2021/12/31
2021年オフラインネタ帳大放出祭43
・書き直し
死んだと思ったら、天国でもなんでもなく、森の中だった。風が葉を揺らす音もするし、動物が鳴くような声も聞こえる。周りを見渡してから、ゆっくり立ち上がる。そこにあった片方の感覚に驚いて足を見れば、両足が揃っていた。というか、足のサイズが昔より小さいし、足も短い。今度は手を見る。ちいさい手は子供のころの手だ。小学生ぐらいだろうか。ちょうど近くに水辺があったので、水を覗き込む。子供の顔である。
「へ?」
そう驚く私に、見たことがない動物がヌッと顔を出すと私に向かって水をかけた。
「えっ?は?」
私はあたりを見渡す。飛んでいく鳥は見たことがないが、唯一、飛んでる蝶のようなものは見覚えがあった。架空の蝶のようなもの。ポケモンのバタフリーである。
「えっ、ポケモン!?」
私の声に、水辺にいるポケモンも飛んでいるポケモンも驚いたように私を見たのだが。
近くに落ちていた鞄は私の鞄で間違いがない。近くにはサッカーボールが転がっている。中を漁れば、花びらとスマートフォンと写真とチームのタペストリーが入っている。お財布を探せば、お財布もきちんとあった。中にあるお金が使えるかは謎であるが。身分証明書だけがない状態である。
「……とりあえず人里いかないと話にならないか」
はぁ、とため息をつく。
「でもどっちだ……??」
まごうことなく迷子である。とりあえず、緩やかな傾斜を上ることにする。何処かで会えたらいいのだが。
見事に会えないなー、と思っていれば小さいうさぎみたいなポケモンがでっかいポケモンに襲われてた。見てられないなー、となったので持っていたサッカーボールを地面におき、思いっきりポケモンにぶつける。まぁ人間の威力なんでそこまではないだろうけども、よろりとよろけてこっちに跳ね返ったそれをおさめてもう一度ぶつければ、ボールはちがう場所に飛んでいった。こちらを見て近づいてきたポケモンの脇を通り抜けてうさぎを拾う。そのまま走り出したが、ピンク色のポケモンは追ってくる。こわっ。攻撃っぽいのよけたら木が折れた。こわっ。狭い路地に入れば行けるかとあたりを見るが、開けた場所に出てしまった。逃げ場がない。やっべ。ちっちゃいポケモンには脇目をよらず真っ直ぐにくる。
「こっちにおいで!」
そんな声に私はそちらを見る。そっちに行けば大人である。私はとりあえずそっちへ走れば、入れわかりにボールからポケモンが現れて瞬く間にピンク色のポケモンを追い払った。
「すご……」
「大丈夫かい?」
「ありがとうございます、助かりました……うさぎは大丈夫?」
そうお礼を言いつつうさぎをみる。にば~、とこちらを見上げたうさぎは怪我はあるものの大丈夫そうだ。
「ヒバニーが怪我をしてしまっているね。きずぐすりをかしてあげよう」
「かさねてありがとうございます」
はぁー、と息を吐く。きずぐすりどうやって使うかわからん。とりあえず、シュッとしたらいいのかとスプレーをシュッとしたら傷はなおった。すげえ。うさぎもびっくりしてる。可愛い。
「おーい、カブさん、こっちに子供……ああいた!」
「キバナくん」
そんな声に見上げる。反対側かからやってきた彼はこれお前のだろ?とサッカーボールを差し出す。私のなので頷いて受け取った。
「ありがとうございます」
「いや、でも驚いたぜ、新米トレーナーがキテルグマ捕まえんのかと思って対岸から見てたらポケモン出さずにサッカーボール取り出してぶつけんだもんな」
「えっ……このヒバニーは君のポケモンじゃないのかい?」
「襲われてたので……」
「君のポケモンは?」
「あー……いません」
「おいおい、ワイルドエリアにポケモンなしで入るのは無謀がすぎるぜ」
