2021/02/13
↓改変
・ちょっと改変
・3の世界観ではないけども、3にしか出ないキャラもいる。于禁将軍とか。
この人は、右も左もよくわからない世界で助けてくれた人だ。名前は張遼。恐らく中国の人である。しかも、たぶん、昔の人で、将軍だそうだ。タイムスリップしたのかと思ったが、多分違いそうである。槍を握って豆だらけになった両手を見つめる。婆娑羅を纏いそうになるそれを必死で閉じ込め、恐怖を押し止める。兵士となった今衣食住は確保されているが、まだまだ足を引っ張るばかりなので精進しなければいけない。人ではなく妖怪のようなもの相手だからまだ太刀打ちはできよう。いや、それは言い訳だ。無心になって槍を振るえば、少しはあの、赤黒い世界を忘れることができるのである。同い年くらいの兵士達が家族の話をしながら解散していく。そこにぽつんと残った私は、今日も一人で、えいや、と槍を振るうのだ。
曹操、魏、孫権、呉、劉備、蜀。それを聞いて三国志?と首を傾げた。三国志?と首を傾げたのは多分偉い人である。
「私の国というよりは、近くの国の昔の話で……」
「……ほう?して、結末は?」
「ごめんなさい、きちんと読んでいません」
しょんもり、と私は眉尻を下げる。彼はそうかと告げると「では、織田信長という男はどうだ?」と尋ねた。
「織田信長?」
「あぁ」
「私の国の、昔にいた人です」
そう言う。彼は私を見下ろした。
「昔、か。どれほど昔だ?」
「四百年くらいは?」
「思ったより途方がない時間だな」
彼はそう言って、では、三国志は?と尋ねる。私は詳しくは知らないため首を左右に振る。彼は「そうか」と返事をした。
「でもどうして?」
「なに、我らの他に知らぬ勢力がある。そこに織田信長という男がいる」
その言葉に私は目をパチパチと瞬く。織田信長という男がいる、とは。この世界は中国の昔ではないのだろうか。
「この世界はいったい……?」
「さぁなぁ。まだわからぬことが多い。時期に織田信長という男とも相対しよう。何か知っていることがあれば存分に話せ」
その言葉に私は槍の柄で地面に鉄砲をかく。
「歴史で学んだのは、長篠の戦いで鉄砲を用意て戦った話ぐらいなので……」
「鉄砲?」
「こういう」
「ふむ」
「この時代のは、弓矢よりも飛距離はない、はず、です。でも、威力はあります」
そう言えば彼は目を見開いた。鉄砲が何かわからないということはやっぱりそれより昔の話なのだろう。
「威力はどれほどだ?」
「私の時代で、よく再現されているので例えれば、弓矢はあの的に刺さりますが、鉄砲は割れたり壊れたりします」
「……威力が高いな」
「火薬で鉄の小さな塊を飛ばします。この時代のは精度は扱う人によるし、鉄の弾を飛ばすのに時間がかかるのが定石でした。それを覆したのが織田信長です」
そう言ってそのまま簡単に鉄砲を使う人をかき、柵を書き、騎馬をかく。
「織田信長がそれをする前は、この人が一人で火薬を込めて弾を込めて火縄をつけて着火、しばらくして攻撃でした。なので、騎馬でも突破できました」
そのまま鉄砲を持った人の後ろに2人の人を描く。
「織田信長は長篠の戦いでその無駄な時間を省くため、鉄砲を倍以上揃えて後ろの2人に準備をさせ、その無駄な時間を省いた。その結果、相手の騎馬隊は壊滅したと教わりました」
そう言ってから槍の柄を手で拭いておく。彼は難しい顔をして絵を見つめている。
「でも、その後の時代、連射ができる鉄砲ができる前は不意をつけば騎馬隊の方が有利だと言われてたとも別の国の物語で読みました」
結局の話、準備が整う前に倒して仕舞えば強いのだろう。
「でも、全部伝わっている話なので正しいかはわかりません」
「いや、それでも何も知らぬよりはマシだろう。お主の名は」
「ナマエと申します」
そう言って慌てて張遼将軍にならったお辞儀をする。彼はフッと笑った。
「ナマエ、まだここにいたか」
