ネタ帳vol.3

2025年ネタ帳11:刀剣っぽい設定込みの中華組

08/12 14:20 

加勢に入った勢力、というよりは助けに入った人は見たことがない人間である。李典と楽進が苦戦していた際にやってきた人ではあるが、腕も立てば頭もキレる。李典が感じた良い予感とはまさにこの人物の加勢であろう。
浮世離れした人物だ。戦場であった場所を見つめている人物はまさにそんな言葉が似合う存在だった。軽く髪を結ってはいるが、性別はわかりにくい。ただ、年若いのだということはわかる。どこか憂いを帯びたような表情をしている様は、浮世を嘆く仙にも見えた。まぁ、李典の視線に気づいて笑みを浮かべた様は郭嘉ににているのだが。李典はそれを見て口を開く。
「アンタの加勢、助かったぜ。押し切られるところだった」
そう言って頭を掻いた李典に、楽進は頷く。
「本当に助かりました。貴方がいなければどうなっていたことか……」
「お気にする必要はございません」
そう緩やかに首を振った人物は、声さえも中性的である。
「たまたま近くを通りかかり、あなた方がご無事で何よりです」
「俺の名前は李曼成。こっちは……」
「楽文謙です。主に魏の将をしております。貴方は」
李典と楽進が名乗れば、その人物は微かに目に感情を宿らせてそれを隠すように目を閉じた。そうして、すぐにまた柔らかな笑みを浮かべた。
「私はーー」
「志才、ここにいたか」
そう言ってやってきたのは男である。どこかにているが、男の方は現実感があるしどこかの将であると十分に感じられた。数人見慣れない武者のようなものを連れている。あたりを見わたして、眉間に皺をよせた男は志才とよんだ人物を見下ろした。
「手を貸したのか?」
「いいえ?眺めていただけです」
嘘である。李典と楽進はそう思いながら二人を見る。眺めていれば、そのお二人が声をかけてきた、と続けた志才に男はなんとも言えない顔をする。
「叔父上は心配性ですね、私には怪我ありませんよ」
「そうか。あまり出過ぎた真似をするな。こうやって出歩くこと自体、兄上の不満を買う」
「気をつけましょう」
「すまぬな、どこぞの方。我々は戻らねばならぬ故、さらばだ」
そう言って頭を下げた男に、志才は挙礼をしてからそのまま男の後に続いた。
「異界の方の由緒正しき方、でしょうか」
「うーん。さぁな。引き留めた方がよかったかもしんねぇ」
楽進の言葉に李典は二人が去った先を見つめてそう告げる。嫌な予感がする、が、会える予感はする。戻って念のため報告するか、と告げた李典に、楽進は頷いた。

「志才?」
「ええ、字なのか名なのかは分かりませんが」
李典の言葉に、荀ケが目を瞬いた。志才といえば、と郭嘉が口を開く。
「私の前任の戯志才殿かな?」
「あぁ、どこかで聞いたことがあると思っていました。しかし、昔見た戯志才殿の外見とは違うような……」
楽進はそう言って考える。夏侯惇が尋ねる。
「どんな奴だったんだ?」
「どこか浮世離れしたような方でした。郭嘉殿を少し幼くしたような……」
それが正しい。おや、私はそんなに浮世離れしているかな?と郭嘉が揶揄うように告げる。
「顔が似てるのか」
「いえ、雰囲気が似てるっつーか……麗人なんですけど、性別がわからないというか……所作は男だから男だとは思うんですが」
「浮世離れした麗人、か。気になるね。話してみたいものですね、殿」
「うむ、そうだな」
「まあ、多分再会はする予感はあるんで、また会えるとは思いますよ」
李典はそう言って頭を掻く。近いうちにまた、だ。


