2022/12/31

2022年度没ネタ整理72


拝啓、恐らく原稿におわれている母上殿。
俺は貴方から生まれて十年が経ちました。生まれてすぐは乳幼児であることに加えて転生したことに心境が馴染めず貴方に苦労をおかけしていました。最近、なんとなくですが、俺は鏡を見るたびに自分の顔は父親に似たのだと思います。父親について貴方は顔が良く頭も良いという話をたまーに酒に酔っている時に言っていましたが、元社会人である俺にはどうしても15あるいは十六であった貴方をやり捨てるドクズな男という印象しかありません。そうして今、目の前に、俺のカラーチェンジ大人版のイケメンがいて、そのイケメンは名も知らない別のイケメンに中国語で叱られています。俺はどうするべきでしょうか。
1とりあえず殴る。2自分の父親なのか尋ねる。3挨拶をする。4.俺の目の前に差し出されているパフェを食べる。……3が無難か。
「……えーと、こんにちは。俺に何か御用でしょうか。というか、言葉は合ってますか?」
そう尋ねれば、視線がこちらに向く。母親が教えてくれた言葉であるが、知り合い曰く通じるものの古いらしいということは聞いたことはある。無精髭が生えた男性が口を開く。
「……はい、合っています。そう伺うということはこの国の出身ではないのですね?」
「旅行で日本から来ました」
「日本人にしては古い言葉を扱うね。通じるけども今こうやって話す人は少ないよ」
ずいっと顔を近づけてきた男性はボタンが欠け間違っているがいいのか。
「母が教えてくれました」
「お母上が。博学な方なのですね」
叱るのをやめたイケメンがそう言って俺を見る。まぁ確かに博学である。俺にそっくりなイケメンがパフェを薦めながら口を開く。
「悪いね、君が私とそっくりだったばっかりにこんな目に合わせてしまって。そのパフェは食べていい。君のお父上は元気にしてるかな?」
「生憎、父親には会ったことないので知りません」
そう言えば、郭嘉殿?と周りはイケメンをみる。いや、本当に覚えがない、という俺の2pカラーイケメンに、相手に仕組まれたか?だの認知しろだのいう話が聞こえる。子供の前でそんな話をするな。ボタンかけ間違えのイケメンが、俺をまじまじ見て口を開く。
「君の髪や瞳の色は母上に似たのかい?それとも顔が母上に?」
「髪や瞳の色が母上似ですね」
「へぇ、黒髪で灰色の瞳は珍しいね。私は君で二人目くらいだよ」
「珍しい?」
「灰色の瞳は北の方の生まれが多いんだけど、髪は赤毛やブロンドが多くてね。黒髪に灰色の瞳は珍しいんだ」
そう話したボタンかけ間違えたイケメンに、郭嘉殿、李子殿以外に覚えは?と髭を生やしたロン毛のおじさんが尋ねる。彼は少し考えて、君の名前は?と尋ねた。なんで考えた。というか、李子ってたまーに母さんがハンドルネームとかゲームの名前に使う名前である。俺も使うけど。
「桃李です。名字桃李」
「とーり?」
「桃三李四の桃と李で桃李」
そう名乗れば、彼はすぐ口を開く。
「桃李不言下自成蹊」
「史記の一説ですね」
「李将軍列伝からの引用ですか。良い名前ですね」
そう言った髪の長いイケメンと無精髭の人、郭嘉殿と呼ばれた人物は少し考えて、俺を見た。
「……君の母上は元気にしているかな?」
まさかの手のひら返しである。周りの人も「は?」と怒りの形相を浮かべた。
「俺あんた殴りたいんですけど殴っていいですか?」
そう言ってグーを構える。それは困るな、と告げた彼は、ただ母上に連絡は取れるかな?と告げた。
「私からは彼女に連絡が取れなくてね、連絡をとってくれると嬉しいのだけれど」
「ちょっと母さんに連絡してみるから待って」
そう相手を睨みながら言う。スマホのアプリ通話で母さんに連絡すれば、第一声は「は?」だった。そうなるわな。まぁ、イケメンが俺のスマホ取ったけど。
「やぁ、久しぶりだね」
その言葉に微かに母さんが混乱しているのも聞こえる。
「そうだね、久しぶりだ……私にとってはとても、ね。今中国に?……それはそれは……今から会えるかな?色々話を聞きたいんだ……うん、そこはよく知っているよ。わかった、今から向かうことにしよう……桃李はどうしようか?……ふふ、君に似たね。まぁ、同僚達が見てくれているし、大丈夫だとは思うけれど」
そんなこんな会話を切り上げたイケメンはスマホを俺に返す。もしもし、母さん?と聞けば、ここにいる人としばらく一緒にいるように言われてしまった。
「ねぇ、母さん、この人殴っていい?母さん大変な目にあったのこの人のせいってことでしょ?」
「あぁー、息子くんや、それ多分勘違い。とりあえずお母さんその人とお話しするし、殴らないであげて」
迎えに行くから、周りの人達と待ってて。
そう言った母さんに大人しく手を下ろす。イケメンは同僚に何か話して席を外した。俺はむくれながらパフェを食べる作業にはいる。
「なんだか怒っている李子殿にそっくりだね!お母様の名前はなんて言うの?」
「名字ナマエ」
そう言った瞬間、周りがめちゃくちゃ驚いていたが何があったんだ。母さんとこの人達の間に。




