2020/09/15
↓続き
・恋愛要素が比較的濃いやつ
だってさ、こんな話で終わる馬鹿な話はないのだ。そう言って目を伏せる。私の役割はなんだ、と目を伏せて着ていたETUのユニフォームを脱いだ。そしてそのままとなりにいた人に渡し、私はそのまま関係者口に向かう。周りはなにも言わない。そりゃそうだ、もう関係者なのである。そうして見つけたそいつに私は手をあげた。スタッフはなにも言わない。向こうもなにも言わない。私はため息をついて彼をみた。
「で、いつから調整するの?」
引退など許さない。あんにそういう気持ちを込めて告げた。彼は珍しく目を見開いた。
「私のスケジュールの関係もあるんだし、早く決めてよ。今回はどこ」
「左膝」
「まーた神様に貸を作りよって。ま、来季には出れるでしょ」
「んなもん、当たり前だろ」
「ほら、肩かすから病院行くよ」
「ETUの応援はいいわけ?」
「いいよ」
そう言って肩を貸す。寄り掛かった彼が泣きそうなのは、私は知らないふりをした。
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くると思った。インタビュアーが持田の怪我、引退説についてのコメントを持ってくると思った。聞いてくることなくない?と思ったけどホームだったわ。なおかつ兼任サポーター多いし、計ったように横浜戦なんだよな。だから、少し、話しても良いかと思うのだ。まぁ私の機嫌はあまり良くないけどな。引退説がどうとか推測で無駄な話をしてんじゃねーよ。
「……まぁ、その話は置いといて、ちょっと長いけど、昔話していい?」
そう切り出せば彼らは「は?」という顔をした。その顔は悪くない。ニコリと笑って頭をかく。「あと関係者怒らないでほしい」と付け足せば彼らはさらに変な顔をした。
「は?」
「私の人生で三つぐらい、どうしようもないからこそ悔しいことがあってね。持田選手にブスとか言われるとかそういうことはいいんだよ。あ、でも下手ははっ倒すとは思ってるけどまぁそれはおいといて。私が今までで一番悔しかったことってなんだと思う?」
そうたずねる。インタビュアーは目をパチパチと目を瞬いた。私は汗を拭いながら口を開く。
「みんなが考えるような、どこそこ戦でゴールはずした、どこそこ戦で負けたとかも次は改善して当たればいいから悔しいけども、一番悔しいことじゃない」
そう言って、やれやれと肩を竦める。
「なんかさ、私は持田選手となんやかんやそんな喧嘩したことないんだけど、一回だけ花森選手巻き込んでまじ喧嘩したことあったんだ。いやぁ、あれは花森選手に悪いことをした。その理由が唯一無二で今後拭われないだろうけども一番悔しかったこと」
「ーー理由は?」
「はははっ!いやこれほんとにね、くだんないことだと思うよ、人にとっては。だって当たり前のことだ。多くの人にとっては。だから言わない。けど、そこで私はいくつかやりたいことやらなければならないことを見つけてまぁ今ここにいるんだけど、その時たったひとつだけ夢を描いた。その夢のために私は今もいる。まぁ、回りくどい説明するけどさ、その夢には持田選手が必要なんだよ。だから、私はどっちかがスパイクを脱いだら私も脱ぐって決めてる。夢が叶わなくなるから。でも、私は来季もプレーするつもりでいる。それが質問の答え」
そう言えばサポーターが湧いた。これでいい?という言葉は完璧に消えたな。まぁ引退云々の質問に答えみたいなものだから仕方ないだろう。そう言ってひらりと手を振っあ。
「インタビューおわり!ばーい!」
苗字選手でしたーー!ありがとうございましたー!というアナウンサーに私はピースサインをする。誰だお前らもう結婚しろってヤジ飛ばしたのは。アイツの女子ファン怖いんだからやめてくれ。今回もマウント云々って言われるんだぞ。こわっ。って、私どさくさに紛れて蓮って言ったな。
