2020/08/08

↓改変 蛇一家に引きとられる 1

嫌だって、まさかと思うじゃないか。確かに今世の両親と私は似ていない。確かに似ていないのであるが、私は母親から確かに生まれたのである。写真もあれば、ビデオもある。なんなら産婦人科には私が生まれた時の記録もあるのだ。母親の浮気もありえないらしい。父親が四六時中くっついていたのだとか。私は両親の子供であるだなんて証拠は家の中に大量にあるのだから、私は似てないという言葉を気にかけたことなどなかった。なによりもーー。
「はじめまして、わたしたちのあかちゃん」
私が初めて見たのはカメラを回しながらも間極まって泣いている父親と、病衣を着て優しく笑んだ母親だったのだから。

父親の親戚の多くは母親が浮気して私ができたと思っているし、母親の親戚の多くは父親の家系の隔世遺伝だと思っている。私がお世話になっている伯父もその一人だ。母親の兄である彼は両親があの避けられない大きな事故にあってからずっと面倒を見てくれていた。でもそれは今日で終わりらしい。同じく、大きな事故だった。人為的で故意的な事故だった。しかしながら少し違うのは伯父の職業柄他人を最後まで助けようとしていたから巻き込まれたのだ。同じような人もたくさんいたんだろう。左右後ろからはすすり泣く声が聞こえる。何人もの棺に、アメリカの国旗が被せられている。私より年下の子供が、私を見上げた。最後に花を手向けるのが『親』もしくは『保護者』という存在を亡くした私と彼に身勝手に託されたものであった。別々の人間だ。親も、家族も。今にも泣きそうな彼を抱え上げて、私の花を持ってもらい棺と棺の間を歩く。周りの視線が突き刺さる。私は先に彼の父親の棺の前に立つ。そうして彼をおろせば、彼は言われた通りに花を供えた。私はまたその隣にある棺に花を供える。耐えきれないという風に泣き声を上げた彼に、私は伯父の元からすぐ離れて彼を抱き上げた。そうして私は席に戻ることにした。あまりにも呆気ないお別れだった。だから、もう一度振り返って彼の棺を見つめた。そうして、彼が好きだと言った動作をした。厳粛な葬儀だ。でも、これはメディアが感動させるために、政府関係者が悲劇的に映すように仕向けているに違いなかった。誰かは私を非難するだろう。非常識な女だと。でも、誰かは私を理解するだろう。私は大きく手を振った。そうして言ってやる。
「さよなら、伯父さん。天国あるか知らないけれど、元気でね」
笑ってそういう。笑えていたかはわからない。でも、彼を心配させまいと明るい声で告げた。私の動作に彼は涙を拭うと真似をして同じように手を振った。
「ダッド、元気でね!」
「数十年後にまた会おう!」
「またあおう!」
まるで捨て台詞だ。でもそれでよかった。また会おうは伯父さんの口癖だった。伯父の同僚の顔がひどい顔である。席に戻れば怒られるかと思ったが伯父の同僚達が私の頭を撫でた。泣くものか、と唇を一文字にする。運ばれていく二人の棺に、私は泣かないために歌う。皮肉なことに、伯父の名はニコラであり、子供の父親の名はバードだった。だから、その歌を紡ぐ。その歌は人を伝い、しだいに大きな歌声となっていく。そうして墓地に運ばれていく。花びらが空を舞った。私はその花びらを追って空を見上げる。誰もいなくなっていくそこで、ぽつりと降り出した雨に、私ははじめて小さく嗚咽をあげて泣いた。誰もいないそこで。あの子供は彼の祖父母だろう人が連れて行った。私は父親の親戚からは縁を切られているに近いし、母親の親戚でアメリカにいるのは伯父だけだった。迎えに来る人などいない。帰りたくなかった。帰ってしまえば、余計に寂しくなるのだと私は嫌でも知っている。きっと誰かは私の素性を調べ、感動的なストーリーとしてまとめあげるだろう。私を慰めてくれる人は、もう、いないのだ。

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ついには母親の親戚ともつながりが切れてしまった。どうやら私が疫病神的なものになっているらしい。私には聞こえない風に口々に彼らは私を引き取ると恐ろしい目に合うのだとか命を失うのだとか告げる。否定ができないのが悩みごとである。友人の親もそう思う人が何人かいたらしく距離を置かれてしまった。そんなある日だ。父親の親戚がいきなりやってきたと思えば、私を殴った。なんでそうされるかなんてわからなかった。ただ、彼は私の髪を抜いた。そうして何処かに去ると、また数日後に集団でやってきた。厄介なことに、父親の親戚だけでなく母親の親戚も率いて。
「お前は!どこの誰なんだ!」
投げ渡された結果は見たくなかっま。何処かで理解していたことだ。確かに私は母親から生まれた。それはビデオにも納められ、そして私も覚えている。でも、違うのだ。目の色も、肌の色も。私は震えながら紙を見る。そこに書かれた文字をどうすることもできずになぞった。出て行け、と誰かが告げる。疫病神、悪魔、そんなものを言われて物を投げられる。家財を取られていく。お気に入りだった鞄、伯父から貰ったスニーカー。学校の教科書。最後には硬い棒のような物だって投げつけられ、私は外に押し出された。騙されていたんだ、という声が聞こえた。ああかわいそうなニコラ。そんな声も聞こえた。悔しかった。悔しくてたまらなかった。私が両親と、伯父と過ごしたのは確かなことだったのに。他所から来た他人は簡単にその思い出を踏みにじる。私は落ちていた鞄を拾い上げる。ルームシューズからスニーカーに履き替える。鞄の中の財布にはいくらかのお金があるはずだ。もうこのまま逃げ出してしまおう。私は雑踏に足を踏み出す。そうしてそのまま道を駆け抜けた。


