2018/01/31
↓ホラーしてない
大学生の佐藤さんと仲良くなった。こちらの佐藤さんは人生経験が短いだけ少し違う風にも見えるけど、美術も文学も好きな学生らしい。美術館や綺麗な景色の見える場所なんかに連れて言ってくれる。ちなみに彼の話によると荷風さんはゼミの先輩らしい。大学生の家庭教師と門の前で咄嗟に紹介したからか、周りはあまりなにも言わない。ちらほら噂があるみたいだけど。しかし、まぁ、私の知らない面もあるんだろうな、とは思う。タバコの匂いするときあるし、香水の匂いするときもあるし。バイトでバーテンダーをしてるとは聞いたけど、これは恋人がいる気がするからあんまり外みたいにできないな、と思っていたら、その人が現れてしまった。小娘扱いされたから、笑ってお姉さんは?と聞けば春夫の恋人と言われてしまったぞ。「あぁ、先生にはいつもお世話に」と惚けて返したらどうしてこんな子にみたいなことを言われる。香った香りは佐藤さんからたまに漂う匂いだし、これはちょっと辛い部分があるなぁ、と思ってしまう。外でもいつかあり得る展開だけど。言いたいことを言った彼女はスカートを翻して去っていく。しばらく遊ばないほうがいいかもしれない。というより、ここの佐藤さんは彼方の佐藤さんではないんだ、ということが酷くわかった。
「蓮子の気持ちが今になってわかった、気がする」
その人が人混みの中で誰かを見つけて誰かに駆け寄る。その誰か、なんて分かっているから目を逸らして正反対に歩き出した。
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「失恋した、辛い」
来てそうそう蓮子にもたれ掛かればそこにいたらしい三面鳥が私を見た。
「ナマエが失恋ってありえないでしょ」
「大学生の佐藤さん」
「うん?」
「優しくしてくれるし、世話焼いてくれるし」
「いつもの佐藤さんじゃん」
「うん、手を繋いでくれるし、抱きしめてくれるから、自惚れてたんだけど」
「自惚れて、た?」
私の言葉に蓮子が眉間にシワを寄せた。私は知らないフリをしてぎゅうっと蓮子を抱きしめる。
「恋人がいたようで」
「はい?」
「たまに女性モノの香水とか、タバコの匂いとか、なんか隠してるなぁって感じはしてたけど、うん、ちょっとショック。しばらくちょっと顔見れない」
「佐藤センパイって恋人いたっけ?」
「あの人勉強忙しいゆうて美人でも振るっていう噂やけどなぁ」
「でもここ数ヶ月、女がチョロチョロしてんのは見たな」
「恋人さんに会いました」
「じゃあ確定か」
「三面鳥、遼が傷心してるから黙りなさい。そして遼は菊池の兄さんにしなさい」
「蓮子もまぁ酷いと思うでソレ」
菊池さんは芥川さんでさんな暇はないと思うけど。
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「最近会ってくれない」
そう頭を抱えた佐藤に、最近どうなんだ?と聞いた菊池が目を瞬いた。大学のカフェテリアである。憂鬱そうな雰囲気を漂わせた佐藤は大きくため息をついた。芥川は食事に手をつけたが。
「勉強が忙しいって」
「勉強見てあげたら?」
「そう言ったら、いいですって」
「この前、寛とは普通に会ってなかった?」
「あぁ、会った。テスト終わったって言ってたな」
「……いつ?」
「先週の日曜日だ。ちょっと行きたい場所が俺あったんだが、みたいな奴は入れなくてな、頼んだんだ」
「その話も気になるけど、佐藤くんはいつ?」
「今週の火曜日にあった」
苛立ちを隠すこともせずに佐藤がタバコに火をつける。
「避けられてるね。何かしたの?」
「それがわかったら苦労はしてない」
そう煙を蒸した佐藤に、「佐藤センパーイ」と声がかかる。そちらを見れば高等部の制服を着た三人組がいた。
「高等部は帰れ」
「そんな固いこと言わんと〜、今日テスト最終日やから、昼飯ないねん。隣とったろ」
「あ、芥川先輩隣いいですか!?」
「構わないよ」
「じゃ、俺はオダサクの隣っと」
「昼飯ぐらい家で食ったらいいだろ」
「そんなわけにもいかへんのですわ、国図学院行くんで」
そう言ったオダサクに、国図学院に?と首をかしげる。
「この前の七不思議からズルズルと巻き込まれて、化け物退治屋に組み込まれたんですわ」
「あぁ、じゃあ苗字さんともあってるわけだ」
「会ってます!最近ちょっと元気ないですけど」
「元気がない?」
「そうそう、かわいそうやから確かめにきたんです」
