2021/06/21

あの青を纏え 1

・リトル持田目線をかきたかった

例えばである。これがクラスの連中が追いかけてるアニメや漫画、ラノベであるなら俺は異世界に飛ばされるんだろう。トラックや車の追突から始まるハナシなんてこの世には腐ったほどある。そしてそれは異世界に飛ばされるという変なオプション付きだ。最強だかなんだか知らないが、そんなふうにひかれた奴らの人生がまるっと変わるのだ。
迫りくる車から人間が逃げることができるか。そんなもの答えはノーに決まっている。瞬く間に俺と距離を詰めた車、悲鳴。おい、運転手、クラクション鳴らす暇が有ればハンドルきれよ。そんな馬鹿なことを考えていたら俺の世界は暗転したのである。
異世界転生。特殊能力の会得。しかし、それはあくまでフィクションの話だ。現実ではそんなものはありえっこない。車に追突されるというお決まりの展開で幕を開けるのにもかかわらずーー俺は異世界に飛ばされることも何か特殊な力に目覚めることもない。ただ、俺の物語は片足を奪われるという最悪の展開から幕が上がるのである。


この世界は全てが揃った人間だけが立つことが許された舞台が圧倒的に多い。例えば役者、例えばスポーツ。その脚光を浴びる舞台の多くは欠損などない人間の為にあしらわれた舞台なのだ。そして、俺が好きだったものもその一つに含まれる。部活もやっていた。強豪校に入り、そこでスタメンにもなって見せた。アンダーの代表にだって選ばれていた。このままいけばきっとプロにもなれたはずなのだ。それを、あのクソみたいな運転手は奪った。全てだ。俺の全部をあの一瞬が奪った。積み上げていたものも、未来も、居場所も。片足ではサッカーなんてできやしない。強豪校にいても意味はなく、勝ち取ったものは全て揃った人間に分け与えられる。誰かは同情し、誰かは腫れ物のように俺を扱う。
「どうせなら殺してくれりゃ良かった」
そうぼやく。父親が怒り、母親は泣く。しるかよ。外野が騒ぎたてんじゃねぇよ。お前らが怒っていいわけがないのだ。お前らが泣いていいわけではないのだ。それが許されるのは、当事者である俺だけなのだ。母親を連れて父親は帰っていく。もう来なくていいよ、とその背中に投げかける。聞こえていないのか聞こえていないフリをしたのか。二人は病室を出ていくのが見える。隣の奴がこちらに視線をよこしたが、睨めばすぐに視線を避けた。
「ほんと、奪うなら全部持ってってくれたら良かったのに。お前はそうおもわねぇの?」
気まぐれだ。そう尋ねれば隣のやつはまたこちらをみた。
「死ぬのはどうかと思う……」
「そうかよ」
期待した返答はない。同じように誰かに片足を奪われたアイツは誰を恨みもしていないのだろう。
「はーあ、全部奪ってくれりゃあ良かったのに」
そう言って目を伏せる。全部夢だったらいいのに。自分で呟いておきながら、自分に腹が立つ。もう揃っていた昔の自分は戻ってこないというのに。

