時計塔?」
「そう。海外のビッグベンが近いのかな。時計塔からは町も海も見渡せた。そこが大好きでいつもそこにいたの」
「へぇ、だから潮の香りがするんだな」
浦島くんはそう言って「でもよかった」と呟いた。何がよかったのだろう。
「主、竜宮城から来たんじゃないかって思ってさぁ」
「竜宮城?」
「そ、浦島太郎にでてくる海の中にあるお城」
「海の中にあるお城かぁ。きっと綺麗なんだろうなぁ」
そう言って後ろに体重をかければ後ろにいた誰かにぶつかった。慌てて振り向けば長谷部さんがいる。今日はもうこなす分は終わったよなぁと思っていれば長谷部さんが困ったような笑みを浮かべた。
「主、少しお話があります」
「わかりました。じゃあ、浦島くん、またね」
ひらりと手を振れば彼もまたひらりと手を振った。私はそのまま長谷部さんに続きとてとてとやってきていたこんのすけを抱き上げる。足取りが何故か遅い長谷部さんに並んで廊下を進んだ。
執務室に入るとこんのすけはぴょんと私の腕から降りた。そうして私の対面に座る。
「主様、そろそろ出陣・鍛刀をいたしましょう」
そう告げた彼に出陣・鍛刀とは?と首をかしげる。こんのすけはタブレットを私に持ってくるように告げた。私はそれに倣ってタブレットを持って彼に近寄った。
「鍛刀とは新しい刀を作ること、即ち仲間を増やすことです。稀に珍しい刀も出現いたします」
珍しいも何も刀は全て珍しいと思うのだけども。そのあとも話を聞けば資材を結構使うらしい。手入れの分に置いておきたいのだけども。
「鍛刀されてみますか?」
「先に出陣の話を聞きたいな」
そう促せばこんのすけは頷いて口を開く。出陣とは刀剣男士を他の時代に送り込むこと、らしい。審神者によってピンポイントの時間に送り込むことができる人もいれば数日前の時間にしか送り込むことができない人もいるという。
「前の審神者様は数日前の時間にしか送り出せませんでした。前者ができるのは審神者の中でも一部のものでしょう」
「ちなみに私がついていくというのは?」
「なっ、……いけません、主様。時間を超えることができるのは刀剣男士のみなのです」
やはり時間を超えるのは禁忌か。そう考えていると、こんのすけがまた口を開く。
「出陣することにより刀がドロップすることもございます。珍しい刀もね」
珍しい刀はどうでもいいのだけど。目をパチパチと瞬いておく。こんのすけは慣れたようにタブレットの画面を変えた。
「それでは主様、まずは部隊を決めましょう。一番隊から四番隊までを指名し、時代に送り込むのです」
では、私は政府に呼び出されておりますが故。
それだけ告げてこんのすけはとてとてとすこし歩いて消えた。残った私はタブレットをみる。とりあえず何が何だかわからないため、タブレットを見れば今いる刀剣の横に練度と書かれた文字を見つけた。はて、練度とは。そう首を傾げていれば、長谷部さんがやってくる。
「どうされましたか?」
「練度ってなんですか?」
「我々の強さの目安の値です。しかしそれらには刀の種類の補正もつきましょう」
なるほど、と思いながら触る。普段作っている刀装は刀剣達に持たせるものらしい。その他長谷部さんは色々説明をしてくれる。
「なるほど、じゃあ、バランスを考えてなるべく練度は均等に……刀種も偏らないように……」
とりあえず今いる刀を種類や練度別に書いていく。それを並び替えようとした後で、気づいた。
「あれ、でも練度が高い刀を低い刀と出陣させた方がいいんですか」
長谷部さんに伺えば目を見開いたまま止まっている。首を傾げていれば、通りがかった御手杵さんが私をみる。
「お、主、出陣すんのか」
「はい、こんのすけがしろというので。今は隊を決めようと思って長谷部さんに相談を」
「相談?適当でいいだろ?」
「えっ」
「前はそうだったぞ。うーん、でも、そっか、ナマエは違うもんな」
彼は近寄ってきて私のそばにしゃがんだ。私が纏めていた紙ーーというか単語帳をばらしたような紙ーーを眺めている彼は「どうしたいんだ?」と尋ねた。
「刀種をできるだけばらそうと思うんです。そうすればお互いフォローに入りやすいし」
「まぁ、そうだな。俺も正直脇差がいた方が助かる」
「でも、練度を揃えた方がいいのか、練度が低い人の補助で練度が高い人をつけた方がいいのか分からなくて」
「あー」
ひょいっと彼は自分の紙をとって一番上におく。そうしてひょいひょいと他の刀剣をチョイスしていく。
