2021/06/21

白い魔女がいる本丸7

白魔女

その本丸は一目見ただけでも異質だとわかる。坂の上にある建物は共通のはずであるが、何処か洋風でモダンな建物へと変貌している。天守にあたる場所に至ってはまるで鐘つき堂のようだった。坂に沿って広がる建物も西洋風で気候さえも違うのだ。本来、確かに本丸は審神者の記憶や要望によって姿をかえる。だが、ここまで変わることはない。汚れすぎたために無に帰り、そして審神者の記憶により形成される。それが、今世のものであれ、前世と呼ばれるものであれ。日本生まれで日本育ちのはずの審神者。術者でもなんでもないはずの審神者。そのはずなのに何故か記憶より転じるこの小さな街の景色は外国のものだ。見晴らしの良い天守に似たそこで、今日も白い髪がゆれている。


「定家本丸からの報告は聞いている」
自分はこの本丸と政府を繋ぐ役人である。繋ぐ役割は基本こんのすけが請け負うのだが、審神者が交代した本丸についてはこんのすけだけでは役割不足であるがため、何振りかの刀剣に割り当てられるのだ。偶然、自分はこの本丸を任されただけである。ぺらり、と紙をめくれば最近この本丸に追加された刀剣の情報が書かれていた。
「解体される本丸から何振りか請け負ったようだな」
「はい、皆さん働きものでとても助かります」
真白。印象はただそれだ。肌も白ければ、髪も白い。色が抜け落ちたような、というよりは白い陶器人形に色が灯ったようである。他の本丸の審神者ーー演練の相手が多いーーの中にはアンティークなその人形の付喪神なのではという声さえもあるという。
「政府としても引き取ってもらえて助かるばかりだ。最近はあの空間の刀剣も増えるばかりでね。こちらとしても困っているんだよ」
「増える?」
「これはこちらの落ち度なんだが、政府側の人手が足りていなくってね。だからこんのすけや俺たちに仕事が与えられるんだが……全ての本丸を巡回できるわけではないんだ。とりわけ、問題のある本丸は審神者の命令で閉ざしているところも多いしそのせいで危機的状況になるまで報告が上がってこないんだ」
そう説明すれば彼女はいくらか合点が言ったんだろう。ふむ、と考えるそぶりをした。そばに控えていた大包平が「なら」と声を上げる。
「ここに来るのはやめて問題のある本丸に向かえばどうなんだ」
「それはできない」
「何故だ。今のこの本丸に問題があるとでも?」
「問題があった本丸だからだ。定家本丸がここは無害だと報告は上がっている。むしろ、被害にあった刀剣達の回復にはもってこいだとな。だが、政府は危惧している。穢れを祓った後、無に転じたとはいえその影響がでる本丸がたまにある」
「……」
「どちらにせよ、ここに刀剣達を連れてくるのであれば政府の役人がつくことになるからね」
そういえば不本意ながら納得したのだろう。
「定家本丸が近くまた挨拶に来たいそうだ」
「それは何時ですか?」
「来週の頭くらいだと……」
彼女にそう尋ねれば彼女は「来週の頭」と繰り返し、何か予定を思い返したのか困った顔をした。
「お隣さんとバーベキューの日だ」
演練か何かの予定だろうか、と思った自分が情けない気がする。随分とまぁ、のんびりとしているーー。

「羨ましい」
そう机に伏せて告げる。近くにいた同僚がこちらを見たが、羨んだところでこの仕事量から解放されることはない。1人一件の本丸であれば、こんなことにはなっていない。一人で数件、十数の本丸をかかえるなんてざらである。彼女の本丸は自分が抱えている案件の中でも比較的ーーいや比較にもならないほどーー穏やかな本丸と言えよう。審神者と刀剣の間に入ること、審神者や刀剣の要望に応えること、ついでたまに監査。それらが山積みなのだ。あそこに自身の偽物がいたら怒鳴り散らしている気がする、とは口が裂けても言えないが。トントンと彼女に関わる書類の紙をまとめて術式を展開し電子データとして書き換える。まだ仕事は終わりそうもない。

