ネタ帳vol.3

2023ネタ帳51:李章と遠呂智

01/14 17:21 


知っているようで知らない場所である。辺りを眺めては見たが、やはり知っているけれど違う場所だ。なんというか、年月が経っているようにも見える。そっと耳をすませば人たちが逃げ惑っているような声が聞こえた。とりあえずそちらに向かえばなんとになるかと茂みをかき分けてそちらに向かう。どうやら高台に出たらしい。下で繰り広げられているのは、人と人の戦ではなかった。見るからに人と化け物の戦である。周りの陣形を見るに押されているわけもなくただただ苦戦しているようだった。救援して話を聞くのが早いだろう。そっと頭巾を被り、私は助走をつけて高台から飛び降りる。付けていた紐を投げて安定させると、その勢いそのままに化け物に切りつけた。そのまま紐を外し着地する。
「な、なんだ!?お前どこから来た!?」
「話をするのに、邪魔、切る」
そう言ってかかってきた化け物に対応していれば、覚えてろよというセリフを吐きながら化け物は去った。ちょっとだけ愉快な存在である。とりあえず見送って、人を見る。敵が味方か分かりかねているのだろうか。
「人、無事?」
「……ええ、こちらは無事です。助けていただきありがとうございます。この恩はいつか返しますよ」
「困った時、お互い様……でも、今、私、困ってる……霧から出たら場所わからない……」
そう説明すれば、そこにいた面々は顔を見合わせる。
「あなたも迷い込まれたようですね。よければ我らの陣に案内しましょう」
彼を見上げる。楚軍などで見た顔ではない。となれば味方だろうか。判断ができかねるが、話は聞いた方がよさそうである。
「……是……助かります」
「ええと、貴方の名を伺っても?」
「……名乗る、自分から……」
「それもそうですね。失礼いたしました。私の名は魏の荀ケと申します。こちらは蜀の法正殿。貴方は?」
聞いたことがない名前である。魏はわかるが蜀はわかりかねる。
「魏、敵ではない……?」
「おや?魏はどこかの勢力に喧嘩でも売ったんです?」
「いえ、そんなことは……」
そんな会話にふむと考える。話がおかしい。私たちはこの世界では敵対しておりませんよと告げた二人に私は口を開く。
「……やっぱり、知らない場所……?」
「恐らくね。貴方の名は?」
「……私は李章。漢軍にいた……」
そう言えば彼らはピタリと動きを止めた。やっぱり敵か?と警戒する。
「警戒なさらないでください。私たちは貴方の敵ではありません。すこし、知っている名がでたものですから……と、私が言ってしまうと余計に警戒されてしまいますね」
そうちょっとしょんぼりした荀ケ殿をじっとみる。嘘はついてなさそうである。
「否'……とりあえず、貴方達を信じます……」
「よかった。説明しながらご案内いたします。まだ妖魔の残党が出る可能性がありますが……」
「ようま……?」
「先程の化け物のことですよ。歩きながら説明しましょう」
なるほど先程の化け物。納得しつつ警戒しながら後に続く。まぁ妖魔の残党は襲ってはきたが戦って撤退させれる程度なのを見るとこの二人の道選びがいいか、やばい場所に導かれているかどちらかである。

