2020/03/24
白い魔女がいる本丸6
=白い魔女がいる本丸6
「おはよう!お隣さん、いい朝だな!」
本丸と出陣ゲートを繋ぐ坂道の間には裏門みたいなものがある。そこを潜ってすぐにお隣の鶴丸さんがいた。ヨッと手をあげた彼に私は首を傾げた。端に座っている同田貫さんが私を見上げた。
「あいつは昨晩からここにいる」
「ひどいな、門番が一人じゃ大変だろうから手伝ってただけじゃないか」
「でも最初アンタは入ろうとしてたろ」
「あぁ、だが、弾かれてしまった!驚きだったぜ」
楽しそうに笑って見せた鶴丸さんとは対に同田貫さんは疲れたように息を吐いた。
「……ありがとうございます。お疲れなのに」
「いや。何振りかアンタに礼が言いたいみたいだったが追い返しといた」
あくびをこぼした彼は頭をガシガシとかく。
「主が大丈夫みたいなら俺は寝るぜ」
その言葉にもう一度お礼を言えば彼は後ろ手を振って本丸の中に消えた。鶴丸さんは目を瞬いて私を見た。
「昨日の気迫とは大違いだな」
「?」
「いや、こっちの話だ。お隣の光忠、世話になるんだ、手伝う」
「ありがとう、お隣の鶴さん。助かるよ」
はい、と渡された大きなお鍋に彼はそれを持って坂道を下る。
「そう言えば君は昨日大丈夫だったのか?大包平に担がれて帰っていたが」
「はい、大丈夫です」
「そうか、よかった。政府のゲートを使わないとより正確に出陣できるとは言え負担がかかると主に聞いてな」
鶴丸さんの言葉に周りは私を見た。私はあまり実感がないので首をかしげる。
「……そうなのか?」
「私の場合特に負担はかからないのですが……負担がむくとすれば恐らく出入りする方だと思います」
「僕たち?」
「はい、皆さんに最初に渡したお守りはそれをなくすためのものです。なので他の方々にかかっていた負担を軽減するために昨日は祓ったのですが……私にかかった負担といえばそちらですかね」
そう肩を竦める。噴水のある広場にはたくさんの刀剣達がいるのが見える。何振りかが私達に気づいてかけてきては手伝いを申し出てくれた。私が広場に降りる頃にはだいたいの刀剣が広場に揃っている。
「申し訳ないんですが、料理が得意な方は朝食作りを手伝っていただけると助かります。あと、食材が和食のものより洋食の方が多くって」
私の言葉にそこにいた彼らは顔を見合わせた。そうして、手前にいた男性が穏やかに笑う。
「よし、てつだおう」
「あぁ、小豆、頼むぜ。俺は手伝いもできないしな」
「うん、そうだね、つるまるどのはわたしたちのほんまるではくりやにもはいれないし」
「え?どうして?」
「鶴さんの作るものは全部炭になるんだぞ!」
「おっと謙信、違うぞ、炭じゃない。だーくまたーだ」
なるほど、壊滅的なのか。そう思っていれば、別の本丸の光忠さんがやってくる。
「わぁ、本当だ。食べ物も洋風が多いんだね」
「こむぎにたまご、じゃむやとまと。ぱんけーきはどうだろう?にんずうもいるようだし」
「あぁ、それは良いね、別の本丸の小豆くん。付け合わせにサラダとスープでオーケーだ」
「でも、どこで作りましょうか」
そう眉尻を下げた青年に私はうーん、と考える。確か飲食店があったはずだ。
「確か、中央市場への道の隣だから……」
そうあたりを見渡そうとすれば、何か歯車が回るような音がした。かちゃん、とかぎがまわるおとがして、重い扉が開く音もする。小さな男の子が小豆と呼ばれた男性の後ろに隠れた。
「わ、わわ、いきなり大きな扉が開いたぞ!」
「……空間をまた広げちゃったかもしれない」
「……構わん、どうせ前の主が残した穢れが祓われただけだ」
「そうそう、何もないよりマシだしね」
大包平さんと加州さんの言葉にほっとする。別の本丸の光忠さんが「あぁ、なるほどね、」と何かに納得したようである。首を傾げれば彼は笑顔でなんでもないよといってのけたけども。
「それより、キッチンはどこのをつかえばいいかな?」
「えっと、こちらに」
彼の促しに私は中央市場につながる隣の建物に向かう。
「そこは開かずの間だった場所だね」
「はい、でも、ここは確かーーレストランでした」