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お隣さんとお隣さんのお隣さん、すなわちご近所さんとバーベキューである。一応手ぶらで行くのは申し訳ないため食材ーー持っていく海鮮はたくさんとれたので、あとは服だろう。同じ刀剣がちらほらいるからとわかるような印をつけるか服を着て欲しいとはお隣さんの頼みである。どうやらいつもは出陣服と内番服で区別しているらしい。ふむ。魔法でどうにかするしかないかと思ったが洋装しか私はわからないわけで。
「うーん」
「主、どうしたの?」
「バーベキューの時、出陣服でも内番服でもない服を着てきて欲しいって言われたんだけど、魔法でつくると洋装になってしまうしなぁっと」
「それってシンデレラの魔法みたいにってこと!?」
「うん」
確かにそうであるため頷く。乱ちゃんはぱぁっと目を輝かせた。眩しい。やってみて!と告げた乱ちゃんに魔法をかけるとする。指を指揮するように一振り、二振り、三振り目で星屑のようなキラキラしたものが彼にまとわりついた。そうしてそれが散ると服が洋装になる。彼は感激したように服を摘むとくるくると回って見せた。
「素敵な服!これでお出かけできるの!?」
「でもバーベキューだし、匂いがついちゃうかなぁ。もうちょっとアウトドアに適した方がいいのかなぁ」
そう考えて考えて、短刀はいつか資料で見たボーイスカウトみたいな格好でいいかな?ともう一度指を振る。そうしてボーイスカウトのような少年セーラーのような服に今度は変わる。こっちも可愛い!と言った彼に、じゃあこれにしようか、と笑いかける。
「さっきみたいな服も着たいなぁ」
「うーん、また機会があればみんなで集まってパーティーか何かしたいね」
「やりたいやりたい!」
その時は魔法を奮発しよう、と思う。昔のように海の上に氷のお城をつくったり。そう考えていれば、みんなにこの服見せてくるね!と告げた彼は部屋を出て駆け出した。さてはて、明日までに魔法を調整したいところである。

