2021/02/13

msuおろちっち

「ナマエっていつも一人で何みてるの?」
そう問いかけられてはて?と首をかしげる。あぁ、あの書物みたいなものだねとは毛利さんの台詞である。その言葉で、ああ教科書かー、と理解した。暇すぎて本読むしかないのだ。ちなみに歴史の本はないが地図帳はある。
「そうそう、動かずにじーっとみてるからさぁ」
「え、あれなんだろうな、中身は物によるから、何と言われたら困る。色々書いてあるけど、それが何かと言われたら何とも言えないですね。漢詩が少しだけ載ってるかと思ったら、枕草子が冒頭だけ載っていたり、論語が有名な箇所だこ載ってるかと思ったら、平家物語が冒頭だけ載ってたり……ちょっとずつ何かが書いてあります」
「へぇー、でもなんでちょっとしか書いてないの?」
「学問のとっかかりみたいな感じなので……気になる人は自分で読めということだと思います」
そう言って私は困ったように笑う。あとは数学とかであるが、これは先生がいなければわからない範囲だ。だから暇つぶしに読むにはもってこいなのである。どうしてもこの世界、三国時代と戦国時代が混ざっている世界では私の価値観と彼らの価値観は違う。だから、あまり話すと価値観の違いで怒られるのが目に見えているというか。何とか普通の兵士に混じって戦場には立つが、くらくらと目眩と吐き気を覚えそうだ。
「ナマエの世界って戦はないの?」
「え?」
そう目を瞬いて半兵衛さんをみる。視線がこちらにむいた。彼は「だってさ」と頬杖をついた。
「ナマエ、見るからに人みたいな姿した相手に武器を向けるの戸惑ってたから」
バレてる。私は少し目をそらす。
「……少なくとも私のいる国では百年ほど前に大きな戦が起こったぐらいで……きな臭いことはあるのですが、今起こってるのもどこか遠い国の話でしかありません」
「平和なんだ」
「貴方達の世界に比べればきっと」
そうとしか言えない。平和な時代に生まれた私には何をもって平和とするのかわからないからである。まぁ、最後には今はもうちょっと人手が足りないから頑張って!と言われたので頷いておいたが。

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まるで意思がない。ふわふわ漂う綿毛みたいだ、とは誰だっけな、まあ三国系の誰かに言われた言葉である。いやでも結構的を射ていることばである。これが親兄弟ならきっと違っただろう。
何故ここに来たかはわからない。家族が死んで、誰が私を引き取るか、施設に入れるか、そんな話し合いの最中だったのは覚えている。そこから逃げ出したい一心で目を伏せたら、学校に行くときの格好でここにいて張遼殿に拾われて今に至る。彼は基本的に私を付かず離れずの距離で伺う。私が聞けば教えてくれる、怒ることもあるが、基本的にそんな人だ。制服を着ていると嫌でも帰った瞬間を思い出す。

ーー何故、生き残ったのが出来損ないの私だったのか。
夜の陣地はただただ暗い。いや、溶岩の赤が照らしているので、他よりは明るいが、それでも暗いのには変わりない。
野営の場所から出て、息を吐く。嫌な夢を見てしまった。そう自分の手を見つめる。豆だらけの手だ。その両手にまとわりついた金色に、手をぎゅっと握りしめれば金色は治った。その金色が何かは私は知ってる。だが、親や兄達が宿していたそれとは違う色のそれの使い方など私にはわかりっこない。

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「ナマエ殿には少し大きいですから、もう少し小振りの方がいいかもしれませんね」
とはかの有名な真田幸村の言葉である。私が今使っているのは一般兵が使っている普通の槍である。いや、普通の槍だったのだが、それが折れてしまったのである。張遼殿にもらった物なので一応報告に行けば、彼と話していた真田幸村も加わって私の武器の話になったのだ。ちなみに持たされているのは張遼殿の双鉞のうちの一本である。彼が新調するからくれるという話になったのである。ありがたいような、なんというか……うん。彼の身長に合わせたそれは当たり前であるが私よりも大きい。それを見上げて、ああ兄の背丈はこれぐらいだったな、とぼんやりと考えた。
「あら、貴方」
そう声がかかって振り返る。最近仲間になったクノイチの、確かあやね殿である。
「あぁ、やっぱり、貴方、あの事件の生き残りね」
私を知っているということは、同じ世界なんだろうか。忍者の世界は知らない。忍者など兄や両親はともかく、私は会ったことがないからだ。二人の視線がこちらに向く。私は困った顔をしているのだろう。
「確か、ナマエといったかしら。よりにもよって出来損ないって噂の貴方が生き残っちゃったのね。ご愁傷様」
「……それは、私が一番思っていることなので」
そう言って目線を下げる。彼女は口を開く。
「そう。まぁ、仇を打つ前に死なないように気をつけなさい」
「……」
仇を打つ。私はそんなことができるのだろうか。色んな気持ちを閉じ込めて目を伏せて、またへにゃり、と笑う。
「ごめんなさい、張遼殿、武具はまた今度……」

