2021/06/21

兼任司書if 1

・兼任司書if?
・兼任司書、12歳、図書館でアルバイトする

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「アルバイトですか」
「あぁ、特務司書の力は申し分ないんだが、まだ11歳でな。毎日は難しいそうで、しばらくは週に二、三回きてもらうことになった」
そう告げた館長に僕たちは顔を見合わせる。学校はいいのかと思えば、政府認定のホームスクールを利用して勉強している子供だそうだ。そのままどの文豪と誰が面倒を見るか、という話になり、数人候補に上がった後考慮の上、ならばと白羽の矢を立てられたのは佐藤先生だった。

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やってきた子供は青い目をした小柄な美少年である。海外の人かと思ったがそんなわけではなく、名乗った名前は日本名だった。やいのやいのと騒ぐことなく、真面目に仕事に取り組んだり、休み時間は読書したりしているらしい。見事に文豪や一般職員といった館内の話題を総なめにしている彼であるが、あまり文豪達はでくわせないらしい。まぁ、週の限られた期間しかきていないにしても、僕も滅多に会えない。だから余計に話題に上がるのだ。
「あぁー、苗字は見事に人見知りだ」
佐藤先生はそういって苦笑いした。
「人見知り?」
「ようやく最近俺にもなれてくれた気はするな」

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「啄木さん和歌読めます?」
ぴょこぴょこと啄木さんに寄ってきたナマエくんに周りはなんだなんだと二人を見た。なんでか啄木さんに懐いたナマエくんである。ああ?と啄木さんはナマエくんを見下ろす。
「詠めるといえば詠めるぞ」
「私の家の……まぁ、家族でいっか、家族が、歌合とか歌会をするんですけどね、誰か連れてきてって言われました」
「つくづく思ってたけどお前ん家絶対金持ちだよな」
「?」
「普通は家族で歌合も歌会はしねぇよ」
そう突っ込んだ啄木さんに、たしかにと私は頷く。家族で歌会ってイマイチ想像がつかない。ナマエくんは首を傾げたのだが。
「というか、それならぼっさんとか正岡先生とかの方がいいだろ」
「あんまり話したことがないから……」
困った顔をしたナマエくんに、啄木さんが「俺が声かけてやろうか?」と首を傾げた。ナマエくんは迷ったようである。
「佐藤先生は?」
「佐藤先生忙しそうだし……」
「それ俺様が暇そうに見えるってことか?」
「?啄木さんがふらふらしてる時はお金関連のことで悩んでる時か暇な時って人にききました」
啄木さんががっくりと肩を落とす。聞いていた棋院が苦笑いして、ナマエくんをみた。
「ナマエ君の家では歌会をよくするの?」
「季節が変われば開かれたりしますが、1番大きな歌会は春ですね」
「ってことはこの時期は小規模ってこと?」
「いえ……五年に一度百の歌をまとめて歌かるたをつくるのですが、今回は手違いで歌の数が足りず、急遽秋にも開くことになりました」
「まさに金持ちの道楽ってかんじだな、おい」
「後幾つ必要なの?」
「啄木さんを除いてあと十です……」
がっくし、と肩を落としたナマエくんに私達は顔を見合わせた。
「カルタを作らなければいいんじゃ……」
「そういうわけにもいかないんです……偉い人に渡さないといけないから……」
偉い人とは。疑問点がたくさんである。しかしナマエくんは困っているらしい。しょぼんとしている彼は珍しい。
「おいおいそれなら人見知り発揮してる暇ねぇだろ」
「ううっ」
「佐藤先生も気にしないよ、きっと」
「俺がどうかしたのか?」
そうひょっこりと顔を出したのは佐藤先生である。有魂書を抱えた彼はナマエくんをみて首を傾げた。
「おぉ、春夫。いいとこに。なんかコイツの家で歌会があるらしくてな、後十人参加者探さなきゃいけないやしい。参加しないか?」
「あぁ、構わない。なんだ、ナマエ、いってくれたらいいのに……」
「だって佐藤先生忙しそうだし……」
「子供が気にすることじゃない」
佐藤先生の言葉にナマエちゃんはホッと息を吐いたらしい。啄木さんは遠くにいた牧水先生と吉井先生に声をかけた。
「ぼっさーん、勇ー、ナマエん家で歌会あるんだってよ。参加しないかー?」
まぁその呼びかけに結構な人が反応し、やってきた彼らにナマエくんは佐藤先生の後ろに隠れたのだが。可愛い。


