ネタ帳vol.3
2025年ネタ帳208:君僕主は再会する(+AC)
08/12 17:16
この世界には2種類の人間がいる。記憶が一重のものと二重にあるものだ。二重にる記憶とはーー自分がどのように生きてーーどのように死んだのかという記憶だ。1世紀ーーいや2世紀前であれば恐らくそれは前世と呼ばれたのだろう。今日において、記憶が二重にある人間に押される烙印は、精神疾患。ーーそうしてあいつら達はみな空を奪われたのだ。
そんな人間が集まる場所がある。この飛行基地だ。飛行基地なんて名前ではあるが、あいつらが空を飛べるわけがない。懲罰をしでかしたわけではないのに、私たちの待遇といえば懲罰をした人間と同じ、いやそれ以下と言ってもいい。もちろん辞めていく奴もいる。そういう奴はここから出たあと、みんな精神病院にぶち込まれる。だから、二重持ちの私達はここにいるしかない。一抹の望みを抱いて。
でも、そんな望みも握りつぶされようとしていた。外部から私たちのいる場所は攻め込まれーー私たちはみんな人質のようになっていた。軍は私たちを殺す。空から堕ちて死ぬことも許されず、この醜い地上で。一緒にいる女子供だけでも、というが、誰もそれを聞き入れようとしなかった。
飛行機乗り達の中に一人、輸送機のパイロットをしていた男がいた。騒ぐ飛行機乗り達のなか、ただ静かにいつも外を伺っていた。まるで誰かの来訪を待っているかのように。聞けば『昔』、似たようなことがありーーとある女に助けられたらしい。そんな上手い話があるわけがない。私たちは価値のない捕虜だ。時間が経てば殺される。そうして期限が迫りつつある静かな夜だった。いや、正しくは静かすぎる夜だ。いつものように下品に騒ぐ声もない。監視もそう思ったのだろう。あたりを見てくると告げた一人の監視はーーいつまで経っても戻ってくることはなく、もう一人の監視はみるからに苛立っていた。輸送機のパイロットはそこでようやく監視に言葉を投げた。
「投降したほうがいい」
「何を言っている?」
「静かすぎるだろ。多分お前以外は天国か地獄か夢の中だ」
パイロットはそう言って彼を見つめた。ふざけたことを!と激昂した男の背後にあったダクトが開くのはその瞬間である。降ってきた何かは監視を投げ飛ばすと、監視の抵抗を許す暇もなく躊躇もなく銃口をむけーー引き金を弾く。まぁ、血が飛び散ることはない。あっけなく意識を失った、というより寝息を立てているあたり眠っているらしい。降ってきた何かはつけていたゴーグルを外す。
ーー女だった。ハイティーンと呼ばれる年頃の。灰色の瞳が輸送機のパイロットを捉えると彼女は目をまた会う。
「君は、もしかしてカヅキか?」
「!ええ!ボス、随分とお若い」
「ふふ、それはお互いさまだろう。待たせたな」
女はそう言って銃をホルスターにしまうと私たちを確認した。想定より多いな、と眉間に皺を寄せた女は、鍵を外す。
「ボスはお一人で?」
「いや、あと二人いる。他を制圧してる」
「……三人で?」
「あぁ。そのうちどこかの軍が来るだろうが、その前に連れ出すつもりだ」
鍵を開けた女はそう告げる。そうして、当たり前のように「カヅキ、輸送機を頼めるか」と告げた。
「……貴方はどうやって?」
「ヘリできたが、この人数は無理だ。聞いていた人数より多い」
「貴方は何人と?」
「9人だ。こちらに子供がいるかもしれないと聞いたから私がきた」
それは間違いなく、ここにいる二重持ちではなくーー無害な女子供の人数、と、恐らく司令官や上層部であった男達しかないのだろう。厄介払いか、と誰かが呟いたのを聞いてーー女は目を瞬いた。
「どういうことだ?」
「……ボス、我々は二重持ちです。二重持ちは精神疾患とされーー我々は空を飛ぶ権利を剥奪されている。航空基地のお荷物です」
「なるほど?だから、あちらは落とされがーー別の場所に隔離された君たちは無事なのか。もう一人の男が騒ぐわけだ。皮肉な話だな」
女はあっけらかんとそう告げる。そうしてまた輸送機のパイロットをみる。
「カヅキ、もう一度聞くが輸送機を頼めるか?」
「……いいんですか?」
「理不尽な扱いをされてまた卑屈になってるな。いいか、カヅキ、私は君の腕を知っているし、何より君を信じているから任せるんだ」
女はまっすぐな目で告げた。きっとそこに嘘はない。あるのは信頼だ。カヅキと呼ばれた男は、はい、と頷く。それに満足したように笑った彼女は不意に耳元に手を当てる。通信のようだ。しばらく考えてーー会話をし、そうして「いえ、使えるのは何機ですか?」と尋ねた。そうして「護衛をできたらつけます」と告げる。そうしてまた別の場所に連絡をいれた。
「HQ、聞いてたな。そちらで識別は可能か?……あぁ、わかった、そう告げてみる」
そう言って無線を切った女はこちらを見た。
「カヅキ、紹介してほしい人がいる」
「なんです?」
