ネタ帳vol.3
2025年ネタ帳20:オリジン世界にきた李子
08/12 14:32
見たことがない人だ,と思う。紫色の瞳をした彼は私を見下ろした。
「あぁ、紫鸞殿、こちらは李子殿だ。小柄で子供のようだけれど、成人しているそうだ」
郭嘉殿の言葉に私はああと納得する。彼が紫鸞殿らしい。曹操様の瑞鳥。それでいて、この世界に存在するという太平の要。私は少しだけムッとした顔をする。
「らしい、ではなく、しております。郭嘉殿は本当にその話で揶揄うのがお好きでいらっしゃる……」
そう告げた後、私は紫鸞殿を見上げた。
「李子、と申します。まだ至らぬところはありますが、精進しましょう」
「無名だ」
「無名殿、ですね。よろしくお願いいたします」
そう少し笑みを浮かべる。彼はああと頷いた。
「こう見えても李子殿は智勇に優れていてーーよく気を配ってくれる。おかげで随分と仕事がしやすい。これから良いお店にでも誘おうかと思っていたのだけれど……」
「良いお店……」
そう繰り返した紫鸞殿に私は首を傾げる。紫鸞殿はやめておいた方が良いのでは?などという始末だ。その言葉に、ああ、と理解する。
「綺麗な女性がお勤めの酒店、でしょうか……この付近にあるのは……」
そう少し考える。確か、私の知り合いが勤めているという店があったはずである。
「おや、うぶかと思えば意外と詳しい」
「あぁいえ、私は皆様とは違い生まれも育ちもよろしくないので。通常であればこのように仕官は許されません。曹操様の懐の広さに感謝するばかりです」
ふふふ、と笑いながら告げる。郭嘉殿は少し驚いた顔をしたあと、「おや」と私を見下ろした。
「意外だ。貴方はてっきり李家の生まれかと思っていたけれど……ふふ、これは興味深い。では、どうかな?これから、店にでも」
「陳羣殿にバレぬようにしなければなりませんね。ちょうど荀ケ殿の仕事も落ち着く頃合いでしょうから、お供いたしましょう。無名殿もいかがですか?」
そう言って紫鸞殿を見上げる。彼はこくりと頷いて、三人で店に向かうことになりーー酔っ払い二人を連れ帰る羽目になったのだが。とりあえず郭嘉殿の家で、酔っている彼に薬を飲ませて眠ってもらう。紫鸞殿は元化殿が回収に来てくれたので助かった。変わらない人だ、とおもう。いや、髪色、装いは少し違うが。楽にするために彼の上着を脱がせ、そのまま彼を見下ろした。
「……兄様……」
彼の髪をすきーー頬を撫でーー彼の手首の脈に安堵する。彼は生きている。生きて欲しい,などという願いは彼にとっては迷惑な願いに違いない。それでも、だ。目を伏せる。水面に赤が広がる。赤い光が。私がそこでまた没したとしても、彼さえいれば。きっと。きっと。
「……私に出来ることを、考えねば……」
彼の手を下ろす。まぁ、恐らく郭嘉殿は起きているのだろうが。
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紫鸞殿がいてくれて助かった。典韋殿と曹昂殿を助け出せたからだ。まぁ、代わりに私も傷を負ったがそれはそれという話である。隠せる範囲だ。二人以外は間に合わなかった。が、二人の生還に、曹操様は目に喜びを宿した。その表情に、少しだけ、報われた気はする。でも、まだだ。
「……紫鸞殿、私は先に少し休みます。流石に少し疲れてしまいました」
そう困った顔をすれば、紫鸞殿は頷く。幕に下がって傷の手当てをしないと、熱を出す可能性だってある。返り血を浴びた服を脱ぎたい気持ちもある。まぁ、郭嘉殿がやってきたが。
「李子殿、姿が見えないと思ったけれど、まさか曹昂殿や典韋殿を連れ帰ってくるとは……」
「嫌な予感がしたので……小柄なのはこういう時に役に立ちます。それに紫鸞殿のおかげです。私一人であれば、お二人を助けることはできませんでした」
