2021/03/24

雪に花咲く君4

==遠呂智に巻き込まれた/荀攸ルート


これはもしや遠呂智では。いつものように成都にでようとしたら、違う場所に出た上に妖魔がいるという噂を聞いてしまった。どうしようと眉尻をさげる。現在位置がわからない手前、知り合いの多い蜀に行こうにも無理である。そもそも子供を二人連れて妖魔の間を通り抜けれるかと言えばちょっと自信がない。と、なると引きこもるべきであるが、引きこもったところで今は沢山の食糧があるが、いつかは食糧がつきるし、妖蛇云々となった時に詰む。
「やるしかないか……」
はー、と息を吐き家に引き返そう、としたら、この世界の典韋殿を見つけてしまった。担いでいる曹操殿や兵達はぐったりとしている。ううん、仕方がない。放っておくのもいかがなものかと。とりあえず彼らの近くまで馬を進めさせて気づく。そこには一人、見覚えがある人がいたからだ。
「お待ち下さい」
私が現れたことに、そこにいた将兵が全員警戒した。
「なんだおめぇは!」
「……せん殿?」
「お久しぶりです、公達殿。……背負われている方は怪我をされている様子、今は私の住む場所が近くにあります。化け物が来ないうちに、どうぞこちらへ」
そう言って背を向ける。公達殿が説明し、ついてくるのがわかる。そのままあの細いトンネルみたいな場所を潜り抜ければ、二人が待っていた。
「せん!はやかった……む!!こうたつせんせい!」
「せんさま!誰ですか!あっ!こうたつせんせい!」
「二人とも、先生は怪我をした方をお連れですし先生も怪我をしています。皆さんに飲み水を配ってください」
「わかった!」
「はーい!」
そうかけて行った二人を見送り、とりあえず家の周りの開けた場所に向かう。とりあえずそこで兵の人には休憩してもらったり、手当てをしていくとして問題は典韋殿が抱えてる人だ。
「公達殿、あの方たちを家の中へ。手当てをします」
「ありがとうございます」
「荀攸の知り合いか?」
「えぇ、俺も以前助けていただきました」
そんな会話をよそに私は手当てセットや綺麗な水、清潔な布をかき集める。とりあえず意識を失っているのか死んだふりをしているのかわからない曹操殿の手当が優先だろうし、典韋殿達の手当ても兵達の手当ても必要である。やることは思ったより多そうだ。


とりあえず、手当ては終わったが、曹操殿や典韋殿や公達殿は家の中で寝てもらうとしても、兵の寝る場所がないような。とりあえず余ってる木材と縄としっかりとした布でティピーテント的なものを作る。元気な兵にもそれを教えてテントをはってもらい、下に引く布やら寝る時用の毛布やらを引っ張り出して配る。まだ少数で助かったというか。水浴びは自由にして良いと言ったし、あとは食事の手配だろう。たまご粥でいいか、ととりあえず卵がゆをつくり、兵士たちに配る。後はついでだし梅酒をお湯でかなり薄めたものも渡しておいた。少しだけでも気が紛れればいいが。そうしてようやく家に入れば、公達殿が私をみた。
「せん殿、何から何まで恩にきます。貴方にまた助けていただきました」
「お気にせず。実を言うと私も誰かに会いたかったので、公達殿に会えてホッとしました」
そういいつつ子供達とこの人達の食事を作らないと行けないなぁ,と思いながらキッチンに向かう。曹操殿はまだ目が覚めていないらしい。典韋殿と子供は曹操殿を眺めていた。
「ホッとした?」
「いつもならあの細い道を通り抜けると成都の近くにある山に出るのですが、何故か全く知らない場所で。どこかも分かりませんし、妖魔という存在がいるとも聞き……どうしようかと……」
食材を選びつつ困った顔をして彼を見上げる。彼は私を見下ろした。
「緑の服を着た方には?」
「会えていません」
「俺が最初ですか」
「はい」
「そうですか。と、いっても、俺達もまだ何も分かっていません。世界が混ざったということ、遠呂智という存在が妖魔を率いて攻めてきたということぐらいです」
「世界が混ざった?」
「ええ。未来も過去も。そして倭の国でさえも」
公達殿の言葉に内心やっぱりかぁ,と思う。前は私は遠呂智が倒されて復活する前に飛ばされてきたのであるが,今回は初めからというわけらしい。
「せん殿、少しだけこちらに滞在させていただけると助かります。機を見計らい、遠呂智に対抗せねばなりません。そのかわり、貴方達の安全は俺たちが保証します」
「それは助かります。ありがとうございます。少し心細かったんです」
「……やはり、魏に来ませんか。……と言っても、せん殿は来ませんね、何でもありません。食事の準備ならば手伝います」
「ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ」