他の国、ではなく、他の世界らしい。難しいと思ったが、案内された陣に知らないものばかりあったし、文字が変わっているのが見てとれた。と、いうことは、だ。他の世界というよりは先の時代という可能性もある。そうすれば、彼らの私を知ったような反応も少しは理解できた。神仙の悪戯だろうか。ふーむ、と案内された陣の中で考える。まぁ、私がどの陣営に属すかの話をしているようではあるが。
「どうかされましたか?」
「否……ここは先の世ではと考えていた……」
と、答えて隣に並んだ人を見上げる。なるほど顔がいい。
「おや、どうしてそうだと?」
「貴方達の服……書いてある文字……模様……他の文化圏というわけではなさそう……知ってるようで知らない場所だと感じたのは、知ってる場所が古くなっているからだと思った」
そう簡潔に言えば彼は「そうですね」と肯定した。
「貴方の時代から約三百年ほどでしょうか」
「……さんびゃ……!?」
頭巾の中で目をパチパチと瞬く。彼はええとにっこり笑った。
「……私の知識、とても古いな……知識では役に立てない……」
勉強するしかないかぁ、と考える。文字が読めないのが弊害すぎる。
「……神仙の悪戯……三百年……三百年……劉邦殿、仙になる人ではない……皇帝になったの、見届けた……張良殿いない?」
「……残念ながら」
「……そう……残念」
ちょっとしゅんとする。
「貴方達、私知る?」
「劉邦殿が貴方のことを伝える書を残していますから」
まて。劉邦殿となれば、私が男装していることから年齢詐称している(女では成人してるが男では成人してる歳ではない)ことまで色々知っているはずである。
「郭嘉殿、何をしているのですか?」
「やぁ、荀攸殿。今曹操殿達がこの方をどの陣営に属すか話をしていてね」
「……?属さない方は通常自分達ににた文化を持つ陣営か、最初に会った陣営に属すことが多いですが……」
「どうやら法正殿と荀ケ殿を助けてくれたようだ」
「……魏に属する荀攸と申します。文若殿を助けていただきありがとうございます」
「否……困った時はお互い様……私は李章。漢軍にいた……」
そう言えば彼は「えっ」と声を上げて、少し考えた後に「だからですか」と納得した。わたしは首をかしげる。
「何故?」
「私達の国にも、蜀の国にも劉邦殿の子孫がいます。まぁ、かたや本当にそうかどうかはわからないですが……」
「劉邦殿、約束覚えて伝えた?」
「そうですね」
「……あの人、そういうところ凄いまっすぐ……」
ふふ、と笑ってしまう。郭嘉と呼ばれた人は私を見下ろした。
「ところで、貴方は顔を隠している理由が散文しているのですが……後世では顔が醜い説、罪人だから隠している説、異民族説……果ては少年や女性であった、などと言われているのですが」
「劉邦殿、残してない?」
「残されていません。劉邦様が残したのは貴方のご活躍と約束だけです」
荀攸殿の言葉になるほどと思う。そこは黙っていてくれたのだろう。しかし、そもそもここには私が知る武将や軍師盟主たちはいなさそうである。ならば、別に隠す必要はなさそうだ。頭巾にそっと手をかけて外す。二人が目を見開いたが。
「少し理由があり、顔や声を隠していましたが……ここではその必要もなさそうですね」
そう言って普通に喋れば、彼らはようやく動き出した。 
「なるほど……女性説や少年説が出るのもわかりますね……」
「実のところは?」
「どうしましょうか。秘密、と言っておいた方が面白いですかね?」
ふふ、と笑いながら言えば、荀攸殿がまた固まり、郭嘉殿がサラリと自然に手を取ったが。おっと、なるほど。確か手でわかる人はわかるのだと張良殿に言われたことがある。
「ふふ、では飲みながらでもその謎を解き明かさせて欲しいところですね」
「申し訳ありませんが、あまり酒が得意ではなく……それに蕭何殿や曹参殿に気心知れぬ人と飲むなと口酸っぱく言われておりますので」
そう断っていれば、郭嘉殿抜け駆けですか、と法正殿が誰かを連れてやってきた。うーむ背が高い。法正殿がこちらをみる。
「李章殿、顔を隠さなくても良いのですか」
「よく考えたら、さきの世であるなら顔や声を隠す意味もないと思いました」
「先の世?」
「郭嘉殿?でしたか?が教えてくださいました。通りで見たことある場所が古くなっているのだと理解したまでです。神仙の悪戯にも困ったものです」
私の言葉に法正殿がまた口を開く。
「先程の喋り方は声を隠す為に?」
「はい。あまり顔を見せたり喋ったりするなと祖父に忠告されましたので」
「祖父」
「はい」
「……ええっと失礼ですが、ご年齢は……」
「成人はしていますよ」
そう言えば、失礼しました、と言われたが。女としては成人を迎える年齢である。しかし。
「恐らく身体的な年齢を考えれば、皆様の方が年上だと思いますし、私は敬われるような人間ではございません。そのように丁重になさらなくても……どのように残されているかはわかりかねますが、今は肩書など意味がないでしょう」
そう言えば荀攸殿ともう一人の男性に困った顔をされた。


