2018/02/19
↓没
私は全員の最後を見届けたわけではない。棋院や蓮子、館長やアカとアオ、そして菜乃花は見届けた。私は老いて行く彼らを羨ましく思ったし、死ぬことさえも羨ましく思った。でも、一人だけ最後をみていない奴がいる。そいつはフラリと私の目の前に現れると、司書をしていた頃の手帳を投げてよこした。
「預かっといてくれ」
そう言った人物はいつになっても帰ってくることなどなく――やってきたのはその人物の部下で。そこで私は理解したのだ。悪友は帰ってこないのだと。
「安吾さん、安吾さん」
「どうしたんだ?苗字。朝一に俺のところに来るとは珍しい。露伴センセが驚いてるぞ」
「私はいいことを思いついたというか思い出した」
「話を聞け」
「私は司書を増やせるかもしれない」
その言葉に騒ついてた食堂が静まった気がする。でも、気にしない。安吾さんは話に付き合ってくれるらしい。
「何がどうなってそうなった」
「ここに一冊の手帳があります。今日夢で見るまで持ってることを忘れてた手帳」
「手帳?――それ、」
「按司が行方不明になる前に預けてった、手帳」
そういえば、彼は目をまん丸に見開いた。
「按司ならみんなちゃんと協力してくれるかも」
「……お前でも協力してくれるだろ」
「呼んでくる」
「話を聞け!」
そうグッと腕を掴まれる。
「話を聞け。お前でも、協力してくれるから、大丈夫だ、侵蝕も止まる」
「大丈夫じゃない、全然、大丈夫じゃない」
首を左右に振る。
「ぜんぜん、だいじょうぶじゃない」
「ナマエ、落ち着け、何があった?」
露伴先生の声だ。
「昨日の夜、念のため、もう一回検索かけた」
「……」
「消えかけた本が、また沢山あって、全部、封じた。でも、封じても、封じても、終わらないの。でも、封じないと、消えてしまう、みんな、消えてしまう――また、ひとりに、なってしまう。また、あえたのに、また、ひとりぼっちになってしまう」
酷く精神不安定だとは自覚があるけれど、無理だ。誰かにすがらないと、無理だ。ゆっくりとあやすように抱きしめられる。
「……少し、眠りなさい。疲れているんだ、ナマエは」
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「寝たのか」
「あぁ、寝た。働きづめだからな、精神が揺らいでたんだろう」
そうやれやれとため息をつく。寝息を立てる娘を抱き上げて息を吐いた。
「いまの、なんやったん?」
「ナマエは精神安定に見えるが結構不安定だぞ。だからあんまり虐めてやんなよ」
「精神安定に見えて不安定?」
「ある程度までは笑って持ちこたえるんだがな、途中でポキリと折れるんだ。そうなると、こうなる。まぁ、今回は疲れと焦りでこうなったんだろうがな」
未だ静かなそこに、一つ、文句つけておいてやろうと口を開いた。
「俺たちの為に一生懸命になってる子供を振り回してやるな、大人だろう?」
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あぁ、死んだな、と思ったらよく知った医務室にいた。目の前で寝ている悪友は緑色の着物を被って泣きはらした目で眠っていた。
「……なんで帝国図書館の医務室にいるんだ」
恐らくはこの目の前でぐうすかと眠る奴が知っているんだろう。起きろ、と念じて見るが目を覚まさないそれ。というかコイツはなんで露伴センセの着物被ってんだ。もう帰っただろあの人。俺だってねむてぇよ。腹が立ってきたのでデコピンをくれてやる。うすら、と目を開いたそいつは青い目をこちらに向けた。
「……按司がいる……ゆめかな」
「夢じゃねぇよ、説明しろ」
そう言ってもう一発デコピンをしてやった。
「よぉ、諸君、お久しぶりの奴もそうでない奴もツラ貸せや」
そう言って扉を開ければ向いた目。誰が記憶があるか、を、判別するに、動じずに涼しい顔をしている白秋センセ、苦笑いしている志賀センセ、やれやれしている秋声とニコニコわらっている新美あたりはあるんだろう。あと、露伴センセと安吾。
「……結局呼ばれたのか」
「気づいたら医務室いたんだよ、ちなみにアイツはまた寝たからほっといた」
そう露伴センセに言ってチラリと安吾とオダサクを見る。オダサクの記憶はない、と。
「ヨォ、安吾」
「よ、按司。変わってねぇな」
「人間かわらねぇよ」
「安吾の知り合いなん?」
「夢であった、って言いたいが気色悪いな。まぁ、前に知り合った。なにを聞いてる?」
「ザックリとだ。あと司書やれって」
「だろうね」
「でもお前も呼ばれた側だろ?出来んのか?」
「知らん」
そう言って適当に有魂書を拝借する。安吾を手招けばなにをすればいいかわかったんだろう。
「誰がいないんだよ」
「誰ってどういうこと?」
「お前らの知り合いでいない奴の名前挙げろ」
「按司くん、刃が足りないのだよ」
「……この図書館にいない純文学の作家挙げろ」
「太宰はやめろ、佐藤の準備がまだだ。夏目か芥川を頼む」
「めんどくさいな……志賀センセ」
「仕方ねぇな」
そう手招けば志賀センセはため息をついてやってきた。もう一冊本を拝借する。
「ー―親譲おやゆずりの無鉄砲むてっぽうで小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰こしを抜ぬかした事がある。なぜそんな無闇むやみをしたと聞く人があるかも知れぬ。」
そう言って力を込めれば安吾は消える。
「――これは或精神病院の患者、――第二十三号が誰にでもしやべる話である。彼はもう三十を越してゐるであらう。が、一見した所は如何にも若々しい狂人である」
またそう言って力を込めれば志賀センセが消えた。調速機を本の上に乗せ、カチリとボタンを押せば回り始める針。それが12を指した時、まず帰って来たのは志賀センセと安吾だ。そして、ページが自然とめくれ、文字が人を作り上げていく。そして、ゆっくりと目を開いた。
「夏目漱石です。私も忙しいのですけれど、仕方ありませんね」
「やあ、僕の名は芥川龍之介。なんだか大変なことになってるんだって?」
そう言った二人に後でな、という。
「……君、は、指定した人を呼び出せるのかい?」
「ナマエはもっと化け物じみてるぞ。文豪なしで指定して呼んでくるからな」
高村先生にそう返せば彼は頭を抱えた。白秋センセが「常識で考えてはいけないよ、按司とナマエがおかしいだけだからね」と釘を刺した。
「アイツと比べりゃ俺はまだ普通だろうが」
「なんなん?苗字さんと比べて、って、苗字さんどんだけなん?」
「ははぁ、やっぱり、あの子は人の子じゃないんだな」
「なぁ、なんで若山センセ納得してるん?」
「いや、な、この前花が一気に咲いたろ?アレ、あの子が咲かせたんだぞ」
なにやってんだアイツ、と思ったが、あの図書館じゃ恒例だったな、と思う。
「牧水、それは、どういう意味?」
「そのまんまだ。夜中に鈴持って巫女装束きて中庭行くから何すんだと思って見てたんだよ。アイツが舞を踊り始めたら花が咲いた」
「偶然とかじゃないのか?」
「アイツといるとそういうことよくおこるぞ」
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