2018/01/10
ペンは剣より強しと言うが 二
「ナマエさんは白樺派に入れますよ!」
そう告げた武者さんに目を瞬く。私は文学はからきしである。そもそも日本語が喋れるが書くのはあやしい。ひらがなとカタカナは書けるが、色々あやしい。どうしてそんな発想になったんだろうか。
「その立ち振る舞いとか!」
「あぁ、なんだ、そっちか」
そう言った志賀先生に、私もそっちかぁ、と思う。まぁ、私は巴里で黒髪の騎士とか言われますし。ちなみにこれは面白がったグラン・マにより身についたそれである。男じゃないんだけれど、いかんせんでる所が平らな為に勘違いされるのだ。大神さんとか多分覗かれなかったら気づかれていない気がするし。クマラン・マ曰く「見破れない人間には嫁がせないよ!」らしい。ここは娘って知られてるからアレなんだけれど。
「面白半分で教えられた身のこなしなんですよね。おかげで社交界の華です。男として」
そう言えば、聞き耳を立てていた織田作さんたちが噴き出した。汚い。
「ちょ、ナマエちゃん、それでええの?」
「街の人からは黒髪の騎士様とか言われますしね、今更です。仲間うちでつけられた名前は『初恋ブレイカー』ですから。たまに社交場に出ると厄介なんですよ。騎士様を探すお姫様が多いので」
「逆シンデレラですね!」
「見つからないのか?」
「誰も劇場で清掃したりモギリしたり書類に追われたり修繕してる人間と騎士様を一致させないんですよ」
「なんなん?自分、めっちゃ面白いな。これからは騎士様って呼んだろ」
「やめてください、羞恥で死んでしまいます」
織田作サンの言葉に首を振る。しかし織田作さんには通じて内容だ。
「向こうでは何をしてたんだ?」
「昔は劇場の雑用でしたが、今は副支配人をしてます。シャノワール劇場、巴里に来た際は是非お立ち寄りを」
「劇場ってことは、演劇か?」
「いえ、レビューです。ショーや歌、踊りですかね。夜公演のみなので、大人が多いです。是非、ご贔屓に」
そこで話を区切る。何故ならこの先、話していると恐らく私が舞台に立ってるか否かと言うややこしい話になるからだ。
「ところで織田作さんはどうしてここに?」
「おぉ、そうや、騎士様、お父様がよんでるで」
「やめろください」
「ナマエ、言葉間違ってるぞ。やめてください、な」
……わざととか言えないな。
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父親は結構ドジっ子気質らしい。らしいというのは私は何もないところで転ぶところを見るぐらいだが、文豪達曰くもっと酷いとか。……エリカかな?
「というか、これはもはやドジっ子というか不幸気質なのでは?」
そう首をかしげる。そういう問題じゃないよ―!とは人質になってる父親の言葉だ。なんで人質になってるのかは途中騒ぎに気づいてやって来た私はわからない。犯人をどうどうと落ち着かせる館長の背中を叩いてみる。ちらりとこちらを見た館長は一歩横に退いた。
「犯人サーン、ヤケになっちゃダメデース。そんなドジっ子オジサンオイトキナサーイ」
片言でそう告げてみる。こちらを向いた犯人に、自分を指差した。
「人質なら私がオススメです。仏蘭西領事館動かせますよ。高飛びだって可能でしょうね。お金だってすぐ手に入ります。多分、たくさんいいことあるよ」
そうゆっくり近づけば、犯人はこちらを見た。触れれるくらいまで近づいて笑みを浮かべた私に犯人は私を上から下まで舐めるようにみる。顔を真っ青にした父親が「ダメだ」と首を振る。
「娘はダメだ!僕のままがいい!」
犯人の視線が父親に向いた瞬間、犯人の手からナイフを叩き落としてを掴む。そのままねじ伏せて犯人の上に乗った。
『何処の誰かは知らないが、人質を取るならそれなりの覚悟があるんだろうね。手荒な真似をしたが、君のためでもあるんだよ』