==

その近いうち、は、すぐに現れた。謎の勢力と共闘することになった際に、あの男がいたからだ。すぐ近くにいる男が長なのか、李典達ーー三国や戦国の面々の話にただ了承することもなく、眉間に皺を寄せている。かと、思えば、長のような男は、前に出会った男をみた。
「おい、志才を呼べ!志才は何をしている!」
「兄上、志才は先日妖魔との攻防戦に出向き、帰ってきたばかり。昨夜も無理を……あの子の体は強くない。自分で決められよ」
「あぁ、きめた。我らからは志才を出すと決めたのだ」
兄と呼ばれた男がそう告げた。この間にいた男は眉間に皺をすよせる。
「忌子が本家の我々の糧となるのだ、死に場所を求めるアレにとっても良いことだろう!」
「……では、私も出るが良いな、兄上」
「ならん!朔羅、お前は男士達と共に私の護衛よ!父の正統後継者なる私が死ねば、我が国の損失だ!!」
男は喚くようにそう告げた。朔羅と呼ばれた男は眉間の皺を深くした。さて、どう切り出したものか、と曹操は考える。恐らくはこの目の前で喚く男は役に立たない。しかし、そんな中、襖が開く音がした。
「叔父上、楽しげに騒ぎをしてらっしゃる。廊下までも私を呼ぶ声が聞こえてきました」
その声に視線が出入り口の方へ向く。志才、と呼ばれる人物の登場である。なるほど、確かに麗人である。少年と青年の端境か、もしくは女性か。わかりにくい顔立ちに、服装でも判別がつきにくい。李典が郭嘉と似ている、といった理由もわかる。雰囲気が似ているのだ。
「そのように騒がれては、貴方の評も下がりましょう」
その言葉に男は鼻を鳴らした。そうして志才に言い放つ。
「志才、妖魔だ。お前の出番である。この者らと協力し、うまくやれ」
志才はちらりと三国や戦国の面々をみる。そうして柔らかな口調で頷いた。
「ええ、分かりました。この場に貴方のような方は相応しくありません。あとは私に任せ、お下がりください」
ゆるく笑みを浮かべて告げらた志才の言葉に男は上機嫌に席を立つと、下がった。志才はそれをどこか冷めた目で見つめる。
「志才」
「私が代わりに話をお聞きいたします。朔羅叔父上は警備にお戻りください」
「しかし」
「朔羅叔父上は心配性でいらっしゃる。私が体が弱かったことなど、幼子の頃の話。幼子とは皆体が弱い者ですよ」
志才はそう柔らかにいうと、もう一度男が去った方を見る。
「寛和叔父上の癇癪がひどくなれば、そちらの方が私にとってはよろしくないものです。ついでに将を幾人か貸してもらえるように話してくださると助かるのですが」
「……わかった、兄上は私が宥めておこう。将は幾人か護衛からまわす」
「感謝いたします」
柔らかにそう笑みを浮かべた志才に、朔羅と呼ばれた男は面々に頭を下げてーーそのまま後を追うように奥へ消えた。志才と言えばその足音に耳を澄ませていたが、遠ざかるとすぐに他に挙礼をした。
「我が叔父の無礼、どうかお許しください。さぞかし皆様に無礼を働いたでしょう」
「……顔をあげよ。気にしてはおらぬ」
曹操がそう断れば、志才はありがとうございますと礼を告げた。
「……私の名は、志才、と申します。李曼成殿、楽文謙殿、この間は名乗りもせず去り、失礼いたしました」
「いや、気にしてない。なんか事情がありそうだったからな」
「ご配慮、心入ります。しかし、貴方様達が思うような事情ではありません。さて……咸和叔父上よりは妖魔としか聞いておりませんが、この地に訪ねて来るということは、北西にある妖魔の砦を落とす算段を立ててらっしゃる、と考えても?」
志才の言葉に、曹操は頷く。近くにいた郭嘉が頷いた。
「おや、志才殿もそのようにお考え、かな?」
「いえ、私も煩わしくは思っていますが、私に口をする権利はありませんので。情報だけを集めさせてはいましたが。しかし、大国でありそうな貴方達よりもこちらの方が彼らには攻めやすい。貴方達は律儀な方です。ここを囮にし、背後を突くやり方もあるでしょうに」
「私たちを重きを置き、砦を取り返すことを前提とすればそうなるね。でも、砦を取り返すのが目的ではなく、妖魔を追い払うことを目的だから」
「挟撃の形を取ると」
「その通り」
郭嘉の言葉に、志才は目を伏せる。
「かしこまりました。あなた方に合わせてこちらも出来るだけ戦力を整えましょう」
「ありがたいね」
そこから話は本格的な軍議に移行していくのであるが。