「俺は面倒見る感じじゃないからなぁ。練度低い奴と一緒に出陣させるなら、一つの隊に一人にするか大太刀薙刀と出陣させるのがいいと思う」
「何故?」
「あいつら攻撃範囲広いんだよ。場合によるけど一気に二振りは倒しちまうから」
「なるほど」
「あと、出陣が嫌いな奴も怖い奴もいるからなぁ」
「御手杵さんは?」
「俺は慣れてる。よし、できた。他の奴らに声かけてくるし、今回は俺たちだけにしといてくれ」
「わかりました。刀装選んでおきます」
「おー」
そう緩く告げた御手杵さんはそのまま部屋を出た。彼が選んだカードをみていると練度が同じくらいの人を集めてくれたようだ。ぼうっとしている長谷部さんを呼ぶ。こちらをハッとしたように見た彼に刀装について尋ねるべく私は口を開いた。
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時間を超えるということは、狭間の世界を通るということだろうか。ならば水晶を持っていった方がいいのではないかと魔法を使って闇を祓う力を持つ水晶を作り上げる。それをあの再会のお守りに似た姿にしてしまったのは仕方ないと思うのだ。それと共にこれもまた魔法でネックスのチェーンを作り上げておいた。
「審神者様、刀剣達の準備が完了いたしました」
そう呼びにきたこんのすけに人数分のネックレスを持っておう。廊下を進み、たどり着いたのはあの街の広場に似ている。刀剣達も物珍しそうに周りを見ている。私を見つけて「おー、主」と手を振った御手杵さんに私は駆け寄った。
「お待たせしました」
そう言って揃っている六振りをみる。獅子王さんがまわりをみた。
「ここ、随分と変えたんだな」
「変えた?」
「なんだ、ナマエが変えたんじゃなかったのか?」
「いえ……ここ、立ち入ったのは初めてなので……」
「前のこの場はあまりにも穢れ過ぎてしまっていたため、他の場所と同様に主様の記憶から再形成いたしました」
足元でこんのすけが告げる。
「へぇ、随分と素敵な街に住んでいたんだね」
「えぇ、まぁ」
「……なんだそれは」
私が持っていたネックレスを見て赤毛の男性ーー大包平さんが告げる。
「お守りのようなーー標のようなものです」
「標?」
「皆さまがこちらに無事に帰れるように、その道中で闇に蝕まれないように願うものですね」
そう言って彼の手のひらにそれを乗せ、他のメンバーにも乗せる。陽に合わせて水晶がキラキラと輝く。
「それは決して悪いものではないよ。本当に君たちの無事を祈ったものだ」
「標というのは?」
「私が貴方達が今何処にいるか判るようにするためのものです」
「よくわかんねぇけど、いかねぇのか」
ガシガシと頭をかいた同田貫さんに、すいません、とこんのすけをみる。彼は尻尾を揺らす。
「主様、出陣先は1600年、9月15日の午前9時。関ヶ原近くでございます」
「えっと?」
「真ん中にあります時計をその時刻に合わせてください」
こんのすけの言う通り、真ん中にはあの時計台を模したような時計があった。私はその時計を言われたように時間に合わせる。淡く光った周りに、後は主様がよく知るでしょう、とこんのすけが告げた。よく知る、となれば。私は手を見つめてからこんのすけをみる。こんのすけが頷いたため、私は淡く光る時計を見た。光の螺旋とともにキーブレードが現れる。それを掴んでそのまま時計に向けた。ふむ、やはりゲートの開け方は変わらないらしい。
「刀剣達にかす任務は遡行軍による徳川家康暗殺の阻止。任務が終わればいつも通り帰ってこれるでしょう」
キーブレードから光が放たれて、時計にあたる。あの街の鐘の音がする。それとともに扉が現れた。……どこでもドアみたいだな。同田貫さんがその扉を開ける。その瞬間、彼らを光が包んで消えた。自分が通るのは構わないが見送るのはあんまり好きではないな、と思いながら消えた先を見つめる。ハッとしたように、浦島くんがやってきた。
「主、指揮を取らなきゃ」
「えぇ、浦島虎徹の言う通りでございます。主様、こちらに」
そう言って彼はどこからともかくタブレットを取り出すのだけど。
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部隊が帰ってきて速攻で手入れ部屋に押し込んだ私は悪くないと思う。問題が綺麗な刀云々ではないのである。はぁ、と息を吐いた私をみてまた固まっている長谷部さんをみる。
「長谷部さん?」
「いえ、何故手入れを?」
「怪我をしたら治すは当たり前だし、怪我が積み重なったら動けなくなってしまいますよ」