とりあえず、内番服ではなく出陣服の鎧などを外した状態で待機してもらう。一変に魔法をかけるかと思ったが一人もしくは数人ずつ魔法をかけて欲しいようなので何回かにわけて魔法をかけた。粟田口がそのままボーイスカウトである。とりあえずお隣さんにつながる扉をキーブレード で開けてしまえば、お隣の鶴丸さんが目を瞬いた。その近くにいた知らない刀剣は動きを止めた。
「すごいな!!何もないところに扉が現れた!!君の本丸は本当に驚きが絶えないな!!」
「ええっと、こんにちは、鶴丸さん。審神者さんは?」
「あぁ、庭で準備してる」
「庭……つなぎなおしたほうがいいかな?」
「いや、すぐそこだから気にしなくていいさ」
「ふむ……あっ、食材はどちらに運べばいいですか?」
「庭に来てくれ、うちの光忠達がいるからな」
そう言った彼は伝えてくるとバタバタと駆け出した。私はとりあえず固まったままの刀剣に頭を下げる。そして自分の本丸をみた。
「食材は庭のお隣の光忠さんに渡せばいいみたいです。私は先に審神者さん達へ挨拶に向かいます」
「主、また一人で行くと大包平や長谷部にどやされっぞ」
ひょこりとビンが入った木箱を持った御手杵さんに、じゃあ一緒にきてもらえますか?と尋ねれば彼はおうと頷いた。和風の作りの建物の外側をぐるりと周り庭に向かう。和風の庭、すなわち日本庭園である。素敵な景趣にわぁ、と声をあげればそこにいた何人かの刀剣達がこちらをみた。周りを見渡した御手杵さんは、いたいた、と声を上げる。
「おーい、となりの審神者と鶴丸ー」
そう手を振った御手杵さんの視線の先をみる。まぁ、背の高い刀剣男士が何十人もいるのだ。私は見えない。とりあえず、そちらに向かえばいいのだろうか、と思っていれば、お隣の山姥切さんがやってきた。
「隣の……白百合殿か」
「白百合?」
「?アンタの名だと聞いたが……」
首を傾げた山姥切さんに、私も首をかしげーーあぁ、と手を叩いた。そういえば政府の役人さんが定家本丸の審神者さんが私に号を贈ってくれたということを思い出す。それが白百合だ。したがって白百合本丸が私の本丸を指すようにならしい。私を見下ろした御手杵さんに、白百合という別の名をいただきました、といえば納得したようだ。
「ごめんなさい、つい最近のことだったので」
「いや……うちの主も昔はそんなだった。気にするな」
「白百合ー、隣の御手杵ー、この前ぶりって……でっけーボーイスカウトだな。こんな服持ってたのか?」
「主が……つくった」
「つくった!?」
「服装が被るといけないと聞いたので……」
「ってことは、全員分つくったのか!?」
「すぐに用意できたのでお気にせず」
そう苦笑いする。いやいやいや、と首を振った彼に同じくやってきていた鶴丸さんが何かを理解したらしい。
「なるほど、アレか!」
「うーん、多分想像してるもので正しいとは……あ、えっと、この度はお招きいただきありがとうございます」
挨拶を忘れていたと慌てて軽く頭を下げる。お隣さんは「良いっていいって」と首を左右にふった。
「他の人が食材を持ってきてくれるのですが、用意できるのが海鮮しかなくって」
「充分だと思うぜ?御手杵が持ってるそれはなんだ?」
「収穫したフルーツで作ったジュースと、サイダーとジャムです。お酒もないので」
「あぁ、未成年で酒飲みもいなさそうだもんな。内番服きてんのがうちの本丸の奴らだから何かあったら内番服きてる奴に言ってくれ。さっきから白百合凝視してる出陣服きてるやつらは
逆隣の本丸の刀剣」
その言葉に一応ぺこりと頭を下げておく。余計に固まってしまった。
「あー気にすんな、多分白百合くらいの女の子に会ったことがないんだろ」
「ちらほら演練でお見かけするような……?」
「あいつらは古参で演練のレベルが違うからな。別会場なんだよ。そうなると白百合くらいの女の子はいないんだよな」
「ふむ、だから同じ刀剣でも違う服装の方がいらっしゃるのですか?」
「あぁ、それはそのうち白百合のところの刀剣もそうなる。おーい、爺さん、こっちだ」
そう声をかけたお隣さんに、刀剣達が道を開けた。和服に身を包んだ老年の男性が見える。
「蘇我の、そちらが?」
「あぁ、逆隣の新しい審神者。白百合」
「白百合と申します。よろしくお願いします」
そう頭を下げる。
「鷹司だ。ふむ、清らかな霊力だな」
「定家さんと同じ意見もってやがる」
「む?定家と会ったのか?」
「あの休暇中に色々あったんだよ。そういやお隣さんは最近白百合って号ついたよな。誰にもらったんだ?」
「定家さんにつけていただきました」
「ほう、ということは定家はお主を引き込むつもりだろう。清らかな霊力は確かに魔を相対するにはいいだろう」
その言葉に首をかしげる。お隣さんが「まぁなぁ」とあたまをかいた。
「号を贈るとは、名付け親のようなもの。師弟になることで贈られることは多い」
「ま、白百合の場合は協力してもらう関係でつけたんだと思う」
なるほど、と納得していればお隣のお隣、鷹司さんは私をみた。
「私の刀剣は出陣服をきている。白百合には……まぁ格好はつけるだろうが害は与えんだろう」
「ははは……」
「?」
首をかしげれば、鷹司さんは刀剣達に呼ばれてさっていく。ふむ、かっこいいおじさまである。同じくそちらをみていた御手杵さんが「おっ」と声を上げた。そうして私を見下ろした。
「主、他の奴らもきた」
「主ー、食材持ってきたぞ」
「!はーい、蘇我さん、光忠さんに渡せと聞いたのですがどちらに」
「光忠ーー!!白百合本丸が海鮮もってきたぞーー!!食材追加ーー!!」
その声に光忠さん達が「なんだって!?」と声を上げるのが聞こえた。


