2021/06/21

空白 6

「本日はETUの本拠地で練習をします。今回は軽くポジションに分かれて練習することになると思います。俺どこ行けばいいかわからないって人は私に聞いてくれれば昨日の練習をみた段階で感じた向いてるポジション教えます」
そういえばまた返事をしてくれる彼らはいい子だ。リトルズもなんやかんや友人ができたみたいだし、今のところは仲がいい。
「あと、今日はキーパー組は昨日コーチしてくれてた川瀬さんが不在なため、特別コーチと一緒に練習してもらいます。他の人は貴方達より下手な人達に貴方達がアンプティサッカーを教えてもらいますので」
「えっ、ナマエさん、なにそれ」
「なにそれもクソもないでーす。さっさと練習場に移動しまーす」
ケラケラ笑いながら彼らにバスに乗るように急かす。そうしてついたETUの練習場、その先にいた有里さんやETU会長、後藤gm達にお礼を言った。
「協力ありがとうございます。助かります」
「いえいえ。こちらも写真撮らしてもらったりするので」
「まさにwin-win」
ふふふと有里さんと二人で笑う。そのまま連れられて練習場に行けば選手達がいた。学生陣が固まった。おお、いい反応である。達海監督が私をみて笑った。
「おっ、きたきた」
「今日はよろしくお願いします」
「こっちこそ」
そう言って握手していれば学生陣がザワザワしている。はーい、静まれーと声をかければ静かになった。先に緑川さんを紹介するか、と緑川さんをよんだ。
「紹介します。本日ゴールキーパー特別コーチとしてゴールキーパー陣に指導してもらう緑川コーチです」
その瞬間ゴールキーパー陣が雄叫びを上げた。うんうん、いい反応である。
「で、こちらが君たちがアンプティサッカーを教えるETU選手陣の一部です」
そういえば他が騒ぐ。うるさいぞーと言えば黙ったが。
「教えるだけじゃなくプレーについて聞きたいこと相談したいこと、サッカーについての考え方は遠慮なくぶつけまくっていいよ。キーパー陣もね。ただし彼女いんの?とか年収とか何であの試合のシュート外したの?とか下らない質問はしちゃダメだよ。向こうが困っちゃうからね。教える人はもうこっちで達海監督と話し合って決めてるので。最後は目指せミニゲーム」
そう言いつつ、病院から借りたクラッチを選手陣に渡しながら教える相手を言っていく。
「ここまでが比較的良い子でポジションが暫定で同じ」
「比較的良い子」
「これからが癖が強いから似たもの同士だったり相性良さそうなので組み合わせました。面倒見てあげてください」
「苗字サーン!だれが癖が強いってー!?俺ほどの優等生はいないだろ!」
「君十分癖強いから、DF星野。優等生っていうのはアキくんタイプを言うんだよ。優等生の意味調べてからでなおしてきて」
「その秋道も癖強い組じゃん」
「アキくんはちょっと優等生すぎるからぱっと見優等生じゃない人に頼みたいだけなんだな。ってことで堺さん頼みます。あとリトル持田は達海監督、リトル花森は杉江さん、DF星野は黒田さん、以上!」
そう言ってはいはいミニゲーム目指して教えるー、といえばもう一回返事が来た。
「プロ陣は怪我しないように気をつけてねー!重要だかんねー!」


