2020/10/15
空白2
監督は、じゃあ城西は二人を連れて行ってあげてよ、と最後の最後でこちらに話を振った。持田の顔が不機嫌だ。周りが付き合ってるのかなどと詮索を始めるころだ。
「やっぱりシロさんなんか知ってたんじゃん。ってかシロさん、アイツ好みなの?趣味悪」
「悪い、苗字に口どめされてたんだ。言っとくが、たまたま苗字にあってたまたま知っただけだぞ。付き合ってない」
そう言って釘を刺す。まぁ前もって監督の秘書が電話していたから時間は大丈夫だろう。持田はため息をついて、はぁーあ、心配して損した、と言葉を吐いた。持田にもそんな心があったのか、と告げた周りを持田が睨んだが。
「シロさん、あねさんは日本におんの?オレらはまぁ、今日はあれやし、こんど行っても大丈夫やろか」
「あぁ、東京にいるぞ」
「なんだ、東京にいるのか」
「それにしては目撃あがってこないよなー」
「何処にいるんだ、アイツ。駆け落ちか?」
「いや、彼女は大学病院にいるよ」
はっきりと言った監督に、周りが固まる。そりゃそうだ。花森なんかは持っていたボトルを落とし、持田もまた「は?」と顔をしかめた。
「詳しくは彼女に聞いたらどうだい?連絡をしたとはいえ、病院だからね、早く行った方がいいよ」
そう促した彼に、オレもうなずいたのだが。
結局はこの三人の関係を知らない。幼馴染みで腐れ縁とはお互いがお互いに言う言葉であるが。事務員と看護師に告げて鎮まった病棟を移動する。そうしてただ一つ電気が付いている個室の前に向かう。病院にいると聞いて、二人は喋らない。だが、こちらに聞くそぶりもない。扉をノックすれば、どうぞー、と苗字の声が聞こえた。扉を開けて入れば、帽子をかぶった苗字がひらりと手を振った。久しぶりー、とあのころ通りの声をだした彼女に、「悪いな」と謝る。
「いやいや、私が頼んだことだしいいよ、ありがとう」
ははは、と笑った彼女に、持田が俺の服を掴んだ。何の冗談?と顔を歪めた持田に花森は固まったままだ。ショックだろう。二人のイメージは恐らくあの試合の時の苗字だ。こんなに細くない。こんなによわよわしくないあの頃の彼女だ。髪が抜け落ちた彼女ではない彼女だ。おーい?と首を傾げた苗字に、意外なことに花森の方が先に動いた。でも、何処か恐れたように見える。そろそろと花森は苗字によると、どうしたんだと声をかけた。持田が扉の外でしゃがみ込む。
「ナマエ、何があって」
「いやー、昨シーズンの途中で病気見つかってさー、手術とかいろいろしてちょっと落ち着いて今。もう一回手術するから薬の点滴でこうなってるんだよね」
苗字はカラカラと笑ってそう告げた。
「笑い事じゃない……!もう一回手術ということはまだ悪いんじゃないのか?」
「うーん、でも次の手術と適切な治療受けてりゃ5年以内には死なないらしいし大丈夫」
「それはまったく大丈夫じゃない」
こればかりは花森が正論である。
「手術ってなんだ?何処が悪いんだ?」
「もともとはお腹の中だったけど、次は足」
苗字ははっきりと言った。少しずつ言うのかと思ったが、一気にネタばらしするらしい。花森がまた固まった。顔が青い。持田は座り込んで顔を隠した。
「……嘘だろう」
「嘘じゃないよ。右足に転移しちゃってるから来週バッサリする」
そう言った彼女に花森も顔を下げた。どうして。花森が呟く。なんで。持田が呟く。呟かれた二つの言葉に彼女はまた笑った。
「足も子宮も神様が選んで持ってくんだから仕方ない。命取られるよりマシじゃない?」
彼女はそう言って近くにいた花森の顔を覗きこんだ。
「だが、ほかに道はないのか?」
「そっちの方がいいって」
「だが、もうーー」
「ーーでもサッカーは辞めてやんない」
彼女は強い口調でそう言った。プレーができなくなる、といいかけた花森に、彼女は怯むことなく言い切った。持田がやっと顔を少し上げる。