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縁側に座って休憩する。みんな出来上がりつつあるのがすごい。私の本丸の一部もお酒を飲んでいるらしい。ふむ、たまにはお酒を飲むのもいいかもしれない。魔法でぶどう酒とか果実酒を作れないだろうか。ぼんやりとそう考えていれば、なぁ、と声がかかる。そちらを見ればはじめましてな刀剣男士がこちらをみていた。
「アンタの飲んでるそりゃなんだ?酒か?」
「いえ、お酒は飲めないので。ジャムを炭酸で割ったものです」
「ジャム?」
「ええーと、ジュースです。いちご味の」
そう答えれば彼はヘェとじっとみた。それに少し笑う。
「飲みますか?作りますよ」
「いいのか?」
「はい。いちご味とマーマレード、ブルベリーがあります」
「どれも聞いたことねぇな」
瓶を並べれば彼はそれを子供のようにじっとみる。私は近くにあった綺麗な小皿にジャムをのせる。
「先に食べてみますか?」
「すごい色だな……」
そう言って彼は恐る恐る指先をつけると舐めた。目を輝かせてうまい!と言った彼は子供みたいである。吟味した彼は最終的に「いちごのにしてくれ!」と声を上げた。私は頷いてジャムをスプーンですくってコップに入れると炭酸水を注いだ。そしてマドラーでかき混ぜる。実はこれは事前に用意した解けない氷のマドラーで冷やすには持ってこいなのだ。よく混ざったのを確認し彼に渡す。受け取った彼は口をつけると、うまい!とまた声を上げた。
「兼さーん、何してるの?」
「おー、国広!隣の隣の審神者にジュースもらった!……ありがとな!」
そう言って彼はそのまま他の刀剣に合流した。うーむ、短刀達とレモネードやジュース、アイスキャンデーを売る遊びをしてもいいかもしれない。今度試しにお隣さんの家に押し売りに行ってみよう。

「このマドラー、あの花と似た術式で作られてるけど、やっぱり意味わからん」
マドラーを摘みながらそう告げたお隣さんに怪しいものではないんですけどね、と苦笑いする。お隣さんの光忠さんと鷹司本丸の光忠さんが欲しいというので非売品なのだといえばこうなった。お隣の光忠さん達は理解したのだろう。
「溶けないけど割れるっていうあの氷の花と同じってこと?」
「そうだ。でも訳がわからん。そういう術式だというか……東洋ではない。ジジイ、なんかわかるか?」
そう言ってお隣さんは鷹司さんにマドラーを渡した。それを太陽に透かしてみせた彼は、ふむ、と考えこんだ。
「悪いものではないようだ。あとは東洋の術式じゃない。西洋のものだろう」
鷹司さんはそう言って宙に浮かべる。おぉ、と思っていれば、彼が何か札を取り出してマドラーの近くに浮かべた。すると文字が走る。わぁ、と声を漏らしてしまったので慌てて口を塞ぐ。鷹司さんは眼鏡をかけて私には何が書いてあるかわからないものを見た。お隣さんは口端をひきつらせる。
「こっちはこっちで意味わかんネェ東洋式だしな」
「陰陽だ。教えたはずだが」
「ここまではむりだっての」
「精進せよ。……俺がみた中で該当するものは西洋の中世以前のモノか……下手したら西暦以前の理論の可能性もある」
「魔女狩り以前ってわけね。でも魔女って全員魔女狩りにあっただろ?」
「西洋ではそう伝えられているな。だが、抜け道というものもある」
「抜け道?」
「魔女の先祖返りだ。陰陽の先祖返りがいるならなんらおかしくもないし、言い伝えがちらほら残っているだろう」
そう言って鷹司さんは眼鏡を外して私をみた。先祖返り?と首をかしげる。お隣さんは首を傾げた。
「言い伝え?」
「あぁ、御伽話としてな」
「シンデレラとかか?」
「あぁ、似たようなものだな。ただ、それより時代は遡るときく。あまり西洋ではーーまぁ宗教の都合もあるのかもしれないが、残っている文献はすくない。それこそあらすじ程度だ。姫に一目惚れした王子が魔女に姫の理想の姿にするよう頼んだら犬になった、だとか、伴侶をなくした魔女が伴侶を木に変え自分をその木にさく花にした、だとか、国で管理していた良い魔女が一角獣に連れられて消え去った、だとか」
「ふふっ……」
そうクスクス笑ってしまう。イラ兄様が一角獣なのはまとを得ている。彼は一角獣の仮面をつけていたのだから、正解である。どうやら私も他と同じく御伽話の世界にいるらしい。
「白百合?」
「いいえ、色々な話があるんだな、と」
「して、白百合。どう作った?」
そう尋ねた鷹司さんに、大包平さんが主と睨みをきかせた。魔法を使うなということだろう。なので苦笑いして人差し指を口元にたてる。
「秘密です。話すとみんなに怒られてしまうので」
「ん゛」
「え?」
変な声が聞こえたのでそちらを見る。出陣服をきた人の一部が顔を覆った。なんだ?と首をかしげる。気にするな、とひらりと鶴丸さんが手を振ったのが見えた。光忠さん達を見上げて首をかしげる。
「マドラーは今つくるとおこられますので、もしよければ後日お持ちしましょうか?」
「いいのかい?!」
「はい、私はかまいません」
「いくら出せばいいかな?」
「お金は結構ですよ」
「だめだよ。君がよくてもね。ちゃんと対価を払わせてほしいな」
「なら、短刀達とお店屋さんごっこしに伺っても?」
そう尋ねれば、私の本丸の短刀達がわぁとこえをあげた。それをみてか出陣服をきた光忠さんが顔を覆った。
「なんだろう……うちの短刀部隊と全然違う。すごい可愛げがある。花が飛んでそう」
「爺さんとこあくまで主従だもんな。俺んとこも可愛いだろ?」
「蘇我くんのところは全体的に君に似て悪ガキっぽいからね」
「それって僕も含まれてる?結構心外なんだけど」
「まぁ俺んとこはあくまで男子高みたいなノリだからな」
そう言った蘇我さんは私をみた。
「お店屋さんごっこって何を売りにくるんだ?バトラーみたいなものか?」
「いえ、レモネードとかジュースとか……アイスキャンデーとか?」
「あぁ、外国の子供が小遣い稼ぎしてるやつみたいなものか」
「はい、本丸の中でもたまに遊んでるんですけど」
「私は別に構わん。刀剣達も暇をしているからな、付き合ってやれるだろう」
「爺さんとこはカンストしてるもんな。俺んとこもかまわないぜ」
「では、また押し売り?に参ります」
ちなみに、たまにガチで有用なもの売ってるけどなんなの?と言われることになるのだが、私は知らないことである。