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志才が連れてきた将は五人だ。矛のような武器を持つ厳しい男・天蓋、戟のような武器を持つ面倒見がよさそうな青年・狼風、爪のような鍵のような武器を持つ明るい青年・霜翼、爪のような武器を持つ麗しい青年・爛華、斧のような武器を持つ誠実そうな青年・武断、双鉞を扱う無口な男・天狼である。それに加えて、御手杵と呼ばれる槍を持った青年や、同田貫と呼ばれる青年が朔羅より使われてきていた。兵もよく訓練されており、挟撃し妖魔を退けることは容易かったといえよう。
「失礼致す」
天狼と呼ばれる男が郭嘉に声をかけたのは撤収準備中の陣中である。志才が長らく不在にできないため、すぐにたつと告げて少ししたくらいだ。まさか声をかけてくるとは思わなかったからか周りは驚いたが、郭嘉はすぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「おや、貴方は確か、天狼殿、だったね」
「然り。貴殿に聞きたいことがある」
そう何処か真っ直ぐに告げた天狼に、聞きたいこと?と首を傾げた。今回の策のことか、それともそれ以外に興味を得たか。周りが思案していれば、天狼は口を開く。
「簪の細工師に心当たりはないか」
「……簪?」
告げられた言葉が意外すぎたため、周りは目を瞬く。簪の話題になるとは思わなかったからである。
「誰か贈りたい娘でも?」
「否、我が主の大切な簪が壊されたのだ」
「主というと、志才殿の?」
「うむ。我らも主に贈られたもの。主は我らも大切にしてくれている。だが、恐らくは一番大事にしていた簪があの男に壊されたのだ。それを治してやりたい」
天狼はそう言って目を伏せる。止めに入ろうとしていた狼風が頭を掻く。
「志才殿に贈られたもの、かな?」
「うむ。貴殿によく似た男から贈られたものだ。だから、貴殿なら知っていると思った」
天狼はそう言って郭嘉をもう一度みる。暴論である。似ているからと言って知っているとは限らないはずなのだ。しかし、天狼は本気で思っているのだろう。
「幾つか確かに心あたりはあるね。曹操殿もお詳しいはずだからそちらにも当たってみよう」
「感謝致す」
そう綺麗に一礼した天狼に、狼風が帰るぞ、と声をかける。曹操と話していた志才がやってくると、郭嘉達に軽く頭を下げて陣地を後にした。
「あの屋敷にあれだけの兵がいるとは思えないのですが……」
荀攸は志才達を見送ってそう告げる。確かにそうである。将として教えられた者達は住むことはできるだろうが、兵達をどこで過ごさせているかは謎だ。