「えぇ、でも、あいつらはまだ動けます」
「……私が怪我をしている姿を見たくないんです。いけませんか?」
そう首を傾げれば、彼は目を瞬いて、「仕方ありませんね」と笑ってみせた。
「貴方がそう言う志向なら我々は従うまでです。ですが、ナマエ様、これだけは覚えておいてください。我々は物だ。物はいつか壊れる運命になる」
「確かに貴方達は物です。でも、私と同じで心はあります。誰かを慈しむ、何かを愛することもあれば、誰かを憎む、何かに恐怖を覚えることもあるでしょう。そうした心があるならば、私は貴方達を物扱いすることはできません。第一、どんな物であっても大事に使うべきだと私は考えます。貴方達がそうされて今の時代に残っているように」
「……[
「それでも、『ものがはいつか壊れる』と貴方がそんなことを言うのであれば、私はこう返さなければいけません」
私は彼を見て微笑む。
「人間はいつか死にます。時に唐突に、時に病に侵されて、あっけなく。いくら生きたいと願っても、人間は死ぬときは死にます。なんら、貴方達物とかわらないのです。貴方達にも私達にも心があるし、いのちは有限だ。私たちは貴方達とどう違いましょうか。違いがあまりないのに、同じ扱いをしてはいけませんか」
そう尋ねるだけ尋ねて、私は踵を返したのだけども。
==
あの広場をもう一度見ておくかと見にいけば噴水まで増えていた。なるほど時計台の形の噴水、と眺めてから噴水の縁に座る。周りに見える建物は西洋だというのに、正面の本丸は和風で少し変わった世界になっているが。潮の香りがする。そっと目を伏せていれば、あの、と声がかかった。そちらを見ればあまり関わったことがない少年二人だ。
「隣いいですか?」
「どうぞ」
そういえば、彼らは私の隣に座る。黒い髪の少年が私をみた。
「貴方は海の外に住んでいたんですか?」
「いえ……どうしてですか?」
「見るからに日本ではなさそうだ」
白い髪の少年がそう答える。確かに日本ではない風景だろう。
「この街に住んだこともーー行ったこともありません。でも私の大切な街には変わりません」
「住んだことも行ったこともないのに?」
「えぇ。私の記憶には確かにこの街が存在します。でも、この世界には存在しない街でしょう」
そう言って空を見上げる。突き抜けるような青空が広がっている。そのうちに時計塔も見えるようになるのだろうか。
「私の大事な思い出で詰まった、大好きな街です」
ふぅん、と告げた彼らもまた空を見上げた。
「でも、俺も好きだ、この街。清々しい気持ちになる」
白い彼の言葉に、私は言葉を詰めた。
「ーー夜明けの街」
「夜明けの街?」
「この街の名前です。デイブレイクタウン。デイブレイクは夜明けという意味なので、日本語にすると夜明けの街です」
「へぇ、夜明けかぁ」
黒い彼はそう言って足を伸ばした。そっと宙に手を伸ばして魔法でシーソルトアイスを作ってみる。その二つを彼らに渡した。
「今のは?」
「秘密です。でも、これはシーソルトアイス。私の好きな……冷菓子です。一ついかがですか?」
「俺たちが食べていいんですか!」
そう告げた彼らに首をかしげる。
「貴方達の分で作ったので構いません。食べれるものです。嫌ならいいですけど……」
「いや、いやだからとかじゃなくて!」
「食べていいのか」
「はい」
私が頷けば白い彼はそれを舐めた。美味しいとこぼした彼に、黒い彼もそれを口に含む。そして何かに感動したように、美味しい、と口を開く。私もそれをみてアイスを舐める。海の味。
「前の主とは正反対だな」
「前の審神者様と?」
「前の主は俺たちが物だから食べなくてもいいと言ってたんですよ」
「え?」
黒い彼の言葉に私は動きを止める。ということは彼らは食事をとっていない?てっきり、長谷部さんや光忠さんが私の分を私の部屋に持ってきているだけで別の部屋で食べているかと思っていたけれど。
「えぇっ!?と、とりあえず、ご飯は食べていいので、食べましょう?」
「本当ですか!食べてみたかったんですよ!」
「光忠さん達に話してきます。お二人はそれ食べといてください」
そう言って立ち上がる。二人は目を瞬いているが。内番に畑当番があるけれど、みせてもらった畑と消費量が釣り合っていないのはだからだろう。バタバタと忙しなく立ち上がって駆け出せば、黒い彼の声がした。
「主さーん、俺、鯰尾藤四郎って言います!白い方が骨喰藤四郎!二人とも燃えて記憶はないけれど、主さんと頑張りますよ!」