「チェックが入るんだけどなぁ」
「いや、目が覚めたらあっちの方にいて何が何やらわからないので人里目指してたんですけど」
がっくしと肩を落とす。
「どういうことだ?」
「そのまんまと言いますか。記憶にある場所と目覚めた場所が違うし、架空の生き物いっぱいいるし、夢か!と思ってた次第です」
「……何か身分証明できるようなものはないかな?」
「カバンの中漁ったんですけど、財布はあれど身分証明書類はなかったです」
「スマホは?」
「スマホはあります。電源切れてますけど」
そう言って一度うさぎをおろし、スマホを取り出す。見たことない機種だし会社だな、と呟いた背の高い男性はロトムと声を誰かにかけた。その瞬間、オレンジの色の四角があらわれた。
「こっちの中に入ってスマホのデータとか見てくれないか?」
「わかったロト!見たことない機種ロトねぇ」
そう言って四角から飛び出したポケモンは私のスマホにはいる。しばらくしたのち、「意味わからないロト!」と声を上げて私のスマホから飛び出した。そうして彼のスマホに戻る。
「数字以外見たことがない文字ロト!入ってるアプリも一致するものがないロト!!」
「最後にいた場所は?」
「東京ですね」
「トーキョーなんて街はこの地方にも他の地方にもないロト!!」
そう言って男性に隠れた彼のスマホに、ひどいなコイツと思いながら口をへの字にする。
「ホウエン地方では、昔からこういう子は伝説のポケモンが連れてきたって言うんだけど……」
「ホウエン地方よくあるんですか?」
「いや、多くが記憶喪失やポケモンの技で混乱した人の多くだね。でも、スマホをみるとこの子はそうじゃなさそうだ。とりあえず、一応捜索願が出ていないからジュンサーさんに問い合わせしよう」
「そうっすね。俺はとりあえずポケセンに部屋を手配してもらうようにしますよ」
ぽんぽんと交わされる会話にとりあえずありがとうございますと頭を下げる。気にすんな、これも仕事のうちだ、とは背の高い男性の言葉である。私はサッカーボールを大事そうに抱えたうさぎに屈んで頭を撫でる。
「じゃあね、うさぎ。食物連鎖には気をつけなよ」
「にばぁ?」
そう首を傾げたうさぎにひらりと手を振ったら意味を理解したのか、目をうるうるさせた。にば、と、私の服を摘んだ。
「君のおうちはこのあたりでしょ?」
「にばぁ」
「かぞくとかいるんでないの?」
「にーばぁー」
大号泣するうさぎに困った顔をする。様子を見ていた男性が私と同じように屈んでヒバニーと私を見た。
「ヒバニーは君と一緒に行きたいみたいだよ」
そう言って差し出されたモンスターボールを私はうけとり、うさぎをみる。ぐすぐすないているうさぎに私は問いかける。
「一緒にくる?」
「にばぁ」
こくこくうなずいたうさぎにボールを当てる。ボールをおいて吸い込まれたうさぎにボールが揺れる。カチリ、と音がなる。そうしてまた、ヒバニーが飛び出して、抱っこを寝だった。私はうさぎを持ち上げる。にば、と私に抱きついたうさぎは可愛いかった。
==
とりあえずジュンサーさんに話を聞かれたりなんやかんやしていれば日は落ちた。しばらく部屋を貸してくれるポケモンセンターのベッドに寝転ぶ。そのままうさぎと名付けたヒバニーが私と同じように寝転がった。恐らく世界を越えたんだし超ラッキーなのでは?と長身の男性キバナさんにワンコインを借りて宝くじ引いたらガチで家買って一生過ごせるくらいの大金を当ててしまって引いた。キバナさんも多分引いていたが、まぁこれで生活は大丈夫かと安心していた。お金はいらないとも。うーん、いい人である。
