2021/12/31

2021年オフラインネタ帳大放出祭27


そもそも、私が純粋な16歳かといえばノーだ。女子サッカーで活躍して片足を失い、アンプティサッカーでまた頂点にいた前世という記憶がある時点で違うだろう。私は知識があったから、昔の記憶で、体の感覚で、そして努力でそこまで上り詰めたのである。しかし、降ってきたのは賞賛だけではない。
ーー男だったらよかったのに。
そんな言葉をきいて、私はケラケラ笑った。
「別に性別とか、どっちでもよくない?」

私の周りは特殊である。両親の仕事の関係で私はドイツにいて、ドイツのブンデスリーグのヘルタのスクールに通っていた。隣に引っ越してきた花森圭悟に懐きつつ、花森圭悟を通じて持田蓮やその幼馴染みとも知り合ったりした。私の技術がなまじあるのだから、私は男子に混ぜられ、途中でユースに飛び級し自分が使える人間だとみせつけ、さらに飛び級して15歳でプロになった。有名かどうかと言えば、おそらくそうではなかった。代表召集、負け試合確定のようだった試合をひっくり返すまでは。ほとんど一人でひっくり返してしまったようなものだった。負けたくなかったから。キャプテンだった人の引退試合だったから。でも、だから、こうなったというか。
「私一人だけを司令塔にする意味ある?」
そう変な顔をしつつ今はコーチをしている稲瀬さんを見る。彼は頬杖をついて私をみた。今の流行りは複数人じゃん、とぼやけば「そうだな」と彼は頷いた。
「だが、コーチに権限はないぞ。特に俺みたいな新任はな」
「ちぇーっ。みててつまんなくない?中身変わり映えないじゃん」
「お前がいるからつまらなくない。実際お前が有名になってから集客はいい」
「それっていわゆる私のプレーで持ってるだけじゃん。私を客寄せパンダにしてもいいけど、それすると私ないない試合は外野がうるさくなるよ」
ファーストフードのシェイクを飲む。彼は「そうだな」と肯定した。
「だが、連れてきた俺がいうのも悪いが、お前が『おかしい』だけだからな。レベルが周りと違いすぎる。普通の女子トップレベルでも、たとえファン感謝デーとかお遊びのミニゲームでも、ヘルタの男子チームに混ぜてもらえるお前がおかしい」
「えぇー、あれハナちゃん選手がいれてくれてるだけだよ。非公式だし」
「それでも、だ。今の日本代表はお前に縋るしかない状況だ。人気も落ちた、実力も下がった。引っ張ってきた能見も引退する。そんな中、お前がぶっ飛んだことをしでかした」
「やっぱりあれが原因か。うっわー、どのみち地獄じゃん。私が召集断れば外野から叩かれて、試合に出なくても叩かれて、負けても私が叩かれる。相手からはきついあたりも厭われないし、着く人数だけが増える。周りを鼓舞して、周りを引き出して、レベルも上げる。周りを置いていけばチームメイトからダメ出しされる。これ、この国にトップレベルが十五、六の子供にやること?」
変な顔をしているだろう。つまらない。重圧ばかりだ。なんとか目を逸らそうとしてもそれは直面する。いくつかは見るな聞くなと言わんばかりにハナちゃん選手が目を逸らさせてくれるし、モチダレンにもなんとも言えない顔をされる。「お前ガキなのにえらいもんぶらさげてんね」というくらいには多分男子の方では起こり得ないことなんだろう。
「稲瀬さん、監督になったらさー、トランプ兵じゃなくてアリス育ててよ」
「アリス?」
「赤の女王の言うことをきくトランプ兵じゃなくって、赤の女王に物申すアリス。私は対等でいてくれる人とフットボールしたい」
私の言葉に彼は目を瞬いて、そうだな、と頷いた。
「……アリス候補を見に行くか?確か近くで練習試合かなんかしてるの見えたぞ」
「……見に行く」
そう頷けば彼は立ち上がる。私も立ち上がって彼についていった。