扉を開ければ、飲食店の中身そのままだ。奥の厨房は広かったはずである。厨房を覗けばやはり広いそこ。いかがですか?と聞こうと振り返れば、感激していた。主に光忠さん達が。
「ここを使っていいんだね!?」
「はい、どうぞ」
「よし、これはテンションあがっちゃうな」
「これはよいくりやだ。みつただたち、わたしもてつだうよ。えぷろんは……これいじょうわがままはいえないな」
「上着だけでも脱いでおきましょうか」
つい癖で魔法で取り出そうとしたら大包平さんが手をつかんで止める。歌仙さんがやんわりと「主」と叱った。これはいけない。いつボロが出るかもわからない。
「……大包平、今日の近侍は君が当番だったはずだから主と一緒に長谷部と合流してきたらどうだい?今日の仕事の確認があっただろう?」
「あぁ、そうさせてもらおう」
「ここは俺たちに任せてもらって大丈夫だよ、主」
加州さんの言葉に私は頷く。お願いします、と眉尻を下げれば、こちらこそありがとうと笑われてしまった。ふむ、やっぱり本丸によって多少仕草や声のトーンは違うらしい。
「主、行くぞ」
少しムッとした大包平さんに手を引かれる。もう一度手を振ってそこを後にした。
そのままとりあえず刀剣達が賑やかなので、中の食器やテーブル拭きなどを軽くお願いしておく。大包平さんがなかなか進まない私を見てひょいと私を担いだ。
「わ、わ!?歩けますよ!」
「こうした方が早い!」
「ちょっ、わ、坂道ダッシュは流石に、」
彼はそのまま坂道を駆けあがった。流れていく景色がはやい、し、広場がだんだん遠くに見える。門のところにいた鶯丸さんが口を開いた。
「大包平、主が困っている」
「……いつまでもあそこから動け無さそうだった」
「とはいうがあそこには天下五剣がいるそうじゃないか」
鶯丸さんの発言に大包平さんがぴくりと反応する。天下五剣とは?と聞けば「主は興味を持たなくてもいい!」と大包平さんがちょっとムッとして答える。鶯丸さんはクスクス笑うだけであるが。
「主、長谷部が探していた」
「今から合流しようと思いまして」
「鶯丸、長谷部は何処だ」
「こっちだ」
そう歩き出した鶯丸さんに大包平さんは私を担いだまま歩き出す。もう何も言うまい。子供ではないのだけれど、と、ムッとしていれば合流した長谷部さんが目を白黒させた。
「主を下ろせ!大包平!何をしている!」
「あぁ、長谷部、大包平はな広場のほうにてんかーー」
「鶯丸!」
今日も仲が良さそうで何よりですある。
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ふむ、政府から送られてきた情報が出た。新しい時代に出陣するためのルート改築と万事屋や近所を繋ぐルートの改正、演練場の建て替えなどがあるためルート改築・改正に一週間、調整にさらに一週間かかるらしい。一週間経てば普段行き交う場所などのルートは固定できるのでこちらにいる刀剣達はその時に帰れる、と言うことである。ちらほらとそう言う本丸はあり、その分の食糧や手当てのための資源などは政府が手配してくれるとのことだ。ただ、資源は安全の考慮から最終日に配布らしいが。それから小型の携帯端末が支給された。保護している刀剣達が彼らの本丸と随時連絡が取れるようにと言うものらしい。で、二週間は政府からの仕事はあまりない、と。
「実質他の本丸には夏季休暇というところでしょうか」
こんのすけの言葉に、あぁ、なつやすみ、と納得する。それならこの本丸にいる彼らはあまりよろしくないのではないかと思っていればこんのすけが見透かしたように口を開いた。
「主さま、あれらは自業自得です。審神者のミスですので」
「えーと、」
「まて、こんのすけ。他の本丸、には?」
「はい、こちらの本丸はゲートが関係ないので応急的な処置として出陣する可能性がございます。その代わりと言ってはなんですが、別日に休みが振り当てられます」
「なるほど」
まぁ、それは仕方がない。他の本丸にできないことができるのだから。
「これを本丸のみんなに伝達しなければいけませんね」
「この本丸の皆への俺にお任せください、主」
