2021/06/21
空白 5
始球式の人物がマスコミにもサポーターにもシークレットになってるから仕方ないのだが。私は遅れてそこにいくことになる手筈も了承しているんだけども。もっと……こう……ETUの選手や達海監督と話したかった感はあるし、本音を言えばリトルズをここに送り込みたかったのだがチャリティマッチではないためそれはできない。プレシーズンの東京ダービーである。
そもそも私がボールを蹴ってる姿を見たいファンがいるのだと言われてしまえば私はそれを拒むことなんてできないのである。まぁその分リトルズやチームメイトにはちゃんとチケット手配してくれる東京ヴィクトリーさすがすぎる。まぁリトルズは私のような位置を目指して頑張りやれ。
「ターミネーターのあの曲流してほしい。多分、蓮あたり爆笑するけど」
そう言えばすっかり私のこの姿を受け入れた東京ヴィクトリーの広報達がゲラゲラ笑った。だって面白くない?と冗談を言いながらクラッチをはめる。まぁ見た目アンドロイドの義足は置いていくのでターミネーターっぽさはない。恐らくスタジアムで流れるのは、何故か私と結びつけられている曲があるのでその曲が流れるだろう。今日を持って東京サンライズというチームは東京ヴィクトリーサンライズというこの緑色のチームの傘下に入るのだが、そのお披露目もかねて私が選ばれたんだろう。そろそろです、と背中を叩かれて入場口にいく。まぁETUの選手もスタンドも多くはタレントだと思っているだろうし、多くは早く終われと思っている始球式である。
『本日の始球式、特別ゲストのご紹介です』
そう言って流れ始める私と結びつけられている曲に周りがザワザワしている。いいぞ、もっとやれ。映像も持っとやれ。
『元なでしこリーグ東京ヴィクトリーベレーザ、現日本アンプティサッカー協会、東京ヴィクトリーサンライズ所属!』
苗字ナマエ!
その言葉にスタジアムはどよめいた。私はクラッチをついてその中に踏み入れる。向いている視線に、カメラに私はベッと舌を出してそのまま緑色のピッチに足を進めた。唖然としている達海監督に手を振り、平泉監督には行ってこいと背中を叩かれる。
そのままETUキャプテンの杉江さんと握手をして、城西さんと握手をした。向けられたマイクに私はフハッと笑った。そう言えばそうだ。何か喋れと言われていたのを忘れていた。
「やぁ久しぶりです、皆さま。お元気にしておりましたでしょうか」
本日はお日柄もよく、ダービー日和でと冗談っぽくケラケラと笑いながら言う。何を言おうかな、とマイクを見つめる。静まりかえったスタジアムに私は頭をかいた。
「まぁ、みんな私の姿をみて思うことは色々あると思う。楽しい東京ダービー前にこんなもん見せんなとか、どうやって始球式すんのとか、サッカーもうできないじゃんお前とか……」
サッカーもうできないじゃん、とは誰もが思う言葉だろう。でも、そうではない。
「今の時代、サッカーはさ、片足がなかろうとプレイヤーできるし、片腕がなかろうとキーパーできる。サッカーをやりたいどんな人でも、サッカーができる環境になってきてる。だからさ、もし、私みたいになってサッカーすることを諦めてる人がいるならさ、なんにも諦めなくていいよ。一緒にサッカーしようぜ!無理とかできないとか決めつける外野は私が女王になってまた黙らせるから」
そう言って真面目な顔をする。
「前は十六年かかった。子供の頃願った些細な夢を叶えるのにね。でも今回は五年でいい。私は世界のトップに絶対日本を連れて行く」
ワァッと上がった歓声に私は息を吐いた。これでいい?と広報に聞けば頷かれた。しかし、まぁ、ヴィクトリー側のサポーターが黙ったのをみるといつものやれと言われてるなぁ、と思う。現にマイクから離れようとしたらいつものー!とやじが上がったが。仕方ないと息を吐く。女子戦じゃなくて男子戦だからなー、間違えないでよー、と軽口を叩いた。
「我ら『東京ヴィクトリー』は勝利を名に刻むもの。だから我らは常に勝者でなければならない。ホームでの負けは何にも変えられない屈辱、許されない。相手は同じ東京を名に刻む前年度王者。真の王者を示すとき、挑むには丁度いい」
そう私が言えば、ヴィクトリー側のサポーターが叫ぶ。
『we are king of Tokyo! Tokyo victory!』
まぁこれだけだとETU側に悪いのだが。なのでETU側をみる。
「王冠を手に向かいうつは!」
『ーーETU!』
急な不利なのにノリがいいー、と笑いながらひらりと手を振ってそのまま始球式に向かう。話が長いと蓮に怒られたが。蓮は主審からボールを受け取る。
「つーかなにあれ、めちゃくちゃうけるんだけど」
「サポーターは盛り上げて損はないよ。プレッシャーになるしね」
「しくんなよ」
「君がしくったらさっきのアレ蓮にやってもらうからな」
そのままコーナーに向かった蓮に私はペナルティエリア近くに立つ。緑川さんによろしくー、と手を振った。笛が鳴り、蓮が蹴った山なりのボールに合わせて、片方のクラッチに重心をかけ大きく飛び上がる。その勢いをそのままボールにぶつければシュートになってゴールネットを揺らした。まぁ緑川さん動いてないんだけどな。ゴール!と騒ぐサポーターに手を振ってボールを拾った緑川さんと握手をする。
「結構な威力だな」
「まぁこれは体重の勢いつきますからね!」
「下手くそ、今の絶対止められてるだろ」
