ネタ帳vol.3

2023ネタ帳116:君僕主の話

01/14 17:54 



この世界には二種類の人間がいる。双方ともに外見は変わらない。どこにでもいるような外見をしていて、世界中のどこにでもいて、それぞれが暮らしている。しかし、一方はそれを隠す。差別され危険視されることが多々あるからだ。人権擁護団体が声をあげたりもするが、それでも変わらない。就職先も限られる場合が多く、何かと制限がつきまとう。
世界には二種類の人間がいる。今の自分とは違う、死んだ誰かの記憶を持っている人間とそうでない人間である。

元はそれを前世と言ったらしい。まるでお伽話のような騎士や令嬢、町娘。そんな記憶を持っていたからだろう。そのような記憶を持つ人間は圧倒的に少なく、神様に愛された子とも言われ、200年以上前では重宝されたらしい。しかし、今ではそんな扱いはされない。かの大戦を引き起こした戦犯が記憶持ちだったからだ。記憶の時代は選べない。未来の記憶を持って過去を生きた人間もいれば、その逆もある。かの大戦の戦犯はそのパターンだ。また、かつての部下が年上に、かつての上司が年下に。そう言ったパターンもある。そうして年上になった部下が、恨めしかった年下となった上司に危害を加える事件も稀にあれば、敵同士がなかよくやっていることもある。
WHOはそんな記憶を二重に持つ人間を「Dual Memorys(二重記憶保持者)」と名称を定め、一種の集団的精神病だと公表した。また、カウンセリングによりその症状は落ち着くものとされ、発病者達は共にカウンセリングはうけることを義務付けさせた。それは、私が生まれる前のことだった。

私は事故にあった。落ちてきた男性の下敷きになった、気がしていたが事実はそんなことはない。交通事故による昏睡。その間に私は過去を追体験した。二重記憶保持者になったのである。歴史の授業、保健の授業で習っていた為に、それを話すことは憚られたが、雰囲気が変わったとすぐに母親にバレた。母親は私を置いてどこかへ行き、私は退院後に一人で暮らししながらカウンセリングに通うしかなくなったのである。まぁ、カウンセリングで私の記憶から恐らく数十年後の記憶を持つ同い年と出会うことになるのだが。
「ナマエちゃんは次の職業体験的なのいくの?」
そう尋ねたのが例の同い年、サチである。彼女のいう職業体験的なのとは支援団体が未成年にむけて行っているイベントみたいなものだ。大学の研究室や色々な企業ももちろん、公務員や海外の組織なんかもくる。そこでコネを作れば色々楽になるよとは先輩の言葉だ。
「進学する?」
「いや、働くつもりだけど……」
そう言って言葉を濁せば、カウンセリング担当医師に二人共予約してあるよと言われたのであるが。

