2021/06/21

神様兼任司書が遠呂智にいる


目が覚めたそこは、恐らく現代ではない。また時代の云々に巻き込まれたのだろうか、とナマエはいきをはく。刀剣を呼び出したところで、何か解決することもなさそうである。はぁ、とため息を一つついてナマエは当たりを見渡した。戦国時代でもなさそうである。


子供を拾った。正しくは拾ったというか、一番偉い人物を機転をきかせて助けたというか、そんなものだ。見るからに身なりがいい子供であるが、どうも喋れない。どこから来たのかもわからなければ、ひどい話敵の策である可能性さえある。殿と呼ばれる人物の命を救ったが故に無碍にできないその子供はそのまま保護をされることになった。目付け役はそこにいる将兵や軍師たちである。刃物を大切そうに抱えて、椅子に座った子供は足をプラプラとさせて外の景色をながめといた。どこかの地方の言葉ならあるいはと思ったが、どの言葉をも理解している子供は本当に喋れないのだろう。

ーー何かを知ってしまったが故に声を奪われてしまったのか,果たして。

そう告げた郭嘉にナマエはなんともいえない顔をした。声が出ないのは中途半端に人の身になっているからだろう。どうやら他の言語でも勝手に日本語に変わってしまうらしく、どう聞いても全員日本人ではない名前であるが喋っている言葉は日本語に聞こえた。
三国志である。正しくは中国史の中にある三国時代だ。吉川三国志の世界に無意識に迷い込んでしまったかと思ったが人名をきくにそうではない。恐らく時代云々の方が正しいのだろう。ナマエは郭嘉を見上げ、郭嘉は何かな?と首を傾げた。


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荀家の二人は、なかなかに過保護である。あんな大人になってはいけませんよ、とは荀ケの言葉である。荀攸はナマエの目付け役なのか、たまに観察されているのか様子を伺われているのかわからないが、まぁ物静かなので気にしていない。問題はただ今保護者筆頭の立ち位置にいる郭嘉だった。じゃあ私が様子を見ていようと言ったくせにナマエが世話をしている。あと満寵に至っても世話をする。立場がまるで逆である。酒と女が好きな為にナマエはだいたい違うところ(主に荀家)に厄介になっていることが多いのだが。

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「その子は人の子ではあるまい」
バレた。そう思いながらナマエはパチクリと女性を見上げた。同じく彼女もまた人の子ではない感覚がする。郭嘉と一緒にこのおかしな世界に迷い込んだナマエである。郭嘉と城にいたら妖魔が攻めてきて、荀ケ達に助けられたのだ。
その場にいた魏軍の面々はナマエを見下ろした。
「人ではない、というと、貴方達と同じ,ということでしょうか」
「いや、私達とも違う。どちらかと言えば妖魔に近いが、妖魔と比べ邪悪なものではないし、恐らく害はあたえまい」
その説明にナマエは困った顔をした。あんまり良くない説明であるが、たしかに、妖と数えられることもあるのだからおかしくはない。
「おや、もしや、君は化け狐だったのかな?子供だからうまくばけれずに声を出せないんだろうか」
郭嘉の言葉にナマエはぶんぶんと首を左右に振った。すくなくとも狐ではない。体が宙に浮いたと思えば満寵である。くるくると回った彼にナマエはジタバタする。
「化け狐が殿に仕官したくて人の子に化けてるとか?」
だから違うと。ナマエはジトッとした目で満寵をみる。満寵は気にしていない。
「確か似たのがいたな」
「似たのが?」
「あぁ、カナタという若武者だ」
その言葉にナマエは固まった。兄様何やってんの。そう思いながら女媧と名乗った人物をみる。満寵はそれをみて問いかける。
「知り合いかい?」
その問いかけにナマエは刻々と頷いた。女媧はナマエを見て緩やかに笑みを浮かべる。
「ふむ?呼んできてやろう」
女媧の言葉に青い服を着た兵はかけていく。ナマエはそれを見て引き留めるように首を左右に振ったが時すでに遅しだ。満寵に降ろされる。
「尻尾はないのかな?」
だから、化け狐では、ないと!ナマエはポカポカと満寵を叩く。
「抗議していますね」
「のようだ」