==

河原である。おーやってるやってる、と思いながらそこを見た。しかしながら、服の色がまちまちなあたり同じチームというわけではない。何か大会みたいなものだろうか、と見てみれば大会だったらしい。スポーツメーカーとかそこのあたりだろうか。
「これどういうチームだろ」
「あっちが上級生、こっちが下級生じゃないか。みろ、代表候補にいる結城がいる」
「ふーん」
そう相槌しながら河原に座り試合をみる。上級生の方が流石にうまいが、どちらかというと面白いのは下級生の方だ。ファンタジスタタイプ、器用なタイプ、当たりが強いタイプよりどりみどりだ。
「下級生の方が惜しいね。もうちょっとボールの渡し方とか感覚覚えたら下級生の方がいい線いく気がする」
「上級生の方が上手いだろ」
「両方まだ下手。ただ、みててワクワクするのは下級生」
私の発言に彼は目を瞬いた。上級生は多分ただのトランプ兵になりそうな気がする。
「お前が歳が近いのは下級生の方か」
「どっちもどっちじゃない?」
「よくみれば、アンダー代表はちらほらいるな。佃、曽根崎はアンダーだ」
「へぇ。あの子多分めちゃくちゃ初心者だから可哀想なことになってるなぁ」
そう思いながら頬杖をつく。そこ突破しやすいもんなぁ、と思いながら見ていれば稲瀬さんが軽く頭を下げた。ちらりとみれば監督側も頭を少しさげている。
「知り合い?」
「お前は代表被ってないな。前の代表の監督で強豪校の監督だ……ふぅん」
ニヤリと稲瀬さんが笑い、私の手を引っ張った。なんだ!?と思っていれば、坂を下り回り込んで彼は監督席に向かう。
「お久しぶりです、鷲巣監督」
「久しぶりだな、稲瀬。代表はいいのか。もうじき代表の事前合宿だろう」
「それが、つまんないって、臍を曲げた奴がいましてね」
それは私のことか。いや、私しかいないが。こちらを見た鷲巣監督さんと、その隣にいた男性に私はむぅっとしておく。
「あそこにいる子、初心者でしょう」
「人数が足りなくてね」
「コイツをぶっ込んでもいいですか」
その言葉に私は稲瀬さんを見上げる。
「同世代とフットボールさせてやりたいんですよ。そっちの方が刺激になる」
「……構わんよ。こちらも刺激になるだろう」
そう言い切った彼は能見と立ち上がっていた女性を呼ぶ。振り返った彼女に、私は目を瞬いたのだが。

とりあえず伊達メガネをかけたままビブスをつけてスパイクを履く。そのまま女の子と交代すれば誰?みたいな顔されてる中、ひらりと手を振っておいた。まぁ、変わらずここから攻めれると思ってる馬鹿にケラケラ笑いながらボールを取る。そのまま相手を交わしながら攻め込み、結構な距離のシュートを撃てばそれはゴールを揺らす。周りが一瞬静まって、相手チームが唖然としたが気にしない。
「んーー、ちょっと枠ギリギリすぎたなぁ。もうちょっと右でもいけたか」
そう言いつつ伸びをする。こちらを見た相手に、ケラケラ笑いながら口を開いた。
「ま、準備運動としてはオッケーでしょ」