広報さんがパシャパシャと写真撮ってる。まぁ、リトル持田を達海さんがうまく扱ってくれたりするのでよろしい。黒田DF星野コンビとかW夏木がうるさいけど。
「やっぱり学生ぐらいは元気だなぁ」
「後藤gmそんなこと言ってると老けますよ」
「手厳しい」
そんな会話をしつつ私はベンチから様子を眺める。コーチ陣も勢揃いなんだよなぁ。まぁなんかあったときに止める要因だろう。新しい会長の笠野さんが私を見下ろした。
「女王様はなに考えてんだ?」
「サッカーのことしか考えてないですよ。ただこの層を活性化させて上にプレッシャー与えつつ下の層の目標にさせるつもりです。五年あればだいぶ環境変わりますし、彼らも変わりますから」
「この層でトップをとる?」
「最悪ね。どれくらい下のプレッシャーを押し除けて上が君臨してくれるかわかんないですし。まぁ自己満足の押し付けですよ」
ヘラリと笑って笠野さんをみる。自己満足?と周りがこちらをみた。
「今度は自分の知識とか考え方を周りに多少教えておこうと思って。いつ私がいなくなるかわかんないから。五年の中でいなくなる可能性もあるし、いたとしてもそれ以上はサッカーじゃなくて他人に人生あげる約束しちゃったんですよねぇ」
「……そんなに悪いのか」
「まさか。ただ、神様に選ばれちゃったら5年後には私はこの世にはいないってだけです。私はボーナスステージ60年は歩むつもりですけど」
ケラケラ笑いながらまた彼らをみた。
「今度は一番っていう肩書を誰かに譲らないとボーナスステージ普通の人間には慣れないですからね。あ、今のオフレコオフレコ!秘密!」
そう説明すれば彼らは頷いたのだが。
「話に聞くよりもサッカーバカだな」
「まぁ、幼馴染みが拗らせた気はするけどね」

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ハイテンションのなかETUにとってはボランティア、こちらとしてはメンタル強化にあてた1日になったのだが。
「明日君たちはオールスターゲームみてそのあとはお休みね。好きに外出していいよ」
そう言えばフー!と声を上げる周りよな。うるせぇ。苗字サンさすがー!とか解説お願いしまーす!とかじゃないんだよなぁ。
「残念ながら私や錦さん達は行けません。観戦の後は保護者も戻ってきてもらう予定だから、君たちで観光するなりなんなり好きに過ごしたらいいよ。では今日は解散!明日は広報サンのいうこと聞くように!」
引率の先生の気分だわこれ。元気な返事をした彼らにやれやれと息を吐いて今回コーチ陣をしている周りと打ち合わせにはいる。まぁ、といってもコーチ陣してる彼らは明日東京V勢とごちゃ混ぜミニゲームするんですけどね。彼らも日程的にやらせるつもりではあるけども。

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「保護者の皆様お集まりいただきありがとうございます。また、今回のご協力誠にありがとうございます」
そう言って保護者一同をみる。いやぁ、午前中の東京Vとごちゃ混ぜミニゲーム、めちゃくちゃ私が蓮に削られたわ。疲れた。大人組にもいい刺激になったみたいでよかったが。しかしながら、学生は明日から本番になるわけでして。その前に保護者に説明した方がいいことが山ほどありまして。
「今から言うことはお子さんには私達がいうまで秘密にしておいていただきたいことですのでそれを頭に入れておいてください」
そう念押しておいて口を開く。
「今キャンプは学生の思い出づくりではなく、冬季に予定している国際戦のチームづくりの為のキャンプです。12月26日に対フランス、12月28日に対ドイツを東京で予定しています。そう、このキャンプは正しくは、アンプティサッカーアンダー20世代日本代表選抜キャンプです」
ざわっとするよね。そりゃあ。普通に学生の合宿みたいな話で通してましたもんね。
「自己紹介遅れましたが、協会よりアンダー世代監督を任されました苗字ナマエです。よろしくお願いします。隣に並ぶのは現アンプティサッカー日本代表、なおかつコーチをお願いしたりオーバーエイジ枠を頼むだろう人達です」
まぁそういえば彼らは頭を下げる。
「さて、明日からのキャンプ及び冬季以降のチームなどにあたり保護者の方にいくつか前もって説明させて頂きたいことがあります。まず第一に、明日以降は昨日や一昨日のようにお遊びの練習にはなり得ません。本気のスタメン争いをしてもらいますし、練習も数段階一気に上げます。メンタル面、技術面のフォローは私やコーチ陣も入れていくつもりですが、保護者の方も心配するでしょう。そこで、皆さんに一つメンタル面をはかる言葉を授けます」
彼らが身構える。しまった。そんな難しい講義ではない。
「身構えるほど難しい言葉じゃないです。サッカーは楽しい?それだけです」
そう、たったそれだけだ。
「この質問は私が女子リーグにいた際、男子女子合わせて相談を受けた時に必ず聞いた質問です。その反応で対処が違います。『楽しい』と即答なら今に満足している。『楽しい』のあとに『でも』『だけど』という返答がつく、もしくは『楽しかったけども今は何何だから楽しくない』とつくならそこは改善ポイントがあるものの満足している。場合によっては照れて普通という子もいるでしょう。問題は『楽しくないからもうやりたくない』と答えた場合です。そういう場合はそのまま連れて帰ってください。無理にやらせてもダメなだけです」

