2020/10/15

タイトル未定 3


「……ドイツ?」
そう顔を真っ青にした花森選手に私は頷く。
「話せば長くなるんだけど、ちょっと親というか母親と距離を取りたくて。そうすると国外に行くしかなくって。なので再来年でドイツ行きまーす」
いえーい、と明るく言えば彼は余計に顔色を悪くした。なんでだハナちゃん。生きてくれ。
「再来年からナマエに会えない……」
「え、やだ、可愛い」
「……か、可愛くない。何言ってる。俺は、」
「でもさ、圭悟くん海外でプレーしにくるでしょ?」
そう首を傾げる。彼は私をみた。ドイツからオファーくるかわからないしそもそも海外からオファーくるかわからないとメソメソしている彼には悪いが私は知ってるんだぞ。勿論、そうなるとは限らないけれど。でもまぁ彼と持田選手は絶対に海外に来ると思うのだ。それはあの世界で叶わなかったことかもしれないが、この世界で叶うことかもしれない。私は彼の頬を両手で包む。
「そんな一生会えなくなるわけじゃないし、圭悟くんと持田選手は絶対オファーくるよ。日本きっての天才じゃん。海外でも絶対通用するし、スタメンになれる。私が保証するよ」
私が保証して何になるのかという話かもしれないが。彼は目を瞬いてゆるく笑う。そして私の両手の上にその手を重ねた。
「……わかっている。ありがとう」
ふむ、こういう穏やかな表情は昔あまり見なかった顔なのであるが。目を伏せた彼であるが、しばらくしてやっぱりナマエと会えないなは寂しいとメソメソした。可愛いな、と彼の額にキスを落としておく。顔を赤くして固まったけど。
「元気出た?」
「……、……、く、くち、びる、のほう、が、げ、げんき、でる」
動揺と照れを全力で出しつつ要望を言ってくる彼はやはり花森圭悟なのだ。私はふふふと笑って彼の要望通りに唇に軽く触れるだけのキスをした。
「ハナちゃんは可愛いなぁ」
「……かわいく、ない!」

