2020/02/09

白い魔女がいる本丸3

白い魔女がいる本丸

「泣いてなどいない」
「うっそだぁ、あれ泣いてたでしょー!」
そう囃し立てた短刀達に大包平さんは泣いてなどいない!と繰り返す。どうやら近くから様子を伺っていたらしい。良い雰囲気だったから顔を出せなかったとは薬研くんのセリフである。良い雰囲気とは?と首を傾げてみたがそれは歌仙さんの一声によって佇まいがなおされる。全く、とこぼされた言葉に大包平さんは謝った。薬研くんがちらりと彼を見上げる。
「ま、なんだ、大包平の旦那。今は頼りないかもしれねぇが、俺たちを頼ってくれや」
「そうだな、次は後ろではなく隣に立たせてもらうぞ。大包平」
きっと、その言葉は彼にとっての。


「まさか了承してくれるとは思わなかった」
彼らの結論を政府に伝えれば、役人の第一声はそれだった。相変わらず何か紙を持っている彼はペラペラと紙をめくる。
「君に引き受けてもらいたい刀は何振りもいるが、いきなり全ては出来かねる。まずは二、三振り。それが落ち着き次第数を増やすつもりだ」
「そんなに数がいるのですか?そのような本丸は少ないと」
「本丸は少なくとも、そこにいる刀剣の数は多い。で、何が欲しい?天下五剣か?それとも珍しい刀か」
「いえ、そう言った人は特に。てっきり選ぶことなく渡されるのだと」
「……あぁすまないね、君のように引き受けてくれる審神者は選ぶ人が多いから。君のところの太刀が四、槍が一、薙刀が一、大太刀が一。打刀が八、脇差が四、短刀が八、か」
そう言って役人は電子ロックを触る。空いた扉の先にいたのは何十もの刀剣達だ。まるで箱庭のようである。真白を基調としたその空間、そこにいたのは全ての目がこちらを向いた。
「この中から好きに選べばいい。ここにいるのは主に先立たれた刀剣もいれば、主に売られた、捨てられた刀剣もいる。主に酷いことをされた刀剣もいれば、主にひどい仕打ちをした刀剣もいる」
その言葉に、ざっと周りは騒がしくなる。審神者か。審神者のようだ。白い。鶴丸みたいだな。鶴丸国永の嫁が何かか。ざわざわとした声も役人の静かにしろという言葉にピシリと止んだ。そうしてピシリと並んだ彼らはまるで売り物の人形みたいだった。それはどこか、あの私が産まれた場所の光景を思い起こさせる。
「いつものように指定はないのか?いつもは珍しい刀が真っ先に選ばれるだろ?」
「そういうものは特にないと聞く」
役人はそう言って私をみた。どうも選べというのは心が痛い。周りをキョロキョロと見渡していれば、今回の審神者は口も聞けないのか、と嘲笑うような声もした。私はその言葉にそっと息を吸う。そして口を開いた。
「私に力を貸してくれる方なら誰でも構いません。聞いたところ、同じ刀であっても性格が違うと聞きましたから」
帰ってきたのは当たり前であるが沈黙である。役人は私をみた。
「君は……刀剣に選ばせるつもりか」
「はい。私は彼らを選びません。いえ、選べません」
「どうして?」
「私が選んでも意味がないように思います。……私ができるのは彼らに手を差し伸べること、共に歩むことだけです。差し伸べた手を取るのも、取らないのも彼らの自由でしょう。歩み出すのも立ち止まったままでいるのも」
「立ち止まるのはいいのかい?」
「誰しも、いつかは歩き出すものですから。それが前か後ろかは当人次第でしょうけれど」
「にゃあ」
そんな声と共に足もとに温もりを感じる。そちらを見下ろせば愛らしい子虎がいた。本丸にはいない存在である。小さく虎くんと虎を呼んで短刀が駆け寄ってくる。服を見るに恐らくは粟田口だろう。子虎を抱え上げた彼は何度も何度も私に謝る。私は彼にあわせて屈む。
「大丈夫、怒ってないよ。その子は君の友達なの?」
「えっと、はい、とも、だちです」
消えいるような声である。彼はじっと虎と足元をみている。私はそっとその手をとった。
「あの、その、う、うぅっ」
「ゆっくりでいいよ、はなしてごらん」