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「なるほど。君は遠呂智の世界を経て元の時代である今に帰ってきたというわけだ」
と、言った彼は記憶を持つ別人というのが正しいのだろう。ホテルにてコーヒーを淹れて差し出し、話をしていたのだが彼らにとっては前世の話であり私にとっては今世の話だ。毛利さんの話によれば、私の名前は戦国時代にはうっすらと郭嘉を補佐する張三李四(この時点で間違えているが)がいて、赤壁で死んだぐらいで残っていたぐらいだが、今は完璧にその部分はない。正しい歴史になったというか、なんというか。とりあえず私の功績は誰かに振り分けられているのである。
「だからあの子は今世の貴方には関係はありませんよ」
私は小さい頃に行方不明になり、十四、五歳の頃にこの世界に帰ってきたことになっている。そりゃあ周りはうるさかった。私を誘拐したかもしれない人間の子供を、十五歳くらいであった子供が身籠もっていたのだ。私の話を聞いてくれないのなら、周りの人達の判断は正しくも思える。私が宿った命を捨てられなかっただけだ。別に一人で育てることに異議はない。今の彼には今の彼の人生がある。それは私が引きずることではない。
「実を言うとね、私が完全に思い出したのも十年ほど前なんだ。そこまでは前世なんてそんなものあるはずがないと思っていたし、貴女が言うように今は今で昔は昔だと思っていた。なんとなくは貴方を知っていたけれど、それは夢に出てくる人ぐらいの感覚でね。君を探している人物を笑ってしまったこともある。たかだか、夢の話だと」
まぁそうなる、と思う。思い出さなければ、たかだか夢の話だ。いや、思い出してもたかだか夢の話である。
「何か思い出すきっかけが?」
「十年ほど前、死にかけたんだ」
「死にかけた?」
「病で死にかけた。周りの話を聞くに、随分と私は意識を失っていたみたいなのだけれど、その時に一気にね。周りのいう意味がやっと理解した。どうであれ、私の周りの人物関係はその延長線にあるけれど、私に付いていてくれた貴女だけがいなかった」
彼はそう言って、参ったものだね、と自嘲的に笑ったが。
「探してみれば、そもそも、貴方は存在する人間であったのかさえわからない。何故なら貴方について調べても残っている文献には貴方の存在が示されていない。通りで皆私に行き着くはずだと思ったよ。でも、まさか他の国にいるとは、流石に思わなかったかな」
「混同視はよくないですよ」
私はそう言って、近づいてきた彼を少し離す。夢だと思うべきです、と返せば、彼は「今を?」と返したが。
「それとも、貴女が私の子供を身籠ったあの世界に連なる記憶を?」
コラっ、手を掴んで押し倒すな。
「どちらにせよ、私達の記憶を、私達の時代から帰ってきた貴方が否定してしまうのは無理がある」
「初対面の相手に、お戯れが過ぎます」
「……今も昔も、私は私なのだけれど、貴方にはどうすれば理解してもらえるかな」
うわ、ちょっと怒ってらっしゃる。会う前に整えた私の決意をぐらつかせるのはやめてほしい。だって、迷惑なだけだ。雰囲気もなく馬乗りに移行するな。こらっ。私は彼をみて口を開く。
「今の貴方には今の貴方の人生があります」
「三分の一は貴方にとられてしまったよ。人の一生は短い。それは貴方も私も理解しているところだ。……ナマエ」
こらっ、私の名前を耳元で囁くな。
「貴方が私に論戦で勝ったことはあったかな?」
ぐぅの根も出ない。勝てないから補佐をした方が早いと理解した昔がある。酒も飲んでないのに流されてはいけない!
「……今ならもしくは!」
「うん、諦めないのは貴方の美徳かな」
にっこり笑った彼に、私は嫌な予感しかしなかったわけであるが。