==

圭悟くんの携帯からのメールである。が、文面を見る限り多分送っているのは圭悟くんではなく同期の誰かだろう。そういや代表選前の調整が始まってる時期である。とりあえず当たり障りのない内容を送る、とみせかけて改行を重ね、『あんまり人の携帯でメールすんのはよくないですよ』と打ち込んでおく。まぁ何言ってんの?的なメールが来たけども、こう文面が違うんだな。それが何回も続くと、最近ピアノばっかしている私の沸点は低いからイラついてくるわけだ。『いい加減にしてくださいよ、持田蓮。こちとら私は決戦前で張り詰めてるんですよ』と送ったら電話きたけど。
「もしもし?」
「なんで俺だってわかったわけ?名指しじゃん」
「鎌掛けに引っかかりやがりましたな、持田選手。花森選手と同い年くらいの同期の中で一番そういうことやりそうだからですからね。花森選手は?」
「風呂入ってる」
「……いや、ほんと、本人の許可とってからやってくださいよ」
そう言ってハンズフリーにする。多分向こうも飽きたら切るだろうし。
「キミってこの前の子だろ?」
「この前?」
「読モだかなんだか知らないけどヴィクトリーとの合コン来てた子でしょ?なに?サッカー選手狙ってたの?」
「偶々です。あの時私の隣にいた城西さんと喋ってた子が私の友人で、欠員出たから来てって言われました。貴方とあった時も花森選手とあった時もね。呼び出されていけばお食事会でしたね」
「便利に使われてんのね」
「使われてますね。別に大学の人と会うよりは関係ない人と会ってた方が楽ですし。というか電話だけでよくわかりましたね。女の子なんて山ほど会ってるでしょう?」
「ハナの待ち受けが君だったんだよねぇ」
「なるほど」
「なんでハナと付き合ってんの?つまんなくない?」
「なんでって……いや、なんでだろう……私の好意を彼が受け止めてくれてるから……?彼の優しさに甘えてる感はするな……?あ、ご心配なく。私は全くつまんなくないないです」
そう丁寧にお断りしてピアノを弾きはじめる。いや、結構マジでハナちゃんはなんで私を選んだんだろうね。メンタルよいしょしてるからか??
「俺にする?」
その台詞に爆笑してしまう。いやこれ、お前……たち悪いな!!ピアノを弾くのを辞めて口を開く。
「寝言は寝て言え、持田蓮。モテるからって調子に乗って思ってもない言葉を吐くな」
「はぁ?」
「はぁ?じゃない。それ、本当にたちが悪いよ。本気にする子も絶対いるじゃん」
「本気かもしれないだろ?」
「馬鹿にするなよ、持田蓮。そんなくだらないことで君と圭悟くんの関係が崩れるくらいなら、私はそのままいなくなるから」
そうはっきり言う。
「圭悟くんの中で私が貴方に勝てるわけないでしょう。昔から同じピッチに立っている貴方にピッチどころかスタジアムにもいけない最近知り合った私が敵うはずないでしょうが」
どうであれ、私は彼に並べないのだ。圭悟くんは私を二番目だというが、二番目なわけがない。
「だから、おもちゃ取られた子供みたいな反応するな、持田蓮。君がおもちゃを持ってる子供なら私はそれをただ眺めてる子供だわ」
私の言葉に、持田選手がまた爆笑した。他のメンバーの声も聞こえる。ハナちゃんが慌てたようにナマエ!と言った声が聞こえたぞ。可愛いかよ。
「ナマエ、変な言いがかりはやめてくれ……」
「あれ、圭悟くんいたの?お風呂は?」
「抑えられてたんだ……俺は、」
「いや、だって、君の一番好きなサッカーというものに持田選手とやるサッカーは入ってるだろうし、持田選手だけじゃなくそこにいる全員が入ってると思うんだよね。それは逆もしかりだと思う。どうあがいても私はそこには入れないからね」
そのまま課題曲に移る。
「楽しいんでしょ?そこでやるサッカー」
「ぐ……楽しくなど」
「え?なんで。楽しんでおいでよー。JFリーグってさー、日本にいる何万ものサッカープレイヤーの中で、上手い人がいるじゃん。日本代表になればそこから更に上手い人だけが集まるんでしょ?絶対楽しいじゃん。しかも相手もそんな立場の人ばっか。楽しくないはずないよー」
「……ナマエ、俺たちは国をだな」
「国なんてあとあと!関係ないって!自分達がしたいサッカーをして楽しんだら自然に勝てるって。私は別に圭悟くんが国背負って戦ってようがチームの天才児してようが、圭悟くん達がやるサッカーが楽しそうならそれでいいよ」
そこまで言ってこれは余りにも無責任か、と思い口を開く。
「まぁ、そんなこと考えてる人は日本ではかなり少ないだろうけど。負けてヘラヘラしてたらマスコミに叩かれるし、ミーハー層もマスコミも負けたら文句いうだろうしね。でも、まぁ、私みたいな変わった人もいるって頭の隅で覚えてくれたらいいよ」
「……いつも思うがナマエはなにを見てるんだ……」
「何ってサッカー」
「……勝ち負けに拘らないしチームに拘らないだろう」
「うん、そうだね。みんなが本気で楽しそうにサッカーしてる様子をみてる。顔見たらわかる。勝っても浮かない顔してるな、とか、負けてもそこまで辛い顔してないな、とか、サポーターの様子とか。昔からずっと変わらない。サッカーって楽しいんだろうなぁって思って見てる!」
私の台詞に持田蓮が爆笑している。わけわかんねぇの、と言った彼に、まぁこの感覚はわからないだろうな、と思う。
「……やっぱりナマエはスタジアムに来るべきだ」
「あ、そっか、私が練習にかまけてていえてなかった。明日のコンクール終わったら次の代表戦見に行く」
「えっ」
「えっ、だめ?」
「ダメじゃ、ない!というかコンクールの練習中じゃ……」
「あぁ、気にしないで。めちゃくちゃ気分転換になったから」
まぁ扉の奥からお母さんが鬼の形相で見てますがね。そこは知らん。じゃあ、おやすみーと言えば雷が落ちたが。

==

目が覚めたらコンクールの日飛び越えてたんだけど何事。病院なんだけど何事。そう周りをキョロキョロする。いや、頭に包帯巻かれてんのみるとこれ殴られた気がする。そういや携帯逆パカしたお母さんに腹が立って言い返して喧嘩になって、練習部屋後にしたわ。えっ、これ殴られた感じかぁ、と頭の包帯を触る。いや、これもう親との縁というか、母親との縁を切っても良いのでは。そう思ってたら看護師さんが飛んできたのだが。