張遼将軍がやってきたので私はちょっと嬉しくなる。知らない人と話すのは好きではない。
「む、曹操殿」
「張遼か。お前のあてははずれだ。どうやらもっと先の人物らしい」
そんな会話をしている彼らに私は固まる。そして張遼将軍と男性を見比べた。えっ。
「ナマエはまだ曹操殿に会ったことがなかったか」
「曹孟徳。魏を率いている」
「……失礼なことを、いたしました」
パニックになる頭で頭を下げる。彼はフッと笑って、何構わんよ、と告げた。
「張遼、ナマエに用があったのだろう」
「はい、失礼致します」
そうぺこりと首を垂れた彼にならい、慌てて私も首を垂れる。そうして張遼将軍に続いた。
「びっくりした……」
「何を話していた?」
「織田信長について……?」
首を傾げる。あぁ、あの男か、というあたり本当にいるらしい。
「なんで混ざってるんですか?」
「それは我らが一番知りたいことだな」
==
読めない上に、理解が難しい。紙ではなく竹に書かれている。なるほどこれが書簡かと思うのだが、文字を書き写せば良いのかと、張遼将軍に教えてもらった内容を口で繰り返しながら地面に書き写す。張遼将軍は面倒見が良いと思う。尋ねれば無下にはしないし、教えてくれる。たまにどう思うか尋ね返されあるが。
「何をしている」
後ろから呼びかけられた声に地面に文字を書いていたのを止める。見上げれば、恐らくは偉い人である。服装が張遼将軍達ににているのを見ると将軍クラスの人だろう。慌てて立ち上がり礼をする。
「昨日教えていただいたことを反復していて……」
「勉強熱心なのはいいが、ここに書く内容ではないぞ」
ごもっともである。なので素直に申し訳ございませんと頭を下げて、手で土を慣らし文字を消そうとする。
「……孫子を嗜むか」
「いえ、ご好意で教えていただいているだけです。文字が読めぬし書けぬので、読み書きの練習になるだろうと」
「家は?」
その言葉に首を左右に振る。特にこの世界において家の後ろ盾もない私は農民の子供と同じなのだ。いや、農作法をしらないあたり農民の子供よりもタチが悪い。生きていく術がないのである。消えかけた文字を見て彼は口を開く。
「この文字とこの文字は逆だ。これでは意味が変わってくる」
「……はい」
「手本は手元にあるのか?」
「張遼将軍のものをお借りしているので……」
眉尻を下げる。張遼将軍は今日は曹操様に呼ばれている。手本を見るにも彼の部屋には勝手に入れないし、書いてる言葉がわからないのだ。彼は息を吐いて、私を見下ろした。
「ついてくるがいい」
彼はそう言って足を進める。私もそれを追って歩きだした。すれ違う兵士が何処か顔を真っ青にしていた。
「ナマエ、于禁殿に呼び出されたと兵に聞いたが」
ある程度男性に孫子や文字の手習をうけた後、槍を振るっていれば張遼将軍が帰ってきた。ナマエ、と声をかけた彼に私はぴょこぴょこと近づく。その中で告げられた言葉に私は首を傾げた。
「あの方は于禁殿と仰るのですか。張遼将軍に教えていただいた所を反芻していたところ話かけていただいたといいますか……孫子の続きを教えて頂いていました」
「そうか。怖くはなかったか」
「?厳しい方でしたが、特に怖くは。また教えてくださるとおっしゃっていただけました」
そう言ってへにゃりと笑えば、彼はフッと笑ったのだが。
==
==
呂布は流石にわかる。めちゃくちゃ強い人だ。周りが「呂布だ!逃げろー!」と蜘蛛の子のようにどの勢力も散っていく。私の少し上の部隊長的な立ち位置の人でさえも私達をおいて逃げていく。年上の兵達も逃げ出したので、私もジリジリと後退していれば、同い年くらいの人が転けた。そちらに向かう呂布に、振り下ろされた刃に、私は割って入る。細められた目に心臓が凍りつく気がする。張遼将軍や徐晃将軍よりも重い攻撃に槍が折れそうだ。とりあえず弾き飛ばされたが形勢を立て直す。彼女の手を引いて無理やり立たせる。彼女はよろけながら立ち上がった。
