ネタ帳vol.3

2023ネタ帳33:水鏡映すは彼方の月2(李子と現パロ中華組)

01/14 17:13 

「……遅刻を咎めるつもりでしたが」
そう言ったのは荀攸さんである。スーツ姿似合うなこの人。なるほど、徐庶が原因ですね、とは私と元直をみて荀攸さんが告げた言葉である。元直が申し訳ない……と眉尻を下げた。泣き腫らした後はないはずではあるが。荀攸さんは私を見下ろした。
「俺は鳳凰学院の教員で荀攸と申します。数学を担当しています」
「えっと、苗字ナマエです。父の知り合いからは章李子と呼ばれていますので、そちらで呼んでいただいても構いません」
「章李子?」
「父がこちらの国の出身で、姓が章でしたので。李子でも下の名前でも呼びやすいようにしていただければ」
そう説明すれば、彼は少し表情を緩めた。
「そうでしたか。よろしくお願いします、ナマエさん。我が校は貴方の転入をいつでも歓迎しますよ」
「この服を渡してくださった方もそうおっしゃってくださいました」
「ええ、そうでしょうね。さて、俺としてはもう少し立ち話に興じたいところですが、そろそろ中に入った方がいいでしょう」
そう言って荀攸さんは扉を開ける。中を覗けば人が挨拶しているのが見えた。よくよくみると劉邦さんである。彼は私達に気づいたのか一瞬こちらをみて、これで揃ったな!とケラクラ笑って見せたので視線がこちらに向いたのだが。とりあえずこの格好をしていれば性別不詳なはずだからにっこり笑う。
「申し訳ございません、慣れない服を着るのに手間取ってしまいまして」
そういえばだいたいが納得する。現に多くの人が納得して見せたからだ。そこからはまた視線か劉邦さんにむいたので、私たちはこっそり移動する。じゃあ交流会楽しめよ的な話で締め括った彼は杯を掲げた。こちらはジュースの杯を掲げる。
「ナマエさん、よろしければ俺の知り合いにも貴方を紹介したいのですが」
「先程服を渡しに来られた方もいらっしゃいますか?」
「はい、恐らくそちらを用意したのは我が校の校長でしょう」
と言っていたら、同じ学校の人と寵沙が陸治さんをつれてきて写真と騒ぎ出す。
「……申し訳ありません、荀攸先生。あとでお伺いいたします」
「はい、その方がよさそうです。教員席は固まっていますのでお待ちしております」
そう言った荀攸先生ともあとで写真をとろう。


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元直と逸れたと思ったら蜀で固まっていたので、ちょんと彼の服を掴む。びくり、と肩を揺らした彼は私を見下ろしたが。
「元直、探しました。すいません、あそこまで押しかけてくるとは思わず……」
「いや、俺も人混みに流されてしまって。すごい人気だね」
「なんでああなったかいまいちわかりません。閉鎖的な場所だからああなっているだけだとは思うのですが」
そう言いつつ、蜀軍側を伺う。あちらもこちらを伺ったが、法正殿が口を開く。
「李子殿がこんなに小柄だったとは」
「ぐ……白状しますと今でいうヒールで傘増ししていました……元から身長はこれくらいです」
そうがっくししながら言えば、周りが固まった。士元が口を開く。
「そうだったのかい。あっしは気にしないんだけどねぇ」
「士元が気にしなくとも私が気にします」
「李子殿?」
「はい?」
「記憶があるの?」
「ありますね」
「怒らないんですか?」
「その問いには遠呂智世界で答えたと思うのですが……私が参陣するのが遅れたのがそもそもの原因ですので私は気にしていませんよ。絶対最初から参陣していたらもうちょっと被害減らせたと思うんですよね」
「隣の男は何もしませんでしたしね」
さらっと毒を吐いた法正殿に、元直はあの時は最初から戦力カウントしてないですと言えば元直が完璧にしょげた。事実だから仕方ない。