いや、マジでわけわからないなー、と医者と話ながら思う。お父さんが顔を真っ青にして謝ってきたが、もうなんか母親と家族でいることが無理になってしまった。殺されかけてでも一緒に住むとか無理です。君が悪いところもあるの?みたいなことを言われたので今まで言われたことを語れば医者が味方になった。やったね!
ということでやっと解放されてスタジアムなうである。チケットは隠してたので無事でした。最前列だから。花森ユニちゃんと買ってるから。まぁ、ゴール裏ではなく、ベンチ側なのであるが。いやぁ、参ったことに携帯のデータ全部ダメになり圭悟くんと連絡つかないのだ。気づくかなぁ、とガン見して見ていたが、入場してきた彼は気づきそうもない。がんばれーと念じる。十番は持田選手のものか、まぁでも二人が並んでいるのは感慨深いものがある。始まったコールにあわせてコールを送る。
まぁ、前半は苦しい展開だろう。やめろー、私が見に行く試合負け試合になるとかジンクスやめろー。そう願いながら後半を望む。まぁ、ハーフタイムに戻る時に城西選手に気付かれたけど。ひらひらと手を振れば、彼は目を瞬いてから何か言いかけて中に入っていったが。やっぱりスタジアムの雰囲気はいい。私もあの向こう側にいたかったな、と思っても今更だろう。相手の国は確かに上手い。でも、私が知る二人が、彼らが、負けるような試合をするわけがない。年の功だなんで言葉は置いておく。若干負け試合かと萎え始めている周りに、私はあの応援を始める。だって知っている。応援は確かに力になるのだ。近くにいたガチ勢も応援を始めれば、それは段々と広がっていく。彼らがスタジアムにまた戻ってくる頃にはお互いの応援合戦になるのだ。城西さんが気づいたわけだし、と思ったが、圭悟くんは気付かないままだ。まぁ、それが正しいのであるが。しかしながら、途中でしんどそうに足を止めた彼がこちらをみた。がんばれ、圭悟くん、と叫ぶ。周りは大ボリュームの声援だ。私の声なんてかき消されて気づくわけがないというのに。彼はただ目を見開いてーー頷いた。まぁ持田選手に叩かれてたけど。彼もまた私を見つけたらしいが。うーん、自意識過剰かもしれない。もう一度起こったコールにあわせて周りに合わせてぴょんぴょん跳ねたりもする。あんまり体強くないと何故か見破られてるため無理するなと周りは言ってくれるし。がんばれ、圭悟くん。持田選手は怪我なんてするなよ、前はこの試合だったんだからな。そう神様に願いながら試合をみて、応援する。まず圭悟くんが同点に追いつくゴールをきめる。きっと彼はぐしゃぐしゃに押し付けられているだろう。このままだ。このまま駆け抜けろ。選手の顔を見ればあんなに暗い顔だったのに、調子がでてきたんだろう。顔色が良くなっている。もう一度攻勢に出た日本代表に、私は声をあげる。
「いっけーー!」
そうして周りの歓声が響いたあと、笛が鳴った。


撤収していく日本代表と他国の代表に周りの熱はしばらく引かないだろう。圭悟くんだけでなく恐らくあの電話をきいていた一部が私を見上げたので私は笑顔で拍手しておく。ナイスプレーだなんて声をかければちょっと圭悟くんが嬉しそうな顔をした。来た時は混雑を避けて少し早めに出ようか、と思ったがもう少しこの雰囲気に飲まれていたい気がするのだ。最後の一人になって帰るかな、と誰もいないピッチをみる。近くで応援していた人達が気遣ってくれたがちょっと休憩して帰りますと言えば何かあればスタッフに言えばいいよ、と言って帰っていった。あんまり残るとスタッフの邪魔になるのか。まぁそれもそうだ。でも、もう少し、もう少しだけこの騒ぎに酔いしれたいのだ。

どれくらい時間がたった時だろうか。言葉通り、私が最後の一人ぐらいだろう。この場を離れるのが名残惜しい。でもそろそろここを離れないといけない。やっぱり私にとってサッカーは特別なのだ。昔も今も。少し形が違うかもしれないが。目を伏せれば思い出すのだ。あの前世とも呼べる世界で、あの二人と一緒にピッチに立った日を。夢が叶った日を。ナマエ、と呼ばれた声に目を開く。振り返ればそこにいた圭悟くんに目を瞬く。
「あ、圭悟くんだ」
「ナマエ、連絡が……怪我!」
「あー連絡はごめんね、色々あってお母さんが携帯逆パカしちゃって。連絡先消えちゃったんだよね」
ははは、と笑う。まだ肌寒いからか、体を冷やさないようにからか、ベンチコートを着た彼は私の隣に座った。
「怪我はねー、うーん、楽しい時にいうことじゃないからいいや。携帯の話もまた今度」
「……楽しかったのか」
「うん、とても」
そう言ってピッチをみる。圭悟くんは?と聞けば、楽しかった、と小さく彼は言葉をこぼした。



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