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何度か志才や朔羅、寛和と呼ばれる男の元に足を運ぶ。寛和という男は何かあれば志才を呼びつけ、いいように使っているのは確かだった。朔羅は止めるが、それに力はないと言っていい。志才だけが怪我をしていることなんぞ、ザラにある。そんな中である。今もそうだ。志才だけが怪我をしていて、寛和という男は志才を罵って外に出た。朔羅と呼ばれた男が叱るが、次いで出るのは次男のくせに、選ばれない男のくせに、だ。朔羅はただ苦虫を噛んだように表情を歪ませるだけだ。志才は、と言えば気にしていないのか、はたまた興味がないのか、関わろうとはしていない。
ーー志才は何を考えているかわからない。良い意味でも、悪い意味でも。
才はある。戦運びにしろ、人の運用、戦略、全てに優れていると言っても良い。ただ、人間にあるはずの意志も熱意も感じない。まるで人形のようだ。浮世離れしている、と評されるのはだからもあるだろう。笑顔を浮かべはするが、それは愛想笑いのようなものだ。本心から笑ってはいない。それを気味が悪いと感じる人も多いのは確かだ。ただ、役に立つから迎え入れている節が強い。
そんな中で、である。軍議を終えたあと、志才が荀攸の視界から消えた。静かに、声を上げることもなく。動く気配がない、とは志才と同じく最後まで残っていた荀攸が思っていたことではあるが、それにしてもいきなりだ。荀攸は眉間に皺をよせあたりを伺う。反対側の机の淵に微かに手が乗っているのがわかる。おおよそ、大人の男の手ではない。志才の手だ。
「志才殿?」
そう声をかけても返事はない。恐る恐るそちらに回ってみれば、志才が起きあがろうとしているのが見える。しかし、荀攸を見上げた顔色がひどく悪い。
「志才殿!!」
駆け寄って支える。大丈夫、というが、見るからに大丈夫ではない。荀攸が支えてもきちんと立つことができていない。こんな状態では戦場に出ることはできないだろう。近くに座らせるか、と、荀攸があたりを見渡す中でも志才の目がだんだんと熱に侵され、虚ろになっていく。体重を荀攸に預ける形になってはいくが、大人の男のそれではない。ようやく壁にもたれさせた時、志才はどこか虚な目で荀攸をとらえると、「にいさま」と小さく笑んだ。それはいつものような笑みではない。迷子の子供が、家族を見つけた時のような。志才の手が荀攸にのびる。焦点が定まっていない。手は宙をきりそうになる。荀攸がたまらずその手をとれば、にいさま、とまた志才が言葉をこぼす。
「にいさま、むかえにきてくださったのですね……」
なんと答えるのが正解か、そう答えあぐねているうちに、志才は意識を落としたらしい。手の力が抜けーー志才が目を伏せた。
「志才殿!」
「公達殿、まだこちらに……志才殿!?」
バタバタとかけよってきた荀ケに、荀攸は志才の肩をゆする。目を覚さないが、額に手を当てれば熱があるのがわかる。
「俺が立ち去る直前に倒れられてしまい……酷い熱です」
「……このような状態ではとても戦場には立てませんね」
それにしても、と、荀ケは志才を見下ろす。幼い顔立ちだ。成人している男には見えない。
「郭嘉殿や殿達に話して参ります。公達殿は志才殿を休める場所に」
荀ケの言葉に荀攸は頷くと軽々と抱き上げる。荀ケはそれに目を瞬いた。
「そのように軽々しく……」
「いえ、事実志才殿は軽いです。まるで子供か女性です」
荀攸はそう言って休める場所へと志才を運んだ。あにうえ、と、小さく志才が呼ぶ。
ーー、あにうえ、みなもにあかいひかりがきらめいて、きれいですね。
寝言のようなことばを告げて、志才の呼吸は随分と楽になった。