その声に振りかえって、私はナマエです!ありがとうございます!と手を振る。振り返した彼らを他所に私は本丸に駆け上がった。
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光忠さんを探していれば、長谷部さんを見つけたので彼に言ってみる。不思議そうな顔をした彼であるが、近くにいた眼鏡をかけた少年が消費量と取れる量が釣り合ってないのはだからかみたいなことを告げた。
「恐らく、政府は貴方達の食料分も補うために畑当番を作っているのだと思います」
「しかし、主……我々は今まで食べずとも……」
「私の気が病むんです。食べてください!一人で食べるより、みんなで食べた方が食事は美味しい物なんです」
そう言えば彼らは目を見合わせた。
「私はとりあえず、厨当番専属になってる光忠さんにお話してーー」
「ナマエちゃん、僕を探してるって聞いたけれど……」
「光忠さん、いいところに!」
彼の手を掴む。周りにいたらしい刀剣がなんだなんだとこちらをみた。
「みんなでご飯食べましょう!」
「えっ?僕らも食べていいのかい?」
「いいんです!だから、作って、食べましょう。私もお手伝いします」
「でも食糧、足りるかな……?」
「食糧庫にたくさん食べ物残ってとるばい!」
「最初から凝った料理ではなく、シチューやカレーなどの煮込み料理にしてしまいましょう」
「シチュー……西洋の料理だね。僕は西洋の料理にはあまり詳しくないから教えてもらえるかな?」
首を傾げた彼に私は頷いた。
ことことこと。美味しそうな匂いが漂ってきている。私が洋食しか作れないことも相まってパンを買ってサンドイッチにする。そうして後はシチューを煮込むだけだ。塩と胡椒を少々振って味を整える。火を止めれば様子を見ていた浦島くんが蘭々と目を輝かせた。本当はサンドイッチをおくお皿が欲しいけれど仕方がないのでキッチンペーパーで代用する。不揃いな食器ーーマグカップにスープを注いで光忠さんにまず渡した。
「熱いので気をつけて」
そう言えば彼はフーと息を吐きかけて恐る恐る飲んだ。
「!美味しい」
「それは良かったです」
私は微笑んで他のカップにスープを注いで浦島くんに渡す。受け取った彼は同じように息を吐きかけた。近くにいた長谷部さんと眼鏡をかけた博多くんにも渡す。
「あ、やっぱり主さんだ。俺たちも食べてみたいです!」
「いいですよ、みんなの分を作りましたから」
「俺兄ちゃん達呼んでくる!」
人が人を呼ぶように、それからはたくさんの刀剣がやってきた。サンドイッチとスープを持って好きな場所で頬張る姿は和やかである。それをなんとなく見ながら私もまたカップに口をつけた。うむ、我ながら美味しい。
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ご褒美。短刀達からこぼされた言葉に目を瞬く。確かに遠征や出陣を頑張ってくれているのだからいいかもしれない。うーん、と考えて「食べ物でもいいの?」と尋ねれば目を爛々と彼らは輝かせた。それでいいならシーソルトアイスにするか、と宙に手を伸ばし指揮をする様に指を振る。そうして謎のキラキラと共に出来上がったものを私は手に取ってーー今剣くんに渡す。
「あるじさま、これは?」
「シーソルトアイス、私の好きなアイスなんだ」
「しーそるとあいす、ですか」
「冷たいからちょっとずつ食べてね」
一つずつ短刀達に渡していく。冷たい、甘い、美味しいと声を上げた彼らに私も一つ手に取った。
「主君、いつか、一兄にも食べさせてあげたいです」
そうそばで告げた秋田くんに、一兄と少し考えて、確か眠り続けている刀が数振りあったな、と思い出す。毎日粟田口の短刀が声をかけている刀だ。私は彼の視線に合わせて屈む。
「そうだね、その時はとっておきの場所を教えてあげるよ」
「とっておきの場所?」
「うん」
「わ、主、僕も気になる!」
「みんなで食べようね」
そう笑って私は縁側に座って食べる。その隣には短刀達が並んだ。
「出陣ゲートがあるあの街を探検してぇな」
「最近奥に広がりがあるよな、絶対」
「やっぱりあの奥には海があるのかなぁ」
乱くんの言葉に小夜くんが首をかしげる。
「主は知ってるの?」
「うん、あの先ーーあの坂道をくだっていけば海だよ」
マーケットもあるし、公園もある。恐らくはいつかは出来上がってしまうのだろう。
「こんど、いっしょにぼうけんしましょうね!」
あるじさま!