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全国各地の二重記憶保持者が集まってきているからか、会場はかなり騒がしい。祈りを捧げるシスターのような人、病院、介護、国際関係の仕事、警察などなど様々な会社などのブースが並んでいる。サチがIT系をみに行っている間、私は警察であったり国際的な会社であったりを覗いていたのだが、自衛官のブースに捕まった。捕まったというよりは、展示を見ている時に声をかけられ、そのまま話している。当たり前のように尋ねられた「年代は?」という言葉に、それはいつのですか?と尋ねてしまったのは仕方がない。
「悪いね、前の君が生きた年代だ」
「生まれは1935年、死んだのが1964年」
そういえば、ほかの人の興味が湧いたらしい。
「時代が近いな。日本人の?」
「日系ではありました」
「本国は?」
「アメリカ……だと思う」
そう言って困った顔をする。ソ連に亡命したからソ連になるのかわからない。彼らは顔を見合わせて、入り口近くにいた人が、お隣さん、と日本語で隣のブースに声をかける。
「隣のブースみた?」
「いいえ」
「隣、アメリカ軍なんだよ」
そう言って笑った彼は暗に隣のブースの方がいいのではないか、といっているようだ。私はこのブースの入り口近くをみた。英語が聞こえる。現れたのは軍服をきた男性だ。陸海空全部の広報官だろう。「女の子だ」と英語で告げた彼に、私は苦笑いをする。
「君はアメリカにいたと今聞いたよ。軍に?」
「最初は……」
「最初は,ということはやめた?」
「いいえ」
「わかった、スカウトされたわけだな」
そう言った男性に苦笑いをする。
「その年代に,ということは何か演習には?」
「ビキニ環礁での演習には参加しました。でもその後は、同僚と一緒にスカウトされたというか、とある女性に師事を」
私の言葉に彼らは少しだけ目を見開くと顔を見合わせる。そうして少し考えたあと、誰かが例のいかれた売国奴か?と冷ややかな目で私を見下ろしたが。私は知らないふりをする。首を傾げて知らないふりをする。まぁまてと宥められたその男性に、違う男性が口を開く。「君は来ない方がいいと思うな」と。私はとりあえず頷いて、その場を後にした。サチには外で落ち合うメッセージをおくり、私はそのまま会場からでる。そうして人がいない場所まで来ると、解けた緊張に、私はうずくまりーー静かに泣いた。イカれた売国奴。それは間違いなく前の私のことだろう。そうなったのには理由がある。でもそれは誰も知らないし、誰にも言えない。彼女は嫌われる覚悟をして任務に向かった。でも、私にはそんなものはない。いきなり二重記憶保持者になって、いきなり母親に拒絶され、そして同じ記憶持ちにも拒絶される。それがとても悲しかったのだ。そうこうしているうちに雨が降り出す。傘なんて持ってきていない。服もびしゃびしゃだ。もう全部が嫌になって、また涙が溢れてきて泣く。そんな中、誰かが傘を差し出したらしい。
「大丈夫か?」
そう言って私を見下ろしたのは、記憶の中で私を殺した人と瓜二つだった。恐らくは彼もそう思ったんだろう。息を詰めて、私に伸ばした手をおろす。眉間に皺を寄せた年上だろう彼は、ナマエ?と小さく私を呼んだ。
私はこわかったのだ。全てが。自分の記憶が。持ってしまったが為に変わる周りの視線が、世界が。私は口を紡ぐ。泣くまいと耐えて彼を見上げる。彼は眉間に皺をよせて私を見下ろすだけだ。まぁ、そんな沈黙も彼の部下らしき人が現れた為に終わったが。彼はぶっきらぼうに私に傘を渡すと、風邪を引くとだけつげてその人と合流するとまた会場に戻っていく。入れ違いにやってきたサチは私が泣いた後を見て、どうしたの!?と声をあげたが。


戻ればまたカウンセリングをうける。君は全く関係ない仕事についた方がいいだとか,まだ目覚めてすぐだから不安定なんだと言われ、家に帰されることなくまた入院する羽目になった。また落ち着くまで点滴が刺されるのだろう。思考が鈍る。そうぼんやりと繋がった点滴をみつめる。部屋の外にいる看護師がいう。私は母親に捨てられたのだと。生活費は?父親からの養育費ですって。父親は迎えに来ないの?別の家族がいるそうよ。可哀想な子。そんな会話を聞きながら私は眠りに落ちる。せめて夢では幸せな世界であるように願いながら。

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「スネーク、君が会うべきはセーラー服を着た女の子だ」
「セーラー?海軍か?」
「いいや、違うよ。セーラー服。日本の高校生の制服だ」
「高校生が人質に」
「あぁ、恐らくD.Mだろうって。元々は民間機に乗っていたみたいだけどーー、相手の目を掻い潜って民間機を制圧したり対空ミサイルを無効化して離陸させてるんだ。その子が一人残ってる」
「あの長男の慌て様から見るに長男の知り合いか?」
「さぁね?でも、彼や彼の上司が彼女のことで忙しくなってるから君と僕に役目が回ってきた」
「それだけじゃないだろう?」
「スネーク。音声データで、絵が描けるのはだーれだ?」
「……?……サチか!?」
「そう、まさしく彼女からのメッセージだよ。私の友達を助けて、スネークってね」
「だから懐かしいコードネームなわけだな。わかった、あいつの頼みなら仕方がない」
「そう言うと思った。いいかい、スネーク。話は13時間前に遡る」