「また、可能性としては世界を相手に戦いたい子とそうではない子の差が一気に開きます。そうではない子を私は否定しません。何故ならサッカーのプレイヤーでもプロをする人と趣味でする人に分かれるからです。彼らの未来には選択肢がいくつもあります。その中に彼らがアンプティサッカーの日本代表という候補を入れて欲しい。なので私はわざと明日から全員を同じスタートラインに立たせます。そこから走り抜けようが歩こうが道を逸れようが、各人の判断です。まぁ、簡単に言うとですね……」

「私も資金面の援助を惜しまないので、とりあえず好きにやらせてあげてほしいし、私を信じて選手たちを預けてほしいし、子供を信じて応援してあげてほしい」
言いたいことは言ったぞー。以上、と告げて頭を下げる。遅れてパチパチと拍手した周りにそっと息を吐いた。

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蓮の膝の上に上半身をのせてぐだぁとする。なに、重いんだけどと言った彼は私を見下ろした。眉間にシワがないのを見ると別に怒っているわけではない。顔がいいんだよなぁ、と思いながら彼の顔に手を伸ばす。何?ともう一度聞いた蓮に何でもないよと言いながら髪に触れた。
「昔っから思ってたけど、蓮ってちょっと癖毛だよね。そこは蓮のお母さんに似たのか」
「……そうなんじゃない?」
「目は蓮のお父さん似だもんね。性格二人に似てないけど」
そう言いつつ顔に触れる。鼻は多分彼の母親側の血筋だろうか。ぺたぺたと触っていれば流石に怒られるかと思ったがそうでもなかった。もう一度何?そろそろウザいんだけどと聞いた彼に「いやーさー」と口を開く。
「蓮は子供欲しくないのかな?って」
「別に」
「持田蓮の遺伝子残した方が良くない?日本サッカー界のために」
「珍しいね。誘ってんの?」
「いや、真面目な話。私、そういうことできてもさ、子供できないし産めないじゃん?」
今日、あのあと、保護者と話してたんだけどね。
多分私は情けない顔をしている。だから私はその顔を隠すように腕をもってくる。
「家族っていいなー、って柄にもなく思って。もし、蓮が子供欲しいならさぁー、今のうちに誰か見つけたらいいんじゃない?」
ははは、と笑う。誰かと添い遂げることもないだろうと思っていた。何より生きてサッカーがしたかった。生きるか死ぬか、その二択だったのだ。生きてこんなことを思うとは思いもしなかった。むぐ、と鼻を摘まれる。なんだ、と思えば口を手で塞がれる。く、苦しい。慌てて手を退けて蓮を見上げる。怒ってらっしゃる。苦しいいつバタバタすれば手を外されたけど。慌てて起き上がり蓮を睨む。
「おのれ、殺す気か……!」
「別に、子供なんていなくていいんじゃねぇの。面倒くさいだけだろ。ま、誰かさんが?ほしいっていうなら?貰ってきてもいいけど?」
「うわ、人攫い発言しやがったこいつ」
そうぼやけば、「というか」と蓮は私をみた。
「あのデカイガキ達を代表に育て上げてから言ったら?」
それもそうか、と納得してしまう私は完璧に馬鹿だ。息を吐いて蓮の肩に撃沈する。どこから拐うつもり?ハナんとこ。そんな会話をしながら、遠慮がちに蓮の手に手を重ねた。
「なに、やっぱお前誘ってんの?」
「別に誘ってはない。やめい、顔近づけるのやめい。手を掴むのやめい」
顔を逸らしながらそうつげる。まぁ、そんなこと関係なしに蓮は首筋に噛み付いてくるのだが。雰囲気を壊すために「やめい!」と騒いでみるが意味がないらしい。ついには押し倒された。ここで見上げれば煽ると理解しているので意地でも見上げないでおこうと思ったが、なにもしてこない蓮をチラリと横目でみる。耳元に口を寄せられる。
「お前さー、ほんっと俺煽るの上手いな」
「っ、げ、元気が有り余ってらっしゃいますね、持田蓮」
「そうかもな。リーグ中断期間で試合ないし」
「その元気、私にぶつけるんじゃなくて、サッカーにぶつけませんか?」
徐々に逃げ道を失くされている気がする。逃げれない体制に移行しているのは気のせいじゃない。目もガチだ。うぅ、と目を伏せて、もうどうにでもなれ、と握られている手に力を込める。それは蓮を煽ると知ってはいるのだけれど。