「ぼくは、とらいっぴきたおせないし、きょうだいやほかのひとや、にかばわれてばっかだし、うぅっ、戦うのも、にがてなんです、でも、あの、えっと、いっしょうけんめい、がんばるので、ぼくたちを、つれていって、ください」
蚊の鳴くような声である。私はその声に笑う。
「もちろん、私でよければ」
「!」
ぱあっと表情を明るくした彼は後ろをみた。その視線の先には数振の刀がいる。どうせなら一緒の方が良くはないのだろうか。そう首を傾げていれば、私の手をとっていた彼が小さく「陸奥守さん」と呼んだ。
「五虎退、大丈夫ぜよ。はっはっはっ、新しい主は優しい人みとうでわしは安心じゃ」
「そんな君に朗報だ。この審神者は引き継でね。本丸には三十の刀剣しかいない。審神者自体鍛刀も顕著も苦手ときた」
「……おんし、何が言いたいんじゃ」
「そして、彼女の本丸に五虎退と同じく君はいない」
「!」
その声に彼は目を見開いた。
「……今の話はほんまかえ?」
「はい。貴方さえよければ、ですが、彼と一緒に来ませんか?きっと、一人で見知らぬ場所に行くよりも知っている人も一緒の方がいいと思うのです」
「審神者は何人連れ帰る気なんじゃ?」
「ニ、三人くらい、ですかね」
「ほんに、もう一人ええやが?」
「もちろん」
「よし!」
そう言って彼は一人の青年を連れてくる。離せ、と抵抗しているがいいのだろうか。
「えっと、いいんですか?」
「かまんかまん、同じ場所におった大倶利伽羅を一人残していけんからのう!」
「余計なお世話だ」
そっぽを向いた彼は私をみるとツイッと視線をそらす。役人が紙に何かを書き込むと、部屋をでるぞ、と扉を開けた。五虎退くんと陸奥守さん?に手を引かれて出た青年を見送り、私はそこにいた他に頭を下げた。
「皆さま、またいつか」
「審神者がそう頭を下げるんじゃない」
役人さんがバインダーで私の頭を軽く叩く。そうして出た廊下で私は三人をみた。
「私はナマエと申します」
「!?君は!こんのすけからの報告は本当だったのか!!」
「初対面の方に名前を名乗るのが礼儀でしょう。共に歩んでもらうのですから」
「僕も!いるんだけどな!」
「役人さんは人間ではないのですか……?」
首を傾げた私に彼は動きを止めて深いため息をついた。
「ナマエ、ナマエ、ナマエ。面白い響きじゃな。わしは陸奥守吉行」
「ぼくは五虎退です……!」
「で、こっちのすかしてるのが大倶利伽羅じゃ」
「陸奥守さん、五虎退くん、大倶利伽羅さんですね。私のことは主でなくても構いません。お好きにお呼びください」
「おん!そうさせてもらうぜよ!」
ニカリと笑った彼はなるほど本丸にはいないまた別のタイプだ。土佐弁だし。役人がもう一度ため息をついて、ゲートを私の本丸に繋げてくれる。見えた景色のそこには大包平さん達がいた。こちらに気づいた大包平さんと長谷部さんが何か言う前に今剣くんが飛び込んでくる。
「主さま、おかえりなさい!」
「大将、次からは誰かを連れていったほうがいいぜ。俺も含め誰一人仕事になっちゃいないからな。で、誰を連れてきた?」
薬研くんの言葉に私は後ろをみる。ヒョコリ、と顔を覗かせたのは五虎退くんだ。
「五虎退だ!」
「えっと、あの、その、こん、にちは、」
「おや、主、一人だけかい?」
「ううん、あとふたーー」
「おいばか、押すな」
「おんしがとまっちゅうからじゃ」
大倶利伽羅さんと陸奥守さんがゲートから現れる。そうしてその先は消えた。
「大倶利伽羅と陸奥守か。俺はてっきり太刀を連れてくるかと思ったが」
「五虎退くんと元々同じ場所にいたようなので」
「なるほどな」
「良かったな、大包平の旦那。天下五剣じゃなくて」
「うるさいぞ」
「いやぁ、主、面白かったぞ。大包平はうろうろうろうろとゲートから動かなんだ。やれ主は天下五剣をだとかどうだと」
「鶯丸!」
そうやんややんやと騒いだ彼らに仲良しだなぁとクスクス笑う。大包平さんはこほん、と咳払いをした。
「とりあえず、みんなお出迎えありがとう。三人も疲れるだろうから、中に入ろう?」
手招いて玄関を開ける。おかえり、という第二陣の声が聞こえた。

