2020/09/12
久しぶりにGKネタだし
・ネタだしなので矛盾してる
あの日トラックにぶつかってしまった私は剣も魔法もない世界に転生した。学園ものか!?と小さいながらに思っていたのだが、違うことに気づいたのは父親に連れられて行った先がサッカークラブだったからである。そしてそこにいた選手に私は目を瞬くのだった。現役の達海猛。その本人である。
父も母も熱心なサポーターだった。私にサッカーを習わせるくらいには好きだっただろうし、ETUの試合を追いかけるくらいには熱狂的だっただろう。私もサッカーが嫌いではないためひっついて回ったし、サッカーの練習もきちんと毎日した。そうして勝ち取ったスタメン枠私の試合よりも、親はETUの試合の方が大事だったらしく何度かすっぽかされていたのであるが気にしないくらいにはサッカーが楽しかったのだ。まぁ両親は達海選手の海外移籍からETUを離れ母はサッカーに興味を無くし父親は東京ヴィクトリーのサポーターになったのであるがそれはそれとして。
「なんでサッカー辞めたの?」
怪我したわけじゃないんでしょ。
私を見上げてそう尋ねた達海猛本人に私は肩をすくめた。やりたくてもやれない人間がいる、とは耳が腐るほど聞いた言葉である。18歳の時、女子のプロに入り21で辞めてETUの広報に就職したわけだ。
「達海さんが監督してる姿を見てみたかったのでってことにしといてください」
「でた!ナマエちゃんののらりくらりかわし方!」
そう言った有里ちゃんに私は笑いながら彼女の仕事を少し取り上げた。なんだろうな。まぁ、私が言ったことはハズレではないのであるが。達海さんはフゥンという言葉で終わらせた。
「というかその話誰に聞いたんですか?」
「後藤」
「あの人は……」
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「いや、ぶっちゃけいうと監督にあーだこーだ言ったら干されたんだよね」
ははは、と椿くんに話す。えっ、と固まった彼に私は頬杖をついた。
「当時私のチームの監督してた人と考えが合わなかったというか……めちゃくちゃ仲の良かった友人を潰したというか……こりゃあないよなって戦略ばっかだったから私が逐一なおしてたんだけど怒りを買って干された。私も当然怒ったんだけど」
「他のチームに移らなかったんスか?」
「移れなかったが正しいかな。悪評言いふらされちゃって。なんていうかね、椿くん。女子プロっていっちゃあなんだけど男子のリーグで監督できないから監督してるような人もいるの。認識も女子プロだからっていう認識があったりするんだなこれが」
「……」
「二言目には女子の癖にって言われたしね。でもこうやって男子リーグを見てるとわかるんだよね。女子も選手はいいんだよ。それをどう動かすかが私のいたチームには足りなかった。だから男子リーグの戦略とかを間近で見ようとこっちにきたんだよ。将来に生かすために」
「じゃあなんでETUに?コーチとか」
「コーチとかなれるわけないでしょ。女子が一番近くから見れるのは広報ぐらいしかないよ。その点、ETUは広報と監督の位置が他よりも近いから」
はははと笑いながら彼の背中を叩いてから立ち上がりボールを回収する。
「後悔は、ないんですか?」
「あるよ、たくさん。でも、これからやりたいこともたくさんあるあら、相殺以上かな。じゃ、お疲れー」
そう言ってその場をたちさる。相殺以上って我ながら意味わからないな。
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うげげ。そう変な顔をしてしまうのは仕方ないと思う。軽い気持ちで椿くんの練習に付き合っていた私が悪いのか、それとも人数が足りないこの状況が悪いのか。私は仕事中だっての。そう思いながら達海さんをみる。じゃあ不足分はナマエが捕捉してくれっからと告げた彼に、私が一番意義あるんだよなぁと思う。なぜに、こう、なった。
「普通はコーチいれるくないですか?」
「まっちゃんにできると思ってんの?」
「……」
「苗字ー!何黙ってんだ!!」
そう怒った彼にまぁまぁとなだめる。いや、なんかこう、松村さんはマスコット的な存在だと……私ハンデ要素みたいな扱いだからまっちゃんさんでも変わりないのでは。はぁ、とチームを決める彼らを他所に息を吐いて準備運動をする。そうして加わったチームのどうメンバーに合わせるかを考えてシュミレートしていく。あいた位置に配置されたポジションに、よし、と思う。ここを狙ってくるのは見えてるし、そもそも体当たりしたら勿論負ける。ということは、それは回避した方がいい。くるくると考えて出た結論に頑張るかぁ、と真面目に前を見た。
「はい、はずれー」