「え、なんで?」
「元直の忠誠心や性格の問題ですかね。そもそも魏軍師と仲良くしてる同じ軍にいる私よりも敵軍にいて劉備殿といる孔明くんや士元を気にかけるのは理解できます。元直の優しさは美徳ですからね。そもそもあの時代が悪かった、それだけです。今は仲良くしたいです……」
そう説明したら、士元があっしもそうだと嬉しいねぇと笑い、そうですね、と孔明くんが頷いた。
「まぁ、ナマエが女性であることには驚きましたが」
「隠蔽頑張りましたからね。次から会うときにはヒールを履きます。首が痛い」
「小さいですもんね」
法正殿がそう言って肘置きにしてくるのはちょっとやめてほしい。元直が法正殿、ナマエが嫌がってると止めてくれたが。
「よーう、李子」
そう言いながら背中を叩かれる。わっと声を出して振り返れば劉邦さんがいた。
「遅れてくるとはいい度胸してんなオイ」
「着替えにてまどいました」
「そういうことにしといてやるよ」
バシバシと背中を叩いた彼は「で、」と私を覗き込む。
「で、誰が彼氏だ?」
「友人です」
「なんだつまんねぇやつだな。それくらいの年頃なら彼氏彼女が一人二人いてもいいだろ」
「2人も要りませんよ。で、ご本心は?」
「お前の父親を揺する材料にしたかった」
「無駄にキメ顔しても言ってる内容アウトですからね」
「まぁそれは置いといて、友人がいるなら大徳工業に編入するか?俺は大歓迎だが」
「行くなら荀攸先生がいるところに転入します」
そう言えば、劉邦さんがこちらを見下ろす。
「荀攸っつったら、鳳凰学院か。俺はそっちでもどちらにせよ配下になるってことで断然嬉しいが、お前もうちょっと友人の気持ち汲んだらどうなんだ?」
劉邦さんの言葉に、水鏡同門をみる。うーむ、ちょっとしょんぼりしている。元直は見るからにしょんぼりしている。
「ぐぅ……いえ、しかし、あの劉備様が嫌いだとかそういうことではないんですが、私はやはり……戻ると言ったので戻らねばならないと言いますか」
こちらもしょんぼりしながら告げる。
「まぁー、体育祭で争っても命を取り合うことはないからいいんじゃない?今はスマホもあるしね。李子殿がこっちにいたら頻繁に使者が来て若が怒りそうだし」
馬岱殿の総括に法正殿がそうですねと告げたが。
「そういえば、荀攸先生達にご挨拶を伺おうと思っていたのですが、職員はどちらに固まってらっしゃるんでしょうか?」
「今お前がいくと爺さん達に捕まるぞ。いや、爺さん達に捕まるくらいならいいだろうが、愛国心が強いやつに捕まると面倒だろ」
「爺さん」
「お前の母親の叔父だ。お前の大叔父だな」
そう言って酒を煽った彼に私は目を瞬く。あんまり会ったことない人達である。まぁ、祖母は家の関わりを捨ててまで祖父の妾になったのだと聞いたこともある。母親が本家でいい顔をされないのは妾の子だからだ。
「まぁ、国外の教員もいるし国外を貶したい奴もいる。そいつらにはそろそろご退席してもらうがな」
こういうところがあるんだよなぁとは思う。彼氏達とちょっと待っとけと言って雑踏に消えた彼を見送っていれば、元直が見下ろした。
「ナマエ、理事長と知り合い?」
「父の上司であり母の知り合いです。何かとめにかけていただいてます。偉い方だとはなんとなく察していたのですが……学校の理事をされているとは」
そう説明すれば両親と繰り返されたので、ちゃんといますよ、と返しておいたが。



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劉邦さんにオッケーもらったので職員席に近づいたのだが、全然オッケーではない。絶対面倒くさくて投げたなこの人。そして曹操様達が反応するのと同時に見知らぬ人がガタっと立ち上がる。青ざめてる人もいる。なんだ?