「戦闘機のパイロット」
女は平然と告げた。空に飢えた男達が一斉に二人を見る。
「いるだろう?ここは航空基地だ。二重持ちなんてどうでもいい」
言いきりやがった、と誰もが思っただろう。世間体では二重持ちは異端なのだ。それをどうでもいいという人間は軍の人間ではいないだろう。
「私たちは腕がいいパイロットの協力が欲しい」
女はそう言って揶揄うように告げた。空に飢えた男達がようやくーー希望を見出したようだった。
「何故?」
「最近輸送機を狙った無人機がしつこくてな。加えてこちらに所属不明戦闘機が向かっているらしい。ここにいても30分もすればスクランブルになる。飛んだとしても空のどこかで鉢合うだろう」
女はそう言って肩をすくめる。
「ここの指令だった男からは戦闘機使用の許可も得た。そのまま君たちは私と一緒に我々の本拠地までずらかる。君たちの身は我々が保証する」
女はこちらを見た。
「ただし、ここの管制塔はもう機能していない。荒事になるが、遠方から我々の管制官が衛星を介して遠隔で貴方達を出撃誘導することになる。識別を組むために一機を中心に隊列を編成以後護衛または空中戦だ。機体も残っているものを扱う。別行動している人員が飛べることや細工がないことを確認はしたがーー機体は最新じゃない。もちろん、死ぬ可能性もある。その条件がのめるパイロットだ」
「ボス、残念ですがーー」
カヅキと言われた男がそう言って目を伏せる。笑みを浮かべて。
「ここにいるのはそんな奴ばかりです。俺が選べません。そもそも最新でないのであれば、あるのは彼らの機体だ」
女はその言葉に目を見開くとーーふはっ、と笑った。それは頼もしいな!!と明るく笑った女はあの司令とは正反対だった。女はまた言葉を続ける。
「よし、わかった!機体があって、飛べる人間は飛んでくれ。自信のない人とお嬢さん達は私と一緒に輸送機で退避しよう」
「いいのか」
「記憶が一重か二重かなんて腕前に比べて些細なことだ。我々はいつでも歓迎する。万年人手不足だからな」
女はケラケラわらうと、行こう!と私たちを外に誘導した。静まり返った基地はどうだったかって?不思議なことにこの女が通るルートに死体はなかった。みんなお休み中だったってわけだ。いや、恐らくは一緒にいた女子供が見ても大丈夫なルートを通ったんだろう。管制塔近くの通路を進もうとした時に止めたからだ。たどり着いた格納庫に慌ただしく彼らは乗り込みーー私たちも輸送機に乗り込む。そうして、私たちは空に上がるのだ。まるでーー鳥籠から逃げ出す鳥のように。
その結果はどうなったか、だって?当たり前に、敵に遭遇し、当たり前のように全員無事に女のいう拠点に到着した。誰もかけることなく。
誘導されて到着した場所はどこぞの航空基地というよりは、街のようだった。まぁ、まだ発展途上の街のようだったが。慌ただしくやってきた整備兵達や、物珍しいように戦闘機を眺める人達には様々な人種がいる。そうして女が降り立つと、全員が敬礼した。
おかえりなさい、ご無事で何よりです、ボス、と歓迎される様子は些か歪だったがーーこの女も二重の記憶があるのだ、と、思い出した。おじいさま、と、輸送機に乗っていた子供は初老のパイロットに向かって走り出す。
「彼らは?」
「通達より救助人数が多くて手伝ってもらった。今のところは客人だ。整備を頼めるだろうか?」
「ええ、お任せください。2機だけじゃ物足りなくなっていたんです。紹介していただいても?」
「あぁ、そうか、確かに勝手に触るのは良くないな」
女はそう言って私を見た。
「君も確か整備員、かな?」
「……周り回ってな」
「そうか。こちらは我々の航空整備を担当しているペンギン大隊の……マカロニペンギン隊だ。彼はそれを率いているユーリスだ」
「ユーリス・ハリスです。マカロニペンギン隊の隊長をしています」
と男は手を差し出す。機械油が染み込んで黒く汚れた手だ。
「マカロニペンギン?間抜けな名前だな」
「可愛いだろう?マカロニペンギン、見たことないか?」
女はそう言って笑った。女が命名したらしい。
「ははは、我々は気に入ってますよ」
「……エイブル・ミードだ」
と、私は握手を応じる。
「よろしく、Ms.ミード。貴方が疲れていなければ、彼らの機体についていろいろお伺いしたいです。今日同行するか、明日お話を伺っても?」
「そこまで疲れてない」
「なら、是非ご一緒に」
「彼らを紹介する」
女はそう言ってユーリスと名乗った男と他数人をつれてパイロット達に合流する。
「皆さん、ご協力ありがとうございました。おかげさまでスムーズにこちらに帰還ができました」
「いや……礼を言うのはこちらだ」
そう言って壮年の男が彼女をみる。彼女は「ではお互い様ということで」と笑ったが。
「彼はここで戦闘機の整備を担当しているマカロニペンギン隊のユーリスです。皆さんの機体を整備するにしろ、勝手にしない方がいいかと思ってご紹介に」