さてはて、一週間ほどすればとりあえず私の身分証明書は発行されるらしいのでそれから家を探したりしなければならないし、これからの生活もある。ポケモン世界でもサッカーはあるようだが十歳で流石にプロにはなれない。何があるかわからないし働きたいところだ。だが、文字が読めない書けないというハードルが高すぎる。喋る言葉が英語で通じるのははっきり
いってありがたかった。あと、数字は一緒なことも。
「あー、もう、どうするかなぁ」
そう言って寝返りをうつ。視線の先にいるうさぎはサッカーボールを抱いたまま安心したようにすよすよと眠っていた。サッカーボールをよく見れば文字が書いてある。ナマエ監督へ、と書かれた文字を私はなぞって目を伏せた。
==
物件探しは早かった。ジョーイさんに治安がいい場所と悪い場所をきいてリストアップし、そこを中心に物件を巡ることにしたのだ。そうして数件回ったのち、気に入った物件を見つけてそこに住む手続きをした。新しいスマホや銀行口座なんかはキバナさんが一緒にいき、物件契約はカブさんが付いてきてくれるあたりバックアップが素晴らしい。あとは自分のサインを真っ先にかけるようにしてよかったと思う。
そんなこんなで住むことになった場所はエンジンシティである。三階建て、元は飲食店舗だったそこは少し掃除をすれば綺麗になるし、何より近くにプロサッカーチームの練習場があった。マンチェスターとリバプールを足して割ったような街ということは、イギリスをモチーフにしている地方のようである。だから英語というわけだ。そして引っ越した先、目下の問題はだ。
「おばけさんやーい、きのみたべないの?」
そう呼びかける。ゴーストタイプのポケモンがいるようで、ポルターガイストがおきたりしてびっくりしたが全部ポケモンの仕業である。うさぎが同じくまだ手をつけていない3階を見上げながら「にばー?」と呼びかける。降りてくる気配はない。
「おばけさん、ここにきのみおいとくねー」
そう言って何種類かのきのみを置いておく。2階と1階の掃除が終わってないのだ。忙しい。そのあとしばらくしたらきのみが食べられていたのだが。うむ、やっぱりポケモンだ。
四日かけて部屋の掃除をし、身分証明書が発行された頃には家具の搬入もできた。おばけさんがいる三階も片付けたが、どうやらポットデスというポケモンだったらしい。一応と一緒に3階に上がってくれたカブさん曰く、飲食店の食器に住み着いたんじゃないかな、ということだ。比較的害が少ないとも。
さてさて、そんな感じで新しい生活がスタートしスマホロトムのサポートもあって文字を勉強したり、近くの練習場をうさぎと見学に行ったりする。見学から来るファンは少ないので、うさぎと私はじっくり見ることができるのがお気に入りだ。あとはうさぎとサッカーみたいなことをしたり、ご飯を作ったりだ。あまりにも穏やかすぎる。
そんなある日だ。なんとなく気まぐれで、置いたままにされていた店先におけるチョークボードに、うさぎの絵を描いてサンドイッチとコーヒーの絵を描く。スマホロトムに教わって、テイクアウトのみという文字を書く。メニューはコーヒーやきのみ、フルーツを砂糖でつけたシロップと炭酸で割ったもの、私が気まぐれでつくるサンドイッチとうさぎの足跡のクッキーというメニューだ。気分的には海外の子供が開くレモネードスタンドである。店先というか、窓から販売できるような場所があるのでうさぎ達とお揃いのエプロンを作りお店屋さんごっこというわけだ。とりあえずチョークボードを飾り、窓にスタンバイしようとすれば、カブさんが通りかかった。
「おはよう、ナマエくん」
「おはようございます、カブさん」
「これは?」
「暇だからお店屋さんごっこしようと思って。おひとつどうです?」