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夜のことだ。仇を打つ。ぐるぐるぐるぐるそんな考えながら、野営のテントの外にいた。夜もふけた頃だというのに、まだお酒を呑んでいる集団がいる。ナマエ、と呼ばれたのでそちらに向かえば張遼殿もいた。一緒にいるのは魏の武将達だろうか。あまり話したことがない人ばかりである。
「また眠れぬか」
「いらないことを考えてしまって」
そこまで言って、私は「また?」と首を傾げた。彼は淡々と「夜中に野営を抜け出すともっぱら噂が立っている」と告げた。なるほど、見られていたらしい。
「抜け出して何してんだ?」
「いや、何もしていないらしい。眠れないだけだろう」
「酒でも飲むか?」
そう少し膨よかな将がお酒と盃を取り出した。まぁすわれすわれと座らされて盃を持たされるとお酒がなみなみに注がれた。恐る恐るお酒に口をつける。うっ、苦い。
そのまま飲み干せばましだろうか。ぐっと一息にそれを飲み干す。喉が焼けるようにからい。
「おっ、いける口だな?」
「いける口では……」
「謙遜するなって、ほらのめのめ」
また並々注がれた盃に私はそれを見下ろす。もう一度、覚悟を決めて盃を煽った。

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宴の雰囲気は好きだが飲めない。いや、飲めるのだがあまり好きではない。ので、私は端っこにいるのだが、同じように端っこにいる人を見つけて近づく。彼の名前は知っている。張遼殿と話していることが度々ある、確か于禁殿という方である。飲め飲め星人は私が于禁殿に近づくのをみて標的を他にしたらしかった。とりあえず私は于禁殿の隣に一礼してから座る。彼はこちらをちらりと見たが静かに前を眺めている。私は沈黙が嫌いではないので、同じように黙って並々に注がれた盃を見つめる。盃の水面に映り込んだ月を見つめていれば、彼は口を開く。
「呑まないのか」
「……あまりお酒が得意ではありません。でも、注がれた手前、無下にもできないのでどうしようかと考えていたところです」
困った顔をして彼を見上げる。こちらをちらりと見下ろした彼はまた前を見たので私は今度は本物の月を見上げる。
「酒から逃げる口実に私を利用するか」
「そういうわけではありません。少しだけ、お話してみたかっただけです」
「私と話しても楽しくはなかろう」
「静かなのも嫌いではありません」
そう言ってまた彼を見上げる。彼は息を吐いてまた前を見た。
「すきにしろ」
ちなみに張遼殿が迎えにくることになるし、私は彼に囲碁を教えてもらうことを約束するのである。

==

「難しい」
地面に囲碁の図を書いて考える。ルールはわかってきたが、于禁殿にすぐ負ける。精進しろと言われても難しいものは難しい。半兵衛さんがやってきて、ナマエ、何してるの?と私に尋ねた。
「于禁殿に囲碁の手解きを……でもすぐに負けてしまうので、敗因を考えています」
「へー。黒と白、白がナマエでしょ」
「はい」
「じゃあ俺と囲碁やってみる?」
「半兵衛さんは忙しいのでは?」
「いいのいいの。息抜きみたいなものだし」