そう言って笑いながら後ろにパスを出す。誤った対処をした椿くんをぴょんっと飛び越えてそのまま前に出る。そのままきれいにシュートにつながったがさすがドリさん、塞ぎますよねぇ。でも、間からセカンドボールはいただきますよ。そのままシュートをうつ、と見せかけて視界の端に捉えた堺さんにその勢いでパスをだす。威力が低いので多分堺さんならシュートできるだろうと踏んだからなのであるが決めた彼は最高だと思います。いかん、向こうの表情がガチだ。でもまぁ怯まないんだよなぁ、とニコリと笑っておく。さて、次は本気でボールを取りに来る。どうしよっかなぁ、と面白がっている自分に呆れがさすがまぁよい。
「苗字?」
「多分次から徹底的に私を潰しに来ると思うんですよ。あっち顔付き変わったし。体当たりしたら負けるんでそこを回避したいなって思います。まぁテキトーに揺さぶりますんで、点取るのはお願いします。出来るだけアシストしますんで」
そうヒラヒラと手を振る。ボールはパスコースを読むしかないがそれはまぁ楽しむしかないんだよなぁ。
「あっはっは、当たり前じゃないですか。掌見せたら負けだと思ってるんで」
そう言って手をパーにして笑っておく。まぁいい感じに引っ掻き回せたのではなかろうか。楽しかったーと大きく伸びをする。やっぱりなんというか威力もスピードもテクニックも違うきがする。というか、実際違うのであるが。達海さんが腕を組んで私を見た。
「……手のひらねぇ」
「まぁ、体当たりしたら負けるってわかってるんで、それを回避するしかないんですよね。最初は手加減して狙ってくるのはわかってたし。二回目以降は試行錯誤して対策するしかないし、まぁ後ろは鉄壁ってしんじてたのでこうなったとしか。じゃ、仕事戻る前にちょっと走ってクールダウンしてから戻ります。そろそろ有里ちゃんに怒られそうなんで」
言い逃げしようとしたら達海さんに阻止された。割とガチで。なんだアイツとザワザワするんではない。コーチ陣も動揺するんじゃない。ステイ!じゃないんだよなぁ。達海さんが私をまた見下ろした。
「一発目、なんで自分で打たなかった?」
「いや、なんだろうな……私のシュートの威力だと絶対止められるし、入る可能性はあるけどあそこで自分で打たずに堺さんに振った方が決まる可能性高いじゃないですか。堺さんにとってもちょっと強めのパス来たなオイくらいでしょ」
腰に手を当てて笑いながらそう言ってみる。そう言いながら選手達をみた。
「まぁ比較的に真面目に言うと体力で負ける、体当たりで負ける、身長負けてる、競り負ける、速さで負ける、威力で負けるならテクニックでいくしかないし、テクニックも通用するかわからないから結構椿くん達言葉で揺すったし、まぁ……なんだ、劣化版王子みたいなことができたら女だからとか冷静に対処できてない相手には十分機能できるだろって思ったんですよ」
「なんであそこで堺が来るって思ったんだ?」
「うーん、堺さんならこうするだろうなって言う予測とこの人なら絶対決めるだろうなという信頼。あそこで他の人なら多分そうしてない。多分逆の赤崎くんに振ってる」
「なんで!?」
「なんでっスか!?」
「いや……堺さんテクニックあるから私が変なことしても何が応でも合わせるだろうなと。夏木さんも世良さんも正直だし動揺しそう。赤崎くんに対しても無理矢理でもシュート打ってくれるだろうなっていう感想だからですあし。あの時はドリさん含めた目の前の人達をどう騙せばいいのかを考えてただけだから」
「こらーー!!ナマエちゃん!!なにサボってんのーー!!」
「げげ。有里さんに怒られるの、達海さんのせいですからね。今行きまーす」
ヒラヒラと手を振って小走りでその場を離れる。うぐぐ、視線が痛い。有里さんからの視線も痛い。
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「もう毎日毎日選手から監督からコーチから便乗したフロントからどうしてやめたのコールがくるのがちょっと飽きてきて、理由を考えるのが面倒くさくなってきたんですけど」
「お前が真面目に返さないからだろ」
「まぁ、そうなんですけどね。理由が理由だから言いづらいんですよねぇ」
後藤GMの言葉にそう言って頭をかく。達海さん達コーチ陣とフロントが目をパチパチと瞬いた。可愛いなおい。うーん、と頭をかいた。まぁバレるのは時間の問題である。言っても別に構わないだろう。なにせ、椿くんには言っちゃってるわけだし。
「まぁぶっちゃけたら干されました」
「は?」
「いや、話し出すとクッソ長いんですよ。だから要約したら干されたしか言えない。もうちょっと詳しく言うと監督の指揮に従わず私の指揮に従わせた。監督なら腹立つクソガキでしょ?だから干された。自業自得ってやつ」