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寝坊するかと思った。久々に練習場までちょっと車飛ばしたわ。はぁ、と息を吐く。首元まであるタートルネックアンダーきてるから熱い。だからよせとごねたのに。まだ学生集団は来てない。まぁ昨日夜まで遊んでたようなので仕方ないかもしれないが。そう思っていたのだが。先に数人きているようだ。リトル持田、リトル花森、そういうとこだぞ。まぁそこにDF星野とゴールキーパー徳永くんはわかるのだが、意外に優等生秋道くんと大人しい加佐くんがいるのだ。ほほぉ、とおもいながら金網の外から彼らを見る。
「監督、今日はすこし遅かったな」
「やほー、錦コーチ。いやー、寝坊した。遅刻するかと思った」
「遅刻?まだ余裕あるぞ」
「え?」
そう言われてスマホの時間をみる。なるほど、練習の1時間前。いやでも家の時計……。
「やられた……幼稚な悪戯に引っかかった……車ちょっと飛ばして来たのに……」
いや待てこれ上手いこと蓮のアシされた気がするな。アイツ今日ここに来て撮影かなんかの打ち合わせがあるって言ってた気がすんな。
「はかられた。やられた。アシにされた……まぁいつものことか……というか、珍しいね、先に練習してんの?」
「田川さん曰く昨日のフリーの時間も練習したいって煩かったらしいぞ。仕方ないから適当にそこらへんのグラウンド借りて今日は頭下げにきたんだが、苗字が普段ならもういるからいいって言われてたから」
「まぁね〜。でも意外だなぁ、秋道くんと加佐くんが加わるのは。特に加佐くんはこういうの身を引くと思った」
「まぁ、同年代とサッカーできるのが楽しいんだろ。あと秋道にしろ加佐にしろ、ETUの選手と話した影響ってのはあると思うぞ。あの二人は俺たちが出るのを見かけて一緒に行くって言ってきたからな」
「それは、喜ばしい」
そう言いながら彼らの練習をみる。元から貪欲なリトル持田は蓮に追いつきたいんだろうし、リトル花森もハナちゃんと話して考え方がちょっと変わった。秋道くんは優等生であるがために諦めがちであるところを変えたくて堺さんと色々話してもらったが、効果があったらしい。加佐くんと椿くんは完璧にアレだ。大人しい同士だから合わせやすいだろうと思ったんだけど、色々思うことがあったのかもしれない。
「後は周りがどれくらい食らい付いてこれるかだなぁ」
「何が」
「うわっ」
上から降って来た声に錦さんと肩を跳ね上げて見上げる。そこにいた蓮は「暑苦しい格好してんね、お前」と私をみる。誰のせいだと思ってんだ。口にしないがジト目でみる。まぁ、蓮は錦さんをみたが。
「昨日ぶりじゃん、錦」
「昨日ぶりです」
「錦さん年上だぞ、敬え」
「同じ世代だろ」
「そういや君はシロさんにもタメだったわ」
「お前もな」
そう軽口を言ってから蓮はこっちに気付いてない練習組を見る。
「アイツらは本当にサッカー好きだねぇ。キラキラしちゃって」
「発言が思いっきりジジイ」
「ババア呼ばわりされてるお前に言われたくないね」
そう言った蓮は練習用のスパイクを持っている。
「なに、私と錦さんの子育て手伝ってくれんの?」
「子育て……」
「感謝しろよ。三十分だけ俺のアップがわりに付き合ってやるんだから」
ひらりと手を振って金網の内側に彼に私と錦さんはついていく。私達が来たことに気づいたリトル花森がボールをとめた。まぁDF星野にボール奪われてたけど。リトル持田が動きを止める。お前ほんっと蓮が好きだねぇ。
「撮影までの三十分だけ、俺たちが相手してやるよ」