そう言って私が紫鸞殿をみれば、郭嘉殿は私の視線を追って紫鸞殿をみた。
「確かに、無名殿の武勇は素晴らしいからね。でも、貴方にはあまり無理はしてほしくないかな」
郭嘉殿はそう言って私を見下ろす。
「将来有望な貴方も失ってはとても困るのだからね」
「それはむしろこちらが言いたいことですが」
私の言葉に、彼は目を瞬いた。
「貴方ほどの知謀の持ち主を失うことほど、我々の痛手になること、どうかご理解ください」
トゲトゲしい言い方になってしまったな、と思う。
「申し訳ありません、少し気が立っています。少し休みます」
そう言って私はそこを離れる。陣幕に戻り、血に濡れた羽織を脱ぎ、それを見下ろした。傷の手当てをしてしまった方がいい。と、おもっていれば、紫鸞殿の知り合いの元化殿がやってきたのだが。
「李子殿、無名殿から怪我をしているかもしれないと聞きました」
そう言った彼に、大丈夫だと言えば、大丈夫ではありません、と叱られたのだが。
「安心してください、俺は医者ですし、俺の腕は確かです」
「結構です。お医者様に見てもらうほどの傷ではありません」
「医者が見ない傷なんてありません。少しの傷でも命を落とす可能性があるのですよ」
知っている。何人もみた。しかし、医者であるなら彼は恐らく手を見ただけで性別の判断がつくはずなのだ。
「私はどうせ後10年ほどで命を落とす人間です」
私の言葉に彼は少しだけ目を見開く。
「病を……?」
「いいえ、そう占い師に予言された子供です。逆を言えばそれまでは死なない」
「でも、痛いのは変わらないでしょう?」
元化殿はそう言って私の手をとった。そうして彼は気づいた。
「李子殿、貴方は……」
「誰にも言わないでください」
私は苦虫を噛み潰したような表情をきっとしているだろう。どうして、と、表情にはかかれている。
「誰にも言わないで」
私の言葉に、彼はゆっくりと頷く。誰にも言いませんよ、と子供に言い聞かすように。
「傷の手当てをしますから、座っていてください」
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忙しい。荀ケ殿の仕事を中心に補佐しているが、献策などもしている。今自分が倒れると厄介なのはわかってはいるが、多少の無茶はするしかない。
「李子殿はどちらの生まれなのでしょうか」
そう告げた荀ケ殿に、私は首を傾げる。ようやく揃ったと言っていい。まぁ、満寵殿はどちらかと言うと武将よりなのでこの場にはいないが。貴方ほどの才を持った方ならば、何処かからか噂が立ちそうなのですが、と告げた荀ケ殿に他意はない。賈詡殿といえば、子供が紛れ込んでいるのかと思った、と面と向かって言われた。
「私は皆様の様に身分が高いわけではないので……」
そう言って困った顔をしておく。しかし、彼らは首を傾げるばかりだ。
「の、割には作法が綺麗すぎる様な気がするが」
「それは教えてくださった方々がいた、それだけのこと。私はただの……」
この世界では。私は目を伏せる。その先にある落胆を見ないために。
「ただの、食い繋ぐために妓楼へ売られた子供です」
え,と周りは声を出す。私は杯に入った酒を眺める。
「このような見てくれですし、少なくとも民にも高官にもまだ成人していない男子を好む方もいらっしゃいますからね、買い手はつくんです」
そう言って私は自嘲する。
「本来であればこのように貴方様達と話すことなくーーあの高い塀の外をみることもないのでしょう。乱世で助かった、といえば、貴方達の反感を買うでしょうか」
「混乱で妓楼から外に出たのか?」
賈詡殿の言葉に私は首を左右に振る。
「いいえ、私を買った御仁がいらっしゃいます。正しくは自分が死んだ後に私財を使い私を買うように、とおっしゃったようですが……それでも、あと10年……」