==

本丸にもお隣さんがあるらしい。と、いうのも何かと物知りな陸奥守さんが教えてくれたことだ。演練で会うのは同じ場所に住む人が多く、またどこもお隣の本丸があるとのことだ。陸奥守さんは本丸経営について詳しく、長谷部さんと一緒に納得したりすることが多い。それをみていた加州さんが「陸奥守、初期刀だったでしょ」と告げたのは厨房でご飯を作っているときである。
「ばれちゃあ仕方ないぜよ。おん、そうじゃ」
「初期刀?」
「主にはいなかったけど、本来は一人に一振り打刀が一緒に配属されるの。まぁ、打刀の中でも比較的バランスが取れて穏やかな刀が初期刀になるんだけどね。初期刀は主のサポートをするのも役目だから、本丸経営について詳しいって聞いたことがあるよ」
「へぇ……じゃあ私の初期刀は皆さんですね」
そう笑いながら言えば、加州さんが「主のそういうとこ〜!」と私の肩に頭をグリグリとなすりつける。くすぐったい。陸奥守さんが目を瞬いて、「初期刀がおらんのかえ?」と首を傾げた。
「もうそんなの前の主の時に折れたよ。山姥切みたいだったけど」
「ん……んっ!?」
「あれ、聞いてないのかい?この本丸、主がナマエちゃんに代わって穏やかになっただけだよ」
そう言った光忠さんに私はお鍋に苺を入れて火にかける。陸奥守さんがそういうことやったかぁと頭を抱えた。
「珍しいと思ったんじゃ。初任者の審神者のとこに、大包平がおる時点で」
「?」
「あぁ、主は気にしてないと思うけど、大包平さんは珍しい刀だから。本丸にいない審神者さんも多いんじゃないかな」
「あぁ、なるほど、だから大包平さんと出かけると他の人と比べて視線が痛い時があるのか」
苺を木べらでかき混ぜながら告げる。砂糖が足りない気がするので、魔法を使って砂糖を取り寄せ鍋に入れる。
「主」
「もう少し甘いほうがいいかなって」
「何作ってんのかなって思ったら主、甘いもの作ってたの?」
「うん。苺ジャムを」
「苺じゃむ?美味しそうだね……って違う違う、主、それ僕らは慣れたものだけど、陸奥守くんには違うと思うよ」
そう告げた光忠さんは宙に浮いた砂糖の箱をと匙を指差した。私はそれをみてから陸奥守さんをみる。驚いているというか、心なしか目をキラキラさせているような。なるほど。私はそっと箱と匙を下ろして手で抱えた。
「主、今更遅いよ」
「大倶利伽羅が言うとったんはこう言うことかえ!」
目をキラキラとさせて陸奥守さんは口を開く。
「出陣したあと、おんしがぱぁぁぁて透明な花を作り上げる言うてたんじゃ!わしも五虎退もわからんかったき、見間違いじゃ言うとったんじゃ」
「あぁ、伽羅ちゃんが拗ねてたのはだからか」
「悪いことしたぜよ」
「ちなみに花を集めるとこう言うブローチになるよ」
そう言って光忠さんは黄色いブローチを、加州さんが青いブローチをみせた。
「大包平や御手杵がつけとるのとはまた違う……?」
「その二人と同田貫は鬼だから。誉の数が異次元だから、ブローチの形も違うの」
「誉の数が異次元」
「まぁ、彼ら、一緒に出陣すると片っ端から誉もらっていくからね」
「ほぅ……」
「なんの話だ」
そうキッチンの窓から顔を出したのは大包平さんである。手合わせ当番であるが、終わったのだろう。
「大包平さんが強いですね、と言うお話です」
「あぁ、そうだな。俺は強い。主、何を作っている?かなり赤いが」
「苺ジャムです。苺は生のままだと日持ちしないので」
「苺?」
「甘いのです」
「なら稽古後の短刀達にやってくれ」
なんやかんやで優しいなぁ、と思うのである。私は苺ジャムの作りかけを魔法を使って小さなアイスにする。それをみて少し目を輝かせる彼は可愛らしい。そうして彼に渡し、ついでに光忠さんや加州さん、陸奥守さんに渡しておいた。しばらくすれば短刀達がかけてくるだろう。
「いやぁ、噂もあてになるもんじゃ」
「噂?」
「次に刀を貰いにくるのは魔女っちゅう噂が流れとったんぜよ。馬鹿らしい言うちょったんじゃが。でも、なんちゅうか、ナマエは、魔女というより妖精さんじゃな」
その発言に私は目を瞬いたし、光忠さんと加州さんは吹き出した。妖精さん、とはいい例えなのだろうか。まぁ魔女はおどろおどろしいイメージがあるもんなぁ、と思いつつ「人間ですよ」と答えたけれど。