まぁ、私と蓮と錦さんなんだからそりゃあ勝てる。楽々。「持田ー、そろそろ移動するぞー」という広報さんからの声に、はい、時間切れ、と蓮はもう一発シュートを決めた。私なその様子に「いじめっ子だー」と指差してケタケタ笑う。
「じゃあ、ナマエ帰りも送りよろしく」
「はぁ?」
「往復アシ代以上働いたでしょコレ」
「くっそー、君の年俸考えたら言い返せないのが辛い。あのなー、私はなー、忙しいんだぞー」
そうげしげしと腕を殴る。まぁ頭を掴まれたが。痛い。じゃあせいぜい頑張って、とそのまま練習場を後にした彼に「撮影ファイトー」と手を振っておいた。錦さんが汗を拭いながら口を開いた。
「やっぱり持田さんはレベルが高いな。順応が早い」
「まぁ、あれくらいなら私が練習付き合ってもらったり向こうの調整のために私が対応したりしてたからわかるんじゃない?あれくらい普通普通。流石に手抜いて遊んでたしね」
私の発言に学生が固まった。あれマジだと思ってたの?と首を傾げれば寝転んでいたリトル持田が「クッソ」と声を上げた。
「あの人なんなんだよ……」
「君たちをおちょくりたいのが半分」
「半分」
「私にちょっとだけ協力してあげたい気分だったのが4分の一。言わないだけで君たちに期待してんのが残り」
そう言いながら水分をとる。期待?と首を傾げたDF星野に私は「そうだよ」と頷く。
「私も錦さんも秋森さんも会長も君たちに期待してるんだよ」
覚えときなよ、と言って笑う。練習場に学生が入って来たのが見えた。