「李嘉!?」
「なんだと!?」
その様子に劉邦さんが呆れたように口を開く。
「爺さん達、李嘉がこんなに若いはずないだろ。あの李嘉の娘だよ」
「李嘉の娘」
「男ではないのか?」
「娘だ」
「親子揃ってこうか」
「そうだな。だが、こっちの方がだいぶ聞き分けがいい」
劉邦さんの肯定に周りは笑い出す。なんだ?と首を傾げれば、そのうちの1人が笑いながら口を開く。
「お前の母はそりゃもう凄かったぞ。やれ男子に混じって剣術を極めだすわ、やれ馬に乗って狩りに出るわ、仕舞いにはあちらの父に怒って母の親族を頼りにこちらに来たかと思えば、自分を悪い扱いする奴らにやってられんときれて全員返り討ちにした」
「あれは最高だったな。喧嘩をうった男が無様に転がっていた」
頭を抱える。あー、母親がやりそうである。なんというか、母は武人タイプで、結構手が早い。短絡的な部分があるのだ。数人顔を青ざめさせていたのはそういうことだろう。ちなみに母は昔はちょっとやんちゃしてたのよとは言っていた。やんちゃがこれらしい。
「母がご迷惑を……」
「迷惑だなんて思っておらん。お前の母のいうことは正しいし、いい薬になっただろうからな。それに、あまり下手に出ぬ方がいい。劉邦が適当に理由をつけて追い払ったがお前の父母をよく思わんやからもいる。お前が下手に出れば突っかかってくるぞ」
「……肝に銘じます。ご忠告ありがとうございます」
そうお礼を言えばふっと笑われたが。誰だろうなこの人。
「……あのじゃじゃうまの娘とは思えない……」
「うちの息子の嫁に来るか?」
「爺さん達、思い出を話していても李子が困るだけだからやめろ。自分家の息子の縁談ふっかけるのもやめろ。俺が一部を追い払った理由みたんだ、さっさと会議に行け」
「あなたも行くんですよ」
振ってわいた声にびくっと肩を揺らす。そこにいたのは張耳さんと韓信さんである。
「俺はこの学園の理事だからな、無理だ」
「張良殿がなぜここにセッティングしたのかわかります?あなたを出席させるためですよ」
理にかなってるなぁとふむふむする。韓信さんに引きずられていく劉邦さんをみおくれば、爺様方もそちらに流れる。最後の人が私を見下ろした。
「お前の母にたまには本家に顔を出すよう伝えてくれ。最後に顔を出したのはお前が生まれる前だ」
「かしこまりました。確かにお伝えいたします」
張耳さんが去り際に口を開く。
「時間があれば会議室までくるといい。お前の父に会える」
「お邪魔になるのでは?」
「いや?逆に会えないことの愚痴を聞くから喜ぶんじゃないか?」
そう言って笑いながら去った彼に頭を下げて、私は曹操様に向き直る。うーん、視線が痛い、というか軍師枠ほとんど教員では?とは思う。誰か連れてきたらよかった、とは口を裂けてもいけないが。
「ナマエさん、紹介しますのでこちらへ」
「はい」
荀攸先生に手招かれたのでそちらにいく。
「こちらは貴方にその服を贈った曹操殿。我が校の校長です。こちらが副校長の夏侯惇殿」
これは泣く、と理解する。う、わ、泣くつもりなどなかったのに泣く。私の様子をみて、郭嘉さんが笑った。
「荀攸殿、どうやら紹介はいらないようだ」
「……はい、そのようで安心しました」
私は挙礼する。李ナマエ、ただいま戻りましたと告げれば曹操様はふっと笑って頭を撫でたが。
「李子よ、お主にしては遅い帰りだったな」
ハラハラ泣いていれば曹操様が涙を拭ってくれる。ふっと笑った彼の格好良さよ。その手を取って、はい、申し訳ございません、と言えば曹操様がとまる。夏侯惇殿が割り込んだが。郭嘉さんがよしよししてくれる。いかん、それもそれでやばい。
「孟徳?」
「いや、冗談よ」