「なんで歌がるたをつくるんだ?」
そう尋ねた正岡先生の言葉はまぁ的をいているというか。談話室である。人数が集まって嬉し泣きし、ココアを与えられたナマエくんはふうふうとココアに息を吐きかけながら正岡先生をみた。
「在原業平公に奉納するんです」
「……ん?奉納?」
「はい」
「驚いた、君の家は神道か何かの家なのか?」
「私の家は神社で、何柱かの神様をお祀りしているのですが、その中に在原業平様がおいでなのです。普段私は祖父母の手伝いとして在原業平様達へお勤めをしているのですが、五年に一度歌かるたを奉納している話をつい最近教えてもらい……」
初耳が多い。在原業平、神社、と何かを思い出すように繰り返した東さんはピシリと固まった。
「もしや隣町の山の麓から山頂にかけてある神社?」
「?東さんは知っているのですか?」
「地元じゃ有名じゃないか。山の麓は在原業平とかを祀っていて、山の中腹には菅原道真、山頂にも誰かが祀られてる」
「見事に学問寄りだな」
「いいえ、あの、そういうわけではないです。当社の菅原道真様は学問の神様すなわち天満宮ではなく、技芸の神様として祀られている珍しい神社なのです」
「えっ。じゃあ合格祈願しても意味ないの!?」
「いえ、あの方は努力される方には優しいので、努力されてる方の後押しはしてくださると思います。なんにも努力しないで神頼みしてくる人は容赦なく蹴り落としてますけど」
ナマエくんはそう言ってココアを飲んだ。私達は目をパチパチと瞬いて彼を見る。
「蹴り落とすの?」
「はい。受験?シーズンはあんまり機嫌が良くないです。麓からお使いに行けばそれはそれはむすっとした表情で……」
この子には何が見えてるんだろうか。私と同じように疑問に思ったらしい森先生がナマエくんをみた。
「それは宮司が、か?」
「お祖父様はあんまり怒りません……」
どう言うことだろうか。首を傾げれば佐藤先生が問いかけた。
「歌会はいつやるの?」
「今週の日曜日です。歌会の日だけは歌人は神社の庭園に入ることが許されるので、好きなところで歌を詠めます。今の時期は紅葉や菊、秋桜や竜胆が綺麗です」
「それは楽しみだな」
そう言った佐藤先生にナマエくんはちょっと嬉しそうに笑った。えっ可愛い。



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「あ、先生、啄木さん、こっちです」
そうぴょこぴょこ跳ねて手を振る。単ではなく水干なのは男と勘違いされているから、なのであるが、まぁ、たまに頼まれてきたりするので気にしない。啄木さんがやってきて私を見下ろした。
「お前なんだその格好」
「平安時代の装束か?」
「はい。水干です。神社で過ごすときは水干だったり色々と古い服をきます。庭はこちら、ですが、参加者の方は形だけでもお参りしてからご案内になりますので先に本殿にご案内します」
「こっちにいる方が生き生きしてんなお前」
「図書館は静かにするものでしょう?」
そう首をかしげる。とりあえずこっちです、と手を引けば「こら」と父様に怒られたが。
「ナマエ、さんぱいきゃくのてをひいたらあぶないだろう?」
「ごめんなさい」
「わかればよろしい。みつただやかせんとおひるとおちゃがしのじゅんびをしておくから、おひるになったらひがしつりどのにおいで。おさけをのめるひと、のめないひともきいておいてくれるかな?」
「わかった」
刻々と頷けば、父様は彼らを見てよいおまいりでした、と頭をさげてその場をあとにした。まだお参りしていないけども。
「酒って聞こえた気がする」
「お昼に振る舞われますよ」
「まじかよ!」
「ナマエ、さっきのは?」
「父上です」
私の答えに周りがピシリとかたまった。啄木さんだけが、お前の目の色も顔も父ちゃん譲りか、と納得したようであるが。
「では、お参りを」
そうぐいぐいと佐藤先生の背中を押す。社務所当番のむっちゃんがカラカラ笑って見ていたけども。


お参りを終えてから神社の奥にある庭園に通す。見渡しが悪い細い廊下を抜けた先にあるその小さな箱庭に周りは息を呑んだ。ちらほらと一般客がいるのはいつもの常連の人達だろう。
「これは……」
「今の時期は、山に面する北が紅葉、西が秋桜、東が竜胆、中庭が菊です。お昼は東釣殿でするみたいなので、それまでは好きなところで歌をお読みください」
そう言いつつそばに置かれた箱から筆ペンやら短冊やらを渡す。
「おい、めちゃくちゃガチなやつじゃねぇか」
「そうでもないです。お酒の短歌とか子供の短歌とかもよまれてますし。あ、山に入ると高確率で迷子になるので入らない方がいいです」
「それはナマエだけでは?」
背後から聞こえた声にびっくりしながら振り返る。クスクスと笑った香子さんである。現代の服を着た彼女に私はムッとした。
「香子さん、そんなことはないです。私以外も迷子になります」
「そう?」
彼女はそう言って手元の札を受け取り、そのまま庭の方に消えた。むぅ。
「綺麗な姉ちゃんだな、知り合いか?」
「神社に住んでる香子さんです。私の先生の一人です」
そう説明すれば、フゥン、と周りが納得した。こら、くどこうとしない、と啄木さんにぽかぽかしておいたが。


