2021/06/21
兼任司書??
「か、海外の方ですか」
一年間ぐらい別の部署に研修にいっていたナマエちゃんが人見知りを発揮している。人が増えた図書館、その中に海外文豪は確かに増えたのであるが、ナマエちゃんは佐藤先生の後ろからおっかなびっくりという感じで新たな文豪達を見ていた。佐藤先生が困ったようにナマエちゃんを見下ろした。その実嬉しいと思われる。
「新しい人が増えたとは先生達から手紙でお聞きしましたが、流石に海外の方だとは……」
「ナマエちゃん人見知り悪化してない?」
「一年間忙しくてほとんど人に会わなかったので……ええと、苗字ナマエです。一年間別件の仕事でお休みをいただいていました。よろしくお願いします」
おずおずと頭を下げたナマエちゃんに、館長がじゃあ苗字さん今の状況を伝えるからとナマエちゃんと佐藤先生は館長に続く。それを眺めた文豪達は私達をみたのだが。まぁ誰も碧眼の美少年顔だとは告げてないからだろう。ハワードさんが首をかしげた。
「あの方、人、違う、ますか?」
「えっ、なに、ハワードさん、不穏なこといわないで。ナマエちゃんは……悪いのではないよ」
「わかる、わかります。あの方、神聖、何か」
「それがわかればいいんじゃないかな?」
棋院が苦笑いしながらそう告げる。新しくきた文豪達は首を傾げたのだが、そういうことじゃないと思うのだ。
まぁ、人見知りではあるが、ナマエちゃんは仕事をするには限られた時間内に休憩込みでテキパキとする人ではあるので、テキパキと仕事を始めて終わらせてあまり新しい文豪に会うこともなく帰っていく。役所仕事みたいとは誰の言葉だっただろうか。
「おや、新しい司書は?」
「あぁ、そっか。ドイルさん達知りませんもんね。ナマエちゃんは5時半きっかりに仕事を終わらせて家に帰るんですよ。別のところに住んでいるんです」
そう説明すれば、彼らは目を瞬いた。話を聞いていた直木さんが首をかしげる。
「それ、いいのか?」
「まぁナマエに限っては、という言葉がつくが。別の仕事と掛け持ちしてるんだ」
「おや……忙しいね」
「まぁなぁ。一年間の休みもその都合と自身の都合で、だ」
菊池さんがやれやれという風に肩を回した。ドイルさんは菊池さんを見ながら首をかしげる。
「あの子の目は青いが、海外の血が?」
「いや、純日本製だ」
菊池さんの言葉に初期あたりからいる周り(私含む)が吹き出したのだが仕方ないと思うのだ。
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金蔓が帰ってきた宣言をしていた啄木さんが早速ナマエちゃんに頭を下げている。年上のプライドがないのかとぼやかれたけど、案外歳が近い気はするのだ。
「なんだ、アイツ、金貸してくれんのか?」
「いや、休日に働かされると思います」
「えっ」
「ナマエちゃんはお屋敷に住んでるので、人手が増える分にはいいんだとか」
話がまとまったのか啄木さんが手を振ってかけていく。ナマエちゃんはやれやれという風にやってきた。
「ナマエちゃん、よかったの?」
「はい、人手が増える分には歓迎です。今の時期は特に仕事が立て込みやすいので畑番などが疎かになりやすいんです」
「えっ、仕事大丈夫?」
「大丈夫です。館長の許可をとって部屋をつなげてしまったので、双方の仕事が捗ります」
そう言ったナマエちゃんに私達は目をパチパチする。
「繋がったの?」
「はい。館長と政府に頼んで扉の位置を私の司書室の隣に変えてもらい、前に扉があったところを障子にしてもらいました。扉はあった方が便利でしょう?」
なるほど、だから扉の位置が変わったらしい。新しい文豪というかナマエちゃんの錬金術を知らない文豪はしらないため用途不明になっている扉が確かに新設されたのだ。
「今度行ってもいい?」
「なら、今日の3時ごろに来てください。お茶にしましょう」
「いく!!」
そうナマエちゃんの両手をガシリと掴む。ナマエちゃんは驚いたように目を瞬いた。
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「志賀、苗字さんの司書室すごいよ!」
そう駆け込んできた武者さんに志賀先生が目を瞬いた。半分が洋間なんだけど、半分は畳で、その先に庭があるんだ!と興奮気味に告げた彼に、志賀先生が首を傾げた。徳田先生だけが、あぁ、苗字さんだものね、と納得している。トルストイさんが首を傾げた。
「あの人には何かあるんですか?」
「うーん、日本独自の古典的な錬金術を使う上に、時空間定理っていう特殊な分野を扱えるんですよ」
