ネタ帳vol.3
2025年ネタ帳179:君僕主たち(if展開)と大人たち
08/12 16:56
「でも、僕はこう思うんだ。その人達はバーチャスミッションを繰り返し受けさせられたんじゃないかってね」
そう告げたオタコンに、デイヴィッドは顔を顰めた。バーチャスミッションか、懐かしいな、とは言ってみたがその言葉には全く懐かしさを含んでいない。
「こちらの職員が何人かモデルタイプを探ってみたんだけど、まぁ色々な人がいるみたいだ」
「じゃあ、スネークは」
「リキッドとソリダス、あとはネイキッドがいるようだ」
オタコンの言葉に、デイヴィッドは彼を見る。
「俺はいない?」
「いや、面白くって、『ソリッドのファン』はいる」
「なんだそれは」
「ちなみに探った情報にウィルスをいれてーーペンタゴンを七時的にダウンさせたのがその人」
「どちらかというとお前か」
「そうかもね。合同任務に当たる割にはどんな人かは全くわからない。そもそも彼らはーー公の場に出て来ないんだから」
==
不釣り合いな子供の集団がケラケラと楽しそうに笑っている。何をみて笑っているのかと思えば、どこかで拾った雑誌を読んでいるらしい。注意されて外に出されたけれど。
どこかの国の見学だったのか、それとも兵士だったのか。その子達を思い出したのは、この場にいた他の国の団体が武装蜂起を起こしてしまった時である。あの場にいた子供達は無事なんだろうか、と。それを相手に問いかけたところで意味はないだろうけれど。となりにいるデイヴィッドが何かを見て、少しだけ驚いた顔をする。どうしたんだい?と小さな声で尋ねれば、彼は僕の耳元で呟く。
「誰かが来る」
そう言った彼に僕は首を傾げる。どこから来るんだろうか、とあたりを見渡してーーまさか、と思う。ダクトから?と尋ねれば彼はああと頷いた。演説をする男の背後だ。人影が現れたと思うとその人物は上半身だけを乗り出してその男を躊躇なく撃った。麻酔弾だ、とわかったのは彼が血を出さずに倒れたからだ。横にいた兵士がその人物に気づくよりもーーその人物が攻勢をかける方が早かった。器用に一回転して降りたその人物はまずその過程で一人に踵落としをきめる。そうしてしゃがみ込みから相手の腹部を綺麗に蹴り二人まとめて倒したところで反対側にいた人物を冷静に麻酔銃で対応した。銃口をむけた兵士は仲間を盾にされたことに戸惑い、その間に制圧する。まるでスネークだ。ただ、そこにいたのが、あのケラケラ笑っていたハイティーンの子の一人だった子を除けば。
彼女は周りを見渡して、麗らかに笑った。
「無事ですか?」
「おい、お前達に行動を許可した覚えはない」
そう言ったのは日本支部の男だった
「それはそうだ。じゃ、非公式ということで。帰りますね」
彼女はそう言って片手をあげて、机に登る。そうしてダクトにもう一度手にかけーー逆上がりのように中に入ろうとした、ところをもう一人がとめた。
「待て待て待て、待って。外の状況教えずに行こうとしないでほしい」
「無許可な作戦は続行不可ですから。私は大人しく帰ります。じゃ」
そうもう一度手を上げた彼女に、最初に話しかけられた男性がため息をついた。
「やったものは仕方がない。続行しろ。外は?」
「二人が鎮圧しています。予備としてポイントについてもらいましたが、こちらに来るには私一人で事足りたので」
