2018/01/31

神さまと図書館と


・二週目司書達と、本当に転生した文豪達と、図書館と……?

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ああ、随分と廃れてしまったようだね。
そう告げた芥川さんに、館長がそうだなぁと感慨深く告げた。あの美しかった並木も建物も全てまるで廃墟のようで恐ろしくかんじるのは『私』が子供だからだろう。先に進む彼らに負けじと歩いていれば、高村先生が私を抱き上げた。酷く懐かしい感覚だけれど、中身が中身だけに少し恥ずかしい。棋院くんは芥川さんと菊池さんと話ながら、按司くんはあの三人と話しながら、蓮子ちゃんは白秋先生と朔太郎先生と話していて、おじさんは尾崎先生や露伴先生と話している。私はそっと視線を横にずらす。佐藤先生、のそばに、ナマエちゃんはいない。それどころか、探してもいないとは按司くんの言葉だ。みんな近しい位置にいるはずなのに、何故かナマエちゃんだけがいない。きっと佐藤先生は寂しいだろう。言葉に出さないだけで、菊池先生も。
ついたぞ、と告げたおじさんは大きな扉の前で立ち止まる。朽ち果てかけた扉には売り物件と書かれていた。中には本がまだまだあるらしい。ある意味お宝の眠る場所であるのに、買い手がつかないそこ。おじさんが気づくまで存在すら忘れていた不動産屋。おじさんが扉を開こうとしたけれど、鍵がかかっているらしく、開きはしない。ガチャガチャと動かしても開かないそこに、按司くんがため息を吐いた。蹴り破るか、と言った彼に私は高村先生に慌てて降りると宣告した。降ろしてくれた高村先生にお礼を言って、私は扉の前にたつ。菜乃花?と首を傾げたおじさんに、私は言葉を思い出した。
ーー私はあの図書館で、眠るとするよ。みんなとまた会えるその時まで。
私の先が短くなったとき、そう告げたのはナマエちゃんだった。おそらくはナマエちゃんは、まだ、ここにいる、気がする。そっと息を吐いて、私は扉をノックした。返事はない。ハテナを浮かべた周りを無視して私は扉に声を投げかけた。
「ナマエちゃん、ナマエちゃん、会いに来たよ。むっちゃん達もいるんでしょう?」
その言葉に周りが息を飲んだのがわかった。
「約束どおり、会いに来たよ。だから、ここを開けて」
ゆっくりと、金属が軋む音がして、鍵が開く音がする。かちゃり、と。私はそっと扉を開けた。暗いホールは外よりも朽ちていなかった。転がった刀は、ナマエちゃんの刀だろうか。
「ナマエちゃん、ナマエちゃん、どこにいるの?」
その問いかけに答えるように、扉がひとりでに開く音がする。二階からだろう。おじさんは私を見た。
「苗字さんがいるのか?」
「わかんない。でも、ナマエちゃんがあの後一度だけ来てくれたことがあったの」
そうただまっすぐ見る。暗い廊下の先、開いた扉に向かって歩く。
「待ってるって、みんなのこと、待ってるからって言って消えちゃった」
「――なら、苗字さんがいないのは」
「待ってくれてるんだと思う。今もここで」
そう言えば、佐藤先生と菊池先生が耐えられないという風に、早足にかけていく。私たちもそれに続く。開いた扉の先は談話室だろう。
「ナマエ!」
そんな声がして、私たちも談話室に飛び込んだ。そこにいたのは確かにナマエちゃんだ。人形のように動かないし、あの時のまま変わらない姿だけど。ナマエ!ともう一度揺すった佐藤先生に、ナマエちゃんはピクリと反応した。ゆっくりと目を開いたナマエちゃんは佐藤先生を見ると微笑んで、そしてまた目を伏せる。按司くんがそれを見て、ポケットから何かを取り出し、佐藤先生と菊池先生を押しのける。
「感動の再会中悪いが、コイツは多分霊力不足に陥ってるんだと思うぞ」
「霊力不足?」
「普通はならないんだろうけどな。おら、食えよ」
そう按司くんが何かをナマエちゃんの口の中に入れた。ほんのりと、彼女の体に色が灯った気がする。
「ちょっとは足しになったか、ババア」
そう言った按司くんに、ナマエちゃんは緩やかにまた目を開いた。
「ばばあ、いうな、」
「何百年も生きてるならババアだろうよ」
「……?はるおさん、と、きくちさんが、いる、?ゆめ、じゃ、ない?」
「ああ、夢じゃねぇからさっさと今やってることやめろ。俺たちも館長もいるから大丈夫だ」
その言葉に、ナマエちゃんがほっと息を吐いたのがわかった。また緩やかに目を閉じた彼女がトンとソファを指で叩く。その瞬間、古ぼけたソファがあの時と同じ色になった。ナマエちゃんにまた色がつく。もう一度、ナマエちゃんがトンと今度は足を鳴らす。床が綺麗な輝きを取り戻す。またナマエちゃんに色が戻る。ナマエちゃんが息を吐いて立ち上がると、ぱん、と手を叩いた。その瞬間、あたりには桜吹雪が舞い散って、視界を覆う。それが消えると、そこはあの日の図書館になっていた。外の荒れた庭はそんな面影はなく、綺麗な桜が植えられた庭になっている。
「おかえりなさい、みなさん。待っていました、この時を」
そう微笑んだナマエちゃんに、私たちは彼女を見た。
――変わらない。ナマエちゃんは20ぐらいの女性に見える。歳をとることがなかったんだろう。
「ずっと守ってくれていたのか、」
「菜乃花と約束しましたから」
そうそっと目を伏せたナマエちゃんは、それに思い出もたくさんありますしね、と告げる。ナマエちゃんは一本の鍵を取り出すとおじさんに渡した。
「図書室の鍵です。刀剣たちが手入れをしていたので、大丈夫だとは思いますが」
「刀剣たちは?」
「私の力が不安定しないので、貴方方には見えませんがいますよ。貴方たちを導いたのも刀剣でしょう」
ナマエちゃんはそう言って自分の手を見る。すっと、透き通った体。佐藤先生が目を見開いた。
「……消えるのか?」
「いいえ、そういうわけでは。しかし、私は人ではないのでしばらく私の力が安定するまで貴方達には見えませんね」
「どれくらい?」
「わかりません」
「方法はないのか?」
「ひとつだけ。私の名を呼んでくだされば」
そう告げたナマエちゃんは困ったように笑った。佐藤先生が何かいいかけて、目を伏せる。
「――あはりやあそばぬとももうさぬあさくらに、苗字ナマエよ、おりしめしませ」
その瞬間、桜が舞ってナマエちゃんが消える。しかし、消えたのは五秒ほどだけで、ナマエちゃんはまた服装を変えて現れた。少し幼くなった彼女は先程まで来ていた和装ではなく司書の姿になっている。
「神の端くれ、苗字ナマエ。ここに顕著いたしました。これからよろしくお願いしますね、みなさん」



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