着替えて外に行けば持田がいた。ひらりと手を振った彼はまぁ相変わらずでかいな。
「なにあれ、初耳なんだけど」
「うるせぇ、ビビったか。さっさとピッチに立てってプレッシャーを与えてんだ」
そう言いつつ松葉杖をついてる持田をバシバシ殴る。なんで私がゲームしてんのに連れて帰らにゃいかんのだ。
「はっ、あんなもんプレッシャーにもならねぇよ。勿論俺が10番だろ」
「はぁ?なに言ってんの?私が10番でしょ?」
「はぁ?」
そう言って見つめあったところで二人で爆笑する。そのうちまじでのやり合いになるのであるが。ハナちゃんが10番でという話にもならないんだけどな。
「あのね、蓮。私は嬉しいよ」
「なにが」
「まだ一緒にサッカーできることが。スパイク脱ぐんじゃないかって若干おもってたしね」
「あっそう」
「ははは、そこだよなぁ。あっそうですますのが君だ。私はそういうところが堪らなく好きだね」
そう言いつつハンドルを切る。彼は上機嫌に窓の外を眺めたまま口を開く。
「俺もお前も物好きだよな。お互いにこんな奴好きになってんだから」
「……うるさいな、私は人気なんだよ。だてに女王として君臨してないわ」
「はぁ?お前よか俺の方が人気に決まってるだろ」
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「ハナちゃーん」
「!ナマエか」
手を振りながら彼の元に走る。久しぶりー!とそのままタックルすれば彼はよろけたが受け止めた。くっそ、腹立つな。結構本気でタックルしたのに。
「久しぶり!いや、電話はたまにしてたけど、実際に会うのは久しぶりだ!みてるよプレー!たまに夜中だったりするから時間で見れない時も録画してる!」
「あぁ、しってる。ナマエのことだからちゃんとみてくれているだろうと思っていた。でもナマエがなぜここにいる?」
「あぁ、私も女子の方でね、近くで練習だったんだけど、プレスに混じって入ってきたんだよ。時間があればご飯に行きたいんだけど、試合したらまた向こうにとんぼ返りでしょ?」
「いや、少しくらいなら……持田は」
「元気だよ。まだ脱がないから安心していいよ。まだ10番かしとくって。東京ヴィクトリーで療養中」
「……そうか」
「喜怒哀楽入り混じった表情だなぁ。あんまり無理しないでよ。ハナちゃんはすごいのわかってるけど、無理しすぎて怪我するのはみたくないからね」
「わかってる」
「こらー!苗字ー!隙あらばいっつもはいってくるなお前は!」
「やば、城島さんに見つかった!じゃね、あと椿くんによろしく言っといて!」
そうひらひらと手を振ればなんか固まった。椿くん関連か。すまんな。だが私は椿くんが好きだから。さっさとでないと城島さんがうるさいぞーと思っていればブラン監督がやってきた。やぁ、と手をあげた彼に私は笑顔でこんにちはと言った。
「こんなところで女子サッカー界の女王様に会えるとは思わなかったよ」
「えっ、それって日本で言われてます?」
「いいや?他の国でも君の話は聞くよ?女子サッカーの最高峰に君臨し続けてる女王様ってね」
「ははは、なにそれ」
そう笑う。
「そんなんじゃ、まるで彼女達が私を崇めてるみたいじゃないですか。トランプ兵じゃあるまいし」
「当たらずとも測らずじゃないかい?女子の監督してる人からはそう聞くけども。君はそういうレベルのプレーができてる。君が男だったら間違いなく代表入りだね」
そう言った彼に、私は動きを止めて彼をみる。うるせぇ、と言いたいのをだまる。私が答えるよりもハナちゃんが口を開く。
「そんなこと、当たり前でしょう。ナマエは俺には届かずとも持田レベルです。それをずっと女子界でキープしてる」
ふふ、と笑う。ハナちゃんの背中をバシバシ叩いて、ありがとう、とお礼を言っておく。まぁ女子のコーチがコラァ苗字ー!!とやってきたので話は中断するのだが。
