ネタ帳vol.3
2025年ネタ帳18:刀剣っぽい設定をひきずってるやつ
08/12 14:28
桃子(とうし)と呼ばれる子供がいる。どこからかこの混沌とした世界に迷い込んだ子供だ。この子供は誰もいない場所を見つめることがある。何かあるのかと他の人がみても、本当に何もないのだ。幽霊でもいるのではないか、と不気味に思って近づかない大人はあまりにも多い。今もまた何もない空間をみて、何やら嫌そうな顔をして見せている。「本当に何もないところを見て話すんだな。何が見えているんだか」
賈詡はそう言って桃子を見た。桃子は諸葛亮や月英や龐統、徐庶と言った面々の手伝いをしており、今日の軍師の集まりにも一緒に来ている。賈詡の言葉に徐庶は同じく桃子をみる。めちゃくちゃ渋い顔をしているのが見える。
「ああ、多分お姉さんと話してるんですよ」
「お姉さん?」
「えぇ、俺にも見えてませんが、花の簪で髪をまとめた女性がいるのだとか。なかなか博識のようで、たまに桃子を介して伝えてくれる時があります」
徐庶の言葉に郭嘉もそちらを見る。やはりその空間は無人である。がっくし、と肩を落とした桃子がいるだけだ。とぼとぼと徐庶のもとにやってきた桃子に徐庶は目線に合わせて屈んだ。
「桃子、肩を落としてどうしたんだい?」
「お姉さんに、頭が良い人が集まってるのだからお勉強させてもらいなさい!って叱られました……」
しょんぼりしながらそう告げた桃子に、お姉さんと言う言葉に興味を持った郭嘉が桃子に尋ねる。
「おや……学は嫌いかな?」
「嫌いではないです。でも、お姉さんがいるならそこまでしなくても良くないですか?って聞いたらさらに叱られました……」
桃子は郭嘉を見上げてそう告げる。なるほど、顔が整った子供である。珍しい灰色の瞳ではあるものの、とても将来に期待できると言っても良い。まぁ、郭嘉が何か言う前に、荀ケがすぐに郭嘉殿、と止めたが。桃子は郭嘉達を見上げると、ぱちぱちと目を瞬いて、えっと、と少し考えたあと、口を開いた。
「桃子と申します。蜀軍の方に助けられて、そのまま蜀軍にお世話になっています。違う世界?からきました。よろしくお願いします」
そう言って綺麗な動作で礼をした桃子に、荀ケが答える。
「ご丁寧にどうも。私は荀文若と言います。普段は魏軍にいますが、このような事態ですので力を合わせています。こちらは公達殿、郭嘉殿、賈詡殿です」
荀ケの紹介に荀攸は軽く頭を下げ、賈詡はひらりと手を振り、郭嘉は優しく笑みを浮かべた。
「桃子は何を勉強してるのかな?」
「うーん、色々です!この世界に来る前まではお祖父様とお姉さんと浅く広く学んでいたんですが、こちらにきてからは専門的になって……頑張ってます」
「浅く広く?」
荀攸が繰り返せば、桃子はまた何もない空間を見た。
「えっと……孫子と呉子と……うつりょ……?六韜と三略……?むむ、お姉さんもお祖父様もどれがどれかきちんと教えてくださってないですよ」
む、とした表情を浮かべた桃子に、郭嘉は「おや」とくちをひらく。
「諸葛亮殿が手放さないわけだ」
「本当に浅く広くだな。しかし、姉妹揃って女が学問とは父親達は何も言わないのか?」
「お父様もお母様も別の家族がいるので、桃子のことは何も言いません」
「別の家族?」
「はい。今は別の家族がいて、別のところに住んでいます。先日祖父様も亡くなられたので、お姉さんと成蹊達と暮らします」
そう言った桃子に、周りは目を見合わせる。成蹊、と、いうと曹操に良く似たーー正しくは若い頃の曹操に似た男だ。何人かの将を引き連れており、寛和という男の元にいる。
「では、貴方は寛和殿の配下ですか?」
「あの人は叔父の一人です。祖父様が亡くなったあと、私の住む邸にきて……追い出されました」
がっくしと肩を落とした桃子に、そんな話を聞いたことがなかった徐庶は眉間に皺をよせた。