そう尋ねれば彼はいただくよと頷いた。とりあえずサンドイッチとうさぎの足跡クッキーを渡す。というか、うさぎがぴょこぴょこと渡した。とりあえず私オススメのオレンの味シロップ水を渡す。ぱくり、と食べた彼は美味しい!と言ってくれた。
「料理上手だね」
「料理は得意です」
私はとりあえずガッツポーズしておいた。お金は?と言われてそこを考えてなかったな、と反省したけど。
==
サッカー場で働く事務員さんがやってきた。ランチ何処で買うか迷ってたのよね、新しいお店ができてたなんて、という彼女に私はうさぎと店先からガーデンベンチに座る彼女をみた。いらないガーデンベンチはサンドイッチを買ってくれたご近所さんがくれたのだ。うむ、お店っぽい。
「ここお店じゃないよ」
「え?」
「私がお店屋さんごっこしたい時に開くつもりだから気まぐれだよ」
そう言えば「美味しいのに!?」と言われる。サッカー観戦とか勉強とか庭にきた野生のポケモンとバトルの練習とか色々忙しい時は忙しいのだ。事務員さんががっくしと肩を落とす。うさぎが元気出せよという風に彼女に「にばぁ」と声をかけた。
「シャスタ、何やってるんだい?」
「ランチ食べてるのよ」
「へぇ、ここまたお店になったんだ」
「そうなの!」
「だから私のお店屋さんごっこで開けてるだけだから気まぐれだってば」
事務員さんにそう告げる。いけると思ったのに、とがっくし肩を落とした事務員さんに奥からやってきた男性が私をみた。選手だなこの人。しかも多分キャプテン的な立ち位置だったと思う。よく指示を出している。
「君は最近よくヒバニーと練習を観に来てる子だね」
「うん」
「にばぁ!」
「ここで暮らしてるのか。僕も一つ貰おうかな」
「飲み物は?」
「キャプテン、このジュースオススメよ」
「じゃあそれで」
「炭酸だけどいい?」
「あぁ、構わないよ。気にするとしではないからね」
彼の言葉に頷いてサンドイッチをつくる。うさぎとポットがテイクアウト用の袋を用意するので私はそれに包む。うさぎがぴょこぴょことまた男性にそれを渡した。材料費を回収するだけのお金をもらう。
「それにしても、アナタ、サッカー好きなの?」
「うん。好きだよ」
「変わってるなぁ。君ぐらいの年代の子は一番ポケモンバトルが好きなんだけど」
そういうものなのなぁ、と「そうなの?」と尋ねる。そうだよ、と頷いた彼に、事務員さんが私を見上げた。
「ずばり、誰のファン?」
「最近この地方に来たばっかりだからまだよくわかんない。文字読めないから雑誌買えないし」
そう言えば事務員さんはがっくしと肩を落とし、キャプテンは目を瞬いた。
「へぇ、他の地方から来たのか。ガラルの言葉が上手だね」
「どうも」
「でも確かにイッシュ訛りが時々入るね」
彼は苦笑いしてサンドイッチを食べる。美味しい、と告げた彼にありがとうございますと言っておいたが。イッシュ訛り=アメリカ英語だとすると、アメリカをモデルにした地方があるんだろうか。
「この地方は九つのチームがあって、ポケモンリーグが開催されてない間に行われるの。ジムスタジアムでするから」
「カブさんのいるところですか?」
「そうだよ。エンジンシティにあるのはエンジンシンデレンス。僕らのチームだね。ターフタウンにあるのがターフサニーズ、バウタウンがバウワウストライカーズ、ナックルシティがドラコ・ナックルズ、ラテラルタウンがラテラルトラッカーズ、アラベラスタウンがツイストアラベラス、キルクスがキルクススノーマンズ、スパイクタウンがスパイクアローズ、シュートシティがシュートユナイテッド」
「へぇー、一番強いのは?」
「シュートユナイテッドだね。あれはほぼこの地方の代表と言っていい」
そう言ったキャプテンに、ふむ、と思う。事務員さんが渋い顔をしているが。何かあるんだろうか。