「主さま、携帯端末は誰に渡せば良いか書かれておりますゆえ。皆その隊を率いる隊長ですので、彼らに言えば伝わるかと」
「わかりました」
そう頷いて箱を受け取る。あぁ、あと、新しい場所が現れたことを長谷部さんに伝えないとな、と思っていれば大包平さんが口を開いた。
「長谷部、新しい場所が増えた」
「何?」
「えーと、ごめんなさい。今朝いきなり増えてしまって」
「いいえ、かまいません。この本丸は貴方のものですから。それに、短刀達も喜びます」
長谷部さんも心なしか嬉しそうである。近くで聞いていたらしいにっかりさんが「長谷部くんも好きだろう?」と口を開いた。
「探検がか?」
「地図を作ることが、だ!」
大包平さんの疑問の言葉を長谷部さんが正す。なるほど、地図をつくってくれていたらしい。通りで彼の部屋には作図のためのものや、地図の資料があったのだろう。もしかしたら何処なのか照らし合わせようとしていたのかもしれない。長谷部さんはため息をつくと、私を見た。
「で、どちらが?」
「出陣ゲートの方に門があっただろう。そこが開いた」
「……あぁ、あの大きな門が」
「主はその先に何があるか知っているのかい?」
にっかりさんが首をかしげる。
「確か、あの先は市場だったと思うのですが……」
「市場ですか」
「それは短刀達のお店やさんごっこに磨きがかかるね。楽しみにしておこう」
そうニコニコと笑ったにっかりさんに私もまたニコニコと笑う。短刀達のお店やさんごっこは楽しそうなのだ。手作りの品に混じって偶に本当に有意義なものが売られている。
「とりあえず、第一部隊は何か緊急事態に備えるとして内番の振り分けはどうする」
「それなら今日は本来遠征予定だった長谷部さんや短刀達に地図作成をしていただいて、内番の方は内番、残りは手伝いと言う形はいかがですか?」
そう言って内番の振り分け表に名前をいれていく。遠征のところを魔法で地図製作とすれば準備はオッケーだ。
「しかし、主、あれは趣味のようなもので……」
「私も地図が欲しいと思っていたところですので、逆に作っていただけるなら助かります」
眉尻を下げてそう伺えば彼はパチパチと目を瞬いたあと、「主命とあれば」と口元を緩めて告げた。ひらひらとまった桜の花びらに、私もまたニコニコ笑う。
「では、他のものへも伝えて参ります!」
そう障子を開けて駆け出した長谷部さんを見送る。にっかりさんが「主も上手くなってきたねぇ」と笑った。大包平さんがそれを聞いて頷いた。
「あぁ、へし切り長谷部の扱い方がわかってきている。アイツは諸刃の剣の面があるからな」
「長谷部だけではないと思うが」
縁側で日に当たっていた鶯丸さんがそう言って笑んだ。
「……あぁ、そうだな。主は俺たちのことをわかってくれている」
そんなことは、ないと思うのだ。
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携帯端末には家紋のようなものが一つ一つに入っている。とりあえず準備してくれていた朝食を食べてもう一度広場に向かえばそれぞれおもい思いの場所でパンケーキを食べているらしい。噴水に腰掛けている人もいれば、家の前に置いてある小さなテーブルと椅子に座っている人もいる。何振りかの刀剣がお店から出入りしているのがみえた。
「お、なんだ?その箱」
ひょこり、と口元にジャムをつけて鶴丸さんが現れる。
「政府から皆さんに通信機が来ました。皆さんの本丸と連絡が取れるそうです。えーと、鶴丸さんのは……」
「恐らくこれだな」
そう言って鶴丸さんは五方星が描かれた携帯端末ーーまぁ、スマホみたいなものだーーを指差した。蘇我本丸の鶴丸国永と書かれているのがわかる。
「えーと、蘇我本丸の……鶴丸国永さん?」
「あぁ!」
彼が返事をするとピコン!と音がして通信機が起動する。なるほど、正解らしい。はい、と渡せば彼は受け取った。
「伝達したいこともあるのでこのまま待っていてもらっても?」
「あぁ、構わないぞ」
「えーと……どう呼べばいいかな……」
そう周りを見渡せば、お隣の鶴丸さんが口を開く。