「じくうかんていり……?」
「時間と場所を定義するといいますか」
「まぁぶっちゃけファンタジー小説みたいなものが現実に起こるって理解した方が早い。俺の扱う錬金術がまだ理解できるが、アイツのは理解不能だ」
となりでそう言いながらコーヒーを啜った按司に否定はできないんだよなぁと苦笑いをする。
「そもそも住んでる世界見てる世界が違う気がするしな。日本古来のものだから結社にバレると面倒なことになるタイプだ。宗教の思考の関係もあって理解されねぇよ」
「そんなにも一神教と多神教の違いは大きいものかな?」
「俺たちは育った時からなんとなく多神教に馴染みを置いているが、外の国はそうじゃないだろ。あんまりガツガツ行くと宗教の議論が起こるから黙るけどよ」
按司はそう言って電子タバコを吸い込んだ。
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「どうしたんです、刀なんて持って」
「ナマエから持っておくように言われたんだ」
そう苦笑いした佐藤先生の帯あたりには確かに刀がある。白い鞘が彼の服の差し色に見える。抜けるんですか?と聞かれ、彼は抜けるんだが、と言葉を濁す。
「俺たちが持っておくことに意義があるらしい」
「もしかしてナマエちゃん関連ですか?」
「あぁ」
困った顔である。ナマエちゃん関連で困ることは少ないイメージではあるが、今回は流石に困っているらしかった。珍しい。
「佐藤先生の……司書?」
「あぁ、ナマエはちょっと特殊なんだが……」
「簡潔にいえば、それはナマエらしい」
佐藤先生の隣の椅子をひいた森先生に私も壇先生も目を瞬いたのだが。
その意味がわかったのは、なんというかナマエちゃん方面がやってきた時である。例に倣い外には脱出不可、通信機器はエラーがあがり、按司がナマエちゃんを呼びに行ったけど呼べないと悪態ついた時である。佐藤先生達、ナマエちゃんの会派が非常に困ったように刀をみた。
「ま、やるしかないぞ、佐藤」
「具体的なやり方聞いてないんだよ……館長は聞いてないか?」
「俺もだ。名前を呼べばいいとは聞いたんだが……」
ううん。のんびりしている。フィッツジェラルドさんがのんびりしてる暇があるのかよ!と突っ込んだ。佐藤先生はため息をついた。刀を取り出した彼は苗字ナマエ、と名前を紡ぎかけて、彼は一度目を伏せた。
「桜守景光」
そう少し刀身を抜いた彼に桜の花びらが舞う。えっ、と周りが見れば桜吹雪が起きて、カツン、と下駄の音がした。桜がはけて、そこにはナマエちゃんが現れた。
「夜分遅くに如何されましたか、春夫さん」
「成功したようで安心した。今ちょっと困ったことになっていてな」
「うーん、怪談の類ですか」
「いや?」
ナマエちゃんは扉を見る。そして、なるほど遡行軍と頷いた。
「ちょっと片付けてきますので皆さんはこちらにいてください」
「一人で大丈夫なのか?」
「今日結構みんな夜中の仕事に出てるんですよね」
「夜中の仕事」
「お爺ちゃんみたいな人達と親類しかいないのでちょっと気が引けるといいますか……」
「陸奥守はどうしたんだ?」
「むっちゃんも別の仕事です。でも多分私がいなくなったのバレたのでそのうち誰か来ると……」
ナマエちゃんがそう話していると、扉がガチャガチャと音を立てた。ナマエちゃんが事前にくれていた札がおち、ひぇっと肩を上げた私達に、扉が開く。
「小鳥、無事か」
「山鳥毛さん」
「中に遡行軍が見受けられたが……」
「山鳥毛!主は無事か!」
「あぁ、こちらにいる」
「さくら、ぶじかい!?」
「あぁー……」
ナマエちゃんがあちゃあと頭を抱えた。扉から顔をのぞかせた彼らのうちの一人が、さくら!とかけてきた。佐藤先生がそれを見てピシリと動きを止めた。
「さくら、ぶじかい!?けがはしていないね、いけないじゃないか!わたしたちをよびなさいっていっただろう!」
「やっぱり添い寝が必要なんじゃないか?」
「いらないです。私は子供じゃないですよ!」
「君は俺たちからすれば赤ん坊なんだからね」
「ぐう……」
ナマエちゃんががっくりと肩を落とした。そうして桜が舞っていつものナマエちゃん(ただし来ているものが着流しである)にかわる。
「今の戦況は?」
「……かくこあるじをさがしつつ、げきはしているとおもう」
「今あちらに居留守は」
「今日は三条が残ってくれている。ここに来たのは一文字と長船だ」
「謙信は夜戦だから……仕方ありません、まだ夜目が聞く南泉と長義さん、小竜さんを中心に……」
