ネタ帳vol.3

2025年ネタ帳139:君僕主たちととりっぷした先

08/12 16:27 

聞きなれない言葉だなぁ,と私は思う。でも、顔のない男が驚いたのをみると恐らくは彼の言葉なんだろう。そう言えば二人は知人だったことをなんとなく七志くんが考察していた。
「うっへぇ、あれ何語?」
「恐らくハンガリーだ。だが、どこかの方言が混ざっている」
七志くんはそう言って何かを会話する二人を見た。理解ができない周りをおいて、二人の会話が続く。きっと同じようにやってきた他の人は理解していない。まぁあの子達はナマエちゃんを爪弾きにして、敵意を故意に向けさせていた人達だ。何もできないという烙印を押された彼女とその扱いに私達は憤ったのだが、彼女は「放っておけ」とあっけらかんと告げた。私を嫌悪して現実から目を逸らしたいだけだ、と。ただ、それが当たり前のようにあっけらかんと。殺伐とした雰囲気の周り、その中で顔のない男と彼女の二人は日常会話のように和やかに話している。
「姉御意味わからんて。あの人結局何ヶ国語話せんの?」
ナマエちゃんが緊張した雰囲気をだしていないからか、セツくんがしゃがみながらそう告げる。
「知らん。が、あの人はそのうち世界中を網羅しそうだけどな」
七志くんも警戒をといて、電子タバコを吸った。私は「悪だ、悪!」と言いながらそれを見上げる。
「未成年の喫煙は悪だよ」
「自己責任だろ」
彼はそう言って笑うが。彼は唖然としているあの子達を鼻で笑う。
「よくないよ、そういうの」
「先にあの人を見下したのはあっち」
「それはそうだけど」
彼女達の会話が不意に英語に切り替わる。
「私の母国語での会話は久しぶりだった。あまりそちらで会話をすると余計な嫌疑が降りかかる。母国語で話しているだけだが」
「人は知らないものを恐れる。それは生理現象に近いのでしょう」
彼女はそう言って困った顔をした。
「人は自分の理解が及ばないものに出会った時、受け入れるまでに時間がかかる。言語、文化、宗教……自分と違うものをありのままで受け入れるのはすぐには難しい。爪弾きにした方が楽ですからね」
彼女の言葉に、彼は「嫌悪」と告げた。
「言葉により誘導され、本質は隠される。政府のプロパガンダと同じだな」
「嫌悪は悪いことじゃないと私は思います。そうすることで現実から目を逸らし、少しの余裕が生まれる。ただ、行きすぎるとそれは暴力ーージェノサイドへと変わりますが」
彼女はそう言って肩をすくめた。
「心配ありがとうございます、Mr.。私は大丈夫です。そのうち、元いた場所に戻ります。それにーー私は苦手です」
「苦手?」
「だって貴方の言うものは繰り返してしまうでしょう?」
彼女は困ったようにそう言って笑った。なんの会話だろう、と、私は思う。
「私は聞き分けができない年の子供ではありません。多くの貴方達のような方々は大人でないというので、大人でもないんでしょう。まだ子供」
「……」
「まだ子供の一人として、私は戦争が繰り返される世界を生きるんじゃなくて、お互いを認められる世界で行きたい。綺麗事ですけどね」
私はそこでようやく彼女がなんの話をしていたか理解した。報復の話だ。彼は彼女に報復を持ちかけた。で、彼女はそれを拒んだのだろう。
「まぁ、難しいのが私が死ぬと元の世界の友達が報復に乗り出す可能性を否定できないところですけどね」
「いや、姉御、ダメだから。アンタがいなくなると、全勢力報復に舵切る可能性があるから」
セツくんがそう言ってチャチャをいれた。彼女はそれを聞いて、なんとも言えない顔をする。
「アンタが死ぬと本気で俺たちの世界でやばい蜂起が怒る可能性があるわけだが、それを存分に理解した上でこれからもアイツらの心の平穏のために嫌われてくれ」
七志くんはそう言って肩をすくめた。皮肉たっぷりだ。
「よかったなぁ、一緒に来たのがアンタの強火担じゃなくて俺たちで」
「それはそう」
私は頷く。強火担がくると、多分徹底的にねじ伏せられてる気がする。彼女は口をへの字にした。理解できていないあの子たちが何かいいかけてーー七志くんが見下すようにみる。そうして彼を見た。
「何も知らないガキは黙ってな。いいか、アンタ。嬢ちゃんは別だが、俺やセツはアンタの対面が大人しくしてろって言ってるから大人しくしてるだけだ」
「……大人しく……?」
私とナマエちゃんがそう返す。セツくんが「そうだそうだー!」と叫んだが。
「姉御に変なことしたらぶちのめすかんな!俺たちがしばかれるから!」


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