うるうるしてしまう私を郭嘉さんがハグしてくれる。それを眺めつつ夏侯惇殿が口を開いた。
「李子よ、何故お前は日本にいる?」
「母親が日本国籍ですので、日本で暮らしています。どうやら祖母はこちらの出身のようですね。他界はしておりますが……」
「理事長とは知り合いか」
「父の上司に当たる方です。父を通して知り合ったのですが、何かと目にかけてくれることが多く……」
郭嘉さんからちょっと離れながら告げる。父親、と周りが繰り返した。荀ケさんがああよかったと安堵しながら口を開く。
「両親がいらっしゃったのですね。また孤児であるかと……」
「はい、いまはきちんと両親がいます」
「先程言われていた?」
「あれは母です。母はなんというか……武力で解決しようとする癖があるので……」
「やはり姓は李だったかな?」
郭嘉さんが私の頭を撫でながら言う。私はそれをおろしつつ、首を左右に振った。
「祖母の姓は李だったようですが、日本での姓は祖父の苗字ですし、こちらでよく名乗るのは父の姓の方です」
「李将軍の子息と聞いていたが違ったか」
関羽殿が髭をさすりながら告げる。困った顔をしたが、恐らく答えないと進まない。いまなら許されるかもしれないが。
「あ……えっと、ですね。そちらは皆様が勘違いされていると言いますか。勝手に周りがそう解釈されたと言いますか。もとより私は身元がない孤児で曹操様に助けられ司馬徽殿に拾われたのです。その際に咄嗟に名乗った名が李子です」
「なんと」
「私には後ろ盾らしい後ろ盾がないので、勝手にそう判断されて助かった面もあり答えを正すメリットもない上に予想以上に広がった為に黙っていたのですが……昔も名の部分が李子であった可能性は否めません」
「なんでい、曹操を騙してたのか」
「そう言われると困ります……私が理想としたように生きて行くにはきちんとした姓名がいりました。姓名がなければ司馬徽先生の元で学ぶことも、戯志才さんや郭嘉さん達に教わることもできかねますし、最悪どこぞの知らない人にめとられたり売られたりする可能性が……」
「娶る」
そう言って周りが私を見下ろす。私は両手を上げる。そこからの話である。郭嘉さんがおかしそうにクスクス笑った。
「ふふ、ナマエは昔から女性だから」
「は?」
まわりが同時に口を開いた。三国問わずである。夏侯惇殿の視線が痛い。私はそっと郭嘉さんの後ろに隠れる。荀攸先生が今世からではなく?と私を見る。
「前からだね。身長もかさまししていたし」
「どう言うことだ?」
夏侯惇殿が少し怒っている。私はさらに郭嘉さんの後ろに隠れた。
「うっ……曹操様や夏侯惇殿、夏侯淵殿は覚えてらっしゃらないかもしれませんが、私は司馬徽先生に拾われる前に盗賊に襲われていたところを曹操様と夏侯惇殿、夏侯淵殿に助けられ施しを受けました」
「む」
「ご恩を返すにはどうしたものかと考えた結果、学を身につけてお役に立つことが一番かと思い……司馬徽先生に男と偽って学問を教えていただけるかと乞うたところ、彼に拾われました。女の身では士官が許されませんでしたから」
「よくバレなかったな〜」
夏侯淵殿がそうケラケラと笑う。郭嘉さんが徹底的にフォローしてくれていたからだろう。
「郭嘉さんや賈詡殿がそれとなくフォローしてくださいました」
「郭嘉殿……?」
「おや、荀ケ殿。私はそうかな?と思っていただけでそうだとは聞いていないから。いまでいうヒールで身長を傘まししていたしね」
「賈詡殿」
「同文だ。普段手袋で隠れていたが、手元が女だったんでな。そうかもしれないと思ってはいた。校長も知っていたのでは?」
「わしも確定はしておらんよ。しかし、たまにふと女に見間違うことはあった」