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「すまない、白百合。どうしても君の話を聞きたくてだな」
蘇我本丸の審神者さんが消えたと思ったら役人さんと定家本丸の審神者さん、三日月さんを連れてやってきた。なんだろうか?と首をかしげる。定家さんは鷹司さんを見て目を瞬いたが。
「まだご隠居していなかったんですか、鷹司殿」
「ははは、まだそこまで歳を重ねておらんわ、定家。して、休暇の、私たちに、何か用かな?」
「……仲が悪いんですか?」
「定家さんの師匠が爺さんの同期で悪友らしい」
なるほど、色々あるらしい。とりあえず役人さんと三日月さんにはレモネードを渡しておいた。定家さんはお酒を渡されているからいいだろう。定家さんはお酒を受け取ると一口のむ。そうして私をみた。
「君の刀剣達が持つ力のことだ。恐らくは君からうつったのだろうとは思うのだが」
さて、どう答えたものか、と考える。しかしながら、私が答えるより先に鷹司さんが口を開いた。
「……聞いても我らでは理解できんよ、彼女の力は東洋ものではなく既に失われたとされる西洋のものだ」
さらりと告げた鷹司さんに私は目を瞬く。
「刀剣達がつけているブローチから彼女の力が感じられる。恐らくその力と刀剣のもつ霊力が呼応し何かを引き起こすのだろうとらおもうが」
「……既に失われたモノとは?」
「彼女の持つ技術は西洋の中世以前、下手をすれば紀元前のものだとも考えられる。世界で多神教が信仰された時代のものであり、一神教に切り替わって以降全てを禁じられ滅されたもの。ーー時が立つにつれ御伽話へと昇華されたものだ。我らの考え方に近しいが違うものだ」
鷹司さんの言葉に少し考えた役人さんは口を開く。
「彼女が扱うのは今なお痕跡がある錬金術や魔術ではなく彼女のあつかうものは魔法だと?」
魔術や練金術、は聞き慣れないものである。はて、と首をかしげる。魔術と魔法はどう違うのだろうか。錬金術は金か何かを作り出すのだろうか。
「詳しいな、長義」
「これでも少しは調べました。彼女は俺の担当の一人なのでね。彼女の刀剣に関する報告は俺にきますし、彼女の本丸は日本のそれではない。知るには海外のものを漁った方が早いと踏んだまでですよ」
「錬金術や魔術と魔法はどう違うのですか?」
そう伺えば彼らは私をみた。しばらくの沈黙ののち、ふは、と息を吐いたのは鷹司さんである。
「魔術も錬金術も理論がある。西洋における人間の学問の発展系だ。使えるものはもう滅多にいないがな。魔術の上位互換を魔法だというものもいるし、科学は魔術だというものもいる」
「魔法ではなく魔術を使う人達は迫害を受けなかった?」
「いいや、魔法が滅んだ後に魔術ができた。中世に行われた魔女狩りによって加害を受けたほとんどが魔術師や錬金術師だったとの一説もある」
「そもそも、どうして人々は加害を?」
「時代に限らず、あまた大勢とは違うものは迫害されやすいものだ。それが良いものであれ悪いものであれ。見えぬものは理解されにくく、そしてあまたの人間がわからないこともまた理解されないものだ。審神者の多くはその立場なのだ。だが、その弱者の中でも同じようなことがおこる」
そう呟くように告げた鷹司さんに、眉尻をさげる。そんなことがおこってほしくなどない。恐らく何処かの段階で妖精達は見切りをつけたのかもしれない。お隣さんが口を開いた。
「白百合の本丸自体が迫害される可能性があるってことね」
「だが、白百合の本丸が閉ざされてしまえばこちらは生まれざるモノへの対処ができなくなるだろう」
「なんだと?」
「彼女とその刀剣達は生まれざるモノを倒すことができる」
「定家殿、そんな報告は上がっていないが……」
「ワザとあげていない。そんなものあげてしまえば彼女は政府のおもちゃになる」
「俺は政府の役人なわけなんだが」
「あぁ、だから黙っといてくれ。長義、お前はどうせ言わないだろうと思うが」
その言葉に役人さんがため息をついた。
「白百合の力を我ら使えればとおもったんだが」
ちらりとこちらをみた定家さんにうーんと考える。刀剣達が魔法を扱えるのは私の魔力、すなわち霊力の関係だと思うのだ。それ以外となると、どうなのだろうか。私は妖精達に教えてもらったし、力の源みたいなものがあるからとも言われた。別の例では魔法使いに教えてもらうという話もある。確か、一度だけ時空を旅する彼と会ったことがある。しかし、彼が訪れる確率はかなり低いだろう。あとは、キーブレードを扱えるようになるか、という話だろう。うーむ、と考えていれば、蘇我さんが口を開く。
「そもそも、どうやってるのかわからなかったら力の譲渡もできないッスよ」
「異国の力を我らが使えるかもわからないしな」
鷹司さんはそう言って酒を煽った。