「はやくにげて」
そういえば彼女は少しだけ涙目になる。でも、と言った彼女に、少し年上の少女が小喬!と声をかけて2人は逃げる。周りがああ可哀想にという目でみながらにげていく。振り下ろされた刃なんぞ、防ぐのが精一杯だ。そこに逃げる隙はない。背中を見せればきっと殺される。恐らく槍がもたないが、その瞬間にできるであろう隙を狙うしかない。ついには斬撃と一緒に折れた槍に、私は一か八か光の婆娑羅を折れた槍に纏わせて懐に入り込んで当てた。発光、眩しいくらいの光のうちに、相手は一瞬たじろいだ。そのまま目眩しになっただろうと私はその人から逃げ出した。森の中に逃げてしまえば何とかなるかと思ったが、自分の手などから光が引きそうもない。感情が昂っているというよりは、気が動転しているのだろう。キラキラとした光がずっと舞っているのである。騎馬が追いかけてくる音がする。騎馬の足音が追いかけてくる。この力は異質だ。元の世界においても宿す人間など稀で、異質なのだ。この世界の戦でも稀に見えるから何かと張遼将軍に聞いたことがある。張遼将軍達は武器に宿るのだと告げた。ならば、この力はこの世界でも異質なのである。木陰に隠れて騎馬のやり過ごす。静まれ、静まれ、落ち着けと繰り返す。掻き分けられる茂みの音に、私は怯えた。近づいてくる足音に、折れた槍を握りしめる。目の前の茂みが掻き分けられて、そこにいた人をみた瞬間、私は安堵した。張遼将軍その人であったからだ。
「ナマエ、ここにいたか」
「ちょうりょ、しょうぐ、」
しかし、安堵しても良いのだろうか。私は敵前逃亡したわけであるし、何より、異質なことをしでかした。ポロポロと涙をこぼす。ぐずぐずと鼻を鳴らす。
「申し訳ありません」
「なぜ謝る?」
「逃げました」
「呂布殿相手には皆ああなる。並の将でも逃げるのだ。それに、お前は立ち向かった」
そう言った彼は私に合わせて屈む。伸ばされた手に縮こまれば、彼は私の髪をくしゃくしゃ撫でた。落ち着いたからか光が引いていくのがわかる。彼は気にすることなくそれを見ると私を見下ろした。
「立ち上がれるか」
その言葉に立ちあがろうとしたが、見事に私は転倒した。張遼将軍は私を抱えると近くに止めていた馬に乗せる。その後ろに跨ると、彼は馬の腹を蹴った。
「安心されよ、戦は終わった。我らの勝利だ」
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結構長く使っていた槍が折れてしまった。陣地に戻って張遼将軍に折れた槍を見せる。柄が折れてしまったのであれば、柄をかえればいい話ではと思ったが、刃の方もダメになってしまったらしかった。婆娑羅を無理やり纏わせてしまったからだろうか。
「ここまで刃がダメになるのも珍しい」
「やはり、武器に隠されていた属性が下手に出てしまったからだろうか」
徐晃将軍と張遼将軍の言葉に私はなんとも言えない顔をする。張遼将軍の腰布をくいっとひっぱり、彼を見上げた。
「あの、ですね、」
「どうかされたか?ナマエ」
見下ろした彼らに私は掌に婆娑羅を込める。発光したそれに私は静かにそれを掻き消した。二人は目を見開いた。
「……私の世界では、稀に生まれる特異体質です」
「驚いた、属性がその身に宿るのか」
「……化け物のようでしょう」
そう言って手を見つめる。宿すことを望まれた兄にはなく、父とわたしにしかない力。それも、父と私は違う種類だから扱い方もよくわからない。どうすれば良いのかなんてわからないのだ。
「化け物か。こんなに弱々しい化け物などいまい」
張遼将軍はそう言って笑った。私は彼を見上げる。すまぬ、と謝った彼は私の頭にぽん、と手をおいた。
「扱い方がわからぬのなら扱えるようになればいい」
「うむ、何も、力は疎まれるものではない。正しく使えたのならば、それは良いものだ」
「……使えるように、なれますか」