そうそ荀攸殿も一部武将も周りが思い当たる節があるのか少し考えているようだ。荀ケ殿が口を開く。
「仮眠室も一緒だったでしょう!何もなかったからよかったものの、何かあったら大変だったのですよ!」
「皆様そんな人ではないので……」
「そんな人の代表格、郭嘉殿がいるんですよ!」
ぴしゃりと叱った荀ケ殿に郭嘉さんの背後から出ないことに決める。
「私は郭嘉さんの弟分だから郭嘉さんは手を出さない……郭嘉さんの好みには入らない……郭嘉さんの好みは美人系と可愛い系なので少年顔や青年っぽい顔は好みではないので……」
「そんな郭嘉殿は今満面の笑みだぞ」
その言葉にちょっと顔を出して見上げる。にっこりと笑われたが。荀ケ殿は私の両親になんと説明すれば……とぼやいていた。いや、三国時代のことを説明しても。いや、父親からは小言の一つや二つはいただくかもしれない。そんなところまで李嘉さんに似なくていいくらいは言われる。夏侯淵将軍が口を開く。
「おっ、珍しく苦々しい顔だな」
「父に言われるのは少し……しかし、今の父は関係がないのでは?」
そう尋ねれば孫堅様が口を開く。
「いや?おおよその血のつながりはそのままだ」
「では、劉備様は劉邦さんの?」
劉備さんにそう問い掛ければ彼は頷いた。
「あぁ、私は彼の甥になる。親戚の人数が多くてな」
「孫堅様はそのまま御三方の親なのですか?」
「ああ、そうだな」
恐らく父親にも記憶がある。記憶があるが、私は違う時代である。その誤差約四百年ほどだ。
「いえ、恐らく今の親は違うと思います」
「記憶がない?」
「いえ、直に聞いたことはありませんが、恐らく記憶は確かに持っているのだと思います。しかし、時代に差がかなり開きますから」
郭嘉さんや曹操様が私を見下ろす。
「ふむ?どれくらい開く?」
「劉備様と劉邦さんくらい開きます。陸治さんとその父親もそうですね」
「呼んだか?」
そう言いつつ顔を出す陸治さんよ。手元の皿には料理が並んで、というか盛られている。近くにいるのは徐盛殿だろうか。寵沙はのんびりと劉禅殿と話しているのが見えた。
「陸治!」
「……ん??これやっぱり記憶ある感じか」
「そのようです」
「なんだよ、徐盛さんよそよそしいな」
「お前記憶あったのか?」
「おう」
「盛りすぎでは?」
「馬鹿野郎、俺だって上品に食うわ。知らん奴がくれるんだよ」
「何したんです?」
「……」
「李子さーん、陸治さん売られた喧嘩を高価買取してた!」
寵沙の密告に眉間に皺を寄せる。
「寵沙、言い方が悪いぞ。俺は指導してやっただけだ」
「はぁ、その結果舎弟が増えたわけですね」
そう言いつつ皿の上に乗ったトマトなどをつまむ。まぁ孫堅さん達に行く前に、耳元で親父から連絡があった、と彼は囁いたが。
「連絡?」
「そっちに行くかもしれないから気をつけろよだと。何に気をつければいいかは不明。そもそも国外だしな」
陸治さんの言葉に眉間に皺を寄せる。
「いえ、今日同じ場所で会議をしているのだと聞いています」
「は?」
「恐らくそう言うことです」
「感覚がない」
「張良さんがいます。寵沙達にも警戒するように伝えます」
「わかった」
そう少しだけ会話をする。そのまま孫堅さん達に向かった陸治さんを見送ってから持っているグラスを使って関係者に伝達しておく。先生が私を二度見したが知らないふりだ。まぁちなみに帰ってこない私を見にきた元直が見ていたらしい。しょんぼりしている。
「えっと、ナマエは陸治殿と……」
「付き合ってねぇから安心してほしい」
と、はじめて陸治さんが否定したものだから周りが一瞬ざわついたのは知らないふりをしたい。


==

