2020/02/04
白い魔女がいる本丸2
・途中で切れてたので
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基本的鍛刀をすることも顕現させることも少ない。とりあえず今いる刀の練度をあげておきたいというか、私がまだあまり関われていない刀がいるのに新しい人を迎えるのはどうかというか、そんな理由で鍛刀はしない。顕現はたまに。兄弟だと言われてしまったら仕方ないものがある。それに、であるが、恐らくは刀剣達は鍛刀に良い思いを抱いていないのが薄々感じられる。出陣はともかく、演練にしても、鍛刀にしても、前の審神者と何かあったんだろう。でも、そんな理由を政府の役人である彼にこぼしていいものなのだろうか。何かの成績やこんのすけからの通信の内容を見た役人はペンを持って答えを待っている。隣にいる長谷部さんはすましているけれど。
「あまり」
「あまり?」
「あまり私が得意ではないので」
そういえば、長谷部さんがこちらをみた。私は気にしない。別に私の成績がどうであれ関係はないからだ。役人はペンを走らせる。
「得意ではない、というと?」
「顕著の仕方があまりよくわかっていないというか、苦手なんです。鍛刀も。うまくできないと言いますか」
「なるほど。君の霊力は特殊だとこんのすけからの報告も聞いている。それにあの出陣ゲート。もしかしたら、その関係もあるかもしれない」
彼はそう言って走らせていたペンを止めた。
「君にも苦手なことがあるとわかって安心した」
「貴様、それは主を馬鹿にしているのか」
「いいや。正直、あの本丸が短期間でここまで立ち直るとは誰も予想していなかった結果だ。今までもこのように引き継いだものはいたが、こうはならなかった。だから、政府の中ではこんな噂が持ちきりだ。君は魔女か、それとも聖女かと。完璧であればあるほど、欠点がなければないほど、君は人間から遠ざかっていく。君が人間であることがわかった。それだけでこちらは大助かりだ」
彼はそこで一度言葉を区切ると私をみた。
「鍛刀や顕著が苦手な君にこちらからの打診がある」
「打診?」
「この本丸のような本丸は数は少ないが一定数存在する。そしてまた死別などで主がいなくなった本丸も存在する。君にはその刀剣を引き取って欲しい」
それは困った。私は困った顔をしているだろう。だって、本当は私は鍛刀や顕著が苦手なわけではない。ただ、この本丸にいる刀ともう少し打ち解ける必要があるからだ。目を覚ましていない刀剣だっている。
「お返事は今でないといけませんか?」
「いいや。でも、受けてくれるなら政府の援助も約束しよう」
「少し、考えます。まだ皆さんと打ち解けたわけではありませんし、目を覚ましていない刀剣だっていますから」
「……そうか。では、覚えておいて欲しい」
彼はそう言って紙を横に置いた。
「君の刀剣となった彼らには異質な力が宿り始めている」
「異質な力?」
「あぁ、それがどういうものかはわからない。ただ、政府も報告がきたから把握していることだ。政府の中では、そんな得体の知れない審神者や刀剣がいるのであれば処分するべきだと主張する人間もいれば、研究の為に連れてくるべきだという人間もいる。この打診は君を、君の本丸をそう言ったものから守るためのものでもある。返事は早い方がいい」
その言葉に反応したのは長谷部さんである。
「脅しているのか?」
「脅してはいない。ただ、事実を言っただけだ。……三日待とう。へし切り長谷部くんだけでなく、他の刀剣とよく話し合ってくれ」
例えば襖の奥にいる刀にな。
その言葉に私は首を傾げてそちらを見る。誰かいるのだろうか。立ち上がった役人は返事はこんのすけに言えばいいと告げる。私もそれに合わせて立ち上がろうとすれば見送りはいらないと言われてしまった。そのままスタスタと去った彼に私は長谷部さんを見る。眉間にシワを寄せていた彼は私をみて曖昧に笑った。それでも見つめていると彼は観念したようである。
「主にバレた。出てきてかまわん」
その声に天井から薬研くん達が、襖の方からは大包平さんや御手杵さんが、障子の方からは同田貫さんや蜂須賀さんが現れた。
「悪いな大将」
「いえ、」
「嘘をついてよかったのかい?主は鍛刀が苦手でも顕著が苦手でもないんだろう?」
「それは構いません。嘘をつこうがつかまいが、彼は同じことを言ったでしょう」
「そもそもなんで嘘ついてんだ」
「まだ全員と打ち明けてもいないし、目が覚めていない刀を放っておくこともできないから」
困ったように笑えば、主はそんなやつだよなぁ、と御手杵さんにほわほわ笑われた。壁に寄り掛かった大包平さんが私をみる。
「主、なぜあの話を即決しなかった?」
「意見を聞きたかったので」
「俺たちが嫌だといえば主は断るのか」
「えぇ、数が多ければ」
「自分の身に何が起こるかわかっているのか?」
「私の身に何が起きようと構いません。貴方達に何かがある方が私は怖いし、政府の意見より貴方達の意見を優先したいだけです」