「あぁ、練習の相手ならば拙者も相手になろう。これも修行よ」
「武器は考えておこう。武器がなければ戦場には立てまい」
そう言った彼らに私は嬉しくなる。だって、それは親兄弟にも言われなかった言葉だ。まだ置かれている手に手を重ねて笑う。
「ありがとう、ございます」
その言葉に、彼らは顔を見合わせたのであるが。
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曹操様からなのか、張遼将軍からなのかはわからないが平服をもらえた。城の中を歩くのに些かあの(一番位が下の)兵士たちと同じ服なのはいただけないということかもしれない。確かに兵士たちの服を着ていたら呼び止められて外に出されるが、この服を着ているとそうではない。あと櫛や髪紐も貰えた。身なりを整えろということだろう。
「于禁将軍」
見つけたその人に近寄る。移動中だろうか。この前は御指南ありがとうございました、と頭を下げれば彼は「いや」と言葉を返した。
「呂布と戦ったそうだな」
「あれは戦ったとはいえません……攻撃を防ぐので手一杯でした……槍が折れたそのタイミングで向こうの気が緩んだのがツキといいますか。もっと精進せねばならないと思ったところです」
「そうか。ならば鍛錬に来たのか?」
「いえ、兵法も学ばなければ元も子もないとは思うので、休みの日は孫子などをお借りしようと……」
眉尻を下げれば彼は私を見下ろす。眉間の皺が深くなった。
「熱心なのはいいことだが、休みの日は心身を休めろ。何のための休養だ」
その言葉に私は眉尻を下げる。それは理解しているのだが、街を歩いてもその周辺を歩いても知り合いはいないわけであるし、馬に乗って遠乗りをするわけでもない。元の世界ならば遊んだりはしていたがその友人がいるわけでもない。そもそもこの世界の常識がなさすぎるのだ、私は。
「はい、理解しております。でも、休みの日に、何をすれば良いのかよくわかりません」
そう見つめ合うこと数秒、私は折れた。ならば庭でも眺めます、と肩を落とす。この前ちらりとみた庭は綺麗だった。
「またご教授お願いします」
「……あぁ」
とぼとぼ歩いて庭にいく。蓮の花が綺麗なそこに腰掛けて、中にいる鯉を眺めた。まぁ、しばらくすれば曹操様が通りかかり私は慌てたが。お仕事はいいのだろうか。立ちあがろうとすれば、彼はそれを止めて隣に座った。
「ふむ、身なりを整えるだけでそれなりに見えるな。今日は休みではなかったか?」
「何をすればいいのかわからず……勉強をしようとすれば、于禁将軍に止められました」
「于禁はなんと?」
「休みの日には心身を休めろと」
「あやつらしいな。それでここにいたか」
「はい、綺麗な庭と魚を眺めておりました」
「そうか。詩でも諳んじるか?」
「曹操様の国の詩は難しいです。韻を踏むなどの決まりがあるでしょう?」
「詳しいな。お主にとっては別の国であろう?」
「私の世界であれば、私くらいの年頃は皆学校……学舎?で学びます。私くらいの年代では浅く広く学び、もっと歳を重ねると深く学んでいきます。その中で、少しだけ学びました」
そう困ったように笑う。彼は「ふむ?」と首を傾げた。
「何か覚えておるか」
その言葉に私は記憶を手繰らせる。いくつか暗唱をするため覚えたが、言えるだろうか、と口を開いた。
「國破れて、山河在り」
「ほう?」
「城春にして、草木深し。時に感じて、花にも涙を濺ぎ。別れを恨んで、鳥にも心を驚かす。峰火、三月に連なり。家書、萬金に抵る。白頭掻いて、更に短かし。渾べて簪に、勝えざらんと欲す」
「題は?」
「確か春望だったかと。杜甫という方の詩だと学びました」
「聞いたことがないな。先の人物か」
「そこまではわかりません。あとは桃源郷の話であるとか、論語の一部を学びましたが、全てを学んだわけではないので」
温故知新のことを学ぶぐらいである。
