2021/06/21

兼任司書if 2


・兼任司書が親元にいるifなおかつ12あたり

「うーん、心霊現象、ですか?」
苗字さんはそう言って首をかしげる。困ったような表情である。特務司書最年少の彼女は怖がるかと思ったが、そうではないようだ。棋院くんは苗字さんに向き直り、口を開く。
「なんでも、鎧甲冑をきたお化けが現れるらしいよ」
「西洋のですか?」
「いや、戦国時代の」
そう言えば苗字さんは少し考えて、「見たいので今日から泊まります」と変わらない表情で告げた。えっ?と僕たちは彼女をみる。意外すぎる返答だったからだ。そうなんですか、で終わると思ったのである。
「あぁ、でも、みんなが心配するので連絡だけしときます」
彼女はそう告げてパタパタと部屋を後にする。残された僕らはポカンとそれを見送ったのだけど。


「ナマエ、本気で見るのか?」
夕食の時である。苗字さんを佐藤先生が食堂につれてやってきた。いつもはお昼がお弁当だったり、夕食時は帰っていることもあって苗字さんは食堂になれていない苗字さんの代わりに佐藤先生が小鉢をとっているらしい。そうして席に座った苗字さんに、佐藤先生が問いかけたのである。
「はい。見ます」
「噂だぞ?本当に現れるかどうか……親御さんは心配しないのか?」
「家の者に聞いたら、面白そうだからいいよって言われました」
その発言に佐藤先生がため息をついた。この人は結構常識人であるが故に苗字さんが心配なのだろう。まぁ、それもそうでおそらく苗字さんは送迎がつくほどお嬢様なのである。
「まぁ、一応司書の部屋もあるし大丈夫だろ」
「昨日の今日だぞ。部屋はすっからかんだ」
「猫ちゃんクッションで寝ます」
苗字さんの発言に彼女の会派(とそれ以外も)が「猫ちゃんクッション」と繰り返した。
「あのおっきい猫ちゃんクッションです。ふわふわなので、きっと寝心地最高です」
「おや、青目のお嬢さんは今日はお泊まりかい?」
「はい。鎧武者のお化けに会います」

