ネタ帳vol.3
2025年ネタ帳137:君は眠る、僕は君を(If軸)
08/12 16:25
あぁ、また役に立たなかったな、と、私は思う。私は彼と同じ土俵に立つことも許されず、ここから出ることもなく死ぬのだろう。時代が古いからこそ、白い世界。そんな場所に私はいた。隣にいた。今回も。でも、前回よりもはやく病魔は私を蝕んだのだ。そんな中に彼女がやってきたのだ。何かと理由をつけてやってくるジョンとは違い、彼女は滅多に現れない。それはそうだ。彼女もまた眠っていたのだから。
「ナマエ」
そう私を呼んだ彼女に、私はボス!と嬉しく笑って起きあがった。ガラス越しにいる彼女はとても一瞬悲しげにこちらをみて、すぐに元に戻った。
「体は平気なの?」
「ええ、訓練をしてこの前叱られました」
「無茶は良しなさい」
そんな会話から、はじまる。ちなみにそれは最近じゃない。あぁ多分、日付から考えて。彼女はそろそろ西に行くはずだ。彼女は恐らく最後に会いにきたのだ。
ーー私は悪い子である。
鍵の開け方なんてわかっている。去ろうとした彼女に鍵を開けて外にでて、彼女をハグした。きっと彼女は何をしているのと叱るだろう。それでもよかった。
「ナマエ、あなた、」
「最近怖い夢ばっかり見るんです。少しだけなら平気ですよ」
私の言葉に彼女は眉間に皺をよせた。平気なわけがないからだ。私はそれを無視して彼女の服をつまむ。彼女は夢、と繰り返した。
「あなたがジョンに殺される夢」
私はそう言って彼女の肩にひたいをあてた。
「私が?」
「ええ、あなたが。国のために、ジョンに殺される夢。あの日よりも、何よりも、怖い夢」
私はそう言って目を伏せる。彼女は、息を少し詰めたあと、そう、と静かに私を抱きしめた。
「ねぇ、ボス。道はきっと一つじゃないと思います」
ーー私は悪い子である。こうなった身を利用して。
「私が死ぬ前に二人揃って、またきて」
ーー二人をこの世に縫い付けようとするからだ。
彼女は返事を返さない。約束して、と、私は子供のように告げる。
「二人揃って、またきて」
お願いだから、と、私は小さくくぐもって告げる。彼女は子供に言い聞かすように、仕方ないというふうにーーええ、とうなずいた。
「必ず一緒に戻るわ」
私は無邪気な子供じゃないから知っている。大人は嘘をつくものだ、と。だから、彼女が嘘をついたのだとわかっている。でも、それでも。
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「体調が悪かったらしいじゃないか」
そう言ったジャックに、私は笑顔でVサインをした。そんなことで誤魔化されると思ったのか,と言われたが。
「勝手に外に出たんだって?」
「いや、仕方ないんだ」
「仕方ない?無菌室から外に出るのが?」
「だって、ボスが来たから」
私が勝ち誇った笑みで彼を見る。彼は目を見開いて、おい待ていつだ、と突っ込んだ。
「なんでお前だけなんだ!」
「タイミングが合わなかったんだと思う。ジョンが任務に行ってる時だったし、様子を見るにまた長期任務に行くみたいだしね」
私はそう言って頬杖をつく。彼は口をへの字にしていた。拗ねている顔だ。
「次はジョンと二人で来てって言った」
「ああ、必ずだ」
「ジョンも約束してくれるのか?」
私はそう言って問いかける。彼は、あぁ!と頷いた。あぁ、いけない。これもこれで呪いになってしまうかもしれない。だから、私はまた口を開く。
「ジョン、もし、君がさっきの約束を呪いだと感じるなら忘れて欲しい」
「呪い?大層な表現だな」
「いや、約束はそんなものだろう?」
私はそう言って自嘲する。彼は心配するな,と言って、ガラスに手をおいた。私はその手の上に重ねる。触れることなんて、できやしないが。
「ジョン、やり方はいくらでもある。正解は一つじゃないはずなんだ」
「いや、正解は一つだろう?」
「現実では、一つじゃないよ。嘘という仮初でも、バレなければそれは真実で正解だ」
「偉く大層だな。例えば?」
「例えば、ハロウィンのお化けとか。子供にとっては真実でしょう?」
私はケラケラと笑ってそう告げた。クリスマスは言えないので、そうしておく。彼はそうだな、と、愛おしそうに私をみつめた。
「ねぇ、ジョン。覚えておいて」
「何をだ?」
「私はいつだって貴方の味方。例えあなたがどんな道を歩もうと。あなたがどこにいたって。何をしたって。例え世界を敵に回しても」
私はそう言って目を伏せる。自己満足な言葉だ。彼はそれを聞いてどんな表情を浮かべているのかも見ないで。
「それは俺もだ、ナマエ」
その一言に、役に立たない、先のない私は幸福を抱くのだ。
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「あなたがナマエね」
そう言ってやってきたのは恐らくクラーク博士だった。恐らく、というのは私は熱と痛みで朦朧とする視界であるからだ。起きあがろうとすれば、彼女はそれを制する。