「シュートユナイテッドは他チームで育成した選手を取ってくのよ」
「どういう意味?」
「シュートユナイテッドは一番強い、が、選手の入れ替わりが激しくってね」
キャプテンの言葉にほうと思う。
「なまじお金があるから他のチームで活躍した選手を根こそぎとっていくってこと?」
「そういうことよ!」
事務員さんがぽこぽこ怒りながらそう告げる。私は口を傾げた。
「でもそれって飽和しない?活躍できる人は残るけど、チームが合わなくて活躍できなかったり、活躍してたけど活躍できななくなった人はどうなるの?」
そう首をかしげる。二人は目を瞬いた。いかん。10歳の子供らしくなかったか。まぁ、キャプテンは苦笑いしたが。
「辞めたり他のチームに移籍したり色々さ」
「シュートユナイテッドはじゃあ比較的年齢層が若いんだ」
「よくわかったね」
「話を聞いてるとシュートユナイテッドは一から育てる気がないんじゃなくて、育たないっぽいなぁ」
頬杖をついてそうつげる。恐らくベテランと呼ばれる人が少なく、他や後進を育てるということをしないのだろう。だから、どこかで育った若手を迎えいれるのだ。
「どうしてそう思うんだい?」
「話を聞いてるだけの判断だけど、ベテランがいないし、チームに属する選手は後進を育てる余裕なさそう。殺伐としてそうだし、そんな場所でプレーして楽しいのかなぁ」
「まぁ、僕らはプロだから楽しくなくてもプレーはするべきだから仕方ないよ。選んでそこにいくんだ」
「仕事でも楽しい方がいいと思うんだけどなぁ。ね、うさぎ」
「にば!」
多分話は理解してないが、私が話を振ったからうさぎは満面の笑顔でうなずいた。とりあえずキャプテンにはうさぎの足跡クッキーをもう一つあげる。
「キャプテン疲れてそうだからあげる」
「えっ」
「うさぎのエールをあげーる」
テレビで見た集団のようにそう言えば、うさぎはがんばれがんばれという風に飛び上がった。ポットもサザエさんみたいなことをする。それをみて二人は笑った。
==
ちょっとお店屋さんごっこが楽しかったので、週に一回ぐらいお店屋さんごっこを開くことにする。きのみとか色々ためしたくて、試しにマフィンやスコーン、クッキーやタルト系のお菓子を作っていたら、不思議なポケモンがふよふよしていた。ミルク色というか、ミルク飴の色をしたポケモンである。ケーキの周りをふよふよするポケモンに私はかちゃかちゃと浮いているおばけさんもといポットをみた。
「ポットのなかま?」
「?」
「まぁ害はなさそうだし、きみもお菓子食べる?作りすぎちゃったし」
そう言えばにっこり笑ったおばけさん(命名ミルキー)は可愛かった。
作りすぎた。そう思いながらお菓子を見る。うさぎもポットもミルキーもロトムもお腹がいっぱいらしい。いつもよりまるまるして、ソファですやすや眠っている。仕方ない。味は悪くなかった。売るか。ロトムに手伝ってもらい、お菓子ありますテイクアウトのみと看板に書く。そのまま外に持っていけば、事務員さんがいた。
「あ、あ、今日お店やってたの!?」
「お店屋さんごっこです。今からお菓子とミートパイとキッシュ売ります」
「お菓子」
「色々なきのみで色々試してたら作りすぎちゃって、食べきれないので……食べます?」
そう聞けば彼女は何度も頷いた。お昼食べ損ねたのよー、といっている彼女にどこの事務員も忙しいんだなと思う。メニューを作っていないのでとりあえず扉を開けてどうぞという。元々飲食店だったのだが、テーブルやイスは撤去され、置いているソファはうさぎ達がすやすやと眠っているので座る場所はカウンター席しかない。アンティークな喫茶店のようなそこは私のお気に入りである。
「中こんな感じだったんだー!」