「詩や楽を学ぶことが嫌いではないのか?」
「はい、嫌ではありません。それは私の血肉になりましょう」
そういえば彼はフッと笑った。なれば、休みの日は蔡文姫を尋ねるが良いと告げた彼に目を瞬く。
「蔡文姫ならば詩や楽を知っていよう。まぁ、于禁や徐晃を訪ねても良いが」
ばれている。休みの日の行き先がばれている。私は目をパチパチと瞬く。まぁ、于禁将軍が現れて、殿、と声をかけたが。
「夏侯惇将軍が探しておられました」
「だろうな。そろそろ向かうか。またな、ナマエ」
そう言って去る曹操様に頭を下げる。于禁将軍が私を見下ろした。
「……少しならば手習の時間がとれる」
「!本当ですか!ありがとうございます」
私は立ち上がってぴょこぴょこと彼の後ろを歩く。後日李典という人に「あぁ、張遼や于禁殿の後ろにいる……仔鴨みたいな奴」と言われるのだが、解せぬ。そして周りもあぁみたいな顔をした。
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「おや、噂の仔鴨くん」
「仔鴨……」
そう呼ばれて目をパチパチと瞬く。そばにいた賈詡様?が笑った。
「アッハッハっー、それは君が于禁殿や張遼殿と言った怖い御仁の後ろをついて歩くからだろう」
なるほどそういう意味か、となんともいえない顔をする。確かに私は張遼殿の後ろについていくし、于禁殿の手伝いなどをするときも後ろについていく。
「鬼に懐いた仔鴨ってね」
「鬼?」
「おっと、これは予想外の返答。張遼殿も于禁殿も怖がられるタイプの人間だ。まぁ、種類は違うがね。于禁殿は自他ともに厳しく、軍規に厳しい。処罰されてしまうから恐れられる」
「守れば良い話では……?」
于禁殿に確かに軍規を聞いたことがあるが、決して守れない内容ではなかった気がするのだ。賈詡どのは目をパチパチと瞬いて、ふーむと考えた。
「なるほど、于禁殿が気にいるはずだ。でも、濡れ衣という言葉もある。気をつけるに越したことはない」
「なるほど」
「張遼殿は泣く子も黙る遼来来と言われていてね。彼の武勇は素晴らしいが、敵側に回ると恐ろしい。そんなこんなで二人とも怖がられているわけだ。仔鴨くんぐらいの年頃なら特に」
賈詡殿の言葉に私はふむふむと頷く。
「それで、仔鴨くんは怖くないのかな?」
「はい。張遼将軍は優しい方です。張遼将軍に拾われていなければ私は妖魔に殺されていましたし、今もたくさんのことを教えてくださいます。于禁将軍も優しい方です。勉学を見てくださりますし、気にかけてくださいます」
そう説明すれば、賈詡殿はケラケラとまた笑った。
「こりゃ参ったね、仔鴨くんにかかれば誰でも優しい方になりそうだ」
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双鉞のうちの一本ならば扱えるだろうと張遼将軍から一本を下げ渡された。槍よりも少しずっしりとしているが、慣れたら扱えるようになるだろう。えいや、と張遼将軍目掛けて振るうが、弾かれて飛ばされる。くるりと体勢を整えて武器を構えたが彼の斬撃をひたすらとめる。ぐう、隙が、ない、のと、少しの重さの誤差が体力に響いている。鍔迫り合いとなるとジリジリと力負けしていく。ぐう。いつものように武器に婆娑羅を纏わせて力を込めようとしたが、その前に武器が上手く弾かれて宙にまった。ぐう。そしてそれは張遼将軍にキャッチされたが。解せぬ。
「参りました」
「精進せよ」
ぺこりと礼をする。うーむ、やっぱり攻撃の受け手に回った時の対処の仕方がわからない。うーむ、と考えていれば、張遼と張遼将軍が呼ばれる。そちらを見れば知らない将軍だろうか。なにか会話をした二人から鉞を眺めていれば、ナマエ、と呼ばれた。
「ナマエ、客が来ているそうだ」
その言葉に私は首を傾げたのだが。