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はーー、理解しました。理解すればいいんでしょう。いやというほど理解させてきましたこの人は。そう思いながら手を引く彼に続く。桃李達は水族館にいるようだ、と言う彼にとりあえず続けば、水族館を満喫したらしい息子と軍師がいた。でかい鮫のぬいぐるみを抱えてる息子は可愛いしかないかな??現実逃避である。私に気づいて「母さーん」と手を振った息子に、周りが戸惑っている。まぁゴーイングマイウェイな節がある郭嘉さんは無視しているが。
「待たせたね、桃李」
「は?父親顔しないでほしい。母さん、誰この人」
そう言った息子に私は顔を片手で覆う。貴方のお父さんです、と言えば、息子が固まった。周りも固まった。荀ケ殿が私をまじまじと見ながら口を開く。
「……李子殿、なのですよね?」
「……はい」
「李子殿、男性では……?今世は女性として生まれた、と言うことでしょうか?」
そう言った荀攸殿に私は困る。とても困る。両手で顔を覆うしかない。郭嘉殿が私の代わりに口を開いたが。
「ナマエは昔から女性だよ。男のふりをしていたけれど」
「えっ」
荀家と満寵殿が目を瞬く中、賈詡殿だけがケラケラと笑った。
「あっはっは、やっぱりそうだったか」
「賈詡殿はわかっていたのかい?」
「素手を一度だけ見たことがあってね、見るからに女性の手だったもんで。で、男装していた理由は?そもそも、郭嘉殿とは今世でいつ知り合ってたんだ?」
そう尋ねた賈詡さんに私はどう伝えるか考える。うーーん、これややこしいな。
「そもそも、李子殿は今おいくつですか?」
「26です」
「お、年下だ」
「相変わらず見えませんね。もっと幼く見……桃李は今いくつですか?」
「十歳です」
桃李の言葉に荀家が目を吊り上げる。郭嘉殿?と告げた声に、私は静止をかける。
「荀攸殿、荀ケ殿、違うんです」
「李子殿は黙ってください。これは流石にいけません」
「違うんです。話せば長くなりますが、私は幼児期に何かしらの理由でこの時代からあの時代に行き、遠呂智の世界を経てこの時代に帰ってきたら身籠っていた、そして年齢が逆行していた、と言うだけなんです」
そう言えば二人は止まる。キョトンとした顔である。ちなみに息子もハテナを大量に飛ばしているのがわかる。
「だから、正しく言えば桃李は今の郭嘉殿の子供ではなく、昔の郭嘉殿の子供です」
「ひっくるめて私の子供、と言うわけだね」
「お待ちください、飲み込むのに時間がかかります……」
荀攸殿の反応はもっともである。荀ケ殿が口を開く。
「少し場所を移しましょう。立ち話では、桃李が疲れてしまうでしょうから」
それもそうである。桃李、と息子を呼ぶ。息子はサメを抱えたまま、私の手を繋いだ。

通されたのはホテルのレストランだ。なおかつ、個室である。ありがたや、と思いながら運ばれてくる料理をみつめる。息子は目の前にあったあげせんをつまんだ。
「当時、李子殿は逃れた宦官の子であり、かつて親の親交のあった司馬徽殿の元にいた、と言うのが出地を詳しく語らなかった貴方についた噂でしたが……」
「はい、その噂は存じております。あの時は身を守るためにわざと有耶無耶にしていましたが、違います。私は桃李よりも幼い年に、気がついたらあの時代にいました。家族を探して彷徨っているところを司馬徽先生に拾われ、彼のご好意で行くあてのない私は彼の門下生という形で彼の家に住まうことを許されたのです。先生と話をし、今自分が置かれている状況を正しく理解し、馴染めるはずのない日本名を伏せました。帰る術を探すにしろあの時代に馴染む必要がありましたから」
「では、李子という名前は?」
「張三李四から拝借しました。あの時代の私は確かに名前のない誰かでしょうから。そして、字を元の名前にしました」
「なるほど、字であれば、多少おかしな読み方をしても理解はされるからか」
ふむふむと納得した満寵殿に、私は頷く。
「大方先生の元で勉学に励み多くのことは馴染めましたが、どうしても馴染めないものがありました」
「馴染めないもの?」
「生き方です。私は女である以上、誰かに嫁ぎ家を守り、良き妻として夫を支え、子には賢い母である必要がある。となると、家から離れることができなくなる。元の世界に戻る術がさがせるならそれを避けるべきだと思いました」
だから男として振る舞うことにしたのだ。司馬徽先生も最初は驚いていたが、それも好し、とだけ告げた。
「そこからはまぁ、戻る術を探すには仙人を当たれば一番良いかもと思い……仙人をあたるには頭の良い方々と知り合った方が良いのではと思い遠乗りで出かけ……」
「戯志才殿と知り合い、戯志才殿の紹介で私と知り合った」
ね、と盃を傾けて郭嘉さんが告げる。私はそれに注ぎつつ頷いた。
「あとはみなさんが知っての通り、郭嘉殿に世話されたり世話したりしながら、郭嘉殿の推挙で曹操様に仕えて、思いの外色々と充実していたので戻る方法は後回し……というよりは李子としてあちらの時代で生きていこうとはおもっていましたね。で、赤壁で水に沈ん……」
そう言ったら荀攸殿達が死んだ。両手で顔を覆った。なんでだ。
「ナマエ、荀攸殿はなかなか赤壁の戦いで君が戻って来なかったことに傷心のようだから」
「李子殿の死体が上がらないと思ったら、沈んだんだね」
満寵殿の方がダイレクトでは??とりあえずズーーンとしている荀家二人に、私は口を開く。
「えっいや、水に沈んだと思ったら遠呂智の作り出した世界だったんですけど……だから死んだというか……」
「郭嘉殿と同じパターンなんですね……」
あ、これもダメなのか。