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「さて、昨日はみんなどう過ごした?オールスターせん見に行って観光に繰り出したやつ、ホテルに戻ったやつ、サッカーしたやつ色々いると思うんだけど」
整列している全員にそう声をかける。まぁみんな満足そうなのでそれなりに夏の思い出はできたんだろう。ならば、よし。
「じゃあ、第一回アンプティサッカー、未成年のためのサッカー尽くしキャンプ、別名一夏の思い出づくりキャンプは昨日で終了でーす。みんな思い出づくりお疲れー」
そうパチパチ手を叩けば彼らは固まったが。いやー、からかいがいがあるな。私はバインダー片手に彼らをみた。
「なに、あんな生温いので私が満足するとでも?あれは君たちのデータを先にもらってた情報とすり合わせる期間だから。昨日、正式には初日とその次までの練習で君たちのある程度のデータは揃いました」
後の微調整は今日から私がかけていくしかない。なんだなんだとザワザワしている彼らに私は飛び切り明るい声で口を開く。
「改めまして、諸君。アンプティサッカーU20日本代表キャンプにようこそ。協会に監督を任された苗字ナマエです。改めてよろしくね」
にっこりと笑いながら言えば多くがぽかんとした。嬉しそうな顔をしているのもちらほらいるが、殆どが唖然としている。うむ、いい反応だ。錦さんを見れば呆れた顔をされたが気にしない。
「本日からは練習を一気に数段階引き上げます。難しいことが出てくるかもしれないけど、まぁそれは相談してくれたら相談には乗るよ」
スッと上がった手に私は「はい」とバインダーで手をあげた人物をさす。
「日本代表ということは、なにか大会があるんですか?」
「いいこと聴いてくれた秋道くん。12月26日にフランス、28日にドイツとの親善試合を予定してます。冬季は冬季でまた招集をかけますが、まぁスタメン争いキャンプです。今キャンプでは現役アンプティサッカー日本代表との練習試合等も予定してます。めちゃくちゃワクワクするでしょ?」
ふふ、と笑いながら彼らをみる。
「まぁ日の丸背負って一回でも試合に出たい奴は死ぬほど私やコーチにアピールしてね!って話です。そこまでやりたくないって子は私に言って。別メニューか別のお手伝い頼むし」
そこまで言って、コレじゃあ気が弱い子は降りるか、と考える。言葉を変える必要がある。
「でも、自分が下手だからとか、周りに迷惑かけるからとかいう理由なら私は認めない。サッカーは楽しんだひとなおかつ最後まで諦めない人が最後にはかつ。下手だと思うなら人一倍努力しなさい。ちゃんとその頑張りを私は見てるから。それが嫌なら自分が出来ることをこのチームで一番になるまで磨きなさい。ちゃんと試合で使うから。それさえもわからないなら頑張って練習こなして私をただ信じなさい。君たちの長所見つけてあげるから」
真面目にそう告げてから、さて、今日はミニゲーム形式行ってみようー、と口に開いた。
「今日はレベルが均等になるように分けてるし、いろんな形試していくから。Aチーム、リトル持田、秋道くん、関西っち、佐倉くん、高橋くん、矢野ちゃん、更田くん。Bチーム、リトル花森、DF星野、加佐くん、安藤くん、原ちゃん、ミゲル。Bチームは悪いけどビブスつけて。AチームはDF星野キャプテン代理、Bチームは秋道くんキャプテン代理で。二人はこの後すぐ私のとこに来るように。Aチームは五分後に私と錦さんのところに集合。Bチームは15分後に私と秋森さんのところに集合。それまでは各自キャプテン代理の元自主練。キャプテン呼んでる間は休憩!」
では散れーと言えば周りは散っていく。秋森さんが私をみる。
「ナマエ、チーム変えたな?」
「あの五人やりやすそうだからワザとね。今日の練習みてたら噛み合ってきてたから余計。固定しても何かあった時やりにくいだけだし。お互い削りあって引っ張り上げてくれたらいいなっていう希望的観測」
そんな会話をしていればキャプテン代理がやってきた。
「やっぱりな!俺と秋道だと思った!」
「はい、調子にのるなー、まだ代理だよ、代理。まぁ、君たちにこのゲームでちょっとお願いしたいことがあって。……君たちのチームある意味対照的にしたんだけどわかる?」
「俺の方が大人しい奴が多い。秋道の方が監督のいう問題児が多い」
「ほぼほぼ正解。DF星野の方は自己主張がすくない。秋道くんの方が自己主張が多い。そうなると、自己主張が強い方が勝つ可能性が高い。どうしても勢いで負けるからね。ただ、自己主張が強ければいい話じゃない。自己主張が強い奴が集まりすぎるとみんな自分が上手いと思ってるから他人に譲れない。君たちをキャプテンにした理由はだからだ。DF星野は周りを押し上げてうまく使う、秋道くんは自己主張が強い奴らをうまく使う。でも気をつけなよ。DF星野の周りは比較的ネガティブだから非常に反感を立てやすい立ち位置にいるし、秋道くんは周りを立てすぎると飲まれて自分を出せずに終わるからね」
そこまで言って二人の肩を叩く。まぁ固まっちゃって。ケラケラ笑いながら二人をみた。
「ま!初日だしチームはまだ決まってないし!お昼からもミニゲームするから!とりあえず好きにやってみて!相談には乗るから!じゃあ秋道くんはAチーム呼んできて。DF星野はBチームと練習してて」
そう言えば返事をする二人である。