そう明るく彼らが笑うものだから、私も笑って見せたのだけど。
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「主、誉をとったら褒美をくれると聞いた」
そう告げた大包平さんに首をかしげる。誉とは確か出陣した時に一番の成績を収めた人に与えられる称号みたいなものだったはずである。こんのすけ曰くMVPだとか。私としては全員がMVPなのだけども。というか、そもそも誉というか出陣のご褒美だったような。彼の後ろで鶯丸さんがお茶を飲みながら笑っている。
「誉というか、短刀達への出陣のご褒美はあげました」
「なら俺にくれても道理は違いまい」
彼は腰に手を当ててそう告げる。確かにそれは間違いない。彼や御手杵さん、同田貫さんなんかは一番出陣関連を引っ張っていってくれている人達なのである。なので私は頷いた。
「そうですね、みんな頑張ってくれていますが、出陣に関しては貴方達が一番頑張ってくれています。そんな大それたことはできませんが、何をあげましょうか?」
小首を傾げて彼に尋ねる。彼は「短刀達が食べていたもの」と告げた。「あれを食べたい」と続いた言葉に、私は目を瞬く。思っていたより可愛らしいお願いだ。
「それなら誉とは別でも……」
「……なら、鶯丸にもやってくれ」
ちらりと後ろを見ながら告げた彼に優しい人だなぁ、と私は思う。わかりました、と返事をして私は手を宙に伸ばすと指揮をするように指を振る。キラキラとしたものが宙に舞い、それが集まっていくとシーソルトアイスが現れた。目撃していた数人が動きを止める。
「はい、どうぞ」
出来上がったシーソルトアイスを二つ、大包平さんに渡した。
「なんだ、今のは。傷を治すといい、主の力はどうなっている?」
「さぁ……?」
この世界の理論ではないため私は首をかしげる。鶯丸さんがいつのまにかやってきて大包平さんの手からアイスを掠め取った。そうしてひとしきりアイスを眺めると二人して口にする。どうやらお気に召したらしい。温い茶を入れよう、と縁側に向かった鶯丸さんに私と大包平さんはつづく。
「まるで主の使う術は外国の本に出てくる魔法だな」
食べ終わった二人とお茶を飲んでいる時だ。鶯丸さんがこぼした言葉に私は苦笑いをする。あぁそうか、魔法という概念はあるんだった。その全ては御伽話になってしまうけれど。
「その魔法だと言ったら、どうします?」
「魔法?そんなものが実在するのか」
大包平さんの言葉に、私は「よくわかりませんが」と前置きをして、そのまま氷の魔法をつかう。冷気と共に蒼い光が集まり、百合の花を作り上げる。解けない氷の花。緋色の彼にはあまり似合わないかもしれないが。
「これを魔法という人はいるでしょうね」
それを手に取って彼に手渡す。冷たい、と言葉をこぼした彼に「誉のご褒美はこれで我慢しておいてください」と告げる。
「氷か?」
「ええ」
「なら溶けてしまうではないか」
「いいえ、割れることはあれど、溶けることはありません。手で握っていても溶けないでしょう?」
私の言葉に彼は掌はをみる。
「俺たちの部屋にはこの花に花瓶がない」
「コップでもいいのでは?」
「そんなもの、この花に見合わないぞ。歌仙に相談するか」
そう立ち上がった大包平さんは花を持ったまま廊下を進む。それを見送れば、鶯丸さんがのほほんとした口調で口を開いた。
「ナマエが来てから大包平の話の話題が変わった」
「話題?」
「大包平は前の主の時からことあるごとに出陣していてな。今日は誰が折れた、今日は誰を守れなかった、そんなことばかり口にしていた」
彼の言葉に私は口を閉ざす。予想はしていたけれど、やはり最初の状況は前の主によるものだったのかと。
「ナマエが気にすることはない。すぎたことだ。でも、俺はやれどこぞの景色が綺麗だったとか、遠征先で食べた弁当の話、道端に咲く花の話に変わったのが嬉しく思う」
鶯丸さんはそう言って私をみて、柔らかく笑った。
「主のおかげだな」
「そんなこと」