さて、お隣さんはきちんと存在していたらしい。演練の相手のコードが一番違いだったからだ。それをみて五虎退くんが、お隣さんですね、と告げた。
「おっ、そこにいる真白のちっこいやつは、この前の審神者じゃないか」
よっと手をあげた真白の彼に、隣にいた男性ーー恐らくは審神者ーーが「知り合いか?」と尋ねた。
「あぁ、この前光忠と衝突事故をおこしていた」
衝突事故。ただぶつかっただけなのだけれど。話を聞いた審神者さんは心配そうに私をみる。
「それは……大丈夫だったのか?」
「えっと、はい、こちらは怪我もなく」
そう一応断りを入れれば、彼は私の身なりを見た。
「それにしても白いな……あの髪色、鶴丸の色移りか?」
「いや、どうやら地毛らしいぞ。あと、主、それは向こうの大包平の地雷だ」
その言葉に私と彼は大包平さんをみる。大包平さんは腕を組んで口元に笑みを浮かべているが目がつり上がっている。うむ、怒っている。ヒエっと声をあげた彼に、別の刀が笑った。向こうの青江さんが口を開く。
「おや、主、近いようだよ」
「何が」
「番号がお隣さんだ」
「隣?右隣はあのじじいだろ?」
「その番号は僕らの前だろう?彼女は次だから左隣だね」
「左隣は黒い……まさか、審神者の入れ替えか?」
「石切丸が左隣から障気がなくなったって言っていたけど、多分そういうことだね」
そう言った青江さんはそう言って私をみる。
「お隣に挨拶もなしなんてひどいじゃないか」
「えっ、あ、すいません」
「仕方ないだろう。俺たちも主も隣の存在を知ったのは昨日の今日だ」
長谷部さんの言葉に私も苦笑いして頷く。彼らは顔を見合わせた。浦島くんが暇そうに彼らをみる。
「というか、演習しなくていいの?」
その一言に、周りは演習に意識を向けた。


演練であまり傷だらけにならない大包平さんが傷だらけになったあたり、彼らは強いのだろう。はらはらしていれば、大包平さんが高笑いした瞬間、刀に光がまとわりついた。そして振りかざした斬撃は光の斬撃となって相手を弾き飛ばす。その一撃が最後だったが、恐らく私も相手もそれどころじゃない。五虎退くんもびっくりしている、というか全員がびっくりしている。私は大包平さんに近寄って傷が治りだした彼を見上げた。
「大包平さん、今のは……」
「俺もよくわからないが、力が昂ったのはわかった」
と、いうことは彼は無意識に魔法をつかったのだろう。先程の効果などをみるに兄弟子のホーンストライクに近いものの気がする。恐らくであるが、私の霊力ーー魔力が彼に馴染み、また勲章のブローチを身につけていたから起こったのだろうと推測できる。防具として加護を与えたのに攻撃に転じられるとは思いもしなかったけれど。フゥム、と考えていれば戦場だった視界が切り替わり演練場に変わる。演練が終わりだというアナウンスが聞こえた。
「とりあえず帰りましょう。少し考えをまとめさせてください」
私の言葉に刀達が返事をすると両手をつないだ。迷子防止だそうだ。……もうあんなことにはならないけどなぁ。