==

時代遡行軍かと思ったのだが、どうやら違うようである。ふむ,と思いながらダンダンと叩かれる扉を見る。悪戯かな?と思って扉を開けたアオを見下ろしたのはまさに鎧武者のお化けである。戦国時代、と聞いていたが、アレはどう見ても平安ぐらいの鎧武者だ。
「ガキンチョ、肝が据わってんな」
「私が思っていたのと違いました。あと、あれは戦国時代ではなく平安後期、源平合戦ぐらいの時の鎧武者です」
「え?」
「甲冑が少し違います。話を聞いてみます」
そう言ってそのまま扉の前に向かおうとすれば、会派とか司書とか一堂に止められたが。
「いやいやいや、待て。待て、早まるな」
「話を聞くだけですよ。案外話せば納得するかも」
「いやいやいや」
しかし,籠城しても意味はないと思うのだが。仕方ないので遠くから声をかける。
「やぁやぁ、やぶんおそくにいかがされもうした」
おい、と周りが止めたが私はとりあえず包囲を抜けて扉に近づいた。
「その声は童か。扉を開けい」
「それはできませぬ。某、知らぬ人には扉を開けてはいけぬときつくいわれておりまする。いかがされもうした?」
まぁそう聞けばガシャガシャと扉をまた叩かれるのであるが。
「扉を開けい!」
「何故貴方様は怒っていらっしゃる」
「扉を開けい!」
うーん、話が通じない。それほどまで扉を開けたいらしい。どうしたものかなぁ、と考えていれば、藤村先生が隣に並んだ。
「ねぇ、結局何者なの?」
「さぁ?よくわからないものなのは確かですね……」
「童、開けい!扉を開けい!」
扉を開けろしか言わないらしい。肩をすくめれば彼は目をパチパチ瞬いた。とりあえず入れなくするように持っていた紙に模様を描き、扉に貼っていれば佐藤先生にずるずると引き摺られてしまった。解せぬ。按司さんが札をみて、ほーお?と告げた。
「お前なんで毎日帰ってんのかと思ったら、そっち系か」
「えっ?」
「佐藤先生、どうあがいても大丈夫だ。その嬢ちゃんはどうやら神職らしいからな」
按司さんはそう言って札を見る。ルイス先生が首を傾げた。
「神職?修道女ですか?」
「いいや、この国の神道の一部だ。まぁ、簡単に言えば巫女だよ」
「巫女」
「えっ、巫女さん?幽霊祓えるの?」
「うーん……悪いものなら切り捨てます」
蓮子さんの問いかけに私はにっこりと告げた。ひぇっ、物騒だ,と言った彼女に私は首を傾げたが。
「まぁ、私が刀を抜いてしまうと、家の者が気づいて現れて騒ぎが大きくなるのでこのまま放置しても朝には消えると思いま……」
す,と言おうとしたが、簡素な札が真っ二つになった。これは仕方ない。そのまま前にいる人を飛び越えて扉に駆け寄る。一太刀で切れた扉の前、そのまま藤村先生を掴んでかわし、距離をとった。鎧武者はこちらを見下ろすと尋ねる。
「その身のこなし、なかなかやりよる。童、お前は源氏か平氏か」
はて?と首をかしげる。どっちかなんて考えたことはない。
「……その薙刀、岩融とみます。貴殿は弁慶様か」
「おう、おう、左様!俺を知るか、童!」
「何故こちらに弁慶様が」
「義経様を探しておる。どこを探してもおらぬ故,こちら側にならいると踏んだのよ」
と、なるとこれは佐藤先生達の分野ではなかろうか。ふむ、と考えて、私は口を開く。
「なれば、弁慶様、某が義経様をお探しませう」
「む」
「弁慶様が動かれては義経様と入れ違ってしまわれまする。なれば某が探しませう」
「むむ」
「まぁここはひとつ童に騙されたと思って」
「むむむ」
彼は考えに考え、仕方あるまいか、と頷いた。
「しかし、童よ、三晩だ。三晩しか我らは待てぬ。我らは関を越えねばならぬ」
「必ずや」
そう私が頷けば、頼んだぞ童,と言いながら彼は消えた。なるほど。
「おいおいおい、よかったのかよ。幽霊と約束しちまって!」
「はい、問題ありません」
「問題大有りだと思うが」
「ないです。館長、申し訳ございませんが、明日私が率いる会派は普段の棚のものではなく,違うものを浄化させていただいても?」
「あぁ、構わないが……」
ふぁっとあくびをこぼして目を擦る。
「では、もうずいぶん夜も遅いので、おやすみなさいませ」
そう言って司書室に向かう。そのまま猫ちゃんクッションにもたれかかれば、もふり、という感覚と一緒に眠気が来た。

