2021/06/21

真田娘だけバージョンとヤマト(26)

・真田姉弟のネタバレみたいなものが平然とある

それは、間違いなく殺人現場であるにはまちがいなかった。それでも、倒れ込んでいるその人はひどく美しかった。佇んでいる私に、心配したその人が部屋を見る。そうして叫び声をあげたのである。服薬自殺とはその時の警察の見解だ。新聞は面白おかしく母を報道した。世界的に有名なマジシャンの服薬自殺なんてスキャンダルにはちがいなかった。第一発見者はその娘だ。父親は私に向いたそれを全て堰き止めた。棺に入った彼女はまるで眠り姫で、いや花々に彩られている様を見ると白雪姫のようである。誰かから最後に送られた真っ赤な薔薇を乗せて彼女は燃えたのである。彼女は殺された。きっと殺された。でも私には何もできなくて、父親に手を引かれて私はそこを後にしたのだ。


私は母親とそっくりな容姿である。瞳の色が違うだけで、容姿は瓜二つだと周りは告げた。私が歳を重ねるほどにその声は大きくなった。私の父親は母親を愛していたのだろうとは思う。でも、どうも父親と血は繋がらないらしい。父親が母親と再開した頃には母親は身ごもっていてどうすればいいかわからないようだったとは父親の言葉だ。だから父親は手を差し伸べて、母親を愛して、父親は私を子供としたのだ。それは十七年前の話になるし、母がいなくなってもう十年の月日がたっている。私は両親のように奇術師になった。華やかな舞台で瓜二つの姿を仮面で隠して私は誰かに美しい驚きをみせている。

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転機が訪れたのは、私のスケジュールを抑えたホテルのプロモーションに金田一と名乗る男性が現れたことである。仮面をつけた私に彼は苦い顔をしていて、その部下に突っ込まれているのが見える。ナマエくんも仮面をつけたままだなんて、と告げたオーナーに私はため息をついて仮面を外した。それを見て彼は目を見開いた。
「これで満足ですか?」
「えっと……いや、ははは」
「マジシャンの真田ナマエです」
そう改めて言えば,彼は真田と繰り返す。部下に現実に戻されたようであるが。
「真田さんにはオープニングセレモニーとしてマジックショーをしてもらうつもりです」
オーナーと別の広告代理店の人はそう金田一と名乗った彼に告げる。楽しみと笑った部下である彼女に、私は困ったように笑う。私の肩書きなんかを告げる彼女に私は断りをいれてそこを後にした。殺人事件が起こるなんて、私は思いもしなかったのだが。

疑いが向いたのはちょっといただけない。あれよあれよと犯人に仕立て上げられた私に、待ったをかけたのは件の金田一さんである。「真田さんには難しいんじゃないかな」と。見ただけでトリックを解き明かした彼はまるで探偵のようである。彼の言葉に周りは納得し解散していく。私は彼にお礼をいうために口を開いた。
「ありがとうございます」
「いや、俺は何にも……君は何歳からマジシャンをしてるの?」
「本格的に始めたのは十年前です。母親の手帳を貰って」
そう困ったように告げる。君のお母さん?と首を傾げた彼に,彼の部下が肘で突いた。コソコソと彼女は口を開く。
「知らないんですか、主任!あの真田アキですよ。服薬自殺した」
その言葉に彼は私を見た。そうして、困ったように、かれをみた。
「知ってるよ。彼女はお母さんと瓜二つだから驚いたんだ」
「ーーえっ?」
「俺、こう見えて君のお母さんとは幼馴染みでさ、高校卒業まで同じ学校で同じクラスだったんだぜ。何も言わずにいなくなって、探してたんだよ」
その言葉に私は彼を見上げる。彼なら信じてくれるかもしれない。そう思ったが、私がオーナーに呼ばれてそこを後にした。


ーー夢を見る。
母親が優しい声で物語を紡ぐ昔の夢をみる。白の騎士の代わりに現れたチェシャーキャットに私は彼女の青い瞳を覗きこんだ。そうして緩やかに笑って、まだきちゃダメよだなんてありきたりを告げた彼女に、私は目を覚ました。たくさんの管が繋がっている。機械が定期的に音を立てる。私が母親と同じように服薬で殺されかけたのだと知るのは少し後のことだ。

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「お母さんの夢を見たよ」
ひどく心配する父親にそう告げる。私が目を覚ました瞬間泣いた彼に、そういや母親の葬儀でも泣いていたなとおもった。彼は少し目を見開いて、そうか、と私の頭を撫でた。まだきちゃダメだって、と言えば彼は当たり前だろうと笑ったのだが。
「お前の爺ちゃんと叔父さんにお前が目を覚ましたって報告する。恐らく飛んでくるそうが。しばらく大人しくしておけ」
「えー……」
「あと、金田一さんにお礼言っとけよ」
そうスマホ片手に忠告した彼に私は頷いた。実の父親を私は知らないけれど、私は彼がお父さんでよかった、と、心底思うのだ。血は繋がっていない。それどころか、私の本当の父親を知っているのに父親のままだ。
母親は彼を愛したのだろうか。二番目でいいと告げた、とは父親が告げた言葉である。母親の一番はずっと変わらないままだから二番目でいいのだと告げたのだと。でも,きっと嫌いではなかったのだろう。周りに黙って、寄り添って生きたくらいには。

==話が飛ぶ

「君の父親は高遠遙一。あの地獄の傀儡子だ」
そう言ったのは誰だったか。母親に心酔している人だったか、その高遠遙一に心酔している人だったか。もう一度巻き込まれた事件、その犯人にはちがいなかった。金田一さんや明智さんといった周りは知っていたらしい。私も実は知らないわけではない。母親と今の父親の相談の末、きちんと話しておくべきだとなったらしかった。お前はお前だ。貴方は貴方だから。父親と母親はそう言って私の手を引いてあるいたのだ。
「知っています。でも、血の繋がった父親はどう言う人であれ、私は私ですから」