==

「恐らくですが、私の霊力が大包平さんに馴染んだこととそのブローチが原因だと思われます」
「これがか?」
「簡単にいうと、貴方は魔法を使いました」
私の発言に彼はキョトンとした表情をみせた。というより話を聞いていた周りもまたキョトンとしている。
「魔法って、主がいつも傷を治してくれたり物を浮かせたり、はたまたアイス作る時にやってることと同じようなこと?」
「うーん、物を浮かせるのとアイスはまた違う気がしますが、傷を治すのは似た意味かなぁ」
生活魔法と戦闘魔法の差というか。フェアリーゴットマザーの魔法と兄弟子達の魔法の差という感じであるが、これは感覚的な物だから説明には向かないだろう。歌仙さんは眉尻を下げて私をみる。
「主、もう少し噛み砕いてくれないかい?」
「んん……結論を非常に簡単にいうと私の霊力が馴染んだらブローチつけてる人はみんな何かしら大包平さんみたいなもの使えるようになると思います」
「というか、そもそも大包平は何やったんだ?」
「すごかったんだよ、大包平さんが真剣必殺したら光の斬撃がバーって!相手の鶴丸さん弾いちゃった!」
「光の斬撃?バーっ?」
「やって見せろよ、大包平」
「そうしたいのは山々だが、やり方がわからん。偶々できた、が正しい」
大包平さんはそう言って腕を組んだ。見てみないとわからないよなぁ、と思いながら「似たようなことは私も少しできるのですが」と言えば周りは私をみた。
「主、できるのか?」
「えぇ、兄弟子がーー」
私の声を遮るように呼び鈴のような音がする。首を傾げながら音がした方を見れば恐らく出陣ゲートではなく門のほうである。
「この音は門の呼び鈴じゃな」
「お客さん、でしょうか」
もう一度鳴った音に私はとりあえず玄関の方へ向かう。周りの刀剣も同じように移動し、同田貫さん達が私の一歩前にたった。
「あんたは下がってな」
その言葉に、彼は片手を刀に置いたまま勢いよく扉をあけた。
「うおっ!?殺気が膨らんでると思えば!よせよせ俺は敵じゃない。お隣さんだ」
その声に門の方を見る。お隣さんの鶴丸国永だ、と、先程よりはラフな格好をした白い彼が両手をあげている。その後ろには今日相手をしてもらった審神者とこの本丸にはいない布を被った青年がいる。
「お隣の審神者さん」
「主の知り合い?」
「今日の演練相手の方です。とてもお強い方でした」
そう言えば、へぇ、と同田貫さんは彼をみた。
「で、他所の審神者がなんのようだ」
「さっきの、大包平のやつだ!」
白い彼ーー鶴丸さんが入ってきて私の手を握る。
「最後の大包平の一撃!あれは驚きだった!どうやったんだ!?俺もできるようになりたいんだが!」
「おい、鶴丸国永」
「あぁ、悪い悪い。つい興奮しちまった」
パッと両手を離した彼に私は苦笑いする。やっぱり異質であるらしい。恐らくは審神者さんは刀剣達に私が何かをしていないか心配して来たのだろう。
「中でお茶を飲みながらお話でも構いませんか?」
「主!?」
「中に入れてくれるのか!?」
「貴方達が悪い人でないとわかるのでどうぞ」
そう促せば周りの刀剣だけでなく審神者さんも頭を抱えた。
「お前……大丈夫か?いやほんとに。俺たち初対面だぞ」
「でも、心配してくれるということは悪い人ではないですし、本当に悪い人なら中に入れないので大丈夫ですよ」
「……結界か?」
結界、とは。そういう魔法をかけているのだけども。鶴丸さんがワクワクしたように入り、こういうのを洋風っていうんだな!と笑う。
「主、仕方ないからお茶を入れるけど、最低二振りはつけておいておくれよ」
歌仙さんの言葉に、恐らくみんなついてくるので大丈夫では、と思うけれど素直に頷いておいた。