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昔々、真っ白な王国がありました。真っ白な王国に住む人々はとても毎日幸福でした。それもそのはずです。真っ白な王国のお城の一番背の高い塔の中には善良な魔女が住んでいて、善良な魔女がみんなの願いを叶えていたのです。食事があるのは当たり前です。病もないのが当たり前です。モンスターや獣にに襲われないのも当たり前です。美しい服で着飾るのも、何もかもが当たり前です。善良な魔女は毎日願いを叶え、皆に幸せを届けていたのです。ある日、五匹の動物を率いた旅人が善良な魔女の元にやってきました。旅人は問いました。この国の住民は皆幸福なのかと。善良な魔女は答えました。皆を幸福にするために自分がいるのだと。旅人は笑いました。それは本気で言っているのかと。善良な魔女は問いかけます。ならば、誰が幸福でないのか。旅人は魔女を指差して口を開きます。
「キミだよ。人の願いばっか叶えて、自分の願いはないの?」
「願い」
「そ。おかしな話だと思わないか?願いが叶うこの王国でキミだけが願いを叶えてない。それどころか、命まで削っている。不幸じゃないのか?」
旅人の問いかけに、善良な魔女は何も返せませんでした。それが当たり前だったからです。話を聞いていた衛兵が旅人達を追い出しました。善良な魔女を叱ると、扉をまた閉じてしまいました。善良な魔女は、真っ白な花が咲くその部屋で、天井を見上げました。
「いつか、みんなが幸せになったら空が見てみたいな」
善良な魔女はそう言ってまたみんなの願いを叶えます。みんなが早く幸せになるようにと。善良な魔女は毎日願いを叶えます。いつか空を見るために。体が動きにくくなって、みんなの幸せを叶えるのが難しくなったころ。今度は旅人と一緒にいた一角獣が善良な魔女の元にやってきました。衛兵はぐうぐうと寝息をたてています。衛兵だけでなく、魔女以外の城の中にいる人みんなが眠っていました。彼は立ち上がれなくなった魔女を見て悲しげな顔をしました。彼は問いかけます。この国の住民は皆幸せになったかと。魔女は首を左右に振ります。まだ皆幸せになってなどいないのだと。
「もうやめにしなさい。これ以上願いを叶えては君の体が持たなくなってしまうだろう」
一角獣はそう言って魔女に合わせて屈みました。一角獣はわかっていたのです。幸せであることが当たり前になれば願いが叶えられても満たされることはなく、傲慢になっていくのだと。この国の住民は王もふくめて皆傲慢で、魔女が願いを叶えるのが当たり前だと思っていることを。純粋な魔女は知らなかったのです。幸せは満たされることなどないのだと。不幸があるから幸せは感じるものだと。
「今度は君が幸せになる番だ。私が君の願いを叶えよう」
一角獣はそう言って魔女をみました。善良な魔女はそれを見て、口を開きました。
「空を見てみたいのです」
「空を?」
「私は物心がついた時からずっとここにいます。だから、空を見たことがないのです」
「そんなことなら容易い」
一角獣はそう言って善良な魔女を抱えました。そうして真っ白な花が咲く真っ白なその部屋をでて、どこかへ向かいます。そうして城の屋根にたどり着くと、上を指さしました。善良な魔女は上を見上げます。黒、紫、青、薄黄色、橙、そして泳ぐ白。いろんな色が灯された天井でした。
「これが空だ」
「これが……空」
「あぁ」
「いろんな色があるんですね。青いのだと思っていました」
「もうじき夜が明ける。夜が明けて、晴れれば青くなり雨が降れば灰色になる。日が暮れれば橙に染まり、夜になれば黒くなる」
「この天井はどこまで繋がっているのですか?」
「どこへでも」
一角獣はそう言って善良な魔女を見下ろしました。善良な魔女は一角獣を見つめました。
「どこへでも?」
「あぁ、空は全てに繋がっている。空の下に来たのだから、お前はもう自由だ」
一角獣の言葉に、魔女は一角獣をみました。自由がよくわからないからです。朝が来ます。目が覚めた衛兵達や城に住む人々が魔女がいないことに気づき、騒ぎ始めました。どこからともなく旅人が現れて、一角獣と魔女をせかします。
「私と共に来ないか?空の下で過ごそう」
「……でも」
「大丈夫大丈夫、この国の住民は十分幸せになったから」
旅人はそう言って笑みを浮かべました。心に従え。旅人の言葉に意を決して善良な魔女は頷きました。衛兵達が駆けてきます。国の人々は当たり前のように幸福な日々が始まるのだと窓を開けて魔女に願います。しかし、衛兵や国の人々が見たのは一角獣に連れ攫われる魔女の姿でした。
ーーその国は徐々に終わりを迎えていきます。なすすべもない病に倒れ、獣の被害にあいました。しかし、それよりも、自分の思い通りにならないことに腹を立てました。美しかった白い王国はみるみる汚れていきました。そこでみなようやく気がついたのです。今まで自分達がどれほど幸福であったかを。幸福とは常にそばにあるものではないのだと。