「マカロニペンギン……?」
「ペンギン!」
女子供にはそりゃあウケはいいだろうが、男には違うだろう。
「マカロニペンギン隊のユーリス・ハリスと申します」
そう言って握手を求めたユーリスに壮年の男は応じた。まぁ全員と握手をしているのだが。
「ボス、報告があるでしょう?お付き合いいただきありがとうございました」
「いや。飛行機をみて楽しそうな君達が見れて私も嬉しいよ。私は上司に報告してくる。彼らの部屋を押さえたら迎えをよこすからしばらく一緒にいて欲しい」
「かしこまりました」
「皆さんはもう少しお待ちください。部屋などをご準備いたします」
女はそう言ってそのまま他のスタッフを労いながらーー何かを持ってきた人に紛れて移動していく。
「すいません、彼女忙しくて」
「いや……こちらは?」
「おっと……また説明していないんですね」
ユーリスはそう言って苦笑いをした。また?と尋ねれば、彼は口を開く。
「ここにいるのは私みたいに転職した人間もいれば、志願した人、一時的に国の命令で合流している人間、彼女と行動を共にしたとか、彼女に助けられてそのままとどまることを選択した人間がいるんです。だいたいは彼女と絡んだ人は説明を聞いてない」
ははは、と笑った彼はこちらを見た。
「我々は難民支援及び戦地支援部隊swallow。国連の名のもとに、さまざまな国々にさまざまな支援を届ける部隊です。ようこそ、皆さん。国々の垣根を超えた組織ーーいえ、国境が存在しない軍隊へ」
これが、私達がツバメの巣に来た初めの日だ。そうして、この組織の1番上だったーーかのナマエ・ベルンシュタインと出会った日だ。
そのあと私たちがどうなったかって?
戻れば飛べなくなることなんてみんなわかっている。良くて内勤、悪くて除隊だ。そうしてる間にナマエ・ベルンシュタインの父親が私たちの軍を丸め込んだらしい。私達は国連に貸し出された兵力、となった。国にとっても厄介者を追い払えてよかったのだろう。私たちは新たに編成されることになりーーグレイカラーの髪をした男がやってきた。金髪の子供と一緒に。
「やぁ。君たちは会わなかったね。あ、英語で大丈夫かな?」
「大丈夫だ」
「僕の名前はクラウディア。まぁヘイトやヘイティと呼ばれる方が多いから好きに呼んでくれ。元々我々航空支援隊は輸送機が主だったんだけれど、君たちを併合するにあたり新しく色々と態勢を整えることになった」
嫌悪と名乗った男がそう告げる。
「輸送機がおも、なら、あの戦闘機二つは」
「あれは僕のとこの子のものだよ。ははは、二重の君たちにわかりやすく言うと、僕は輸送機しか扱ってないがーー前は戦闘機も乗れた。だから、乗れるんだ」
平然と男は告げる。
「一重は理解してないが、僕たちみたいな二重は前にできたことはできる傾向にある。だから、合法か非合法かを目を瞑ったら当然この子も乗れる。まぁ、実際は教育用にちかい。実戦もなかったからそれで事足りたんだけど……」
男はそう言って困ったように告げた。
「最近輸送を妨害する無人機のようなものが増えてね。それを対処するのにどうしても航空隊が足りない。僕達がそちらに対応すれば運べる支援が減る。だから編成した……っていうことになってる」
「なっている?」
「君たちを迎え入れるための建前に決まってるだろう?本当はこちらでそのまま雇いたかったみたいだからね」
そう言って肩をすくめた男は、さて、と目を伏せた。
「今はまだ余所者の君たちに伝えておこう。我々は基本的に国連総会の採択により動く組織でありーー君たちを助けた時のように、加盟国の危機に対しては国に要請を受けて人道のために軍事的にも動くことになる。国境がない軍隊とは聞いたかな?」
「聞きました」
「そうか。我々の活動範囲には国境という壁はない。だからこそ、我々を守る壁もない。我々は世界中の国の味方でもあるが、同時に世界中の国が敵でもある。時制によって敵は変わり、昨日味方だった友軍が敵になることもあれば、敵であるものが味方としてやってくることもある。祖国を敵に回す可能性もある。国が抱える軍のように我々には絶対的な敵は存在しない。……ただ、少しだけ今より平和な世界にしたいと自分達ができることをしてるだけの部隊だ。あと、軍よりちょっと制限が多いかもしれない。それを念頭において行動をして欲しい。注意事項は以上だ。ということで、ウィルはしばらく彼らの雑用だ」
「はぁ!?なんでだよ」
「君、この前、勝手に離陸して合流しただろう?管制官に聞いたよ」
「……」
「君達のお姉さんの役に立ちたいのはわかる、が、成年してからにしろ。前にも言っただろう。いいか、見逃すのはこれきりだ。次は教官として容赦しない。これからは彼らの指示に従え」
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