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散らばったのでお酒飲める人飲めない人をきいて父様に報告していれば、伊勢さんに呼ばれたのでそちらに向かう。伊勢さんは香子さんや阿古さん達と同じく神社に住む人である。私が小さい頃にいきなり現れたのだ。幽霊かと思ったらそう言う類いが見えない叔父さんにも見えたらしく、卒倒された。まぁだから私がこの神社でお勤めすることになったのである。
「伊勢さん、どうしたの?」
「あぁ、ナマエ、丁度和歌が読めてね。でも、私達に奉納するのに私達が詠むのはいかがなものかと思うのだけれど」
「?でも、今の和歌と昔の和歌違うのができるでしょ」
「それもそうだけど」
おいで、と手招かれたので彼の近くによる。手元を覗けば真新しい和歌が出来上がっていた。ううん、恋の歌なぞわからないが彼の言葉のセンスは好きである。


いつもきている参拝客で歌人の人からも和歌を回収しつつ、伊勢さん達の和歌も回収しつつ、図書館から誘った人の和歌も回収する。
「皆さん名前どうします?そのまま?」
「あぁー、それもそうかぁ」
とは、お昼時の会話である。本名だったり雅号だったりを使うかと言う話になったが、まぁそれでもわかる人にはわかるのではなかろうか。

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とりあえず歌がるたができたので、百選と一緒に図書館に寄贈することにする。あぁ、楽しみにしてたんだとは館長達の台詞だ。私は間に合ってホッとした。とてもホッとした。だが奉納したら嘘だったのにって言われた。許さん。


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「うん?伊勢さんや香子さん、阿古さんには合わせてないのか?」
「お昼は一緒に食べたよ」
「あぁー……」
「伊勢さん、香子さん、阿古さん……?」
「あぁ、あの美男美女」
「それ向こうも同じこと言ってました」
もぐもぐとお弁当を食べる。館長は苦笑いしたのだが。
「館長、それがどうかしたんですか?」
「いや、彼らは恐らくもっと幼い苗字さんが転生させた人物でな」
転生とは?と首をかしげる。彼らはエッと目を瞬いた。
「文豪っていうことですか?」
「いや、君たちの時代には全く被らない」
その言葉に周りが首をかしげる。私もかしげる。
「よくわかりませんが、あの三人はいきなり目の前に現れたんですよ。神様かと思ったら、みんなに見えてるから違いました。でもお名前が一緒なので、違う名前で呼んでます」
「その名前って?」
ごくり、と蓮子ちゃんが息を飲みながら私を見下ろした。
「えっ、紫式部と紀貫之と在原業平」
「あああああ、それは転生だ!!えっ、ナマエくん無意識で転生させたってこと!?」
「おいおい、しかも文豪の仲介なしだぞ」
ギャイギャイと騒ぎになる周りに私はハテナを浮かべる。なんだ。何が何だか全くわからない。
「館長、説明してないのか!?」
「苗字さんの年ぐらいだと理論は難しいからどう説明したものかと思ってなぁ」
「転生?」
「ええっと、作者が本に詰めた魂を外側に取り出したというか、」
「モノに宿った魂を降ろしたということですか?」
「うーん、そんな感じかなぁ。ただ、本にも有魂書になるものとならないものがあって……」
ふーむ、ならば母様や兄様、たまに私がすることと同じ容量ということだろうか。
「じゃあ、みなさん付喪神なのですか?」
「なんでそうなるの……?」
蓮子ちゃんが首をかしげる。私も首をかしげる。付喪神!?と誰かが椅子を揺らしたのだけど。

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「うーん、そろそろ大掃除しないとですねぇ」
そう言いつつ周りをみる。与えられた部屋を片付けないと。個人的には図書館ないもしたいが、私一人でどうにかなるものではない。窓という窓を開け放って空気を入れ替えるくらいはできるだろう。仕事中に時間を割くわけにもいかないので、別の日に掃除をした方が良さそうである。

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