うーん、破壊音。恐らく結界が破れたのと同時に落ちてきたらしい遡行軍をみる。突き刺さった武器は項羽さんと田横さんのものだろう。また勝負でもしていたのかもしれない。空いた穴からはどっちがどうだとか言う話も聞こえる。田中さんが顔を出してヤベみたいな顔をしたのを見るに、恐らく叩き潰す案を提案したのは彼だ。ざわざわしている周りに、スーツ姿の父と同じくスーツ姿の陸統さんが降りてくるころには消えたが。張良さんの術式が走るのがかすかに見える。記憶の処理だろう。淡々と崩落現場に仕立て上げられていくのに手際がなれているなぁと思っていれば、周りがバタバタ倒れ始めた。眠っているだけだろうが。私や陸治さん、何故かそう言うものに耐性がある寵沙と日本でそう言うことをしている先生はピンピンしているのであるが。
「お、李子ちゃんと息子じゃん。元気ー?」
「は?娘がここにいるわけがな……ナマエ!?」
そう言ってワタワタとかけてくる彼はペタペタと私の無事を確かめる。
「どうしてここに?」
「学校の国際交流旅行中です。こちらはしばらくの宿泊先ですね。お母様から連絡が来ていませんか?」
「来てない……」
「では、サプライズということで」
にっこり笑えば、彼はため息をついたが。普通に会えていたらサプライズだが、とこぼされた。それもそうだ。その服似合ってる、と頭を撫でた彼に嬉しくて笑ってしまった。
「どう言う記憶処理を?」
「崩落にするよ。田中殿が下に叩きつけるように言ってね」
「田横さんと項羽さんですか」
そう尋ねれば父がなんとも言えない顔をする。
「いや、章邯も攻撃入れてたし俺も入れた。まぁ刺してはないからな。こう言う時は率先して後処理すると加わったように判断されない。始末書書かなくて済むんだよ」
ライフハックみたいな感じで教えてくれた陸統さんに、陸治さんがやれやれしているが。
「起きているのは……」
「ああ、えっと寵沙は耐性があるようです。あちらは日本で同じようなことをしている先生ですね」
「なるほど……また説明に伺うと言ってくれ。そろそろ張良殿の術が整うだろうから気をつけて」
そうわしゃわしゃした父親と陸統さんはまた軽々と二段ジャンプ上に上がった。寵沙がそれを見てスピードタイプ……とぼやく。先生がえっみたいな顔をしていたが、人間である。

とりあえず術式が整うころには先生にも説明はできたし、元の場所に戻っておいた。少しだけ時間が巻き戻ったかのように倒れていた人達が立ち上がり、一斉に目を開く。一瞬、なんだなんだと普通の人がパニックになりかけたが、ホテルの人が入ってきて崩落事故云々と告げた為にお開きになる。怪我人がいなくてよかった、と崩落現場を見つめながら告げてみる。まぁ、陸治さんしか同意がなかった。うーん、やっぱり記憶もちは誤魔化しづらい気はする。さてはて、これはどうしたものか。そう考えていれば、元直が口を開く。
「ナマエ、さっきのは……」
「さっき?」
と惚けてはみたけども、恐らく通じていない。
「あれは崩落じゃなかった。よく見えなかったけど、武器が刺さった何かが降ってきていた」
断定である。記憶がある人にはやはりあの認識障害の術はかかりにくいのかもしれない。意識が落ちる前に君が近づくのが見えたけど、と言って元直は口を開く。さて、どう答えるかと思えば、嫌な感覚がしてまたあいた穴を見る。田広殿と田中殿が蒙琳殿がジリジリと下がっている。とりあえず元直の手を解いてそちらに向かう。先生が持っている端末がけたたましくなる。
「田広殿、田中殿、蒙琳殿!飛び降りなさい!」
