2018/02/18


兄のように優しい菊池さんと、そばにいてくれた佐藤さん、見守ってくれた牧水さんと、ふざけたり一緒に怒られた子規さんは、前の関係だ。
今は、クチキカンな菊池先生と不安定な佐藤先生、私に関して無関心な牧水先生と、私に怒っている正岡先生である。一番好感度が低いのは牧水先生である。本当に、前の記憶があるから、良くない。私の精神が不安定になるから、露伴先生が来てくれなかったらはっきり言って危うかっただろう。
「しっかし、すごい嫌われようだな。何したんだ」
「何も。ただ、図書館で手伝いをしてただけ」
「何もしてないのにあの嫌われようか?」
「気づいたら味方が一人ずつ居なくなってたから、よくわからない」
いつもと同じだと思っていたのに、振り向いた瞬間に向けられた敵意に、お前がやったんだろうと知らないことを並べられて違うといってもわかってくれなくて。
「……みんな、は、離れていかないで」
そうポツリと呟いた言葉に、あぁ、いけない、弱音だ、と首を振る。顔を上げれば、ぽん、と頭を撫でられた。
「大丈夫だから、安心しろ」

==

お姉さんは何もしてないんだよ。
そういった宮沢賢治に、「何もしてないならどうしてこうなってるんだ?」と尋ねる。
「わからない。でも、みんな、お姉さんがイタズラした、とか、誰かのものを壊した、とか」
「お前は違うって知ってたんだろ?」
「僕とお姉さんが一日中一緒にいた時に、そういうことが起きて、僕は違うっていったんだ、でも、信じてくれなかった」
「……」
「脅されたんだろ、可哀想にって、みんな。それから余計にお姉さんに対する風当たりが強くなったんだ」
その言葉にため息をつく。お前のせいじゃない、と頭を撫でた。恐らく誰かが仕組んだんだろう。
ーーでも、風当たりからして文豪ではない。

「恐らく、そう仕向けたのは司書だと思う」
そう言った多喜二は日記帳を取り出した。
「日記帳?」
「さっき、掃除した時に見つけた」
ペラリと開いてみれば、どうやら司書就任直後からつけていた日記らしい。ぺらり、ぺらり、と日記帳をめくる。

ーー図書館に、女の子がやって来た。僕が手伝いが欲しい、と念じたから来た、他の世界の女の子。青い目をした女の子。

ーー女の子はとても働き者。僕の手伝いだけでなく、館長やアカとアオの手伝いや、文豪達の手伝いもしている。とてもいい子。

ーー女の子は、文豪たちと仲良くなっていく。僕より、他の文豪たちと楽しそうに喋っている。どうすればいいんだろう。

ーーいいことを思いついた。女の子が嫌われて仕舞えばいい。女の子が文豪達に嫌われて仕舞えば、女の子は一人になって僕を縋る。

ーー計画どおり、女の子が一人になった。これであとは声をかけるだけ。でも、どうして僕にも怯えたような表情を向けたんだ。

ーー女の子が逃げ出してしまった。なんてこった。探そうとしても、文豪達が邪魔をする。本当に邪魔だ。

ーーそうだ、初めからやり直せばいい。あの子がいなくなれば、新しい人を呼べる。でも、僕の力じゃ呼ぶことはできても返すことはできない。神様に頼もう。

ーー神さまに頼んでから、何かが可笑しい。周りが、いや、きっと気のせいだ。

ーー呼ぶ力がなくなった。なんで、どうして。

ーーうるさい、うるさい。周りが、うるさい。

ーーだまれ。

段々とぐちゃぐちゃになっていく文字、最後には文字には見えないそれに変わっていく。目の前で閉じられた日記帳に息を吐いた。
「う、わぁ、完全にとばっちりじゃねぇか」
拗らせたやつの扱いは按司の方がうまい。が、今回拗らせた奴を引き付けているのは苗字であるし、周りが遠ざけるということがない。
「お前らも、とばっちりだよな」
「……でも、」
「仕方ねぇよ。お前達は司書と付き合いが長かったんだろ?そりゃあ、信じるさ。今から仲良くすればいいんだよ」
そう背中を叩けば、はい、という返事が聞こえた。