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「まぁ、答え合わせになっちゃうんだけど、二人にはゲームをつくる感覚を掴んでほしいんだよね」
そう言ってお昼休みに頭を抱えている彼らをみる。は?え?と首を傾げた二人に私は口を開く。
「ゲームメイクってしたこと……あー、うん、ないか。今まで大人とサッカーしてたらそっちがゲームメイクするか」
頭を抱える。彼らは目をパチパチと瞬いた。
「前にも行ったけど、私が思うに、君たち二人は私が可愛がってるリトル花森持田コンビよりはっきりいって上手いんだよ。テクニックもあればスタミナもあるし、何よりここにいる学生では一番慣れてる。でも、リトル持田の方が上手いって感じたことない?」
そう尋ねる。まぁDF星野は顔を曇らせるだけであるが、図星って顔に書いてある。その負けん気、よろしい。秋道くんは静かに頷いた。
「……あります」
「あれはアイツが両足あったときにどういうものであれチームの司令塔してた賜物なんだよね。あの子には試合を作り上げる力がある。どのタイミングで攻撃に移るか、どう周りの選手を使って試合を運ぶか。その判断ができる。基礎ができてる君たちもその判断ができるはず」
これでもわかりにくいかー、とあたまをかく。
「まぁ、プロでもそういう基点になる選手が絶対にいる。JFリーグであれば……東京ヴィクトリーは持田だったり城西さんだったり三雲くんだったりするんだけど……まぁあそこは色々あるから。ガンナーズはわかりやすい。志村くんが攻撃の基点になってる。うちのチームでいくと私だったり、錦さん、DF星野のチームは飯田さん、秋道くんのチームは野田さんかな。時間があればその人物を追って試合見たらいいよ。勉強になるから」
そこまで言って、ま、今すぐにっていうのは無理があるから、と二人の背中を叩いた。
「そもそも今は戦術もなんもないわけだしね。君たちの仲間の得意なことを教えてあげよう。君たちのピッチ上での判断の手助けにはなるだろうし」
小さなホワイトボードにペンで書き込む。テコ入れは監督の仕事だ。誰がどうでだとかそういうことを簡素に伝える。なんやかんや二人とも真面目だから話を聞いてくれるのだ。
「あと、これ、覚えといてほしいんだけど。好きなポジション、やりたいポジションと得意になるポジションって必ずしもイコールになるとは限んないからね」
「え?」
「私昔はfwしたりしたけどにmfで落ち着いたし。まぁ自分がそのポジションしかないって思い込まない方がいいよ。色々経験積んで見て」