ーーどこかの国に残る御伽話。

「ナマエ、具合はどうだ?」
一角獣は魔女にそう尋ねます。あの城を抜け出した魔女はとても幸福でした。空の下、旅人の弟子となり色々なことを教わりました。旅人である師はもちろん兄弟子である一角獣や熊、蛇に狐に豹は魔女にとても優しく良く接してくれました。他の国にもたくさん足を運びました。妖精の友達もできました。でも、それには終わりが近づいていました。師も弟子も妖精も何もすることができませんでした。できるのは幸せを願うことだけでした。魔女はベッドに寝転んだまま一角獣を見上げました。
「今日は随分と楽です、イラ兄様」
「そうか」
「……今日は晴れるでしょうか」
魔女はそう言って窓の外に視線を向けます。一角獣は窓を開けます。朝霧が光を反射してキラキラと光っていました。晴れの前の街の様子です。魔女はその景色が大好きでした。
あの城を出た魔女はとても幸福に満たされていました。それが短いものであっても。魔女は大好きなその景色を見ながらゆっくりと目を伏せました。一角獣がそれに気づき声をかけましたが、魔女は眠りについたまま目覚めることはありませんでした。

ーーどこかの世界の薄まった記憶


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レモネードスタンドのような移動販売は結構な盛況であるらしい。こちらも出陣の関係があるために週末にしか行かないのであるが、結構な人が利用してくれているようだ。最初は物々交換だったりして利益を当然考えてなどなかったが、どうやらお隣さんの博多くん達に何か言われたようで材料費ぐらいは,とお金をもらっているとか。売り上げは本丸共用の貯金箱を作ってそちらに貯めることにしたらしい。私の部屋の片隅におかれた手作りの貯金箱にはちょっとずつお金が溜まっているようである。ちなみに偶に政府の役人さん達と鉢合わせるらしく、彼らもちょくちょく買いに来てくれるのだか。ありがたい話である。