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「ナマエと仲がいいのか」
「えっ?いや……仲がいいというか、応援してるって言われたというか……」
「そうか……お前はナマエに認められているのか……なるほどな……」
「ええっと……花森さんは苗字さんと仲がいいんですか?」
「ナマエは昔から持田と俺の間に入ることが多い。子供の頃は三人で一緒にプレーしたりした」
「え?一緒に?」
「当時、どこぞのクラブのお抱えでもなんでもない無名から強豪になった小学生のチームが一つあってな。そこにナマエがいた。持田とは近所だったらしい。持田の紹介であった。その頃からあの二人はあんなのだ」
「で、ハナ、喧嘩に巻き込まれたのか?」
「ん?」
「この前苗字がインタビューで答えたんだよ。一回だけ花森巻き込んで本気で喧嘩したってな」
「……ナマエが言ったのか」
「あぁ」
「中学に上がる年に持田がナマエをユースに誘った。ナマエが持田のいるチームに入れなかったんだ」
「あぁ、苗字は女だもんな。男子には入れないか」
「ーーそうだな。世間的にはそうだ。でも俺にも持田にもそれが納得できなかった。男だと思ってたのもあるが、それだけアイツのレベルが違った。最後にはナマエに向かって騙しただのなんだの持田が言い出して、ナマエもナマエで怒って殴り合いにまで行ったから流石に止めた」
「どっちが折れたんだそれ」
「ナマエが折れたらしい。詳しくは知らん。次会ったときにはいつも通りだった。でも未だにたまにいうぞ。性別なんてクソ食らえって」
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「あの二人、さっさとくっつかないかとは思ってる」
「え?」
==
==
たまに思うよ。なんで蓮なんだろうって。なんで私じゃないんだろうって。私ならよかったのにって。だからさ、神様。たった一つだけ叶えて欲しい。私の足を奪っていいから、どうかーーどうか。
ーー蓮に足を返して欲しいって。
「あぶない!」
そう言って子供を突き飛ばす。回避するのに間に合わないなんでわかってる。二回目だ。二回目なのだ。そのまま突っ込んできた車と、壁に私の足は、体ははさまれた。叫び声があがる。子供は無事らしい。でもきっと私はダメだ。運転手は意識がないらしくクルマを下げることはしない。意識が霞んでいく。ねぇ、神様。どうか。私の足を、私の夢を奪ったのなら。与えるべき人に与えて欲しい。
ーーここでニュース速報です。
その言葉で世界はひっくり返ることになるのだ。
==一緒に立てなかった場所
「お前、なにしてんの」
そう聞いた蓮に、なにしてんのってひどいな、と思う。まぁ、私はほら、緊急手術して人工呼吸器つけて寝てるから。幽体離脱ってやつだ。
「なんでお前が先にそうなってんの」
なに?と思えばなるほど片足がない。あぁ、こりゃあ怒鳴るわな。
「なんでそうなってんだよ!!俺やハナと一緒にピッチに立つんじゃなかったのかよ!!」
そうだよ。そうしたかったよ。だから私は頑張ってきたよ。でももう無理だよ。だけどそのかわり、蓮の足が良くなるように願ったよ。だからさ、泣かないで欲しいよ。
==
「うっわー、あんまりいい夢でない夢を見てしまった」
夜中に起きる。いやぁ、あんまりいい夢ではないがありえそうな夢すぎて嫌だわ。水のも。そうふらふらと立ち上がりキッチンに向かう。その時扉が開くものだから泥棒か!?と身構えたけど違うかった。持田である。私をしばらくみてから何やら安堵したらしい彼に首を傾げた。なんじゃらほい。
「なに?どうしたの?夜中に」
「……女子力もクソもない格好してんな、相変わらず」
「悪いか。というか、夜中に来る意味がわからん。なに、どうしたの?」
「はぁ、どーでも良くなった。寝る」
「そっちは私の寝室なんですけどー?」