==

朝一に有害書になった義経記を探し当て、該当箇所を見ればたしかに義経公が墨で塗りつぶされたように消えていた。とりあえず先に館長に報告してから浄化したほうがよさそうである。とりあえず八つの巻物を全て抱えて入り組んだ図書館を抜ければ、露伴先生がいた。
「おはようございます、露伴先生」
「あぁ、おはよう。昨日は泊まったのか」
「はい」
「それは?」
「今日潜書してもらうものです」
「また古い文献だな」
そう言って文献をわたしの手からいくつか取った彼は優しい人である。そのまま司書室に向かおうとすればみんなにびびらあれたり安堵されたりしたが。なんでだ。はて?と首を傾げる。佐藤先生がやれやれと息を吐いた。いたぞー!と報告する彼らに露伴先生と二人で首を傾げた。
「朝食食べたのかと司書室にいったのにいないから昨日の今日でちょっとした騒ぎだ」
「すいません、文献をとりに。朝食は朝一番にいただきました」
「苗字さん、よかった、無事だったか」
そうかけてきた館長や東さん達に私はハテナを浮かべる。これ結構な騒ぎになってないか??
「君がほらあの幽霊みたいなのと話していただろう?昨日の今日で、連れ攫われたんじゃないかとかそういう話になったんだ」
「幽霊?鎧武者のお化けに会えたのか?」
「幽霊でも鎧武者のお化けでもありませんでしたよ。弁慶様でした」
私の発言に、「うーん相変わらず不思議ちゃん全開やな」とオダサクさんが告げる。
「弁慶というと、武蔵坊弁慶か」
「はい」
「幽霊じゃないのか?」
「違います。彼は物語の中に登場する武蔵坊弁慶です」
そう説明すれば彼らは目を瞬いた。話を聞いていたらしい白鳥先生がどういうことだ?と首を傾げた。
「彼は岩融という薙刀をお持ちでした。薙刀は語り継がれた上に実在すると信じられた薙刀です。史実の武蔵坊弁慶は岩透という長刀はもてど、扱った薙刀は無名だと言われています。故に彼は史実の武蔵坊弁慶でも、史実の延長線上にいる幽霊でもありません。その弁慶様が義経様を探していらっしゃるのであれば、彼の物語から義経様がいなくなってしまったということ。岩融をもつ弁慶様の話は義経千本桜や勧進帳などいくつかあれど、元を辿れば室町時代に作られたとされる義経記です」
「義経記が侵蝕されている?」
「はい。朝一番にこの図書館にある絵巻物、義経記を探したところ侵蝕が確認しました。今から館長へお持ちしようと思っていたところです」
そう言って絵巻物を見せる。彼は一つ手にとって、顔をしかめた。
「うん?じゃあ、この物語の弁慶が夜な夜な現れたってことかい?」
「はい」
「有り得るのか?」
「だが、実際これは侵蝕されているしな……」
「まぁ、古い書物だからなし得たことでしょう。古くから人に愛されたものはそういうちからを持つものですから」
まぁ、もっぱら私がここにきたことで霊力的な効果はあると思われるが。こちらを見下ろした周りに私は首をかしげる。何か変なことを言っただろうか。
「で、苗字さんの会派はこの義経記に潜書するのかい?」
「はい。1番酷いのが安宅の関あたりみたいなので、そこを中心に。もちろん無事なものもありますが、後二夜で終わらせないといけませんし、忙しくなります」
そうけろりと返せば、他の司書達が頭を抱えた。
「手伝うから大人しくしとけ」
「えっ?」

==

「今、忙しいから、今日も帰れないよ」
そう電話で言えば、しばらくして長義さんがやってきた。ナマエ、と顔を出した長義さんにぴょこぴょこ近づく。
「長義さん?どうしましたか?」
「君の親族や目付け役が君が帰らないことに怒っているんだ。心配ないと主は言っているんだが、どうも納得しなくてね。俺が様子を見てくるという話になったんだ」
くしゃくしゃと撫でなれた頭にくすぐったくてふふふと笑えば彼は無言でまた撫でるのだが。
「……で、仕事の進捗はどうかな?」
「義経記が侵蝕されてしまっていて、それを浄化中です」
「義経記が?」
「はい」
「……通りで」
そうぼやいた彼に私は首をかしげる。いくつか政府に報告が上がっていてね、とは見下ろした長義さんの言葉である。通りがかった菊池さんが私と長義さんを見比べた。
「あれ?ナマエの知り合いか?」
「親戚のお兄さんです。様子を見にきてくださいました」
「ナマエがいつもお世話に……貴方達に無茶をさせていなければいいのですが」
「今無茶してもらってます」
私の正直な言葉に言葉にチョップを落とされる。いたい。
「君の父上や祖から差し入れをもらってきたが、君には渡せないね」
「えっ」
「君の大好きなプリンだった」
「えっ!食べます!食べる!母様みたいに鬼周回してないです!」
プリンを触らせまいとする長義さんにぴょんぴょんとぶ。きちんとあるよ、と言った彼に落ち着いたが。
ちなみに浄化作業は周りの協力もあって夜には終わり、挿絵には義経公が戻っていた。なんやかんや手伝ってくれていた長義さんと帰ったら父親に抱きつかれたのだが。
「およめにはまだいかせないからね」
「どうしてそうなったの?」