「無理をしなくていいわ」
「……主治医が変わった?それとも実験に?」
私はそう問いかける。彼女は隠さず、両方よ、と、告げた。私は正直な人ですね、と告げる。
「みんな後者であることは隠す」
「そうね、普通はそうだわ」
「死にかけの体で役に立つなら嬉しくおもいます」
私はそう言って彼女がいるだろう場所をみた。彼女は手袋をはめたまま、私の手に手を添えた。
「違うわ、あなたは生きるの。スネークも頑張ってるんだから」
「……蛇?」
「ジョン,と呼んだ方があなたにはわかりやすいかしらね」
彼女の言葉に、私は目を微かに見開く。
「今日は、何月何日、で、」
「今日は九月の30日よ。貴方はこのところずっと調子が悪くて眠っていたの」
私は起き上がる。無理矢理。霞む視界に彼女をうつして、彼女の服を握って。
「ジャック、は、ボス、は!」
どこ。生きているの。ふたりは。私は役立たず。ぐるぐると言葉が頭をまわる。
「答えて、ボスは、ジャックは、!」
私の問いかけに彼女は黙る。答えて。
「まずは貴方の体を治さないとね」
彼女は答えずに諭すようにそう告げて、慣れたように点滴をさした。私はハラハラと涙を流す。彼女は私を寝かせた。また視界が暗転していく。
「大丈夫よ、貴方がいれば、大丈夫なの」
その言葉が現実なのか夢なのかどうか、私にはわかりっこないのだ。寒い。とても。
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目を覚ました先にいた人は年老いた男性だった。隻眼の。でも私にはそれが誰かすぐにわかった。彼は私をただ愛おしげにみつめる。そうしてゆっくりと顔に添えられた手に私はゆっくりと手を重ねて微笑むのだ。
「おはよう、ジャック」
彼はその言葉に随分と驚いたようだった。ベッドに彼は座った。
「わかるのか?」
「わかるよ。片目になってる」
私はそう言って重ねていた手を動かして、彼の眼帯に触れる。彼は色々あった,と,それを享受した。
「お前が眠っている間に、色々あった」
彼はそう言って私の手をとった。
「眠って……」
「あぁ、ずっとだ。最後の日付を覚えているか?」
「九月の……30日」
「何年のだ?」
「1964年」
彼は息を詰めた。彼の顔を触る。知らない傷だらけだ。
「あのね、ジャック。あの日の会話覚えてる?」
「あの日?」
「最後に貴方が会いに来た日」
「約束の話か?」
「それもある。でも、私は貴方がどこで何をしていたって味方だって話」
私はそう言って彼を見る。彼は「あぁ」と頷いた。
「覚えている。鮮明に。だから多少の無茶もできた。だが、約束は……」
「約束はいいの。言ったでしょう?呪いになるなら忘れてって」
「だが、」
「それに、先に破ったのは,きっと私」
私はそう言って彼を見上げた。
「貴方はきっと会いに来てくれたけど、私に会えなかったんでしょう?」
「……ああ」
「きっとクラーク博士が何かしたのね」
「お前を眠らせた。凍らせてな。未来なら治療法が見つかると言って。だが,色々あってな、お前に会えなくなった。ナマエがいる場所がわからなくなったんだ」
「色々?」
「あぁ、色々。そんなうちに俺は年老いたわけだが」
彼は自嘲するように笑う。私は彼を見て、ふふ,と笑った。
「経験豊富な大人になったわけだ」
「おい待て変な勘ぐりはよせ」
彼はそう言って私にデコピンをする。
「俺にはお前だけでよかった」
彼は私の頬に手を添えた。顔が近づく。私は目を伏せる。触れる、だけの、それだ。少し離れたかと思えば次に塞がれた時には深いものにかわる。
「あのね、ジョン」
「……あぁ」
「二つだけ、わがままいっていい?」
「なんだ?」
「一緒に旅に行こう」
私の言葉に彼は目を見開いた。わかっている。無理だって。恐らく私はすぐに死ぬのだ。彼より早く。
「色々な場所を回るの。貴方の知り合いにも会って、貴方の話も聞く。そうして、ボスに会いにいくの」
私はそう言って笑う。彼は目を伏せて、あぁ、と頷いた。少しだけ、上擦った声で。
「そうだな」
「素敵でしょう?」
「あぁ、素敵だな」
「待ってるから」
私はそう言って笑う。
「もう一つは?」
「私が眠るまでそばにいて」
私は少しだけベッドを端による。彼は、わかった、と言って、私の横に寝転んだ。思い出話をする。私にとってはつい数年前の、かれにとっては数十年前の。ケラケラと笑って、私はゆっくりと目を伏せていく。
「ナマエ」
「……なあに?」
「お前を愛している。いままでも、これからも」
彼はそう言って私の人差し指に何かをはめる。私は霞む視界に彼を映して、笑うのだ。
「わた、しも、あいしてる、」
あぁ、息が続かない。でも、不思議と苦しくはなかった。微睡に近い。まるで、いい夢を見たかのような安堵を感じて、私は呼吸を止めた。
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