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「相変わらずえげつない」
そう苦い顔をした能見に「そうだな」と頷く。確かに相変わらずえげつない。それは荒いプレーというわけではない。レベルが高いプレーを、周りのレベルに関係なく発揮する。そんなえげつなさが苗字ナマエという人物にはあった。
苗字ナマエは天才としか言いようがない選手である。飛び級に飛び級を重ねてプロ、ひいてはA代表になった15歳。まだ中学生、子供にしか思えない年齢の人物の登場で女子サッカーをする周りはめちゃくちゃにかき回された。よりによって、能見というレジェンドの引退試合で。敗戦待ったなしのスコアをほとんど一人でひっくり返し、能見に最後の逆転ゴールを譲ったのだ。そりゃあ騒ぎだ。海外もほとんどノーマークの人物。俺もドイツの知り合いに聞かなければ知らなかった人生である。
そんな騒ぎを見ても平然としているのはお抱えのヘルタ属するドイツの面々ぐらいだろう。あの子のプレーに、当たり前ですけど何か?という風に切り返す。クラブハウスは苗字を代表によこすのをいい顔はしない。寄越しても一部男子のスター選手のように時間制限がつきまとう。その理由は理解できる。あの子のレベルはもはや女子のものではなく、男子の下部組織でもやっていけるようなレベルだからである。天性の才能に加えて努力家、毎日にスケジュールを聞いても狂いそうなくらいフットボールしか考えていない。大人が強要しているのかと思えば決してそうではなく、自らやっている。そんな子供にあるまじき『化け物』だ。
「というか、こんな試合に混ぜていいんです?苗字、結構制約あるでしょ?」
「いいんだよ」
能見の問いにそう答えれば、能見は「相変わらず苗字に甘い」と苦虫を噛んだような顔をした。
「ついでに、その顔で苗字を叱ってやれ」
「は?」
「代表は『つまんない』らしい」
「はぁ!?」
能見の反応は当たり前のようで当たり前でない反応だ。
「……言いたいことは分からなくもない。だが、今の女子代表は圧倒的なアイツの実力に縋り付いてる形だ。アイツはどうであれ、代表に入る形を間違えたと俺は思う」
「どういうことです?」
「あれだけのことをしたんだ。悪い意味でもいい意味でも、周りのプライドはズタボロになった。そこからあそこにいる何人がアイツと同じ目線に立ちたいと思った?」
そう言って苗字から目を離し能見をみる。
「日本において、アイツには同じフィールドに立つプレイヤーの中で理解者がいると思うか?」
少し目を見開いた彼女に、鷲巣監督が口を開いた。
「……諦めたか。おいつけなくて」
「ええ、多くがアイツは特別だと見切りをつけた。人間従う方が楽ですからね。……アイツに従えば、だいたい勝てる。理解しなくても、従えばいい。それが今の監督の意向です」
「お前はどう思ってるんだ、稲瀬」
「俺はただ、アイツにフットボールを楽しんで欲しいだけですよ。それには、きっと、理解者がいる。一緒に重責を抱えられるような、同世代の」
それこそアイツがいうようにトランプ兵のような人間ではなく、アリスのような。まぁ、当の本人はケラケラと笑って本心ではわかりにくいやつではあるのだが。