「お菓子はこれです」
とりあえず私はカウンターの裏側に回って、ケーキやタルト、スコーンやクッキー、パイを並べる。
「思ったよりたくさんあるし、本格的……」
「小さくカットしてたくさん食べます?」
「そんなこと許されるの?」
「他の人の味の評価も聞きたいので」
そう言えば、彼女はごくりと息を飲んだ。まぁ、彼女が答える前にニョキッと開けている扉からキャプテンが顔を出したのだが。
「あれ?今日は中でも食べられるの?」
「たくさんあって、チョークボードに絵が描けないので。つくりすぎたから開けただけです」
「今日はお菓子か」
彼は僕も食べるよと言って、そばにいる誰かに話しかける。中に入ってきたのは選手だ。椿くんにちょっと似てるタイプの。なんかずっと落ち込んでる感じがある。とりあえずカウンターに座った二人に私は彼らをみた。
「一切れずつ食べます?というか、食べてくれると嬉しいです。味の感想聞きたい。うさぎたちは全部美味しそうに食べちゃって」
「うさぎ?」
「この子のヒバニーだよ。あとはポットデスがいる」
「ポットはこの家に住んでました。今日なんか一匹増えました」
「ゲットしたの?」
「気づいたら家の中にいたので、ポットの仲間かなって」
そう言えば三人とも目を瞬いた彼らに、お腹いっぱいだからあそこでみんなで寝てますと言えば彼らはそちらを見た。
「あら、マホミル!」
「マホミルはフェアリータイプだからポットデスとは違うかな」
「マホミルが現れたお菓子屋さんは繁盛するのよ。だから常に開くべき」
「気まぐれです」
そう言いつつ甘いケーキを小さくカットしてお皿に盛り付ける。
「とりあえずはいお姉さんどうぞ」
「はーー、これはご褒美だわ」
「あっちのは?」
「あっちのは私がお昼ご飯用に作ったミートパイとキッシュだから、お菓子じゃないので」
「なんだろう。僕の知ってるミートパイやキッシュじゃない気がする。あれでもいいかい?」
「はい。これはあっためますね。お兄さんはどうします?」
「えっと、じゃあ同じのを」
そう言った彼にミートパイとキッシュを切ってオーブントースターで少し温める。ミートパイの中のチーズがちょっととろっとしたのでお皿に乗せて出した。
「やっぱり僕の知ってるミートパイじゃない……」
「えっ、なにこれ!!絶対美味しいやつじゃない!」
「お姉さん持って帰るなら持って帰ってもいいよ。余ってるし」
これでもケーキ余るんだよなぁと思いながら見つめる。とりあえずカブさんとキバナさんにお菓子作りすぎた連絡しておこう。
==
キャプテンと、キャプテンと一緒に来ていた選手もケーキを数切れ持ち帰ってくれ、お姉さんもミートパイとキッシュを一切れずつ持ち帰ってくれた上に材料費くれた。ありがたい。でも、まだ余ってるんだよなぁと眺める。お隣さんは留守だし。そんなこんなでうさぎ達とケーキをみつめていれば、窓が開いて、やぁナマエくんとカブさんが顔を出したのだが。私とうさぎが窓の近くにいけば、なるほどキバナさんや知らない人もいる。
「今日は扉開けてるのでそちらからどうぞ」
「そうなのかい?」
「ケーキたくさん描けないので……」
そう言えば彼は目を瞬いて扉の方へすすむ。扉が開けば、うさぎがぴょこぴょこ跳ねて出迎えた。カブさんは並べているケーキを見て目をパチパチ瞬いた。
「本当にたくさん作ったんだね」
「楽しくてつい……」
「もっとこう子供が作った感じ想像してたぜ」
そう言ってケーキを眺めるキバナさんに、苦笑いする。まぁーコナン君的な感じだから。紫色の髪の長い男性はうさぎとポット、ミルキーに挨拶していた。あと少し年上くらいの女の子が心なしか目をキラキラさせている。なんかロックな感じの人とか、綺麗な人とか、体格いい人とか色々いるけど、誰が誰だかわからない。