==

今いる場所は空気が澱んでいるようだから清めるように、とは石切丸と三日月の言葉だ。中庭の花が咲かないのもそういう理由がありそうだ。ということで、夜である。神社で理由を話し、鈴やらなんやらを借りて来た。
「ひふみよいむなやことももちよろず」
そういって鈴をもってば、じゃん、と音がなったそれ。くるりと回れば桜の花が散り、私も人間をやめつつあるな、と思ってしまったのはしかたない。かすかに聞こえた雅楽の音に合わせて舞を踊る。次第に大きくなる音に、目を少し開けてみれば人ではない何かが音を奏でているのが見える。それにまた目を閉じて舞を踊った。
ーーしばらくすれば、音がやむ。花の香りが辺りを包み、ゆっくりと目を開けば花が咲いていた。桜の木に手を当ててそっと力を流し込み、もう一度「ひふみよいむなやことももちよろず」と告げて終わりとする。はぁ、と息を吐いて部屋に戻ろうと引き返したところで、人に会った。
「お前さん、人じゃなかったのか?」
驚いた目でこちらを見た牧水先生に、びくりと肩を跳ねさせる。
「……人です、」
多分、という言葉は飲み込む。
「でも、お前さんが舞い始めていっきに花が咲いたぞ」
「……いつから見てたんですか」
「お前さんが中庭に出ていくのが見えてな」
なるほど最初かららしい。疑われてるなぁ、と目をそらして下がる。そこから見ていたなら仕方ないだろう、と口を開く。
「ここの空気が澱んでいたので、花が咲かなかったんです。それを清めただけなので……」
「あの笛や太鼓の音は?」
「それは、多分、花の精的なモノ、でしょう。私もよくわかりません……そろそろ寝ないと……」
「……あぁ、引き止めて悪かったな」
そう眉尻を下げた彼に、「おやすみなさい、いい夜を」とだけ告げる。彼は目を少し見開いて、あぁ、おやすみ、と告げた。

==

「おはようさん」
そう挨拶をした牧水先生に、目をパチパチと瞬く。おはよう、ございます、と返事を返せばくしゃりと頭を撫でられた。
「色々悪かったな、勘違いしてたみたいだ」
そい眉尻を下げた彼になんと返そうと迷う。しかしその間に啄木さんに呼ばれてしまった。もう一度ぽんと頭を撫でて啄木さんの元に歩いていく。それを見送っていれば、ナマエ、と幸田先生に呼ばれたのでそちらに駆け出した。
「何かいいことあったのか?」
「ちょっとだけ」

==

一晩のうちに花を咲かせた庭。濁った水が澄んだのを見るとナマエが何かしたんだろう。空気がどことなく悪い図書館で唯一空気が綺麗なそこは多くの文豪が集まりやすくなっている。だから、ナマエは逆に庭に出ないのだろうが。
「ナマエ、結局誰を連れてくるんだ?」
「白秋先生」
「あぁ、そこは、決まりなんだな。あと一人も変わりなしか?」
「変わりなし、で、やってきます」
そうひらりと手を振ったナマエに、ではこちらはこの書類に目を通すか、と見た。

=

やって来た坂口安吾も白秋先生もやはり記憶があるらしい。同じ説明をし、私の現在の状況や文豪たちの状況を説明する。
「とりあえず、白秋先生は朔太郎先生たちを中心に、安吾さんはオダサク先生を頼みます」
「本は大丈夫なのかい?」
「今調査中なんで、逆にこの本侵食されてるっていうのがわかったら報告お願いします」
「わかった」
そんな会話をしながら扉を開ければ、はた、と牧水先生に出くわす。
「あぁ、よかった、お前さんに渡すものが――って、白秋?」
「やぁ、久しぶりなのだよ、牧水」
そうにこやかに笑った白秋先生の後ろには般若が見える、気がするが無視だ。さっと目線を逸らせば、安吾さんもそらしていた。わかる、怖い。
「彼女から話は少し聞いてるよ。仲直りはしようとしてるみたいでよかったよ」
「いや、ははは、」
「僕はまだ此方に来たばかりでね、色々と教えてくれるかい?……あぁ、ナマエ、タバコを買いたいのだけれど」
「購買しまってるんですよ。ただ、医務室にストックがあったのでそちらでお願いします。夕飯の材料ついでに買って来ますよ」
「鍋か?」
「鍋は貴方のお得意ですが、たまにとんでもない失敗があるでしょう……今日は私が作るので和食です。よって3時ぐらいから私の業務はストップします」
「楽しみにしているよ」
「楽しみにしないでください」
そう返せば、白秋先生はキョトンとしている牧水先生を引きずっていく。とりあえず明星やらは大丈夫だろう。
「安吾さん、こっちです」
「しっかし、そんなにヤバいのか?」
「今にも不健全なお薬頼りそうなぐらい」
「なるほど。按司、は、いないが、太宰は?」
「佐藤先生が大変なのに大変になります」
そういえば、ああー、みたいな顔をされた。
「……安吾?」
「その声はオダサクか?」
振り返った安吾さんに、小さくお願いしますね、とだけ告げる。しっかりと頷いた彼に私は司書室へと向かった。とりあえず今日の潜書は終わったし、あとは書類整理だ。