「出番だぞ、大包平。お前の方が声がでかいだろ」
「あぁ、そうだな」
大包平さんはスッと息を吸う。
「各隊の隊長は集まれ!政府からの言付けや支給品がある!」
そのよく通る大きな声に他の刀剣達が返事をする。そうしてまばらに、そして確実に数人の刀剣が集まってきた。見たことがない刀剣ばかりである。帽子をかぶった小さな男の子がこてんと首をかしげる。
「ここの審神者さん、だよね?ありがとう、助かったよ」
「あぁ、本当に助かった。あのまま帰れないかと思った。礼を言う」
ありがとうと告げた白い羽織りをきた男性と男の子に「困った時はお互い様ですし」と答えておく。ジィッとこちらを覗き込んだのは白い服をきた男性である。兄者!と後ろから声がかかり、大包平さんが一歩前に出る。
「ごめんごめん、うちの主は顔を見せなくって。珍しいからまじまじみてしまったよ」
その言葉にその後ろにいた男性がため息をついた。
「兄者に代わって礼を言う。だが、お前の本丸は我らの本丸と違いすぎる。怪我が治って刀身が治らないなど初めてだ」
「それだけでも助かった。こちらはまだはじめての時代でな。怪我人が多く出ていた」
見えない。恐らく青い男性が話しているのだけど、大包平さんの後ろ姿で見えない。
「大包平さん、見えません」
「主が小さいからな!」
そうドヤ顔をした彼にムッとする。そりゃあ大包平さんと比べてしまえば殆どの人が小さいはずである。まぁ隙をついて隣に並んだが。してやったり、と彼を見れば眉間にシワを寄せられた。気にしない気にしない。
「ここの大包平、他所で見る奴より静かだと思ってたんだけど、そうでもないな!」
ケラケラと笑った金髪の青年に、男の子が首をかしげる。
「そうなの?」
「あぁ、たしかに声がでかいな」
コロコロと笑った青い男性に大包平さんが「相変わらずくえないじじいめ」と呟いたのが聞こえた。彼を見上げれば、慌ててそっぽを向いたけども。……とりあえず、本題に入ろう。
「えーと、とりあえず通信端末機を……」
「おっと、お隣さん、ここにいる隊長格の刀剣は全員初対面だろう?」
「はい」
お隣さんの鶴丸さん言葉に頷く。だから返事をしてやってくれ、と告げたお隣の鶴丸さんに他が了承してくれる。
「えーと、安曇本丸の蛍丸さん?」
「はーい、真打登場ってね。俺がきたらよろしくしてあげて?」
「はい」
「蛍丸は大太刀だぞ」
「えっ?」
「そ、おれはこう見えて大太刀でーす」
鶴丸さんと蛍丸くんの顔を交互にみる。てっきり大太刀は石切丸さんみたいに大きいのかと思っていた。ピコン!と光って起動した携帯機を彼に渡す。
「えーと、相模本丸の長曽祢虎徹さん?」
「おれだ」
「蜂須賀さんや浦島くんのお兄さんですね」
「贋作の虎徹だがな」
「?でもお兄さんなんでしょう?」
ピコン、と光って起動した携帯端末を彼に渡す。そうだな、とやわらかく笑んだ彼はそれを受け取った。
「八幡本丸の髭切さん?」
「ぼくだね」
「……俺がかわりに受け取ろう。俺は弟の膝丸だ」
「ちなみにこの二人は検非違使からしかドロップされない」
「知っている」
鶴丸さんの言葉に大包平さんが答える。ドロップとなると、顕現が苦手とされている今随分と先になるだろう。
「じゃあうちに来るのはずいぶんと先になりそうですね」
「あぁ、そうだな、その隣の三日月宗近もな!」
「ひどいじゃないか、大包平」
おいおいとなく真似をした彼に、ぽつりと大包平さんが「お前さえもっとはやくにきていれば」とこぼす。こんのすけが強調していた珍しい刀なのかもしれない。薄らと目を開いた三日月さんに私は端末をわたす。
「あなたが定家本丸の三日月宗近さん」
「あぁ、俺が三日月宗近だ」
ピコン!と電源がはいる。じゃあ最後の一つが金髪の彼のものだろう。
「清水本丸の獅子王さん」
「俺だな!」
にっこりと笑った彼に私も渡す。とりあえず、それで各自の本丸と連絡が取れること、ゲートの調整の話、夏季休暇の話などを告げる。
「もしかしたら一週間せずとも調整が終わるかもしれないということでした。最終日に皆さんの刀身を手当てできるようなので少し我慢してください」