==




==話がとぶ

お前の好きにしろと連れてこられた相手は仇だ。家族を殺したという仇である。私は武器の切先を首元に向ける。周りは何も言わない。男だけが自嘲したような笑みを浮かべるだけだ。私は考えた。仇を打つ。そうしたらこの感覚は消えるのかと。
「さっさと殺したらどうだ」
その言葉に私は武器を持つ手に力を込めて、振り上げて、やめた。何人にも振り落としてきた刃を、同じように振り落とすだけでいいはずだ。でも、やめた。無理だ。私は馬超さんや王異さんのようにはなれない。
「……殺しません。貴方を裁くのは私じゃない」
「お前は馬鹿なのか?お前の家族を俺は殺したんだぞ」
「……私達が生きている世界は乱世じゃない。私情で刑をくだす世の中でもない。貴方は元の世界で万人に平等な法のもと、貴方は裁かれるべきです」
「そんなことを言って何を気取ったつもりだ?さっさと殺せ!」
きっと彼は殺して欲しいのだ。罪悪感に押しつぶされている彼は私に殺して欲しいのだ。私は彼に合わせて屈む。きっと私は酷いことをいう。
「……私は貴方を赦します。だから貴方は生きなさい。死ぬことは許しません」
それだけ告げて私は武器を持つ。ただただ彼は途方に暮れたように私を見上げた。その罪悪感を一生背負って生きればいい。私が恨むことで自分は恨まれているのだと自惚れることもなく。死ぬことも許されないまま。私はそのまま偉い人達に頭を下げて、そこから足を遠ざけた。

==

「どうして許したんです?」
そう言ってやってきた左近殿に私は流れている川から目を離して顔を上げる。私は困った顔をした。困った顔をしてみても、向こうは折れてくれないために私は諦めてまた川に目をやった。
「彼が悪びれてもなかったら殺してしまったでしょうね」
「反省してたから許したんですかい?心が広い方だ」
「いえ、違います……彼が罪悪感に押し潰れそうだったので……私が殺せばそれは彼にとって救いになるなって思って」
嫌なやつでしょう。私はそう言って水面を見つめた。
「嫌なやつでしょう。より長く彼が苦しむ方を私は選んだ」
「それを聞いて安心しましたよ」
彼はそう言って隣に座った。

==話が飛ぶ

小喬ちゃんを庇って敵の攻撃にあった結果、絶壁から海に落ちる。ぎゅっと目を瞑れば、海水に落ちる感覚と一緒に引き上げられる感覚がした。軍の誰かだろうか、と思って目をひらけばそこはあの戦場だった川ではない。私を引き上げた男性は見たことがあった。大丈夫か?と尋ねた彼は、確か噂に聞く陽月家の当主の旦那であるはずなのだ。
「随分と変な世界に迷い込んでしまっていたようだな」
張遼殿からもらった鉞を持った私をみて彼は困ったように告げた。私も困ったように彼を見上げる。
ーーどうやら私は戻ってきてしまったらしい。

==そしてまた巻き込まれる。

照ちゃんを庇って川に落ちたと思えば見覚えのある場所にでた。おっと、と思いながら息を吐く。また理由はどうであれ巻き込まれたらしい。風に乗って漂ってきたのは火薬と煙の匂いだ。雄叫びに似た声が聞こえる。息を吐いて、起き上がる。とりあえず光の婆娑羅を使って戦装束にかえる。そうしてまた現れた鉞を見上げた。
「貴方の元の主人にも会えるかもしれないな」
そう言って戦場を目指す。馬が欲しい。ピュイと指を鳴らせば来ないだろうかと思ったらまさか来た。なんでだ。

==

とりあえず、私は魏軍というか張遼殿特に世話になっていたのだし、味方する方は彼らがいる方である。私の扱いがわからなかったので一応フードを被ったまま戦場に乱入し、しゃがんだ小喬ちゃんが危なかったので向かっていた敵将に一太刀いれる。こちらを向いた小喬ちゃんと大喬さんに私は口を開く。
「助太刀いたします」
「誰かわからないけど、ありがとー!」
「ありがとうございます」
「いえ……私の馬をお使いください。貴方達お二人なら乗れるでしょう」
「え、でも、」
「大丈夫です。私は少しだけ足止めをして貴方達を追いかけましょう」
馬から降りて彼女達を乗せる。馬を撫でれば彼は走り出すのだから良い子だ。さてと、私は妖魔をある程度倒してから逃げるとしよう。