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「私には帰る場所なんてない」
そう言った少女をスネークは見下ろした。先程まで過剰な薬物反応で意識を飛ばしていた彼女が淡々と告げたからだ。あまりにもこの年代の少女らしくない反応である。いや,言っている言葉は家出少女そのものだが、雰囲気が違う。スネークも僕も眉間に皺を寄せた。
「家族は?」
「母親は私がD.Mだとわかった後行方不明になった。小さい頃にいなくなった父親には別の家族がいる」
彼女の言う様に子供がD.Mだと判断された時に子供を捨てる親は一定数いる。
「私は家に帰っても誰もいないし、記憶のことで憎まれたり冷ややかな目で見られることはあるがーー受け入れてくれる人はいない『嫌われ者』」
彼女はそう言って自嘲的笑った。スネークは何も返さない。彼女は別に気にしていないんだろう。
「それに比べ,あの飛行機にはみんなどこかに家族がいる。帰りを望む人たちがいて、そのどれにも暖かな家庭がある」
彼女はそう言って笑う。スネークがそれを聞いて彼女に問いかけた。
「……帰りを望む人のために囮になったのか?」
「……あとは単に動ける人が私しかいなかった、それだけ」
彼女はそう言って起き上がる。もう大丈夫です、ありがとうと告げた彼女にスネークは「いや」と告げる。
彼女のように、記憶を持つことで家族にも世界にも見放されるD.Mはたくさんいる。かつてビッグボス と呼ばれた男が築いたこの隊もそんな見放された人の集まりに近い。だからだろう。スネークは彼女に問いかける。
「なら、俺たちの元に来るか?」
「行かない。私はかえる」
彼女はそう言って、行こう、とスネークに声をかけた。スネークがややこしい顔をして、天邪鬼なやつめ、と告げる。

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サチはとなりにいたビッグボスと呼ばれた男を押し除ける。彼女の言葉に息を詰めた周りは、彼女の覚悟を聞いて受け入れようとする役に立たないと言うふうに。慌てて誰かが止めに入ろうとしたが、彼女は口を開く。
「そんなことない!!」
泣きそうな声で。
「そんなことない!!ナマエちゃんは生きて帰るの!!」
誰も彼女を止めない。恐らくは止めれないんだろう。上層部は彼女の行動にただ涙を流して、何もしなかった。動いたのはサチだけだった。
「ナマエちゃんは私の友達でしょ!帰る場所がないなら私のとこに帰ってきて!!一緒にディズニーワールドに行くって約束したじゃん!!行ってきますで外に出たならーー」
ーーただいまで帰ってくるのが礼儀でしょ!!
サチの叫びに、彼女は一瞬息を詰める。そうして、フハッ、といきをはいた。少しだけ雰囲気を緩めて。
「まったく、君はわがままなお嬢さんだ」
「わがままでいい!何もしないで見てるだけになるなら!ナマエちゃんの理由になるなら!!私は何回でもわがまま言う!」
それはとんでもないストレートパンチだった。僕らに対する。そして、サチの隣にいた男に対しての。彼はサチを見下ろしたけども、サチはそんなものを気にすることなくーー恐らく気がついてなさそうだけどーー口を開く。
「ナマエちゃん、状況は?」
「……カウントはまだある。操縦桿で動くから私は予定通り海に落とす。爆発はだいぶ抑えられるはずだ。スネークや研究員たちがいた場所には爆風は恐らく届かない」
その言葉に彼女の意図をようやく把握する。彼女はあの一瞬でそれを把握してみせたのだ。サチは諌める様に「ナマエちゃん」と彼女をよんだ。
「大丈夫、私は一緒に落ちない。ベルトか何かで操縦桿を固定してひたすら前に進ませる。ただ、前に進混ぜ続けるために遮蔽物がないところまでは連れて行かないといけない」
「サチ、落としても距離を取らなきゃ危ない。すぐ港のそばに落とせば、多分だけどそのあたり一体が吹き飛ばされる。彼女も距離を取らせないと」
そう言えばサチが物凄い顔でこちらを睨む。助言だと言うのに。そこでようやく,サチのとなりにいた男が動いた。マップを拡大しろ,とつげた彼はその辺りのマップをみる。そうして周りの状況を把握したのだろう。
「……ナマエ、どこで離脱予定だ」
「……森の中だ。森の中でじゃないと、操縦席から落りる時に足をやられて逃げれない。ただ、そこからコレが直進で進めるかわからない」
「森入口から南西に1キロ進め、そこから海へは直進だ。迎えはよこす」
「ありがとう」
そう言った彼女に彼は目を伏せて、サチを見下ろす
「……礼ならお前の友人に言ってくれ。必ず生きて帰れ、ナマエ」
「……了解」
彼女はそう言って無線をきる。サチは彼を見上げた。彼は彼女の頭をぽんと撫でる。
「帰ったら叱ってやってくれ、思いっきり」
「そりゃあ勿論。でも、きっと貴方も話して、貴方も怒るべきだよ」
サチの言葉に,彼は、「……ああ、そうだな」と目を伏せたのだが。