「証拠は?」
真顔で窓の一部を見るとーーそこを指差した。なんだ、と僕らも思って視線を追ったけれど、特に何もない。彼女はしばらくそちらをじっと見つめてから、笑ってこちらを見たが。
「私に関してはいつも通り。まぁ、強いて言うなら目撃者はここにいる海外の方々では」
「外に何かあったのか?」
「別のポイントから狙ってる狙撃手を狙撃してもらっただけです。これにて武装蜂起陣営のほぼ無力化を確認しました。ただ、ほぼです。全てじゃない」
「関わったからには全て排除してこい」
そう言った男性に、彼女は肩をすくめる。
「外に待機してるアメリカ軍に言った方がはやい。われわれは少数です。人数で組まなく押し寄せた方が全て排除できる」
それはそうだ。恐らく、デイヴィッドの兄である彼ーージョンもそう思ったんだろう。
「あぁ、あとはこちらでやろう」
「えっ、推しっぽい人がいる」
彼女はジョンを見てそう告げる。推し?と繰り返した彼と、僕はなんだ同類かと納得する。
「ああいえ、素敵な方がいたので驚いただけです。お目汚しすいません」
「いや、なかなかの腕だな。特にあの近接戦闘は見事だった。いいセンスだ」
そう言って笑った彼に、彼女は目を一瞬見開いて、もっていたスマホを取り出した。
「録音したいので、もう一回言ってほしいです」
「録音?」
「こう……元気が出ない時に聞くので」
彼女の言葉に日本の男性が口を開く。
「おい他に任せるならふざけてないでさっさと行け。待機してろ」
「えー?じゃあ連絡先渡すのは?」
「えー?じゃない。当たり前にダメだ」
「……握手」
「ダメだ。帰れ」
「……ダメダメ星人め……」
彼女はそう言って机に登ると器用にダクトの中にはいる。きっちりとダクトを閉めた彼女を見送って、男性はため息をついた。
「申し訳ございません。馬鹿げた真似を」
「いや……可愛らしいお嬢さんだな。あいつは?」
「……気の狂った集団に生み出された気の狂った集団です。日本政府が面倒をみている」
彼の言葉に青年が眉間に皺を寄せた。
「気の狂った?」
「ええ、催眠学習というのか……睡眠学習というのか…-そんなものを受けさせられた子供です。その危うさを危惧して我々の手元においてはいますが……目を離すと何をしでかすかわからない」
と、言うことは、彼女は話題に上がったそれだろうか。痕跡を残していない、と、なればあの子は恐らく『スネーク』のうちの誰かなのだろう。あれくらいできるなら、確かに警戒されても仕方がない気はするし、手元においておきたいのもわかる。
「まとめて預かってやろうか」
ジョンと呼ばれる彼はそう切り返した。彼らは目を見開いて、我々だけでは決めかねます、と告げる。
「それほど問題なのです」
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「あ、かっこいい人がいる」
そんな声が聞こえてジョンはそちらを見る。そこにいたのは制圧をしたハイティーンの少女である。手元には紙袋と有名チェーン店のコーヒーだ。あれから色々動き、演習や会議どころではなくなった。そんな状態だから帰国したかと思ったが違ったらしい。
「帰国してなかったのか?」
「大人の許可がないと身動きがとれないんですよ」
シナモンロール食べます?