==

妖魔をある程度倒して、そろそろ引くかとそのまま戦場から引き上げる。目眩しとして光の婆娑羅を使っておいたが。そうしてそのまま記憶を頼りに彼らがいた陣地の方に足を踏み出せば、また呉軍が押されていたので割り込む。先程のように、「助太刀いたします」と会ったことがない将に言えば彼は目を見開き、ありがとうございます、と礼を告げた。

戦闘がひと段落つき、彼らと一緒に戦場から引いた時である。
「助太刀、恩に着ます。我らだけだとどうなっていたか」
「いえ……お気にせず、困った時はお互い様というやつです」
白い服に赤が散ってしまったが、恐らく外せばなんとかはなる。彼らは私の武器をみて、魏軍の方ですか?と戸惑い半分につげた。魏軍には確かにお世話になっていたが、私はどこの所属になるのだろうか?と考える。
「確かに魏の方にはお世話になっていたのですが、ここがいまいちよくわからなくて」
「迷い込んでこられた方、ですね。よろしければ陣地までご案内致しましょう」
「ありがとうございます。私は……ナマエと申します」
「ナマエ殿ですね。私は陸伯元。陸遜とお呼びください」
そう言った彼に目を瞬く。呂蒙殿の部下ではなかっただろうか。

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ついた陣地は記憶と変わらなかった。三年経ったのに?と思ったが、もしや私の感覚と彼らの感覚は違うのだろうか。おお、陸遜無事に戻ったか!とやってきた呂蒙殿に彼は呂蒙殿!と駆け出す。私はあたりを見渡して、見つけたその人に嬉しくなって近寄ろうとすれば「あ!さっきの!」と小喬ちゃんに呼び止められた。同じぐらいの背丈だったはずの彼女は私を見上げる形になっている。大喬さんまでもが私を見上げた。
「周瑜さま、孫堅様!さっきはこの人に助けてもらったんだよ!さっきはありがとう!」
「ありがとうございます」
「そうだったのか。助かった、礼を言おう」
「いえ、私も助けていただきました」
孫堅様、ということは孫権様の父親だろうか。とりあえず私は首を左右に振った。そのまま話を切り上げようとすれば、上から振ってきた刃を鉞で止める。うーむ、彼を見る限り私の家族を殺したと思ってちょっと面倒くさい時期の残月である。そのまま何回かやり合い、婆娑羅を纏わせた鉞の柄で容赦なく鳩尾を殴る。彼はそのままうずくまった。
「残月、いきなり奇襲することはよせ」
「残月?お前は俺を誰かと勘違いしている」
ふむ?と首をかしげる。残月って私がつけた名前だっけな。本名を名乗らないから残月ってつけたんだったか。
「お前は誰だ!その服はあの家系の服!生き残りはアイツだけのはずだ!」
ギャンギャンと吠える彼に私は鉞に傷が入ってないか確認する。その間に私は考えた、が、目の前の面倒くさい人より張遼殿に会いに行きたい。于禁殿もいるわけであるし。なので、そうだな、と適当に返して、私は彼から目を離して張遼殿か于禁殿をさがす。そうして見つけた彼らに私は駆け寄った。
「!張遼殿!于禁殿!お久しぶりです!」
「于禁殿、知り合いか?」
「いや……」
目の前で交わされる会話にしょんぼりとする。そういえばフードをつけたままだったと思いフードを外して、まとわりついた髪を首を振って整えた。そうしてまた彼らを見上げる。
「もしや、お忘れでしょうか。あなた方にお世話になっていたナマエです」
私の言葉に二人とも目を見開いた。あと、周りも静かになった。二人が話す前に、小喬ちゃんが抱きついてきたのだが。
「ナマエちゃん!?ナマエちゃんだったの!?」
「小喬ちゃんもお久しぶりです。ご無事そうで何よりです」
「今まで何処にいたの!あたし達3ヶ月の間、ずーっと探してたんだからね!」
「申し訳ありません。川に落ちた弾みか元の世界に戻ったようなのです。またこちらに迷い込んでしまいました。しかし、3ヶ月?」
困ったように彼女を見おろす。彼女は首を傾げた。興味深そうにやってきたのは太公望さんだろう。
「ほう、やはりナマエは元の世界に帰っていたか。恐らく流れる時間がこちらとは違うのだろう。こちらでは3ヶ月だが、ナマエの世界ではどうだ?」
「三年ほどです」
「ふむ。しかし、お前も難儀だな。またこちらに迷い込むとは」
「友人を庇って川に落ちたらこちらに……やはりよくわかりません。何故戻れたかも何故こちらにきたのかも。でも、こちらにこれて良かったです。皆さんにまた会えました」
于禁殿と張遼殿に会えたから私はハッピーなのである。
「まて、お前がアイツだと!?嘘をつけ!あのジメジメとしていたアイツが!?」
「はははは」
「出来損ないで、一人で何にもできないような!ナヨナヨふわふわしたアイツが!?」
「残月、三年後の為に弁明を考えておいた方がいい」
そうちょっと哀れんだように彼を見る。はぁ!?と言ったが、この頃3年後の彼が頭を抱えていたのは多分こう言うことである。自分の首を絞めている。
「人間、三日あれば変われるんだから三年あれば変わるに決まってるだろう?というか、お前はあの状況で私があのままでいれると思ってるのか?」
「……はっ、なら俺を殺すか?その状況を作り出したのは俺だ」
「相変わらず面倒くさい男だなぁ……」
つい漏らしてしまった言葉に残月が固まった。面倒くさい男、と固まりながら告げた彼に、私は失言だな、と口を片手で覆って目を逸らす。
「いや、面倒くさいというか……」
訂正しようとして思い返すが、やっぱり面倒くさいしか頭の中に出てこない。それでもまだマイルドに言おうと口を開く。
「困った男……いや、面倒くさいでいいか。お前は面倒くさい。私よりウジウジナヨナヨしてるのはお前の方だし、おまけに死にたがりだ。面倒くさい。いいことを教えてあげよう。お前が見たことだけが世の中の全てではなく、私が見たことでも全てではない。あと、残念だが、私はかれこれ三年間お前の面倒をみている。もっと言って、私はお前の罪悪感に自惚れた吐露を聞くよりは、張遼殿と于禁殿と話したい」
じゃあ、と軽く手をあげて私は張遼殿と于禁殿に向き直る。
「改めまして、張遼殿、于禁殿。お久しぶりでございます。三年前は大変お世話になりました。不意に元の世界に戻ってしまったが故に別れの挨拶もなく去ってしまい申し訳ございません。不意にまたたどり着いた為、お礼の品も何も持ってはいませんが……この御恩、返させていただければ幸いです」
そう礼をする。張遼殿はフハッと息を吐いて私の頭を撫でた。
「お前が無事で何よりだ、ナマエ」
「そ、れは、こちらの台詞です」
ふにゃりと笑いながら言う。それを見てやっぱりナマエか、と判断した夏侯淵将軍はなんというか……解せぬ。