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曹操殿が目を覚ました、のか、俗に言う死んだふりをやめたのか、は、知らないがとりあえず目を開いた。何の因果か私が近づいた時に目を覚ました。お主は、と声を出した彼に、私は振り返る。
「典韋殿、公達殿、目を覚まされましたよ」
「なっ!殿!!」
そう言ってかけてくる典韋殿よな。公達殿も同じくかけてくるし。子供二人は曹操殿が起きたのをみて、きゃあきゃあと騒ぎながら外にいる兵士達に伝えに走った。私はそろそろ兵達の食事の世話をしなければならないために少し席を外すとする。


「せんと言ったか。助かった。この礼はいつか必ずしよう」
曹操殿の言葉に首を左右にふる。お気にせず、と返せば彼はいつかのようにフッと笑うのだが。
「お主のことは荀攸から聞いていた」
「公達殿から?」
「あぁ、前にここで世話になったとな。今回、お主に会えたのは紛れもない幸運よ」
彼はそう言って私をみた。私は困った顔をする。そんな大層な者ではないからだ。
「俗世から離れたお主ならば遠呂智なるものを知っておらぬか」
真っ直ぐな目である。どう伝わってるかわからないが、困った顔をしてしまうのは仕方がないのだ。知っているが同じとは限らないのであるし、私は今の現状を知らない。
「沈黙、か」
目を細めた彼に、私は白状するに越したことはないか,と息を吐く。近くにいた公達殿がせん殿?と首を傾げた。
「すこし、昔話をしても?」
「あぁ、構わぬ」
「……昔、私が迷子になって迷い込んだ世界がございました」
そう言って目を伏せる。
「どう考えても私の住む時代ではなく、右も左も分からず、ただ人ではないものに襲われかけた時にある国の将の方たちに助けていただいたのです。私はそのままその国の方々にお世話になり、生活の術を学びました。彼らが」
そう言って手元の編み物を見つめる。
「……彼らは時折、兵を率いて何かと戦っておいででした。私はその相手を直に見たことがありません。ただ、大きな蛇の化け物と人ではない将。それを率いていた者を皆、遠呂智と呼んでいたのです」
そこで彼らは息を詰めた。
「しかし、おかしな点があります。私の記憶ではその者は集まった将兵に討たれ、世に平穏が訪れていると共に私は元いた場所に戻ったのです。だから、あれは夢なのだと……」
そう言って目を伏せる。そのあとにまた世界に招かれたが、それもまた元の世界に戻った。夢としか説明ができなかったのだ。あの世界の将兵たちと出会ったのも馬超さんと親しくなったのも、将来を誓って貰えたのも。
「全ては夢幻であったのだと……」
戻りたいと思ったことはある。でも、この世界ではない。
「……いいことを聞いた。あれは人の手で倒せるか」
「私がしる存在であれば、必ず」
そう頷いて私は曖昧に笑う。遠呂智は倒せる。同じ存在なのか否かは知らないが。ならば、倒すのみよ、と告げた曹操殿は変わらない。でも、違う人なのだと、私は感じるのだ。
「せん様?」
「せん、せん、どうしたのだ?」
「いいえ、なんでもないよ」
子供の頭を撫でてから、曹操殿に一礼してそこを離れる。ううん、だめだ、少しだけ気が参っている。