「元は成蹊達は私と暮らしていたのに……邸を取り返すにも、成蹊達のためにも、勉強を頑張らなければ」
郭嘉は納得した。だから成蹊という男は主である寛和という男を粗末に扱う節があるのだ。恐らくはこの子供こそ主だということだ。ここはひとつ、貸をつくるのはありである。郭嘉はそう思いながら、桃子に提案をする。
「成蹊達に会わせてあげようか?」
「本当ですか!?」
と、桃子は喜んではみたが、すぐ近くの空間をみた。そうして困った顔をして、頷く。
「成蹊達が会いにきてくれるまでダメだと言われました……」
「おや、お姉さんはどうしてそんなことを?」
「徐庶様達と一緒にいるなら、郭嘉さまに貸しを作らない方が良いと。魏軍の近くにいることはわかったので、徐庶さまに連れて行ってもらいます」
しゅんとした桃子に対し見えない誰かは思ったよりもわかっている。見えないのがなんと勿体無いことか。徐庶はどこかホッとしたように息を吐いた。
「そうだね、そうしよう」
桃子はまた誰もいない場所をみて、郭嘉ではなく荀ケをみた。
「ええっと、成蹊達に言付けだけお願いしても良いですか?」
「ええ、構いませんよ」
「私は……私たちは無事です、とお伝えください」
「確かに伝えましょう。しかし、本当に会わなくて良いのですか?」
荀ケはそう問いかける。寂しいのでは?と尋ねれば、桃子は寂しいですが……と足元をみた。
「成蹊達が会いにこないということは、まだ邸に落ち着いていれるような準備が整ってないのだろうと……」
しょもしょもと桃李は眉尻を下げた。近くに寛和殿はいるな、と賈詡は告げたのだが。
難しい話であるのだが、桃子はふむふむと相槌をうっている。時折誰もいないそこを見て、もう一度軍師たちの話をよく聞いている。そうして話し合いが終わったあと、桃子は「難しい……」と告げた。
「お姉さんの話を聞きながらじゃないとわかりかねます……」
がっくしと肩を落とした桃子に、徐庶が勉強を頑張ろうと励ましたが。
「気になるね、見てみたいものだ」
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「むむむ、神様なれば、お姉さんをみんなに見れるようにはしてくれませんか」
桃子の言葉にガイアは目を瞬いた。貴方のお姉さん?と尋ねた彼女に、桃子は何もない空間を見つめる。ガイアがその視線を辿れば確かに何か、は、ある。力を持たぬ魂魄のようなものだ。でも、それは桃子によく似ている。
「お姉さんがいた方が、みんなはずっと楽になる気がします」
「力がないのね。考えてみるわ」
そう言ったガイアに、桃子はお願いします、と頭を下げた。
「桃子の近くに魂があるの。でも,それは桃子によく似てるわ。いいえ、まるで切り離されたような……」
ガイアはそう言って桃子をみた。仙人や神々たちは同じくそちらをみた。常に近くにはなにかある。
「貴方達なら何か知ってるかと思って」
ガイアは成蹊をみた。成蹊は少し目を伏せる。
「あれもまた主だ」
「どういうことだ?」
「どういうことも何もない。主の祖父が……いいや、幼い主の手前祖父だとは言っているが、主の実の父君が魂を分けた。貴殿らがいうのはそのわけた一部であろう」
成蹊はそう言って仙をみた。
「貴殿らは前に主に尋ねたな。李子ではないのか、と」
「あぁ。似ていたし、おらぬからな」
李子?と人間の一部が繰り返す。成蹊は口を開く。
「貴殿ら人間にも話しておかねばなるまい。主は我々の時代から先の乱世に連れて行かれた存在よ」
「どういうことだ?」
「我らの時代、いや、世界は今三つの勢力の争いが起きている。一つ、過去を変えようとするもの。一つ、過去をその手から守ろうとするもの。一つ、双方共に時代の異物であるからにして、双方を手にかけるもの。術者同士の争いだ。市井の民はよくわかっておらぬ」
成蹊はそう言って腕を組む。