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向けられる視線、そんな、ちょっとしたことだ。キラキラと視線は決して嫌いではない。私が身動き取れなくなれば、誰かがボールを取っていく。私が指示を出さなくても感覚で攻撃にうつる。それはとても新鮮な感覚である。試合を終える笛が鳴る。その音にふはっと笑えば稲瀬さんが珍しそうに私を見た。稲瀬さんに合流すれば、どうだった?と聞かれた。少し考えて、口を開こうとすれば、後ろから突撃されたが。
「すげー!なぁなぁわ、どうやってんの!?」
「あんまりこの辺りで見ないけど、どこのチーム?クラブ?」
「クラブでもあんまり見たことないよ。どっから現れたの?関西とか?」
その言葉に笑いが込み上げてきてケラケラ笑う。は?みたいな顔をされたので私は口を開く。
『ごめん、あんまり見たことない感じだったから』
「??」
『いやー、ちょっと驕ってたかも。そかそか、ふふふ』
「何で言ってるかわかんないんだけど」
「おっと……普段遣いそっちだから仕方ない。ごめんね!」
そう言ってケラケラ笑えば?を浮かべられたが。
「……私もみんなの名前知りたいな。教えてよ」
「私、ワラビーズの恩田希!こっちが越前佐和。よろしく!!」
「えっと、越前佐和です。よろしく」
「……同じく周防すみれ」
「同じく私は曽根崎緑。よろしくー」
「九乃木の佃真央。で、こっちが井藤春名」
「よ、よろしく」
「オッケー、覚えた。ワラビーズののんのんにすみれにみどりん、九乃木のまおまおとはるちゃんね!記念に写真撮ろ」
そう言いつつスマホのカメラを起動させたらみどりんに止められた。なんだ。
「ちょいまち!名前聞いてないよ」
「……んー、私はナマエ。よろしく」
「ナマエはどこでやっんの?関東で会ったことないよね」
「親が海外にいるから普段は海外のクラブに入ってるよ」
「マジで!?海外!?」
「そんな特別じゃないよ。ほら、東京とかでもスクールとかあるじゃん。その持ち上がりなだけ。この国からステップアップで海外いくのとは訳が違う。私みたいに最初から違う国でやってアウェイになるよりも、この国で仲間とか友達とかライバルとか作ってから国渡ったほうが後々楽しいよ」
そう肩を竦める。彼女達は目を瞬いたが。うーん、いらないことを語ってしまった感。目を見合わせたそのあと、のんのんがしゅぱっと勢いよく手をあげた。
「じゃあ、私が友達になる!」
その言葉に今度は私が目を瞬く番だった。仕方ないなーと言いながら乗り気になった周りが何だか面白くてフハッと息を吐き出した。
「えっなに」
「いや、のんのん、変わってるって言われない?」
「言われない」
「恩田は変わってる」
「変わってる。地蔵だったりするし」
「地蔵?」
「乗らないと動かない」
「ぶはっ!!なにそれ!!だめじゃん」
ケラケラと笑ってのんのんの背中を叩く。地蔵という言葉がツボにハマってしまった。これはちょっと流行らせるしかない。そこまで笑わなくていいじゃん!と怒った彼女に目元を拭う。
「はー、ごめん、つぼにはいった……ふふ……でも今日動けてたね」
「井藤さんいたし、ナマエが上手かったし、なんか燃えというか、女子サッカーの未来を見た!」
そう言ったのんのんに周りが突っ込んだ。
「大袈裟な」
「だって、アタシがいて、そっしーがいて、すみれがいて、井藤さんと佃さんがいたら怖いものなしなのに、ナマエがいたらもう最強じゃん!」
女王奪還!ともえたのんのんのその言葉に、またそんなこと言ってというふうな周りに「ふはっ」と笑う。ケラケラと笑っていれば、彼女はまた怒ったが。
「ちょっと!私は真面目なんだけど!」
「ナマエちゃんめちゃくちゃツボ浅いね……」
「ごめん、ちょっとこれは嬉しくて笑っただけ」
ふふ、と笑う。
「そかそかー、確かに最強かもしれない。うん」
「でしょ!」
「でも先に女王奪還はするかも。それは私に与えられてるお仕事の一つだから」
ふー、と息を吐きながら口を開く。えっとこちらを見た彼女達をおいて、稲瀬さんが時計を見て口を開いた。
「最後に写真撮ってやろうか」
「撮って撮って」
そう言って稲瀬さんにスマホを渡す。写真写真ー、と言いながら撮影し、SNSにあげていいかの許可を取る。
「時計気にするってことはそろそろ時間?」
「あぁ。これ以上は間に合わなくなる」
「んー、散々わがまま聞いてもらったし行くかなー」
「……帰国するの?」
「んーん、今から向かう場所があるだけ。あ、連絡先……は、のんのんに教えとくからみんなでまわしといて。また帰国したら連絡するし、フットボールしてくれると嬉しい」
「やるやる!」
のんのんのスマホに連絡先をおくり、みんなに回してもらう。
『A代表に早く来てね。私の首を刎ねに』
ひらりと手を振れば、彼女達はポカンとしたが気にしない。そのまま稲瀬さんと河原を登り、合宿所であるホテルに向かう。
「よかったな」
「うん……まぁー、ホントに来てくれるかは謎だけど、楽しみにはなったかな」


