2020/10/15
空白 4
キャプテンに聞いて免許云々を聞き、ちゃんと検査をうけ、一人で車を乗りこなせるようになった私凄くない?と言ったところで褒めてくれる人はいないのである。私が一足先に退院してしまったが、まぁ、診察リハビリついでに会いに行けば暴言ではない暴言を吐かれるくらいにはリトル持田は元気であるし、リトル花森もその他年下年上陣も元気である。まぁ二人とも今月に退院らしいけど。パパママの連絡先知ってるし、まぁ練習場への送り迎えぐらいしてやんよ!ということだ。そしてただいま私はだな、フリーターというかニートである。運転できるとばれたので、蓮に本格的にアッシーをしているのが今だ。というか持田蓮が私の家に住んでいる。二つあるゲストルームの一つがアイツの部屋になっている。偶に寝室出張してくる。過保護め、と思ったが、それって同棲じゃないのか?と本部であった城西さんに突っ込まれた、なうだ。
「いや……えっ……」
「まさか本当にサッカーのことしか考えてないのか?」
「否定できない……」
そう顔を覆う。あー、側から見たらそうだわ、同棲だわ。荷物が徐々に増えてるわ、気にしてなかったけど。広報さんや運営の人達がちらちらと私をみている。
「いやー、最近どう地盤を固めつつ運営業務に関わればいいのかとかこの先働かなきゃいけないからETUの広報枠目指そっかなとか色々考えてたんだよ」
「地盤?」
「もっとこう……なんだろうな……アンダーの大会を開催できるぐらいに持っていきたいんだけど、そのためには人数がまだいないし、地盤を固めつつ道路を舗装したい。リーグには一応協賛がついてるけど、個々チームってなるとまだだし、設備をもうちょい良くしたいし、組織自体が結構ボランティアで成り立ってるからどうにかしたいんだよねー。子供が増えたら将来的に見てさー、選手の幅も増えると思うし、初パラリンピックで金メダルとりたいじゃん」
そう指折りいう。城西さんが目をパチパチと瞬いた。
「なんかさ、私がこうなったから思うだけかもしれないけど、多分私やリトル持田と同じ経験をした人にとって、サッカーは健常者のスポーツっていう意識なんだよね。両足で走ってボールを蹴って、両手でボールを防ぐ。そんな認識。でも、違うってわかったらやると思わない?」
「そうだな」
「でもそれをするにもチームが全国9つだとかでやりにくいんだよね。それをどうにかしたい。っていう話を創設者と立ち話で話したら、バックアップするから君に任せるって言われた」
確かにアンダーの試合はいいね!とはその人のセリフである。ちなみに15以上アンダー20になるとどれくらいいるの?と聞けばそんなにいないらしい。キャプテン達もいいんじゃないか、と言われ今年中に指導者資格を取るように勧められた。まぁそれはいい。とりあえず最近はどうするかでいっぱいいっぱいで、他を気にする暇などないのである。
「でも、働かないと生活やってけないから、ETUの面接に……」
「やばい、部長ー、苗字さんうちの広報入れましょう!ガチでETU行く気だ!」
「会長に話通せ!」
急に飛び交う言葉である。
「うるさいんだけど、なにしてんの」
顔を出した蓮に、私は「いやぁ、」と苦笑いする。
「私がETUに働きに行くと言ったらこれ」
私の言葉に蓮が爆笑した。ゲラゲラと笑った彼は私の背中を叩く。
「お前、ホンットETU好きだねぇ。でも、ETUの試合放り出すくらいには俺のこと心配してるんだろ?なんやかんやウチの試合も追ってるし」
「そりゃあまぁ、蓮とETU選べって言われたら君選びますけど」
「じゃあ俺のアッシーしてたら?どうせお前の部屋買ってんだからいるの共益費と生活費だけだろ。それくらい俺が出せばいいし」
「いや、それは蓮に悪くない?なんかやだなぁ、私も働けるから働きたい」
「お前俺の年俸わかってる?」
「わかってるよ、私の倍は違ったから知ってる」