「刀身には異常はない。となると違うのは」
ふむ、と考えた審神者さんに山姥切さんーー加州さんが教えてくれたーーは胸元、と大包平さんの胸元をさした。
「何かがついてる」
「お、それ、俺も気になってたんだよな!だいたいの刀は大なり小なりそれつけてるだろ?」
短刀や脇差と遊んでくれていたらしい鶴丸さんが縁側に身を乗り出した。
「多分、それと似たようなものがそこに飾ってある花だとは思うんだけどな。似たような感覚がするし」
なるほど、勘がいい。
「これは?」
「誉の証だ。誉をとれば主がくださり、誉を十回取れば胸につく勲章に変わる。大きさはそれが何回あったか、だ」
長谷部さんの返答に、彼は「ふむ」と考える。
「触っても?」
「構いませんよ。ただ、冷たいので気をつけてくださいね」
私はそっと大包平さんの勲章ブローチを外す。そうして審神者さんに手渡そうとしたが、鶴丸さんが「俺が受け取ろう」とブローチを受け取った。なるほど、審神者同士で物の受け取りは好まれないらしい。
「冷たい!?なんだ、これ、氷か!?」
「氷?」
「ほら、主も山姥切もさわってみろ!」
その言葉に彼らは勲章ブローチを触る。山姥切さんが飛び上がるように手を引っ込めた。
「なんだ、なんで冷たいんだ」
「氷っぽくないか?」
「氷なら普通溶ける」
「そりゃそうか」
「……悪い物じゃないな。逆に刀剣達をなんらかの形で守るようになっている。だが」
そう言った審神者さんは両手を上げた。
「理論も何もわからん。鶴丸のいうようにこれは氷で間違いないが、解けない理由もわからなければ中に何かに入っているのがなにかもわからん」
「珍しいな、主はこういう物に詳しいのに」
「わからん。俺が触ったことがないもんだ。わかることは一つ、多分これは陰陽術でも神術でもない、恐らくは東洋的な物でもないってことだけだよ」
「わ、すごい、そこまでわかるんですか」
素直に感心していると、審神者さんが私を見る。
「私達もあの現象は初めてだったんです。恐らくは私のま……霊力が彼に馴染んだこと、彼の勲章ブローチの光の加護が強いことが相まってああなったのだと私は思います」
「光?」
「なんだ、主、それは初めて聞くぞ」
大包平さんの言葉に頷く。確かに言っていないことだ。
「わかりにくいので言わなかったんですが、色にはそれぞれ意味があります。大包平さんの勲章や花は白、即ち光の魔法の素を閉じ込めていますので光の加護が強いんです」
「光?あぁだから夜になると百合の花が薄らに光っているのか」
縁側でお茶を飲んでいた鶯丸さんがこちらをみながらそう告げた。そういうことです、と頷けば大包平さんは私をみる。
「なら主、鶯丸の緑は」
「風の魔法の素ですかね」
「まて、今、なんと言った!?」
「?」
「魔法!確かに君はそう言ったな!?」
目をキラキラさせた鶴丸さんが私の手を掴む。審神者さんが鶴丸さんの首根っこを掴むのと大包平さんが私を引き寄せるのは同時である。
「お前な……人に地雷云々言っておいてそれはないだろ」
「あぁすまない、俺としたことが。つい驚きのあまり興奮してしまった。だが、主!魔法!魔法と彼女は言ったぞ!」
「聞いた。だが、いいか、鶴丸。魔法だなんてものは西洋でも扱えるものはいないとされているんだぞ。善良であっても魔女はかの魔女狩りでみんな死んだともされている。第一そんな非現実的なものが今の時代あってたまるか」
「おん。おんしのその気持ち、外からきたわしも重々わかるぜよ」
陸奥守さんが審神者さんの肩を叩いた。
「でも、魔法はあるんじゃ」
「というか、魔法じゃないなら俺が食らったあの斬撃はなんだと思ったんだ?」