「うるせー、わかってらぁ」
そう軽口を叩きながら軽くハイタッチをする。湧き上がったサポーターにもう一度手を振って、私はそこを後にした。
==
僅差の地に勝ったヴィクトリーにまぁあんだけ盛り上げちゃったら無理だよなぁ、と思う。私は実はその後実況・解説席に回されたんだけどな。あれ?私仕事しすぎでは??そうこう終わってチームメイトとも会い、なんてことを宣言してくれてんだといじられる。まぁ、ガチなんだけど。チームメイトはやる気十分だから大丈夫だろう。その後今日付でヴィクトリーに入るからキャプテンと私は記者会見にいったりなんやりしていたら達海監督と広報さん、後藤gmにあった。
「よっ、女王様。元気そうだな」
「達海監督ー!元気!めちゃくちゃね!」
ケラケラ笑いながら握手する。広報さんが私の足を見たので私は隠すことなくズボンをめくった。
「どう?私の新しい足。ターミネーターみたいでカッコよくない?」
「えっ、いや……」
「まぁ、そうなるよね。東京V側のスタッフも最初はそうだったし蓮もなんやかんや一ヶ月ぐらいはなれんのにかかったから」
「……足みたいなのじゃないんだな」
「普通の足みたいなのも持ってるよ。でも、足みたいなのつけてた方がみんな落胆するからね。こっちの方が都合いいし、カッコいいと思うんだよね」
そう言いつつズボンを下ろした。
「……女王様は強いねぇ。そのメンタルうちの選手にも分けてやってほしいね」
「だてに女王様してないでしょ。あ!ETUも協力してくれてもいいんですよ!」
「何に?」
「アンプティサッカーってまだマイナーだからプレイヤー増やしたいんだよね。あとは設備も整ってるわけじゃないし、ボランティアでほとんど回ってるから。世界と戦うには味方増やさないといけないんだよね。だから、協賛してくれてもいいんだよ!」
そう後藤gmの背中をバシバシ叩く。協賛!してくれて!いいんだよ!考えとくよ、じゃないんだよ。むしろ協賛しろ。
「……あと達海監督、監督飽きたらサッカーしにきたらいいよ。うちのチームホームが東京だし。練習場も一ヶ所じゃないし」
「……考えとく」
「わりかとまじめに考えといて!」
そう手をぶんぶん振ってそのままヴィクトリー側に向かう。いやぁ、濃い1日だった。
==
「第一回アンプティサッカー、未成年のためのサッカー尽くしキャンプ始めまーす」
世間的には夏休みである。ヴィクトリーの練習場にずらりと並んだ高校生達の前に立つ。学生陣とプラスアルファのためにホテルもちゃんと押さえました。日程の練習場も手配しました。親御さんもきていいよと言ったので来ている。観光したり見学したり好きにしてくださいと言っていたが、ドリンクなどで手伝ってくれる人もいてとても助かるのだ。大人のチームメイト、他のチームメイトも助けてくれるし。
「個人の目的もあると思うけど、私が君たちに示す目標は大きくふたつです。ひとつ、代表クラスの上の世代の技術をとことん吸収する。ふたつ、試合の形になれて経験値をつむ。今回大人で手伝ってくれるのは代表クラスの人やスタメンクラスの人なので一緒にプレーしたり話たりしながらどんどん吸収して自分の力にしていこうぜ」
そう言えば元気な返事がきた。うむ、よろしい。
「ま、それは君たち各自がある程度で目標にしてほしいことです。私がわざわざキャンプを開いた目的は違います。まぁそれは明後日教えます。試合に出たい人はどんどん練習で私にアピールしてね!以上」
私の言葉に大人の選手たちが「意地が悪い」みたいな顔で私をみた。隣で錦さんが苦笑いしている。大人には黙ってるよう言ったし。いやー、仕方ないよね!うん!変に言ってプレッシャーを与えたくないし。こういうことで、サボる奴はそっちに行ってもサボるし。
「じゃ、まずお互い自己紹介してから練習始めるんで名前と所属チームお願いします。あ、私は東京ヴィクトリーサンライズの苗字ナマエです」
そう私が名乗れば彼らは名乗る。私はリストと照らし合わせてから大人達に指示して練習を始めてもらう。その光景を見ながらリストに書き込んでいく。あとは大人に実際どうなのかを聞いてすり合わせるのをとりあえず二日。そこからガチな練習を明後日から。いやぁ、会長に頼まれたからやるけど監督って本気で面倒くさいな。
「今度は監督業もやるのか。忙しいやつだな」
不意に後ろから声がかかったので振り返る。平泉さんである。
「アンダー世代のね」
「通りで若い奴が多いな。遊び半分のやつもいるが」
「まぁそんな年頃だからねー、代表選考ってまだ伝えてないし。明日のオールスター観戦まではレクレーション。学生のための思い出づくり。明後日以降が本番。まぁでもよくわからいんで稲瀬さんに聞いてますけど。平泉さんもまた教えてください」
そうニコリと笑えば彼はフッと笑って気が向いたらな、と告げた。
「あと選手のキャンプ前のボランティア協力もありがとうございます」
「それは本人たちにいってくれ。ETUにも頼んだらしいと聞いたが」
「明日はETUの方を借りて練習するのでそのついでで頼みました。あっちの方がほら、なんやかんや優しいから。まぁ怪我させないようには気を配ります」
「そうしてくれ」
平泉さんはそう言って学生達をみる。若々しいな、と呟いた彼に「老いるのはまだはやいですよ」と突っ込んでしまった。
==
Comment(0)
次の日 top 前の日