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相変わらずお酒はあまり好ましくないので于禁殿の近くに避難する。歳を重ねても相変わらずか、とこちらを見た于禁殿に私は頷いた。
「そもそも、私のいた世界の法では本来二十を超えぬとお酒は飲めません。慣れろというのが無理な話です」
そう言って私は盃になみなみ注がれた酒をみる。しかし彼らの時代の価値観ならば、それを飲み干さねば無粋で失礼なのだ。だから一気に煽って空になった盃を膳の台の上においた。苦い。が、ちょっと薄味である。
「にがい……」
「成長したかと思えば」
「三年で人はそう変わりませんよ」
「矛盾しているぞ」
「……見せかけだけです。向こうは頼れる人なんて一握りで、その人達を信頼してもいいのかわからなかったのでああなっただけです。なので、于禁殿や張遼殿がいると、安心します」
そう言って空になった盃を見下ろす。こちらを見下ろしたらしい彼に私は彼を見上げてにこりと笑った。
「囲碁の勝負の途中でした。あそこから逆転する術を三年間考えましたが、未だに思い浮かびません」
「……ああなれば無理だな」
「えっ」
「お前がまだ勝てるはずだと難しい顔をしてうんうん唸っているのを見るのが愉快でな。お前がどう足掻こうと後一手で投了だった」
そう少し口元を緩めた彼に私はちょっとムッとする。それを見て彼は少し笑う。
「その顔、まさしくナマエだな」
手のひらで転がされている。ムー、としながら彼の空になった盃にお酒を注ぐ。張遼殿が「ナマエ」とやってきた。
「お前はそろそろ野営に戻ったほうがいい。恐らくはこの先、お前が苦手な騒ぎになるだろう」
「はい。私の場所は変わらずですか?」
「あぁ、場所は変わっていない。が、一応案内しよう。于禁殿、ナマエが世話になった」
「いや」
「于禁殿、また囲碁の御指南お願いします」
そう頭を下げてから張遼殿に続く。
「……相変わらずだな」
「?張遼殿、聞いてください。私が三年間ずーっと于禁殿との局面をどうすればひっくり返せるか考えていたのに」
「あれは詰んでいるから無意味だったな」
張遼殿の言葉に固まる。知ってたんですか?と聞けば、彼は頷いた。
「もうほとんど終わっているその局面を触ると怒られるそうだぞ」
「……私が唸っている様が面白かったと言われました」
「そうか。それは私も見てみたいな」
「むぅ。張遼殿もそんなことをおっしゃるのですね」
そうちょっと拗ねる。彼はフッと息を吐いた。
「また手合わせをお願いします。少しは強くなれた気がします」
「アァ、楽しみにしている」