私の返答が恐らくは気に食わなかったのだろう。彼は眉を吊り上げる。
「俺たちの命と自分の命が等しいと思っているのか!」
「はい」
「正気か、主。俺たちは腐っても物だぞ」
「物も人間も変わりません。壊れる時は壊れるし、死ぬ時は死にます。それに貴方達には意志もあれば、心がある。人間とどう違いましょうか」
これでこの話は終わり、というように私は立ち上がる。
「皆さんにこんな話があったと伝えてきます。三日後までに皆さんの意見を聞きますから、それまでに考えておいてください」
「大将はどうしたいんだ?」
「私は皆さんといれるならどちらでも」
そう笑みを浮かべて部屋を後にする。心配そうにやってきた短刀達に私は大丈夫だと告げて話を伝えるかと縁側に向かった。
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眠り続けるその人を見下ろす。恐らくはあまりの悲しみに眠ってしまっているのだろう。でも、最近は随分と眠りが浅くなったようだ。今もぴくりと手を揺らし、粟田口の刀剣であろう刀の名を呼んだ。それも穏やかに。目が覚めるまでもう少し、というところだろうか。そっとその手を掴み、ゆっくりと霊力ーー魔力を馴染ませるように送る。
「貴方が目を覚さない間にことが進んでしまいそうです。本当は貴方が目を覚めてから、という話にしたかったのですが」
そう目を伏せる。
「もし、私の身に何かがあるとすれば、私の心の一部で貴方の心を補いましょう。そうすれば貴方は目覚めるはず」
もう一度、彼を見下ろす。鍵が導く心のままに。そう呟いて手を離した。答えは、明日だ。
部屋から出れば大包平さんが壁にもたれている。相変わらず怒っているのだろう。眉間にシワを寄せている。鶯丸さんはいじけているだけだと告げていたが、これは怒っている。月明かりが眩しい。
「主、話がある」
「はい、貴方の答えが最後です。場所を変えましょうか」
そう促せば彼は頷いて私の後に続いた。
辿り着いたのは私のお気に入りの場所だ。デイブレイクタウンの屋根の上である。月が見える。海も見える。潮風が顔に当たる。追いかけてきていた大包平さんは私をみた。
「身軽だな」
「そうですか?」
追いかけて登ってきた彼は景色を目に移した。息を飲んだ彼に、「綺麗な景色でしょう?」と微笑んでみる。
「私の大切な場所なんです。案内したのは貴方が初めて」
「そうか」
彼は満更でもない笑みを浮かべると私の隣に座る。しばらくは景色を見ていたけれど、話を切り出すために彼を見た。
「答えは出ましたか?」
私の言葉に彼はちらりとこちらをみると、また景色をみる。
「俺は今までいくつもの刀を折った」
「折った?」
「あぁ、前の主の命令でな。天下五剣が誰もいない、そんな状況の本丸で一番の刀。それが俺だった。刀のほとんどが俺に願った。兄弟刀を守って欲しいと。だから、俺はそうであろうとした。刀の横綱と称される自分に相応しくあろうと。だが、この手からこぼれ落ちるように、一振り、また一振りと」
彼はそう言って掌をみる。想像するだけでぞっとする。
「そのうち、前の主は俺の様子を面白がった。俺が守れなくて足掻く様を、掌からこぼれ落ちる様を、ただ嗤ってみていたんだ。それに怒る余裕さえも、俺からは抜けていた。ただあったのは自責の念だけだ」
彼はそこで言葉をとぎらせる。そうしてまた少しの沈黙があり、彼は口を開く。
「鶯丸が言っていた。お前があの時、苦手だとついた嘘は俺たちの様子をみて感じだからとっさにいったのだろうと。……俺ははっきり言って、怖い」
「怖い?」
「これ以上増えては俺の手は届かなくなる。守れなくなる。だが、拒んだら最後、刀も主も守れない」
彼はそう言って私を瞳にうつす。
「俺は守りたい。お前も、この本丸の皆も!どうすればいい!どちらに転んだって俺は守れない!」
その言葉に私は彼をゆっくりと抱き寄せた。子供をあやすように、トントンと背を叩く。
「大丈夫」
私はその言葉を繰り返す。呪文のように。彼の中の恐怖を溶かすように魔力をおくりこむ。しばし動きを止めていた彼は、そっと私の服を握った。
「……何が、大丈夫なんだ」
「大丈夫です。もう、何も貴方の手からこぼれ落ちたりなんかしない」
そう少し体を離す。彼は私をみた。
「なぜそんなことが言える?」
「もう、貴方は一人じゃないから」
私はただ彼を真っ直ぐにみる。彼は目を見開いて私をみた。
「私がいます。それに、みんなもいます。貴方がもう全てを背負う必要はない。私が貴方達を守ります。どちらに転ぼうと、必ず。だから、私を信じてください。だから、一人で全てを抱えようとしないで」
そっともう一度彼を抱きしめる。ポツリ、と私の肩が濡れる。その背中を撫でれば彼は私の服を握った。大丈夫、大丈夫ともう一度繰り返す。小さくくぐもった声が聞こえた。
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