「ごめんね大人数で押しかけてしまって。ちょうどエンジンシティで打ち合わせがあってかぬ」
「いえ、色んな人に味のこととかも聞きたかったので」
「……これ、まさか、一人で作ったんです?」
「元からストレス発散に料理するタイプなので……」
ロックな感じのお兄さんにそういう。彼はなんとも言えない顔をしたが。
「とりあえず小さくカットして全種盛りとか、気になるのを教えてもらえればお皿にのせます」
「にば!」
一通りみんなに挨拶したうさぎが私のそばにやってきて跳ねるとカウンターに登った。ポットがゆらゆらと定位置にのり、みるきーもケーキ台にのった。ケーキやタルト、ミートパイとキッシュを説明しミルキーの台を指さす。
「これはミルキー。お菓子を作ってたらどっからか入ってきた不思議なマホミル。美味しそうな匂いがするけど非売品」
「捕まえてないのか?」
「他所の子かなって思ったし、モンスターボール常備してないので。今度買いに行きます」
「みる!」
私を見てにっこり笑ったミルキーにうむ、と私は頷く。
「マホミルが来たということは大繁盛間違いなしのパティスリーですね。全種類いきます」
「私が暇な時にやってるお店屋さんごっこなので、パティスリーじゃないですね」
そう言いながらとりあえず小さめにカットした全種ケーキをお皿に乗せて渡す。受け取った女の子ではなく隣にいた女性が目をパチパチ瞬いた。
「えっ」
「この間はサンドイッチだったよね」
「はい」
「将来はカフェでもすんのか?」
キバナさんの発言に、私はうーん、と考える。カフェもいいが。
「サッカー選手かな」
「にば!!」
そう言ったらずっこけるあたり面白いと思うのだ。カブさんは普通に「ホントにサッカー好きなんだね」とニコニコしたが。
==
うさぎと一緒に寝るとぬくぬくである。たまにというかうさぎが走り回ったりサッカーしたあとは足の裏と鼻の絆創膏(と私が呼んでる部位)がめちゃくちゃ熱くなるのだが、それ以外はぬくいのだ。なので、基本的に私はうさぎをぬいぐるみみたいな感じで一緒の布団で寝、みるきーは枕元、ポットはベッドサイドテーブルで寝る。めっちゃミルキーいい匂いがするからお腹空くけど。まぁそんなこんなこちらでの生活になれ、日常生活の言葉ぐらいは読んだり書いたりできるようになった頃である。
「ずっと思ってたんだけど、君ってここに一人で住んでるの?」
「え?うさぎとミルキーとポットと住んでるよ」
「えっ!?親は!?」
「あー……」
事務員さんの言葉に降参ポーズをする。異世界云々はややこしくなるし、記憶喪失っつっといた方が楽だぞ、とはキバナさんの台詞だ。悪い組織がくるかもらしい。
「ワイルドエリアで倒れてて、キバナさんとカブさんに保護されただけだかんなー」
「ワイルドエリアで」
「倒れてた」
「記憶喪失じゃないかって言われたし、ジュンサーさんにも届け出だして、今。普段面倒くさいから他地方から来たことにしてたんだー」
キバナさんとカブさんはよく私の様子見に来てくれるよ。
ケラケラ笑いながらそう言えば、キャプテンがちょっと眉間にシワをよせて事務員さんが苦笑いをしている。あれからすっかりよくくるようになった選手のイジュさんは目を瞬いたが。
「あしたからしばらく天気荒れるけど、一人で大丈夫?」
「そうなの?」
「そうなんだよ。ガラルの嵐を舐めない方がいい。ガラル生まれの僕らは慣れっこだけど、大規模停電にもなることがあるし、店は軒並み閉まる」
「はっ、よめた。他地方からきた選手にSOS出されるんだなキャプテン」
「その通りなんだよ。で、ここは、大丈夫かい?」