張遼将軍ともう一人、たしか夏侯惇将軍について歩く。なんだか偉い人が集まったその先には赤い服を着た男性や緑の服をきた人、着物をきた人がいた。その中の一人、知っている人をみつけた。赤い服をきた彼を見て私は口を開く。
「葉月先生?」
そうこてんと首を傾げれば、視線がこちらにむいた。こちらを見た曹操様は口を開く。
「知り合いか?」
「学舎の先生です。先生もまきこまれていたんですか?」
そう尋ねる。彼は眉間にシワをよせて私をみてから、曹操様をみた。
「魏の曹操殿。私の学徒がお世話になっております。私の名は武田葉月。今は孫呉でお世話になっております」
「武田というと」
「こちらにいる戦国武田家と我が武田家は似て非なるものです」
「ふむ?」
「すこし、そちらにいる生徒と話をする許可をいただきたい」
「ほう?どのようなことだ」
曹操様の言葉に葉月先生は息を吐いた。
「……私達がこちらに来る前に、恐らくはその子供はこの世界へ迷い込んでいると考えます」
「何故そう思う?」
「我らの世界には世界を渡る術がある」
その言葉に私は目を瞬いた。それは初めて知ったことである。
「だが、それには犠牲がつきまといます」
「犠牲とな?」
「ええ。六人ほど人を巻き込まねば世界を渡れません」
葉月先生は私をみる。思い出す。私は考えないようにしていたことを思い出して、張遼将軍の腰布を握る。
「では、お前はナマエがお前たちを巻き込んでこの世界にきたと?」
「いいえ。その子供はそのようなことをする子供ではない。恐らく、その子供は贄としてこの世界に飛ばされた。元凶はその子ではなく、その子や我らを襲った誰かなのです。その誰かの思い当たりがその子供にはあるはずなのです。我らが元の世界に帰るにはその元凶を斬るしかない」
その言葉に血の気が引いていくのがわかる。
「元凶はもう人ではありません。私は一度、それと対峙したことがありますが、あれはただの化け物です。歩く災厄、いずれはあの遠呂智のようになりかねます。だから、問いたいのです。襲った人物は誰かと?」
「ふむ。ナマエ、心あたりはあるか」
真っ直ぐに私に向かって問われた言葉に私は首を左右に振った。頭が真っ白だった。
「井伊、怯えるな。大丈夫だ、先生達はお前の味方だ」
そんなことを言われたって、どうすればいいというのだ。思い出す。思い出さないようにしていた光景を思い出す。あの時、母親や父親を切ったのは命を奪ったのは。私は首を左右に何度も振る。彼は私に視線を合わせる。
「ナマエ、俺たちは元の世界に戻らなければならない」
それは理解している。お前の家族も待っているだろう。そう告げた彼に私は首を左右に振った。チャチャを入れるように緑の服を着た男性が口を開く。
「ガキンチョ、黙っててもわからないぞ」
「暁はだまっていろ」
「へいへい」
「……ナマエ、本当に何があった?」
口を割らない私に、彼は心配したように私を見る。私は彼を伺うようにみた。
「……本当に、きってしまうしか、方法はないのですか」
震える声でそう尋ねる
「そうするしか、元の世界に帰る方法は、ないのですか」
「ーー探せばあるかも知れない、が、元凶を止めなければならない」
「止めるには、切るしかないのですか」
そう尋ねた私に、彼は目を見開いた。まさか、と呟いた彼に私は彼に尋ねる。
「先生は、私の兄を斬ってしまうのですか」
今度はひゅっと先生が息を呑む番だった。先生だけでなく周りもだ。先生の知り合いであろう人も目を見開いて私を見た。
「私が最後に見たのは、兄です。先生の言葉が真なれば、兄がその元凶でしょう」
「っ」
「本当に兄を斬らねばなりませんか。人間に戻す方法はないのですか」
涙を堪えてそうつげる。先生が目を泳がせる。しかし、先生ではなくチャチャを入れた男性が口を開いた。
「残念ながら、それしかねぇよ。俺たちも前に散々探したけどな、そんなもんはねぇ。酷なこというが、他に被害が出る前に討つしかない」