そう言って紙袋を差し出した少女はよく見ると酷いくまがある。もらおうとジョンは紙袋からシナモンロールをとりだした。
「外出はいいのか?」
「良くないですね。でも、バレなきゃ出てないのと一緒です」
「はは、それはそうだな」
「お兄さんはいいんですか?この前の対応をみるに、偉い人なんでしょう?」
「葉巻休憩だ。俺もバレなきゃいい」
ドヤっとした表情で告げたジョンに、少女は「あはは」と笑った。
「葉巻は匂いでばれません?」
「いや?意外に気づかれない」
少女は私はここで休憩します、と、近くのベンチにすわると、シナモンロールを取り出した。
「お互いバレずに戻りましょう」
「そうだな。お前、名前は?」
「色々呼ばれますが、ややこしいのでナマエでいいです」
「色々?」
「仲間内の名前とか、ふざけて名乗ったらモノが浸透したりとか色々ですね」
「ふざけて名乗ったモノ?」
「ジェーン・ドゥとかメアリー・スーとかアリスとか」
「じゃあ、ナマエというのは?」
「本名のファーストネームです。たまには本名を名乗らないと忘れそうになので」
少女はそう言ってシナモンロールを口に含む。美味しい、カロリーの味がする、とシナモンロールを見つめてから、お兄さんは?と尋ねた。
「俺はジョンだ」
「ジョン・ドゥ的な?」
「いいや、本名だ」
「ジョンさんですね。また会えるかわかりませんが、この私とよろしくしていただければ幸いです」
そう言った少女ーーナマエに、ジョンは首を傾げる。
「『この私』?」
「聞いてませんか?私たちのこと」
「睡眠学習だか催眠学習を受けたとは聞いたが……」
ジョンの言葉に、ナマエはコーヒーを一口飲んでから、それです、と告げた。
「私は狂ってるんですよ。他の子は多分私ほどじゃないと思いますが」
「普通に見えるが」
「普通に見せてるので」
ナマエはそう言って肩をすくめた。
「催眠学習だか睡眠学習だかで死んでは別の訓練に移ったからですかね。もうどれが現実かわからないんです。貴方と話している『この私』もただのその一人で、『この私』が死んだらどこかでまた『違う私』が目覚めるかもしれない。この世界が現実なのか夢なのかもわからない。家族が本物なのか、自分がしていることが正しいのかもわからない。だから政府に管理されてる」
ナマエはそう言ってジョンをみた。
「貴方と話している今も、現実かわからない。なにもかも夢かも」
ジョンはその言葉にナマエの頭に手をおとした。力を込めてグリグリと撫でれば、いててて、とナマエが声を上げる。それを見て、ジョンは笑って、グシャリと頭を撫でた。
「痛いなら夢じゃないな」
「うーん、それはそうかもです……ねぇ、ジョンさんは今幸せだと思う?」
「なんだ急に」
「なんとなく?」
「まぁ人並みには幸せじゃないか」
「そっか。そろそろ戻ります。誰か来そうなので」
ナマエはそう言って、さよなら、と言って手をふる。ジョンもまた手を振った。しばらくすれば、ジョン、と彼の部下にもあたる男が現れたが。
「珍しいですね、葉巻じゃなくシナモンロールですか?」
「貰い物だ」
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「あ、ジョンさんだ」
見かけた姿にナマエちゃんはそう告げる。彼女はその奥にいた偉い人(っぽい人)に手をあげた。
「また買い食いか?」
「そうそう。またシナモンロール食べます?」
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「あぁ、似てるようで違うね。あの子のひどいくまは、眠るのが怖いからだよ」
そう言ったヘイティと呼ばれる男に、眠るのが怖い?とジョイが繰り返す。そうだ、と彼は頷きながら、手際よく何かを調合している。
「あの子は繰り返し生きては死なされた。仮想空間の中でね。その時代にいると仮定して人生を生きては死にーーたまに違う人にもなって目が覚めて死にーーそれを繰り返した結果、眠ったら自分じゃなくなると思ってしまうんだ。あの子、よく言うだろ、『この私』って。かわいそうに、今が現実だってこともわかっているようでわかってないんだよ」