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「ひゅーー!!!城西さん流石です!!誰よりも気が効く!」
そう騒ぎ立てる。ははは、と笑った城西さんは人数分のスポドリを持ってきてくれた。嬉しい。バシバシと城西さんを叩けば彼はなれてるのか笑うだけだ。
「……あれ、まさか今日は蓮と撮影でした?」
「あぁ、まぁな。広報誌の撮影とインタビューだ。持田はそのあとタイアップの撮影がある」
「あいつすぐに炎上されんのに大丈夫なの?タイアップ。……花ちゃんのスポーツ選手らしからぬタイアップよりましか」
「……スポーツメーカーのタイアップだ。まぁ、どちらかというとモデルだな」
「まぁ蓮は顔が良いもんね。岩淵くんも越後さんも他ブランドに取られてるし」
「苗字は今年はないのか?」
「やりたいとは言われてるけど、一部の反感買うかもしれないからって言われた。まぁ、見せんなって人はある程度いるのは事実だしね」
そう言いながらスポドリを一本拝借する。城西さんは私を見下ろした。
「体調はどうだ?」
「元気。なに、体調悪いようにもしかして見える?」
首を傾げる。内心若干冷や汗である。夏に入ってから若干体調がよろしくない。いや、誤差の範囲だとは思うのだけれども。秋森さんと錦さんの視線がこちらに向いた。
「……いいや、だが、生き急いでいるようには見える」
「まぁ生き急いではいるよ。私の人生下手したら五年以内に終わるわけだし。サッカーに費やせる時間は長くないからね、この子たちのサッカーにも、私のサッカーにも」
「縁起が悪いことはいうもんじゃないぞ、ナマエ」
「それが私の事実だから仕方ない。でも死ぬ前にもう一回面白い姿が見たいから私は全力をだす。これは神様以外誰にも止められないね!」
「……持田やハナにもか?」
そう尋ねた城西さんに私は目を伏せて笑う。
「あの二人は私をよく知ってるから、余計に止めることはないよ……よし、皆の衆休憩ー。城西さんがスポドリを入れてくれたからお礼言いなよー」
その一言に騒然となるのだが。


ーーお前の残り人生俺にくれって言ったらお前はくれるわけ?
そう尋ねた蓮に、ボーナスステージならあげるよと言ったのは入院中のことだったろうか。どうであれ、アンプティサッカーとの出会いは私にまだサッカーをするべきだという神様からのメッセージだと思っている。だからきっと残りの五年はサッカーのために私は生きる。その最中に、もしくはその後に神様が私を連れて行っても悔いが残らないように。酷い自分勝手な言葉だな、とは私も思う。でも下手をすれば五年もせずに終わる命を、まだまだ長い時間を生きる彼にあげたくはないのだ。残していく側よりも、残される側の方がきっと辛いのだから。
「それなら譲ればいい話なのにねぇ」
そう息を吐いて情報をかいたボードを見つめる。今日の練習も無事に終わった。お昼からは綺麗に纏まり出したわけだし。明日もう一度シャッフルするが、やっぱり二人にはキャプテンを任せていく方向にしたい。苗字?と背後から声をかけた錦さんに、錦さんと秋森さんはどう思う?と彼に問いかけた。
「二人ともよくまとめている。昼以降はうまく対応できてたしな。あの二人のどちらかでいいとは思う」
「片方副キャプにしようと思うんだよね〜……何?」
「いや、てっきりリトル二人を押してくると思ってたから」
「リトルは始めた時期が始めた時期だしチームメイトを気にかけるより自分のプレーに集中させた方がいいから」
補足としてリトルはキャプテンという感じではないからという理由もある。リトル花森、人見知りなのか私にはデレるけど他にはツンツンしてたりするし。リトル持田はなんというか蓮だし。二人とも面倒見があまりよくない。秋森さんが首を傾げた。
「今考える苗字の代表はどんな感じだ?」
「うーん、悩んでるんだよなぁ。色々試してしっくりするところに落ち着かせたい。錦さんたちに非公開練習に二日当てるとして、そんな日がないからヤバい」
「本格的だなぁ」
「本格的だよ、代表キャンプだからね」
ふははは、と笑いながら代表二人を見る。
「そろそろ蓮を迎えにいかねば」
「マジで仲良いんやなぁ」
「まぁ小学生くらいからの付き合いだし。もう腐れ縁も通り越したわ。持田蓮のアシで日銭を稼いでるからね」
そうひらひらと手を振っておいた。

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