「ねぇ、ナマエちゃんあっけらかんとする話じゃないでしょ、それーー!!超問題児じゃない!!」
そう、それが正しい認識だ。女子はあまり騒がれないことではあるが、ファンはそう思っているだろう。ニヤリと笑っていれば後藤さんが若干感動したように私をみた。
「その流れでサッカーが捨てきれず広報としてETUに、というわけか……」
「いや、後藤GMの推測間違ってないけどちょっと違う。次のステップに進むために入ったって感じだし」
「次のステップ?」
「ふふー、秘密デース」
はっはっはー、と笑いながら帰る準備をする。流れで帰れるかなと思ったけど無理だった。有里さんにまたおこられてしまった。
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「あれー?女子プロで干された奴じゃん、ETUで何してんの?」
「あれれー?怪我してて今季でれるかわからない奴じゃん、何してんの?」
笑顔で煽られたから笑顔で煽り返したら殺す発言受けてしまった。ハッハッハー、ハナちゃんとは真逆なんだからー。
「何?試合出んの?ナマエちゃんスペシャルかけといてあげようか?」
「はっ、余計悪化するだろ」
「ハナちゃんは治るから」
「あれはアイツがオカシイだけだろ。で、何してんの」
「ETUの広報しながら私を干した監督ぶん殴る手筈を整えてる」
そう笑いながら言えば珍しくキョトン顔をされてしまった。なに。私はガチだぞ。
「というか試合前に敵チーム広報かまけてるひまないでしょうが。さっさと行きやがれ王様め。それともなんだ、高級料理奢ってくれんの?」
ガシッと頭を掴まれる。痛い痛いと言えば笑いながら手を離されたが。くそー、サイコパスめ。死ぬなよー、と言えばゾンビに言われたくないと返される。失礼な。
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「ナマエ、持田と仲良いの?」
「えっ!?」
「なんでそう思うんです?」
「前喋ってたでしょ?」
「あー、……昔近所に住んでたんですよ。まぁー、父親同士仲良いのか悪いのかわからなかったですけど、昔は一緒に遊んだりしましたよ。そこからずるずると……まぁ腐れ縁ですかね」
そう達海さんに言ってみる。椿くんの練習に付き合っている時に達海さんがやってきたのだ。達海さんはアイスを食べながら私を見下ろした。椿くんが怖くないんですか?と私を伺う。
「いやまぁ昔からマジギレされてたから。なんで男じゃないのおまえって。いやそりゃあ神様に聞いてくれよ。アイツ今でも今から死んで男に生まれ直してとか言うからね。生まれ直したらアイツクソジジイなわけだけど」
そう言って椿くんをみる。理不尽だと顔に書いてあるな。
「理不尽だと思った?」
「えっ!?」
「でも理不尽でもなんでもないんだよなぁ」
向こうは私が歳を重ねたらその時いた地元のチームに所属できなくなることをしってた。だから私をユースに誘ってユースで一緒にプレーができると思った。でも実際その年になったら私は実は女でしたー、ユースに女の子は入れませんってなったわけだ。そりゃあキレるわ。ハナちゃんもキレるわ。でもなんだかんだオフの調整とかに駆り出されるし、なんだかんだ仲は続いているのである。ハナちゃんともたまに電話するしな。
「女子プロ辞めた時はなんも言われなかったのか?」
「んー?煽られた」
=6
「いやなに?今年は男子と一緒にオールスターやんの?」
「ああ」
「そりゃあ忙しいね。マスコット後の男子の前哨戦でしょ?一説によれば男子は外国人と日本人でやるとか」
「そうだな。で、だ。お前が選ばれた」
「はぁ?」
「引退試合らしい引退試合もしてないだろ。引退試合してないイコールお前は引退してない、だから選ぶ」
「なんじゃその推論」
「どうやったって出るしかないぞおまえ。選手側からの要望、目立つしかない今回の女子オールスター」
「うげぇ」
そう言いつつモンジャ焼きをつついたのが昨日である。困ったことに断れると思ったら断れなかったでござる。監督は違うチームの監督だからまぁいいけども。この人は特に私を干したりしなかったんだよなぁ。声かけはもらったが、フロントが私を嫌い嫌いしたからなくなったというか。まぁ、その時の恩もあるし、だから出るだけなのだが。試合用の調整といってもなかなか難しいのが本音だ。練習混じりたいなぁ、とは思うが邪魔にしかならないため夜に練習するしかない。椿くんとかぶるし、ただし持田を変に故障させても嫌だから呼び出したくないのだ。椿くんには悪いが我慢してもらおう。
……と思ったのだが1対1で練習付き合ってくれるのでありがたいしめちゃんこ楽しかったりするのだ。いやもしかして椿くんは椿くんで私が練習つけてるとおもってないよ、な……?