「……」
「地道に何回か食べ物に眠剤を入れて無理やり眠らせたりもするけど、2週間に一回は無理にでも眠ってもらわないと壊れる」
「……麻酔薬を?」
「あぁ、そうだね。眠ってほしいから。でも、あの子はそう遠くない未来に死ぬ」
「やだ、やだやだ、寝たくない、失敗しない、やだ、やだ、やだ、」
「マイガール、こうしないと君がもたない」
「やだやだやだ、またはじめから、また、やだ、みたくない、きもちわるい、」
「これはリセットじゃない、眠るだけだよ。前もきちんとそうだっただろう?」
それは多分違う。この前眠った時と起きた時の彼女の性格が違うからだ。彼女はリセットされた。それをこの人は理解していながら眠らせる。生かせるために。
「悪いけれど、抑えてくれるかい?」
「……ああ」
「やだ、こわい、たすけて、どうして、ジョンさん、どうしてこんなことするの」
「お前のためだ」
「うそだ、」
彼女の目が絶望にそまっていく。
「ボスをころしたからこんなことするの?」
そこで、彼は動きを止めた。ただしくは、彼らも私たちも、だ。彼女がこの手を話すことなんてなかったからだ。
「ボスころせなかったから?自分が死ぬと言う間違えた選択をしたから?貴方を残して死んだから?貴方の代わりに任務に行ったから?殺したから?殺されたから?」
彼女はポロポロと涙を流す。
「たすけて、たすけて、いやだ、いやだ、もういやだ、ころしたくない、誰か助けて、どうしたら夢からさめるの」
ヘイティさんが慣れてるなと思うのは、彼女がジョンにそう訴えたその隙に睡眠薬を注射するからだ。彼女は力無く倒れると、寝息を立て始める。私はそれを見て息を吐いた。セツくんがのびをする。
「次の姉御とも仲良くできっかなー?」
「根の方は変わらないから大丈夫だろ。俺もそろそろちゃんと寝る」
「じゃ、俺も俺もー。じゃあなー」
そう言って手を振ったセツくんに、オウくんがヘイティ達をみながら口を開く。
「政府の指示だからなんだが知らないが、むしろ殺した方が救いだろ」
「……そうだね、僕もそう思うよ」
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ほら、思考転換が起こってる。三日三晩寝た彼女は、私のオタ友っぽかった人格からまた変わっている。どちらかと言うとジョンさんっぽくーーいや、多分彼の部分を引き継いだまま起きている。ジョイと呼ばれる女性に、嬉しそうに近寄るあたり。ボス!と言って彼女に抱きついたナマエちゃんに彼女は戸惑ったようだった。
「あぁ、よかった、夢だった」
彼女はそう言って目を伏せる。全部悪い夢だった、と告げた彼女に、ジョイさんは少し悟ったように彼女を抱きしめた。こうなった彼女は名前が違う。ナマエちゃんでは反応しない。
「ジェーンさん、ダメだよ、病室から飛び出したら」
「ボスがいたんだ、仕方ないだろう……?」
私を見て首を傾げた彼女に、はぁい、と私はてをふる。
「貴方の未来の相棒サチだよ」
「未来の相棒?」
「今から相棒になるの」
「そうか。よくわからないけど、心強いな」
慣れてる会話である。あと二人はリセットされずに普通に起きてたし、連絡するか、と思っていたら二人がきたが。
「今回誰だ?」
「ジェーンさん」
「まじで?師匠ーーーー!!!」
そう言って突撃したセツくんに、ナマエちゃんはセツくんを締める。ジョイさんがそれを見ていたので、私は彼女を手招いた。
「……これは」
「記憶がリセットされた。恐らくアンタの弟子だった記憶に呑まれてる。俺たちはあの人ほどリセットされたわけじゃないからな、あの人よりは眠りに抵抗はないし思考転換も起きにくい。まぁ長くて2週間だ」
==
あ、絆されてる。と、私はゼロ少佐を見て思う。少佐?と覗き込んだ彼女に、彼が何かを噛み締めるような顔をしたからだ。まぁ、ナマエちゃんがジョンさんには複雑そうにしているのを見た。それはジョンさんもだが。ナマエちゃんが反応が悪いゼロ少佐をみて、近くにあるシギントさんのコーヒーと紅茶をすり替える。またそんなイタズラをするー、と私は思う。パラメディックさんはちょっと心配そうに見ているが。