ズケズケと進んでいく持田にため息を吐く。おい当たり前のように私の寝室を開けるな。そして寝るな。
「もー。仕方ないからいいけど。端によれー、私の寝る場所をつくれー」
「うるせーよ」
「うるさいじゃないの。私も寝るの」
そうズケズケと私も布団に入る。狭いけど仕方がない。
「まぁいいや、私も嫌な夢見たあとだし」
目を瞑りながらそういえば向こうも「あっそ」とつげた。
==夢落ち
・あくまでできてる
「はい、あげる」
そう言って投げてよこしたものに目を瞬く。小さな箱である。なんだこれ?と思って開けたら指輪だった。固まった私に、持田は爆笑する。
「いや、えっ、は」
「なに混乱してんの。超受けるんだけど」
「いや、混乱するわ。何、読モからなにまでよりどりみどりなのに最終私みたいなのでいいの?」
「はぁ?ナマエが一番楽なんだしそれが一番いいに決まってるっしょ」
それは惰性というのだよ、と思いながら指輪を見つめる。それとも何、と持田は言葉を続けた。
「今更俺じゃなくハナがいいとかいうわけ?」
「や?そういうわけでもないけど、驚いただけ」
「ふぅん」
「めちゃくちゃ驚いただけ」
そう言って指輪から持田に目線を移す。耳が赤いぞ、持田。ふふ、と笑いながら「ありがとう」と告げる。
「……」
「嬉しいので、謹んでお受けいたします」
私の言葉にちらりとこちらを見た彼は、息を吐いてから「だいたい」と口を開く。
「お前をどうこうするのも俺かハナしかいないんだし感謝しろよ」
==
「平泉さんと城西さんくらいには報告しなよ」
「面倒くさい。ナマエがやればいいじゃん」
面倒というか気恥ずかしいの間違いではなかろうか。そう思いながら「じゃあ私が言っとくし、ハナちゃんに言っといてよ」と言えば私のスマホを取り出した。うおーい、私のスマホで連絡すんな。私からのコールの方がハナちゃんがはやくとるってわかってるからだろうけど。じゃあ私はとりあえず持田のスマホを手に取り、撃沈した。いやなに、待ち受けはいい。私も同じく三人で撮った写真だからだ。しかしながら、ホーム画面はやめて欲しい。私と持田のツーショットじゃん。なに可愛いことしてんの。とりあえず話出したので気を取り直し、平泉さんにメールをする。ぎゃあぎゃあと騒ぎになってるが無視だ。とりあえず明日なら多少時間取れるらしいので明日に向かうとする。
「明日平泉さん城西さんと会ってくるねー」
「……俺もいく」
「いいの?面倒くさいでしょ」
「ナマエに任せた方が面倒くさい」
==
「ってことで、結婚するから」
そうさらりと言った持田に、周りが固まった。まぁそんなことになるだろうなと思った。面倒いから私のとこの監督も合わせて呼び出してたんだけど、そっちも固まった。広報さんが面白いぐらい目を白黒させてるのが面白すぎて吹き出せば同じく持田も爆笑した。
「ドッキリ……?はっ!平泉監督と桜木監督へのドッキリか!」
「いや、事実です。指輪投げてよこされました。一応上司だし言っといた方がいいかなって」
「……昨日のメールは苗字か」
「いや、平泉さんと城西さんのアドレス知らなかったし、面倒くさいとかいうし」
「苗字が相手なら大丈夫だろう」
「ええ、そうですね。でも記者にはどうすんだ?」
「どっちかがmomとった時でいいんじゃないっスか。別に今更ああだこうだ言うことじゃないでしょ」
「(来季までいう気はないんだな)」
「花森には伝えたのか?」
「伝えました。1番に」
「……両親には伝えたのか?」
「伝えてない」
「おい、それはいいのか」
「伝えたところで嘘だって思われるんですよね。普段の行いが悪いから」
==
「持田が丸くなるといいが」
「なるわけないと思いますよ。苗字の本性も似たようなやつなんで」
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