ぎゅっと、手のひらを握る。唇を噛み締める。ならば、と口を開く。父にそうしろと、そうであれと、願われたのは兄だけではない。先生に向かって頭を下げる。
「申し訳ございません。井伊の家を代表し、兄の行いを謝罪いたします。責任は私が追いましょう。もう、私の家は、私しかいません故に」
「お前の両親は」
「兄が斬りました」
そう笑う。どんな顔をすればいいかなどわからずに、笑う。
「私の目の前で、力を欲した兄は両親を斬りました。私に向かって刃を向けた兄に、私は光の婆娑羅で対抗しようとして……闇に飲まれたのです。そのまま目を覚ましたらこの世界でしたので、あれは悪い夢かと……」
張遼将軍の布から手を離す。
「悪い夢では、なかったのですね」
そうか、と、すとんと、腑に落ちる。我慢していた涙が、ぽろりと落ちる。
「……きっと、兄は私を恨んでおいでです。兄が望んだものを身に宿してしまった私を。だから、兄がこの世界にいるのであれば、私を殺しにくるでしょう。私は向かいうち、彼を討ちましょう。そうすれば、先生達は、元の世界に」
「できんのか」
「……やります。……だって、そうしないと私は永遠にその誰かを恨むでしょう。仇だと憎むでしょう。一族のケジメは一族でつけるべきだと、父は」
言っていたから。葉月先生は、すまない、と小さくつぶやいた。私は首を左右にふる。できる、できないの話ではなく、やるしかないのだろう。もし、ほかに方法があるのであれば、それを試せば良いのだ。すまない、ともう一度告げた彼は私を抱き寄せた。
==
「何故お前の兄はお前を恨むのだ」
そう尋ねられた言葉に私は張遼将軍を見上げる。葉月先生達が帰ったあとである。そう問いかけた彼に私は口を開いた。
「婆娑羅は生まれ持つ能力です。将来家を継ぐはずである兄ではなく、私に宿ってしまった。祖父母も両親も、それを嘆いていました。兄も何故私なのだといつも癇癪を」
「……」
「私も、好きで宿したわけではないのに」
そう言って両手をみる。彼はまた問いかける。
「討てるのか、兄を」
「……わかりません。先生はああ言ったけど、他の方法があるかも知れませんし、ギリギリまで探してみます。でも、もし、ないのであれば」
「その時はこの張文遠も力になろう」
「それは、とても心強いです」
「強くなれ」
そう私の頭を撫でた彼に、私は頷いた。
「はい」
==
「大丈夫かね、あの坊主」
「けーっ、イケメン確定じゃんか」
「……一応言っておくが、アイツは女子生徒だぞ」
「えっ」
「はっ」
「……追い詰めたのは俺だ。責任はとる」
==
道をかけていく兄弟。子供の手をひく親。そんなありきたりなものをみるたび、私にはそれがもうないのだということを思い出す。だから、あまり街が好きではない。そもそも、やることがいっぱいなのだ。文字を覚えなければ書簡も何も読めはしない。鍛錬を積まなければ私は弱いままだ。そこには、他のことをする、余裕など。
「ナマエ」
目の前から取り上げられた書簡に私はその取り上げた人物をみあげる。そこにいたのは于禁殿である。周りの兵士達が怯えたように彼をみあげた。
「お前を謹慎処分とする。休むべき時に休むことも軍規のうちだ」
「休み、ならば、」
「二言はない。しばらくお前には書庫と鍛錬場の出入りを禁じる」
連れて行け。
于禁殿の言葉に私はずるずると外に出される。兵たちには大人しく従ったほうがいいのだとか、色々と言われたが。
「休んでいる、暇など」
そう言って両手を見つめる。いつの日かよりも豆だらけのその手は決して美しいとは言えない両手だった。
==話が飛ぶ
「醜い」
燃え盛るそこで、父親は婆娑羅を纏わせた刃で兄をきった。父親をみて、なぜ、と問いかけながら、兄は崩れ落ちた。俺のせいだ、と小さく呟いた父親は兄を抱き上げる。
「お前を力に固執させたのは間違いなく俺のせいだ。すまない。お前が恨むべきはナマエではない。俺だ。婆娑羅という力に固執したナマエ以外の俺たちだ。恨むなら俺を恨め、カナよ」