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「出た、追放された女王様のお通りだ」
そう言った女子を追いかけてる記者に心の中で中指を立てる。うるせぇ、女王様と名乗った覚えはない。詐欺師とか道化師とかそっちの方が断然いいわ。今なにしてんの?とやってきた記者にETUの広報で働いてます、とキュルンとしておく。
「今季ETU一押しは7番の椿なのでよろしくお願いします」
可愛らしく言ったら他は騙されたが、昔馴染みの記者が突っ込んだ。
「可愛こぶるのはいいけど、持田選手と花森選手について一言ください」
「……あの二人は殺しても死なないタイプだから最近放ってるから」
「この試合は貴方にとって引退試合とされていますが」
「言わなかった?戻るよ、そのうち、違う立場で。今はいう気はないけどね。その時はまぁよろしくー」
ひらひらと手を振って歩き出せば友人や後輩達にタックルされた。いてぇ。怪我するわ。そのまま引きずって歩いてたら達海さんと有里ちゃんに会うのだが。
「あれ?ナマエちゃん?」
「やっほー、有里ちゃん、達海さん」
「どーしても外せない用事があるから休み取るって」
「うん」
達海さんが壁に書かれた文言をみる。そして私をみた。
「これでんの?」
「うん」
「えっ」
「達海さんは男子の監督?」
「や、コーチ。監督は平泉のおっさん」
そう言った彼に私はほうほうと思う。まぁ、こっちの監督さんがきたから手を振って別れたが。
「男子までに飽きさせないようにだけ頑張りまーす」
「えっ、なに!?どういうこと!?」
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久しぶりの試合だし何もかも久しぶりだから、と言った割にはついていけるのは椿くんのおかげなんだよなぁ。一瞬の隙をついてそのままシュートまで決めて見せれば、そのプレーに観客は沸いた。片方からは女王様といわれ、片方からは詐欺師といわれる私である。あれ?味方いない?相手がガチガチしてる(面識ない)後輩なので、笑いながら背中を叩いておく。
「緊張してる?」
「うっ」
まぁ私の悪評知ってたらそうなるわな。さてさて、どうするかねぇと周りをみる。監督は修正を入れていいと言った。ありがたいことに、というか、おそらくはあの監督が計算しているのだがこちらのチームには上下関係なく私のあの時の知り合いが多く、向こうは私嫌いな人が多い。
「楽しくない?」
「え?」
「こんな観客の中でサッカーできるの、サイッコウに楽しくない?女子リーグってそんなに注目されないから、いかに観客を楽しませるゲームができるかっていう話なんだけど、そのためには自分が楽しまないとね。私は楽しまない相手に、半端な感情を持つ人に温情を浴びせるほど優しくないよ」
「……」
そう言ってから彼女の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
「一緒にこのお祭りを楽しもう、新人ちゃん?」
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歓声がすごい。いつもとは違う音だ。目の前の彼女は笑みを浮かべている。読めない人である。動きも感情も。でもこの盛り上がりを作り上げたのは間違いなくこの人である。敵も味方も関係なく間違いなくこの人中心にゲームは進んでいる。世界の中心がまるで彼女のようだった。彼女のいい噂など聞いたことはない。だって一部には首を切られたハートの女王だと嘲笑されるのだ。それを聞いて憧れた先輩達は皆いい顔をしないのだが、その理由はなんとなく理解できた。おそらくはこのピッチにいる全員が思っている。それほどまで彼女のもつものは圧倒的で絶大だった。
最初の15分はガチガチに緊張した。次の60分は楽しかった残りの20分は終わらないで欲しいぐらいだった。笛が鳴り試合が終わってしまう。彼女はピースサインを空に突き出して笑った。
「さいっこうに楽しめたかー!」
その台詞に先輩達は彼女にのし掛かったのだが。