「謙遜はよくない。事実だからな。刀剣の中でははじめからナマエが主であればというものもいる。でも、俺はそうは思わない」
彼はそう言ってお茶を飲む。
「前の主は悪い人ではなかった?」
「さぁ、俺はわからない。あの主は良くも悪くも人間だったな。俺たちを追い詰めたのは、主があれもこれもと欲に眩んだ結果なのか、焦燥、それとも恐怖に駆られたからなのか」
鶯丸さんは遠くを見つめる。私はその横顔をみた。少しの悲しさを滲ませた彼はまた口を開いた。
「ただ言えるのはあの主が俺たちを物と扱ったように、俺たちもまた彼を唯一の持ち主だと崇めた。今のように人として隣に並ぶなんてことは決してなかった。俺たちを人、物、どちらで接するのが正しいのか、俺は判断出来かねる」
「それは、私もわかりません。でも、多くは前者だというでしょう」
「不思議だな。俺たちの本質は物だ。でも、人の姿をとっているだけの」
そう告げた彼に私も口を開く。
「でも、貴方達には心がある。美しさを讃える、兄弟を想う、誰かを慈しむ。悲しむ、怒る、そんな心がきちんとあります。心は他者と接する中で育まれるものです。それは人間含む動植物にも、無機物にも宿ると私はききました。私は貴方達に心がある限り、今のように接するでしょう」
「心、か」
呟くように告げた彼は、厄介なものだと思っていたが、と目を伏せた。
「花を綺麗だと思わないのも、茶をうまいと感じないのも嫌だな」
目を伏せた彼に私はお茶を見つめる。戸棚の中にある一回り小さな湯飲み。その持ち主を私は知らない。でも、鶯丸さんが出陣を拒む理由はそこにあるとは薬研くんから聞いた話である。視線を感じてそちらを見れば鶯丸さんが口元に笑みを浮かべていた。
「俺もたまには出陣するか。そろそろ大包平も煩くなってきたところだしな」
「鶯丸!今の話は本当か!」
後ろから聞こえてきた声に振り返る。綺麗な花瓶を抱えた大包平さんがのしのしと歩いてきた。
「見合う花瓶が見つかったのか」
「あぁ。どうだ?」
「いいんじゃないか?」
「だろう。で、今の話は本当か」
「今の話?」
「お前が出陣するという話だ」
「あぁ、その話か。おいおいな」
そう告げた鶯丸さんに、大包平さんは「お前はまた!」と声を上げる。おいおいとはいつだ、おいおいはおいおいだ、だからそれがいつかときいてるんだ。そんな問答が面白くてクスクス笑えば二人は私を見下ろした。
「ごめんなさい、本当に仲がいいんだなって」
私の言葉に二人は「当たり前だ」と告げたのだけど。
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大包平さんに誉のご褒美に花を贈って以降、誉のご褒美が花だというのが定着したような気がする。同じものだと面白くないだろうと数を重ねた人には少し属性を氷の中に閉じ込めたものを渡したりしているが、解けないため増えるばかりだ。まぁ、大包平さんが百合、御手杵さんがチューリップ、同田貫さんが水仙のように種類をかえているがために同じものがたくさんあるというよりは色んな花が増えている。それなら勲章のように身につけるものの方がいいんだろうか、とぼうっとしている。執務は終わった。今お茶を入れに行ってくれている長谷部さん曰くなんでも嬉しい、らしい。それはそれで私も嬉しいけど困る。数輪集めて一つの勲章にするのもいいかもしれない。恐らく出陣の誉が一番多いのは大包平さんと御手杵さん、同田貫さんだろう。十輪くらいは集まっていると思う。
「主、何考えてるの?」
ひょこりと奥から顔を出したのは加州さんである。
「誉のご褒美を、みんな飾ってくれているでしょう?増えてきたし、十輪くらい集まったら違う形にしようかなって考えていて」
「違う形?」
「勲章みたいな、ブローチみたいな、アクセサリーみたいな……」
私の説明に彼は首を傾げた。「身につける飾みたいな感じかなぁ」と説明すれば彼は目をキラキラと輝かせた。
「いいじゃん!それ!」
「本当?」