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そりゃあ私を抑えにくるし、厳しくはくるよなぁとは客観的にも思うことだ。でもまぁ抑えられたところでそれを何とか掻い潜るし、厳しくきても大丈夫なようにフィジカルは鍛えているのだが。まぁ、でも、さすがに研究がすすむと私を好き勝手にさせてはくれないよなぁ、と汗を拭ってあいてをみる。負ける気などない。負けるわけにはいかない。
『ごめんだけど、負ける気はないんだよなぁ』
そう言って彼女からボールを奪いとり、仲間に一度預ける。友人を置いて走り出せば、ボールはまた私に戻る。そのままターンをして打つ、と見せかけておくからきた味方にボールを渡せば彼女はシュートを打つが弾かれたのでセカンドボールをもらい、間髪入れずに打つ。ゴールネットを揺らしたそれに、うむ、と頷いた。まぁぐしゃぐしゃと押し潰されるのだが。
「なんかさー、やっぱり私好き勝手させてくれないからさー、ななのんぱいせんゲームメイクしてよ。チームでしてるじゃん。勝てば監督なにも言わないだろうしさー」
味方とハイタッチしつつそう言えば、え、みたいな顔をされた。いやいやいや。流石にこんな形だと無理だから。
「向こう結構私の研究してるし、ちょっと今回点取るの難しい。こう言う時のためにもう一人ゲームメイクする人いるほしい。ななのんパイセンいけるいける。じゃ、よろしくー」
ぽんぽんとななのんパイセンの背中を叩いてポジションに向かう。さてさて、私に注意が向いてるなら、他は動きやすいはずであるのだ。


ま、他に注意が向いたので、私への注意はおろそかになりますよね。ってことで、ボールを奪ってサクッとおちょくるように詰めて回転がかかったシュートをうつ。いえーい!
「やっぱり私うまーい」
「こーんの、人をダシにしたなぁーー!!」
「うぎゃっ!!」
そう言って押し潰される。むぐう。いたい。そうこうしてるあいだに笛が吹かれ交換が指示される。
「ちぇー、もうちょっとプレイしたかったのに。今の形いい感じだったし、今の感じでいこう」
ななのんの背中を叩いてそのまま交代する。
「トート、得意な形でいけばいいよ。思いっきり楽しんでおいで」
そう言って背中を叩き、そのままベンチに足を運ぶ。ダウンしてこよ。

=

「そういや、私、日本に同年代の友達できたんですよ。女子で、フットボールする」
「は?」
「で、私身分隠してたから一緒に代表になろうねとか女王奪還しようねなんて話をして……なんかそれが新鮮で、今まで日本でそんな友達いなかったからなんか嬉しくて……ほら、今、私の周り年上ばっかりだから」
そういってちょっとはにかむ。まぁ、キャラじゃないからすぐにフハッと笑ったが。
「でも、私も自分自身の夢とか色々あるし、私は彼女達を待たないで先に進むんだけど、多分登ってくるだろうし……まぁ、ここまでが私達の時代が楽しみだなっていう話ね。でも、ま、女王にするのは今いるメンバーの仕事だから。今日みたいに私がいなくても周りがちゃんと周りの仕事すれば勝てるでしょ」
そう言ってカメラみる。
「ねぇ、私が代表から来てからみんな私のプレーだけ見て騒いでるけど、みんなちゃんとルール知ってんの??フットボールって、十一人でやるものだよ。私が天才だーとか上手いとか騒いで、私だけ見てるなんて、損だよ損。日本代表って、全員上手いから日本代表になれるんだよ」
そう言ってから、モチダレン煽り忘れてたなー、と思う。意外ですね、と言ったインタビュアーに私は口を開く。
「私は独裁してる東京の王様と違って民主主義なんでね!!」