「俺の知らない呪術だと思ったからこうして話を聞きにきてるんだろ。話を戻すが、白が光、緑が風なら他の色はなんなんだ?見たところ、あと赤や青、水色や黄色があるようだが」
「赤が炎、青が水、水色は氷、黄色が雷です」
「五行の思考に近いな」
「五行の話は聞いたことがあります。恐らく近いでしょう。私が使えないだけで地面に関するものもあると聞きます。水は氷の派生に近く、それいがいは対があると私は習いました」
「へぇ、じゃあ、光の対もあるのか?」
「ありますが、地面と同じく私は扱えません」
「五行の発展形か……?」
悶々と考えている審神者さんに、鶴丸さんがワクワクしながら「これは見せてもらうっきゃないな!」と審神者さんの肩を叩いた。
「お前も気になるだろ、山姥切」
「……別に俺は」
「いや、まんばの意見がどうであれ、ここまで明らかに審神者自体が白なら、俺はあれがどういうものかを分析したい。だが、様子を見るに、刀剣は自在に力を扱えているわけじゃない」
その言葉に、大包平さんがピクリと反応した。青筋を浮かべているような気がする。まぁまぁ、と彼を宥めさせれば気にしていない審神者さんは口を開く。
「アンタができるならアンタにやって欲しいんだが」
審神者さんはそう言って私をみる。ううん、兄弟子の一人に似ているなぁ、と私は関係がないことを考えていると大包平さんが先に口を開いた。
「断る!さっきから黙って聞いていれば、主を疑って来たんだろう、貴様は!そんな奴に主の力をみせる必要はない!」
「じゃあ大包平ができるようになってくれよ。できるだろ、天下五剣より凄いなら」
あ、これは乗せられる気がする。私はあまりそんな面を今まで見たことがないが、大包平さんの前の発言で彼は天下五剣にこだわりみたいなものがあるのは聞いて取れた。
「いーー」
「それも断る。大包平は貴方のおもちゃではないのでな」
大包平さんの口を長谷部さんが手で覆い、鶯丸さんが答える。殺伐としてきたので私は口を開いた。
「……他の本丸の方に他言無用ならば引き受けますが。貴方の言葉を聞いたところ、やはり異質なようなので」
「ん……そうだな、異質な奴は審神者会には色々いるがアンタは飛び抜けて異質だ」
「主」
「似たようなものをおひとつお渡ししましょう。あの斬撃を調べるにしろ、ブローチにしろ、花と同じ素との関係ですので。もう少し貴方を知ってから私達に害がないとわかればお見せしましょう」
そう譲歩すれば彼は「初対面だしそれもそうか」と頷いた。私はいつものように指揮をする様に手を振る。被ってない花といえばなんだろうか。雪姫でいいか、と小さく可愛らしいその花の形をした氷に光の加護を詰め込み一輪の花をつくる。
「どうぞ」
「は?はぁ??」
「今のはなんだ……」
「魔法だ!これこそ魔法だな!主、受け取らないなら俺が受け取るぞ!」
花をとった鶴丸さんは覗いたりあらゆる角度から眺めたりしている。いまだ混乱している審神者さんと山姥切さんを大包平さんが立たせた。そうしてずるずると引き摺られていく。鶴丸さんはスキップをしながらその後に続いた。
「主、よかったのですか?」
「あれで引き下がってくれたからまぁ……今日は大包平さんの一撃で有耶無耶になったけど、向こうが勝っていたし……みんなには悪いけれど」
眉尻を下げてそういう。あの審神者さんのようなタイプはあの手この手で目的を達成するというか、頭の回転がとても速いのである。恐らく大包平さんを揺すった次は私か他の刀剣に話を振っていただろう。小さくため息をつけば、光忠さんが甘いお菓子を出してくれた。嬉しい。