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張遼殿と手合わせしたり出陣したり、于禁殿と囲碁したり出陣したり、他の人と出陣したりする。怖くないのか?と曹操様に聞かれたので首を傾げた。出陣かと思ったが、どうやら張来来の張遼殿殿と軍規に厳しい于禁殿をさしているようである。双方違う局面で厳しい人ではあるが、特に私は怖い人ではないと思っている。
当時の自分の持ち物であるリュックの中を見ればお菓子と将棋盤を見つけた。残月に聞けば私がいないくなって3ヶ月ほどらしいのでお菓子もまだ食べれられるだろう。将棋盤は恐らく当時の昼休みに暇すぎて友人将棋崩しをやり始めたのだ。懐かしい。お互いそのまま普通の将棋に目覚めて打つようになったが、それがもし囲碁ならもう少しは勝てるようになっている気がする。
……将棋なら于禁殿達に勝てるのでは?と少しワクワクしながら将棋盤を持つ。于禁殿にあてがわれている部屋を覗けば留守である。むぅ。今日はいると聞いていたのに。張遼殿は確か今日は見回りがあると言っていたので不在である。小喬ちゃん達は別の陣にいるはずだ。そのまま部屋の前で待っていれば帰ってくるかと入り口近くにすわる。そうしてただぼうっと外の景色を眺めた。

「うむ?そこにいるのはナマエか」
かけられた声に伏せていた目を開く。そこにいた曹操様に私は慌ててたちあがり、頭を下げた。顔を上げろと言われたので顔を上げて、こんにちは、曹操様、と告げる。
「何をしている?」
「于禁殿は出陣でしょうか?今日は出陣する予定はないと聞いていたのですが」
「あぁ、すまんな。朝から少し遠出を頼んだ。今日の夜には帰るだろう」
「そうですか……」
「何かようだったか?」
「いえ、用ということはないのです。囲碁はいつも負けるので私の世界の違うものならば勝てるのではと思い……」
遊びに来たとは言わないが。いやこれは言っている ようなものかもしれない。
「ナマエの世界の?」
「はい」
「ふむ。面白そうだな、儂にも教えてもらえるか」
「曹操様、仕事は良いのですか?夏侯惇将軍やそれこそ于禁殿に怒られます。下手をすると私も怒られてしまいます」
「なに、息抜きよ。仕事に息抜きは必要であろう?」
フッと笑った彼に私は困った顔をする。庭に出るか、と告げた彼に倣い庭に出たが。


「曹操様の時代には象棋はありますか?」
「あぁ、ある」
「それに似たものではあります。私の国に伝わった時にルールが変わったのでしょう。かと言って信長様の時代はまた違うルールかもしれませんが」
そう言って折り畳み将棋盤を広げて駒を並べる。
「自分からみて3段目までが自陣、相手から見て3段目までが敵陣です。駒にはそれぞれ動くルールがあり、また、敵陣に入ることでその動きは変わります」
「複雑だな」
そのまま将棋のルールや駒のことを説明していれば、彼はなんとなく理解したらしい。そのまま対局してみることになった。

