2021/03/24
雪に花咲く君2
2
なんやかんやついてきてまわってくれたり、子供の相手をしてくれている四人である。冬支度は大変だから成都にいたらいいと言ってくれる蜀の人達は相変わらず優しい。布を換金し、干し肉やらをたくさん買い込んだ。また送ってくれるという四人に、私は困ったように馬岱殿を見上げた。
「馬岱殿、あとひとつだけお願いがあるのですが」
「ん?なぁに?」
「蜀の恐らく偉い貴方に頼むことではないんですが、薪を割ってほしくてですね」
私が割るとどうも綺麗に割れないのだ。子供にそんなことをさせるのもどうかと思うので、もっぱら最近は子供は薪ひろいしてもらっている。
「いいよいいよ、それくらい」
「ありがとうございます。自分でやると、こう、うまくできなくて」
「えっ」
「……侍女や護衛はいないの?」
そう伺うように告げた徐庶殿に「いませんねぇ」と頷いた。
「やっぱりキミ成都にいた方がいいんじゃないかな……危ないよ」
「ううん、今のところは大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないだろう」
「俺みたいな悪党が付け狙うかもしれませんしね」
「本当の悪党は善人のふりをすると聞いたことがありますよ」
そういえば子供が口を開いた。
「せんは、危機感がなさすぎるのだ!だから、あそこにくる奴は皆おれがみはっている!」
「そうか、頼もしいな!忠は!」
ううん,まるで兄弟である。法正殿が「実は兄弟じゃないですか?」と突っついて、馬超殿は「かもしれん!」と返すあたりなんというか、仲がいい。というか、馬超殿大丈夫なのか、その話題。
とりあえずあの細い道を通り抜けて家の周辺につく。そのまま家に向かい、荷物をおろし、馬を離す。頭を撫でてやれば、二頭の馬は戯れるように駆け出した。
「ここもすっかり秋の景色だねぇ。春のままかと思った」
「どうしてですか?」
「ほら、桃源郷っていう噂があるじゃない。そこかと思ったんだよねぇ」
そうぼやいた馬岱殿に目を瞬いておく。それはなんというか……まぁ、わからないでもない。それくらいここは穏やかで綺麗な場所だった。子供はまたいつものように出入り口付近に構える。私はそれを見送って荷物を運ぶために抱えた。
「なにしてるんです?あれ」
「毎日見張り番をしてくれています」
「たいそうな見張り番ですね」
法正殿の言葉に私は苦笑いをする。しかしながら、見張り番というよりかは彼の場合違うのだろう。
「まぁ、そういうのは口実で迎えを待っているんでしょうけど」
私の言葉に彼らは私を見下ろした。
「えっ、弟じゃないの?」
「いいえ。一緒に暮らしていますが血は繋がっていません」
どんなふうに見られているんだろうか。侍女の件と言い、この件といい。
「……あの子の両親はあの子に必ず迎えに来ると伝えて近辺から立ち去ったみたいです。私が森の中にいるのに気づいて家に招き入れました。下の村の子かとも思ったんですが、違うようです」
「捨て子か?」
「わかりません。あの子は迎えが来ると信じているので、私も一緒に待ってるのです」
どうやらここ一体は捨てる人が多々くるらしい、とは盗賊だった人の話である。特に私のすんでいるあたりはそういう例が多いらしく盗賊に加わったり、村に拾われたりと色々するそうだ。まぁ,こんな場所があるとは知らなかったそうだが。荷物を抱き上げれば、馬岱さんがそれを取り上げる。
「どこに運べばいいの?」
うぐぐ,そこまで甘えたくないのであるが。
「変わった作りの部屋ですね」