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「ふ、あはは、」
聞こえてきた笑い声に、僕達は目を瞬く。何がおかしいんだ、とスネークが尋ねると、彼女はケラケラと笑いながら、映画みたいだった、と率直な感想を漏らした。その声は、張り詰めた軍人の様な声ではなくただの少女の声だ。スネークも同じ様な感情を抱いたのだろう。「そうしていると、年相応のお嬢さんなんだがな」と呟いた。彼女はそれが聞こえなかったの、スネークがいやなんでもないと呟く。
「……そう言えば、貴方みたいな人に会ったら聞こうと思っていたことがあったんだった」
「……なんだ?」
「貴方の人生は結局幸せだったと思う?」
彼女は心底不思議そうに尋ねる。スネークは目を瞬いて、どうして?と逆に尋ねた。僕らもまたどうしてそんなことを聞くのかと彼女がうつるモニターをみた。
「貴方はサチを知ってるし、サチがある程度知っていたことも知っていた、違う?」
彼女の言葉に僕たちの一部はサチを見る。彼女は確かにある程度の未来をなぜかしっていた。なぜ知っているのかと問えば、彼女曰く「夢で見たから」らしいが。
「……あぁ。だがまぁ、サチの予知夢とでもいうのか……話は聞いた。だが、決定的な違いがいくつかはあった。決定的だったのはーー」
「そこに彼女がいないし、何人かの女性がいない、だったかな」
それはそう、とサチは頷いた。サチはまるで映画のシナリオのように一連の事件を知っていた。観客と自分という感覚だった、とはのちに僕に言う言葉であるが。スネークが問いかける。
「それがその質問にどう関係……まさか」
「……私がそれを単に夢の話じゃないと理解したのは、長官に呼び出された時だった」
彼女の言葉に、一部が反応した。
「頭の中はパニックだ。最敬な人(たいせつなひと)が最愛の人(たいせつなひと)を殺す夢が現実で始まろうとしている。時間もない。考える時間がなかった」
「……だから、お前は任務に行った?」
「あぁ、行った。二つ返事でそれらしい文句を並べて。私はその一連の結末を知ってた」
「周りに告げなかった?サチは俺やオタコンにそりゃあもう騒いだぞ」
「昔、母親と父親に違う夢を告げたことがあった」
「それはどんな?」
「ユダヤ人はみな収容所に連れて行かれる夢」
「ナチスによる強制収容か」
「あぁ、でも、二人は怖い夢を見たんだね,で終わり。子供の言うことだ。周りにも誰にも相手にされなかった。そのうち、夢で見た様に父は連行された。父はユダヤ系のドイツ人だった」
「お前は捕まらなかった?」
「父親が庇ったし、私は目の色こそ父親ににたが、他は東洋人似だ。周りが黙っていればバレない。母親は私を連れてフランスに逃げた。私は嫌だと言った。行き先がノルマンディーだった」
「……」
「ノルマンディーだけは絶対に嫌だ。夢に見たんだ!血でビーチが真っ赤になる!街も破壊される!めいいっぱい騒いだ。でも、母親は私を慰めた。父親が目の前で連れて行かれたから、怖い夢をみるのよ、と。その母親は爆撃にあって死んだ。ナイスデイの数日前だ」
「上陸作戦前の爆撃、か」
「ああ。ことごとく街に住んでいた人は死んだ。ご近所さんは全滅だ。まぁ、これは昔は覚えてなくて、今だから覚えてることだ。ショックで養父に拾われる前の私は記憶がなくなった。覚えていたのは、瓦礫の街を彷徨ったことくらいだ」