そうそっと耳元で言えば、犯人はこちらを見た。
「というか、貴方もしかして噂のダザイさんでは?」
赤毛は見たことあるぞ。チラッと。織田作さんと一緒に。服装が違うからわからなかったけど。どろりとした目を向けた彼に、あー、精神的なやつね、と理解する。手をパッと離して、彼の目線に合わせて屈見、手を差し伸べる。
「ごめんなさい、お怪我はありませんか?どこぞの誰が暴れているかと思えば、貴方のような方とは思いませんでした。申し訳ございません。しかしながら、貴方は少しお疲れのようです。暖かい飲み物を準備しましょう」
そう彼の手を引いて立ち上がる。
「いい、俺は死にたいの、」
「そんなことをおっしゃらずに。私は貴方に生きて欲しいのです」
「俺のこと何も知らないくせに」
「なら、今から知るだけです。その時間さえも下さらない、と?」
眉尻を下げてみる。彼は目を下に逸らした。
「今はおやすみください。そのあと、ゆっくりとお茶にしましょう」
そう言って霊力を込めた手を彼の額にかざす。私の霊力は氷と状態付加眠りである。永眠てきなあれかもしれない。倒れ込んだ彼を抱きとめて息を吐いた。
「だ、太宰君!?」
「眠ってらっしゃるだけですよ。医務室に運びますね」
そういつものようにお姫様抱っこをしたところで気づいた。相手は女の子ではないし、私を追いかけてくる女の子でもない。
「はぁー、さすが騎士様、慣れてはりますなぁ」
そうニヨニヨと笑った織田作さんに坂口さん騎士様?とか聞き返さないで欲しい。
「ナマエの向こうのあだ名やて。黒髪の騎士様。思ったより似合っとるやろ?」
「織田作さん、そんなこと言ったら口説きますよ」
「ワシはダザイくんみたいに簡単やないし、大丈夫やわ」
「言いましたね?」
「じゃあ、織田作の代わりに俺が口説かれるか」
「ダメダメダメ!ダメ!娘に何やらせてんの!そもそも、ナマエは女の子でしょ!男の人を口説いちゃダメ!」
「グラン・マはパリ中の女性を虜にするなら、刺されないように男も取り込めと言われました」
「的を得ているな」
「ダメー!っていうか、女性を虜?え?え?」
「……あー、気のせいです。お父さんの聞き間違いです。お父さんってば、ドジっ子なんだからー」
あはは、と笑いながら太宰さんを医務室に運ぶ。慌てて井伏さんと佐藤さんがやってきたけど。
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結論から言うと太宰さんに懐かれた。年下だろアンタ、とは言わない。慣れてるからいい。佐藤さんやら井伏さんにはめちゃくちゃ心配されるけど。アンタたち親子は……とため息をつかれたことは記憶に新しい。お父さんが人質(正確には心中騒ぎ)になってたのはそういうことだろう。
「あかんわー、ナマエ、あかんわー」
そう顔を覆っているのは織田作さんである。耳が赤いぞ、織田作さん。
「なんなん?自分、ほんまなんなん?あかんよ、そう簡単に男たらしこんで」
「はい?」
そう首をかしげる。自覚有りでもたまにするけど今のは自覚なかったぞ。
「佐藤せんせならわかるやろ!」
「なんで俺に振るんだ織田作」
「いや、この前時間差で赤面してたやん、佐藤せんせ」
「織田作、言っていいこと悪いことあるんだぞ……?」
そう顔を覆った佐藤さんに首をかしげる。佐藤さん兄貴って感じだけど意外と可愛いのでは。ニヤニヤするな、と頭を叩かれたけど。
「何してるんだ?」
「ぼっさん、私ってそんなたらしこんでます?」
「あー、たらしこんでる、たらしこんでる。いや、たらしこむっていう感じじゃないな。地引網で引き上げてる」
「ああ、」
なんで納得するのか。
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