「主が倒れた!?」
そう目を白黒させた狼風は、嫌な予感はしてたんだよ、と言って頭をガシガシとかいた。報告をきき、同田貫と呼ばれる青年が狼風達を見た。
「どうする?朔羅に連絡して連れて帰るか」
ずっと眉間に皺を寄せて目を伏せていた天蓋が、否、と口を開いた。
「連れて帰ったところであの男が酷い仕打ちをすることはわかりきっている。我らを守るためとはいえ、主があのような仕打ちを受ける筋合いはない」
「天蓋殿の言うとおり、朔羅殿だけであれば主も身を休めることができるでござろうが……」
「お前たちが住んでる邸もあいつらが出入りしてるもんなぁ」
御手杵はそう言って困った顔をした。天蓋はまた目を瞑った。
「ーー酷い仕打ち、とは?」
「そりゃもう色々ですよ」
爛華がそう告げる。
「朝から晩まで働かせて、出陣しろと命じて間髪を入れずに東奔西走させる。それだけではありません。本来であれば屈辱的なことも強制をする」
「ーーなぜ逃げない?」
「それは……」
「……我らが人質のような者だ」
言い淀んだ霜翼にかわり、天蓋はそう言って答えた。
「お前たちが?」
「我らは人ではない。主達が扱う術により人の身を与えられた唯の武器だ」
「ーーなんだと?」
「このような情勢、主は黙っていたほうがいいと判断していた。故に貴殿らには話していない。兵もまた主が生み出した式である。だが、主も我らは貴殿らに害するつもりはないことは理解されよ」
天蓋はそう言って他を見下ろした。御手杵がそれを補助するように口を開いた。
「それは俺たちも一緒だ。俺たちのいた場所じゃ、長く愛された物には魂が宿るんだよ。それを人間が術で人の姿にしてるってわけなんだよな」
「俺たちの本体はこっちだ。人間でいう重傷になれば体にヒビができ、折れりゃ俺たちは死ぬ」
同田貫はそう告げて刀を見せる。霜翼が頷いあ。
「私たちは武器ですので、人間のようには自然に回復しません。術者達のみがその刃を手入れし治すことができます。徐々に回復はしませんが、術者が手入れすることにより傷はなかったこととなるのです」
「その手入れができる場所は寛和が牛耳ってるんだよ。朔羅にしろ、志才にしろ勝手に使えないようになってる。朔羅がうまく動けないのも、そこを抑えられてちまってるからだな」
「志才は」
「主は剣を十二振りお持ちです。我々は主へ祝い品として贈られたもの。それぞれ、将である人間が使っていた武器でしたが、主のために仕立て直された刃です。あとは主のご友人から友情の証として贈られた剣が一振り。兄達から主を守るように願われた剣が五振りと誉として与えられた剣が一振り。そのうち、人の姿を保てるのも、こうして戦に出ることができるのも我々だけなのです」
「おい、それは俺たちも初耳だぞ。朔羅は知ってんのか」
「知らないとは思いますよ。あの男からが隠していますから」
爛華の言葉に御手杵と同田貫は眉間に皺をよせた。天蓋がまた口を開く。
「……あと一歩で折れる剣が六振りある。五振りは主を守るように願われた武器、もう一振りは友人から贈られた武器故、主の危機に黙っておられんかったのだろう。鞘に入っているからこそ無事であるが、間違いなくあれは対処をせねば折れる。もう一振りは誉のために贈られた煌びやかな剣。恐らくあの男が持っている」
「しかし、冷たいことをいうが、物は壊れるものじゃねぇか?」
「真理だな。人間は死ぬものであるのと同様、我らも手入れされなければ壊れるものだ。ーーだが、主にとって我らはもう会えぬ者たちが残した物であり、家族の代わりなのだ」
天狼がそう告げる。か
「元の場所では主はわけあって屋敷から外に出られぬ身。親が来たところなど見たことがない。主は祖父から与えられた屋敷で、我らと1人で暮らしていた。いや……あと一つ……簪である男がいた」
天狼はそう言って目を伏せる。
「我々と同じく、主がもう会えぬ者たち……その中でも一番仲が良かった兄に贈られた簪だ。主の祖父が生きていた頃は穏やかだったが、亡くなられてからそうでなくなってしまった」 「あの男やその周りが乗り込んできて、我らや屋敷は長子であるあの者のものだ、と騒いだんだよ。主や俺たちはもちろん反抗したがーー簪を奪われ目の前で簪が壊されーー簪の男は死んだ」
「そこからだ、あの男はそれから主に無理を強いーー主がはむかえば、主が大切にしている剣達を折れる寸前まで追い込みーー主はあのようになったのだ」
「貴殿が簪の細工師を探しているのは……」
郭嘉の問いかけに天狼は頷いた。
「うむ。主殿の簪が治れば、主殿の元気も出ようと思ってな」
「……主を屋敷に戻せば、あの男が脅すことはわかっている。下手をすれば人間である主が死んでしまう。それは主を守るようにと願われたあの剣達の本意ではなかろう。貴殿らが主を気味悪く思っているのも理解している。無理を言うのは承知の上だ、主を匿ってはいただけないか」
天蓋はまっすぐに君主達をみる。曹操が口を開く。
「……お主が恨まれるのではないか」
「それも理解している。が、主人の命が助かるのであれば些細なこと」
「天蓋殿、一つお聞きしたいのですが、志才殿の歳を教えて頂きたいのです。普段の佇まいからはあまり感じられませんでしたが、寝込んでられる姿をみると成人しているとはとても……」
「志才は十四だ」
同田貫の言葉に、周りは言葉を詰める。
「正確に言や、十四の娘だ。男に見えるのは、わざとそうした振る舞いをしているからだろ。戦国やアンタ達の世界ならともかく、俺たちの世界では成人してねぇ。朔羅が酷く心配するのはだからだ」
「おっと……では、話は変わるね」
そう言った郭嘉に、荀ケがすぐに変わりませんと告げる。
「ふふ、そうかな?私は娘であったほうが嬉しいからね。我々でよければ匿おう。彼女の才は非常に魅力的だ。しかしーー志才殿の人質や屋敷の件もどうにかしておきたいものだね。私が思うに、御手杵殿達は朔羅殿や寛和殿に使えているわけではないだろう?」
「俺たちは志才の祖父の名義だったんだけどな、屋敷に乗り込まれて……ややこしくなってるんだよな、これが。」
「そもそも俺たちの主は寛和にも朔羅にも継がせる気はねぇよ。朔羅は役人で自分の屋敷と自分の部下を持ってやがる。朔羅の息子に夕凪ってやつがいて、そっちに継がせるつもりだった。だが、主の血族だ。俺としては寛和を情けで切ってやってもいいが、ガキの頃から知るやつからすればそれを良しと思わない奴もいる。が、志才への仕打ちを見りゃ愛想も冷めてるだろうな」
「なら朔羅殿や貴方達と協力し、うまく寛和殿だけを離せないかな?例えば、偽の情報を流した上で妖魔に襲わせてしまい朔羅殿の立場をあげる、とかね」
「アンタ優男の顔してえげつねぇ策を立てるな。俺はそれでもいいが、なににせゃ朔羅を通したほうがいい。朔羅は志才がどんな目にあってるか詳しくは知らないだれや。きけば怒っていやがおうにも動くしアンタ達に協力するだろ」