父親はそう言って私を見下ろした。そっと伸ばされた手は、私の頭を撫でる。
「ナマエ、すまない。お前には一族という重荷を背負わせることになる。せめてもの償いだ。カナが侵した業は俺が連れて行こう」
「お父さん、いやだ、一緒に帰ろう!兄様も一緒に、みんなで帰ろう!全部、きっと夢だよ、目が覚めるんだよ、そうしたら、また、みんなで」
「向き合え、目を逸らすな、逃げるな。現実を受け入れろ。……そして、前を向け」
父親はそう言って穏やかに笑った。その表情は初めて見る表情である。いつも父親は小難しい顔ばかりしていたからだ。
「何年かかってもいい。前を向け。足を進めろ。俺たちを置いてその先に行け」
頬を撫でた彼は片腕で私を抱きしめる。愛しているぞ、我が娘よ。そう呟いた彼に私はポロポロと泣いた。う、え、と声にならない声がする。
「張遼将軍、連れていってくれ。敵に願うとは申し訳ないが、この子を頼む」
「……わかった」
張遼将軍はひょいと私を抱えると、そのまま外に向かって駆け出した。燃えていく。お屋敷が燃えていく。そうして外に出た跡すぐに、そこは崩れ落ちた。声がでないように、唇を食いしばる。それでも溢れる涙に、張遼将軍は私の顔を外には見えないように胸元に押し付けた。鎧に反射して、燃え盛る赤がみえる。
周りが無事だったか、とこちらに気づきやってくるのが見える。他の妖魔を蹴散らしだのだろう于禁将軍が、曹操様をつれてやってくる。
「張遼、ナマエ、無事だったか」
「曹操殿」
「元凶は」
「ナマエの父君が討たれました。我が子に業を背負わさんとするその心意気や良し。ナマエの父君もまた、立派な将でございました」
「……その父親は」
「ーー元凶と共に自害を」
「そうか、もうあの化け物が現れることはなかろう。戦は我らの勝利だ」
そう言った曹操様に、周りが歓声をあげる。喜びの声を上げる。張遼将軍はまたひょいと私を抱き上げると、いつかのように馬に私を乗せた。そして兜を被らされる。
「今は泣いてもいい」
ポロポロと涙が溢れる。小さく嗚咽が漏れる。両手で兜をずらし、顔が見えないようにする。暗闇の中、馬が歩き出すのがわかる。兵士たちが喜ぶ声に、于禁将軍が撤収の指示を出すのが聞こえた。
==
張遼将軍に新しい髪紐というか髪飾りをもらった。ちょっと女の子っぽいそれに嬉しくなる。宴だなんだと周りはガヤガヤしていて、私は木箱に入ったその青い髪飾りを眺めていれば、気に入ったか、と問いかけられた。ので、頷く。
「はい、とても嬉しく思います」
私の言葉に彼はフッと息を吐く。近くを通りかかった于禁殿には今でいうブローチみたいな飾りをもらえた。それも嬉しい。ちょっとニコニコしていれば通りかかった夏侯淵将軍に声をかけられたのだが。
そんな楽しい時間が終わりに近づいたころ、婆娑羅を使っていないのに周りに光が舞った。なんだ、と思っていれば葉月先生がこちらにやってくる。
「この世界から元の世界に戻るらしい」
私はその言葉に目を見開く。まだ何も返していないというのに、帰るとはどういうことだろうか。
「帰るのか、寂しくなるな」
「仔鴨が見れなくなってしまうねぇ」
そんな会話に私はポロポロ泣いた。まだいたいのだと泣いたところで光は止まらず、私の手が透けてくるぐらいだ。私は無理くり袖で涙を拭うと曹操様たちに向かって頭を下げる。お世話になりました、と。曹操様は「達者で暮らせ」と私に告げた。私はそのまま張遼将軍と于禁将軍に纏めて抱きつく。
「お世話になりました、ありがとうございました」
そう言って二人を見上げる。大好きです、と告げた瞬間、私の視界は弾けるように白に包まれる。そうしてまた視界が元に戻った先に二人はおらず、ただそこには心配そうにしている女性と男性達が立っていたのだが。
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