「片足でもサッカーはできるから私はやる。一からになっちゃうけどやるって決めた。日本で一番上手くなってやるから今に見とけ」
力強い彼女の言葉に、持田が息を吐く。なんで、お前は、ぼやいて持田は立ち上がった。
「お前やっぱりサッカー馬鹿だわ。はーあ、やっぱり心配して損した」
「持田」
「ハナ、考えてみろよ。サッカー馬鹿なコイツが死ぬたまかよ。心配して損した。帰る」
そのままくるりと背を向けた持田に、苗字は笑って告げる。
「私が元気になったら、また一緒にサッカーしようね、蓮。ハナちゃんも」
「……回復してから言え、ばーか」
それだけ言って持田はスタスタと歩く。追いかけた方がいいかと苗字に謝って追いかけようとしたら、持田に、くんな、と釘を刺されたが。
「大丈夫大丈夫、城西さん。多分そのうち吹っ切れるから。ハナちゃんもお疲れのところごめんね」
「……また見舞いに来る」
ぐすぐすと鼻を鳴らした花森に彼女は頭を撫でる。そうして、おやすみ、と笑って見せた。
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超カッコいい義足のデザインを両親が見つけてきて騒いだり、病棟にいる子供を膝に乗っけて車椅子で爆走したり、松葉杖で徒競走したり、サッカー好きの人と喋ったり、看護師さんと話したりリハビリ室の人たちと遊んだりする。嫌だって暇なんだもん。潔く私の引退理由と失踪理由、現状をメディアに発表されたらしいが等の本人が蚊帳の外である。周り曰く結構騒がれてるようであるが私には全く届いていない。病棟にマスコミは来れないってドクターいってた。病院強いな。
あと、蓮は何故か二日に一回くらいのペースでくる。最初は来るにはくるが威嚇した猫のように病室に入ろうとしなかったが、まぁなんだ、しばらくして慣れたら普通に入ってくるようになった。慣れたというか、やっと事実を飲み込んだ感じだろうか。最近は私のなくなった足がきになるらしく問答無用で触ってくる。やめろ、セクハラだぞ。あとリハビリやたらみにくる。あれって持田では?となるのに黙ってくれてる職員さんは優しい。
「くっそ、上手く歩けない……松葉杖とかクラッチの方が絶対早く移動できる気がする」
「苗字さんあの移動方習得すんの早かったですもんね。松葉杖ダッシュとかしてますもんね、学生と」
「え?バレてる?」
「バレてますよ」
よたよたと支えられながら歩いていれば、蓮が顔を出した。
「ぶはっ!!ナマエ歩くの超下手じゃん!」
「くっそ、蓮、今に見てろよ……!というか君だってこんな歩き方してる時あるんだからな、怪我明けとか!」
そう言っても彼はケタケタ笑うだけなのだが。私がもー!と怒れば彼は若干上から目線で口を開く。
「……率直な疑問だけどお前一人歩きでここまで来れんの?」
腹立つなコイツ。そう思いながらやってやる、とリハビリ室の人の手を離し蓮に向かって歩く。おっ、なんかいい感じだぞ。そのまま慎重に歩く。幸いなことに痛みもそんなにないし。ゆっくり、とっとことっとこ歩く。まぁ私が近くたびに半歩下がるんですけどね。蓮が。
「おま、おまえーー!おのれー!半歩さがるな!鬼畜め!」
なかなか難しいしきついんだぞ。でもまぁ追いかけるけどな。早く慣れたいから。ようやくさがるのをやめたの近くまで辿り着く。みてみて、とリハ室の人を見れば目を瞬かれたのだが。
「苗字さんやっぱり習得早いですねー」
「褒めない方でいいよ、コイツすぐ調子乗るから」
そう言った蓮に裏拳いれようとしたら防がれた。