「あい、わかった。しかし、見たところそちらの本丸は人手が少ないようだ。何か手伝いをさせてくれはしないだろうか」
「断る!」
隣でそう宣言した彼を見上げる。ムッと怒っていると言うよりは子供が意地を張っているような表情である。それがどうしても今までの大包平さんのイメージとは違って可愛らしく、私はクスクス笑ってしまう。
「お前たちに手伝ってもらわなくとも……主、どうして笑っているんだ」
「いえ……大丈夫です」
「何がだ」
「……大包平、審神者殿、おれたちも手伝わせてほしい。世話になりっぱなしはちょっとな」
「別に戦働きでなくて小間使いでも構わない」
「俺もそっちの方が嬉しいかも!短刀も気が紛れるだろうしな!」
「そうだね、ぼうっとしてても腕が鈍っちゃうし」
「と、他のものも言っているが?」
「ぐっ」
「というより、彼じゃなくて君がいいならいいんじゃないかい?主なんだから」
髭切さんの言葉はたしかにそうである。私はうーん、と考えるそぶりをする。
「他の本丸の方との手合わせはお互いに勉強になるでしょうし、他の本丸がどういう風に馬当番や畑をしているか聞けるチャンスでもあります……それに、陸奥守さんが海で釣りや漁をという話をしていました。人手が多いに越したことはありません」
「……」
「が、彼らの労力をあてにしていれば彼らが帰った時に反動があるのは確かです。本丸同士の情報が秘匿されるものならば彼らが働くことでこの本丸の情報が筒抜けになるでしょう。ここは色々と特殊ですし」
私の言葉にお隣の鶴丸さんが口を開く。
「本丸同士の情報は通常結構おおっぴろげだぞ。俺たちのところはお隣さんとバーベキューしたりキャンプするしな。次からはここも呼ぶ予定だな!」
「俺たちのとこもそんな感じだな。近所で行き交いしたり、会議場として使う時もある」
「審神者同士が結婚して二つの本丸が繋がることもあるしねぇ」
「逆にあんまりにも行き交いがないと怪しまれるって聞いたよ。お互いに行き来することで自分たちではわからない穢れの象徴が見えるからって」
蛍丸くんの言葉になるほどなぁ、と理解する。ここはお隣さんとの交流も何もなかったからこそみつかったんだろう。
「それに、労力をあてにするも何も何かを増やすわけではないのだろう?まぁ、審神者にとっても近侍にとっても大人数を動かす練習になる」
「……一理はある」
渋々である。本当に渋々である。三日月さんの言葉に大包平さんが頷いた。どうしましょうか、と彼に尋ねれば、彼は悩みに悩んでーー「わかった」と呟いた。
「獅子王がつれている短刀たちは長谷部と合流させる。そっちの方が都合がいいだろう」
「短刀一しっかりものの薬研くんがいるとは言え、長谷部さんお一人では大変ですかね。一期さんと獅子王さんにも加わってもらいましょう」
鞄の中から内番表を取り出す。それをとりあえず地面に置いて新しい駒を動かす。
「厨当番は今日の方々を厨当番として固定でいいですかね」
「あぁまて、手伝いは増やした方が良さそうだったぞ」
「なるほど、ではそれに数人さいて……」
そう動かしていれば、パタパタと長谷部さんがかけてきた。
「主、何か変更が?」
「あ、長谷部さん、いいところに。皆さんに内番を手伝っていただけることになりました。ついでに御手杵さんと同田貫さん、陸奥守さんも呼んできていただけると嬉しいです」
そういえば、長谷部さんが御手杵ー!同田貫ー!陸奥守ー!と坂道の方に叫んだ。まぁそのあと察した大包平さんが、燭台切!と叫んだことにより無事にみんな集まるのだが。あぁだこうだと言いながら内番を彼らを含んだ構成に組みなおしていく。
「これでよし。えっと、今の時間は8時なので……9時からそれぞれ仕事を始めてください。それでは今日も一日お願いします」
そう手をパチンと叩けば、返事がきた。うむ、今日もいい返事だ。
==
さて、長谷部さんは地図を作っつくれているが実は陸奥さんは海図を書こうと頑張ってくれている。まぁ、海図さえできてしまえば航海ができるからだろう。
「魔法で帆船は作れるとは思うのですが、他の動力となると難しいですね」