==後日の東京vインタビュー

「ガキンチョがこの前民主主義とかほざいてたけど、あいつの場合国じゃなくてクラスの委員長止まりだろ。俺は王様、アイツは愚民」


==

オフシーズンで帰国したらテレビ撮影に呼ばれたので、両親から絶対的な信頼があるハナちゃん選手と顔を出せば男子側の日本代表がいた。女子代表はいないのかと周りを見ていればいないらしい。まぁでも先にモチダレンをみつけたので襲いかかる。
「ここであったが数年目!モチダレン、覚悟しろ!!誰がーー愚民じゃーーー!!!」
そう言ってグーパンチを出せば爆笑しながら頭に手を置かれた。ぐぐぐと力を込められ、私はなおも殴ろうとするがスカスカとグーが届かない。くっそー。
「くっそ!なまじ腕が長いのと力が強いので届かない!!」
「お前チビだもんな」
「だーれーがーチビだーー!!これでも平均よりあるわ!!」
「は?170ないんだろ?平均よりないじゃん」
「私は!男じゃ!なーい!!」
ぽす!とやっと届いたグーに日本代表のエース殴るなんていい度胸してんねとぐりぐりされる。痛いわ。
「くっそー!私だって日本代表のエースなんだぞ!!」
「ガキ大将の間違いじゃないの?」
「ムキー!!!」
そう言いながらハグに向かう。まぁ転倒されることも動揺することもなく受け止められるのだが。秋森さんとハナちゃん選手が百面相してる。
「お前ホントに俺のこと好きだねー」
「うん」
「ナマエ……!何してる……!」
ハナちゃん選手がグイッと割り込んで、メッ!!と子供に叱るように叱ったが。
「ちぇーモチダレンから栄養吸収してたのに。それに大丈夫だって。越後さんとかにすると私が社会的に死ぬって理解してるから。私とハナちゃん選手介してのモチダレンと繋がりがあるから社会は許容するのだ……」
「そういう問題じゃない……!」
「ハナちゃん選手ヤキモチかな??ハナちゃん選手からも栄養補給しよ」
そう言いつつハナちゃん選手にハグをする。多分これで機嫌が治る。伺うように見上げて首を傾げてニコッとすれば照れた。可愛い。モチダレンがボソッとチョロとか言ったけど、じじつそうだかんな。
「なんや不思議な子やなぁ。メディアみてたらもっと持田みたいな感じかと思ってたわ」
そう言った彼に私はハナちゃん選手から体を離す。
「アレックス選手だー!握手してください」
「ええよー。ほい!」
「わーーい!後でサインください!」
「うん、ええよ」
「ついでに身長ください!」
「身長は流石に無理やなぁ。ハナからもらったら?」
「ハナちゃん選手からはしこたま技術盗んでるから身長まではちょっと貰いすぎかな……対価が重くなってしまう」
ノンノンと首を左右にふる。モチダレンがお前だからと口を開いた。
「たまにハナみたいなプレーにはしんのね」
「え、マジで?」
「追い詰められると俺とハナ足して割ったプレーにはしるだろ」
「あーー、それは多分無意識だなーー。バレないように結構色々考えて色々参考に練習でしたりしてるけど、結局二人を参考にするのが楽だから勝手にしちゃう感じはする。気をつけよ」
「気をつけたところでお前止めるやつなんざ一部しかいないだろ」
でたよ偶に出るモチダレンの私に対する意外と高い評価。
「うるせー、今の女子は私が止められたら八割終わりなんだよ〜。観客に愛想尽かされても終わりだしね」
「相変わらず変なもん背負ってんね」
「まー私は女子代表の客寄せパンダだからしかない。同じ競技で同じ代表でも、同じ土台にいるわけじゃないし、そもそもサポーターめちゃくちゃ少ないからね。ミーハーをこちらに連れてくるまでは愛想振らないといけないし、すごいプレーで魅了しないといけないし、常に勝って興味を惹かせるしかなーーもがっ」
そうぼやけば、ハナちゃん選手に口を両手で覆われる。モチダレンがこちらをみおろした。
「それ、お前だけが背負うことじゃないだろ。つーか、常々思うけどお前ガキンチョの癖に何背負わされてんの?」
ハナちゃん選手の手をのかしながら口を開く。
「んー……結構重圧凄いよ女子。能見さんも勝ててがっかりさせなくて良かったって言ってたじゃん。私は私より年下の世代にそんなもの背負わせたくな……もごっ」
また口元に手がくる。ハナちゃん選手を見上げる。ちょっと眉間にシワを寄せた彼は口を開く。
「……今日は違うから、それを語らなくていい……」
「それもそうだ。でもなんで私呼ばれたの?女子代表いるのかなって思ったら私だけじゃん」
「怪我しちゃったヒラガンの代わりだねぇ」
なるほどなぁ、としみじみする。そっかぁ、と志村選手に握手ねだりつつニコニコしてしまった。癒しだ。