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時々病棟の廊下が騒がしい時がある。それは苗字さん!と看護師が誰かを呼ぶ声だったり、子供がはしゃぐ声だったりする。カタンカタンと高速でなる松葉杖の音が近づいてきたと思えば隣にいた人物はソワソワと開けっぱなしな扉を見た。俺もそちらを見る。
「リトル花森!部屋移ってたの知らなかったんだけど!教えてよ!」
そう顔を覗かせた女は、同じく片足を失っていた。その顔を見たことがある。どこでと言われればテレビだ。しかしながら、俳優とかモデルだとかそういうものではない。見るとすればニュース、もしくはスポーツ番組、取り分けサッカーの番組である。そう、彼女はーーサッカー界の女王サマである。
「は?」
「あれ、新入りくんじゃん、チース。顔死んでるねー」
そうケラケラと笑って見せた彼女は間違いなくサッカー界の女王と呼ばれた人物だ。今となっては元という言葉がつくのであるが。日本の女子サッカーを一際有名にした人物、そして、前季の最後、あの男女入り混じった代表戦を最後に引退して行方不明になった人物である。そっくりさんだろうか、と思えば、隣のやつが「苗字選手」と言って彼女を呼んだ。
「松葉杖徒競走しようぜ!」
「やる……」
「隣の子もやらない?私に買ったらアイス奢ってやんよ」
「は?」
何故そんな人物がいるのだ。というか何故そんな人物に片足がないのだ。そう彼女の足を見つめる。彼女はそれに気付いて、ははん、と言いながらニヤリと笑った。
「君サッカーに詳しいタチだな?サインしてあげよっか?」
「は?なんでアンタ片足ないの?」
「なんでって、ビョーキでちょっとね。まぁ生きてるから万事オッケー」
ケラケラと笑った彼女に「そんな問題じゃねぇだろ」と突っ込む。彼女は「そんな問題だよ」と軽々しく告げた。リハビリを担当している職員が顔を出して、苗字さん、と彼女を呼んだ。
「第何回目か忘れましたけど、また松葉杖徒競走するつもりでしょ」
「はははは、私がそんなことすると思う?まぁやるんだけどね!江古田さんも職員枠で参戦する?」
「馬鹿なこと言わないでください。やります。場所抑えました」
「やるな江古田さん。どこ抑えた?」
「中庭ッス」
「了解ー、先に行ってるね。リトル花森とキミもおいでよ。病室にいても暇なだけでしょ?運動しようぜ、運動」
ケラケラと笑いながら彼女はまた松葉杖で移動していく。隣のやつも松葉杖を持った。江古田と呼ばれた職員が、キミもおいでよ、と告げる。
「きっといい気分転換になるよ」

気が向いたので行ってみればそこには色んな年代の人物がいた。大人であれ子供であれ、皆松葉杖を持っている。足にギブスを巻いた人が大半で俺のように片足がない人物は少ない。太ってるやつもいれば細いやつもいる。間隔をあけて一列に並んだそいつらは、よーいドンという声に一斉に松葉杖で駆け出すのだ。もちろんお遊びである。数回に分けて行われる中、サッカー界の女王はその全てに参加をしているようだった。子供相手には手を抜いて負け、大人相手には容赦なく飛ばす。そうして悔しがったり喜んだりする面々を差し置いて、隣のやつとはサシでするらしい。簡易に引かれた白線に並んだが、そのあと彼女は俺を見た。
「君もおいでよ。見てるだけじゃつまんないでしょ」
そう言った彼女に「こんな馬鹿げたこと、誰がやるか」と返す。
「こんなことになんの意味があんの?一等賞よかったねー、ってだけだろ。はっきり言って無意味」
彼女はフハッと笑って俺を見た。
「負けるのわかってるからそうやって逃げるんだ」
嘲笑うような、挑発的な表情と共に言われた言葉にカチンとくる。
「ざけんなよ、ババア」
「若いのに勇気もなんもないんだね、残念ー」
「アンタに俺の何がわかんだ!」
「わかるわけないでしょ、他人なんだし。一生、人生の負け犬としてそこで吠えときなよ」
鼻で笑ったババアに松葉杖を掴む。馬鹿にすんなよ、と怒り任せに呟けば彼女は前を向いた。白線に並ぶ。よーい、という声に神経を研ぎ澄ます。どん、という言葉と共に前に出る。うまくいかない。両足があれば簡単に勝てたというのに、だ。彼女は隣をすり抜けると難なく俺の先に立ち、颯爽とゴールにたどり着く。俺も隣のやつも遅れてゴールにつく。
「いえーい私がやっぱり一番」
「くっそ……おいババアもう一回だ」
「えぇー。やだー。ババア体力ないもーん」
ケラケラと笑った彼女に「はぁ?」とかえす。
「やべ、苗字選手ー、師長がきましたー!」
「やば!皆の衆、かいさーん!」
その言葉に周りが笑いながら病院に戻っていく。彼女はそれを見送って不機嫌まるだしの俺を見た。
「おうおう、いい顔するじゃん、戸田悠馬」
「ーーなんで、俺の名前」
俺の言葉に答えることなく彼女はただニコリと笑って看護師に連れて行かれる。あの江古田と呼ばれた看護師が苦笑いして俺を見ていた。