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カナタと会うならば,飛びかかってくるのは目に見えている。子供の姿になった自分でも容赦が多分ない。仙人と一緒に連れてこられたのは、竹中半兵衛とカナタである。自分とよく似た瞳の色を持つ人物はナマエを見ると、近くにあった棒を掴みそのまま振りかぶった。ナマエはそれをぴょんと飛んでかわす。そのまま槍や薙刀のように棒を扱うカナタにナマエはぴょんぴょんと跳ねたりして避ける。勘弁して欲しい。勝てっこない勝負なのだ。ナマエはそう思いながら必死で避ける。足の隙間にスライディングしてそのまま脇差を取り出した。そのまま脇差の鞘で攻撃を受け止めて流す。いい加減にしつこい、と、ナマエはぴょんと大きく跳ねて宙返りするとそのまま張遼と于禁の後ろに回り込んで張遼を盾にした。それを見たカナタはケタケタと爆笑する。ナマエはベーと舌を出した。郭嘉はそれを見て口を開く。
「知り合いみたいだね」
「カナター?ちょっと何してんのさ」
「悪い悪い、半兵衛」
「わ、喋った」
その言葉にカナタは首を傾げる。ナマエが小さく口の前でバッテンをつくる。それを見てなるほどな、とカナタは頷いた。
「どうも、そいつ世話になってるみたいで」
「そいつ?」
「そこにいる御仁の後ろにいるやつ。俺のきょうだいの一人なんだが、行方不明になってて」
カナタの言葉に郭嘉は「おや、そうだったのか」とカナタを見た。竹中半兵衛はカナタを見上げる。
「なんで兄弟に振りかぶってんの?馬鹿なの?」
「いや、俺が目を離すとすぐ鍛錬やめるから。どうせ鍛錬サボってんだろうなって振りかぶった」
あれは、鍛錬では、ない!ナマエはそう抗議するが、伝わらない。とりあえずしがみついていた張遼は鍛錬?とナマエを見下ろしたので、ナマエは荀攸の後ろに移動した。こちとら文系である、が、ナマエの弁明である。
「何故わざわざ俺のところに……」
「俺との鍛錬が苦手っつーか、ソイツは学問よりだかんな。学問の方が得意だから、鍛錬誘ってきそうな人よりアンタの方に隠れたんだろ」
ひしっとナマエは荀攸の服を握る。後ろからてこでも動かない気である。
「おや、では二人で魏に仕官するといい」
「俺はやめとく。豊臣に厄介になってるし、ソイツはなんやかんや一人でも大丈夫だしな」
ばっさりと切り捨てたカナタに周りはカナタを見る。子供一人で大丈夫なわけがないと思う周りと実年齢100歳超えてるしなと思うカナタの溝は深い。満寵が興味津々という風にカナタをみる。
「兄弟なのに、君は喋れるんだね。君は本当に人間みたいだ」
「あー、今はそいつ中途半端な状態だかんな。俺とは違う状態。普通は目に見えないはずなんだよ。でも、アンタらが生きている時代のせいか、この世界のせいかで全員に見えてるだけ。声を聞きたきゃ名前を当てたりすればいいんだよ」
「名前を当てる?」
「俺がソイツの名前よんでも、アンタ達には聞こえないからな」
「試しに読んでみてよ」
『桜守景光』
ナマエにはきちんとした名前(刀の名前)に聞こえたが、恐らく他にはノイズ音にしか聞こえていないはずだ。竹中半兵衛がカナタをみる。
「え、本当に聞こえないんだけど、なんで?」
「多分俺の本名も聞こえないぞ」
「本名?」
「人間に紛れるためにカナタって名乗ってるだけだからな」
「本名は?」
『紅葉狩景光』
「……おや、同じ発音があったね。君たちの名前は似ているのかな?」
そう言った郭嘉に、カナタはピシリと固まる。ナマエは苦笑いしてカナタをみた。


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「ヤッベ、これはやばいやばい」
カナタの語彙力がなくなっている。ナマエはそう思いながらやばいやばいと連呼しているカナタを見上げた。まぁ、確かに形勢はとても悪い。ナマエははた、とおもう。曹丕と呼ばれる人であったり、趙雲、真田幸村、銀屏、井伊直虎は神格化と呼ばれるように神様の力を宿すことができる。ならば、べつに自分達が神様の力を使ってもいいのではなかろうか。ナマエはちょこちょことカナタに向かってかけてその要件を伝えようと思ったが、やめる。カナタが見慣れない包帯を巻いているなと思ってはいたが、やばいの理由を理解したからだ。恐らくこのまま放置すれば、カナタは折れてしまうだろう。それはいけない、とナマエが駆け出した瞬間、カナタが真剣必殺を放ったのが見えた。慌ててナマエはカナタを本陣に引っ張り込む。
「カナタ!大丈夫か!?」
パキリ、とカナタの顔にヒビが入る。周りがギョッとカナタを見る。ナマエは慌ててカナタに札を貼った。その瞬間カナタは紅葉と共に消えて刀だけが残る。ナマエは息を吐いてその刀を抱えた。大きいが、大太刀とは違いまだ持てる大きさである。それを手入れするには安倍晴明の力を借りるか、同じく陰陽術に長けている直江兼続の力を借りた方がいいだろう。ホッとナマエが安堵の息を吐いたが、周りの視線がナマエにむいていた。
「なに!?なにがおきたの!?」
それを説明する言葉がナマエには紡げないのだが。