「うん!あれ持ち歩けないから、持ち歩きたかったんだよね」
ニコニコしている彼にそういうものかぁ、と思う。でもあと三輪は必要かぁとぼやいた彼に今度は私も首を傾げる。彼はあと二輪ではなかろうか。彼は照れたように笑うと「部屋にも飾りたいから」と告げた。まぁそれは本人に任せよう。長谷部さんが持ってきたお茶を三人で飲んでいれば、足音が聞こえる。主ー、あるじさま!という声を聞くに出払っていた隊が全員帰ってきたらしい。おかえりなさい、と出迎えれば軽傷程度で済んでいたらしい。それにまず安堵する。今剣くんに抱えられたこんのすけが「今回の誉は」と言えば同田貫さんがジロリと、御手杵さんがじっと、他が苦笑いして大包平さんをみ、大包平さんが自信満々に桜の花びらを舞わせた。
「大包平。拮抗してたんだけど、大将首をとられたからなぁ」
「当たり前だ」
「ありゃお前の方に大将がいったからだ。それがなけりゃ俺だった」
「同田貫さんは斬り込んでくれる分、手前の敵を相手しがちですもんね」
「あぁ、俺たちは追うのが精一杯だ」
「そうだね、俺たちも精進しよう」
そんな会話の後に短刀部隊がはいっと手をあげた。
「主君、僕らの誉は今剣くんです!」
「ぴょんと一息にやっつけてしまいました……!」
「薬研も惜しかったよね」
「あぁ、いいのか?薬研」
「あぁ、俺も異議なしだな。練度の差がなくなってきた」
「へへん!ぼくだってやりますよ!あるじさま、ほめてください!」
そう前に出た今剣くんに、彼はこれで六輪目、と慣れたように光を閉じ込めた氷の菖をつくる。受け取った彼は嬉しそうに笑った。加州さんはそれをみて口を開く。
「そっか、今剣は六輪目かぁ」
「?何かあるのか」
「主が花の数が多いと大変だろうと考慮してくださった」
長谷部さんはそう言って氷でできた百合の花を九輪取り出す。いつのまに、と思っていればチューリップや水仙もあるので目処を立てていたらしい。
「それは、俺の!」
「大包平さんは、赤と青、黄色と緑、白と水色、どれがお好きですか?」
そう尋ねれば彼はしばらくおいて、白だ、と答えた。なるほど白は確かに彼は相性がいいだろう。白い光を閉じ込めた花を魔法でつくり、他の九輪と宙に浮かべる。そうして指揮をする様にーーしかしながらいつもと違うように指を振ればそれは一つに合わさって百合の形の勲章のブローチみたいなものが出来上がった。ゆっくりと手のひらに降りてきたそれに不具合がないか確かめる。ふむ、不具合はない。兄弟子に贈っていたアクセサリーと同じだ。私は大包平さんに近づくと胸元の邪魔にならない場所にそれをつける。
「貴方にこれからも光の加護があらんことを」
そう笑みを浮かべれば彼は動きをとめた。そうして少しの沈黙の後、桜吹雪が起こる。う、わ、とバランスを崩しかければ長谷部さんが支えてくれた。短刀や周りにいた刀達が同田貫さんの胸元についたブローチをみる。綺麗だの美しいだのと騒ぐ周りに私はホッと息を吐いたのだけれど。
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同じ刀剣がたくさんいるその場所を歩く。和風の街だ。みんなと完璧に逸れたような気がする。私はそっと息を吐いて、人混みから少しそれた場所で人の行き交いをみる。ことの発端はこんのすけが今日は演練にいきましょうと告げたことだ。演練?と尋ねれば他の本丸の刀剣と手合わせすることだと言われた。今日も私の補佐をしていてくれた長谷部さんがあまりいい顔をしなかったが、とりあえず私は行きたい人を連れて行くことにしたのである。まぁほとんどがよく出陣してくれる彼らが行くことになったのだけど。で、それを終わらせたのはいいのであるが、人混みに押されてこのように演練場と繋がる街に放り出されてしまったのだ。並んでいるものを考えると恐らく和風の街であるが現代に値する場所であることは察することができた。そっと目を伏せて感覚を探る。結構みんながいる場所まちまちであるのをみると、恐らく探してくれているのだろう。目を開いて合流するかと人ごみに足を踏み入れようとすればぶつかった。倒れた私に慌てたように屈んだのは光忠さんであるが、感覚からして私の本丸の彼ではない。