行く先なんてあるわけもなく。帰る場所が奪われてしまった今、帰る場所があるはずなんてなく。数十年後に会おうだなんて言いながらも、今すぐに会いたくなった。だから、足を止めずに走った。どこかに行っても何も解決しないのに、ただひたすらにそこを目指す。何人かが声をかけてきたが適当に理由をつけてそのまま逃げた。
もう走れないと立ち止まる。食事もとっていないし、水分もとっていない。壁に手をついて肩で息をする。吐き気がする。それでも足を一歩踏み出す。しかしそれを止めるように誰かが私の手を引いた。私はそれに振り返る。ひどい冗談みたいだった。だってそこにいたのは私の父親よりも私の父親みたいな外見をしていた人物だったからだ。
「学生が出歩いていい時間じゃないだろう」
これがピーターパンに現れる海賊のフック船長ならよかった。眼帯をつけた彼は眉間にシワを寄せていた。
「ひどい冗談みたい」
そう呟いた私に彼は余計に怪訝な顔をした。
「帰れ」
「おじさん、酷いこと言うね?帰る場所がないのに、どこに帰れって言うのさ」
「嘘はやめろ。服装を見ればだいたいわかる。警察に突き出すぞ」
決めつけた彼に私は目を伏せた。本当についてない。ああ、本当に。
「全部が嘘ならいいのに」
ポロポロと流れた涙に、彼は動揺したらしかった。全部が、そう全部が嘘だったらいいのに。目覚めたら両親がいて、伯父がいて、ドッキリでしたと笑ってくれたらいいのに。それか、夢だったらいいのに。目が覚めたら何でもないように彼らがいて、どうしたの?だなんて困ったように笑っていたらいいのに。
「誰か嘘だって言ってよ、全部嘘だっていってよ」
よく似た他人に私は言葉を一方的に投げかける。癇癪だとは理解している。でも、止まれなかった。まだ掴んだままの彼の胸をなぐる。
「私の両親を返してよ!私の伯父さんを返してよ!私の思い出を返してよ!私の家族を返してよ!」
わめいても何も変わらないのは知っている。私は幼い子供のように泣きじゃくる。彼に誰かが声をかける。何かを呼ぼうとしたその人物に、彼はそれを制すと私を慰めるように抱き寄せた。
「はなして!はなしてよう!」
「つらかったな。よくがんばった」
そう言って彼は私の背中を宥めるようにぽんぽんと撫でる。そな動作が伯父さんに似ていて私はただただ泣いた。泣き疲れて眠るまで、幼い子供のようにただただ泣いた。

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目が覚めると知らない部屋だった。全く覚えがない。警察署ではなさそうだ。となると余計に場所がわからなかった。ただ、外から聞こえる会話を聞くに誰かはいるらしかった。不意に扉が開き、人が顔を覗かせる。お、起きたのか、と告げたのは昨日最後に見た男性である。
「落ち着いたか?」
「あの、ここは」
「俺の家だ。気にしないでいいーー」
そう言った彼は外から聞こえた男性同士の喧嘩の音に顔をしかめて「静かにしろ!」としかると扉を閉めた。
「昨日は、その、すいません。ちょっと色々あって」
「お前はたしかニコラ・ロペス巡査の……」
「姪です」
「……お前の伯父は勇敢な人だった」
彼はそう言って伯父を称えた。私は布団をギュッと握る。
「……帰る場所がないと言ったが両親はどうした?」
「両親は飛行機の事故で……」
「悪い……」
「気にしないでください、私がきっと疫病神的な何かなんですよ」
あはは、とから笑いする。
「昨日は本当に困ったことがおきて」
「どうしたんだ?」
「ずっと家族と思ってた人たちと血が繋がってないことが親戚の調べで判明しちゃって」
「……」
「笑ってしまいますよ、私は生まれながらに詐欺師らしいです。両親も伯父も私が血の繋がった家族だと信じていたのに。で、それが判明して、親戚一同に伯父さんの家だった場所からおいだされてしまいました」
「……だから、帰る場所がない、と?」
「そう言うことです」
息を吐いて目を伏せる。彼は眉間にシワをよせた。私はそれに気にするなと言う風に笑った。
「まぁどちらにせよ!私はグループホームに入らないといけないので逃げてもいいことなんてないんですけど!……でも、ありがとうございます。ちょっと貴方にわめいてすっきりしました」
そう言って笑っておく。彼はもう一度ぐしゃりと私の頭を撫でた。わ、と声をあげれば彼はじっとしてろとだけ告げて席を外した。じっとしてろ、と言われましても。そう思いながら窓から外を見る。こちらを見上げたワンコと目があった。

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雑多 

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