2018/02/01
神さまと図書館と・ニ
ナマエちゃんは寝ていることが多い。按司くん曰く、まだ安定しないからだろうとのことだ。図書室は綺麗なままだったけれど、寮は少し埃が被っていたので掃除をしている。庭は白秋先生が今度室生先生を連れてくるよ、と言っていた。すうすうと寝息を立てる遼ちゃんは偶に透けてはそこに花びらを落とし、戻ってはまた少し動く、を繰り返していた。ちらほらと置いてある知らない物をナマエちゃんの前に並べていればナマエちゃんは薄っすらと目を開く。
「……懐かしいものをまた見つけてきたなぁ」
そう小さく呟いた彼女はそれらを眺めた。
「苗字さんのものか?」
「いいえ、ここに居着いた人のものですね」
「住んでいた人がいたのか」
「数人、ね。鍵を閉じてない時があったんですよ。宿がない人がお礼だと言って置いていったものや、私にくれたものですね」
緩やかにナマエちゃんは目を伏せる。
「鍵を開けていた?」
「はい、政府が有害図書と騒ぐ前までは。あぁ、違うな、戦争が始まる前までは開けていたのか……」
そう緩やかにナマエちゃんが目を伏せる。写真が出てきたよ、ともってきたのは蓮子ちゃんである。
「ナマエ、この人達だれ?」
そうニヤニヤとした蓮子ちゃんにナマエさんはゆっくりと目を開けてそれを見た。
「一緒に暮らした人。戦争に行っちゃったけどね」
「思ったよりヘビーだった」
「それは、心霊写真撮れるかな?って撮ったやつ」
写真を手に取ってそう笑んだ彼女はまた点滅をするように――写真と花びらを落として消える。ナマエ?と蓮子ちゃんが呼べば、また現れて寝息を立てたけど。
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最近体の調子がいいのか、ナマエがよく実体を保つようになった。大学生な芥川さん達と同い年ぐらいに見えるけど、ものすごく落ち着いているのはそれだけ年を重ねた証だろう。そんなこんなで図書館から学校という場所に通い始めた私たちであるが、ナマエはどうやらこの敷地から出れないらしい。なので、敷地のギリギリまではお見送りしてくれるが、佐藤さんはほんの少し残念そうである。
まぁ、そんなこんなの帰り道、図書館に繋がる門の前で立ち止まるお爺さんがいた。誰か知ってる?と同級生な朔太郎くんと目を合わせる。首を左右に振った朔太郎くんに、私はそっと声をかけた。
「あのぅ、」
私の声に振り向いたお爺さんはハッとしたように優しい笑みを浮かべる。
「ここがどうかしましたか?」
「――いいえ、」
そう首を振った彼はその先を見た。
「ここには、久方ぶりに足を運んだのですが、こうなっているとは思わなくて」
哀愁を含んだ目だ。私たちがそれに首を傾げる。
「福沢先生?」
背後から聞こえた声は露伴先生だろう。私たちとお爺さんが振り返るのは同時だった。
「露伴先生、知り合い?」
「あぁ、お前たちは高等部だからあわないか。大学の名誉教授の方だ」
「露伴くんか、久しぶりだ」
「海外出張だと」
「今帰ってきたところなんだ」
ポンポンとかわされる会話に、私たちは顔を見合わせる。本当に名誉教授らしい。
「どうしてここに?」
「大昔にここに出入りしていてね。朽ち果てた館になったと聞いていたが、変わらないじゃないかと思ってね」
「出入り……」
露伴先生が何か考える。あの写真は、と、小さく呟いた露伴先生に、福沢教授は何かを見て目を見開いた。ひらり、と落ちた桜の花びら。それが数を重ねてナマエの形を作る。前にそれを見てお前人間やめたなと言ったのは按司である。
「おかえりなさい、露伴さん、蓮子、朔太郎くん」
そう微笑んだナマエは老人に目を向ける。そして小首を傾げて――何処か納得したようにまた微笑んだ。
「君は福沢くんだ」
「ナマエ、知り合いか?」
「戦争に行った人」
そう言ってナマエはひらりと花びらをまわした。福沢さんは愛おしそうにナマエを見た。
「数十年たって、初めて君の名を知った」
「名前、長い間、忘れてたから。思い出させてくれた」
「ここが朽ち果てたと聞いていたから、君はもう消えたのかと。それにあの時、ここは酷かったじゃないか」
「桜の木」
ナマエがそう言って目を伏せた。
「誰かが桜の木、守ってくれたから、無事」
「井原か」
「そうかも……ここ、冷えるから、中に入ったらいいよ」
それだけ告げてナマエはまた姿を消した。
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「福沢教授!?」
そう慌てた館長と大学生組に、ナマエがまた現れてソファの定位置に座る。
「写真の人」
「あぁ、なるほどな、って、納得できるか!」
「写真?」
「心霊写真実験」
「あぁ、ばっちり君が映ったアレか。懐かしい。あの写真に写るのも私だけになってしまったな」
