2021/06/21

359→刀剣 パターン1

馬鹿に見えて結構あたまがきれるのだが、いかんせん俺の同僚全員が馬鹿な面しか見えてないために今日も馬鹿扱いされている友人である。へらへらというよりはケラケラ笑うのだが、こいつの場合リアリストというか、なんというか、落差が激しい。転生した影響で霊力も高く、率いている刀剣の練度も高い。その上俺が投げた任務の達成度も高いのだから政府の中では知る人ぞ知る人になっていた。
さて、友人の前世の話である。戦える俺の友人の過去は日本のものではない。これが戦国時代だとかそっちなら話がはやかったのだが、そうではない。前世の名前は李名無。三国時代に徐庶に仕えていた人物らしい。らしいというのはかの三国志では徐庶と一緒に魏に行ったという記載ぐらいしか登場せず、演義では結構な割合で主人公側である蜀からは裏切り者と書かれる存在なのだ。なんで日本で生まれてんの?と聞いたら元々商人に拾われただけだし知らないと言われた。もしかしたら生まれたころはこっち側の人間だったのかもしれない。
まぁ,そんな話はおいておいて。俺は今めちゃくちゃ困っている。中国にも時間遡行軍が現れ始め,中国にもそういう組織ができることになった。その打ち合わせ中に、翻訳・通訳の機械がいかれ、術がバグった。なんでだと頭を抱える同僚に、俺は通訳としてナマエを呼ぶことにする。向こうは即英語に切り替えようとしたが、俺は英語苦手だしな。とりあえず通訳を呼びますので、と言ってナマエに連絡を入れる。そうしてこの状況をどうするか考えていれば、扉ではなく窓が叩かれる。ひょこりと顔を覗かせたナマエを中に招き入れればナマエは即窓を音を立てないように閉めた。
「ねぇねぇ,なにがあったの?通訳どころじゃない……ってわぁ、なんだか見たことある人ばっか」
そう言ったナマエに、向こう側はパチリと目を瞬く。
「よかったー、私使ってんの昔の言葉だし今使ってんの通じるかわかんなかったんだよねぇ。通じそう」
ナマエはそう言って、何か言葉を紡ぐ。向こうがまた答えるように口を開く。そんな和やかな挨拶だったと思ったのに、ナマエは容赦なく俺のそばにいた同僚ーーナマエの背後にいた人物に刀をノールックで突いた。ひぇ。同僚は音を立てて倒れ込む。
「ひぇ、ナマエなにしてんの」
「峰打ちだから気にしないで」
「気にするわ」
「いや、こいつ多分人間じゃないよ。この人ここに来る途中怪我してんの見たし。多分遡行軍が化けてる」
「はっ?遡行軍避けの防備してるはずだぞ?」
「そうなの?外遡行軍ばっかだからしてないと、思っ、た」
またもやノールックでナマエは同僚を机にねじ伏せた。なるほど、その顔は遡行軍である。
「本当に人間ではないとはな」
「曹操様が日本語喋ってる!」
「あ、翻訳通訳のやつが復帰したのか……」
「それが遡行軍か?」
「日本の、ですよ。何?やっぱり海外進出しちゃったの?」
「やっぱり?」
「夢でさー、歴史がさー、狂いそうになるんだよね」
ナマエはそう言って困った顔をした。
「なんだそれ聞いてないぞ」
「だって中国史じゃん?この国のことじゃないし、たかだか夢かなって思ってた。最初はまぁいいかなって思ってたんだけど、やっぱり歴史に殉じて死んでいった人に失礼だよねって話になったからさ、夢の中でもとりあえず頑張って現実に寄せたんだよね」
ナマエはそう言って表情を落として遡行軍を見下ろしてから俺を見る。
「十分はここから出ないで欲しいかな。あと防備強化しといて」
「わかった。許可出しとくし頑張ってくれ」
「ほいほーい、じゃあ、また」
そう言ってナマエはズルズルと遡行軍を引きずって後を出た。しばらくして断末魔のような声がして、扉に赤が走ったが何もなかったように消えた。