==

さて、気を取り直して。
大包平さんの一撃は魔法と思われる。彼の感情の昂りに呼応したと思われるのだ。ということはある程度は制御できてもらわないと困るし、恐らく同田貫さんや御手杵さんも同じようなことができるはずだ。今日の分の仕事は終わらせたのだし、彼らに話しておいたほうがいいのかもしれない。というか、制御をできるようになってもらうしかない。そうぼんやり執務室で考えていたら破壊音がした。肩を跳ねさせてそちらをみる。道場の方だ。バタバタと秋田くんと五虎退くんがやってきて、「主君大変です!」と告げた。
「大包平さんと同田貫さんと御手杵さんの手合わせ中に、大包平さんがぱぁぁっどーん!っと同田貫さんを!」
……なるほど、やはり制御が先決らしい。

道場にたどり着いてみると壁に穴が空いていた。同田貫さんは大丈夫だろうか。助け起こされている同田貫さんにとりあえず治癒魔法をかけて手入れ部屋に行くように言っておく。
「大将、手入れ部屋は大丈夫みたいだぞ」
「えっ?」
「刀身は傷ついてない。損傷があったのは体だけみたいだ。大将が魔法を使って治してくれる時と一緒」
薬研くんはそう言って刀を見せてくれる。確かに刃こぼれも見当たらない。
「何があったの?」
「大包平の旦那が二人に追い詰められてな、そうしたら刀身が光ってーーこうだ。斬撃が飛んだように見えたんだが……」
ということはやはり魔法が発動したらしい。はぁ、とため息をついて道場の方を見る。大包平さんがピシリと固まっていた、というか正座をした。近寄ってきた御手杵さんがいつも通りのんびりと口を開く。
「主ー、あんまり大包平を怒らないでくれ。俺たちが見てみたいってけしかけたんだ」
「いえ、怒っていません。ただ、制御を教えないとな、と……」
「制御?」
「真剣必殺のたびにそんなことが起これば、大変なことになるので……」
「確かにな。遡行軍も検非違使もビックリだ」
「恐らく、御手杵さんや同田貫さん、下手をすれば勲章を持っている方はできてしまう可能性がありますから……」
「俺たちもか?」
「はい、私の霊力とその勲章が馴染んだ結果だと推測してます」
「なるほどなぁ」
そう相槌を打った薬研くんはさておき、私は大包平さんを呼ぶ。彼はまっすぐにこちらに来ると勢いよく頭を下げた。
「主、本当に申し訳ない……!」
「私は怒ってません。だから、顔をあげてください」
そう言えば彼は恐る恐る顔を上げる。本当に怒ってませんよ、と言えば彼は眉尻を下げたまま顔だけ上げてこちらをみた。……なんか犬っぽいな。とりあえず頭をぽんぽんと軽く叩いておく。これで罰はお終いだ。様子を伺っていた大倶利伽羅さんがポツリと口を開く。
「主の魔法で直らないのか」
「あぁ、伽羅ちゃんは知らないよね。主、壊れたものは直せないんだよ」
陸奥守さんが目を瞬いた。
「そうやったやが?」
「はい、壊れてしまったものは私は直せません。地道に修理するしかないです」
「放っておいても主の記憶で修復されるぜよ」
「これ以上洋風になるのはいただけないかなぁ……とりあえず、大包平さんは外で手合わせしてください」
「わかった……」
「それと、少し刀をお借りしても?」
そういえば彼は動きを止め、一部が顔を真っ青にした。……どうやら地雷を踏んでしまったらしい。私がごめんなさいと謝ろうとすると大包平さんは刀をホルダーから外して私に差し出した。
「いいんですか?」
「あぁ」
頷いた彼に刀を両手で受け取る。思っていたより軽い気がする。そのまま抜刀、としたいが扱い方があまりわかっていない私である。とりあえず鞘から抜いて刀身に馴染ませるように光の魔力を注いだ。刀身に光の粒子が纏う。私の方が穏やかななは、まぁ、体質というか性質の差だろう。難なく注げるということはなじんでいる証拠である。とりあえずそれを強制キャンセルし、刃を鞘に直してそのまま大包平さんに返した。
「もういいのか」
「はい、やっぱり私の霊力が馴染んでいるようです。大包平さん、そのまま抜刀してみてもらっていいですか?」
「?これでいいのか?」
「そのまま霊力を刀に集めるようにしてください」
「霊力を……?」
「わかりにくいかな……」
彼の手に手を重ねて私の魔力を集める。また光の粒子が刀に纏った。
「この感覚、わかりますか?」
「なんとなくだが。だが、先程の方がもっと……」
「先程のは貴方の感情が昂ったからでしょう。昂るたびにああなっても困るので、制御を教えます。とりあえず初歩はそれくらいです。物事に順番があるように、魔法にも順番があります。普段からその状態ができるようになれば教えてください」
「……わかった」
私が手を離すと光は消える。あとはまぁ彼次第だろう。一応制御のバングルでも作っておくか、と彼の手首に魔法をかけた。
「これは?」
「先程のような突発的におこる魔法ができなくなるようにしたものです。怪我人が出ても困りますので。意図的にできるようになれば効果はなくなります。御手杵さんや同田貫さんにはあとで渡しますね」
「ぐ、ぅ、仕方がないか……」
「なんで俺たちもなんだ?」
「御手杵さん達も多分できると思うので」
「俺たちも?」
首を傾げた彼らに私は彼らを手招いた。同田貫さんに抜刀するようにいえば彼は抜刀した。私は彼の手に手を重ねる。バチリという音がして刀身に電流がはしった。
「あぁ?なんだ、今の」
「同田貫くんは僕と同じ黄色だから、雷じゃないかな」
「雷なんざどうすんだ」
「それは使いようというか……?大包平さんは初歩を抜かして応用を習得した感じなんですけど、お二人は練習次第でなんとでもできますよ」
「じゃあ俺は何ができるんだ?」
「御手杵さんは水色なので、物を凍らせれますね」
「物を凍らせる?」
「私はよく足止めにつかったりもしますが……」
「足止め」
「御手杵はアイスつくれないの?」
「御手杵さんの魔法とアイスの魔法はまた違うものなので」
そう緩く首を振る。
「まぁ、皆さん強いので使わなくてもいいと思います。私はどうしても体力も少ないし、力も弱いので魔法ができた方がよかった、というだけの話ですし」
さてそろそろ話は終わりだと、ぽんぽん、と手を叩く。
「そろそろお話は終わりにして各自役割に戻りましょう」
私の言葉に短刀や脇差たちが「はーい」と返事をした。うむ、今日もいい返事だ。

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白魔女本丸草子 

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