2020/10/15

タイトル未定 2

「……そもそも、どうしてスタジアムにきてはいけない?」
「いやー、私、昔っから体弱いみたいで。入退院よくしてたんだよねー、今はだいぶ元気なんだけどまだ病院にずっとかかってるし。だから親が心配するんだ」
そういえば彼は目を瞬いた。欠陥品なんだよ、と笑いながらテレビをみた。まぁ、その手術で入院した時にこの歪な記憶を思い出したのだけども。
「神様は二つを与えないから、私にはピアノの才能を神様が与えた代わりに体を弱くしたって言うのが親や周りの通説ね」
「ピアノ?」
「うーん、一応小さい頃からピアノのコンクール常連なんだ。だから天才児とか女王様とか色々言われるんだけどね、あんまり好きじゃない。私がピアノしてるのは両親の夢の押し付けだし、上手いのは外で遊べないのもあるけど小さい頃から努力してピアノの練習してるからだし。私はピアノの才能よりはサッカーできる健康な体が欲しかったかなぁ。両親の前では腐っても言わないけどね」
苦笑いしてそう告げる。
「でもそろそろ私の人生なんだし、私の人生を歩ませて欲しい。ちゃんと病院に行けば大丈夫な病気だし、サッカーに関わる仕事したい」
「……そうか」
「圭悟くんはダメとか言わないのかー」
「……サッカーの方が好きなんだろう」
「うん」
彼の言葉にヘニャリと笑う。私にとっては当たり前なそれであるが、今の私の周りには当たり前ではない。
「サッカーが一番好きだよ」
昔も、今も、これからも。ふふふ、と笑えば花森選手もふふふと笑った。
「二番目は圭悟くんかな」
わりと本心である。付き合いは半年にもみたないのではあるが結局は彼の方が理解してくれるのだ。私はそのままテレビを眺める。
「……お、おれも、だ」
聞こえた声にそちらを見上げる。信じられないくらい顔が赤い。可愛いな。
「……お、おれも、ナマエが、サッカーのつぎに、すき、だ」
「やったー、うれしい!でも私より持田選手の方が上じゃないの?」
「……アイツは嫌いだ」
すらりと言うあたり仲良いので、仲良いね、とかえす。彼はよくないと怒ったが、私がからかっているのだと気づいたらしい。ジト目でみた彼に、可愛いなぁ、と頭をぐしゃぐしゃしたら彼は照れたのだけど。

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「ナマエさんって彼氏いるの?」
そう尋ねた同級生に、私は少し考える。いや、花森選手は私の彼氏なのだろうか。お互いサッカーのつぎに好きみたいな話をしたが、付き合っているのだろうか。いや、会ったり電話したり出かけたりお宅訪問してるけど。
「たぶんいる」
「たぶん?なんで他人みたいな返答になるんだ」
「私が一番好きなことのつぎに好きだよって言ったら向こうもそう言ったし、まだ電話したり出かけたりお宅訪問が続いてるから」
そう説明したら何人かが固まってしまった。なに、私はもしかして淡い恋心を破滅させてしまったのか。ごめんなー!私この学校の人とはできれば付き合いたくない。私は幸せにされるつもりはないし、この学校の人を幸せにもできないから。
「何処の学科?ここ?」
「や、この学校じゃないし、そもそも働いてる」
「年上?」
「同い年」
まぁ微妙な顔されますよね。今の歳で働いているなら高卒や専門卒のイメージがあるんだろう。親の所得高い子がおおいしなぁ。女王様と平民がみたいなことを言う奴もいますよね。だから余計に嫌なのであるが。そもそも花森選手は平民に値しないと思う。
「いけないこと?」
そう彼彼女らに問いかける。まぁだいたいが首を縦に振ったが。そんなこと言うなよー。まぁ親もあんまり良い顔をしない気がする。母親なんざ才能ある人捕まえてこいみたいな感じだしな。母親は私を彼女の理想図で見る節があるし、周りは周りで私を聖人君子な女王様(しかも体が弱いと言うテンプレ付き)だと見ていて面倒くさい。私がピアノ科の同輩後輩、時には先輩に教えたりアドバイスしたりするのも女王様という立場を譲りたいからなのであるが周りは気づいてくれない。やってらんねー、と思いながら楽譜を整えた。
「何処で知り合ったの?」
「友達に来てって言われてついて行った先のお食事会」
そういえば周りは騙されてる!と口を開くのであるが。