=


「館長、名前を貸してください……」
そう館長に頼み込んだ苗字さんに周りが首をかしげる。お金もできれば館長名義で三千円ほど貸していただけると幸いです、とつげた彼女に佐藤先生や菊池先生といった面々や館長は驚いたように目を瞬いた。
「苗字さんの家お金持ちじゃなかった?」
「うぅ、兄が家の名前を背負うことになり家の名義は兄になるのです。毎年分担したりするんですが、今回は私も働いてるのだから職場の名前を借りてきなさいと」
がっくし、と肩を落とした彼女に僕たちはハテナを浮かべたままである。可愛い子には旅をさせよ、みたいなものだろうか。
「みなさん立派なものを毎年掲げるので、私が何もないとみんなしょんぼりしてしまいます」
なにを。なんで。そう考えていれば、菊池さんが司書三千円なら俺が貸してやるが、と告げた。彼女はそれを聞いて目を瞬いて首を傾げた。
「菊池先生でもいいのかなぁ……?まぁ、でも図書館に菊池さん住んでるし」
「ん?」
「じゃあ、館長、図書館のお名前かりてもいいですか?」
「苗字さん、何に使うのか聞いてもいいか?」
そう首を傾げた館長に苗字さんはポンっと手を叩いた。
「近くの大きな神社があるでしょう?」
苗字さんの言葉に僕たちも浮かべる。たしかに大きな神社があるのだ。
「あぁ、あるな」
「あそこの神事で流鏑馬があるでしょう?」
「あるね」
ここに赴任してきたばかりであまり詳しくない館長に変わって僕が頷く。確かにあの大きな神社には流鏑馬があるのだ。東の時代祭とも呼ばれるそれは、時代時代の格好をした人が馬に乗って矢を要るからである。
「私、三年ほど前から其れの一番駆けなんです」
「ん……えっ、てことは、えっ!?苗字さんが那須与一!?」
僕がそうびっくりしたまま告げる。
「はい、お恥ずかしながら」
「ってことは、お兄さんって、元那須与一で現俵藤太!?」
「はい」
ひぇぇ、と僕は目をパチパチする。館長達が僕を見た。
「東?」
「あのですね、あそこの神社の流鏑馬、結構知る人ぞ知るお祭りで。時代時代の格好をした人が馬に乗って矢をいるんです。まぁ、順番は馬の足が早い人順みたいなんですけど」
「ふむ?」
「何年か前から神社のお孫さんが流鏑馬に出て、それまでは平安時代はなかったのに少年が那須与一に扮して流鏑馬しちゃうものだからものすごい人気が出たんですよ。で、数年したらそれより小さい子が那須与一、しかも一番駆けとして出てくるわ、その青年が俵藤太に扮してでトリを持ってくわで余計に地元に火がついてしまって」
僕はそう言いながら苗字さんを見る。ははぁ、たしかに彼女は美少年に見えるのだ。
「待って、三千円ってことは、初穂料だよね!?図書館の名義の幟旗あげてくれるってこと!?」
「はい。というか、私の馬に図書館の飾りがつきます。そちらは私の家族が負担します」
ひぇっ、あれって結構な金額だったよな……と思う。
「なんだ、君が使うのではなく、神社に納めるのか」
「はい」
「ならポケットマネーでもなんとかなるだろう」
それを聞いて彼女は嬉しそうに目を輝かせた。なるほど、心配だったらしい。
「幟旗が一つじゃ寂しいだろうし、俺からも金を出すか」
「そうだな」
「えっ本当ですか!」
やった!と喜んだ彼女は年相応である。

==


那須与一の格好をして、私の愛馬となった絶影に図書館の鞍をつける。本来ならば神事の一環の前に幟旗を上げてもらった人に挨拶に向かうのであるが、去年までは私は神社側であったために役所に顔を出したぐらいである。今回は図書館で神主と一緒に向かい玉串をバサバサする必要があるのだ。兄が役所側にいくので、私は図書館にいくとするのだ。結局結構な文豪が幟旗を上げてくれたらしく玉串バサバサの人数が増えているのだ。ちなみに玉串をするのは母親方の爺ちゃんだったり、刀剣だったり、本庁からきた他の審神者だったりする。絶影と石切丸と栗毛と一緒に図書館につけば、地元民であろう図書館員が二度見した。
「えっ、えっ!?帝国図書館、えっ!?」
「館長達はいますか?」
「よんできます!」
パタパタとかけて行った彼を見送る。しばらくすればなんだなんだと職員と文豪、利用客が寄ってきた。蓮子ちゃんが私であるのにひぇ、美少年と言って顔を覆った。なんでだ。
「おっ、苗字か」
「えっ!?」
「こんにちは、吉川先生。立派な幟旗をありがとうございます。玉串をバサバサしにきました」
「いけないよ、ナマエ。御祈祷」
「……御祈祷に参りました」
そうきちんといえば石切丸に頷かれる。むぅ。



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