ケケケ、と笑ったオダサクに、坂口が口を開く。
「佐藤センパイの彼女に会ったらしいんですが、何か知ってますか?」
「は?」
佐藤の言葉に、「これはややこしくなってるねぇ」と芥川が告げた。
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あぁ、アイツな、と告げた菊池に、芥川が「君も災難だね」と告げる。頭を抱えた佐藤はタバコをまた蒸す。
「恋人じゃないんですか?」
「違う。バイト先であってから付きまとってくるんだ」
「モテるお方は大変ですなぁ」
「でもなんでナマエがソイツを知ってるんだ?」
「元々、タバコの匂いがするな、とか、香水の匂いがするな、とか思ってたみたいですけど、恋人に会ったって」
太宰の言葉に、芥川が佐藤を見る。
「彼女の前ではタバコを吸わないのかい?」
「向こうが吸ってないからな。俺の都合で寿命が減っても困るだろう?」
「ワシらの前では吸ってますやん」
「野郎は知らん」
「おいおい、酷いな」
「寛は普通に吸うよね」
「一応断りは入れるがな。香水なんぞつけてたか?」
「あの子の香水の匂いだろうね」
「蓮子は菊池センパイにしとけって言ってましたね」
「俺か?嬉しいが佐藤に殺されるから身を引くさ」
「殺さないさ、あの子が幸せなら俺が身を引く。まぁしばらくは口がきけないだろうが」
佐藤の言葉に芥川が「それは寛の十八番だね」と告げる。菊池は少し考えて佐藤を見た。
「でも、よかったな、佐藤」
「何が。今のこの状況でいいことなんてあると思うのか?」
「いや、お前に恋人がいるってことで避けてるんだから違うと証明したら勝ちだろ。後、」
「後?」
「少なくともお前に恋人がいたことでショック受けてるなら脈はあると思うぞ」
菊池の言葉に佐藤が目を瞬いて固まる。そしてそっと口元を覆った。
「まぁ、ナマエに手を出した瞬間お前は犯罪者になるわけだから頑張れよ」
「アンタはいつも叩き落とすな」
「事実だからな。な?オダサク」
「ははぁん、面白い事聞いた」
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佐藤さんが怒ってらっしゃる。外側の彼と似たような怒り方なのはオナジだからだろうけど。イライラ、イライラとしてるのが身に刺さるようにわかる。漂うのはタバコの匂い、と、お酒の匂いだ。二日酔いだろうか。
「先週の日曜日」
「ぐぅ」
佐藤さんの言葉に、肩が跳ねる。先週の日曜日、菊池さんが行きたいところがあるから連れて行ってくれ、と言われた。どうやら私達が普通に行き来していた場所の一部は私達であるから入る事ができる場所らしい。まぁ、そこでまたホラーな展開があったわけだけど割愛する。
「俺が、何かしたか?」
「……何も」
そう小さく首を振る。佐藤さんはこちらを見た。
「貴方は何も。ただ、私が勝手に判断しただけです」
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好きで、好きで、たまらない人物から違う男の香りがした時。その人物がまた手が届かない人物で、側にいたはずなのに離れてしまった時。優しい兄のように接しようと思っていたのに、彼女を守る騎士のようになろうと思っていたのに、あっけなく本性というのは暴かれるらしい。男はいくら羊のふりをしていても狼だとは誰かが書いた詩であるが、的を得ていると思う。
彼女から香った香りは自分のものではない。そして彼女の父親のものでもない。男物の、香水の匂いだ。そして、彼女の首筋に咲いている華に狂いそうなほどの嫉妬を覚える。どこの誰かはわからない。だが、どこの誰かはこの無垢な少女にこの印をつけた。そう考えるとはらわたが煮えくりかえる。いや、無垢な少女の仮面をつけているだけなのかもしれないが。騙されていた可能性もある。騙されてもよかった。ただ、帰り際、ちらりと覗いたソレに、俺はあっけなく牙を剥いたのだ。
「これは、誰につけられたんだ?」
そう尋ねて彼女の首筋を触る。人目につかない路地裏で、真白な肌についた赤を撫でる。自分が求めていた白い柔らかな肌、は、誰が穢した。くすぐったいのか彼女はぴくり、と動いて、俺を見る。
「友達に、」
「友達?友達とこんなことをするのか?」
「……」
少し目を泳がせた彼女に、しないよな?と声をかける。
「恋人か?」
「……恋人はいません」
「なら、誰が?」
「友達、が」