==

私が料理を誰に教えてもらったかというと、あの燭台切光忠である。そう、あのどの国の料理もレシピを見ただけで作り上げた挙句毎日フルコースかよと思う料理を作り上げる燭台切光忠なのである。そんな人物に教えてもらった私が、普通の食事を作れると思いますか。答えはノーである。
「やってしまった気がする」
そう頭を抱えていれば、食堂の扉が開く。顔を出したのは北原一門と明星、あと牧水先生だ。疲れた顔をしている牧水先生と啄木さんに内心合掌しておく。
「あぁやっぱり君は定刻通りに作り上げたね。今日のメニューは?」
「和食です……8品目です」
「……8?」
そういった室生先生に目をそらしながら答える。
「飯、汁、向付、煮物、焼物、預け鉢、吸い物、八寸、菓子です」
「懐石料理かい?」
「ええ。お酒の方ではないんですけど。ただ、いちいち持って行けないのでもう全部わけてお皿に乗っけてますが」
「菓子は買ったんだよね?」
「え、なんでお前目そらし続けてんだ」
高村先生の言葉に啄木さんが私を見てそういう。
「……作りました」
「はぁぁぁ!?お前何者なんだよ!」
「普通の人ですよ!」
「普通の人が懐石料理なんざつくれねぇよ!」
「知りませんよ!私だって『お嫁に行くならこれぐらい作れて当然だからね』って言われて育ったんですよ!」
「お前やっぱどっかいいとこのお嬢様だろ?」
「残念ながら、私には家族がいませんし、私に料理教えた人――家族みたいな人達も親しくしてくれた人達もみんないません。身寄りがない人間なんです」
そうべっと舌を出す。はしたなくて結構。まぁ、白秋先生以外動き止めたけど。
「お前、」
「……冷めるんでさっさと食べてください」
「あぁ、頂くよ。後、私達がいるんだから君は君で孤独病を発症しないように」
ぽん、と私の肩を叩いた白秋先生は優しい。ちなみに賢治くんには精進料理を別に作ったのだけど、伏せておこう。

==

白秋先生の謎の圧力により北原一門と明星と牧水先生が手伝ってくれるようになった。人数が増えたので談話室で作戦会議だ。
「潜書するには圧倒的に刃不足」
「別に銃ばっかでもいいだろ?今までいっぱいあったし」
「初段で倒しきれるならいいですけど、二発目撃つまでにやられっぱなしはよくない」
「補修すりゃなおるぜ?」
「私の精神に良くないんですよ」
そう返せば啄木さんが目を見開いて止まった。無視だ。
「圧倒的に刃不足と聞いたぞ」
オダサク先生を引きずって入ってきたのは安吾さんである。
「刃が二人増えて五人……会派……理想が遠距離ニに対して中近距離ニなんですよね」
「えん……?」
「ああ、えっと、銃や弓で二人、鞭と刃で二人です。物によっては変えますが、基本はこの形で行きたいんですよ」
「あぁ、なるほど、先手で攻撃できて隙もなくなるね」
「で、今の状況を考えると全員週二日休みとか考えれないし……でも、毎日同じ人に潜書してもらうのも疲れるだろうし、交代会派を作りたい、ので、三十二人……無理だなこりゃ」
「とりあえず四会派をつくって、二つ会派ずつまわせばいいんじゃないか?」
「十六人?」
銃が七人、刃が五、鞭が一で弓が一。
「後二人かぁ……純文学……転生?」
「転生はアンタの負担になるだろう?何人かに声をかけてみる」
「ありがとうございます」
「いや」
「それで、侵蝕はどれくらい進んでるんい?」
「……お昼に、少し時間があったので、検索かけたんですよ」
「検索?」
「あぁー……何人かは知ってると思いますが、私、半分は人間やめてるというか」
そう少し目をそらしながら告げる。
「は?幽霊ってことか?」
「いや、そういうわけではなく、ナマエの持つ力が強いんだ」
まぁ、幽霊も否定できないけれど。
「で、ね、誰もいないのを見計らって、検索――力を使って侵蝕がどの程度あるのか調べたんですよ。かなり侵蝕進んでました。図書館としての機能は停止したほうがいいぐらい」
そいいえば全員が動きを止める。そうだろうなぁ、と思う。
「貴方達のせいじゃない。私がもっと先に力があるって言ったらこうはなってませんから。本来なら、全員で取り組みたいところですが、無理そうなので」
「侵蝕が一番進んでいるのは?」
「何冊か。しかし、貴方達をいきなりそこに放り出すつもりはありません」
「でも!」
「でも、じゃないんだ。いきなり難易度が高いところに放り込まれてみろ。最悪絶筆し人手が足りずに悪循環だ」
「侵蝕が進んでいるものは封じました。それを解かない限りはそれ以上進みません」
「君の体は大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ」
大丈夫じゃないけど。



 Comment(0)
兼任司書関連 

次の日 top 前の日