「主は過去を守る術者の家に生まれた子らしい。三人のうちの末妹。だがーー幼き頃に誘拐された」
「穏やかではないな」
「話を聞けば何十人もの子供が誘拐されたらしい。その子供は歴史を変えたいものによってさまざまな時代、さまざまな乱世に乱雑に落とされた。歴史を変えるために」
成蹊の言葉に周りは息を詰める。
「主もその一人の幼子だ。幸運なことに主は多くのものに助けられ、命を繋ぎ生きた。が、先の遠呂智の件の際、主は元の居場所に正しく戻ったのだ。乱世ではなく、本来いるはずである我らの世界、我らの時代にな。何十年の時を経て」
その子供に、太公望はだから各々李子達の記憶がないのだな、と告げた。
「そういうことであろう。戻った主を拾ったのは運よく父親ではあったが……あまりにも時が立ちすぎており、主は国の制度で死人となっていた。加えて戻ってきたものはその稀有な記憶、立ち回りから敵と見做されやすい。主は父親を周囲から守るため、父親は戻ってきた娘の身を守るため、李子という人であった記憶を封じ、何十年の時をなかったこと、とした。その結果、一つである魂は別れ、簪に封じられはしたが……記憶を持たぬ幼子、桃子となった主にはもう一人の自分であったものが見えている」
「ーーでは、寛和殿達は叔父ではなくーー」
「正しくは主の兄だ。祖父も正しくは父である。主は幼子になったが故にそれでは不都合があった」
「では、人にしない方がいいのかしら……」
「いや、構わん。桃子は恐らく姉のように慕うだけ、家族を失った代わりになるだろう。何より、我らも喜ばしい」
花びらが舞う。桃の。珍しく成蹊は喜んでいるらしい。
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「主よ、久しいな」
成蹊はそう言って現れた女性の髪を一房とり、くちづけた。現れた女性は、成蹊、と困った顔をする。
「そのような姿でそのようなことをされると困ります。心臓に悪い」
「ふむ?俺は俺を贈った男に似ただけであるが……」
「揶揄ってますね」
そう言って女性は成蹊の額を弾いた。痛い、と言いつつも成蹊の周りにはひらひらと花びらが舞うのを見ると喜んでいるのだろう。
「これは……お姉さんは皆さんに見えてるということですか!?」
そう言った桃子は周りを見た。周りは李子をみて、息を詰める。既視感はある。でも、記憶はない。女媧が、あぁ、そうだな、と口元を緩めた。
「私たちにも見えている。久しいな、李子よ。そのような生まれだとわかっていたのであれば、仙界へと連れていったのだが」
「仙の方は記憶がございましたか。嬉しい申し出ではありますが……私の居場所はあちらであったがために」
ゆっくり目を伏せたあと、現れた人物は周りを見た。
「あぁ、皆様は忘れているのでしたね。では、改めて。李子と申します。今は桃子の……姉のようなもの、でしょうか。才の限りを尽くしお仕えーー」
李子はそう言って一瞬自嘲するような笑みを浮かべたが、すぐに柔らかな表情へ変わる。
「いえ、記憶も記録もないのであれば、所属など意味がないもの。どうぞ分け隔てなくよろしくしてくださいませ。皆様のお手伝いでもいたしましょう」
李子はそう言って一礼をする。まぁ、はらはらと泣いている徐庶を見て困った顔をしたのだが。桃李が徐庶様?と首を傾げた。
「すまない、泣くつもりなんてなくて、よくわからないけれど、記憶はないんだけれど、きみにあえて、うれしくて、」
「ええ、私もまた会えて嬉しいですよ、元直。貴方が覚えていなくとも」
李子はそう言って徐庶の涙を指で拭き取る。徐庶は目を見開いた。
「……さて、貴方が覚えていないとなれば、二度目のはじめまして、と洒落込みますかね。僕は李子。記録にも記憶にもないだろうけれど……司馬徽先生の元で暮らしている。君が僕に武術を教える、僕が君に額を教える」
category:中華組関連(msu・oa)