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観客にピースサインを掲げてから中に入る。いやぁ、楽しめたなぁ、と思っていれば男子陣が列をなしている。まぁ一番前に達海さんがいて彼がひらひらと手を振ったが。
「いやぁ、沸かせちゃってまぁ。これで男子がしょぼいゲームしたら責められるな、間違いなく」
「当たり前でしょ、お膳立てしたんですから。ほとんどの観客の本番はここからなんだし、オールスターなんだからそれくらいのゲームしてもらわないと困ります。まぁできないならできないで、男子の評価下がるだけですけどね」
そう言えば達海さん他監督陣と選手陣が目を瞬いた。いや、一部固まった。なんだ。事実だぞ。日本人選抜も外国人選抜も死ぬ気でやりやがれ。まぁ、あまりいうのも良くないのでニコリと笑っておく。
「じゃ!達海さん達も楽しんで!」
「苗字ーー!!言い逃げかよーー!!」
「はははは、あ!!!ケン様後でサインください!!」
「いいよ」
「やった、ユニフォーム買ってこよ!」
ちなみに車貰えた。車貰えたんだけど家に駐車場がないんだよな。ETUの敷地に止めさせてもらうか。
「干されたことは特に悔しくはないですよ。私は悔しかったことナンバースリーには入らない」
そう返せば目を瞬かれた。ケンさまにサインをもらいに行けば山形で固まっていたので監督さんと少し話した後である。あと新人ちゃんほか相手側選手にも懐かれた。なんでだ。まぁそのあとうだうだしていたら、平泉さんと偶然あって、少し会話する中で悔しくはないのか、と聞かれたのだが。
「干されたなんてどうにでもなるじゃないですか。三年くらいしたら私は戻る気でいますよ。違う立場で。今は勉強中です。私が悔しいことは自分がどうやってもどうにでもならないことだけですよ」
そこまで言って、平泉監督の真っ直ぐな視線がこちらに向いたので苦笑いする。
「ま、色々考えてるんです。お楽しみに」
「……持田のことを何か言ってくるかと思ったが、予測違いか」
「自分の体のことなんて自分が一番わかってますから言わない。言ったところで止まらないから言わない。言ったらアイツは自分勝手に背負うので何も言わない。アイツはアイツで好きにしたらいいと思う」
「えらく放任だな」
「花ちゃんみたいじゃないからね。あ、でも、オフレコで一言だけ」
「?」
「サッカーは辞めないでほしい。チャンスは今だけじゃない」
そう言えば彼は目を見開いて、そうだな、と笑って見せたのだが。
==
やっちまった。なんでプロ辞めたんですか?攻撃がまた始まってしまった。面倒くさいなぁ、と頭を書いてまた適当な理由をこじつけて返答する。そのうち飽きて聞くのやめるだろうなぁ、と思いながら仕事をこなす。王様の呼び出しがあったからなぁ、時間をある程度確保したい。まぁオールスターなんぞに出たら呼び出されるなんて理解してたけども。向こうキャンプ地違うからなぁ、ここ2、3日で調整しないといけないだろう。そうぐるぐる考えていたら達海さんがタンクトップのまま用具室からあらわれた。
「ナマエ、ちょっと手伝ってくんない?」
「内容によりますけど」
=
「なに?金持ちのくせになんで奢らないの?なんで私が作ってんの?」
「年俸が下だからに決まってるだろ」
「くっそー」
そう言いつつドンと目の前に食事を並べる。もう一度くっそー、と言いいながら水を用意した。
「可愛い子ちゃん呼んでやってもらいなよ。昔から有象無象じゃん」
「面倒くさいだろ。で?」
「で?あぁ、オールスター?人気で選ばれたから選んでくれた人に失礼だし行っただけ。向こうは向こうで私の首を跳ねちゃったんだし身動き取れないんじゃない?」
そう言いつつサラダを食べる。
「そっちじゃない。なんでETUにいんの?許可した覚えないんだけど」
「私は君のものじゃないんだけどなぁ、犬か。いや犬っぽいな??呼び出されたら私はごはん作ったりするもんな??」
そう返せば割かと真面目な顔されたので割かと真面目にかえす。
「広報と監督の距離がETUは近い」
「……」
「監督とかコーチの勉強ができる。ヴィクトリーじゃそうはいかない。私は監督になって向こうの概念ひっくり返したいだけ、というのは綺麗な理由でして」
そう言ってメインディッシュを摘めば彼は意図を読み取って笑った。