「帆船?」
「はい、かぼちゃの馬車と同じ容量です。模型などがあればもっと簡単にできるかと」
陸奥守さんに言えば彼は目をキラキラと輝かせた。ならば話が早いと言わんばかりに席を外した彼を私は浦島くんと蜂須賀さんがそれを見送った。書きかけの海図を見る。どこまでこの海が広がっているかはわからないからこそ、初航海はちょっとした冒険にはなりそうである。大包平さんが海を眺めて口を開く。
「主、帆船といえば動力源は風か」
「はい、そうですね」
「鶯丸でなんとかならないものか」
そう言った大包平さんに私は目を瞬く。どうしてそう思ったのだろうか、と首を傾げれば彼は口を開く。
「緑色の勲章は風の力を帯びるんだろう」
「ああ、確かに風の魔法を使えばある程度帆船の動力は確保できるかもしれません」
「ナマエ、この模型はどうじゃ!」
陸奥守さんはそうバタバタと模型を持ってかけてくる。大きすぎず小さすぎない船だ。
「はい、それくらいならなんとかできる気がします」
「ほんじゃあ、今から処女航海に行くぜよ!」
「まった」
ワクワクとしたような陸奥守さんにストップをかけたのは蜂須賀さんだ。
「なんじゃあ?」
「主は魔法を使わない方がいいのなら、今この模型のサイズをどうこうしても大丈夫なのかい?」
その問いは正しい。陸奥守さんがガッカリしたように肩を落とした。残念ながら処女航海はまた今度、この騒ぎが落ち着いてからになりそうである。昔ならば地下水路に浮かべればなんとなったのかもしれないが。
……そういえば、である。この本丸は昔でいう時計塔の位置にあるはずである。ということはそのうち地下ができるのでは。
そう考えていれば、また歯車が回るような音がした。わ、と肩を跳ねさせた私に代わりその場にいた刀達が窓から外を見た。私もそれに倣って外を見るが街は変わらない。いや、市場は増えたけども。それ以外はなにも変わりなさそうだ。と、いうことは。
「大包平さん、この本丸って地下がありましたっけ?」
「地下はさすがに……まさか、今の音」
「多分朝と同じ現象かと」
そう困ったように眉尻を下げれば彼もまた眉尻を下げた。
「どうしたの?」
「主が地下空間を広げた」
「正しくは穢れが落ち無に変わった場所が主様の記憶からまた場所として形成されたのですよぅ」
とてとてとやってきたのはこんのすけである。
「本来、本丸は広大な場所なのです。基本的には本丸の建物のみが記憶により再形成されますが、ここは多くの場所が汚れていましたが故主様の記憶から再形成されるのです」
「へぇ〜」
「ということは」
「恐らく地下空間ができたと思われます」
なるほど。ならばその地下空間にいくしかない。恐らく出入り口は変わらない……のだろうか。とりあえずあたってみるしかなさそうだ。
「陸奥守さん、模型と海図を持ってきてください」
「なんじゃあ、主、地下やったら別に……」
「私の記憶では地下にあるのは海に通じてる水路なんです」
そういえば彼らは顔を見合わせた。私はこんのすけを抱き上げる。大包平さんがため息をついた。
「確かに地下ならば人目にはつかないが、主は大丈夫なのか」
「はい、そういう魔法は疲れないんですよ」
多分こっちに行けばあると思います。そう言って部屋を後にすればそこにいた四人は後に続いた。本丸の階段を下り一度外に出れば倉庫の一部が洋風の扉に変わっていた。扉を押せば開いたその先は地下へと続く階段である。そのまま地下へ下れば少し暗い空間が現れた。波の、水の音がする。漂ってくるのは潮の匂いだ。まずは明かりか、と鍵の剣を取り出して掛かっているランタンに光を灯した。これで多少は明るくなるだろう。白く浮かび上がったその空間はとても広く、天井が高いのがわかる。こんのすけを地面に下ろしてから、陸奥さんに水に模型の船を浮かべるように告げた。彼は笑顔で頷くと水に模型を浮かべる。私はキーブレードを消してから指揮棒を振るように手を振った。一振り、二振り。キラキラとした星屑のようなものが舞う。三振り目で指をその模型にむけた。キラキラとしたものが模型に降りかかるとそれはぽんという音と共に大きな船に変化した。