==

苗字ナマエのいる病室はこの病院で一番とはいかずともそこそこ高い個室であるらしい。どうやら、一部の選手や監督と言った人物が出入りすることが多い、とは看護師の言葉である。
「あと、病棟にはあんまり顔を出さないけどリハビリの方には持田選手っぽい人とか来るって……ほら、今日も多分アレどっかの選手でしょ」
そう指差した先には確かに誰かと一緒に車椅子のババアがいるのが見える。恐らくは東京ヴィクトリーの、しかも代表に選ばれている城西だろう。こちらに気づいたババアが「リトル持田じゃん」と声をかけたが無視をする。
「呼ばれてるぞー、戸田くん」
「俺の名前はあんな名前じゃない」
「いいの?プロ選手と会えるよ?」
「興味ない」
サッカーができない今にあっても何があるというんだ。それが昔なら、失うようなものではなく治るものであれば俺は会いに行ったのだろう。会ってもどうせ惨めな思いをするだけなのだ。向こうも仮初の慰めの言葉しか吐かない。
「リトル持田ひどくない?」
ひょこり、と横に現れたババアに肩を跳ねさせる。いつのまに!と叫べば、城西さんが運んでくれた、と後ろを指差す。背の高い彼は「こんにちは」といかにもお手本のような笑顔を見せた。その顔を無視して俺は顔を背ける。
「ね?蓮っぽいでしょ?このツンしかない感じ」
「ノーコメント。持田より可愛げがあるように見えるが……君もやるのか?」
そう尋ねたババアは「まだ何も話してないんだよなぁ」と頭の後ろに手を回した。
「なんだ、いかにもって感じだったから声をかけたのかと」
「当たり前じゃん、この子はアンダーの代表選手に選ばれてるような子だかんね」
ババアはそう言って俺を指差す。城西は目を瞬いて彼女を見下ろした。
「苗字の食指は長いな。オリンピック以下のアンダーまで見てるのか」
「食指いうな。たまに見るだけだよ。城西さんも見てみたら?気分転換になるし。この子の場合、昔の蓮みたいな感じだし」
「そうか、将来に期待だな」
そう告げた彼にピシリと固まる。なんだそれは。俺にサッカーできる将来があると思っているのか、コイツは。そう思って彼を睨む。
「アンタ、俺みたいなのに期待して何になんの?」
生意気なことを口走ったと思う。でも、だって、そうだ。俺にはもうないのだ。駆けるために必要な、ボールを蹴るのに必要な片足が。揃っている奴らはすぐこうだ。俺から奪われたものが戻ることはないのだ。
「俺みたいなサッカーできないやつに何期待してんの?」
馬鹿じゃねえの。
そう嘲笑う。何も知らないから吐ける言葉だ。目を見開いた彼をただただ睨む。
「サッカーできるよ」
横から聞こえてきた声に俺はそちらを見る。ババアが俺を見た。
「城西さんに行き場のない怒りぶつけてるとこ悪いけど、片足なくてもサッカーはできるよ」
「はぁ?」
「リトル持田、もうちょっとそっとしとこうと思って切出さなかったんだけどさ。サッカーがしたいみたいでよかった」
ババアはそう言って俺をバシバシと叩く。城西さんに喧嘩するその性格イイネ!とケラケラ笑ったババアはただこちらを真面目な顔で見上げた。
「リトル持田、一緒にサッカーしない?世界の頂点目指そうぜ」
何言ってんだコイツ。どうサッカーをするというんだ。そう彼女を睨む。
「やっぱりさぁ、マイナーなのがよくないよね。こりゃあ、もっとこう、有名にしないと」
「まぁそこは苗字の腕の見せ所じゃないか」
「まぁね、ワクワクするよ。……いいか、戸田少年、今の時代片足がなくたってサッカーはできるし片腕がなくたってキーパーはできるんだよ」
彼女はそう言って俺を見上げる。真っ直ぐな目というのはこういうことなのだろう。
「だから一緒にサッカーしよう。お互い一からの振り出しに戻るけど」
そう差し伸べられた手を俺はただ見つめるだけなのだが。