==


まぁあれだアトラクションみたいな番組のキックストライク的な感じである。どうせならフットボールしたかった。まぁこれもある意味フットボールなんだろうけども。しかしながらなんで私だけハンデあるんだとムッとする。モチダレンがゲラゲラ笑いながら、お前ハンデあんの!と?言ったので、とりあえずハンデなしの場所まで下がる。番組さんはあわあわしてるがしらん。
「よっし、これで私より点数低かったら私より下手ってことでいいよね!星野選手!」
そう星野さんの背中を叩けば、星野さんが「そうだな!!苗字!!」と肯定してから周りを煽る。気分はロコちゃんとハム太郎である。そうだよね?ハム太郎。そうなのだ!ロコちゃん!とりあえずボールをおき、動く的を見つめてどういう風にするか算段を立ててたら笛が鳴った。もうちょっと考えさせて、と思ったが時間あんまないのか。トーンと蹴ったボールは一つ目の的に当たる。さてはて、余裕で合格ラインな訳だけども、私は何個できるかなっと。

「いや、苗字さんボールコントロールえぐいな??」
そう言ったアレックスさんに、練習してるからねー、と返す。
「だってさー、男の人とフットボールしたらさフィジカルで勝つのは難しいし、スピードで勝つのも難しいから、突破するにはコントロール極めるしかないかなって」
「男子リーグにきたいの?」
「というよりは、ハナちゃん選手達と一緒にフットボールしたいだけだよ。男の子は憧れとフットボールできるのに、女の子はできないってなんか悲しいじゃん。私はここにいる人達みんなとフットボールしてみたいから頑張ってるよ」
古谷さんにそう答えれば、無言で周りに頭をぐしゃぐしゃされた。ハナちゃん選手に止められたけど。
「やめ、やめれ、ナマエの兄の座は、俺のものだ……!」
「お前も実兄じゃないだろ」

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ハナちゃん達が飲みに行くので、私一人先にバイバイする。飲み会までついて行くのはちょっとアレだし、じっちゃばっちゃの家に行かなければならない。ハナちゃん選手が心配そうにしていたが、そんな歳でもないしな。とりあえず私が結構得点稼いだのでフットボールする約束だけとりつけて祖父母の家に向かう。うーん、しかしながら、毎年思うけど私の国籍上祖国に値するのに海外旅行してる感じ半端ないな。んーー、稲瀬さんに頼んでヴィクトリーのコート借りてフットボールしよっかな。モチダレン達の様子を見るに休みっぽいしな。フットボールできない我ながら暇つぶしがフットボールっておかしいな、と自嘲した。ショーウィンドウに映った私は、まだ子供だった。
ーーあの二人といると、あの日の続きみたいに感じる自分が嫌になる。あの頃とは違いすぎる。私ひとり一回り年下であるし、モチダレンは一応既婚者でそこに立つのは私ではない。加えて、私が築き上げた女子サッカーの地位もない。ほとんどが何も関心もない。あの二人とフットボールがしたい。でも、あの頃よりずっと時間はない。立ち止まる暇なんてない筈なのに、時々立ち止まっては違うこととか、まわりの重圧とか、そんなものを感じて、酷く、誰かに。
「う、わ、」
大丈夫だ、大丈夫なんだと言い聞かせる。違う人だから、大丈夫だ、考えるな、そんなことを、そうだ、フットボールの練習をしよう。上手くなろう。ずっとずっと、上手くなって、周りを黙らせて。
無理やり思考を切り替えて、稲瀬さんに連絡を入れる。練習を、しないと。おいて、いかれる。