私の家の中を見てそう告げたのは法正殿である。いかんせん、この時代のものでないものが多い。まぁ、テレビとかは元々私の家においてなかったので良しとするし、書籍関係は隠したし、私の昔描いた(正しくは遠呂智云々の世界で描いた)絵も隠してある。そもそもガスも電気が通っていないので電気製品は使えないため冷蔵庫やレンジなども押し入れの中だ。何故かお風呂だけが温泉となっていて助かったが。食事をつくるのも暖炉や外に炊飯のものがあって助かっている。調味料などは私がこの世界に来る前のものはそのままあるし、週に一度リセットされて戻るのがかなりありがたい。それでも食べ物関係はやはり買い足さねばならないのであるが。
荷物を置くだけ置いて、納屋に向かった。馬岱殿達が子供を引き連れて薪を割ってくれているので、私はそのまま作業スペースに向かう。法正殿は私の後を追いかけてくる。
「ここは」
「私が機織りをしたり、色々する部屋です」
「驚いた、貴方が織っていたんですか」
「?はい。皆さんお酒は嗜まれるでしょうか。せっかくきてもらったのだから、何かおもてなしをとは思うのですが」
「そういえば、貴方に会えば変わった味の酒がもらえるんでしたね」
趙雲殿達もそういうものをいただいたといっていました。
そう告げた法正殿に首をかしげる。もしやまだ果実酒の概念がないのだろうか。いや、でも曹丕さんが葡萄酒が美味しいっていってた気がするしな……。
「馬岱殿に少しいただきましたが、甘い味がしました」
「馬岱殿にお渡ししたのは梅の酒ですね」
「梅?」
あとは杏やかりん、みかんや桃、レモンもある。謎にここにはそういった木々も生えていて、季節になれば実っていくのだ。
「せん、薪がたくさんできたぞ!」
そう薪を抱えた子供が顔を覗かせた。
「馬超殿や馬岱殿達は、せんより上手だ!」
「うーん、私には難しいんだよ。いつもみたいに積んでおいてくれると助かるなぁ」
「積んだ!これはおれが割った分!」
「えっすごい」
「だろう!」
ふふん、と鼻を鳴らした子供の頭をわしゃわしゃしておく。
「別のところで乾燥させておこう」
「それは同じところでいい!かたしてくる!」
そうかけて行った子供を見送る。どうやら褒められたかったらしい。
「まるで母ですね」
「誰でも褒められると嬉しいものですよ」
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「セン殿は、寂しくないの?」
温めて薄めた杏酒を振る舞った時である。そう尋ねた馬岱殿に、私は「慣れました」と返しておく。なんの因果か私はまたこの世界に「家ごと」飛ばされたわけであるが、慣れたというしかなかった。昔はビクビクしていたが、今のところは生活できているのでそうではない。
「そもそもなんで貴方はこんな場所に住んでるんですか?どこかから逃げてきたんです?」
その言葉になんとも言えなくなる。困った顔をしてしまうのは仕方がないだろう。
「法正殿」
「夫がいてもおかしくはないでしょう」
それもそうな年頃である。うむ、と頷きながら私も杯をかたむける。遠呂智世界を端折るか。
「元々は迷い子だったのですが、親切な夫婦に拾われてその夫婦や夫婦の周りの方に色々教えていただきました。機織りの仕方や礼儀、学も少し……夫に関しては将来を誓った相手はいましたよ」
「ほらね」
「その夫婦は何処に?ここに住んでるの?」
「いいえ、その方達とはもう会えることはないでしょう」
「どうして?」
徐庶殿のその問いかけにまた私は困った顔をする。
「みんな、ずっとずっと遠くに行ってしまいした」
「……ごめん」
「気にしていません」
死んだと解釈されているのだろう。まぁ、それはそれだ。
「どんな相手だったんです?」
「兄のような人でしたよ。馬の世話から馬の乗り方まで教えていただきましたし、武勇も優れていた人でしたね」
私の初恋はあの人が連れて行ってしまったのだ。そう目を伏せてまた薄めた梅酒を飲む。違う世界の彼らは元気にやっているだろうか。
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