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「リトル持田ー、サッカーしようぜー」
「ウザイ」
「くっそ……ツンしかねぇな。リトル花森くんからも一言お誘いをどうぞ」
「えっ……こいつもやるの……?」
そう伺うようにこちらを見た隣のやつは若干迷惑そうな顔をした。はぁ?なんでそんな顔されなきゃいけないんだ。そう眉間にシワを寄せた。俺たちのことを気にすることなく、間の椅子に座ったババアは「サッカー、サッカー、サッカー」とガキみたいに声を上げる。そうして何かに気づいた。
「あ、そうか、私は超天才だし、リトル花森もなんやかんや才能あるからもうサッカーできるけど、凡才の君には無理かー、そっかー!ごめんね!」
「はぁ?」
「リトル花森サッカーしよう!中庭のグラウンド抑えたし、クラッチはリハ室からパチ……拝借しよう!今日、キャプテン通院日だから相手してくれるって言ってたし!」
「いく……」
勝ち誇ったような笑みを一瞬浮かべて隣のやつはベッドから降りる。
「リトル持田、無理させてごめんねー!」
「ざけんなよババア」
馬鹿にしたような顔をしているババアに俺はそのままベッドから降りた。


たどり着いた中庭に面したグラウンドにはサッカーボールが転がっている。そこにいるジャージを着た数人の中、髪を一つくくりにした男にババアは声をかけた。
「キャプテン、チーッス」
「おぉ、苗字さん、調子良さそうだな」
「私はいつも元気だよ。前がたまたま行けなかっただけ」
「そうか、ならよかった。前はリトル花森だけで寂しそうだったからな」
そう言って男はババアと隣にいる奴から俺に視線をむけた。
「そっちは?」
「彼はリトル持田。愛すべきサッカー馬鹿で才能もあるとは思うんだけど、片足でサッカーできねぇって悲劇のヒーローになってる最中。松葉杖徒競走はいい感じだったから慣れたらできるとは思う」
ババアはそう言ってリハビリ室からクラッチを持ってくる、と言ってリハビリ室の方へ隣のやつち松葉杖を使って器用にかけていく。それを見送った男はこちらを見た。
「俺は東京サンライズの錦だ。一応キャプテンをしてる」
「……聞いたことねぇチームッスね」
「まぁ、そうだろうな。俺たちのチームはできたところだし、まだまだマイナーだから」
そうカラカラと笑った男ーー錦さんは俺を見下ろした。サッカーにマイナーもクソもあるか、と思うが。
「俺たちとサッカーしてみるか?」
「できねぇよ。片足ないのに」
「そうか?俺たちも片足はないぞ」
そう言って錦さんは笑う。何を、と言って彼を見れば、彼はズボンの裾をめくった。そこには足があるように見える。が、それを叩けばその足は抜け落ちた。そこにあるはずの片足は俺と同じく存在しない。
「苗字さんから聞かなかったのか?今の時代、片足がなくてもサッカーはできる。まぁ、両足揃ったやつのサッカーとはちょっと違う点もあるけどな」
彼はそう言って近くに立てかけていた杖を手に取ると腕にはめ込むようにつける。そうして松葉杖のように、あるいはそれを失った片足のように体重をかけてボールを蹴り上げた。上手いこと真上に蹴り上がったボールをそのままスムーズにリフティングして見せた彼は最後にまたボール足元に下ろした。そうして杖をあげた。
「これはクラッチ。まぁ片足代わりみたいなもんだ。残った片足でボールを蹴りながら、このクラッチで移動する。腕と同じ扱いだから、これに触れたらハンド。ピッチは両足揃ったやつの2/3の7人制だ。細かくは違うところはいくつかある。が、これも歴としたサッカーだ」
錦さんはそう言って俺をみる。やってみるか?と尋ねた彼はに俺は眉間にシワをよせる。
「……やらない」
「そうか、気が向いたら声をかけてくれ。見てるだけでいいさ、最初はだいたいそんなものだしな」
「キャプテンー、クラッチ借りてきたー」
ババアがそう言ってあの杖をはめた状態でやってくる。ぴょんぴょんと松葉杖で移動するよりも早く到着すると俺をみる。
「リトル持田、やらないの?」
「今日は見学らしい」
「ふーん、まぁいいか。リトル花森ー、はやく練習しようぜー」
ケラケラと笑ったババアはそのまま他に混ざる。それを追うように隣のやつが輪に加わり、そして錦さんもそこに加わった。
ボールが転がっていく。サッカーボールは両足が揃ってようが揃っていまいが変わらないまま真っ直ぐに誰かの足元に飛んでいく。まるで片足がないことなど関係がないというふうに。妨害もされる。隣のやつの足元のボールが奪われるし、他の連中からババアがボールを取り返すと前にいる味方にドンピシャのパスを繰り出す。そうしてゴールネットに打ち込まれたシュートに、普通に見ていた他の患者も湧き上がる。
それは、間違いなくもう一生自分ができないと思っていたもので。転がってきたボールに、苗字ナマエはこちらにくる。
「もう一回聞くけど、お互い一からになるけどさ。一緒にこのサッカーやらない?」
一緒に世界を奪いにいこうよ。
そう言い切った苗字ナマエはこちらに手を差し伸べる。その手をつかむあたり、俺はやはり彼女のいうようにサッカー馬鹿なのだ。
「十番ゼッテー奪う」
「あっはっはっ!いいね、本気で持田蓮じゃん。でもごめんね、先に私が十番奪うから。せいぜいリトル花森と競い合って」
ケラケラと彼女は笑って俺を手招いた。