「ジェーンさん、叱られるよ」
「いや、いけたと思うんだが」
「ダメだよ、ダメ。紅茶主義にコーヒーは絶対ダメ。海溝より深い溝があるんだよ」
「そうか?」
「そう」
その言葉に彼女はきちんと戻し、少佐のスコーンを一つ拝借した。ジョンさんがくる。
「ジェーン、いいモノ食べてるな」
「食べるか?」
「いいのか?」
「少佐は今動かないからいいんじゃないか」
「そうか」
いや聞こえてるんだよな。ジョンさん普通に食べてるけど。私はゼロ少佐をみる。はーとため息をついたゼロ少佐は、二人を見た。
「私のスコーンだが」
「知ってる。だが、少佐のスコーンはいつも美味しいから」
「そうか」
「そうだ……ごちそうさまでした」
ナマエちゃんがいい笑顔でそう告げ、片手をあげて去る。逃げたな。私を撒いたな。ジョンさんが俺が追いかけると言ってくれたから任せるけど。
「ーーあー、えーっと、なんだ?何がどうなってんだ?」
「あ、そっか知らないんだった。ナマエちゃん、今思考転換起こったから2週間はあの人格ですよ」
「思考転換?」
「ナマエちゃんの中でナマエちゃんがリセットされたんです」
「リセット、とは?」
「端的に言えば、三日前の眠る眠らない騒動があったでしょう?あそこで眠ったから、私の友達のナマエちゃんは彼女の中で死んだんだよ。その代わり今出てきてるのがジェーンさん。どこかの世界の冷戦期にCIAにいる人」
「多重人格、と言うことかしら?」
「に、近いかもしれないですが、ナマエちゃんの場合、繰り返しうけた睡眠だか催眠によってそうなってるので。多分2週間したらジェーンさんは死んで違う人になる。記憶は引き継がれないから、全部違う人。時々似た人にはなりますけど、全部はじめまして」
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彼女はまたすぐに溶け込んだ。ジョンさんとかくれんぼをしてジョイさんと怒られたりもしている。でも、それも長くは続かない。
ほら、またそうなる。眠りたくない、と彼女は今度はジョイさんに告げる。子供があまえるように。絶望したように。眠ったらまた貴方を殺すしかなくなる、と。今度も彼女は押さえつけられーーそうしてまた眠りにつく。
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彼女は彼女じゃない誰かに変わっては、2週間でかわる。それは私たちがあってからずっとだ。恐らくはその前からだろうけど。たまに多分ジョンさんの過激な部分にあたるっぽい人が出てきたりして、私たちは対処が難しいのだが、今回はジョンさん達がいてことなきを得る。
「どうしてこんなことをするんだ」
「あぁ、お前は私なのに変なことを聞くんだな」
「お前は俺じゃない。お前はお前だ。なんでこんなことをした?」
「夢から覚めるためだ」
彼女はそう言って、彼を見た。ヘイティさんが持っていた注射器で彼女にさす。
「お前もこうならないといいな」
と、言う言葉をはいて、彼女は眠る。彼は息を吐いてーー彼女を抱き上げたが。
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彼女にあてがわれた病室に向かえば、彼女はベッドに座って、ただこちらを見ている。おっとこれははじめてのことでは。私はそう思いながら、ナマエちゃん、起きてる?と彼女に問いかけた。彼女は小さく首を傾げる。……?英語がよくわかってないのかもしれない。日本語で、ナマエちゃん大丈夫?と聞けば彼女は目をぱちぱち瞬いてーーおねえさんは、日本人ですか?と拙い日本語で問いかけた。
「……そうだよ。お名前言えるかな?」
「ナマエ・ベルンシュタインです」
「年は?」
「8歳……」
これははじめてのパターンである。退行だ。
「ここはどこですか」
「ここは病院だよ」
「どこのくにの?」
「アメリカだねぇ」
「アメリカ……」
「わかる?」
私の問いかけに彼女は頷く。