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メンタルが死にそう。はぁ,と息を吐いて赤を見る。時間経過と共に消え去った赤、そして落ちていた槍を拾い上げた。
夢を見る。それは前世の夢だったはずだった。でも,どこか違う方向に進み始めるのだ。最初はそれでも良いと思った。たかだか夢なのだから、そんなもしもがあってもいいと。しかし、違った。それはもしもの夢ではなく、改変された過去であると。だから私は何度も何度も人を殺した。仲間だった人がそれ以上生きそうになったらみんな殺した。一族単位で殺したこともある。そうしなければ本来の歴史にならないからだ。それは自分もそうだ。違う道筋を行きかけた自分を自分でとめ、寿命以上に生きようとした自分を殺すために刃を向けた。裏切り者、という演義にでてくる言葉は正しい。何故なら私は仲間さえも手にかける人間だからである。
「だってさ、本当の道筋を歩んだ人に失礼じゃない?」
そうぽつりと呟く。だってさ、そういう道筋だったからこそ今があるのだ。変えて何になるというのか。
しゃがみ込んで壁にもたれる。あとは刀剣達の報告待ちだ。
「あー……顔向けできない」
全員、私は殺した。自分自身も、殺した。何度も何度も殺した。裏切り者と罵られて不審がられて蔑まれて見捨てられて死んだこともある。審神者になってから行く日もいく日もそんな夢を見続けている。一緒だ、刀剣達もそうだ。でも、彼らは新たな主として私を見出し、私はそれらが空白なのだ。
「主!」
そんな声が聞こえて顔を上げる。かけてきた刀剣達に怪我はないよと笑う。
「ちょっと夢を思い出して気分悪くなっただけ」

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十分きっかりで帰ってきたナマエはさすがというか。ナマエの後ろから顔を覗かせたのは初期刀の陸奥守だろう。
「ただいまー,とりあえずわかる範囲で片付けておいた」
そう言ってナマエは動きを止めて首を傾げる。
「あれ、これ通訳しなくていいなら私いる意味なくない?」
「いや、俺そこまで中国史詳しくないからいてくれあると嬉しい」
「しかたないなー。むっちゃん,先帰っといて。報酬はむしりとるから」
「おん!まかしゆう!」
「主ー、今日の夕飯は小籠包だから早く帰っておいでよー」
「はーい」
ナマエはひらひらと手を振って俺の隣に座った。
「お久しぶりです、曹操様、劉備様、孫堅様は遠呂智ぶりですかね」
ナマエの言葉に俺はピシリと固まる。いや、え?と俺は彼らとナマエをみた。三人とも頷くあたりおそらくそうらしい。
「あぁ、久しぶりだな、名無。しかし、お前は何故日本に?」
「私もよくわかんないんですけど、私日本から流れてきたとかそんなんじゃないですか?李家のもらい子だし。御三方が中心に組織していく感じなんですか?」
「まだ何も決まっていなくてな。具体的にどういうことか、全くわからないから説明を聞いていたところだ」
「でもまたなんで三国時代の面々が中心に?」
「あぁ、それは改変が少ないからなんだよ。日本が調べたところ、そこが1番改変が少ない」
「嘘でしょ」
「マジ。まぁ細々としたところは変わるんだが、流れは変わらないらしい。だから、正しやすい」
俺の言葉にナマエは変な顔をする。そして、あちゃあ、というしぐさをした。
「やっぱり聞いてなかったか……」
「は?」
「いや、うーん、まぁ、聞けよ、友人」
「ああ」
「私が審神者になって数ヶ月たったころ、三国時代の夢を見たんだよ」
「昔の夢だろ?」
「私もそう思った。ただの夢ジャーンと思いながら懐かしく楽しく過ごしたわけだよ」
そう言いながらナマエは頬杖をついた。こら、かわい子ぶるな。ナマエは何かを思案して、そうして口を開く。
「……でも、明らかに私の記憶よりも郭嘉さんが長生きなんだよ」
「……ん?」
「赤壁にも郭嘉さんいるし、それ以降も郭嘉さんいるしで、最終的には魏が天下とっちゃったんだよ」
「は?」
「起きたら歴史がそうなってたから仕方なく無断で私は過去の中国に渡って郭嘉さん止めたら戻ったから、変換からあって半日の振れだと思う」
「たまたまか?」
「んー……他にも色々あるんだよ、徐庶さん蜀にずっといるとか、孫堅さんが在命のままとか、一族が滅ぶ滅ばない、仲間になるならない、合戦のタイミングが違う、勝敗が違う、進軍の先が違う、生きてるはずの人が死に、しぬべき人が生きる。私は夢で散々見たよ」
ナマエはそう言って手元をみた。
「だからさ、助けたい人を生きたいと願う人を見殺しにする覚悟も、昔の理想を捨てる覚悟もいる。過去を守る手段を得ると言うことは、過去を変える手段も得ることができるわけですし」
俺はその言葉に頷く。過去を守る我々の1番のタブー。それは過去を変えることだ。
「ナマエよ、今更な話だ。儂達は今を生きている。過ぎ去った過去を変えて何になる?」
ナマエはその言葉に顔を上げる。
「曹操の言うとおりだ。過去を変える。それは俺達が歩んだものを他人に否定されることと同意義だからな」
「安心して欲しい。ナマエ。私達は大丈夫だ」
「……よかった」
ナマエはそう息を吐いて泣きそうな顔をした。
「これでやっとゆっくり寝れそうな気がする。でも、劉備様と孫堅様が大丈夫って言うべき相手は私じゃないんだよ」
「?」
「馬岱さんと陸遜さんにいってあげて欲しいなぁ」