「あぁ、ごめん!怪我はない?」
「あぁいえ、私も飛び出したのが悪いので」
そう謝って立ち上がる。歌仙さんが見繕ってくれた真白の羽織りを叩く。そうしてもう一度彼に謝ろうとすれば彼は目を瞬いた。
「他所の鶴さんじゃない?」
「鶴さん?」
「ああっと、ごめんね、知り合いに似ていたから」
ワタワタと彼は慌てて私をみる。そうして上から下まで私をみると、何かに気づいたようだった。
「はっ、もしかして、他所の鶴さんのお嫁さんかな。やるなぁ、他所の鶴さん!」
「あの、」
「おーい、光坊、なにしてんだ?」
何か勘違いをしているのでは。そう正そうとすれば、遮るように誰かがきた。駆け寄ってきたのは真白の人である。
「あ、鶴さん」
「他所の俺となに話して……って女?他所の審神者か?」
上から下まで私をみて彼は首を傾げーー手を叩く。
「その色、他所の俺の嫁さんか!いやはや、君は見る目がある!」
そうぽんぽんと肩を叩いた彼に、私が違うと言おうとするより先にヌッと光忠さんの肩を見慣れた右手が掴んだ。見えたのは大包平さんである。眉間にシワを寄せているが。
「うちの主に何かようか。その手を離せ」
「おっと、悪い」
白い人と私の間に入った大包平さんに私は彼と二人をみる。これは勘違いが起こっている。
「えっと、大包平さん、恐らく誤解です。私は人混み流されてここにきたので……」
「あぁ、一気に人が増えたと思ったら演練終わりの刀剣が出てきたのか。災難だったね」
「なんだ、迷子だったのか?大包平がくるとはな。旦那の俺はどうした?」
「だから、それは」
「勘違いだ。俺たちの本丸にお前はいない。前の主が折ったからな」
はっきりとつげた大包平さんに二人は顔を見合わせる。大包平さんは口を開いた。
「主の二色の髪色をみてそう判断したのだろうが、主の髪色は白い方が地毛だ」
「前は黒く髪を染めていたので、ややこしくってすいません」
「……いいや、僕が先に勘違いしていたようだから。ごめんね、疲れているのに」
「いえ、気にしていません。ぶつかってしまってすいませんでした」
「光坊は大丈夫だ。頑丈が取り柄だからな」
「ちょっと鶴さん?」
ふむ、仲がいいようで何よりである。はぁ、とため息をついた大包平さんは「主、帰るぞ」と私の手を引く。私は慌てて羽織についたフードを被り、二人に礼をしてまた人混みに紛れた。
「どうして彼らは勘違いを?」
「……ただの噂だ。審神者と刀剣が恋仲になればーー仲が深まれば深まるほどに何処かにその刀剣の色を宿すという」
それは魔法的なのか、それとも染めるのかどちらなのだろうか。フゥン、と納得していれば彼は続けて口を開いた。
「主の白はあれの白とは違う。一緒にしないで欲しいところだ」
「うーん、私はどちらかというとシルバー寄りですもんね」
私の発言に再度ため息をついた彼はこっちだ、と門を潜る。そうすれば演練場にいきついた。
「あ、いたいた、大包平ー!主はいたかー!」
「あぁ、いた!」
「逃すんじゃねぇぞ、大包平」
「そんな私が動物みたいに言わなくても……」
そう言いつつ合流して迷子になっていたことを謝る。光忠さんが困ったように頬をかいた。
「あの人混みに流されちゃったかぁ。……あっち方面にみんな行くけど、なにがあるの?」
「店が色々あった」
「飲食店や雑貨屋なんかもありましたよ」
私の言葉に歌仙さんがそちらをみつつ口を開く。
「なるほど、今まで縁がない世界だね。覗きたい気持ちもするけれど、主もつかれたろうし帰ろうか」
「大包平の旦那、離すなよ」
「言われなくとも離さん」
「私は犬猫じゃないんだけどなぁ」
がっくしと肩を落としたが、迷子になった私が悪いのである。それ以上は何も言うまい。
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