==

「いや、おじさん、あのですね、今から言うこと、オフレコにして欲しいんだけど」
他学科教授のおじさんとお茶会なうである。この人はまぁ母親とは違う形で私を気にかけてくれる人だ。
「私、大学出たらピアノ辞めたい」
いつかは誰かに、周りに言わなければならないことである。彼はパチパチと目を瞬いた。
「どうして?」
「そろそろ自分の人生歩みたいから」
はっきりと言えば母親の兄である彼はピタリと動きをとめた。
「はっきり言ってピアノそこまで好きじゃないよ。お母さんの為だと思って言われるがまま賞とか取ってこの大学にも入ったけど、なんか、それって違うなって。みんなピアノが好きなんだなって教えたりしてるの見て思うけど、私はそうじゃないし」
「……」
「私はお母さんができなかったこと、やりたかったこと、彼女の思い描いてた理想の人生を辿る人形でいたくない。でも育ててもらった恩とかあるし、大学卒業までは今のまま女王様してるつもりだけど、卒業したら社会人なわけだし、私は私の人生を歩みたい」
そう真顔で説明すれば彼は本気と受け取ったらしい。
「……よくピアノが嫌で主席でいられるな」
「ピアノにフラストレーション込めるしかないから込めてるだけ。手を抜いても挑んでくる周りに失礼だし」
「そうか」
「でもこの話お母さんに行ったら150%怒り狂うからおじさんどうにかして欲しい。貴方の理想じゃないよ、って何回もそれとなく伝えたつもりだけど、激怒最後は泣き落としだから」
「何回かトライしてるのか?」
苦笑いしたおじさんに、私は指を折り数える仕草をする。
「まず幼少期。ピアノじゃなくてサッカーしたいって言ったら野蛮なスポーツ扱いされてピアノのレッスン増やされた。こっそりお父さんがサッカーボール買ってくれたけどバレて二人で怒られた。小学生になると友達の選定が始まり、やめてと言ったらブチ切れられて友達と遊ぶ時間もなくなった。中学生になるともうボッチでいいかと思って漫画みたいなザ主席キャラしてたらお母さんが調子に乗って自慢するから辞めてって言ったら激怒された。高校生にもなると当時付き合ってた彼氏と破局された挙句に結婚相手は私が決めると言い出して、もう歯向かうのも面倒くさくなった」
ツラツラといえば彼は目を見開いて私をみる。今思うと私よく耐えてんな。いや、体が弱いから親元から離れちゃいけないって思ってるのもあるんだけど。
「私は私の人生を生きたいだけだよ。母親の理想の人生を長く歩むより、短くてもいいから私は私の人生を生きたい」
「……トキくんには言ったのか?」
「うん、お父さんには軽くね。そろそろピアノ辞めたいって言った」
「……なんて?」
「好きにしていいよとは言われた。ナマエは今までお母さんのいうことだけ聞いて頑張ってたんだから、大学卒業したら好きなことしていいよって。でもたぶんお父さんだけじゃお母さん止まらないからさぁ」
お母さんの実の兄としてなんとかしてくれ。そう思いながら出された紅茶を飲む。おじさんは頭を抱えて項垂れる。
「ちょっと……お前の言った言葉の意味を全部飲み込むから……2、3日時間をくれ……」
これはもしや私相談する相手をミスったのでは??


しばらくおじさんがどんよりしていた為私の中ではもっぱらおじさんと出来てると噂の指揮科の外国人教授(男)が私に会いに来た。やぁ、とフレンドリーな言葉を堅苦しいドイツ語で私に喋りかけた彼に私もドイツ語で返す。
「こんにちは、いつもおじさんがお世話になってます。今回もお世話になってます」
「本当にね!」
そうカラカラ笑った彼は私の背中を叩いた。痛い。まぁこちらを覗き込んだ瞬間、真顔だったけど。怖っ。
「話は聞いたよ」
「オフレコって言ったのになぁ」
「僕が酒を飲ませて吐かせたんだ、悪いね」
彼はちょいちょいと手招いた為私もついていく。まぁ防音室ですわな。私のプライベートレッスン(笑)みたいな雰囲気だ。私はとりあえずピアノを弾いておく。猫ふんじゃったアレンジでよかろう。
「君結構ピアノ弾く時なんであんな感じなのか気になってはいたんだけど、そう言うことだったんだね。それで?卒業したら何する気だい?君の人生の大半はピアノしかないんだぜ?」
「サッカークラブの広報」
「……なんだって?」
「サッカークラブの広報で働きたいんですよ」
「君サッカー見るの?」
「みます。好きです。人生で一番好きなの何?って聞かれたらサッカーって言います。まぁ両親というか母親の意向でスタジアムに行けないしプレーもできないんだけど。ピアノ以外は撮り溜めたサッカーの試合観てます。たまに練習中も見てます」
そういえば彼は肩を震わせて爆笑した。
「マジか!本当に!?君が!?」
「ドイツリーグも見れるだけ見てます」
「あははは!まさかすぎる!君って儚いイメージなのに!?」
「ワザとです。お母さんがそういうイメージ望んでるので」
そう言いつつ曲をサッカーメドレーに変える。
「だから、どうかご心配なく。教授の先程の問いに答えるなら私の人生にはサッカーが残ります」
「……そうか。残念だなぁ、君はまさに天才だよ。そのまま行けばプロの中でも必ずトップに入るだろうし、世界の音楽業界は君にずっと注目している。将来が約束された天才ってやつだ。だから、ピアノを続けるべきだ」
うわ、来たー、その手の文句の引き留め。これから腐るほど聞くことになるんだろう。ピアノの音を止める。彼は私をみてニコリと笑った。
「……と、君のエピソードを知らない人間はいうだろう。僕も勿論何も知らなかったからそう思ってたよ。でも、君の音色が、幼少期からのそんな体験で築き上げられたものだと知ったら見方を変えるしかない。僕の国の認識では君が受けてきたものは虐待だ」
はっきりと告げた彼に今度は私が目を瞬く番だった。彼は笑って言葉を続ける。
「君は親の望む人生でなくて、君の人生を生きるべきだ。君の人生を潰してまで女王様でいる必要はないと僕は思う。確かに君も僕も両親から生まれはしたが、結局は親も他人だ。僕の人生は僕のものであるし、君の人生は君のものなんだ。君も好きに生きたらいい。それでまたピアノをしてもいいかなって思ったら戻っておいでよ」
音楽を始めるのにも、また始めるにも、年齢制限なんてものはないんだから。
そう言った彼に私は嬉しくなって頷いた。そうだ、音楽も何もかも全部そうである。でも、そんなことを言われたのは初めてで嬉しかったのだ。
「さて、君が君の人生を歩む為にはこの国から離れた方がいい。母親から逃げるしかない。まぁそこは僕たちに任せて。ようやくキミヒロも事態を飲み込めたみたいだからさ」



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