「うはは、主よ。こちらに招き寄せた方がはやいのではないか?この場所は話に聞いていたが、隅から隅へとは少し骨が折れる。この場所ならば明るいしな」
「宗則さんの案を組みます。窓の一部にふだをはり、出入り口を一部に絞ります。南泉、長義さん、小竜さん、光忠さん、大般若さん、日光さん、おりましませ」
そう手をを叩いたナマエちゃんのそばに刀が現れ、そうして桜吹雪と一緒に人が現れる。そこからまた説明をした彼らは私達に真ん中に寄るように告げて窓のいくつかにふだを張った。ナマエちゃんがそれを見計らって手を叩く。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
「えっ、それでくるの?」
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
そう繰り返したナマエちゃんと彼らに、按司もまた繰り返す。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
ガシャン、と外から鉄が擦れる音がして、彼らが刀を構えるのがわかる。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」
その瞬間、ガシャン!という音がして、先程のホラーチックな化け物が現れる。その瞬間、全員が刀を抜いて、それを切ったみたいだった。赤を散らして砂のように消えた化け物に、私達はほっと息を吐いた。ナマエちゃんがまた桜吹雪を纏ったと思えば上に飛び上がり、上から顔を覗かしていた何かに刃を立てた。そうしてまた消えたそれにナマエちゃんは着地してくるりと回った。
「私だって長船です」
先生、褒めてくださいね、と佐藤先生を見上げた彼女はピタリと動きを止め、いつもの姿に戻った。
「……忘れてください……」
「おぉ、そうか、主を桜守として扱うのがそこの青年だから主は勝手に誉になるんだな」
「則宗さん、冷静に分析しないでください。……館長、いまはとりあえず落ち着きました。今回侵入したのも、図書館に置いていた札が古くなったからでしょう。また後日舞い清めます」
「ああ、助かるよ」
「一応私達は中を見回って帰ります。このようなことがあったので、しばらくは対応できるように図書館内の当番をきめるつもりです。おって明日報告します」
そう言ったナマエちゃんは帰りますと軽く頭をさげた。
「ううー、ナマエちゃん置いてかないで。興味津々な文豪とかいっぱいいるから。怖いから」
「うーん、そろそろ寝ないと私が持ちません」
「ごめんね、さくら……あるじはねむたいみたいだから、あしたにしてもらえるとうれしいかな」
そう告げた男性はひょいっとナマエちゃんを抱えた。えっ。私は佐藤先生と男性を見比べる。佐藤先生はやれやれというふうに息を吐いた。おやすみなさい、ともう一度言った彼らはぞろぞろと部屋を後にする。
「えっ、佐藤先生、えっ、いいの?あれ??」
「うん?あぁー、そうか、アンタ達は会ったことがないから……あの人はナマエの父親だよ」
「えっ」
周りがピシリとかたまる。はぁっ!?と叫んだのは恐らく、ナマエちゃんの騒動を知っている面々だ。佐藤先生は苦笑いをしただけだが。
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「私だって長船です。先生褒めてくださいね」が夢主の誉をもらった時の言葉。主じゃなくて先生と呼ぶ。
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「苗字ナマエなのか桜なのかどっちなんだい?」
「人間としての名前は苗字ナマエですね」
「……司書、まるで人間じゃないみたいだな」
「あぁ、そうか。あの騒動は露伴が来る前だったか。ナマエは半分人間じゃない」
そうサラサラと何かを書く森先生に私は刻々と頷く。話を聞いていた周りが私を見た。山本先生が心底不思議そうに私を見る。
「半分人じゃない?」
「私の母親は人間ですが、父親は人間ではありませんので」
「父親というと、俺もこの間初めて見たな」
「えっ」
「佐藤が言っていた」
目の色は父君譲りか。
フッと笑った森先生にがっくしする。うーん、そういえば春夫さんが会っていた。
「見目も美しいし、悪魔か何かか?」
「いえ……彼らは付喪神というものが大切にされたが故に宿った神様です」
「物が大切にされたが故に宿った神?」
「この国の考え方だな」
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