「つーか、そっちの地盤固めてやるんだったら働いてる暇あんの?」
「ぶっちゃけそうなんだけどさぁ、もっとこう……わかる?」
そう近くにいた女子職員に言えば、首を左右に振られた。何故顔が赤いのだ、と考えたら、はた、と気づく。これは……。
「えっ、」と言えば蓮が爆笑して私の背中をまた叩いた。
「さっさと帰ろうぜ、腹減った」
「待て、よろしくない。ここにいる人達が多分大変よろしくない」
「今日の晩飯なに」
「煮込みハンバーグの予定だけどさー」
ズルズルと引きずられる。まぁとりあえずヒラヒラと手を振っておいた。仕事あったらくれー、ともいっておいた。
「ええー……キープ枠でしょ私」
「キープ枠にこんなことするわけないだろ」
そのガチトーンやめてください。
「……やっぱり一方的に養われたくないなぁ、なんか悔しい」
「じゃあ、一生悔しんだら?」
「えぇー、うーん……えぇー……せめて自分の小遣いぐらいはかせがして欲しい」
ちゃんと立って隣に並ぶ。こちらを見下ろした蓮は、私の額を指で弾いた。
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研修で鹿島に行って岩淵くんや綿谷くんに会えるかな?と思ったんですけどやっぱり練習場人が多すぎた解せぬ。あと指導者側の研修参加なんだけどプレイヤー側の研修にも参加したかった。まぁ教わることも多いし、暇を見つけてはちょこちょこと聞きにいくが。この前試合した大阪の人もいたから大阪の人が容赦なく絡んでくるから楽である。
そんなこんなみんなともぐもぐとご飯食べる。他人が作る美味しいな。
「ニュースで見たとき、来るかな?っていう冗談は言ってたんですよ」
「ふふふ、きちゃった!いやぁ、みなさんが思ってるより私サッカー好きなんですよね。サッカー=人生に近いから、サッカーやめたら死んでしまう」
はははと笑えば、彼らは目をパチパチとまたたいた。
「サッカー辞めたら人生なにすればいいのか全くわかんないからね、私。まぁいつかは現役は退かないといけなかっただろうけどさ、こう、20年以上サッカーと付き合ってるしサッカーに人生かけてたからなにしていいかわかんないんだよね。病院のグラウンドでこれの練習見たのがよかったと思ってる」
ふふふ、と笑いながらコロッケを食べる。いやぁ、アンプティサッカーを見てなければどうなってたか。めちゃくちゃ荒れてる気がする。
「そういや夢って叶ったんですか?」
「あぁ、アレね」
「アレ?」
「苗字選手、金メダルとか世界一位とか何回か取ったのにまだ夢は叶ってないって言ってたから」
「贅沢な夢ッスね」
「いや、そこまで贅沢じゃないよ。あと古い夢は叶ったけど新しい夢は叶ってない」
「結局何だったの?」
「花森くんと持田と一緒の舞台で一緒にプレーすること」
もぐもぐと野菜も食べる。このドレッシング美味しいな。
「え?」
「幼馴染みでさー、小学生までは一緒にサッカーしたりしてたんだよ。でもさー、中学生の頃に性別っていう壁にぶち当たったわけだ。一緒にサッカーしようね、って約束してたから、それができるように時間を費やしたよね」
「え」
「女子リーグを盛り上げてサポーターを増やせば味方が増える、金メダル何回も取ってたり世界一位になったら実力差がだとか煩い外野は少なくなる、私自身が世界で何本指かの、男子に通用するプレイヤーになればメディアも多少は黙る。そのために女王様してた。まぁ、それでもあのゲーム、外野はうるさかったらしいけど、もう知らない。当事者は満足」
そう言いつつお箸を箸置きにおいて手を合わせる。うむ、お腹がいっぱいだ。