「あの、おかあさんは……」
「ナマエちゃんだけだよ。ちょっとお医者さん連れてくるから待っててね」
私はそう言って厳重に警備された部屋をでる。さてこうなると私は完璧にはじめましてというか対応できかねる。どこかで養父だったらしいヘイティさんに頼むか、とそちらにいけばジョイさん達と話していた。
「ヘイティさん、ナマエちゃんおきました」
「毎回確認ありがとう。今回はどうだった?」
「それが私もはじめてで」
「珍しいな……」
彼はそう言って眉間に皺をよせた。
「どんな性格だった?」
「それが、ナマエ・ベルンシュタインと名乗る8歳の女の子でした」
私の返答に彼は目を見開く。
「今の西暦を聞いたかい?」
「あ、聞くの忘れてました」
「何があるの?」
「ナマエ・ベルンシュタインは今のあの子の旧姓でもあり、僕の記憶の中にあるあの子の旧姓でもある。見分けるには西暦を聞くしかない」
彼はそう言って私がきた道を引き返す。私たちもそれに追っていけば、相変わらず病室の中にナマエちゃんはいた。大人しくベッドに座ったままで。
「こんにちは」
そう英語で告げた彼に、ナマエちゃんは少しだけ困惑した。ああ違うかな、と告げた彼は今度はフランス語で話しかける。彼女はまだ戸惑ったように、『フランスの言葉、ちょっとだけしかまだ話せないよ』とかえす。それを聞いてヘイティさんはまた違う言葉で声をかけた。
「何語……」
「ドイツ語ね」
ジョイさんはそう言って二人を見る。私は持っていた翻訳機をドイツ語に変えた。
「ナマエは今何年かわかるかい?」
「1942年……?」
「フランス語が上手だね。フランスに住む予定でもあるのかい?」
そう尋ねたヘイティさんに、彼女は何かに気づきーー口を両手で覆った。まるで何かをしてしまったのがバレた子供みたいに。顔面を蒼白にして。
「ちがう、私は日本人だよ、ナマエ・苗字っていいます」
私はどうして彼女がそう言ったのかよくわからないで首を傾げる。それを見ていたジョイさんが彼女の目線に合わせて屈んだ。
「大丈夫。ここにいるのは貴方の味方よ。彼も私たちもドイツ語がわかるけれど、我々はナチスじゃないわ」
「怯えなくていい、君はアメリカに保護されたんだ」
ヘイティさんの言葉に彼女は私たちをみる。私たちが頷けば、彼女は震える声で「おかあさんは」と問いかけた。
「……僕たちが見つけたのは君だけさ。それでさっきの質問に戻るんだけど、おかあさんはどこに行くっていってたかわかるかな?」
「おかあさん、ノルマンディに行くっていってた」
「……そう。名前はわかるかしら?」
「カナ。苗字カナ。あ、えっと、カナ・苗字?おとうさんも、さがせますか?」
「お父さん?」
「ドイツにね、いたころにね、兵隊さんに連れて行かれたの」
その言葉に、小さく、やはりか、と誰かがつぶやいた。
「……君は連れて行かれなかった?」
「おとうさんが、かくしてくれた。いぬがね、おっきな、いぬが、ワンワンって、ほえてね、おとうさんが、つれていかれたの、わたしのせいでね、つれていかれてしまったの、」
彼女はそう言ってうつむいた。ヘイティさんが少しだけ表情をくもらせる。
「……よし、ナマエ。いいことを教えてあげよう」
ヘイティさんはそう言ってナマエちゃんの手をとった。今までで一番明るさを持った声だ。
「君のお父さんの名前は、ウィンタード・ベルンシュタインだろう?」
ヘイティさんの言葉に、ナマエちゃんは目を見開く。
「知ってるの?」
「あぁ、なんたって僕はアイツとはまぁたまに殴り合ったり喧嘩したり……まぁそんな仲でね。アイツから言われて君を助けたんだ。アイツは君のおかあさんを探してくるって。それまで俺たちといい子で待てるかな?」
「うん……」
そう頷いた彼女に、ヘイティさんはいい子だね!と頭を撫でた。
「あと、アメリカの変装技術はすごくてね。君は今ハイティーンくらいの少女にみえるんだけど、それをとくのに2週間かかってしまうんだ」
まぁー苦し紛れの嘘だ。でも、よくわかってない彼女は首を傾げる。立ってごらん、と手を引いたヘイティさんに、ナマエちゃんは立ち上がる。そうして自分の背の高さに驚いたらしい。目をぱちぱちまたたいてーーすごい!と声を上げた。