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「お兄さんを刀に変えてしまったらしいじゃないか」
その言葉にナマエは首を左右に振った。おや、しらを切るつもりかな?と問いかけた郭嘉にナマエはそうじゃないのだと困った顔をした。因果関係が逆である。ナマエが刀に変えたのではなく、カナタの元が刀だ。ナマエははぁ、と息を吐いてどう伝えるかと考える。中国語は流石に綴れないし、漢字も違う可能性があった。文章を綴ると何かがおきるかのうせいがある。ナマエはとりあえず地面に草書体で逆とかいて困った顔をして郭嘉を見上げた。
「それは……逆、かな?」
郭嘉の言葉にナマエは刻々頷いた。私,ではなく、我の方が良いだろうか。兄は伝わるだろうか。兄、我、刀、と書いていれば、やってくる。
「郭嘉殿、あの子は……」
「あぁ、ここだよ」
「兄を刀に変えてしまったときいたよ!どうやったんだい!?」
体が宙に浮いてナマエはジタバタとした。恐らくは満寵である。なるほど、結構な騒ぎになっているらしい。
「郭嘉殿、何を?」
「何かを訴えたいみたいだからね、文字で会話を少し」
「文字が書けたんですか」
「みたいだね」
「ナマエ、どうして兄を刀に?」
また一からである。ナマエはがっくしと肩を落とした。
「ナマエ、これは、兄、かな?」
その言葉にナマエは刻々と頷いた。荀ケが言葉を続ける。
「これは我、刀、でしょうか」
ナマエは刻々と頷く。
「つまり?」
「もしや、逆だって言いたいのかい?」
そうだ、とナマエは大きく頷いた。
「逆だとすると、貴方が何かしたのではなく貴方の兄が何かをして刀になったんですか」
荀攸の言葉にナマエは首を左右に振った。それは違う。
「君たちが刀だっていいたいのかな?」
その問いかけにナマエは頷いた。仕方ないからばらすしかないだろう。と,思っていれば曹操達の前にナマエは連れていかれることになるのだが。

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カナタを返して欲しい、と半兵衛に言われてナマエは困った顔をする。確かに武芸に優れる兄は貴重な戦力だろう。返して欲しい、戻して欲しい。それらは切実にちがいない。言葉を伝えようにも難しい。が、恐らくは全員力が強いのだからおろしても大丈夫だろうとは思う。しかし、重症だ。仕方ない、とナマエは息を吐いて、とりあえずカナタの本体でもある刀を半兵衛に渡して周りをキョロキョロ見渡した。注目されている。
ナマエはとりあえず息を吐いて、懐から紙と筆を取り出してみる。兄様、怪我、酷、と書いて見せれば、半兵衛はそれを読んで眉尻を下げた。
「酷い怪我だから刀にしちゃったの?」
その言葉にナマエは首を左右にふる。喋った方がはやいか、と名前は自分の名前を紙に書く。そうして、半兵衛に読ませた。
「なんだろう……おうしゅ……さくらもり……」
「かげみつ、ではないでしょうか?」
「さくらもり、かげみつ?」
その言葉にナマエは頷いて、刀を持って郭嘉の元に向かう。そうして郭嘉に刀を渡し、もう一度紙を見せた。
「あぁ、なるほど。俺たちは正しく読めないから彼に頼んだのかな?桜守景光」
郭嘉の言葉に周りに桜吹雪が舞う。そうして少し高くなった背にナマエは彼を見上げた。
「ありがとうございます、郭嘉様。本当であれば、今しばらく名当てを楽しみたかったのですが。この事態では喋らなければどうすることもできませんので」
そう一礼してから今度は半兵衛を見る。
「竹中半兵衛様、私は兄様を刀にしたのではございません。その逆、刀に戻したのです」
半兵衛は目をパチクリと瞬く。
「刀に戻した?」
「はい」
困惑してらっしゃる。ナマエは眉尻を下げた。ううん、と考えて、ああ名乗っていなかったと目を伏せた。
「その前に一旦名乗りましょう。私の名は桜守景光。人の身をナマエ。幼子の代わりに天満へ奉納された長船派の脇差です」
「脇差」
「はい。郭嘉様がお持ちの脇差が私の本体。本来ならば人に名を呼ばれることにより私達は一時人の身になれるのですが」
「刀に見えないな」
「見えなくとも我が身は刀です。刀にヒビが入ればこの姿にも怪我が現れ、折れてしまえば私は死にましょう。そして、それは兄にも言えること」
そう言って半兵衛にナマエは刀をまた受け取り、刀を抜く。うーん、折れる寸前だ、とナマエは思いながら刀を見下ろした。
「これ以上振るえば兄は折れてしまいます。兄はそれでも良いでしょう。兄にとって兄のような刀にとって、人のために戦って壊れることは本望ですから。でも、それでは私が困ります。なので、兄が折れる前に刀の身に戻し、治そうと思ったのです。そうすれば兄は命を落とすことはなく、また元気に現れる。元気にしてからお返ししようと……」
「……それ、なおせるの?」
「はい。普通の刀ならばなおせませぬ。しかし、我らは一応神の眷属となる妖。水と玉鋼があればなおせます」
ナマエはそう言って納刀する。


==話が飛ぶ

郭嘉様は何か遊びに行く時は私の本体を置いていくのだ。いや、わかる。女の人と会ったりするもんな。彼自身、自分が危ないとわかっている場所には私を連れていくので多分危なくないのだろう。
「ナマエ、また郭嘉殿に逃げられたのですか?」
「逃げられたというか、また置いていかれたというか……何かあれば呼び出してとは告げたので……」
「逃げられたんだね」
「女の人と一緒にいるところに、私がいるのはちょっと……」
刺激かきつい。そう目を逸らす。



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