「私が夢を言わなかったのは本当に些細な夢だったし、人にとっては当たり前だったからなんだよね。だって当たり前でしょ?女の子が男の子に混ざってサッカーしてはいけないのは。体格も筋力も違うんだから危ない。だから当たり前。でも私はその時に本当に二人とサッカーできなくなったことが悔しかったからさ。めちゃくちゃ諦めが悪いんだよ私は。だって一定数いるって。私みたいなタイプとか男の選手に憧れてサッカー始めた子とか。私みたいな思いして欲しくないから前例も作りたかった。だからある意味私があそこで引退したのは夢が叶って綺麗な幕引きではあったよね」
まぁ、もっとボールを蹴っていたかったしもっと本調子の時にやりたかったがそれはもう済んだ話だ。しかしながら、「まぁ、物語的には」と私は付け加える。うるっとしていた女子プレイヤーの人がえっと私をみた。
「話の流れ的には綺麗で、万人が涙する内容にきこえるね。でもさ、ぶっちゃけ私はあの時引退する気はなかった。ちょっとピッチから離れるだけ。だからほんとはあそこに戻るつもりでいた。だって私は女王の座を誰にも渡してないし、外国の友人に勝ち逃げしてる。引退ではあんなことを言ったけど、後任を育てきらないまま、私はそれを手放すしか無くなった。私は誰かに負けてあそこをさるつもりだったのに。まぁ、今更だけど」
そう言って頬杖をついた。逆に言うと、そこまで綺麗にいっていれば、私はきっとサッカーを辞めていただろう。
「まぁ、こうなったのは仕方ないって割り切るしかない。問題は次の夢なわけだし」
「次の夢?」
「初出場で金メダル取る。というかランクがあるか知らないけど世界一位に持っていく」
ゲンドウポーズをとってしまったのは仕方ない。周りがこちらに向いた。大阪の人がこちらを見た。
「マジで言ってる?」
「言ってる。その為のタスクがありすぎるから今ちょっとずつ潰してる。それに多分うまくいって5年はかかる。とりあえず2、3年以内にアンダー20あたりで大会作りたい。今の大会って、実績見ててもこう中学生から高校生であんまり試合できないでしょ?だからそこら辺に試合する感覚掴ませたいんだよね。まぁ五年以上先、私が生きてるからわからないし、って言ったらキャプテンに指導者受けてって言われて今ここ。でも私一年はプレイヤーしたいんだよー、実力ついてから指導者させてくれー」
そう言って机にへたり込む。サッカーしたいよう、とこぼせば、彼彼女らは私を見下ろした。
「苗字さんって、勝つのが好きなの?」
「まぁね」
「過程より結論が好きなタイプ?」
「そういうことではないよ。ただ、勝負ってかつか負けるかじゃん。サッカーってドローはあるけどドローでも内容において限りなく勝ちに近いものと負けに近いものがある。トントンなんて滅多にない。結局は二択なわけだ。過程がいくら良くても勝たなきゃ意味がないって私は思う」
あくまで持論である。だから強要はできない。
「サッカーってある一定まではみんな上手くなるけど、それ以上になると試合にでたい、勝ちたいって人が更に上手くなると私は思う。別にその一定でいいなら私は否定し、無理に強要しない。だって私は新参者だし身内のノリも知らないからぎゃあぎゃあ言ってるだけだし、向こうとは違って仕事もあるから勝ちに拘ってられない人も多いと思う。でも、私はどうせやるならとことん勝ちに拘りたいし、プレイヤーとして王座にいたいし、チームとしても王座になって欲しい。日本が世界で一番でありたい。ここで私が大好きな、ある時期に励まされた言葉を告げよう。ETUの堺選手のお言葉」
ははは、と笑いながら告げる。
「ーー諦めない奴には絶対にボールは転がってくる。諦めない人にはそうやってチャンスがくるんだよ。チャンスをモノにできるかはそれこそ過程がものをいうけどね」
まぁ、ホント新参者がなに言ってんだって話かもしれないけども。
ひらりと片手を振ってご馳走さまでした、と席を外す。また呼び止められて握手して軽く会話をする。いやー、大学生ぐらいが多いね。