==

殿、何してるんです?とやってきた知らない人に顔をあげる。曹操様は盤上を眺めながら口を開く。
「郭嘉か」
「噂の方と逢引き中でしたか。お邪魔しましたね」
「いや、」
「それは?」
「ナマエの世界の遊戯らしい。これがなかなか頭を使う」
「おや。連敗中ですか?」
「ああ、連敗中だ」
「曹操様が差し方を覚えてしまえば私は負ける気がします。曹操様達は慣れの問題だと思うのです」
そう言って私はまた盤上をみる。あと数手で勝てる気がする。
「孟徳!いなくなったと思えばここにいたのか!」
その声に私はまた顔を跳ね上げた。伊達の幽霊さんに声が似ているが、そこにいるのは確か夏侯惇将軍である。
「少し息抜きをしていただけだ。なぁ、ナマエ」
「息抜きです、はい」
少しかどうかは伏せるが。夏侯惇将軍はこちらを若干睨む。まぁ、曹操様が「そう睨むな」といなしてくれたが。
「ナマエ、この勝負預けておこう。またな」
「はい、また」
刻々と頷いて私はまた将棋の駒を片付ける。郭嘉殿と夏侯惇将軍を引き連れて曹操様は道を戻って行った。

==
 
封が空いてないフリスクと封が空いてない袋入りの飴とドロップ缶をとりだす。気候の関係か飴も特に溶けていないようである。……ドロップ缶に至っては災害時用だからか賞味期限が五年だ。これは学校で配布されて行方不明になったやつではなかろうか。もらったいらない布と紐で作ったポーチというか、巾着というかそういうものにお菓子とフリスク、ついでに痛み止めと軽い応急処置セットを入れて持ち運ぶことにした。妖魔討伐帰りに疲れたという小喬ちゃんにドロップ缶にを取り出す。手が汚いので、綺麗な布を引いてからドロップ缶から飴玉を取り出した。
「小喬ちゃん」
「なーにー?」
こちらを見て口を開いた彼女の口に、飴玉をいれた。
「美味しい?」
「なにこれー!美味しー!」
「喉に詰まると大変だから黙って食べた方がいいかも。あと陣に帰ったらうがいしようね」
はーい、と手を挙げた小喬ちゃんはいくらか元気になったようである。向いてる視線に私は首を傾げる。はて。こちらを見たのは軍師である周瑜殿である。
「ナマエ殿、といったか……ありがとう。だが、いったい何を?」
「あぁ、ご安心を私の世界のお菓子……甘い食べ物です。何せ形が小さいので偶に子供が偶にに詰めてしまうことが多々あって……」
「ふむ、そうだったか。すまない」
「いえ、私こそ不躾でした。申し訳ありません」
そう謝り巾着に綺麗な布と缶をしまう。
「ナマエちゃーん、もう一個ー!」
「ダメ」
「えぇー!」
「歯が痛くなると嫌でしょ。また今度ね」
「ナマエちゃんのけちー!」
「ケチで結構」
「あの眉間の皺のおじさんみたいになっちゃうよ!」
その言葉に、周りが動きを止めた。私は首をかしげる。
「え、呂蒙殿になるの?」
私の発言に周りが吹き出した。私はそれに首を傾げる。なんでだ。
「……ナマエ殿、俺はそんなに眉間に皺を寄せているだろうか?」
「私がお会いする時はだいたい凌統殿と甘寧殿の騒ぎを見てらっしゃる時なので、眉間に皺が寄ってらっしゃいます」
「ああ、たしかに眉間に皺が寄ってる時があるな」
「ちーがーう!呂蒙さんじゃないよー!」
じゃあ誰だ?と呉の面々を見渡す。程普殿かな?と思っていれば、「ナマエ殿」と声がかかる。
「恐らく小喬が言っているのは我らではなく魏の将だろう」
「ああ」
なるほど、と頷く。夏侯惇将軍か、と呟けば「ナマエ殿、それは違う」と言われたが。近くにいた賈詡殿が口を開く。
「俺は于禁殿のことだと思うが……」
「于禁殿?あぁ、于禁殿も難しい顔をよくしていらっしゃいますね」
「だろう?」
「たしかに于禁殿は厳しい方ですが良い方です。それに倣えているのであれば、いいことでは」
そう首を傾げる。賈詡さんはアッハッハーとわらった。