「お?アンタはこの前の」
大包平さんと和食の材料を買い込んでいるとそう声がかかった。そちらを見ると、確か長曽祢虎徹さんである。私を知るとなれば相模本丸の長曽祢虎徹だろうか。大包平さんが口を開く。
「ということは、相模のか」
「あぁ、あの時は本当に世話になった」
「いえ、当たり前のことをしたまでです」
そう断れば彼はフッと笑ったのだが。長曽祢さーん、と駆けてきたのは知らない女の子である。同い年ぐらいだろうか。布で顔を隠した彼女は彼の隣に並んだ。
「知り合い?」
「この前助けてもらった……」
「あああ、真っ白な審神者ちゃん!」
ぽん、と手を叩いた彼女に言い当て妙だなぁ、と思う。彼女はくるくると私と大包平さんのまわりを回ると、うむ、白い!とケラケラ笑った。
「鶴丸の色移りみたいだけど、そうじゃないんでしょ?ってことは地毛?やっぱり海外から来たの?長曽祢が送ってきてくれた写真見たんだけど、海外みたいだね」
矢継ぎ早である。長曽祢さんがそれを嗜めるように口を開いた。
「主」
「ああ、ごめん。あたしは相模。この前はついうっかり寝ぼけた弾みで出陣させちゃってさ、気付いた時にはもう遅し。でも、あたしもあたしの本丸の刀剣もついてるから、長曽祢達なら大丈夫!って思ってたら貴方が助けてくれたの。貴方は?」
「私はえっと……白百合です」
「白百合ちゃん!」
そう彼女は私の両手を持った。私の家族助けてくれてありがとうね!!と言った彼女に、いえ、と私は首を左右に振った。
「当たり前のことをしただけで」
「白百合ちゃん、かわわ!でもね!白百合ちゃん、結構それ当たり前じゃないのよね!だって、この世界、うちはうち、よそはよその人が多いからさぁ、それは当たり前じゃないよ!役人も基本知らんぷりだしね!」
ケラケラと笑いながら彼女は告げる。それに困った顔をしてしまう。役人は恐らく手が回っていないのだろう。長義と呼ばれた彼はだいたい疲れた顔をしているのはそういうことだ。
「まぁ,そんな話はおいといて、何かの縁だし、友達になってくれると嬉しいな!」
「それは喜んで」
ナマエがそう少し笑みを浮かべて言えば、彼女ーー相模は目を瞬いて口を開く。
「わぁ、まれにみる美少じょっむぐ!」
「すまん、白百合殿、大包平、聞かなかったことにしてくれ」
長曽祢がすぐさまにそう告げる。ナマエと大包平はとりあえず頷いておいたが。

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次はナマエの本丸でなんかやってみるか?と言われたので考える。何かと言っても、バーベキューは蘇我本丸、キャンプは鷹司本丸でさせてもらった今、アウトドアといってもやることは限られているだろう。乱ちゃんが、ねぇ、主!と声を上げた。
「舞踏会みたいなのやろうよ!」
その言葉にナマエはあぁその手があったかと手を叩いた。話を聞いていた大包平が首を傾げた。
「舞踏会?」
「外国のお城で行われるパーティーのようなものです」
「そう!みんな着飾ってダンスしたりするの!」
「……よくわからないが、城はなくていいのか?」
「海の上に氷で作りましょう。氷を扱う練習にもなりますし」
ナマエはそう言って紙とペンを取り出した。お城の形を描こうとして、そういえばあまり知らない。こういう時にお城の資料がたくさんあるのは長谷部の部屋である。陸奥守と一緒に集めた世界各地の地図や写真集がたくさん置いてあるのだ。
「主?」
「お城の設計図を書こうと思ったのですが、あまりお城の中をゆっくり見たことがなかったので」
「僕が書いていーい?」
そう言った乱にナマエは頷いてペンを渡す。サラサラと書かれたのは可愛らしいお城である。そうこうしているうちにそこにいた人達でお城の絵を描き始めた。



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白魔女本丸草子 

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