「大丈夫じゃない。あ、でも、だから今日カブさんが来るって言ってたのかも」
そう一人で納得していれば、隣のお爺さんが顔を出した。
「やぁ、お隣さん」
「こんにちは」
「明日から天気が荒れてしまうからね、準備をしなくてはいけないよ。教えてあげよう。おや、アスターじゃないか。キミも常連かい?」
「ええ。お久しぶりです、ユーカリさん。お元気そうで」
「ふふふ、おかげさまでね」
「ナマエくん、いるかい?……っておや、ユーカリさんとアスターくんじゃないか」
「おぉ、カブじゃないか。今からナマエに嵐の前の日の準備を教えようと思ってねぇ」
「ありがとうございます。僕も教えようと思って」
そう言ったカブさんに、これからのことを考えてメモを取り出す。とりあえず席に座ってもらい、数日間のご飯の買い出しや窓枠に雨戸的な木の板をはめること、非常用電源の用意などを書いていく。ポケモンをしまうのも大事。
「ロトム、一応準備の完成図とか写真にも残しとこ。嵐の前の日準備でフォルダわけしておいて」
「わかったロト!」
「ヒバニーはひのこを覚えてるかな?覚えていれば暖炉もあるし火種を別に買う必要はないよ」
「うさぎ、多分できるよ。前に庭に来たエントツさんそれで追い払ってたし」
「エントツさん?」
事務員さんが首を傾げた彼に私は頷く。
「庭にたまにくる。最近きのみあげてるから仲がよし。ほら、今も向こうの窓枠にいる」
そう言って指差す。窓の外にいるエントツさんはニコッと笑った。可愛いかよ。
「……マタドガースだ」
「えっ!?あれ、マタドガースなの!?」
「ガラルのマタドガースはああいう形でね、空気を綺麗にしてくれるんだ」
「口の周りにあるのは高濃度の毒ガスだから気をつけた方がいい」
「へぇー!口の周り触らなきゃ嵐の前に家に入れても大丈夫かな?」
「大丈夫だと思うよ」
「ポケモン閉まってこ!」
そう言ってエントツさんを招き入れる。ふよふよしているエントツさんに、明日から嵐だからここにいたらいいよ!と言えばにっこり笑った。
「ナマエちゃん、マタドガース大丈夫なの……?」
「え、エントツさんなんか可愛くない?エントツ生えてるんだよ。しかも空気を綺麗にしてくれるとかいいやつじゃん!」
そう言ってエントツさんを撫でてたらうさぎがなんかムッとした。おっ、なんだ、うさぎ、ヤキモチか。両手広げたらうさぎ飛んできたけど。ウリウリほおを撫でながらうさぎに尋ねる。
「うさぎ、ひのこできる?」
「ひば……」
むぅっとしながら頷いたうさぎの頭を撫でる。
「うさぎは天才だもんね!ひのこ余裕だもんな!」
「ひばぁ!」
にっこり笑ったうさぎに、よし、準備頑張ろう!と言えばこくこく頷いた。キャプテン達も手伝ってくれるらしいが、自分達はいいのか?と聞いたらもう準備してた。
==
窓に木の枠をはめて雨戸代わりにする。理解。行程の動画や写真をとって保しる。暖炉の使い方も教わる。うさぎもちゃんとひのこができた。
「暖炉使った料理したかったし、ちょうどいいや」
そう言いつつ火の調子を確認する。一応お鍋とかはアウトドア用品店で買ったものだから大丈夫だろう。ふむふむと電気系統のものや他のものの使い方をロトムに動画をとってもらい、メモをしていく。
「なにかわからないことがあれば電話しておいで」
「ありがとうございます!ポットの仲間くるかな?」
そうポットに尋ねれば、ポットは首を傾げてふよふよするだけである。ゴーストタイプにきて欲しいの?と言われたが、そんなことはないので首を左右にふる。
「いや、なんか動いたりしても、全部ポットの仲間がいるってことでしょ?仲良くなれるかな」
私の発言に周りがなんとも言えない顔をされた。なんでだ。違うのか。
Comment(0)
次の日 top 前の日