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悔しい。ババアに好き勝手にされるのも悔しい。隣のやつにあしらわれるのも悔しい。何が一番悔しいかといえば、自分の思い描いたプレーを自分ができないことが悔しい。くっそ、とぼやけば錦さんは「今日からはじめた初心者にしては上出来だけどな」と苦笑いをした。
「ババアも初日はこんなだったわけ?」
「ババア?」
「苗字ナマエ」
「……苗字さんはまだババアじゃないだろ。28歳だぞ」
そう複雑そうにした錦さんに、チームメイトのおっさんがケラケラ笑いながら口を開く。
「苗字は数分で感覚掴んで、そのあと数分で修正するとか言い出してたからな。化け物かとおもったもんだ。……まぁそのあとすぐスタミナ切れ起こしてへばったてたけど」
「あいつは?」
「アイツ?」
「リトル花森とか呼ばれてるやつ」
「……リトル花森は普通だったな。君と同じく苗字さんが連れてきた子だ。でも苗字さんが練習付き合ってもらってるって言ってたから恐らく結構練習してるんだろう」
「ふぅん」
ならば、俺はそれ以上になるだけだ。努力は人間を裏切るときはないとはいえないが、それでも努力をすれば力はつくのだ。その力を発揮できるか否か。そんなものは努力してから考えることなのだ。少なくとも俺は今までそうしてきて、努力には裏切られたことはない。
「どうだ?やるか?」
「日本代表ってあんの?」
「あるぞー。キャプテンは代表に選ばれてる」
「へぇ、じゃあ俺はそこに絶対いく」
そう言い切る。
「あの日、奪われたものを取り返してやる」
絶対にプロになれた。日本代表に選ばれ続ける自信もあった。それをあの車は、神様は奪ったのだ。だから、俺は取り返すだけなのである。
「日本代表のエースになってやる」
「……そりゃあいい覚悟だな。じゃあ今日から君はチームメイトだよろしくな」
そう爽やかに笑ってみせた錦さんに俺は「ッス」と返事をした。

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