「でも、信じてもらえないという感覚は残った。だから、ずっと黙った。これはただの嫌な夢で、現実はこうならない。」

「どうにかはしようとしたが、時間があまりにもなさすぎた。出来ることは嫌われる努力をするくらいだ」
「……」
「私は夢の通り、シナリオの通り殺されることになった」
「……お前はそれで幸せだったのか?」
スネークが代弁するように彼女に尋ねる。
「その結論をだしたくて、君に聞いてる」
「俺はそれなりに幸せだった,とは思うが」
スネークは恐らくモニターされていることを忘れている。でも僕もそれを聞いて安堵したし、彼女もまた安堵した。ああ、よかった、と寝転んだらしい彼女に、スネークがどうしてそんなことを?と尋ねる。
「だって、私は君たちに、たとえ少しだけ道を外れたとしてもーー幸せに生きて欲しくて、あの任務についた。わがままが叶って、幸せじゃないはずがないだろう」
そもそも、幸せで満足だったからあの任務に着いたんだから。
その言葉は恐らくクリティカルヒットだったんだろう。僕らは珍しいものをみることになる。サチのとなりにいたビッグボスは席を外したしーー、ただただオセロットやエヴァ、かつて彼女に関わっただろう彼らは驚いて、目を伏せたのだが。
ーー彼らの人生は幸せだったのかは僕は知り得ない。ただ、実子ではないにしろ、彼らには彼らなりの家族の様な人がいて、それぞれ生きた様に思えたからだ。スネークはその言葉に、そうか、と告げる。
「だが次からは他に相談するなり上手くやってくれ」
「もちろんそうする」