「アメリカ、すごいですね!」
なんだこの可愛い生物は。
「今度の姉御は?」
「8歳の女の子。可愛い」
私がそう言えば、セツくんとオウくん、ついでにいた双子とジョージさんが目を瞬いた。
「身長あわなくないか」
「アメリカの変装技術で一時的に身長が伸びたと思ってる可愛い生き物だった」
私はそう言って噛み締める。なんだそれは、とオウくんが苦言をていし、セツくんがはえーと声を出した。
「閉じ込められてるからまたボスが来たのかと思った」
「いや、普通に大人しくクラーク博士達の診察受けてるだけだよ」
まぁ、噂をすればでナマエちゃんがやってきたけど。まぁそりゃあ中身が子供ならクリアランスは下げられる。それでもタグつきだし、ジョンさんがついてるが。
「サチちゃん」
「こんにちは、ナマエちゃん。今日は外にいるの?」
「お医者さんがね、あのね、ジョンさんと一緒ならね、お菓子買ってきていいよってね、」
ほら可愛い。てれてれしてる。普段見せない表情すぎる。そうして、ナマエちゃんは他の面々をみた。
「あ、えっと、ナマエ・ベルンシュタインです、こんにちは、よろしくお願いします」
そう英語で話した彼女に、オウくんがどうもと王子様スマイルを浮かべた。
「俺は名寺桜です」
「俺、七篠セツ!こっちはジョージさんと、デイヴィッドとイーライ」
よろしくな、を砕けた口調で告げたセツくんに、ナマエちゃんはジョンさんをみた。ドイツ語で、どう言う意味ですか?と聞いて、よろしくって意味だ、とジョンさんが返す。
「お嬢さんはドイツ語の方がいいのか」
「すごい、皆さん話せる」
と、キラキラした視線を向けたナマエちゃんに、私は尋ねる。
「何買うの?」
「ジョンさんと、はんぶんこできるやつをかいます、色々おしえてくれるので、」
満面の笑みである。
「ナマエ、ここのシナモンロールなら半分こできる」
「かってきます、」
そう言ってナマエちゃんはぴょこぴょこしながらシナモンロールを買いに行った。
「すごく可愛い」
「不謹慎だぞお前」
「……落差が酷いな」
「今の姉御のさー、昔?」
「ううん、1942年だと思ってるから違うよ」
私はそう言ってコーヒーを飲む。
「第二次世界大戦中でドイツ語、あの姓か。大変だな」
「ジョージさん、どう言う意味?」
「ベルンシュタインはユダヤ系ドイツ人の姓だ。ドイツ語を喋ると言うことはドイツ生まれだろう」
「連行か」
「あぁ、父親は目の前で連れて行かれたらしい」
「助かったのか?」
「父親がか?」
「あいつがだ」
「助かったようだ」
と話していたらナマエちゃんがぴょこぴょこ戻ってくる。手でわった結果、不揃いになったシナモンロールの大きい方をジョンさんに渡すあたりいいのである。同じには見えないな、と、ぼやいたデイヴィッドに、わたしはなんとも言えなくなったのだが。
この彼女は今まで見た中で1番穏やかに眠った。明日はお父さんとお母さんがくるからね、と告げたヘイティさんに、彼女は本当に嬉しそうに笑って、眠った。夢の中で会えることを祈るしか、わたしにはできなかった。
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ヘイティさんを父さん、と呼んだ彼女に、ヘイティさんが目を見開いてーーマイガールと嬉しそうにハグをした。
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まさか本当にナマエちゃんのお父さんが来るとは思わなかった。それもたまにくる人形みたいな虚無の時に。どうやらヘイティさんとは定期的に連絡を取り合っているようである。ただベッドに座って外を見つめる彼女には意志がない。ジョンさんが話しかけても、何も反応を示さない。
「ナマエ」
そう言ってウィンタードさんは彼女の手をにぎる。
「迎えにきたよ。お前の母さんは法に裁かれる」
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