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「たまに」
そう言って李章は杯に口をつける。
「貴方のような方や劉邦殿と話している時、父や兄がいたらこんなふうなのかと思う時があります」
困ったように笑った李章に周りが動きを止める。俺は顔を覆う。幸せになってほしい。いや、まじで。
この李章という人物は俺にとっては人気ゲームの人気キャラである。いや、この世界そうなのだが、秦時シリーズの李章が来るとは思っていなかった。心の準備をしたかった。
この人物、幸せだったタイミングはあるのだろうかと思うくらい悲惨な人生を歩んでいる。父親が出征後、裏切り者にされ、一族を皆殺しにされ、母方の祖父に育てられ子嬰の護衛官になり趙高を暗殺したりしてるうちに劉邦に略奪されたり譲られたりし、最後には父親が目の前で自害である。うっ。彼ないしは彼女のストーリーで、自分は離れた父親と暮らしたいだけだと言っているのである。世の中平和だと叶わない夢……うっ。ちなみに同シリーズ別シリーズの父親ifでそれは叶うのだが、ifはifである。
「李章さん幸せになって……」
「?変なことをおっしゃる方です。私は案外幸せですよ」
「ううー……」
「ごめんね、李章殿。苗字殿ってこんな人なのよ」
こんな人ってどんな人だよ。

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目の前で血が舞う。父の血が舞う。振り返って趙高を睨んだその人は膝をついた。頭より体は動くものだなと思ったのは、振り翳した剣を私が防げたからだ。李章!?みたいな反応をする胡亥殿には悪いが、私はそんな余裕はない。父親が私を見上げる。させるものか。この世界では。
「李章よ、お前は李信の孫、子嬰の臣なれば朕の死んでもあるはず。何故朕に楯突く……!それは裏切り者だ!」
「胡亥様の言うとおりである。一族皆処断すべきものだ。李家もそこに連座されたいか。異国民風情が!」
「否……処断されるべきは貴方です、趙高。国とは貴方が面白おかしく触るものではありません。そして、胡亥様の思うとおりに好き勝手するものでもございません。貴方のせいで秦の崩壊が加速した」
そう言って弾き飛ばす。普通に喋ることに私と同じ時代からきた人が驚いてるが。
「国の頂点に立つならば、民の暮らしを頭に置くべきでした。彼らは皆思想は違います。しかし、民の生活を違う方法で考えている。それは民がいなければ自分達の立場が成り立たないと理解されているのでしょう」
「何を言う!民は朕に感謝すべきである!」
「何故?貴方は何もしていない。虐げていただけだ。私は貴方につかない。つくこともない。いや、つく理由が一つだけあったが、貴方達はその理由をだった今潰した」
怒っているのである。頭巾を外して彼らを睨む。彼らは目を見開いた。
「私の名は章李。章邯の娘です」
「ーーなっ!章邯の一族は処断したはず……!」
「母方のお祖父様が匿ってくれた為、わたしは生を繋ぐことができました。隠す為に男として生きることとなりましたが、父に再会した今それはもう関係ありません」
「二人揃って殺せば良い話」
「みなのども、裏切り者だ!殺せ!」
そう言った趙高と胡亥に、わたしは眉間に皺をよせる。
「貴方達は私が何もせず話に付き合うと思っておられるのですね」
騎馬の音がする。秦兵と妖魔がざわめき始める。まぁ、背後からきた張遼殿や荀攸殿達に彼らの統率はなくなったのだが。まぁ、逃げ惑いながらも包囲をなんとか突破したようであるがそこは計算している。手筈通り忍殿達がついて行ってるはずだ。私はそっと息を吐いて、父親に合わせて屈む。
「……阿李……?」
「……あまりこのような姿をお父様に見られたくはなかったのですが……」
少し困った顔をしてそう言えば、彼は私の簪に目をやったのだろう。
「その簪……本当に阿李なんだな……」
「はい、積もる話はありますが、はやく怪我のーー」
手当てを。そう言おうとすれば、彼は私を抱き寄せる。
「阿李、よかった、本当に……わたしはお前を失ったのだと……阿李だけでも生き延びていて、本当によかった……!」
夢物語だ。きっと。だって彼は目の前で死んだのだから。でも、それでも良かったのだ。
「お父様」

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