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夢を見る。やはり何処かがおかしい夢を見る。相変わらず同じ世界にいる同じように意志を持つその人達に、同じように参りかけているその人達に私は口を開いた。
「もうすぐでこの変な悪夢も終わるかも」
そう言いながら景色を見る。隣にいる二人は私を見下ろした。
「どう言うことですか?」
「うーん,そんな予感がするだけ」
「その予感信じちゃっていいの?」
「いや、それ言われると迷うけど……まぁ、二人とはいつか現実で会えたらいいね」
「それは素敵ですね。お二人とこの世界ではない世界で会う。考えたことはありませんでしたが、もし会えるならのんびりお茶でも飲みたいところです」
「ナマエ殿おばあちゃんだったりしない?大丈夫?」
「1番年上の馬岱さんがなんかいってる」
そうケラケラと笑う。二人は珍しいというふうに私を見た。もうすぐ戦が始まる。私が死ぬ戦が始まる。
「そろそろ戻んないと。お先に」
「えぇ、また」
「またねー」
私はひらりと手を振ってうまをかける。そうして私はこの戦で、本来ならばありえない、そこにいるはずのない徐庶さんの助けを拒み、自ら命を絶ったのだ。


=

「顔色悪いよ、どうしたの?」
「ナマエが、死ぬ夢を見るんだ、どうやっても、ナマエを助けられなくて……助けたと思っても自分で命を絶ってしまう……」
「ねぇ、徐庶殿、ナマエ殿はそこで死ぬ運命なんだから、それを捻じ曲げるなんてひどい話じゃなあい?」
「……でも、おれは、ナマエに、生きて欲しくて」
「そんな人はあの時代にたくさんいるよ。今を生きる俺たちにできるのはそのナマエ殿をこの現実で探すことだよ」
「……そうだけど」

なんかシリアスな雰囲気出してるなぁ、と思う。先に二人にあった方がいいのではという三人と友人の上司の助言により蜀が運営している学校にきてみた。まぁ,中国出張である。なんかそれぞれ学校運営したり色々してるのだが、学校が集まる催しがあるらしい。そんな中、シリアスな雰囲気で会話する馬岱殿(仮)と師匠である徐庶さんに私は突撃することにする。
「ひゃっはー!徐庶さんじゃーん!徐庶さーーん!」
腰あたりに抱きつきに行けば、徐庶さんは目を見開いて私を見下ろした。
「えっ……」
「元気にしてた?また鬱々オーラ満載にしてるけどなになに?」
そう言いながら周りをくるくる回る。うーむ、学生服ではないのを見ると大学生ぐらいだろうか。馬岱さん(仮)は学生っぽいな。年齢層基準は何なんだ。私?私は中学生ぐらいである。
「ナマエ?」
「そうだよー、徐庶さんの撃剣がカッコいいから弟子入りしたナマエですよー」
そう言って立ち止まり彼を見上げる。見つめ合うこと数秒、徐庶さんはポロポロと泣いて、私をだきよせた。
「ナマエ、すまない、すまない、」
「えっ、なに。なんで」
「俺が不甲斐ないばかりに、ナマエを、」
「徐庶さんは不甲斐なくないよ。私は好きに生きたんだし、あそこで死ぬのも悔いはないんだよね。だから気にしなくていいよ」
私はそう言って彼の背をぽんぽんたたく。それより気にして欲しいのは私の過去を変えようとすることなのだ。最近の夢は徐庶さん関連ばっかなのだから。ぐすぐすと泣いている彼にハグをしながら、馬岱さん(仮)をみる。
「同じような繰り返す夢を見てる奴はいるかー」
「ここにいるよぉ、」
「ってことはやっぱり馬岱さんか。やほー、馬岱さん、昨晩の夢ぶり〜」
「なんだかとってもロマンチックだね、その響き。そしてナマエ殿が思ったより小さい。今何歳?」
「中学生ぐらい」
「ぐらい?」
「年数えるのやめたし学校行ってないからわかんないんだけど、多分15、6ぐらいじゃない?」
徐庶さんをハグしたままそんな会話をする。蔑ろにするなって?いやこの人卑下めちゃくちゃしてメソメソするけど基本的には軍師だから。表面だけメソメソの可能性もあるから。今だって、徐庶さんは涙を拭いて私をみおろした。
「ナマエ、学校に入ってないのかい?」
「はいってないですねぇ、働いてるし」
「じゃあここに通っちゃう?劉備理事長なら通わせてくれると思うよ」
「いや、私日本人なんでビザもクソもなく通学は無理」
「えっ」
「あぁ、そういえば、君はそっちかもっていう話だったね」
徐庶さんは私の養父母に聞いていたらしい。私は頷いた。
「うん、確定したかなってかんじ。あと、なんか曹操様にも通う気あるならおいでよって言われたから、たぶんそっち行くかも」
「あー、鳳凰学院ね」
「先に曹操……さんと会ったのかい?」
「劉備様と孫堅様にも会ったよ。日本にある私が働いてる場所に視察に来てて、色々あるからこっちに一回おいでって言われてきたし。でもその三人以外なら二人が最初かなぁ」
手を伸ばして相変わらずまだメソメソした表情の徐庶さんのほっぺをむにっと引っ張る。痛くもないのにいててと告げる彼に満足して手を離した。徐庶さんのメンタルよいしょ係は私だかんな!
「さてと、二人を見つけてこっちにきたのはいいけど、応接間どこだ」
「相変わらずだなぁ。仕方ない、連れて行くよ」
そう言った徐庶さんの手を繋ぐ。ついでだと馬岱さんの手も繋ぐ。
「もー、ナマエ殿はすぐこんなことするー」
「君に言われたくないわ」