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「やっぱりアンダー20でやるにしろ、オリンピックみたいな感じでオーバーエイジ枠が必要かなぁ」
そうペラペラめくる。みんな自チームの若手勧めてくれるからありがたい。同い年とサッカーしたら刺激になるだろってわりかと強い人が言ってくれるのもありがたい。
「フランスとドイツの友人経由でフランスとならできる気がするな」
「ドイツ?花森選手?」
「ハナちゃんは社交性ほとんど無いから多分頼んでも困る姿しか見えないんだよね。双方女子サッカー引退した子がアンプティサッカーやればいいじゃない!って連絡くれて話聞いてたらそっちで働いてて話持ちかけたらいけそうだった」
うーむ、と唸りながら首を傾げる。
「やっぱり18歳以下あたりの層は薄いなぁ。1チーム行くか行かないかくらいしかいないのね」
「まぁ大学生からが確かに多いんだがな。浸透してないのもある」
「それ会長さんにも言われた。絶対リトル持田みたいにサッカー諦めてる子供多いと思うんだけどなぁ」
「そうだなぁ」
「リトル持田?」
「ウチにいる高一だよ。新しく来た割に上手い」
「へぇ、うまいのか」
「上手いというかつけたというか、リトル持田とリトル花森の二人のやりとりが完璧持田花森コンビのやりとりだからそう付けただけ。私からすれば二人ともまだ下手くそ」
あっちにいる彼らの方がうまい、と端っこで聞き耳を立ててるそれくらいの年の子を指差す。固まってしまった、
びっくりしちゃったかー、そうかー、ごめんな!鹿島のチームの人が笑いながら、よかったなーと告げた。
「……そうだ、そこにいる全員夏休みくらいに東京おいでよ。交通費宿泊費出すからさ」
「えっ?」
「そろそろリトルの鼻を叩き折らないと天狗になって向上心もクソもなくなる気がするからさー、叩き折って欲しい。キャップや秋西さん達に任せてもいいけど同い年ぐらいの方がいいだろうし。私は完璧同じスタートだから威厳もないしね」
「苗字って結構鬼だよな」
「えー?だって秋西さん、自分より上手い奴がいるって現実教えなきゃいけなくない?自信と過信は違うモノだし、自分の立ち位置をしっかり見ないとね。私も自分のレベルを知ってあげるために私もどんどこ試合に出たい」
そう言ってから少し考え、もう一度彼らを見る。
「親御さんとか迎えに来ないの?」
「えっ、なんですか?」
「未成年だけの判断で連れて行けるわけないでしょうが。もうちょっと色々詰める必要あるから確定ではないし、強制ではないけども、手順はちゃんと踏まなきゃだめ。学生なら尚更ね」
「学生だけ?」
「いや、私一人じゃ絶対回らないから大人も参加してほしいけど交通費と宿泊費までカバーできるかわからないしな……秋西さんやキャップ達には手伝ってもらうかも……会長さんともうちょっと詳しく話して、出すとこ企画出して援助してもらえるかは聞くつもりではあるけど。夏にそれができたら冬くらいに外国呼べそうなら外国呼びたいなとは思う。夏の一部と冬の一部なら私も運転手業務しなくて済んでるだろうし」
うーむ、と考えていればスマートフォンが音を立てる。着信である。もしもし?と聞けばヴィクトリーの広報である。聞こえてきた言葉に、それって私じゃないとだめ?と返す。
「まぁ、私が矢面に立つのはいいんだけどさ。うん……うん……詳しくはそっちに帰ってから行くよ。はーい」
通話をきる。誰だ、彼氏?とかいう奴は。ただの仕事の電話である。
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「では、詳しく決まればそちらのチームを通してご連絡させて戴きます」
そう言って来ていた親御さんに告げる。まぁ、私を見かけた瞬間結構騒がれたのでそろそろSNSを通して広がりそうである。
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