「ははっ、ぶっ潰すつもりか!」
「悪いかハニー、同じ立場なら文句は言われまい。あれは立場が悪かった、それだけだ」
「俺からしたら監督が悪いけどな。見切りつけたらよかっただろ」
「それハナちゃんにも言われたわ。でもフロントが客寄せパンダ離すと思う?」
「お前腹たたねぇって顔して腹立ってんだな」
「くやしいとかはまた違う話だけど腹は立ってるよ。これなら君とお家デートとかハートつけられた方がマシだわ」
はははと笑いながら告げる。はははと向こうは爆笑してーー真顔で告げた。
「なにそれ最悪なんだけど」
「じゃあ飯作れとかリスキーなこというなよ」
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スカウトマンの笠野さんがやってきた。胡散臭いなこの人、と思っていたが有里ちゃんが胡散臭いけどという言葉とともに紹介した。なるほど公式の認識。
「おっ、女子リーグの女王様じゃねぇか。噂はかねがね」
「どうもー、首を跳ねられた女王こと苗字ナマエですー、今は広報やってます」
そう言って握手する。
「今向こうは女王様の首を跳ねちまったことを後悔してるぜ。今更対応にてんやわんやだっていう話だ」
「向こうもこっちも自業自得だからしかたない」
そういえば彼は驚いたように私をみた。私は肩をすくめた。
「なんでウチの広報に?嬉しいけど、第二キャリアってことじゃねぇんだろ?」
この人やり手だなぁ、とあたまをかく。達海さん達がいる前じゃなかったらよかったけどな。
「アンタの話は知り合いから聞いてる。なんでそういうことになったのかも含めてな。後悔はないのか?」
「後悔はないですよ。私は首を跳ねられる準備してから断頭台に立ったんですから」
「悔しくないのか?」
「これこの前言ったんですけど、特に悔しいことナンバースリーには入らないんですよね。腹は立ちましたけど、別の目標できたんでいいです。その勉強中で広報にきたんですよね」
ニヤリと笑って言えば、首を傾げられたが。
==
「ナマエが一番悔しかったことってなに?」
「性別が原因で同じピッチに立つことが許されなかったこと」
割かと真面目な話なので割かと真面目に簡潔に答える。達海さんは私を見下ろした。まぁ理解はされない悔しさだろう。
「いやぁ、あの時はめちゃくちゃ悔しかったね。生まれ持ったものは仕方ないし、変えれないものだから仕方ない。変えられないから悔しい」
仲が良かったのだ。私は、彼らと。まぁ最初は近所の公園で練習してたら持田が絡んできてなんやかんや一緒にちょっとプレーしたりしていたのであるが。私はユースに参加してないからハナちゃんは完璧持田の紹介だったがまぁなんやかんや仲よかったというか間に立つしかなかったのだ。
「だから、自分で変えられることは全然悔しくないんですよ」
「変わってんなぁ」
「達海さんには言われたくないですよ」
「ここにいるの、広報が監督と距離が近いかららしいな。それだけで満足なわけ?」
「満足ではないですよ。でも、今は勉強するしかないので。他のチームの戦略も達海さんの戦略も面白いからどんどん勉強が進むね」
==
誰だよどてんばで私をオリンピック関連に突っ込んだやつ。いや誰かはだいたいわかっているのだが、私一人一般人だぞコラァと思ったりはする。くっそー、どうするかなぁ、と思いながら半有休からの午後出勤したら有里ちゃんにタックルされた。痛い。
「よー、苗字、オリンピックおめでとさん」
「おかしいな……?私ただの広報なんだけどな、なんで選ばれたんだか」
「そりゃあブランクあんのにあんなプレーしたらそうなるだろ。練習加わったらどうだ?」
「いや、仕事放っぽり出しちゃダメでしょ。有里ちゃんが仕事に潰されてしまう」
「そこは!放っぽり出していいの!」
さっさと練習加わってきなさーい!としかった彼女に事務所からポイされた。いや……えー……
「えー……」
「あれ?ナマエ、なにしてんの?」
「いや、仕事しに行ったら追い出されて困惑してる。達海さん練習はいいんですか?」
「終わったからな」
「ということはグラウンド空いてます?」
==うーん
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