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寛和の力により人の身を与えられた桃李という剣は軽蔑するように寛和を見下ろした。何故だ、お前の主であるぞ、と騒ぐ寛和に桃李は騒ぎもせず冷ややかに見下ろしている。そうして持っていた剣をひきぬくと、寛和の首すれすれに刃を指した。
「主に礼を言うのだな。主が止めておらねば、もっと早くにお前の首を刎ねていたものを」
声は至って冷静だ。が、怒気が含まれている。恐らく理性で
寛和の首を刎ねることを抑えている。
「それ以上、穢れた手で主に触れることは、作り手に主人を託された俺が許さん。例え我が身は共に沈んでも、例え共に葬られようとも、俺は、我らは主がために作られた物。願いと想いを贈り手より託されたもの。万が一主により次代に託されたとしても、それを違えるお前を主などにはせん」
そう言って切先を退けた桃李は、振り返る。後は人間の法に照らし合わせ処分せよ、と朔羅に告げた。最後の最後に桃李に飛びかかった寛和はすぐに近くにいた他の刀剣に押さえつけられーー連れて行かれたが。それを見送って桃李は他の面々をみる。
「ついでだ、剣に戻った俺を主の元へ連れていけ」
「満身創痍な我々につれていけ、と」
「お主たちにはいっておらん。人間に告げた」
「桃李殿、人の身になったのだから自ずの足で歩いて行っては?主もお喜びになる」
「人の身にはならん」
「主が小き頃は貴方が人の身になるのを今か今かとお待ちでしたが」
「あぁ。知っている。が、人の身にはならん。私は主を彩る刃に過ぎん。戦うために作られたものではない。なれば、主を彩る剣に戻るのみよ」
そう言って桃李が透き通りーーカラン、と言う音と共に剣が落ちた。綺麗な装飾が施された鞘に入った剣である。
「なんていうか……殿に似た奴だったな」
「鋭い指摘です。そう言う俺は荀攸殿にさぞかし似ていることでしょうね」
貴隼は夏侯淵を見てそう告げる。自覚あったのか、という会話をけながら、灼璃が肩をすくめて口を開く。
「主が起きたら手入れするように頼んでおいてほしいな。それまで私は眠るよ。じゃあね」
人の身が消えてーー剣がおちる。他も習って剣がおちる。
「あーあーあーあー、結局俺たちが連れて帰んのかよ」
「まぁあの怪我では動けぬからな……」
「天狼、雑に抱えんな。おい、主に一番誉貰おうとしてんなお前」


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熱にうなされていた志才が起きる頃には、全ての剣は志才の元に戻っていた。それを見て志才は目を見開きーー、嗚咽をあげて泣いた。よかった、無事だった、と繰り返して。


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「桃才なんかは若い頃の殿とそっくりで、びっくりしちまった」
そう告げた夏侯淵に志才は目をぱちぱちと瞬いた。えっ、と、声を上げたあたり驚いているらしい。
「……そんなに驚くお主は初めてみるな」
「桃才は人になってくれず……私が主としてたりないからだと思っていたのですが……」
「いや、自分は志才を飾る剣だから人の身にはならないと言っていたが。お主のそばにいることで意味を成す、ともな」


category:中華組関連(msu・oa)