==


稲瀬さんが留守だったが頼んでもらえたらしい。開けてくれた人にお礼をいいボールを転がした。ボールは友達と某少年漫画の主人公は言った。それはある意味正しい。少なくとも私の場合ボールの動きは私の精神の影響がでるからだ。こんな状態だと上手くボールとダンスなんか踊れ養い。振り切るようにゴールにボールを叩き込む。それを続けて、ぺたんとピッチに座った。もうやだ、と幼い子供みたいに泣くことができたら、どれだけいいだろうか。
「苗字、大丈夫か」
そんな言葉に見上げる。おぅ、平泉監督。どこか痛めたかと聞いた彼に首を左右に振って、疲れたから休憩してただけ、とニコリと笑う。そうか、と告げた彼は何処か安心したようだった。立ち上がってみればスタッフが集まっていたらしい。
「自主練習か?」
「ううん、暇つぶし」
「暇つぶし?」
「何にもしないといらないこと考えるから暇つぶしにボール触ってる。オフシーズンに入ると、いらないことを考えちゃうから調子が途端に落ちちゃうんですよ」
ははは、と笑う。近くに転がったボールを足で手繰り寄せて軽く触る。
「色々、見ないでおこうとか聞かないでおこうとか考えないでおこうと思ってることとか、全部が襲ってくるから、オフシーズン好きじゃないんです」
ああ、笑えない。足元のボールを見つめる。
「……どうしたんだ」
「ただの子供の戯言だと思って欲しいんですけど」
ぽん、とボールを上に飛ばしてリフティングする。
「……メディアと監督もチームメイトも、私の存在が日本の勝利の鍵だって言うけどさ、日本の勝敗って私が背負わないといけないもの?」
「……」
「能見選手は私に未来を託したし、メディアは私が日本女子の未来とか言うけど、日本女子の未来って、私が背負わないといけないの?」
「……」
「私を天才天才ってみんな言うけど、そこにある努力とかも天才で片付けてるだけだと思う」
ボールはポンポンと宙に弧を描く。少しだけ、本音を、吐いたって。
「私は」
そう言って、ボールは少しだけ離れた場所に転がった。
「……私は、他の同い年の子みたいに、ただフットボールを楽しんじゃいけないの?」
足元を見つめる。少しの沈黙、のちに、なんて、と彼を見てケラケラと笑う。彼はただ驚いたように私をみているが。
「ね、いらないことでしょ」
もう一つボールを手繰り寄せてボールを触る。
「当たり前でしょ、私は日本代表なんだから、日本の勝敗は私にかかってる。日本女子はマイナーだから、有名になる私は日本女子の未来を背負うのも当然。私が天才だから努力が評価されないのは仕方ないことだし、なんやかんや考えながらやるのは楽しいよ」
ボールはうまく跳ねて行く、跳ねて跳ねて、最後には私の足元に着地した。ケラケラと自分ごと笑い飛ばすように、ボールをゴールに向かって蹴った。
「ぜーんぶ、いらないこと!ぜーんぶ、ぜーんぶ、いらないこと!考えるだけ、煩わしいだけのこと!私がまだまだ下手だからそう思うだけのこと!」
そう言ってまたボールをゴールに向かって蹴る。ああ、煩わしい。私自身が。
「私が花森圭悟みたいに上手かったら重責だって耐えれるし、持田蓮みたいにメンタル強強だったら見下せるだけのこと。私が、」
足元のボールは全部ゴールの前に行ってしまった。
「私が、子供だから考えちゃってるだけのこと」
ゴールを見つめながら口を開く。黙って聞いてくれていた平泉監督は口を開く。
「……そうだな、君はまだ16かそこらだったか。インタビューやプレーを見ていると、ついそのことを我々は忘れてしまう。普通は16歳がうちの持田を煽らないからな」
「えー……」
「監督として、お前に期待する気持ちもわかる。突出しすぎた才能だ。うちに欲しいくらいだ」


°==んんん没!











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