そう言えば彼らは意を決して飛び降りる。田中殿は陸治さんが、田広殿を寵沙が、私は蒙琳殿を拾った。しかし、あなからみえる何かは誰かの頭を持った状態で落下してくるとそれを床に叩きつけた。服を見る限り恐らくは式神のようなものであるが血が広がる。それをみた周りは阿鼻叫喚となった。まぁそれが攻撃に映る前に陸治さんが武器を出して綺麗に突き刺したが。それは砂のように消える。したにあった死体も土塊となった。
「李子さんあれ何!?妖魔!?」
「近しいものです」
瘴気が上に広がるのがわかる。ここにいたらやばい。恐らく上から無限に湧く気がする。それを理解している先生も顔が真っ青だ。とりあえず一般生徒をまもならなければならない。曹操様達も理解していないのであれば、巻き込まない方が良い。全員を退避させる。でもどこに。どうやって。早く考えないといけない。父親たちの無事も確かめて。田広くんがやってきて、李子さん、父上達が、と泣きそうだ。助けないといけない。田中殿は弁論は向くが戦運などは苦手だ。私がやらなければならない。まるで、と思ったが、頬を叩いて切り替える。
「先生、事情は後で話すと告げ、他校と連携して生徒を外にご誘導ください。恐らく上は張良殿の結界がもう少し持ちます。こちらには私の結界をはり、こちらで遡行軍を留めます。その他記憶などの処理は先生に任せます。田中殿、貴方は弁論が立ちますから彼に同行し他の教員を説得、誘導に参加ください。蒙琳殿と田広殿は習って外へ」
そう指示を出す。先生は顔を真っ青にしながら頷き、田中さん達も頷いた。
「陸治さんは殿へ。先頭は……いえ、どなたか別の方にお任せしましょう。送り届けたのちに引き返していただければ」
「わかった。適当に見繕う。寵沙も借りるぞ」
「はい」
「申し訳ございませんが、田横殿は共に死地にたっていただけると心強いのですが」
「構わん、もとよりそのつもりだ」
田横殿の言葉ににこりと笑う。そしてそのまま指を鳴らせば、水がチョロチョロと壁から湧き始めた。とりあえず水で穴を蓋をする。重力は関係ない。まるで水中かのように水を上に向かわせる。まわりに水のカーテンのようなものが敷かれていく。
生徒の誘導が始まる音が聞こえる。大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。みんな大丈夫だ。みんなきっと逃げ切れるし、みんな助かる。頃合いをみて田横殿にボールでて貰えば、私という必要最低限の被害で済む。瘴気が色濃い。浄化を試みる。
「上はどうだ?」
「瘴気が色濃く……今浄化を試みてはいますが、なかなか……」
「そうか。いま陸治が出た。閉めても構わんだろう」
その言葉に完全に蓋をする。
「やはり今のままではこちらに溢れ出しそうです。上を水で満たすことはできかねますし、あまり嵩高くすると上にいらっしゃる方の邪魔になりかねません。上は何があって?」
「記憶がない胡亥が趙高に唆されたのだろうよ。遡行軍を率いてきた。戦闘が不得意な一部は逃したが……まだ一部は上だ」
「……そうですか」
「まぁ、やわではない。遡行軍も一筋縄では行かない」
同じく上を見ている田横殿に声をかける。
「田横殿」
「なんだ?」
「頃合いを見て貴方は逃した方と合流ください」
「ーー何故だ?」
「我ら軍師というものは最悪なパターンも考えるものです。貴方さえもいなくなれば楚漢戦争あたりの歴史を管理できるものがいなくなります」
そう言って彼を見る。彼は私がいると言いたげに見下ろしてくる。
「私はその時代では秦の兵に追い立てられ、崖から川に飛び込んだ身。もとよりその時代には生きていません。故に私はあの時代に本来ならば関与してはならないのです」
「……そうか、章邯の一族は……そうだったな」