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こう言う時は機を織るに限ると機を織っていれば、ナマエ殿、と声がかかる。はっとして手を止めて見上げれば公達殿がそこにいた。公達殿,と彼の名を呼べば彼は私の座る長椅子に座った。
「すいません、集中しだすと気が……」
「いいえ……それは誰しもが同じことです」
彼はそう言って私を見る。私は首を傾げた。
「……せん殿は、そちらに皆を置いてこられたのですか」
そう尋ねた彼に私は目を見開き、首を左右に振った。置いてきたのではないし、置いて行かれたわけでもない。
「皆もとの時代に戻った。私も彼らも。めでたし、めでたし。あの話はたったそれだけの話です」
「……貴方の表情を見れば、それだけとは思えません。今にも泣きそうな顔をされている」
彼はそう言って私の手を握る。私はなんとも言えない顔をしてしまった。
ーーナマエ、どうした?
彼ではない。彼ではない。でも、彼はいない。ここにはいない。同じ名を持つあの人は、違う世界の違う人だ。
「ナマエ殿、俺は貴方の力になりたいのです」
ーー俺はお前の力になろう。
彼はそう言って手の力を強く握る。全く違う人のはずなのに、その昔を思い出して私はほろほろと涙を流す。彼はそれを拭うようにそっと頬を撫るとそっと私を抱き寄せたのだ。
「……申し訳ありません、公達殿。少しだけ、こうさせてください」
「……はい、俺で良いのであれば、いくらでも」


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「せんよ、この戦が終わったあとは魏に来るが良い。お主や子供の身、我らが保証しよう」
そう言った曹操殿に私は困った顔をした。首を左右に振ってもいいものか。そう考えていれば、公達殿が口を開く。
「殿、せん殿に無理を強いるのはおやめください」
「しかし、荀攸お前が1番そう思っているのではないか」
「……殿、彼女には彼女の生活があります。それを脅かすのは俺の本意ではありません」
公達殿はそう言って、また来ますと私に告げた。私は頷いて、また、と手を振る。馬がかけていくのを見送って私はまたトンネルを引き返した。

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遠呂智が倒されたとはいえ、世界が一気に混ざり色々な勢力が出来上がった今、世界は混乱したままだ。そんな中、ここは大丈夫だろうか、と心配していたのが的中してしまったというか。どこからか攻め込んできた妖魔に、簡易な馬車を作り上げ、子供二人と食べ物をジョーイと浮雲にひかせる。
「ジョーイ、浮雲、二人を安全なところに連れて行って」
「せん!」
「せんさま!」
「私もすぐ追いかけます。大丈夫、ね?」
そう二人を見下ろして頭を撫でる。ジョーイと浮雲を撫でれば2頭は走り出してトンネルの奥に消えていく。もう描いた絵のストックは少ない。この先を通してはいけない。だから、時間を稼ぐために私はそこに立ちつづけなければならない。炎に包まれて、意識が遠くなる。あの子達の無事を祈りながらそっと目を伏せれば、誰かが寄ってくる足音がした。
「これで、貴方の野望は消える。さっさと死んで……いいえ、この世界の将が味わった屈辱を噛み締めながらゆっくり苦しんで死になさい」
そんな吐き捨てるような言葉と共に意識は闇に飲まれていく。私はそのまま意識を失った。


目を覚ますことなどないだろうと思えば、目を覚ました。私の近くで眠りこけている二人の頭をそっと撫でる。そのまままた眠りにつこうとすれば、ナマエ殿、と声が聞こえた。そちらを見れば公達殿である。
「公達殿……?」
「目を覚まされましたか。よかった,長く昏睡しておいででした」
「ここは、」
「魏の兵舎の一室です。人払いはすませています」
「……助けに、きていただけたのですか」
「ええ。子供らが馬車に乗って駆け込んできました。ちょうど典韋殿や俺がいたので、貴方を助けにすぐに迎えました。今は,もう少しお眠りください」
「……はい」
そっと目を伏せる。襲ってきた安堵感に私は目を伏せた。

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目が覚めたらやはり魏である。助けていただきありがとうございます、と公達殿に言えば彼は首を左右に振った。



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