=>話が飛ぶ

真遠呂智を倒して行くばくか。私が魏の張遼殿兼于禁殿の下で働き出して行くばくかしたころ、残月が行方不明になったという報告がきた。恐らく元の世界に戻ったのだろう。そう思って過ごしていれば、残月が帰ってきたらしい。いらない人間を引き連れて。知り合いでは?と言われて連れてこられた先にいるのは学校の知り合いである。そこに陽月家の双子もいる。ナマエ!と嬉しそうに声を上げた陽月晃に私は頭を抱えた。晃と朔はいい。残月もいい。何故かいる葉月先生もいい。だが、厄介なのを引き連れてくるな、といいたい。
「ナマエ殿!!」
「ナマエ様!」
「げっ、冷徹無血バスターゴリラじゃねぇか」
「わわっ、副会長さっそくおこじゃん」
「なんで厳しい人いんのー?アタシ会長といたいんだけど!」
「ひえっ、」
「副会長も巻き込まれていたのですか」
頭が痛い。
「晃、信者を何故連れてきた……」
「連れて?いや、ちょっと事件に巻き込まれたらこの世界で……うおっ!?」
「ナマエ殿、心配しておりました!今までいったいどちらに!!」
「ナマエ様!私の方が心配しておりました!!」
「そうか、なら私はこのように五体満足、元気なので家に帰ってくれ」
晃を突き飛ばした本多の息子と三河の娘にそう言えばキラキラした目で嫌です!とつげた。ここ一番大きな溜息をつく。周りが物珍しいというようにこちらをみている。やめてほしい。ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼らに一喝しようかと思えば同じく溜息をついた葉月先生が叱った。
「お前たちは黙っていろ」
そういえば鎮まるのだからありがたい。私は「お久しぶりです」とぺこりと頭を下げる。中華式になってしまったのは癖だ。
「あぁ、お前が無事そうで安心した。他の教員や照もお前を心配していたが……まぁ、他とは違いお前は真面目だからなうまくやっていくだろうとは思ったが」
「拾っていただけた方が優しい方でしたので……今も面倒を見ていただいています」
「ナマエ、やはり知り合いか?」
そうこちらをみおろした于禁殿に私は頷いた。
「はい、あちらの世界の学舎の師になります。名を武田葉月。私の世界において戦国側の武田家の今代当主です。先生、ご紹介いたします。こちらは今私がお世話になっている魏の将軍、于禁殿と張遼殿です」
「……生徒が世話になっています。そして、生徒を助けていただけたようで、重ねて礼を申し上げます」
「いや、ナマエはよくやってくれている。こちらも世話になるくらいだ。于文則だ」
「張文遠と申す」
そう挨拶をした彼らに、葉月先生が口を開く。
「魏、というこは……ナマエ、この世界は」
「いえ、先生、三国の世界だけではなく戦国乱世の世界も混ざっています。紆余曲折を経て今は落ち着いた情勢にはなりますが。元は仙人が融合させてしまったとか……」
そこまで告げて私は飛ばされた人数を数える。
「なるほど、理解致しました。件の禍星が現れる可能性があるのですね」
「お前は理解がはやく助かる」
「12の婆娑羅者、となれば、二つの禍星でしょうか」
「さぁな。過去の事例では六に対して禍を二つに分けて現れる事例もある。なんにせよ、お前も残月もまた巻き込まれている」
「……恐らく狙いは私でなく照ちゃんだったはずです。私は彼女を庇い、また同じ光の婆娑羅者として飛ばされたのでしょう」
「照は非力だからな。狙いやすい」
「なんにせよ、協力を仰いだ方がいいでしょう。曹操様に伝え、他の国にも伝えていただきましょう。先生方は今どちらに?」
「お前が言う戦国側だ」
「あぁ、なるほど残月の関係ですかね。彼は戦国側に加わっていたはずです」
そう言って残月をみる。残月は遠い目をしている。葉月先生が首を傾げたが。
「そういえば残月は静かだな」
「謝る内容を考えているのでしょう」
さらりとそう告げて張遼殿と于禁殿を見上げる。物静かに聞いてくれているあたり、彼らは良い人なのである。
「于禁殿、張遼殿、曹操様に説明するより先にお二人に説明をしてもよろしいでしょうか?」



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