田横殿の言葉ににこりて笑っておく。私が水を扱えるのは皮肉なのですよ、と告げておいたが。結界に何かが割り込もうとする感覚がする。陸治さんではない。そちらを見れば、田横殿もみた。頷いて彼は剣を手にすると、そちらに向かい、ちょうど扉の辺りに剣を突き刺した。そのまま彼は通り抜けるのを確認して、私は穴を見上げる。瘴気が水面まで満たしている。普通の人なら発狂している。出来るだけ浄化の力を折り込み水嵩をます。それに伴いこの部屋の水嵩もました。何かがこちらを覗き込む仕草をするように見える。
「ナマエ!」
バシャバシャと水をかき分ける音がして穴から目を離す。元直が私のそばまでくると手を引っ張った。
「ナマエ、はやく、行こう。逃げるんだ」
「……行けません。私には責務があります」
そう首を左右にふる。いつかの問答だ。元直も同じことを思ったんだろう。目を見開いて掴む力を強くした。前なら彼は自分だけ安全な場所へ去ったのであるが。元直が何か言いかける。私は彼から視線を外してまた穴を見上げた。
「元直は外へ」
私の言葉に彼は掴む力を緩めると、手を握る形にした。納得したのだろうかとまた元直に視線を寄越せば元直はまっすぐに私をみた。
「なら、俺もここにいる」
「危険です。とても。下手をすれば死ぬかもしれません」
「わかってる。でも、それは君だって同じはずだ。君を置いていきたくない。もうあんな後悔はごめんだ」
「……」
「君が拒んでも、俺はそばにいる。それに、俺たちが二人そろえば、なんたってできるはずだろう?」
元直の言葉に私は困った顔をする。恐らくこうなってしまえば彼は引かないからだ。
「元直は、まだ撃剣を扱えますか?」
「扱えるよ。まぁ、使い所はないし実戦もしてはないけど……」
その言葉に、私はそっと手を前に出す。銀狼と剣の名を呼べば、水が剣の形に代わり私の手に収まった。元は飛翔剣のうちの一振りではあるぁ、撃剣の形をしている。元直からもらったものだ。
「身を守るのにお使いください。昔、あの妖蛇の世界で貴方にいただいたものです」
元直は撃剣を取る。すると、彼の撃剣の大きさに変化をした。
「ナマエ、さっきのあれは?」
「先程、元直がみえた武器が刺さったものは簡単にいうと妖魔のようなものです。しかし、妲己達のような目的ではなく彼らの勢力は歴史を変えることを多々目的にします」
「歴史を変える……」
「今のところ漢以降現代近くまでは確認されていません。だから曹操様達にも聞かされていないのでしょう。対処ができるのは正しい記憶をもつ私達のようなものだけです。記憶がなければ指針がぶれますから」
「ええっと待ってくれ……」
「簡単に言えば、記憶の持つものはドラちゃんのタイムパトロールになる素質がある、みたいなもの、でしょうか」
私の説明に元直はドラちゃんと繰り返す。こちらでは放送されてませんか?と聞けば、ドラえもん?と返されたので頷く。元直は少し考えて、なるほど、と頷いた。
「かぐやに力を借りたあの時とは逆だ」
「はい。その通りです。かぐやの力に似た力をつかい、記憶を持つものが過去にわたり、改変を防ぎます。改変を許せば生きるべき人が死に、死ぬ人が生き、それらが収束する今が狂うのです。……あの時代をかえるなど、誰かの意志を捻じ曲げることにも否定することにもなりますから」
「……あれはじゃあ未来から今を変えようとしている?」
「と、いうよりは、過去を変えたいから現在から過去に行くことができる人を始末しようとしているようです」
そう言って上を見上げる。
「上の部屋に入っては普通の人間は瘴気で気が狂います」
「上にはいけない、か。水は?」
「この水は瘴気を抑える力はあり、また結界のような力をもちます。が、水は水です。
category:中華組関連(msu・oa)