==

ひょこりと顔を覗かせればなんか結構集まってた。懐かしい顔ぶれである。夏侯惇さんが首を傾げた。
「その顔はナマエか?」
「ちーっす、夏侯惇さん、18世紀ぐらいぶりー」
ケラケラ笑いながら手を振る。遅かったな、と告げた曹操様に「迷ったので」と言っておいた。賈詡さんが微妙な顔するのは私が一定まで迷子迷子言ってたけど実は方向音痴ではないことを知ってるからだ。満寵さんはケラケラ笑っているが。
「久しぶりにきいたなぁ、ナマエの迷子!」
「久しぶりに言った」
「なんでナマエがいるんだ」
「あぁ、日本の例の場所で働いてるようでな、とりあえず連れてきたところよ」
曹操の言葉に視線がこっちに向いた。うーん、君主+相棒+軍師とか何この無理ゲー感。あとこれ、嫌な予感する。
「あー、これは大変だ」
「何がだ」
「普通に考えて第一段階で無理だったならここを狙ってくるなぁ」
「……お前が引っ掴んでいたあれか」
「あれです」
孫堅様の言葉に刻々頷く。……。てか、中国って、なにおろすの。やっぱり武器の付喪神か?とたくさんハテナを浮かべる。というか説明全部するのか?いっきに??
「ナマエ、よくわからないけど、露骨に面倒くさいって顔をしちゃだめだよ」
そう叱った徐庶さんに、私は彼の周りをうろちょろする。
「徐庶さん、撃剣持ってる?」
「持ってるわけないだろ」
「なるほど。えっ、あー、そうか、普通はそうだよねぇ」
うむうむと納得する。いや、私が撃剣出せるのも夢見た後からなんだし、そもそも術式自体もない。まぁ、刀とか取り出したらただの不審者なんだよなぁ。ノックの音がして背後から人がくる。お茶を、というあたり擬態しているが、気配と匂いはごまかせてないゾ。私はそのまま擬態を見破る術を展開する。その瞬間、ばちん!と言う音がなり、姿が変わった。日本の遡行軍ではないその風貌に、国が違うとやはり違うのか,と思う。ガタリと全員が立ち上がってそれを見る。
「どうしまシたカ?」
不思議そうに首を傾げたそれに私は短刀を呼び出して机に押さえ込む。
「ナマエ殿、それは一体」
そこで初めて擬態が解けたのだと理解したらしい。暴れたそれをそのままおさえる。
「うーん、私は初めて見るけど、多分中国側の駒みたいなものだと思う。どこまで話が言ってるかはわかんないけど、人間は基本的に時間を遡れません。遡れないが為に、こう言う人間ではないけど意思を持つもの、そもそも意思を持たないものを過去に送りそれと人を接触させることによって過去を変えて行くんです」






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