そう言って曖昧に笑っておく。まぁ、私が給料を叩いて長くしているが、恐らくは私があの中に戻るよりも赤壁で死ぬほうが早いのだ。
「まぁ、郭嘉殿が遊びにきてくださるのを楽しみにしておきましょうかね。荀攸殿や荀ケ殿は来れないでしょうから」
ははは、と笑いながら彼を見上げる。彼はおやと私を見下ろした。
「私としては貴方を今すぐに買っておきたいのだけれどね」
「貴方にしろ、志才様にしろ、買い被りすぎでは?」
そう言って笑う。志才、送り返した周りは知らんぷりである。また酔い潰れた郭嘉殿を家までおくる。生きている。まだ。もう少しで。
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塩対応である。あぁ、昔も最後の方はこうだったな、とおもう。献策はしない。それは結構。重要機密に接しない仕事なんてたくさんある。まぁ、うまくサボりながらやるだろう。
「徐庶殿、こちらをお願いできますか」
そういえば嫌そうな顔をするが、やってくれるあたり心根が優しいのである。食事に誘えばついてくるし。
「強要はしませんよ。私も貴方と同じ立場なれば同じようにするでしょう」
私はそう言って彼の杯に酒を満たす。献策を強要しないのか、という問いかけに対しての答えだ。
「李子殿は何故曹操殿に」
「私自身が助けられたことがあります。幼少の頃で、あの方はわからないでしょうが。加えて私の兄のような方々があの方に願いを託したから、でしょうか」
私はそう言って彼を見る。冗談っぽく、わらいながら。
「徐庶殿、貴方には言っておきましょう。二、三年のうちにどこか違う方との縁をつくっておいた方がいい」
「……何故?」
「私は数年後に死にます」
そう言えは、彼は「えっ」と声を上げた。
「小さい頃、占い師の方に言われました。私は数年後、川で起きる大きな戦の中、大将である方を庇って死ぬ。遺体は見つからないでしょう」
あまり私に依存しないほうがいい。
はからずともーー嫌そうにするわりにはーー彼は私に依存しつつある。まぁ、私がいいように彼を使っているからだろうが。
「ただの占いでは……」
「そうだね、ただの占いだ。でも、高祖様の顔を見て天下をとると言ったのもただの占いだ。外れたって、私には戻らなければならない場所がある」
私の言葉に彼はどこへ、と尋ねる。高い塀の中、と、私は答えた。塀の中、と彼は何かを考えるようか顔をした。
「徐庶殿、酒がこぼれてしまうよ」
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紫鸞殿に、秘密だと言って話せば彼はそれを頭に置いて動いてくれたらしい。郭嘉殿が命を繋いで、私はホッと息を吐いた。よかった、と。これできっと。きっと。
「参ったな、私が死んだあと、残った私財で貴方を買いたかったのだけれど」
そう言った彼に私は変なこと言わないでください、と告げて彼を見下ろす。買う?と尋ねた紫鸞殿と元化殿に、郭嘉殿がそうだと頷いた。
「貴方は自由であるべきだ」
「私は貴方が思うよりもずっと自由です。ほら、曹操様の為にもはやく体を良くする」
そう言って私は彼が飲むことを嫌がった薬を容赦なく飲ませる。容赦がない、と告げた紫鸞殿に、これくらいでいいんですよ、と答える。
「これくらいしないと飲まないんですから。元化殿も容赦なくお願いしますよ」
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あぁ、彼だ。正しく同じような運命を辿る彼らだ。彼は撤収間際、隊と共に弓を弾く。私は撃剣を使って曹操様の近くよると、船の縁にたち矢をできる限り落としーー彼を庇って背中に受けた。あぁ、曹操様は無事だ。燃えていない船の中、彼は彼らは私を見た。
「李子ーー」
「あぁ、よかった、これで」