私の病室は基本私がいるときは出入り自由なので、偶に学生に英語教えたり、小学生と遊んだり、男子学生とサッカーみたり女子学生ときゃっきゃしたりする。まぁ、恥ずかしがり屋とかは私が一人でいるタイミングを狙ってくるがな。……蓮はあれか。私の周りに人がいすぎるからリハビリの時間にくるのか。頭いいな。ということで、リトル持田、リトル花森と私が心の中で命名している学生とアンプティサッカーの試合をみる。偶にキャプテンやってる錦さんがきて説明してくれるのだが、今日は不在だった。とりあえず、三人とも片足ない新参トリオだから。サッカーしようぜ!と声かけたらなんやかんやいいつつ来た人である。ちなみに就寝時間前に来るので看護師さんに頭を下げなければならない私だ。私だけが大人だからな。
「ナマエ?」
そう顔を出したのはハナちゃんである。目をパチパチと瞬いて彼をみる。
「日本帰ってきてたの!?」
「……毎年のことだ」
「毎年……ホリデー……もうそんな時期か……!」
ひぇー、最近カレンダーちゃんとみてないわ。うわー、と言えば、学生二人がパチパチと目を瞬いていて固まった。そういうとこは素直なんだよなぁ、リトル持田。
「何してる?まさか……」
「いや、ハナちゃん、蓮と同じ発想に行き着かないで。辞めて。アンプティサッカーの動画みてるだけだから」
そういえば興味があったのかご丁寧に二人の逆サイドにきてタブレットを覗き込んだ。
「ドイツもあるもんね、チーム」
「……あぁ。……ナマエはもうボールが蹴れるのか?」
「ある程度はね」
私の返答に若干嬉しそうにしたハナちゃんは可愛い。
「まぁパス精度やっぱり現役より落ちるけどそれは修正していくつもり。慣れもある気がするし。あんまり練習試合もできてないからガンガン練習していきたいね」
「その二人は?」
「今度の私の相棒で未来の10番であーる」
ふふふ、と笑えば、ハナちゃんもまたふふふと笑った。
「……普通に考えてコイツに10番は無理だろ」
「うぐっ……!」
「みて、この見覚えのあるやり取り。というか未だに私の目の前で今でも10番争いまだ偶にやってるけど。まぁ勝手に競いやれ。私が先に10番、君らは私の後」
「ババアに出来んの?」
「ババア舐めるなよー、君らより上手いわ」
「……まぁナマエは……どういうものであれ経験があるから……」
「経験か。私が勝るのは経験だけか」
バシバシとハナちゃんを叩く。慣れた看護師が二人を呼びにきたのでそこで二人とはおやすみしたが。まぁ、なんとなく、私がアンプティサッカーの動画、一緒にプレーしていることを聞いたからかハナちゃんは特に驚くこともなく見送った。そしてそのまま私の足を見下ろす。正しくは足がなかった場所をみた。
「ないよ」
「……」
「凝視しても生えてこないってば。ドッキリでもないよ」
そう言って苦笑いして、布団をめくる。まぁちゃんとは見せないけど。そしてそのまま彼にハグをする。
「大丈夫だってば。現実は怖くないよ。私は元気だし、サッカーできるよ」
そう背中をぽんぽんしてから離れる。
「多分ね、蓮もそうなんだけど、君たちが思ってるよりこれは悲劇的ではないし、君たちが思ってるより私は平気だ。これは強がりじゃないよ」
ちょっとだけ嘘だ。でも、だいたいが本当だ。仕方ないのである。
「むしろ、新しい挑戦ができてワクワクするね!新天地でプレーするんだからさ」
ケラケラ笑ってそういえば彼は息を吐いた。そうして逆に私をハグする。うわ、と可愛くもない変な声が出たが、まぁ、いいか、と好きにさせる。しばらくすれば落ち着いたのか少し離れたけど。やっぱり身長高いんだよなハナちゃん、と見上げれば彼は一瞬かたまったように私を見下ろし照れたように離れた。なんだ、可愛いな、その仕草。
「……明日また昼間にくる」
「えっ!やったー!一緒にボール蹴ろう!」
「……あぁ」
「グランド押さえとくからな、嘘だったら許さないぞ」
「……アレック達が来る前に行く」
「やったー!そこら辺もくんの!?あれ、なんだその面子!うそ、近々代表戦あった!?」
「……帰ってきてる奴と集まれるやつで飲みに行く」
なんだそれ。羨ましいな、おい。
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