「……そう」
ナマエはそう言って目を伏せて、消えた。それを見て館長が福沢教授を見る。
「福沢教授は、ここに?」
「10代の頃にな、友人達とやれ肝試しだ、と忍び込んだ」
そうケラケラと笑う。驚いたよ、なくなったとされた本がたくさんあったからね、と彼は言う。彼の言う通り、ここには失われた『本』が沢山ある。今の時代、本という存在事態が手薄なのだ。
「いつの間にか、ここは私たちの勉学の場になっていたわけだ」
「ナマエ……彼女とは?」
「恥ずかしい話、私は最初見えなくてね。最初に見えたのは葛飾という同級生だったんだ。アイツが最初に彼女を絵に描いた。すると私達だって見たくなるだろう?葛飾だけずるいと騒いだら彼女が出てきてくれたんだよ。うるさい、とね」
苦笑いをした彼は言葉を続ける。
「彼女は居座る私たちに部屋を当ててくれた。名を尋ねても教えてくれず、私たちは彼女を館長や桜と呼んだ」
「桜」
「桜の花が舞うから?」
「あぁ、そうだ。楽しかったよ。私たちが戦争に行くまで、その日は続いたんだ」
そう緩やかに福沢教授が目を伏せる。ナマエがふわりと現れて、何かを手にしてやってきた。手帳、だろうか。
「井原くんが私に預けたもの」
「井原が?」
「井原くん、ここでなくなったから」
その言葉に福沢教授は目を見開く。
「桜の下で」
「……そうか。幸せだっただろう。アイツは君に一番惚れていたから」
「福沢くんに渡せって」
そう言ったナマエはそっと彼に手帳を押し付けた。彼はそれを手に取ると、緩やかに目を伏せる。
「……もう本は無事かな?桜さん」
「君たちのお陰で」
「なら、これは必要ないだろう」
「……わからない、貴方が必要なら、必要かもしれない」
「ナマエ、どういうことだ?」
菊池さんがナマエに尋ねる。ナマエはそっと目を伏せて侵蝕者と呟いた。
「ここの本を消滅させたい役人が、侵蝕者を差し伸べてきたことがありました」
「なんだって!?」
「文豪、は、おろせなかった。どうしてかわからないけれど、鍵がかかったみたいに、誰もきてくれなかったから、彼らに頼んだ」
「……」
「紙にかかれた何かには魂が宿る、から、彼らに紙に書いてもらって、戦ってもらった……でも、それで目をつけられてしまったのかもしれない」
「――止んだのか、侵蝕者達の攻撃は」
「鍵を閉めた、から、止まった。でも、ひどいことだった、みんなをまもりたかった、でも、みんなを殺してしまった」
ナマエがまた目を閉じる。薄っすらと変わり始めた景色に、私たちは目を見開く。ダンダンダン、と、外の扉を叩く音がする。助けてくれ、と、喚く声がする。窓の外紅蓮に染まり、何かが焼けた臭いがする。
「主!!!」
不意にそんな叫び声がして、その景色は消える。現れたのは陸奥守だった。
「主、いかん、思い出ちゃあいかんぜよ」
そう目を覆った陸奥守に、ナマエはそっと目を伏せて消えた。桜の花びらを残して。陸奥守も追うように消える。
「い、まのは、」
誰もが目を見開いた。私たちは経験なんかないが、恐らくは菊池先生達には身に覚えがあるのだろう。
「空襲、か、?」
「そうだね、ここは酷かったと聞いていたが……」
そう言葉を濁した福沢教授は手帳をそっと撫でた。そのあとナマエはしばらくしても戻って来ず、福沢教授は手帳を大事そうに持ってここを後にした。
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たまに、ナマエのいる部屋の景色が変わることがある。どうやらナマエの夢が反映されるらしい。ということは、あの空間も夢なのだろう。佐藤さんに英語を教えてもらっている時である。景色が変わったのは。どうやら姿は見えないけどナマエはそばにいるらしい。
「ナマエは?」
「お前達が来るまでそばで寝てたんだ。今も重さがあるから、ここにいるんだと思うぞ」
「ホラーかよ」
「まだ安定しないか」
「あぁ、」
恐らくそこは庭だろう。心地よい風が吹いて、誰かの喋りごえが聞こえてくる。
「館長どこで寝てるんだろうねぇ」
「ネコみたいに桜の木のとこだと思うが」
「館長ー?館長どこー?この前落書きしたことはあやまるからさぁ」
「お前のせいじゃねぇか」
奥の方から現れたのは二人の青年である。私たちや机をすり抜けた彼らは桜の木のそばにたつ。
「館長ー、館ー長ー、お腹減ったんだよー、諭吉もバナナもいないんだよー、おーなーかーへったー」
「葛飾くん、うるさいですよ」
そうふわりと現れたのはナマエだろう。現れたナマエに一人の青年は目を輝かせ、もう一人は少し顔を赤らませて目を背けた。
==んんん。さとはるせんせが目立たないので没
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