ネタ帳vol.3

2025年ネタ帳160:君僕主(大人ver)と違う世界のボス

08/12 16:42 

「いや……小児科なんです」
そう言ってナマエ先生は困った顔をする。対する相手は、「そうなのか?」と葉巻を加えて火をつけた。
「よくボランティアで難民キャンプや戦地だった場所には足を運ぶので、多少であれば大人の外傷は見れますが」
「それでもこちらは衛生兵が足りていない。手伝ってくれたら助かるが」
「それはもちろん。こちらに置いていただけるだけでありがたいので、ご協力はいたします」
ナマエ先生はそう言って、カヅキさんをみた。頷いた彼に、彼女は言葉を続ける。
「彼はカヅキ。私たちが支援地にヘリで赴く際、ヘリの操縦を任せています。彼の方がお役に立つでしょう」
「こちらのヘリも説明をいただければ対応できます。よろしくお願いします。多少は戦闘もしますが……やはり輸送が主です」
「俺戦闘〜」
「少年兵上がりの無茶な特攻をかます子供は黙ってなさい」


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「私は……」
私はそう言って彼の背中をさする手を止める。これ以上は言ってはいけない。私をさらけだしてはいけない。彼のこれは一種のPTSDだ。誰よりも親しかったボスを殺したことによる。最初は発作で飛び起きた彼に、子供たち用に仕入れてもらったココアを渡したのが最初である。その回数が必要以上に増えたしまったのだ。
こうなるとどうなるか。必要以上に彼に踏み込み、彼に依存される可能性がある。
ーー私たちは違う世界から来ている。それは彼らも知っている。彼らの実験の結果だからだ。いつかは私たちは自分の世界に帰る。でも、それでも、だ。私はこの人を放っておけなかった。私が言葉を止めたことで、こちらを見た彼に、私は彼から視線をそらして、マグカップをみた。
「……私は貴方とは、反対側の人だから」
「……俺とは?」
私はつまらない話です、と、困った顔をする。
「あなたに聞かせるような話じゃない」
彼は、聞きたい、と真面目な顔をして告げた。あろうことか、私の手をとって。お前の話を聞きたい、と。
「私の世界でも、大きな戦争が終わって二つの国が歪みあっていた時期がありました。私はいわゆる戦争孤児で、たまたま私を見つけた戦勝国の兵士が終戦後に引き取ってくれて……戦勝国で育ったんです」
私は揺蕩う湯気をみつめる。
「でも急に養父が死に、私は食べるために兵士になった時、養父と同じ部隊であった方が私を引き取ってくれました」
「では、軍で?」
「というよりは、もう1人、幼馴染のような同い年の青年と三人で過ごしました。演習などにも参加はしましたが、その人は先生のような家族のような……もう1人も家族のような、親友のような、恋人のような……言葉ではどう表現したらいいかわからない関係でした」
私はそう言ってマグカップを握る。
「先生が諸事情で留守にしている間も、別の部隊にいましたが、たまに会って……プロポーズごっこもされたことがあります」
「……ごっこ?プロポーズじゃないのか?」
「違いますね。指輪は人避けとしか聞いてないので」
私はそう少し笑って彼をみる。彼は少しつまらなさそうだった。
「添い遂げなかったのか」
「ーーええ」
「どうして」
「ーー先生か私が亡命するふりをして、とあるものをとってくることになったから……」
私はそう言ってまたマグカップをみた。彼の表情を見たくなかった。
「私、が、亡命した。大切な人同士が傷つけあうような、嫌な予感がして。同じ頃、彼は違う任務で同じ場所にいた」
彼は息を詰めた。私は手に持っているマグカップをただみつめる。
「ーーお互いの任務の歯車が狂った結果、彼の任務は私を殺すことになりーー私の任務は彼に殺されることになった」
私は目を伏せる。
「彼に嫌いになってもらおうとした。そうしたら、彼の傷は浅くなると信じた。でも、最後に彼に会った時、私は呪いを吐いてしまった。愛してると、言ってしまった」
馬鹿な女だ、と、言って欲しかった。同じ声で。同じ瞳を覗かせて。でも彼はそれをしない。
「ーー私は公には死んだことになっているし、彼は私を死んだと思ってる」
かいつまんでーー都合がいいように変えた話だ。それでもこう言った話をした時に、生きているなら会いにいけばいい、と、いう人もいる。でも彼は言わない。恐らくわかっているからだろうか。私への恨みが。そして、私が生きているとわかった時、私が守りたかった誰かにーー危険が向くことが。
「だから、私は貴方の苦しみが、わかるわけじゃない」
私は彼を見て、困った顔をした。彼は私をじっと見るだけだ。
「でも、貴方の話を聞くたびに、私は貴方の苦しみと向き合うべきだと思った」
彼が私に手を伸ばす。頬にふれる。あぁ、だめだな、と思う。同じだ。ジョンの手だ。暖かな手だ。その手でまた命を終わらせてくれるのだろうか、と思っても、彼はその手で私の頬を撫でただけだ。ナマエ、と、名を呼ばれる。同じ声で。あぁ、距離が近い。上司と部下の距離じゃない。抵抗として彼をそっと押して見たがびくともしない。そうして彼は私にキスをした。葉巻の味が口に広がる。唇が離れ、彼はその隻眼で私を見つめた。
「なら、俺と一緒に苦しんでくれ」


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