「う、うおおお!」
「わぁぁぁ!!」
興奮したように陸奥守さんと浦島くんが声を上げる。
「船じゃ!!」
「船だ!!!」
「これは見事な西洋の船だね」
わぁわぁと興奮を隠しきれない陸奥守さんと浦島くんに、蜂須賀さんが感心するように告げた。階段から聞こえた足音に振り返れば、堀川くんと今剣くん、岩融さん、大倶利伽羅さんがいる。わぁ、と飛び跳ねながらやってきた今剣くんは「大きな船ですね!」と船を見上げた。
「見事な船よ……」
「地下があったことも驚きなのに、こんな船があったなんて……」
堀川くんの発言に、陸奥守さんが「違う違う」と首を振った。唖然とみていた大倶利伽羅さんが陸奥守さんをみた。
「……これ、」
「そうじゃ!ワシがお給料で買った模型ぜよ!」
「えっ模型!?」
「主の魔法じゃ!」
はっきりと断言した陸奥守さんに、堀川くんが目を瞬いた。大倶利伽羅さんが「どうなってるんだ」と聞いてくるので私は首を傾げる。
「かぼちゃを馬車にする要領で、ですかね」
「12時で解けないだろうな」
「あぁそれは大丈夫です」
「どうやって乗り込むんだ、これ」
大包平さんの発言に私は首をかしげる。
「普通は中に板があると思うのですが……模型ですもんね」
「この距離の板は流石にすぐに見当たりませんね」
堀川くんはそう言って苦笑いする。陸奥守さんが肩を落とした。
「誰かー、いるのかー?」
顔をひょこりと覗かせたのは御手杵さんと加州くんである。
「主、なにして……って、なにこの船」
「むつのかみのもけいだそうですよ!それをあるじさまのまほうで……みてみたかったです!」
「ははぁ、でっかい船だな。今から乗るのか」
「と思ったんだがなぁ、船に渡す板がないときた」
岩融さんがそう言う。私は御手杵さんの胸にひかる勲章を見てからなるほど、と思う。その手があったか。
「そういえば御手杵さん、氷の使い方はどんなものがあるか気にしてましたけど」
「うん?あぁ、ああやって使うんだなってわかった」
「あれは一例です。こういう使い方もあるんですよ」
そう言って私はキーブレードを取り出し、試しに水面を凍らせる。あぁ、なるほどという表情をした周りに私は続ける。
「水面を凍らせる、これは初級なんですが」
「うん、」
「扱いに慣れるとこういうことができます」
そう言って空中の水分を凍らせて氷の階段を作りあげる。そのまま船の端にかければ「おお」と目を瞬いた。
「氷じゃ、氷の階段ぜよ!」
「壊れないの?」
「はい。登るくらいなら大丈夫です」
「川ばさみの戦場なら近道が作れそうですね」
「奇襲にも使えそうだなぁ」
陸奥守さんが船に登ったらしい。興奮したような声が聞こえる。続いて浦島くんや今剣くん、岩融さん達が登っていく。
「ははぁ、結構使いようなんだな。この前みたいに凍らせて足留くらいかと思ってた」
「そうですね、結構使いようです」
「でも俺も大包平みたいなのやりたい」
「できると思いますよ」
そんな会話をしつつ階段を上る。船の上はなかなかに広い。陸奥守さんは舵を触っている。動きそうですか?と聞けば彼は「おん!」と返事をした。ここがこうで、ああで、と彼は装置を触る。これが錨じゃな!と告げた彼は何か装置を動かした。カラカラと綱が巻き上がる音がする。風よ、と告げれば帆の後ろからの風に船は動き出す。すいすいと船は前に進む。明るい光をくぐり抜ければ、それは海へと辿り着いた。潮の香りがする。魔法で作り出した風ではなく、本物の風が頬をかすめていく。蜂須賀さんが周りを見て口を開く。
「うん、釣りや漁をするにもちょうどいいね。これで本格的に漁や釣りができそうだ」
「でも、船の扱い方がわからなければ難しいかもしれませんね」
「よし、俺も頑張って覚えてみるよ。陸奥守と……まぁ刀が増えたらもう一人くらい増やしてくれるかい?」
「それはもちろん。ありがとうございます」
私が頷けば彼もまた「こちらこそありがとう」と笑ったのだけれど。
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