そうまた答えた彼女に、そうか、と告げる。
「羨ましいな、その友達が。俺がいくら求めたって世間に良心に邪魔されるのに、簡単にこんな事ができるんだから」
彼女の耳元で告げる。ピクリと跳ねた彼女に吐息を吐きかければ、彼女は俺の服を握る。ああ、いけない、と理性が止める。これ以上はいけない。彼女は名家と持て囃される家の出、しかもまだ十七歳の少女だ。しかし、その艶っぽい吐息だとか、艶っぽい表情は狼を煽るのだ。
「っ、さとうさ、」
そう熱っぽい目で見た彼女に、止まる術は投げ捨てた。
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これはヤバイ、と思って覚悟を決めた瞬間、佐藤さんが目を伏せて止まった。ゆっくりと目を開いた彼は、危なかった、と小さく声を漏らして私をゆるく抱きしめる。あまりの素早い様変わりに?を大量に出せば、佐藤さんは大きくため息をつく。この雰囲気はもしかしなくとも。
「……いくら俺とオナジといっても、若い俺と浮気とは頂けないな」
「……春夫さん?」
「あぁ、雰囲気が雰囲気だったから、乱から本を奪って潜書したんだよ」
そう顔を上げたのはこちらの佐藤さん出あるけども、中身は外側の佐藤さん――ややこしいから春夫さんらしい。首筋を触った春夫さんは、蓮子だな、と指摘した。その通りである。三面鳥が香水を持ってきて私に吹きかけ、蓮子が首にコレをつけ、なんだ?と思って帰されたらバーテンダー衣装の佐藤さんと会い、さっきに至る。はぁ、と息を吐いて春夫さんを見上げる。
「耳元はダメです、佐藤さん、禁止です」
「俺に言われても知ってるとしか言えないな。というか夜中だろう?侵食者を倒してたと言っても露伴先生が心配しないのか?」
「露伴先生は親族との話し合いに出かけたので明日の夜まで帰ってきません」
「あぁ、なるほどな、」
「春夫さん……おや?」
そう顔をのぞかせたのは同じくバーテンダー衣装の谷崎さんだ。
「その子は?」
「……家庭教師をしてる子だ」
「あぁそういう設定の」
「……設定……」
「この前酔って話していたじゃありませんか。年下の――」
「谷崎、余計なことを言うな。というか言わないでくれ」
「酔いが覚めたみたいですね、残念です」
「うるさい、この子を送って行きたいんだが」
「店長がそろそろ店をしまうと言っていましたよ。例の女性も来ていますが」
「……あぁ、あの、」
「まぁ、外は寒いですし、中でお待ちください。暖かいミルクでもいれましょう。オレンジジュースもありますよ」
そう微笑んだ谷崎さんは相変わらず色っぽい。佐藤さんは私の手を引いて裏口をくぐった。
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谷崎さんに化粧されてる、なう。春夫さん?なんか女の人に絡まれて、ちょっと怒ってるのが聞こえる。
「あぁ、お気にせずとも、春夫さんは貴方が一番のようですよ」
「なぜそんなことを?」
「あの人の作る詩が貴方を想う詩に変わりましたから。酔っていても、貴方のことを言いますし」
そうさらりと告げた谷崎さんが、今日酔わせたのはあの女性の前でそういうところを見せたかったからなのですが、とぼやいた。外の騒ぎが大きくなったので谷崎さんと顔を出せば騒ぎが収まった。あ、と声を出したのはあの女性である。森先生と尾崎先生もいる。
「アンタは、」
「佐藤、未成年を店に連れてくるのはよせ」
「あぁ、違うんです、彼、優しいのでちょっと出歩いてた私を送ってくださると」
「露伴はどうした?」
「お父様は本家に呼ばれて明日の夜まで帰ってこないので」
そう言いつつ春夫さんのエプロンの端を握る。それを見た二人がフッと笑った。
「露伴に知らせてやろう。泡を吹くな」
「尾崎先生も人が悪い、うちの首席を潰されては困る」
そのまま私の嫁入りトークに入った二人は置いといて、私と春夫さん、教授職二人を見比べる女性を春夫さんの後ろから伺う。
「……ナマエ、裏にいるんじゃなかったのか?」
「騒ぎが聞こえたので……」
「あぁ、ナマエが気にすることじゃない。」
そうぽん、と優しく頭を撫でた春夫さんに女の人は店を出た。
「よかったんですか」
「モテる男は大変だな」
「俺としてはナマエだけでいいんですけどね」
ほらまたそういうこと言う。
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