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父親にははじめて会う気はする。遠目に見える檻の中にいる彼は真っ白な髪を束ねもせずに本を捲っていた。明智警視が私を見下ろす。
「引き返しますか?」
「行きます」
そう言って私はその通路をすすむ。そうしてたどり着いたその先にいた人に、明智警視が声をかけた。
「高遠、貴方に面会者です」
私に面会者とは珍しい、と告げた彼はこちらを見た。同じ黄色がかったような目の色が向く。そこにほんの驚きが含まれていた。あぁ,なるほど、私は目の色は彼に似たらしい。そこまで凶悪犯のようには見えなかった。掴めない雰囲気はあるが、そんな人なんてたくさんいた。
「はじめまして、もう一人のお父さん」
私は真田ナマエです。
私の言葉に彼は目を伏せた。何かを閉じ込めるように。そうして、笑みを浮かべる。
「はじめまして、ナマエ。貴女が母親に似てよかったと思いますね」
「そうですか?私はお父さんみたいな髪の色でもよかったなと思います。垂れ目とかも」
「私に会いにくるとは。君の今の父親はよく思わないんじゃないですか」
「会いに行ってこいって逆に言われました。いつかは会わないといけないから」
「なるほど?」
「お父さんもマジシャンだったんでしょう?見てみたかったなぁ」
そう零せば彼は「そこの怖い顔したお巡りさんにいわないとね」と明智警視が指差した。明智警視が咳払いする。
「お父さんに聞きたいことがあったんだけど、聞いてもいい?」
「ものによりますよ」
「お母さんを毒殺したのはお父さん?」
そう問いかける。彼は顔を跳ね上げ、明智警視はこちらをみた。その様子を見るに違うんだろうか。母親を手に入れたい父親による犯行かと思ったのだが。
「なんだ、違うんだ。うーん、振り出しにもどってしまった」
そう言いながら困ったような表情を浮かべる。
「ナマエ、どう言うことですか?」
「お母さんが今のお父さんと結婚したから、お父さんが殺したのかなって思っでたんだけど」
「そうではありません。貴方の母親は、アキは、殺された?」
「うーん,何となくそう私が思ってるだけですよ」
そう言って私は考える。
「お母さんは自殺するような人ではなかったから。それに、なんだろう、この前明智警視達と事件に巻き込まれた時に毒殺死体を見て思ったんだけど。服毒死した人って苦しそうだったけど、お母さん、眠っているみたいだったから」
お父さんみたいな人が殺したのかと思った。

そもそもである。俺は公安刑事であるし、というか、かつて師匠がいた立ち位置にいるのである。それを知るのは師匠と明智警視(この度は警視監に任命されたらしい)ぐらいだろうか。個人の繋がり的にFBIはあれど、そこには仕事のことは挟んでいないから目を瞑ってほしい。昔取った杵柄とかいうやつだ。はぁ,と伸びをして机の上にある写真をみる。家族の写真である。片方は新しい家族の。もう一つはいなくなった姉と写っている写真である。姉がいなくなってもう十七年が経とうとしていた。最初は高遠と一緒にいるのかと思った。でも、違うかった。今は獄中にいる高遠もまたアキを探していたからだ。アキに似たマジシャンはいたのだが、十年前に姿を消し、俺宛の誕生日カードもそこで途切れた。何処かで生きているのか、それとも死んでいるのか。俺はもう姉の声を忘れかけている。

ああ、これは、堪えるな、とめを伏せる。探偵達に解き明かされた謎。真田さんを恨んだ人物により、手違いで殺された姉。救いなのが姉が苦しむこともなく眠るように息を引き取ったことだろうか。復讐をする犯人の気持ちなんざ分かりたくもなかった。ふつふつと起こる怒りを抑え,犯人の供述を聞いた。
「アキさんを手に入れたかった、アンタが死ねばアキさんが手に入ると思ったんだ」
犯人が真田に送ったワイン。たまたまアキの手元にあった同じデザインのボトル。両親を驚かせたくてそれを悪戯としてすり替えた子供達。何も知らないアキはそれを飲み,息絶えたのだ。
「よかったですね、真田先生、命拾いして」
あぁ,こいつは狂っているのだ。俺の冷静な部分がそう告げる。
「馬鹿じゃないですか?」
そういったのはアキにそっくりなレイである。にっこりとアキにそっくりな笑顔を浮かべて口を開く。
「お父さんを殺したらお母さんが貴方のものになる?ないない、そんなこと。というか、恋敵を殺すっていう発想になる時点で貴方はアウトですし、無駄な努力というわけです」
「おっ、姉ちゃんもっと言ったれ」
「お母さんは貴方が嫌いでしたよ」
そうはっきり断言したレイに犯人が固まる。目を見開いて、動揺して。
「私も貴方が嫌いです。お父さんを殺そうとした挙句、お母さんを殺すだなんて。もう二度と顔を見せないでください」
「君の本当の父親でないのに!」
「本当の父親ってなんですか」
「君の父親は」
「はい、高遠遙一です。血筋的にはね。そんなことで動揺させれるとでも?お母さんがきちんと話してくれました。でも、今まで私を育ててくれたのは真田一三です。だから私のお父さんは真田一三です」
「俺の父さんも真田一三だから。レイちゃんは俺の姉ちゃんだから。母さんと父さんらぶらぶだったしな、生きてても、父さんがもし死んでてもお前が入る枠ないんだわ。つーか、姉ちゃん,こいつのこと忘れようぜ。そうすんのが多分こいつには1番効くからさ。母さん病死ってことにしようぜ」



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