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目が覚めたら知らない天井だった、を人生で2回経験するとは思わなかった。ピッピっと規則正しくなる機械音に目を覚ます。たぶん病院だろう。お腹が減った。そのままゆっくり起き上がり、フラフラと移動すればブザーがなる。なるほど、移動してはいけない感じの。まぁ、人が来るわけでもなさそうなので私は引き出しから自分の貴重品をとりだすとあるだろう購買に向かえば、患者や職員が買えるスタバがあったのでそこでフラペチーノとシナモンロールを買って、綺麗な景色が見えるベンチに座って食べる。歩き出しは体がフラフラしていたが、もう大丈夫そうだ。そう言えばサチは大丈夫だろうか、と思っていれば、ヘイティと声をかけられる。振り返れば金髪の男性がいる。見たことがある姿である。
「貴方は重症者です、病室から出歩くべきではありません」
聞こえた声に、なるほど,と理解する。オセロットと呼ばれた青年だろう。私が養父より譲り受けたSAAを渡した。オセロット、と、私が呼べば彼は目を見開く。
「……と呼ぶのは馴れ馴れしいかな、少佐?君の方が年上のようだし敬語の方がいいかな?」
困った様にそう言えば、いえ、気にしていません、と告げる。
「部屋に」
「これを食べたら戻る。……ここは綺麗な景色だな」
そう言ってシナモンロールをちぎって食べる。彼はため息をついた。
「ここは?」
「ここは太平洋の真ん中あたりです。あの場所から程よく近い。あの民間機を受け入れて、今は全員入国手続き中ですよ」
「よかった、無事だったのか」
「ええ、貴方のおかげでしょう」
「私は何もしていないよ。ただの経歴も位もない小娘。貴方より年下の」
そう言って困った顔をした。何故オセロットに敬語を使われているかなぞである。ジョンならまだしも私はそこまで関わりがなかったはずだ。数回話したし、SAAをあげたけども。
「貴方は重症者です。医療機関により繰り返し過剰与えられた薬、あのテロリスト達が与えた薬。痛みを特に感じない理由はそれです。薬が切れれば貴方は痛みにもーーフラッシュバックにも悩まされることになります」
「貴方もそうだった?」
「ええ。多くのーー戦場にたった記憶がある人はそうです。だから暴虐性を押さえ込もうと薬を過剰に投与されがちになる。その分、薬が切れた時の反動が凄まじい」
そう言って目を伏せたオセロットに、なるほどなぁ、と納得する。まぁ、嘘かもしれないが。確かに去年はパニックがすごかった記憶がある。
「もう少し海を眺めたら戻る」
それだけ言えば,彼はため息をついたらしい。私は海を見てぼんやりとする。どれくらい時間がたったのか、ふいに、綺麗な場所だろう、と聞こえる。その声の持ち主は私が知る限り一人だけだ。デイヴィッドよりも少しだけ明るさをのせたような声だ。
「あぁ、綺麗な場所だ。ここをお気に入りにする」
そう言って振り返ればいた隻眼に、彼はだろう?と笑う。彼は隣に座ると同じ景色を見ることにしたらしい。私は気にしていないので景色を見つめる。
「気持ちがいいくらいに何もない」
「太平洋のど真ん中だからな。しばらくはここだ」
「入国手続きをしてるって聞いた」
「それもある。だが、お前は治療の為もあるし、お前の身柄をどうするかという話もある」
「犯罪者にでもなった?」
「いいや、それはない。中身はともかく形だけでもお前は未成年だろう。迎えの問題もあるし、証人保護プログラムが適用されるかどうかという話もある。その決定待ちだ」
その言葉になるほどな、と告げる。食べる?とシナモンロールをちぎってみせれば、もらおうと彼はそれをとった。
「嫌われてるかと思った」
「嫌いだったぞ」
「やっぱり?自分でも馬鹿なことをしたなぁって思ってた」
そう言って前を見る。


「ジャック、今何歳だ?」
「26。さっきからひたすら困ってるやつは24だ」
「タチアナ……エヴァは?」
「24」
「なんで離れたかなぁ……」
「離れる時は離れるし、近くなる時は近くなる」
「ザボスは相変わらずオセロットの母親?」
そう尋ねれば、ジャックは目を瞬いて、知ってたのか?と尋ねた。口元のあたりとか似てる、と言えば確かにな,と言われた。
「ボスから子供が取り上げられたことは聞いてたし、アメリカにいないならソ連だろうし」
「本当にただの逆算か?」
「いや、知ってた」
認めた方が楽だ。言ってみただけと言えば彼はなんとも言えない顔をする。
「今思うと、普通にアダムスカがザボスの息子として育てられていたら私は養父を通して会ってただろうし、幼馴染になれたのに残念だなぁ。誰かさんがオートマじゃない方がいいって言ったの気にしてたから私が持ってたSAAをあげた」
「アレやっぱりお前のか!?」
「あぁ、養父から譲り受けたラッキーなカゴ付きSAAだ」
「通りで……」
「ジョン」
嗜める様な声だ。二人でそちらを見ればアダムスカがジョンを少し睨んでいる。私はジョンを見上げる。彼は悪い悪いとつげた。


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