私はそう言って笑みを浮かべて彼を見下ろす。天は青色に染まる。郭嘉殿もいる、典韋殿もいる、紫鸞殿もいる。あぁ、視界がわるい。私はそのまま川の方へと体を落とす。あの時のように、どぽん、と。燃えるような赤い光はない。ただ、冷たく真っ暗で静かな世界に沈む。そんな中、誰かが私に手を伸ばす。
「にいさま」
空気が浮かぶ。不思議と苦しくない。私はそのまま意識を落とした。
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目が覚めると陣幕の中だった。生きている、らしい。視界だけを動かせば、元化殿が誰かの対応をしているのがわかる。声がする。曹操様の。私は無理矢理に体を動かす。近くにいた紫鸞殿が目を見開いてーー近くにあった布を私に被せた。
「元化、李子殿が目を覚ました」
「李子殿、よかったって、何動いてるんですか!」
元化殿がそう怒る。まぁ、曹操様を止めていたらしい。当の本人は元化殿の間を無理矢理に割り込んでやってくる。
「李子よ、目が覚めたか」
そう言ってそばに座った彼に、座る必要はないのだと言えば彼は「ただ座りたいだけだ」と返してきたが。
「お主のおかげで助かった。李子がいなければ、私があの矢の餌食になっていただろう」
「いえ……間に合って……貴方が無事でよかった」
そう言って彼に笑いかける。ああよかった、彼には矢にいかなかった。まぁ、元化殿が割り込んできたのだが。
「間に合ってよかった、は、こちらの言葉ですよ!紫鸞殿と徐庶殿がいなければ貴方は確実に流されて死んでいたんですから!」
元化殿の言葉に私は紫鸞殿をみる。まぁ、彼は徐庶殿が先に動いた、と返した。
「傷は痛むか」
「これくらいは大丈夫です。慣れています」
「……責任は取ろう」
なんの、とは聞かない。わかっている。曹操様はそっと、私のほおを撫でた。私はその手を取って、おろす。
「いいえ、その必要はありません。私が好きでやったこと。貴方が気にする必要も責任もありません」
私はそう言って首を左右にふった。
「もうお分かりかとおもいますが、私は貴方様達に嘘をついておりました。その代償でしょう」
「何故嘘をついた?」
曹操様の問いに、私は彼を見て笑みを浮かべた。
「貴方に仕えたかった。女として宮仕ではなくーー男として貴方の役に立つ文官として」
彼はその言葉に息をつかえた。
「私に士官を?何故?」
「貴方は覚えていらっしゃらないと思いますがーー私は幼少の頃、貴方と夏侯惇様に助けられーー施しをうけたことがあります。貴方はお名乗りになられませんでしたが……夏侯惇様が、孟徳と呼んでいらっしゃいましたから。その時のご恩をお返ししたかった」
私の言葉に彼は驚いたように、目に確かに喜びを乗せて、私を見下ろす。
「……わかった。李子よ、これからも軍師として存分に我が元でその才を振るうといい」
「……しかし」
「お主の居場所は我が元である。郭嘉から話は聞いている。妓楼へは戻さん」
彼はそう言ってもう一度頬を撫でた。私は目を見開いてーーありがとうございます、と笑みを浮かべる。彼はふっと笑って立ち上がった。
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「徐庶殿」
私の呼びかけに、徐庶殿は振り返ってこちらを見た。貴方のおかげで生きながらえた、と言えば彼は何とも言えない表情を浮かべた。それはそうだ。徐庶殿が本当に仕官したかった劉備は負けた。どこかに逃げ落ちているだろうが。
「傷はもう大丈夫なんですか?」
「ええ、武器を握るにはまだ痛みますが仕事をするには痛みません。もう少し傷がよくなったら手合わせなどをお願いしたいのですが……貴方が留まってくれるのならば、と言う話にはなりますが」
category:中華組関連(msu・oa)