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母さんたちの話を要約するに、母親は転生ではなくとりっぷし、その時にこの俺似のイケメンの前世にあたる人物と恋に落ち俺を身籠ったまま元の世界に戻ってきた。イケメン達は母親を探していた、ということ、らしいのであるが。いやそんなこと言われても俺は納得できるか。というか話を聞くに完璧にこいつ女遊び好きなタイプじゃん。俺は!認めねぇ!と言いたいところであるが、外見は悲しくもこの人似である。母親が俺の箸が止まったところを見て首をかしげる。
「桃李?」
「今内面でこの人を父親認定下すか否か判定してるから待って」
俺の発言に周りは吹いた。父親(仮)だけが、おや、手厳しいねとか言ってるけど。
「どうしたら認めてくれるのかな?」
「もっとこう……いい情報がほしい」
そう言ったら周りからめちゃくちゃ父親のいい情報来るんだけど頭いいのかこの人。ほーーん。




「ぜんっ……ぜんかてねぇ……」
嘘だろおい、と頭を抱える。いや対戦戦略ゲーの類なんだけどぜんっぜん勝てねぇ。意味わからん感じで負けたわ。久しぶりだわ。
「は?父親どうのこうのより敗因徹底的に分析させてほしい。久しぶりにひっくり返されてわけわかんない感じで負けた」
辞書持ってくるから待って、と言いながら俺の旅行鞄を漁る。母親が兵法諸々を俺にわかるように纏めてくれたものである。たまに注釈がついている。母さんは原稿に戻った。締め切り?余裕ですねぇとか言ってたけどこの一件があったため余裕はないと思われる。
「辞書?」
「母さんが俺に兵法諸々わかりやすいように作ってくれた。多分俺が母さんの部屋の孫子とか読んで日本人なのに日本語が意味わかんねぇ〜とか言ってたから作ってくれたんだと思う」
「驚きました、ということはほとんど独学ですか?」
そうこちらを見た無精髭こと荀攸さんに、いやでも母さんに布陣を見て説明してもらったり、敗因を母さんに補足してもらったり対戦相手に補足してもらったりはする、と言いつつそこそこ分厚い日記帳のようなものを取り出した。ちなみに母親の編集者はこれも書籍にしたいらしいが基本母親が拒否している。
「ナマエが編纂した兵法書、というところかな。桃李にもナマエの癖がたまに出るね」
「はい、そのようですね」
「癖があるものなんです?」
「郭嘉殿の戦は華やかでしょう」
「いや華やかとかわからないうちに翻弄されて負けたんですが」
見てる側からしたら華やかかもしれないが俺はわけがわかっていない。母さんが部屋から出てくる。いつもなら脱稿した〜とか言いつつ近くのぬいぐるみを持ってくるくる回ったりなどするが、人がいる今日は流石にやめたらしい。
「無事に仕事完了しました」
「翻弄されて負けました」
そう言って肩を落とせば母親は苦笑いしている。



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「君が李子かい?」
「昼間にやってた方の李子こと苗字桃李です。夜中は母さん」
「母親?あぁ、だから君をよろしく頼むって言われたんだね」
「単兄もたまに他人がいるでしょ?」
「えっ……よくわかったね。たまに友人が俺のアカウントを使ってたんだ」
「俺が気づいたっていうより母さんが気づいてた。言われたら確かになーって」

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